幻影のエトランゼ   作:宵月颯

175 / 237


それは何か?

それは概念なのか?

理解しがたい何か?





第九十一話 『警告《ケイコク》』

 

前回の戦いの後、宗介の伝手で地球防衛軍に接触したヒビキとスズネ。

 

ジェニオンを開発したDEMコーポレーション所属のエージェントこと次元商人のAGの登場により少々の厄介事が発生。

 

当事者であるヒビキ達と防衛軍側に対するAGの建前上の話によると…

 

ジェニオンは本来DEMコーポレーション所有の機動兵器であり、起動テスト中の事故でこちら側の世界に流れ着いてしまった。

 

転移場所へ偶然居合わせたヒビキとスズネ両名が危機的状況の為に搭乗。

 

登録を解除しようにもAG自身も転移の誤作動で本社と連絡が取れず、八方塞がり。

 

帰還出来る手段が見つかるまでこちら側で商人として活動する事を伝えた。

 

なお、ヒビキとスズネに関してこのままDEMコーポレーションのテストパイロットとして防衛軍に協力する形となった。

 

そして証人として現場に居合わせた宗介が事の状況の詳しい経緯を説明した。

 

L5戦役で倒したグランダーク一味の幹部であるセルツが復活し郊外でボランティア活動していた子供達が襲われた事。

 

同じくボランティア活動に加わっていたカナメ達も巻き込まれた。

 

しかし、とある乱入者達によって無傷で子供達を救出する事が出来た事。

 

乱入者であるサイデリアルがセルツと敵対していた事が要因の一つ。

 

この事からサイデリアルは負念…ラマリスと敵対し殲滅活動を行っている様子だった。

 

 

******

 

 

Gアイランドシティ内の宇宙開発公団の所持する大型施設。

 

その地下にある旧GGGの基地での対談。

 

宇宙のオービットベースが主な拠点になっているが第二施設として現在も使用されている。

 

ヒビキらと共に呼び出しを受けたソースケは一連の出来事を淡々と簡潔に説明した。

 

 

「以上がご報告出来る内容になります。」

「そうか…サイデリアルもラマリスを。」

「それ以前にセルツが復活していたなんて…」

 

 

オーダールームの分割されたモニターでそれぞれの感想を漏らす防衛軍の関係者達。

 

防衛軍からは総司令に当たる高杉大佐、その実働部隊の指揮官の武田長官。

 

有志機関としてブレイブポリス、旋風寺コンツェル、VARS、GEAR等の面々。

 

GGGからは同じく大河長官とオーダールームの面々。

 

因みに宗介達の側は八木沼長官らが滞在している。

 

その中でヒビキとスズネは子供達のその後を質問した。

 

 

「あの、子供達の様子は?」

「全員、意識を失っていたが外傷等は見られない…時期に眼を覚ますとの事だよ。」

「良かった…」

 

 

子供達の無事に安堵する二人であったが、二人がやった事が許される訳ではない。

 

人道支援活動であるが、無断で企業所有の機動兵器を使用した事に変わりはないのだから…

 

話し合いの結果、代表として大河がヒビキらに決定事項を告げた。

 

 

「君達の処遇は防衛軍側、AG君と相談して防衛軍の次期主力機のテストパイロットとさせて貰ったよ。」

「判りました。」

「やけに素直だね、君位の歳なら納得がいかずに口論になると思っていたが…」

「こんなご時世です、なってしまったものは仕方がないかと…俺やスズネ先生も次元漂流者でもありますし。」

「…ヒビキ君。」

「…君らもか。」

 

 

次元漂流者、空白事件後より発生している時空振動からの漂流者達の事である。

 

本来の属する世界が崩壊した、偶然に巻き込まれたなどのケースが多い。

 

漂流者達は全員戻る術がない以上は政府から認定調査を受けたのちにこちら側の市民権を与えられている。

 

現在も時空振動の研究が進められているが遅々として進んでいない。

 

ヒビキとスズネもその帰還する術を待つ漂流者達であった。

 

 

「君達にこちら側の厄介事に巻き込んで申し訳ない。」

「いえ、謝って貰う必要はありません。」

 

 

ヒビキは長官の謝罪は不要と告げた。

 

 

「そうです、私達は偶然巻き込まれただけ…誰かのせいではありません。」

 

 

漂流者達の出現の最中。

 

