幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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それはある意味で叶う筈のない現象。

変異する事象。

敵に回したのはどちら?


第九十三話 『接触《セッショク》』

 

二週間前、梁山泊での戦いの後。

 

鋼龍戦隊はサイデリアルに指示され戦闘を余儀なくされたフューリーの兵士達と情報交換を行った。

 

代表として、彼らの部隊長を務めていた騎士とシャナ=ミア達は対談していた。

 

彼から聞かされた真実。

 

それはサイデリアルの目的が一つ解明された瞬間でもあった。

 

 

******

 

 

梁山泊の一室、投降したフューリーの騎士の一人がシャナ=ミアに対し剣を向けた事を謝罪。

 

余りの後悔にその騎士は地球で言う切腹をやらかしそうだったので数名で取り押さえて静止。

 

少々トラブルはあったものの話し合いへと戻った。

 

 

「それでは刻旅の社で眠っていた民達は…」

「民達は全員、何処かへ移送されました。」

 

 

騎士の話からフューリーの非戦闘員並びに民間人…刻旅の社で眠っていた者達全員が目覚めさせられた。

 

そして何処かへと移送された。

 

ガウ=ラ・フューリアに残されているのは最低限の管理を行える人員のみ。

 

騎士や諜士などの戦闘員は、引き続きサイデリアルの先兵として動かされていた。

 

 

「何処へ移送されたのか分かりませんか?」

「いえ、聖禁士長の不在の中で末端となった我々には情報が入らず…」

 

 

エ=セルダやアル=ヴァンと言うシャナ=ミア側の穏健派中心人物が不在となったフューリー。

 

その中で好機と思った存在達が強硬派のグ=ランドンとカロ=ラン達である。

 

シャナ=ミアの脱出を逆手にフューリーらの先導者としての地位を得た二人は地球人抹殺を目論むだろう。

 

 

「そうですか…ですが、皆が無事であった事がせめてもの救いと思いたいです。」

「皇女殿下…」

「貴方達もここまで良く耐えてくださいました。」

 

 

皇女からの労いの言葉、それは何よりも彼らの心に響き渡った。

 

希望はまだあると知らしめる様に…

 

 

「中条長官、彼らをこちらで待機させて頂いても宜しいでしょうか?」

「その件に関しては、、統合参謀本部からも通達があったのでご安心を。」

「ありがとうございます。」

 

 

騎士達はシャナ=ミアと共に戦う事を望んだが、鋼龍戦隊を狙う敵は多く…

 

理由として前回の一件もあり同行させる事は出来ないとマイルズらに判断されてしまった。

 

その為、梁山泊で待機し後にアシュアリー・クロイツェル社に引き取って貰う形となった。

 

彼らが戦うにしても、機体の多くが損傷し使用出来る状態ではない事も確かだ。

 

いずれはガウ=ラ・フューリアの奪還の際に協力を仰ぐ事となる。

 

それまではしばしの別れとなった。

 

 

~二週間後~

 

 

梁山泊での一件後、鋼龍戦隊は中国の連合軍・上海基地にて補給。

 

統合参謀本部からの指示でフランス・パリを奪還する作戦『オペレーション・トリオンフ』への参加とパキスタン・カラチで異常発生したラマリス掃討の為に部隊を二分する事となった。

 

話し合いの結果…

 

パリルートへはSRXチームや超機人…念動力者を中心としたハガネ隊。

 

カラチルートへはラースエイレム搭載機並びにシュンパティア搭載機を中心としたヒリュウ隊。

 

それぞれに残りの部隊が振り分けられる形である。

 

部隊分散の関係で極東エリアは地球防衛軍にミスリルやネルガル重工と言ったフリーで動ける戦力が防衛。

 

宇宙での行動は植物型惑星の壊滅を終えたノードゥス艦隊が火星で補給を終えた後、地球圏近海を中心とした監視任務を行う事が決定した。

 

ノードゥスに協力しているホルトゥスは彼らがカバーしきれないエリアの防衛と監視。

 

