幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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悪意の気配。

終わらせた筈の戦乱の兆し。

全てが平和を望んでいる訳ではない。

ソレが求めるモノは己の我欲だけ。


第八十三話 『昏天《アンテン》』

前回のオロス・プロクスとの戦いから一週間が経過した。

 

世間を騒がせていた『眠り病事件』は終息し世界は静けさを取り戻した。

 

変わらずと言えば、不定期に現れるラマリスの出現位だろう。

 

ただ、この静けさの中で違和感を感じている。

 

何事もなければいいのだが、そうもいかないのが今回から開始する戦乱の経緯である。

 

 

******

 

 

ここ天鳥船島では。

 

 

「はぁ…」

 

 

私ことハスミは現在自室でため息を付いている。

 

理由はオロス・プロクスとの戦いで負った傷が完全に癒えていない為だ。

 

今は負傷の多くが完治しているが、問題の念動力が回復していないので療養中。

 

出来る事は情報をかき集めて纏める事だけである。

 

 

「…(眠り病事件の真相はゼンガー少佐を経由して情報を渡して置いたからいいとして。」

 

 

こちら側の世界でも発生した眠り病事件。

 

バアルの暗躍であり、こちら側では子供から心に不安を抱える人達が巻き込まれた。

 

不安が悪夢に反映する以上、バアル側も扱いやすかったのだろう。

 

原因となったナハトゥムを倒した事で悪夢に囚われた人達は無事に解放された。

 

あのまま放って置けば、永久に目を覚ます事が出来なくなっていただろう。

 

その旨をゼンガー少佐に経緯と共に情報を渡して置いた。

 

こう言った現象への対処はこっちの方が行う方がいいと判断したと告げて置いてある。

 

 

「…(何より、イルイ達にも悪夢の被害が出てしまった以上…捨て置けなかったが正解だけど。」

 

 

今は当面の問題に目を向けるか…

 

考えるべき問題、一つ目はゴライクンルとフューリーの諜士達が裏で暗躍している事。

 

恐らくフューリー内部でクーデターが発生しグ=ランドン派達による戦乱が起こる。

 

封印戦争時の謁見で光龍お父さんを通して彼らを見ていたけど、あの野心の塊はどうしようもない。

 

なら、やるべき事は一つかな?

 

 

「…(まずはクーデターは確実に発生するから御姫様の亡命の手助け。」

 

 

次はガディソードの移民船の来訪。

 

こちらもヘルルーガ派がゴライクンルとの結託で戦乱を引き起こす。

 

あのジジイは爆発アフロにでもしてやろうか?

 

 

「…(こっちはマルム派への援護が必要ね。」

 

 

そして戦乱を巻き起こそうとしているゴライクンルのゴモウドッカ。

 

あれはイスルギ重工の女狐さんより曲者だ。

 

MD時点でゴライクンルを全て掌握していないとなると…ポセイダルっぽい立ち位置の気もしなくもない。

 

公式から情報自体が公開されてなかったし、追々調べるしかないか。

 

 

「…(ダークブレインの三馬鹿に関しては鋼龍戦隊に任せるとして。」

 

 

ラマリスは此方でも消滅は出来る。

 

地球圏に入り込んでいるバルマーの密偵には目を光らせないと…

 

今は調査程度だけど、アレとの決戦の後に本隊が攻めてくる可能性がある。

 

アウストラリスには例の件を進言して置いた方がいいかもしれない。

 

何処まで負念の侵攻を止められるかが今回の戦いの鍵。

 

 

「…(油断する気はないけど。」

 

 

危惧していたセフィーロやアースティア側の宇宙…ペンタゴナワールドとの混合宇宙にも何かしらの戦乱が起こる。

 

同時に何処かの戦いで破界戦役に巻き込まれる可能性も視野に入れておかなければならない。

 

例の電脳世界の一件もガドライトさんとアサキムが対応し一旦は終息に向かっている。

 

それでも何かの兆しである事は確か…

 

 

「…(戦うべき敵はまだ残っている、負念の…バアルの眷属と化した存在達。」

 

 

私はまた布石を作らなければならない。

 

バアルから世界を守る為の対抗策を。

 

 

「やる事が多すぎて頭が痛くなってきた。」

 

 

ハスミは一通りの考察を行い、独り言を呟くとベッドに横になった。

 

 

>>>>>>

 

 

一方その頃。

 

引き続き、天鳥船島の施設内にて。

 

 

「はぁ、また面倒な事になってやがんな。」

「そうだね…バアルも随分と粘着体質らしいし。」

「それ、お前が言える事か?」

 

 

それぞれが電脳世界での激戦を終えて帰還したガドライトとアサキム。

 

こちら側での事情を聞き、面倒な事になった事を知った。

 

 

「兎も角、バアルの侵攻も微々たるものだが放っては置けん。」

「ま、あの監視者のテンシ共がバアルって自覚していない以上はこっちの事に手を突っ込んでくる事はないだろうさ。」

「今すべき事をする……それが君の答えであり彼女の答えだろう?アウストラリス。」

「その通りだ。」

 

 

現状、バアルに反撃の意思を見せつつサイデリアルと言う傀儡を演じなければならない。

 

そしてノードゥスが無事にシンカへ辿り着けたのならいい。

 

逆に失敗するのであれば、サイデリアルとして侵略を行い抗いの力を引き出す必要がある。

 

ハスミは結果的に後者に陥ると告げていた。

 

度重なった戦いと今回の戦乱で地球圏は完全に疲弊する。

 

そこへバルマーの横槍や復活した地下勢力に他の星間国家群が隙を突いて地球へ攻撃に入る事を予期していた。

 

