裁きが下るのを待つ悪意が繋がる地。
それはある者達への糧。
より巨大な悪意へと変貌する為の供物。
梁山泊からの救難連絡を受けて急行を急ぐ鋼龍戦隊。
三艦の空間転移装置の装備も完了し準備が整い次第出撃を開始した。
猶、前回合流したマジックナイト達はラマリス掃討協力と異世界侵略に関する緘口令の為に鋼龍戦隊が預かる形となった。
地球防衛軍・上層部へは事情説明を行っており、表向きはラマリス討伐協力と言う形になっている。
この現状でサイデリアルの異世界侵略の件が余計な不安を与える切っ掛けとなってしまう。
統合参謀本部は現在進行形で起こっている戦いが収まるまでと打開策案を平行して模索する形を取ったのだ。
前線で戦う彼らには不満の声を出されるだろうが…
異世界へのゲートが全て封鎖された上にラマリス出現や新たな戦乱が収まっていないこの状況で援軍を出す事は自身の頸を絞めるに等しい。
更にクロスゲートバーストが起こったゲートはエネルギーを失い沈黙したまま。
ガンエデンの所持するゲートを使用するにもイルイは念動力が本来の力まで戻っておらず、ハスミはサイデリアルに囚われたまま、最後の一人ビッグ・ファイアは犯罪組織の頭目の為に協力を仰げない。
この為、ゲートが使える状況になるまでは緘口令を敷く決断となった。
******
「それで、エメロード姫は私達にこの事を伝える様にって元の世界に戻されたんだ。」
「最初は私達もサイデリアルと戦おうとしたのだけど…」
「多勢に無勢…それにハスミさんの事もありましたので。」
「…三人共、前にも言ったがエメロード姫達の判断は正しい。」
「うん、例え私達が戦っても…結果は最悪な事になってました。」
伊豆基地での会議を終え、梁山泊へ向かうルートの道中。
転移装置のテストも兼ねていたので目的地への直行はせず、少し離れた距離から転移し侵攻となった。
ハガネの食堂スペースにて。
セフィーロでの出来事を語る光達とロサ、ピート。
魔神四機とPT一機だけで拠点を防衛し一個大隊と戦うのはリスクが大きすぎる。
三人の心情を理解しつつもロサとピートは軍人としての目線で答えた。
「でも、私達だけ逃げるなんて…」
「海ちゃん、今は私達に出来る事をしよう。」
「光さんの言う通りですわ、私達が出来る事を考えするべきです。」
「光、風………そうね、ここでウジウジしてても変わらないものね。」
セフィーロに残してきた人々の安否を気遣う海。
光と風は自分の出来る事を進めるべきだと主張。
海も現状では何も出来ない事を理解し出来る事をするべきと方向転換した。
「それにしても、どうしてサイデリアルはこっち側じゃなくて異世界に侵攻したのかしら?」
「向こう側にはハスミが囚われている、侵略関係で尋問された可能性も否定出来ない。」
所変わってATXチームの会話。
始めにエクセレンとキョウスケの会話に始まり、疑問に思うクスハに問うブリッド。
「それだけかな?」
「クスハは違うと思うのか?」
「うん。」
「確かにハスミならクロスゲートとガンエデンを使えば、月からの脱出は可能な筈…それをしていない。」
「若しくは何か理由があってガンエデンを使えない?」
「そうだと思う。」
「確実なのは愛しのダーリンを止めたくてあっちに留まっているんじゃない?」
「少尉、それは…」
「ブリット君は鈍すぎ、修羅の乱の時だってハスミちゃん…あのダーリンさんの事を。」
「止めて置け、エクセレン。」
エクセレンの言葉を止めるキョウスケ。
その理由を語れば、ここに居る全員がある回答へと至ってしまう。
ハスミがアウストラリスを愛してしまい敵対する道を選んだと…
それが間違った結論である事を誰も理解出来ないままに。
「それってエメロード姫とザガートの…」
「そうよね。」
「状況がお二人の時と似ていますね。」
「三人共、向こう側のお姫様に何かあったの?」
光達の様子にエクセレンが気づき問いかける。
三人は浮かない顔をしながら、L5戦役で起こった異世界召喚の出来事を話した。
マジックナイトになった経緯。
ザガートがエメロード姫を攫った本当の理由。
マジックナイトと魔神が『正常な祈りが出来なくなった柱』を消す為のシステムである事。
