幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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形は違えど闇に蠢く暗躍者。

それらを圧倒的な欲望で圧し潰す。

暗躍者達を超えた欲望が輝く。


第八十四話 『落月《ラクヅキ》』

反乱が起こると宣言した当日。

 

私ことハスミはアウストラリスの指示により、あちら側の世界からサイデリアルの総司令官ストラウスとハイアデス隊を転移させた。

 

当初、彼らは突発的な事で驚いていたがアウストラリスの指示である事を伝えると納得した。

 

次元震による転移に慣れているから出来る事なのだろう。

 

天鳥船島でアウストラリスと共に事情を説明、その足で月へと向かった。

 

 

******

 

 

月軌道周辺。

 

クロスゲートによる転移で移動したハイアデス隊。

 

部隊が転移したのと同時にそれは開始した。

 

予期されたフューリーの内部クーデターはハスミの予言通りに発生。

 

月にある空洞から数機の機動兵器が地球へ向かっていく姿が補足された。

 

 

『あれかい?』

『はい、あの集団は捨て置いて結構です。』

『じゃ、残りはこっちでパーティとしゃれこもうか。』

『お好きに。』

 

 

ハイアデス隊の旗艦プレイアデス・タウラのブリッジでストラウス総司令と会話する軍師ファウヌス。

 

互いに鎧を纏っている間は声で女と認識されない様に電子端末で会話を続けていた。

 

そこへ追従している艦隊の一つから部下である男性が通信を送って来た。

 

 

「ストラウス様。」

『ん、ダバラーンどうしたんだい?』

「ファウヌス殿と少々…その。」

 

 

本来自由奔放な性格のストラウスが皇帝の片腕とも称された相手と馴れ馴れしく話している。

 

この様子に嫉妬するダバラーンはファウヌスが男性と勘違いしていたのだ。

 

それを察したストラウスはダバラーンに告げた。

 

 

『何か勘違いしているみたいだけど、この子…女の子だよ?』

「は?」

 

 

同時に通信を聞いていたハイアデス隊の一部の兵士達。

 

ストラウスのカミングアウトには素っ頓狂な声を上げていた。

 

 

「What!?」

「Is it false!?」

「Are you serious!?」

 

 

カミングアウト後に私の横で鎧越しにお腹を押さえて震えているストラウス。

 

様子を表現するなら大草原を発生させている。

 

同時にノリが海兵隊なハイアデス隊の人達の混乱する様子に私は突っ込みを入れたい気分だった。

 

 

『…何か勘違いさせてしまってすみません。』

「いえ、此方こそ軍師殿に申し訳ない!」

 

 

盛大な勘違いをして落ち込んでいるダバラーンさんに私は謝罪をしておいた。

 

確かにあの人達は戦う事が好きだが、こういった事にも積極的らしいので単に悪い人達ではない。

 

一区切りで考えてはいけないと今更ながら思う。

 

 

『そう言えば、何で鎧なんて着けてるんだい?』

『理由はストラウス総司令が鎧を纏っているからです。』

『アタシ?』

『はい、建前はアウストラリスが仰る通りに威厳の関係ですが…同じ女として私だけ鎧無しと言うのは良くないと思いましたので。』

『……』

『ストラウス総司令?』

『いい子ちゃん過ぎてアタシ…涙出そう。』

 

 

あーノリがもうエクセレン少尉と同じタイプと悟ったファウヌス。

 

流れのまま、静かにストラウスから鎧越しで頭を撫でられていた。

 

そんなやり取りの後、お目当ての部隊が月面より現れた事を通信担当より報告された。

 

 

「ストラウス総司令、月面から敵部隊が出撃し此方へ向かっています。」

『じゃあ、始めようかね。』

 

 

ストラウスは鎧越しで各部隊に宣言する。

 

 

『野郎共!この世界でのアタシ達の初陣だ!!準備はいいかい!!?』

 

 

「「「おおおおお!!!!!」」」

 

 

『…(間近で見るけど覇気が凄い。』

 

 

プライドの高い騎士団とフリーダムな戦闘集団。

 

相寄らない相手同士、お手並み拝見としましょう。

 

 

『ファウヌス、相手のスペックは…』

『はい、相手の情報はお教えしない方向でよろしいですね?』

『判っているじゃない?』

『ストラウス総司令のお楽しみの邪魔は出来ませんので。』

『やっぱ、アウストラリスが選んだ事だけはあるね?』

 

 

本来であれば戦場を有利に進める情報を与えるべきだろう。

 

だが、根っからの戦闘狂には不必要な事。

 

今回は相手の力量を知る為の戦いであり、短期決戦に持ち込むつもりはなかった。

 

 

『一つだけ聞いていい?』

『何でしょうか?』

『アイツらの性格ってどんなの?』

『しいて言うなら他者を見下すプライドの高いエリート集団ですね。』

『なら、そいつらの出鼻を挫いてやるとするかね。』

 

 

先に攻撃を開始し始めたフューリーのフューリア聖騎士団。

 

その多くがグ=ランドン派の騎士達、残りは何も知らされていない末端だけだった。

 

相手はラフトクランズを筆頭にヴォルレント、リュンピー、ドナ・リュンピー、ガンジャールの混成部隊。

 

機体の一部にゾヴォーク製も含まれていたので既にゴライクンルと手を組んだのだろう。

 