悪霊の脅威は去った訳ではない、絶望せずに希望を胸に戦うべき時であるのだ。

 

油断大敵、絶望こそが奴らの糧なのだから…

 

 

>>>>>>

 

 

イタリアとスイスの境にある山脈にて。

 

問題の戦域であるモンテ・ディルーポへ赴く前の段取り通り。

 

連合軍の監視衛星を掻い潜り、サイデリアル所属・アルシャト隊はこの地へ訪れた。

 

部隊長であるファウヌスは各員に点呼と共に注意喚起を行った。

 

 

『全機、隊員並びに機体の不備はないか?』

「隊長…各員並びに各機の異常はありません。」

『了解、これより地球へ降下したとされるバルマーのゴラー・ゴレム隊と接触する。』

「了解しました。」

『相手がこちら側を攻撃する事は明白。各自臨戦態勢のままで行動…相手は光学迷彩を使用している、油断するな?』

「了解。」

 

 

配備されているサイデリアル産の機動兵器はアルシャト隊用に配備された人型兵器のアンゲロイCAP、無人兵器にティアマート、戦艦にアドラティオが一隻。

 

アンゲロイCAPはアルシャト隊で運用され機体色は黄土で統一されている。

 

更にアルシャト隊が独自に持つ起動兵器があった。

 

名はディミオス、刀による近接主体であるが応用戦闘を行える機動兵器。

 

基本構造は同一であるが、見分けがつくように一部のパーツがそれぞれ異なっている。

 

代表としてディミオス・ヴラフォス…岩の処刑者を意味する。

 

リーダー格のヴラフォスを含めて計十二機を製造し配備。

 

アルシャト隊は人ではなく独立型AIが主体である。

 

機体の多くに搭乗しているのは人ではない。

 

これにより直属のディミオスはファウヌスが独自に管理しているので詳細は不明と言う形にしている。

 

 

『ヴラフォス機からフォティゾ機へ、調子はどうか?』

 

 

ファウヌスの呼び掛けに応じてディミオス各機が言葉を放った。

 

 

「ヴラフォス、問題は無い。」

「イーコス、派手に問題ねぇ!!」

「フルトゥナ、問題ねぇ。」

「プロクス、うむ!良好だ!」

「ヒュドール…問題ない。」

「オピス、ダラダラは好かない。」

「エ、エラスティス…大丈夫です!」

「プシュケー、問題ありませんよ?」

「オミクレー…得には。」

「ブロンテー、ああ…帰りたいよー!」

「うっせぇぞ!クティノス様はこの通りだぜ!」

「フォティゾ、問題ありません!!」

 

 

ファウヌスは彼らの応答に対し、少し動揺した様子を見せつつも答えた。

 

動揺の理由は彼らの思考パターンをある人物達に似せた事によって統率が危ういかもと思った為だ。

 

 

『異常が無くて何よりだ、今回の任務は君達の運用テストも兼ねている…気を抜かないでくれ。』

 

 

ファウヌスは声を掛けた後、今回の目的を整理し直した。

 

モンテ・ディルーボの山中に落下した未確認物体。

 

それを現地の登山者が発見し軍に通報。

 

後に調査団とAMの護衛部隊が現地へと向かう。

 

だが、落下物を手に入れる為にゴラー・ゴレム隊が乱入し調査団と護衛部隊は壊滅。

 

生き残りはいなかった。

 

更に調査団の捜索に現れたギント支隊ことハガネ隊が転移し光学迷彩で隠れていたゴラー・ゴレム隊と交戦。

 

奴らの手に入れた落下物は恐らく…破壊したアダマトロンかラ・ギアスに潜んでいた巨人族の欠片と推測している。

 

若しくは別の何か、アゾエーブの様な例外も出ているので落下物の奪還若しくは破壊は確実にしなければならない。

 

正体を知りたいけど、また無限力のフィルターが原因で視れないし何とも言えない。

 

…ん、そろそろか。

 

 

『反応があった、各員…指定ポイントまで移動する!』

 

 