その絡繰りに気づいたハスミの機転で悲劇は食い止められた。
「一歩間違えれば、私達は二人を…」
「そうだったのね。」
「エメロード姫とザガートがやっと愛し合える様になったのに…」
「平和になった世界へ侵攻されてしまいました。」
再び、落ち込んでしまった三人に対してエクセレンは助言をする。
「…ハスミちゃんの事だから、何か理由があって情報を流したのかもしれないわよ。」
「えっ?」
「その理由を知る為にも遭遇したらお姉様達が問い詰めてあげないとね?」
何時ものノリで三人を落ち着かせるエクセレン。
それと同時に出撃命令のアラートが鳴り響いた。
>>>>>>
鋼龍戦隊が転移装置で梁山泊に移動中の頃。
ラマリスの出現で防戦一方の状況になっていた。
九大天王の半数以上は各地に出現したラマリスの痕跡を追う為に不在。
現在は大作のジャイアントロボと組織解体し移籍したラストガーディアンに鉄甲龍の八卦衆が対応していた。
前者は兎も角、後者に関しては空白事件後に戦犯として裁かれる予定だったが…
修羅の乱と封印戦争時に置ける地球防衛の助力と木原マサキと言う一人の科学者の被害者である事も考慮され梁山泊預かりとなった。
結果的に梁山泊防衛の戦力になっているが、犯罪行為があれば各地にエキスパートとして派遣されている。
猶、ゼオライマーを含めた八卦ロボはシュウ博士や世界十大脳と呼ばれる科学者達の手により遺伝子と連動した呪いは外されている。
なので各自が暴走する事はない。
話は戻り、ラマリスとの戦闘が続く中でサイデリアルが出現。
サイデリアルも出現したラマリスを撃墜した後、梁山泊に対して降伏の指示を出した。
勿論、それを受け入れる事は出来ないと中条長官はサイデリアルの総司令官ストラウスに返答。
代わりに副官ダバラーンが指示を仰ぐ為にストラウスへ告げた。
「ストラウス様、奴らは徹底抗戦の構えの様です。」
『…(ま、こっちはこっちで派手に暴れさせて貰おうよ。』
「では、攻撃を開始します。」
サイデリアルの攻撃部隊の一つハイアデスと交戦を開始する梁山泊。
だが、それはサイデリアル側が嗾けた陽動であり…
本命は既に内部へと侵入していたのだった。
~梁山泊・内部~
「ここへ来るのも久しぶりだな?」
「はい、ここへお連れするのは二度目でしたね。」
手薄となった梁山泊の山道の一つで身を潜めていたアウストラリスとハスミ。
ハスミの案内で梁山泊の内部にある件の場所へと向かっていた。
「ハスミ、奴の気配は?」
「既に内部へ潜入しています。」
「判った、先に進むぞ。」
梁山泊の内部へと潜入する二人。
それは別の曲者を追っていた為である。
バアル側に堕ちた存在と対面する為に…
「此処が説明をした最下層の牢獄です。」
「警戒が厳重と言うは頷ける。」
「はい、元々は九大天王が分担制で監視を定期的に行っている場所ですから。」
梁山泊の最下層にある牢獄。
ここは世に出す事が出来ない重罪人を繋ぐ為の牢獄。
その牢獄には今までの戦乱で罪を犯した者達が収容されていた。
だが…
「既に何名かは犠牲になったみたいです。」
「その様だ。」
最下層へ下りる道中にある檻の中で息絶えた遺体。
檻の柵に縋りつくように、部屋の隅で怯える様に干からびた遺体が転がっていた。
「ハスミ、この現象は霊子…命を抜き取られたのか?」
「その通りです、父さんも似た術を使えますが……これは域を脱しています。」
「…悪意の命を搾り取り力を付けぬ内に奴らを消さねばらならぬな?」
「はい。」
ラマリスに次ぐ悪意の存在。
亡霊、悪霊、その類に近い存在。
古き世代からの因縁の相手。
その澱んだ気配が下層に進むにつれて強くなっていった。
「…漸く会えましたね?」
干からびた遺体が複数転がる最下層の最終牢獄。
そこへ辿り着いたハスミはその気配の正体の名を告げた。
「妖魔大帝バラオ。」
「ほお、その気配……小娘、ガンエデンか?」
「お察しの通りで。」
岩石で造形された手の姿。
その指先には人の顔が刻まれていた。
そう、この獄中で息絶えた者達の顔である。
「随分と悪食を働いた様子ですね。」
「破滅の王とやらが齎した負念のエネルギーが我らを復活させたのだ。」
「我ら?」
「そうだ。」
