幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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因果律。

無限力が求めるモノは何か?

それは新たな力と時の流れによって変化する。



第八十六話 『異球《イキュウ》』

サイデリアルの月制圧から更に二週間が過ぎた。

 

未だ、サイデリアルは月とは別のエリアの侵攻を行っていない。

 

ある意味で静観し、逆に月を制圧しようとしている勢力を返り討ちにしている位だ。

 

それは地球政府にとって半信半疑の体制で注意深く監視しなければならない。

 

油断すれば、足元を掬われるのは自分達だから…

 

 

******

 

 

まず、今回の第一声はこれである。

 

 

「ねえ、アイツら弱くない?」

 

 

ビールジョッキを片手に敵の戦力が弱い事を告げる金髪の女性。

 

 

「正直に言うなら…奴らは地球圏の戦力を甘く見ていますので致し方ありません。」

「ふうん…成程ね。」

 

 

月のターミナルベースの基地内。

 

その一室にて休息を取っているエルーナルーナとハスミ。

 

表向きの鎧姿はしばしの休憩中である。

 

今まで進軍を行って来た相手に対して愚痴を言い合う仲に進展していた。

 

 

「私ならこう言いますけど、『一昨日きやがれ糞野郎!』とね。」

「ぶっ、アンタもそんな事を言うんだwww」

「その程度の連中への礼儀はこれ位でと思いましたので。」

「いいじゃん、もっと言ってやんなよ。」

「口は禍の元ですので必要以上には言いません。」

「…その毒舌でウチの部下が悲鳴をあげたけどね。」

「そうですか?飴と鞭は使ってますよ。」

「…(まー面白かったし多めに見て置くかな。」

 

 

エルーナはジョッキに残ったビールを飲み干した。

 

 

「ハスミ、おかわりは?」

「お酒はその辺で、これから次の作戦についての会議をします。」

「アウストラリスも人使い荒いね…ま、戦うなら大歓迎だけど。」

「戦う事は確かです、次の目標は…少々厄介ですよ?」

 

 

ハスミの発言に眼の色を変えるエルーナ。

 

 

「どんなのだい?」

「ゴライクンルの妨害です。」

「泳がせて置くんじゃなかったの?」

「その予定でしたが、話が変わりました。」

 

 

ハスミはコンソールを動かし室内に設置されたモニターにその詳細を映し出した。

 

 

「これを。」

「っ!?」

「奴ら、他に契約した別スポンサーと合流した様です。」

 

 

映像からズールら星間連合に物資を供給する状況が映し出されていた。

 

それらを手引きしているゴライクンルの幹部の姿も見えている。

 

 

「あらまあ、いろんな組織がチラホラとねぇ…」

「奴らもいがみ合っているつもりはないが建前で本音は……少し崩せば足の引っ張り合いは起こりますけど。」

「へぇ…面白そうだね。」

「倒すべき悪意が集中している所ですし…大元を叩いてしまえば、どうとでもなります。」

「苦戦を強いられる戦いは好きだよ……その分、達成感がある。」

 

 

狙ったモノは逃さない。

 

それが彼女、エルーナの欲望であり心情。

 

 

「植物型惑星…ディラドも進行しつつありますが、アレはノードゥスの獣機戦隊を中心とした部隊が行いますので手出しは無用です。」

「えー別に倒せばいいんじゃない?」

「人体に寄生する厄介な物質を奴らは扱う、貴方の部下に被害が及びますので避けたいが本音です。」

「そこまで…」

「調べるべき情報は調べ尽くし託して次に繋げる……それが私のやり方です。」

「いいんじゃない?それがアンタの決めたやり方ならね。」

 

 

やり方は変えない。

 

これから先も変わる事はないだろう。

 

それが私の決めた在り方なのだから。

 

 

「……知る事は出来ても止める事が出来ない事案もありますので万能とは言えませんよ。」

「どういう事だい?」

「これを見てください。」

 

 

ハスミはカーソルを移動させ、次の映像へと切り替える。

 

 

 

「地球だよね……あの辺に現れたのは一体?」

「次元断層の一種です。」

「で、あの中で何が起ころうとしているんだい?」

 

 

ハスミは極東エリアに現れた二つの異空間について答えた。

 

それは予言を伝えるかの様な語り方だった。

 

 

「一つは鳥の巨人は太陽だけにあらず月がその背に重なる、それは神鳥の巫女の目覚め。」

「…」

「もう一つは銅鐸を巡る戦乱、それは戦うべき時の訪れ。」

「…」

「最後は星の海より白き一角獣は黒き獅子と共に禁断の箱を巡る。」

「…」

「何人たりとも目覚めの時まで時のゆりかごを開けるな、これは定められた眠り。」

 

 

語られた事の前半は不明確だが、後半は理解したエルーナ。

 

 

「最後のはユニコーンとバンシィ…インダストリアル7のことだね、時のゆりかごはあの現象って事かい?」

「その通りです、察して頂いて有難いです。」

「所でアカシックレコードからの情報ってそんな感じなの?」

「そうですね、ほとんどが予言の様な内容で信託?が降りますから。」

「それじゃ解読するのも一苦労ってもんだね。」

「そうとも言えますが、ある程度の言葉をキーワード化すれば何とか解読しやすいと判っているので。」

「キーワード?」

「はい、先程の白き一角獣をユニコーンと言う様に特定の言葉をキーワードに置き変える感じですね。」

「それでアンタが知っている情報からキーワードに置き変えてるって訳かい?」

「そう言う事です。」

「…(アウストラリスがアンタを引き込んだ理由も何となく察したよ。」

 

 

ムトロポリスを含めた地区、ビルドベースを含めた地区、インダストリアル7を中心とした宙域。

 

以上のエリアがTOKYO JUPITERと酷似した現象に巻き込まれたのだった。

 

 

=続=

 




暗黒の脳髄が遺した災い。

それらが迫り来る。


次回、幻影のエトランゼ・第八十七話『闇兵《アンヘイ》』


恐怖を植え付けられたのはどちら?

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