幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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鳥籠から出る準備。

小鳥が親鳥の元から離れる様に。

巣立ちの時は来た。



第九十四話 『白光《ハッコウ》』

 

上海基地でハガネと別れパキスタンエリアへと転移したヒリュウ改。

 

その目的はオペレーション・トリオンフを実行する部隊の囮役。

 

サイデリアルの支配下にあるフューリーやその技術を狙うガディソードとゴライクンルの眼をこちらへ逸らす為だ。

 

また、中東エリアにもラマリスの異常発生は報告されているので浄化活動もその任務の一つである。

 

ギント支隊がモンテ・ディルーボでの接触を行っている頃。

 

レフィーナ支隊はインド・デリー近郊にて起こったラマリスとの襲撃に対し対処。

 

その後、ヒンダン基地にてTD滞空のまま補給を受けていた。

 

 

******

 

 

補給中の間、レフィーナ艦長は同艦でブリーフィング・ルームにパイロット達を集めて会議を始めていた。

 

 

「では、今回の作戦行動中はレフィーナ支隊機動部隊の指揮をキョウスケ・ナンブ中尉…貴方に任せます。」

「…他に適任者がいるのでは?」

 

 

キョウスケは辞退しようとしたが、エルザムとゼンガーより自身らが不在の際に部隊を指揮する者がいなくなる事も踏まえての措置と伝えた。

 

同じ様に部隊指揮に適したエ=セルダやアル=ヴァンもいたが、所属先や軍属でないので指揮権を与える事が出来ない。

 

その為、エルザムらより階級が下で同じ中尉であるキョウスケとアクセルが交互に部隊指揮を行う形を取った訳である。

 

カチーナに関しては自身の性格やチームの指揮で手一杯の為に自ら却下した。

 

 

「そう言う事なので今回はキョウスケ中尉にお願いしたいと思います。」

「了解しました。」

 

 

レフィーナの説明より現地のヒンダン基地からの情報でラマリスの出現が最も集中しているのはパキスタン・カラチ。

 

カラチで連合軍の別動隊によりラマリス群の封じ込めが辛うじて成功したが、膠着状態。

 

但し、カラチ外周部の住民避難をホルトゥスが助力した事で完全避難は済んでいる。

 

問題は避難最中に逃げ遅れた上に襲われた住民の負の念をラマリスが吸収し一気に増殖する可能性あり。

 

と、ケンゾウ・コバヤシ博士からの見解も含めて説明された。

 

 

「…(そうなれば、連鎖被害もありえるな。」

 

 

レフィーナの説明にエルザムは更なる被害拡大を予想した。

 

 

「そこで、我々は補給作業終了後にカラチ上空へ空間転移しラマリス群を掃討します。」

 

 

だが、戦隊を分割した事で戦力が半減している。

 

T-LINKシステムやシュンパティア搭載機、魔神でラマリスを誘導し効率よく殲滅する必要があった。

 

念動力者が六名、シュンパティアを扱う者が四名、魔神が四名、全員出撃で対処は可能だろう。

 

 

「あの…」

「イルイちゃん、どうしたの?」

 

 

居住区の一室で待機する様にと言われていたイルイ。

 

どうやら光達の陰に隠れて入室したらしい。

 

イルイ自体、短距離であるがテレポートが可能なので鍵を掛けた所で無意味な事だが…

 

 

「私もお手伝いしたいの。」

「確かに貴方の念動力は優れていますが…」

 

 

ガンエデンによって力を封じられているとは言え、この場に居る念動力者の中でイルイが優れている。

 

ラマリスを浄化する力も強いが、彼女はまだ子供…

 

戦場に出す事をこの場の誰もが危険だと判断し彼女の申し出を断った。

 

 

「私、もう誰かに守られるだけじゃ…嫌。」

 

 

かつて、破滅の王・ペルフェクティオの力を抑え込む際にハスミとイルイの協力により勝利した。

 

その功績は計り知れない。

 

イルイはこの現状で共に戦いたいと願ったのだ。

 

 

「イルイちゃん、私達はその申し出に答える事は出来ません。」

「…」

「今回の作戦はラマリスの討伐だけではなく、サイデリアル、監視下におかれたフューリー、ガディソード、ゴライクンル、ダークブレイン軍団のいずれかが仕掛けてくる可能性があります。」

「…」

「分散した戦隊では貴方に何かあった時、守り切れる保証はないのです。」

 

