相反する心。
それは二つに分かれた。
それは強大な力を分かつ為。
それは可能性の兆し。
サイデリアルによる梁山泊侵攻から数日後。
鋼龍戦隊は引き続き梁山泊で次の命令が下るまで待機の形となった。
梁山泊で防衛戦力となっていたジャイアントロボとゼオライマー以下八卦ロボはラマリスの定期出現もあり、引き続き防衛の形で残る事となった。
鋼龍戦隊でもラマリス討伐の件以外にフューリーやガディソードの案件を抱えている為もある。
いずれは合流するだろうが、今はまだその時ではない事は確かだ。
******
そしてラマリスの出現が最も確認された日本では戦況を打開する兆しが現れていた。
それはノードゥスが木星へ向かった頃の話に遡る。
「ヒビキ・カミシロ、久しぶりだな。」
「宗介…お前なのか?」
何気ない言葉。
その言葉はある意味を指していた。
かつての記憶を持っていると言う証。
複雑な思いを余所に複数の感情に呑まれた。
「ああ、最も…この場では初めましてが正しいだろう。」
「いや、久しぶりでいい。」
共に戦った戦友との再会。
この少年ことヒビキ・カミシロは安堵感を抱いた。
だが、これから宗介の口から語られる現在の状況に対して選択を迫られる事に変わりはなかった。
「再会を祝したい所だか、お前に話して置く事がある。」
「話?」
「…既にサイデリアルがこの世界へ転移している。」
「!?」
それは何気ない平穏な日常が崩れる言葉。
そして戦いの火蓋が切られる言葉だった。
「どういう事だ!?」
「その話をする前に場所を換えるぞ、ここでは目立つ。」
「っ…」
ヒビキは宗介に案内されて近くの食堂へと入った。
繁忙を終えた昼過ぎである為か客足は殆どなかった。
店内でテーブルを拭いている青年は店のドアが開く音で来客だと察して振り向き、声を掛けた。
「いらっしゃい、ソースケ…とそちらさんは?」
入った店の名は雪谷食堂。
封印戦争の初めに火星の後継者の襲撃を受けて全焼したが、仲間の多大な融資もあり無事に再建する事が出来た。
店の規模をバージョンアップする事も可能だったが、実力で店を広げていきたいと店主の意向も考えて前と同じ状態に立て直されている。
話は戻り、宗介は店主のテンカワ・アキトに事の詳細を説明した。
「彼はヒビキ・カミシロ、例の話の中心人物だ。」
「君がか…」
「はじめまして、えっと。」
「俺はテンカワ・アキト、ソースケとは前の戦いで一緒に戦った戦友って所かな?」
「よろしくお願いします。」
二人はアキトの案内で店内に入り、カウンターの席へ着いた。
店はアキト一人であり、妻となったユリカは父親であるミスマル・コウイチロウの元へ里帰りしている
数少ないA級ジャンパーである事も変わらず、ネルガル・シークレットから派遣されている少数の護衛が店の外で待機していた。
その護衛もソースケが来店した事で警備が少々緩くなっている。
ミスリル所属の有能な傭兵である事がある意味で免除されているのだろう。
「では、ジェニオンはまだ…」
「ああ、AGからの接触がない以上は何とも言えない。」
「スズネ先生にも記憶があった事だけ救い、か。」
「以前、試しにジェニオンを呼び出そうとしたが…元々起動していないらしく呼び出せなかった。」
「だが、今ジェニオンを呼び出せても危険である事は変わりはない。」
「どういう事だ?」
「連合軍の統合参謀本部が対サイデリアル戦に向けて、各方面の特務部隊にスフィア・リアクターの捜索を行わせている。」
「っ!?」
「但しターゲットになっているのはセツコ少尉とランドの二名、お前は含まれていないがスフィアを起動させる事が出来ると判明すれば…」
「俺も巻き込まれるって話か。」
「肯定だ。」
ソースケはかつての戦いで共に戦い、背を預ける戦友へ注意喚起を行った。
育ちの関係で特殊な能力を有するアキトもまた他人ごとではないと判断し助言を告げた。
「俺も人の事は言えないけど、そのジェニオンを発見しても迂闊に出現させない方がいいのかもしれない。」
「それでも俺は…」
悩んだ末に迷いのない表情を見せるヒビキ。
その様子にアキトは背を押す形で答えを返した。
「戦う事を決めた、それなら俺も止めない……もっとも今の状態をどうにかするには君の力が必要な事は確かだし。」
「アキトさん…」
洗った食器を業務用乾燥機へ入れ直しながら話すアキト。
更に乾燥し水気の無くなったグラスを布巾で丁寧に拭き上げていた。
「ソースケ、ヒビキ達の事はどうするんだ?」
「サイデリアルが動いている以上はヒビキ達を確実に確保する行動に出る……何処へ逃げようともだ。」
「ああ…そうか、あっちにはハスミちゃんがいたんだった。」
「若しくはスフィアの共鳴で感づかれる。」
「あの…そのハスミって人は一体?」
宗介とアキトの話の中で出てきた人物の名前に反応するヒビキ。
「ハスミ・クジョウ…元地球連合軍・鋼龍戦隊所属だった軍人、世間で騒がれていたホルトゥスの当主にしてガンエデンの巫女、そして次元将・ヴィルダークの片腕だ。」
「えっ!?」
宗介とアキトはこれまでのハスミの情報をヒビキに伝えた。
L5戦役からの軌跡、空白事件の可能性、修羅の乱の暗躍、封印戦争の覚悟、そして今を…
「以上が彼女の経歴だ。」
「かなりの生涯だったみたいですね。」
「表向きはサイデリアルに囚われているって形になっているけど、実際は違う。」