「成程、そちらの様に悪食に走っている悪意達が複数いると言う事で?」
「…博識は結構だが、身を亡ぼすぞ?」
「どうとでも、それにエゴなテンシよりかはマシな方と思ってくださいな?」
「やはり、あの者達も動き出したか。」
「誰を指しているかは察しますが、似た様なモノでは?」
言葉には言葉を、皮肉を皮肉で返す。
その様な会話が続いた。
「此処に最早用はない、ガンエデンよ……我らの邪魔をすると言うのなら覚悟するのだな?」
「それはお互い様では?悪食をしなければ弱ったままの其方を相手にするとでも?」
「…減らず口が。」
「どちらがでしょうか?」
「ふん、頸を洗って待っているがいい。」
バラオは怯えた表情の祭祀長ベロスタンを引き連れて姿を消した。
今まで無言だったのはアウストラリスの闘気に恐れていた為である。
「あのまま放置して良かったのか?」
「バラオを倒すには太陽と月…日食のライディーンが必要です、後は時のゆりかごの中で戦う彼らの宿命なので。」
「そうか。」
「奴が撤退した事で幻妖斉さんの結界も持ち直した様子ですし、後はストラウス総司令の仕事が終わり次第撤退致します。」
「…判った。」
私達の今回の目的はバラオの目的を知る事と妨害。
今頃、外では戦いを楽しむハイアデス隊と鋼龍戦隊、梁山泊の防衛隊にラマリスの三つ巴が始まっているし。
もう一つの仕事が終わったら撤退の予定である。
「…(ライセ総司令官、曲者が入り込んでいるのに貴方は何をしているんですか?高みの見物?私達が潜入したから体の良い厄介払いをさせてませんか?」
まぁ、私が秘密裏にサイデリアルと協力して御使いを仕留めるって言う無茶な方法取っているから仕方がないけど…
真実を知らないフリの敵対している芝居迄させているし。
その位の雑用はやってくれと言わんばかりの無視を現在進行形でされてます。
国際警察機構並びにBF団の皆様方、本当にすみません。
******
ハスミらとバラオのひと悶着が終わった頃。
鋼龍戦隊が梁山泊に到着し戦闘態勢に入っていた。
ラマリスは未だに出現しサイデリアルも加わって三つ巴の戦いが続いていた。
到着と同時に各戦艦の艦長らが感想を述べた。
「あれがサイデリアルの部隊。」
「金色の戦艦…総司令官ストラウスの旗艦ですね。」
「メキボス氏から情報通りです。」
「うむ、各機…梁山泊の防衛隊と共に基地の防衛をしつつラマリスの排除とサイデリアルを退ける。」
マイルズの指示により戦闘が開始されようとしたが、それをサイデリアルの副官ダバラーンによって止められた。
同時に各艦に映像通信が繋がった。
「貴様らが鋼龍戦隊だな?」
「そちらは?」
「星間軍事連合サイデリアルに属するハイアデス隊、自分はダバラーン…副官を務めている。」
「鋼龍戦隊のマイルズ司令だ、その鎧の人物がストラウス総司令と見受けるが?」
「地球人にしては情報が早いな、如何にもこちらがストラウス総司令官だ。」
「…(こんななりだけどね…ダバラーン、連中に降伏するか聞いて?」
「ストラウス様からの言伝を伝える、降伏するか否か?」
「断る、こちらもそちらが侵略した同盟国家フューリーの開放を求める。」
マイルズの言葉に呆れるストラウス。
表情は見えないが、ストラウスの愚痴を電子音声から様子をくみ取ったダバラーンは進言を待った。
「…(やれやれ、あんな裏切り者満載の所を返して欲しいなんて…物好きだね。」
「如何なされますか?」
「…(アウストラリス達が戻るまでもう少し遊ばせて貰おうよ。」
「承知しました、迎撃態勢に入ります。」
部隊を展開するハイアデス隊。
同時に一部のメンバーには面識のある機体が出撃させられていた。
「あれは!?」
「我らの同胞を戦場に駆り出したのか…」
出撃していたトーヤとアル=ヴァンは驚きと苦虫を噛み潰したような表情で答えた。
出撃させられたのはヴォルレントを筆頭にリュンピー、ドナ・リュンピー、ガンシャールの混成部隊…
そう、フューリーの同胞達だった。
「…(じゃ、始めようか?」
「ストラウス、時間切れだ……帰還するぞ?」
「…(えー、今いい所なのに。」
「ここで鋼龍戦隊と事を構える事は俺が許さん。」
「…(へいへーい。」
出撃を確認し攻撃を開始しようとした所、戻っていたアウストラリスに静止させられるストラウス。