本人もそうならぬ様に道化を演じつつ行動はすると答えていた。

 

 

「第二のガイア・エンパイア…もう一つの新地球皇国をこの地に築く事も必要なのだろう。」

「そうは言ってもよ、築城するのはいいが…こっち側の統治者はどうする気だ?」

「君は向こう側の世界で皇帝を名乗らないといけないだろう?」

「…既に目星は付いている。」

 

 

「「!?」」

 

 

「いずれは落城する、ならば相応しい者をあの者達への障害として置けばいい。」

「んで、その候補って誰だ?」

「今は語る事は出来ん、時が来たら話そう。」

 

 

アウストラリスが語ったもう一つの新地球皇国の設立とその玉座に座する偽りの皇帝。

 

それはまだ秘匿されたままとなった。

 

迫る新たな戦乱の兆しと影の暗躍者達を燻り出す為の計画は進行しつつあった。

 

 

「失礼します。」

「ハスミ、何かあったのか?」

 

 

休養を命じられていたハスミが室内へ入室した。

 

何かしらの変異があれば、アウストラリスらに報告する事も命令に入っていたので違反ではない。

 

 

「月内部に潜伏しているフューリーの母艦…ガウ=ラ・フューリアで近々内乱が起きます。」

「何時だ?」

「本日より三日後、早ければ二日後です。」

「捨て置けばどうなる?」

「地球側とフューリー側との戦乱が発生し下手をすれば異星間戦乱が再発、これに関してはクロノの暗躍も関わっています。」

「そうか…」

「対抗策としてシャナ=ミア・エテルナ・フューラ皇女殿下とその臣下達の鋼龍戦隊への亡命を薦めます。」

「正確には秘密裏に…だろ?」

「勿論です。」

「それならサイデリアルがフューリーの掌握行動へ移ったと見せた方が混乱させられそうだね?」

「奴らを引っ掻き回すと言うのであれば、それも……面白そうですね。」

 

 

私としてはあの変態糞ジジイと脳天禿ジジイに一泡吹かせたいと思っていましたので。

 

あの小物臭満載の馬鹿も早々に退場させるのも悪くなさそうですし。

 

うふふふ………さて、どんな方法でボロボロにしてあげましょうかね?

 

 

「…(ヤベ、まーた良からぬ戦術を考えてやがる。」

「楽しそうだね、僕も一役買うから混ぜて欲しいな。」

「それに関しては少し待て。」

 

 

盛り上がる中でアウストラリスは周囲を静止させた。

 

同時にハスミはアウストラリスに尋ねた。

 

 

「どうかなさいましたか?」

「その戦い、この星で言うデモンストレーションとして………奴らの相手はストラウスとハイアデスを招集し進軍する。」

 

 

「「「!?」」」

 

 

「あの者達にもこちらの意思が紛れもない覚悟がある事を示す為に……良いな?」

「了解しました。(大きなカードを切りましたね、ヴィル。」

 

 

アウストラリスの宣言により戦いは苛烈と成すだろう。

 

サイデリアルの司令官を務めるストラウスと部下であるハイアデス隊。

 

その部隊がこちら側の世界へ訪れるのだ。

 

 

「ハスミ、早々に転移の準備を。」

「承りました。」

 

 

ハスミは指示を受けた後、アウストラリスに進言した。

 

 

「アウストラリス、一つ願いを聞き入れて貰えないでしょうか?」

「願い?」

「はい、私もストラウス司令と同様に鎧を纏う事を許して頂けないでしょうか?」

「…理由は?」

「貴方が皇帝陛下と言う立場に戻った際に女が陛下の護衛…側付きでは敵勢力から嘲笑を買います。」

 

 

ハスミの進言にアウストラリスは少し考えてから答えを出した。

 

 

「ストラウスと同様に鎧を纏う事は認めよう、鎧を纏った際の名をファウヌスと名乗れ。」

「願いを聞き入れて頂き感謝致します。」

 

 

ハスミは一礼をした後にその場を去り、クロスゲートの間へと向かい転移の準備へ入った。

 

 

++++++

 

 

二日後、引き続き天鳥船島の神殿内部。

 

その長々とした通路に響く鎧の擦れる音。

 

神殿を管理する案内役の機械人形の一体の案内の元。

 

鎧の主とその部下数名は広間へと通された。

 

 

 

「…」

「久しいな、ストラウス。」

「…」

「用件はお前好みの戦い、指定した戦場を攪乱し蹂躙するだけだ。」

「…」

「そうだ、隙あらばフューリーと呼ばれる者達の移民船を掌握せよ。」

「…」

「この者は新たな同志、お前にも紹介しよう。」

 

 

金色の鎧の主ストラウスとの再会と呼びだした理由を告げたアウストラリス。

 

傍で控えている白銀の鎧を纏った存在の紹介を行った。

 

 

「この者の名はファウヌス、俺の片腕として認めた者だ。」

「!?」

「実力もお前達に匹敵し主に諜報と戦況予報を担当、アルシャト隊を指揮している。」

「…」

「お前と同様に鎧を纏っている……この意味は理解出来るな?」

「…」

「早速だが、ファウヌスを引き連れ指定の戦場に赴け。」

「…」

 

 

ストラウスは電子音の言語発生器で応対し命令を了承。

 

この世界におけるサイデリアルの初陣が開始されるのも時間の問題だった。

 

 

=続=

 




皇女は願う。

明日への希望に。

だが、願いは届かず追われる身となる。


次回、幻影のエトランゼ・第八十四話『落月《ラクヅキ》』


まだ鳥籠に入る時ではない。

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