ファウヌスは自身のスフィアで例の存在達を感知し行動を開始した。

 

同時にディミオス達に別行動の指示を出す。

 

 

『ディミオス達は第二ポイントへ移動しラマリスの殲滅…殲滅後は指定ポイントへ撤退し帰還せよ。』

「了解。」

『忘れては無いと思うが……全員帰還を第一とする、無理強いはするな。』

 

 

一部であれば使い捨てのAIに掛ける言葉ではない。

 

その言葉にはファウヌスの危うい優しさが滲み出ていた。

 

 

******

 

 

一方、その頃。

 

モンテ・ディルーポの山中で連合軍から派遣された調査団はほぼ全滅し護衛部隊も残り僅かとなった。

 

 

「隊長…」

「生き残りは俺とお前か。」

「その様です。」

 

 

AMで構成された護衛部隊の隊長と副官が何とか生き残っていた。

 

敵は光学迷彩で姿を隠し、手数と変調した攻撃で彼らの部下達を全滅させた。

 

調査団も隙を突かれて全滅し発見された異物も持ち去られてしまう始末。

 

事実を知った彼らに退路は無い。

 

 

「随分と粘った様だけど、これで終わりよ。」

 

 

敵の行動隊長らしき人物の合図で二機のレリオンが撃墜される瞬間…

 

 

『ほぉ、アレを狙う者が他にも居たとは…』

「!?」

 

 

光学迷彩で隠蔽された機体を数体撃ち抜く黒と紫色の機体。

 

その機体のパイロットが敵の部隊長へと音声通信を送った。

 

 

『機体は地球製だが、乗り手は地球の者ではないな?』

「…」

『だんまりで結構。私には関係ない事……そうだろう、ゴラー・ゴレム隊の諸君?』

「っ!?」

 

 

自身らの正体を看破した存在。

 

答えた以上はこちらを狙ってくる事は必須。

 

ファウヌスはそれを見越して奴らに挑発を掛けたのだ。

 

 

『さて、君達が回収したモノを渡して貰おうか?』

「素直に渡すとでも?」

『建前上の礼儀は大事だよ。察するに君の飼い主…いや創造主は少々抜けていると見る。』

「なっ!?」

『驚いただろう?だが、種明かしはここまでだ……真実を知りたくば戦うしかない。』

「…各機、あの機体を抑えるぞ。」

 

 

部隊長である仮面の女ことスペクトラ。

 

彼女は相手が何故自分達の正体を看破したのか理解不能だった。

 

一度も接触もしていない相手が何故と?

 

 

『それでいい。私の好奇心を満たす為にも…我らサイデリアルが君達のお相手をしよう。』

「サイデリアルだと!」

 

 

スペクトラはサイデリアルの言葉を聞き、驚く。

 

部隊内でも危険度最大と認識されている組織。

 

その一つが目処前に現れたのだ。

 

 

『こちらの名を伝えてなかったな、私の名はファウヌス……サイデリアルの軍師を担っている。』

「軍師が自ら前線に?」

『君らには不可解だろうが、興味深いだろう?』

「…そうでもないわ。」

 

 

ユーゼスと言う前例が居る以上は前線に出るバルマーの軍人が居ても可笑しくはない。

 

例えとして科学者や祭司長の位を持つ者達でさえ、戦場に出ているのだから…

 

 

「全機、あの機体を捕らえる!」

『各機、散開…パターンAへ移行する。』

 

 

スペクトラとファウヌスは互いに部下へ指示を出し攻撃を開始する。

 

その間、レリオンに搭乗していた連合軍のパイロット達はその隙に戦場から離脱。

 

事の次第を近場の基地に知らせる為に移動しようとしたが…

 

 

「逃がすと思って?」

「しまっ!?」

 

 

光学迷彩で待機していた別動隊のキャニス数体に囲まれた。

 

その先に待つのは先の調査隊と同じ運命と思われたが…

 

 

『…』

 

 

それを遮ったのはサイデリアルの軍師の機体だった。

 