誰もが元の世界に帰りたい、帰るべき世界もないのにどうしたらいい、と絶望の淵に立たされた。

 

誰かのせいにしなければ、その精神面は保てなかった。

 

誰かが受け皿にならない内には…

 

 

「大河長官、セルツが復活した以上は彼らの協力も仰ぐ必要があります。」

「その件に関しては、既に各所に話を通してある…だが。」

「長官、何か?」

 

 

VARSの司令官である愛美からの提案に対し通達済みと答える大河だったが…

 

何かあると感じ取った高杉大佐から質問をされた。

 

 

「各地のラマリスの発生と例の植物惑星の一件で鋼龍戦隊とノードゥスは前回の様に集結する事は困難と言う事です。」

 

 

封印戦争時の様に部隊を集結させるのは困難な状況が続いている。

 

解り安く纏めるとラマリス討伐に関しては鋼龍戦隊、植物型惑星の侵攻にノードゥス。

 

各地で頻発している無差別テロや紛争鎮圧に他が駆り出されている状況だった。

 

 

「サイデリアルが地球圏に対して侵攻を行っていないのが救いと言いたい。」

「確かに、逆にサイデリアルが他の侵略組織への抑止力になっている様子も伺える。」

「ケイロン・ケシェット…いえ、アウストラリスの目的は一体何なのでしょうか?」

 

 

宣戦布告した筈のサイデリアル。

 

しかし、その行動はラマリスの殲滅や他の侵略組織への妨害のみ。

 

国際警察機構の総本山である梁山泊への侵攻もあったが、実質的な被害は出ていなかった。

 

サイデリアルの代表であるアウストラリスの言葉通りなら最も強い者との戦いを求めている。

 

その過程でスフィアを覚醒させられる者を集めている状況。

 

スフィアが戦いの鍵である事は変わらず、現在も連合軍や他の勢力も残りのスフィアを捜索している始末。

 

戦況は混乱するばかりである。

 

 

「ベガ副指令、アルクトスの方では何かあったかね?」

「いえ…兄上からは特に何も、惑星復興の協力者としてデュミナス達とエンジン王が滞在してますし。」

「ガルファも取り付いていた機械神が消え去った事で元の状態に戻り、今は惑星の人々と共に共存の道を歩んでいます。」

 

 

GEARの話からオービットベース側のオーダールームの防衛軍側の近状会話へとスライドしていった。

 

 

「スペースナイツとE.D.Fは惑星ファルスの一件で不在、光君達はイルイ君の護衛でセフィーロに…」

「ファルセイバー達はGGG北米支部への支援で遠征に出ていますし。」

「何処も人手不足で八方塞がりデス。」

 

 

人手不足、現状で当てはまる言葉がそうだろう。

 

封印戦争後の復興も進みつつあるが、完全ではない状況。

 

それらが人々の不安を余計に掻き立てていた。

 

 

「…(希望と絶望が入り混じった感情、ハスミさんは周囲をよく見ろって言ってたな。」

 

 

彼らの会話に不安が入り混じるが、決して絶望している訳ではない。

 

それは彼らが希望を見失う事がないからだ。

 

彼らが支える者達もそう言った側面が強い存在達だからである。

 

 

「あのすみません、俺達はまだここに居た方がいいですか?」

「ああ、すまないね。」

 

 

事情聴取を終え、関係者達との話し合いを終えたヒビキ達。

 

一度自宅への帰宅を許され、何かあれば連絡を行うと告げられた。

 

スズネは学園への対応、宗介はミスリルへ今回の顛末と事後報告書の作成等でそのまま現地解散。

 

ヒビキは学寮へ帰宅後に雪谷食堂へ向かったが、店は休業案内の看板を下げておりアキトから詳しい話は聞けなった。

 

既に夜を迎えた事もあり未成年者の外出が禁止されている時間帯に切り替わりつつあった。

 

 

「…(自分で考えろって事なのか?」

 

 

まるで誰とも相談させない様な巡り合わせ。

 

今後の事は自分で考えて行動すべしと言わんばかりに。

 

ヒビキはそう思えてしまうのだった。

 

 

「昼間より随分とシケた面だな?」

「ガドライト!?」

「よ、また会いに来たぜ?」

「…」

「安心しな、例の連中の監視はない。」

「わ、判った。」

 

 

閉店した店の前に現れたガドライト。

 

二人は場所を移し、近くの公園に移動した。

 

 