 

更にフランスで展開中のオペレーション・トリオンフの妨害を防ぐ為にレフィーナ支隊にフューリー製の機体があるのだ。

 

様は囮役を完遂しなければならない。

 

イルイの…たった一人の少女の願いは聞き入れられなかった。

 

同時に警報が鳴り響き、戦闘配備の流れとなった。

 

 

>>>>>>

 

 

ヒンダン基地の直上に空間湾曲現象が確認された。

 

同時に発生する光輪はダークブレイン軍団の出現の兆しでもあった。

 

ヒンダン基地周辺に転移して来たラマリスとダークブレイン軍団の幹部の一人・スカルナイト。

 

 

「ふふん、ドンピシャのタイミングやったな。」

 

 

何かが的中した意味合いで告げるスカルナイト。

 

 

「おどれがラマリスを連れて来たんかい!」

「やっぱり、ジャガルタでデブデダビデがラマリスを捕獲したのは、ラマリスを戦力として使う為だったのか…!」

 

 

同じく出現と同時に出撃したレフィーナ支隊。

 

出現したラマリスの大群に対して愚痴るミチルとブリッド。

 

コウタに関してはスカルナイトに宣言していた。

 

 

「それで俺達を倒そうってんなら、ちゃんちゃら可笑しいぜ!」

「いちびんなや、ガキや。軽ぅ相手したるから、かかってこいや。」

 

 

面倒臭そうな意味合いで答えるスカルナイト。

 

 

「えっと、カルシウム不足ですか?」

「あんときの嬢ちゃんか、何でそうなるんや?」

「軽ぅ相手って言ったので…骨が脆いのかなって思いました?」

「…」

 

 

同じく出撃したロサの発言に対して固まるスカルナイト。

 

 

「ダークブレイン軍団の人って…生活習慣病の集まりですか?」

「いや、ちょっとまてぃ!?」

「メタボのデデデさんに骨粗鬆症のスカルさんに内臓不良のドラゴンさん……福利厚生って考えてます?」

「いや…何でそう言う真面目な話になるんや!」

「怒りっぽくなってますし骨が脆いなら…カルシウムは大事ですよ?」

「もうこの嬢ちゃん…ほんっっっと!!に苦手になりそうやで。」

 

 

以前のデブデダビデに対するメタボリックシンドローム心配発言で爆笑した事のあるスカルナイト。

 

いざ、自分がそう言うギャク路線扱いになるとウンザリする事を改めて自覚したのだった。

 

真面目かつ天然の発言は一種の脱力要因でもある。

 

 

「あらら、ロサちゃんってば…早速、ホネホネナイトを餌食にしてるわね。」

「相手もタジタジですの。」

 

 

その光景にあららと苦笑いのエクセレンと楽しそうな表情のアルフィミィ。

 

 

「…(向こうも戦隊が二分された事を気付いている筈よ。」

「…(奴らがこうも動いたとなると何かあるな?」

「…(恐らくは。」

 

 

カルヴィナとアル=ヴァンは敵の様子から何かあると予測。

 

警戒を続けた。

 

 

「アサルト1より各機。手間を取るとカーナタイプが出てくる…速攻で叩くぞ。」

 

 

その空気を壊す様にキョウスケが全機に戦闘開始合図を送った。

 

 

******

 

 

ヒンダン基地に出現したラマリスを順調に撃墜していく中で…

 

ヒリュウ改の居住区の一室。

 

 

「…」

 

 

先程の発言もあり、部屋での待機を伝えられたイルイ。

 

大人しく部屋の中に引きこもっているが、不安が続いていた。

 

 

「…(皆が必死に戦っているのに。」

 

 

室内のベッドの上で座りながら縮こまっている。

 

何も出来ない事が不安へと更に駆り立てていた。

 

ガンエデンとしての力を封じられている上に神僕たるクストース達を呼び出す事も出来ない。

 

 

「…(待つのは嫌、そんなの嫌!!」

 

 

一緒に戦いたい、その想いがイルイの思念をより強くさせた。

 

そう思った瞬間、イルイはある事を思い出した。

 

 

『何かあった時は鳥籠の中の白い鳥が貴方を守ってくれる。』

 

『胸の想いを強く持てば、鳥籠の鍵は開かれるわ。』

 

『ただ、忘れないで…鳥は貴方を守るだけじゃなくて傷付ける事もある。』

 