「アキトさん、それは一体?」
「彼女は初めからサイデリアル側だったと俺達は推測している。」
「ソースケ、それは君の主観だろ?」
「…」
「あの…」
「今、俺達の間では二つの考えに別れているんだ…宗介の言う通り敵だった側と敢えてサイデリアル側に下った味方側って云う風に。」
「…」
「仲違いしている場合ではないのは理解しているが、読みを間違えればやられるのは俺達だ。」
記憶を持つ彼らの中での不安と半信半疑が仲違いの亀裂を生み出していた。
だが、これも敵の思う壺である事は判っていた、判っていても不安が過る。
その時、ヒビキはある事を思い出していた。
「なあ、ソースケ。」
「ん?」
「そのハスミさんって人…さっきアカシックレコードを読めるって言っていたよな?」
「肯定だ、覚醒したサイコドライバーの一人である彼女はアカシックレコードから先を読み解く事が出来る。」
「それは、ほぼ全部なのか?」
「いや、同じサイコドライバーであるイルイの話ではアカシックレコードでも読めない記録があるらしい。」
「読めない記憶?」
「俺達はそれを『深淵の記憶』…アビス・メモリーと呼んでいる。」
「アビス・メモリー?」
「以前はアカシックレコードからでも情報を引き出せたらしいが、アビス・メモリーと呼ばれる制約があり読めない記憶が出来た…それも前世からじゃなく今世からだ。」
「…」
「イルイも今は力を封印されている、ハスミ達の動向を調べるにもナシム・ガンエデンが封印を解かなければ調べようがない。」
八方塞がりの状況に宗介とアキトの表情は暗い。
更にヒビキは続けた。
「それは『知りたがる山羊』のスフィアがあれば、打開出来るのか?」
「確かに同じアカシックレコードを読めるスフィアがあれば、打開は可能だが…」
「そのスフィアが何処にあるかって事がネックかな?」
「元々、そのスフィアはアサキムが再世戦争でZONEから得たモノだ。」
「探すとしてもアビスの向こうADW世界、か…」
打開の切っ掛けであるスフィアの行方は今では辿り着けない場所にある。
そしてそれを手にする存在も運命付けられている。
しかし、そのスフィアにはある秘密があるのでは?とヒビキは答えた。
「アビス…待てよ?」
「どうした、ヒビキ?」
「以前、占星術…星座関連の知識を調べていた事がある。」
「それがどうかしたのか?」
「山羊座の神話の一説に『深淵に入り込んだ』若しくは『呑み込まれた』と言う記述があった。」
「まさか!?」
「多分、山羊座のスフィアはアビス・メモリーを無力化する事が出来る筈だ。」
「…だが。」
「アサキム・ドーウィンはサイデリアルと行動しているし、いずれは…」
「いや、俺が言いたいのはそうじゃない。」
「どういう事だ?」
「今回の山羊座のスフィアリアクターはアサキムじゃなく別にいるんじゃないのか?」
「「!?」」
「恐らく山羊座のスフィアを覚醒させられるのはサイコドライバー、そのサイコドライバーがサイデリアルに居る。」
「まさか彼女が!?」
「今までの行動を見る限り、彼女は何処かでスフィアを手に入れ…そして知ってしまったんだろう。」
ヒビキは結論を答える。
『この宇宙…いや全多元世界で起こっている事を。』
それは真実に近い言葉。
それは確証は無い言葉。
照らし合わせた答えが、導き出された答えが、今…晒された。
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時は戻り、梁山泊襲撃後から数日後。
ハスミはエルーナとの約束を果たす為に日本に訪れていた。
「戦いでピリピリしてるって言うのに穏やかな場所だね。」
「世界が滅亡する様な現象を何度も経験していますから、耐性ついているんですよ。」
この星は特に肝が据わっている者達が多い。
動じない心、抗える心を絶望を知っても希望を絶やさないから。
「…(それもエタニティ・フラットの影響下に入ったらどうにもならない。」
まあ、今回は対策…切り札はあるのだけどね?
人類舐めた事を精々驚愕するといいわ。
「あらま…ハスミ、また何か企んでるでしょ?」
「色々とサプライズを。」
「相変わらず、えげつねえな。」
「ガドライトさんがそう言われるのは仕方ありませんよ、但し……バアルや御使い達を痕跡も残らずに根絶やしにするのは、例外が発生しない限り確定事項です。」
ハスミは半分言い終えた後の言葉に重みを乗せた。
それは理不尽な連中を許さないと言う証。
「…アウストラリスがアンタに興味を持った理由もそうだけど、アタシも一戦交えたいかもね。」
「それはアウストラリスの許可を頂いてからにしてください、恐らくはリアクター機での勝負は禁止されますけどね。」
「えーいいじゃん。」
「契約は守ってくださいね?」
戦闘狂人と戦闘中毒。
似たり寄ったりの『物理は正義』の構図である。
「ん?」
「ガドライトさん、どうかされましたか?」
「いや、俺のスフィアがな。」
ガドライトの持ついがみ合う双子のスフィアが共鳴した。
そう、兆しは近くまで訪れている。
この選択は何を齎すのか。
そして迫る負念が静かに息をひそめていた。
=続=
光と闇。
常に等しく。
溢れ出た闇はいがみ合う心が相殺する。
次回、幻影のエトランゼ・第九十話『双児《ソウジ》後編』
真実の果てに真の敵は何処へ?