「昼間の件で聞きたい事があった。」

「だろうな。」

 

 

自販機の飲み物を片手に話し合う二人。

 

 

「何故、双子座のスフィアが二つあるんだ?」

「その件に関しては俺も驚いている。」

「えっ?」

「ハスミの話では何かが引き金となって変質した…って位だがな。」

「理由は不明だと?」

「例のアカシックレコードでも不明らしい。」

「それじゃあ一体…」

「ハスミの推測だと神様のイタズラ…そのレベル並みの変異らしい。」

「!?」

「流石のアイツもその変異に頭抱えていたけどな。」

「…(あの人が頭を抱える姿って、想像出来ない。」

 

 

ヒビキは想像しにくい案件を余所に缶コーヒーに手を付けた。

 

続けてガドライトはある情報をヒビキに告げる。

 

 

「それは兎も角、この双子座のスフィアに厄介な案件があるらしい。」

「厄介?」

 

 

厄介な案件に関してガドライトは説明を続けた。

 

 

「二つに分かれた双子座のスフィア、一つは希望と絶望に一方ずつ別れている、二つは前者のパターンが無く前回の状態で弱体化して別れている、三つめはスフィアの完全起動には二つが同じ場所に存在する必要があるって事だ。」

「…そんな事が。」

「ま、昼間の一件でその案件は全部潰れた。」

 

 

厄介な案件と思いつつも全部総崩れの結果となった事にヒビキはツッコミを入れた。

 

 

「話した意味がないだろ!?」

 

 

最終的に判明した結論をガドライトは答える。

 

 

「んで、判った事は…恐らく俺らの双子座のスフィアは適合者一人が持つには強大な力を秘めちまっている。二つに分かれたのはそれが原因かもしれないって事だ。」

「待ってくれ、昼間の同調では前の時と同じで…」

「お前、まだサードステージ前だろ?」

 

 

昼間のスフィア同調時にどのステージに上がっていたのかを見抜かれたヒビキ。

 

「っ、そうだ…」

「俺との同調もあったとは言え、サード前で前回と同じ力を発揮していた…これが解るか?」

「俺がサードステージに上がれば、スフィアは?」

「前回以上の力を引き出す可能性がある…それはもう人であるかも不明な位にな?」

 

 

そして双子座のスフィアを中心に他のスフィアも連動しナニカへと変異する。

 

ヒトではないナニカへと。

 

 

「ま、俺らはその力を使わねえといけねえ相手と戦うんだけどな?」

「例のバアル?」

「ああ、本格的に俺ら人間を潰しに掛かっている…まだ猶予はあるが期待しない方がいい。」

「なら、今のサイデリアルのしている事は…」

「御使いの眼をそらす事とバアルと対等に戦える奴らを育てる為の試練役って所だ。」

「…」

「他にもバアル側に堕ちた連中の討伐も含まれている。あのラマリス…負念の件もあるしな。」

「…道化ですね。」

「そうかもな。だが、人類はこうでもしねえと動かねえって判っているだろ?」

「判っている。」

 

 

前回と同様に人類が一つに纏めるには、それなりのフローチャートを踏む必要がある。

 

今は出来る事すべき事をしなければならない。

 

 

「後、ハスミからお前に忠告…サイガス・エイロニーをこちら側の軍内部で発見した。」

「!?」

「今は他の重鎮がポジションを守っているが、いずれは奴が動く。」

「こっちも動きにくくなる…か。」

「ま、こちら側の連中に任せて見るのも一つの手だぜ?」

「えっ?」

「俺もお前も前の世界では出会えなかった連中が数多くいる、そいつらと接点を持ってもいいんじゃないか?」

「…」

「さてと、話は終わりだ。」

 

 

ガドライトは飲み終えた空き缶を近くのごみ箱に投げ捨てるとヒビキに別れを告げた。

 

 

「ガドライト、これからどうするんだ?」

「前と同じくサイデリアルとして動くのと、後…お前がヤバくなった時のフォローは秘密裏にする。」

「いいのか?」

「アウストラリスからお前の監視を任されている…俺の好きにしたって構わねえって事だ。」

「…」

「じゃあな。」

 

 

それだけ答えるとガドライトは去って行った。

 

 

=続=





揺れ動く戦場。

世界は揺らぐ。


次回、幻影のエトランゼ・第九十二話『揺界《ユレルセカイ》』


世界は流れのままに。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。