『よく考えて鳥籠の鍵を開けてね。』

 

 

封印戦争時、天鳥船島に居た頃にハスミから告げられた言葉。

 

想いを強く念じればと…

 

 

「想いを…強く。」

 

 

イルイは自身の念の力を強めた。

 

それが鳥籠を開く鍵であると理解したから。

 

 

======

 

 

「…(さぁて、そろそろか?」

 

 

尚も戦闘が続く中で、スカルナイトは頃合いと察して仕掛けた罠を発動。

 

それは手薄となったヒリュウ改の周辺にカーナタイプのラマリスを出現させたのだ。

 

 

「艦長、艦の周囲にラマリス出現!!」

「回避行動を!」

「間に合いません!!」

 

 

周辺に散らばっていたキョウスケ達もヒリュウ改の元へ移動するも新手のラマリスの出現で足止めを喰らっていた。

 

 

「テメェ!卑怯だぞ!!」

「何とでも言うとけ。人を馬鹿にしたツケやで?」

 

 

スカルナイトと交戦をしていたコウタは逆切れを起こす様な発言をするが、スカルナイトはそれをさらりと返した。

 

しかし、スカルナイトの目論見は一筋の白い光によって掻き消される事となる。

 

ヒリュウ改の周囲に現れたラマリスはその光によって消滅したのだ。

 

 

「な、何やアレは…!?」

 

 

それはクロスゲート経由の転移。

 

ヒリュウ改の直上に出現した一体の白いPT。

 

形状からエクスバイン系統だろうが、背部の追加パーツは鳥をイメージしていた。

 

 

「艦長、イルイちゃんが甲板に!!」

「えっ!?」

 

 

ユンの発言で驚くレフィーナ。

 

現れたPTを出迎える様に甲板へとテレポートして来たイルイ。

 

 

「…」

 

 

白いPTは甲板へと着地しイルイの前へと跪く形で停止。

 

更にコックピットのハッチが開かれる。

 

操縦席には誰も乗っておらず、無人機の様子だった。

 

 

「乗ってって?」

 

 

イルイは告げるかの様に静止したままのPTのコックピットに乗り込んだ。

 

 

「大丈夫、お姉ちゃんと一緒にした時と同じ様に。」

 

 

白いエクスバインに乗り込んだイルイは座席に座るのと同時に脳裏に操縦方法が流れ込んだ。

 

 

「教えてくれてありがとう。」

 

 

イルイは白いエクスバインにお礼の言葉を告げた後、行動を開始した。

 

 

「えっと、武器は…お守り?」

 

 

モニターに映し出されたタッチ画面で武器選択を行う。

 

項目の一番下にあったアイコンにタッチする。

 

タッチと同時に武器が選択され、エクスバインの追加パーツが分離し周囲に展開される。

 

 

「お願い!」

 

 

展開された武装はラマリスを追撃しその存在を消滅させる。

 

武装が接触するだけでラマリスを浄化する様子に周囲は動きを止めていた。

 

 

「…(不味ったな、今頃クリ公も引いてる頃やし…ここは撤退するか。」

「逃げんのか!?」

「軽ぅ相手するだけやって言ったやろ?続きはまた今度や。」

 

 

分が悪いと状況を悟ったスカルナイト。

 

コウタに再戦を告げると残りのラマリスと共に撤退して行った。

 

 

「…(ありがとう、お姉ちゃん。」

 

 

イルイは自身が搭乗するPTのコックピットのモニターを見る。

 

そしてディスプレイにはこう記載されていた。

 

 

 

『イルイへ、白い凶鳥…エクスバイン・アミュレットを目覚めさせた貴方に戒めの言葉を送ります。』

 

『しっかりと相手の眼を顔を見なさい、それは貴方が戦う相手であり血を流す相手。』

 

『貴方が戦う事は誰かを傷付ける事もある、それは相手も忘れない。』

 

『戦う力を得た意味と持つ事の意味を忘れないで。』

 

『ハスミより。』

 

 

 

イルイの目覚め。

 

これもまた変異の兆し。

 

史実になかった白き凶鳥は鳥籠から巣立ったのであった。

 

 

=続=

 





一閃の矢。

放たれるは光速の一撃。


次回、幻影のエトランゼ・第九十五話『射手《シャシュ》』


その決闘は再起への敗北と圧倒的な重圧の証。

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