当初の予定通り、フューリーの部隊を嗾けさせて自分達は撤退する手筈だった。
理由としては此方の手の内をまだ明かす事は出来ない為である。
ストラウスはダバラーンに指示を送り、フューリーの機体のコントロールを設定し鋼龍戦隊に差し向けた。
その隙に次元転移で部隊は撤退。
鋼龍戦隊は操られたフューリーの部隊と戦う結果となった。
~更に数時間後~
サイデリアルが撤退しフューリーの衛士達を救助した後、艦長らは状況確認の為に梁山泊内の司令室へと赴いた。
そこで中条長官と挨拶を交わした後、本題に移った。
「これを見て貰えるかね?」
中条長官の指示でモニターに映されたのはとある場所。
「ここは『カナーリの牢獄』と呼ばれる場所、BF団の拠点の一つだ。」
牢獄と呼ばれる場所でありながら、映像を見るに様子がおかしい事が解る。
「数日前、この牢獄が何者かに襲撃され…BF団も撤退を余儀なくされ牢獄を放棄した。」
「何故、そうだと?」
「牢獄に潜入していたエキスパートからの連絡では、あのラマリスが関わっているとの事だ。」
「「「!?」」」」
驚く艦長らを余所に中条長官は続けて答えた。
「更に牢獄に囚われていた一部の者達やBF団の団員…その遺体が発見された。」
「遺体で、ですか?」
「それも干からびたミイラの様な状態でだ…新宿で襲われた状況とはまるで異なる。」
「…同じラマリスでも何か違いがあると?」
「いや、潜入したサイデリアルはこの干からびた死体を作り上げた存在を追っていた様子だった。」
「サイデリアルが?」
「理由は未だに不明、だが…奴らにとってもその存在が危険である様子だ。」
「中条長官、サイデリアルの行方は?」
「例の存在が消えた後、部隊を引き上げさせ撤退して行った……恐らくは月の拠点へ戻ったと思われる。」
「…」
「もう一つ、そちらに伝えなければならない事がある。」
「それは一体?」
「梁山泊への潜入を奴らが容易に出来た事…恐らくはハスミ君が手引きしたのだろう。」
「確かに…彼女は国際警察機構に在籍していた。」
「なら、梁山泊の手薄な場所を知っていても可笑しくはありませんね。」
テツヤとレフィーナの言葉を余所にマイルズは軍人らしく視野の狭い言葉を放った。
「中条長官、それは彼女が裏切り者と言う証拠…と捉えても宜しいですかな?」
「「!?」」
「それだけで決まった訳ではないのでは?」
「ですが、実質そちらに被害は出てしまっている…それが何よりの証拠でしょう?」
「…」
中条長官はマイルズの言葉に沈黙した。
何故、彼女がサイデリアルの元へ下ったのか?
その真実を知る数少ない者達の一人である。
話すべきだろうが、いつどこで綻びが生じるか不明。
故に沈黙するしかなかった。
「マイルズ司令、そう捉えるには早急過ぎると思いますが?」
「ギント艦長、では…彼女が裏切り者ではない証拠はあるのか?」
「証拠と呼べるかは判断材料が少なすぎますが、サイデリアルがその気になれば梁山泊は我々が到着する前に壊滅していたと思われますが?」
「…」
「サイデリアルはそれを実行しなかった。」
「他に何かあるとでも?」
「恐らくは…」
展開していたサイデリアルの戦力であれば、梁山泊は陥落していた。
出来た筈の侵略行為を行わなかった。
それは何を示すのか?
「判断材料としてサイデリアルの命令で動かされていたフューリーの衛士達に事情聴取をしてからでも遅くはないと思われますが?」
ギントの提案に少し考えてからマイルズは次の行動を起こした。
「では、中条長官…統合参謀本部からの指示があるまでこちらでの滞在を許可して頂きたい。」
「滞在の件は了承しました、それと衛士達の身元もこちらで預かる事は可能ですが?」
「その件は彼らの事情聴取後に…」
サイデリアルに占領されたガウ=ラ・フューリア。
フューリーの衛士達の持つ情報はある状況へと繋がっていた。
それが一体何なのか?
答えを知るのはZ事変の記憶を持つ者達だけ…
=続=
悪意は何処へ。
悪夢より目覚めた者達へ迫る危機。
次回、幻影のエトランゼ・第八十九話『絶望《ギルティ》』
それは絶望の目覚め。
それは必然たる戦い。
スフィアは強き意思の元で輝く。