交戦が始まった頃、最初は相手側の優勢に見えたが早い段階からこちら側へと戦況は有利になっていった。

 

この点に関してはストラウス総司令の戦術構築力が優れていると伺える。

 

 

『…(それでもラフトクランズの相手は彼らに荷が重すぎる。』

 

 

いくつかのラフトクランズがハイアデス隊のアンゲロイへ切り込みを始めた。

 

その様子にファウヌスはブリッジを後にしようとした所、ストラウスに引き留められた。

 

 

『ファウヌス、何処に行くんだい?』

『露払いへ行きます、宜しいですか?』

『まあ、アンタの実力も見たかったし…出るならこっちの射線上に気を付けておくれよ?』

『了解しました。』

 

 

戦況を巻き返そうとしたフューリア聖騎士団。

 

だが、たった一体の機体によってそれは覆された。

 

 

「アレは一体!?」

『…』

 

 

ハイアデス隊の旗艦から出撃した機体は戦場のど真ん中へと向かった。

 

その状況に気が付いたフューリーの騎士の一人が止めようと動き出すが…

 

 

『遅い。』

 

 

コックピットブロックを残してラフトクランズの一体が行動不能へと陥った。

 

それは一瞬の斬撃。

 

 

「あの動き、只者ではない。」

 

 

戦闘指揮を任された騎士のフー=ル・ムールーは自身のラフトクランズ・ファウネアから戦況を見ていた。

 

彼女はこの時点で知る由もなかった。

 

自身の部隊へ攻撃を仕掛けている相手もまた騎士の称号を持った存在である事を。

 

 

『まずは一体。』

 

 

黒い鎧に紫のラインが施された機体。

 

名をアルゲティオスと呼ぶ。

 

サイデリアルの軍師ファウヌスの乗機である。

 

 

『…(ラフトクランズは全て殲滅、後はラースエイレムを使用させて陥落させれば任務は終了。』

 

 

彼らを陥落させるには最も神聖で希望の象徴とされたラースエイレムが封じられる事。

 

それを起動するエネルギーをスフィアの力で奪ってしまえば、彼らもどうする事も出来ないだろう。

 

 

『切り札が離脱して頼みのラフトクランズがほぼ壊滅状態じゃ勝敗は決まったモノか…』

 

 

どの道、グ=ランドンはズィー=ガディンを出すつもりはないだろう。

 

この時点で出撃させてもアウストラリスには勝てない。

 

差があり過ぎる。

 

なら、今の所は大人しくしてもらって置こう。

 

 

『ファウヌス、向こうさんが降伏したから引き上げだよ。』

『了解しました。』

 

 

この日、地球政府と同盟を結んでいたフューリーがサイデリアルと名乗る存在に降伏した。

 

それは太陽系だけではなくサイデリアルの名を知る星間国家や星間組織にも影響力を与えた。

 

サイデリアルの出現により…この世界に置ける多元世界からの侵略は始まったのである。

 

 

******

 

 

木星から帰還した鋼龍戦隊の混成部隊。

 

彼らに齎された情報はガウ=ラ・フューリアがサイデリアルによって陥落した事である。

 

これによりフューリーからサイデリアルへ降伏宣言を行われた。

 

次の指示が下されるまでオービットベースに待機となった彼らも動揺を隠せなかった。

 

本来なら月軌道上の中継基地へ移動するのだが、サイデリアルによる月内部のガウ=ラ・フューリア掌握の件もあるので動けない状況が続いていた。

 

また、月面に点在する都市や基地を掌握される危険性がある以上は下手に行動出来ないが正しいのかもしれない。

 

木星帝国のシンヴァツによる地球への攻撃を阻止しなければ、結果的に地球に被害が出ていただろう。

 

それを見越してガウ=ラ・フューリアを掌握したのであれば、彼らの手の上で踊らされたと認識するしかない。

 

しかし、記憶保持者達はそうではないと理解していた。

 

理由は三つ。

 

 

『既にガウ=ラ・フューリア内で内乱が起こっていた事。』

 

『サイデリアルにハスミが居る事で事の次第は筒抜けである事。』

 

『彼らの切り札であるラースエイレムを使用されても対処方法がある為、陥落するのは時間の問題だった事。』

 

 

以上を踏まえて、今回の件は起こる事を前提で引き起こされた戦いであった。

 

時を同じくして地球に降下し伊豆基地に保護されたシャナ=ミア・エテルナ・フューラ皇女殿下。

 

彼女が信頼する臣下のエ=セルダとアル=ヴァン、トーヤ達の五人。

 

現在は政府上層部の方針が決まるまで身柄を置く事となった。

 

横槍が無ければ、流れ通りに鋼龍戦隊へ身柄を預けさせる事となるだろう。

 

それと同時に監視役となる二名の将校が選出される。

 

 

『流れのまま、真実を求めて戦い続けろ。』

 

 

それがハスミの残した新たなメッセージではないかと彼らは思った。

 

代償としてサイデリアルの出現が新たな戦乱を呼ぶ事になろうとも…

 

 

=続=

 




宣戦布告しよう。

ひ弱な意思を高ぶらせる為に。


次回、幻影のエトランゼ・第八十五話『布告《フコク》』


私はそれでも抗い続ける。

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