敵対しているのであれば、この行動は不可解なものである。

 

 

『行かれよ、鋼の方舟はすぐ其処だ。』

「…隊長。」

「判った。」

 

 

ファウヌスはレリオン二機の離脱を手助けし二機の撤退を確認した後。

 

再度、戦場へと戻った。

 

 

「どういう事かしら?」

『女神との契約と言えば解るかな?』

「?」

『こちらにもこちらの事情があると言う事だ……不可解が更に増えて面白いだろう?』

「そうね…人を煽るのも貴方の趣味かしら?」

『その方が面白いだろう?』

 

 

ファウヌスの煽りに煽った行動に対しスペクトラもその冷静さを失いつつあった。

 

これはファウヌス自身に勝算があってこその行動である。

 

相手がヴァルク・ベンとキャニスだったからこその対応である。

 

 

「何が起こっている?」

 

 

ゴラー・ゴレム隊とサイデリアルのアルシャト隊が交戦して暫くしてからの事。

 

モンテ・ディルーボから届いた救難信号を元にアビアノ基地から転移したギント支隊。

 

ギント支隊はその交戦の最中に入り込む事となったのだ。

 

 

「鋼龍戦隊か…」

『まだ続けるかな?』

「…今日の所は引かせて貰うわ。」

『賢明な判断だよ、またの機会に…美しいお人形さん?』

「っ!」

 

 

隠蔽用のキャニスを破壊され、これ以上の戦闘行為は危険と判断したスペクトラは部隊を撤退させた。

 

去り際にファウヌスからの煽り言葉を受けたのもあり、スペクトラのファウヌスに対する復讐心が見え始めた。

 

 

『…(目的のモノは入手出来なかったが、確認は取れた。』

 

 

ファウヌスは目的のモノの正体を掴めた事だけ救いと認識しその場を撤退しようとしたが…

 

お約束通り、ギントに呼び止められる事となる。

 

 

「こちら地球連合軍・統合参謀本部所属の鋼龍戦隊、そちらの所属を答えよ。」

『お初御目にかかる鋼龍戦隊。私はサイデリアル所属のファウヌス…軍師を務めている。』

「サイデリアルだと!?」

『忠告だが、ここで立ち止まっている暇はないぞ?』

「どういう事だ?」

『君達が滞在していた基地に乱入者の影……既に片付けてしまったがな?』

「!?」

 

 

ファウヌスの忠告と同時にハガネのブリッジに緊急通信が入る。

 

 

「アビアノ基地より入電!同基地にラマリスが出現しましたが、サイデリアルの乱入により沈黙したそうです。」

「!?」

「…」

 

 

エイタから告げられた報告に驚くギント達。

 

その様子を通信から見終えたファウヌスは告げた。

 

 

『今回は興味深いものが見れた、その礼だ。』

「…」

『もう一つ、ハスミ・クジョウはこちらで丁重に預からせて貰っている。』

 

 

ファウヌスは引き続き答える。

 

 

『その対価として我らの地球圏への侵略を停止させているがな…』

「!?」

『あの戦いの後、疲弊したそちら側に戦う余力があれば…その結末は違っていたのかもしれない。』

「それを我々に話した理由は?」

『不穏は負のスパイラル…負念の意思を呼び寄せやすい。』

 

 

我々としてもラマリスは邪魔な存在。

 

殲滅出来るのなら情報を流した方が効率がいい。

 

 

『私は好奇心が旺盛なのでな、君達の今後を知るのが楽しみだよ。』

「…(好奇心だって!?」

『では、またの機会に。』

 

 

そう答えるとファウヌスは転移で部隊と共に去って行った。

 

 

「…(ハスミ、これがお前の戻れない理由なのか。」

 

 

リュウセイはファウヌスが新たなリアクターであると認識し複雑な事情を察するのだった。

 

 

=続=

 





待つだけじゃない。

戦う為の意思もまた。

己の強さ。

次回、幻影のエトランゼ・第九十四話『白光《ハッコウ》』


少女の決意と神僕。

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