幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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これは平行線。

言葉で語れない。

今はその時ではない。

彼女の願いの真意は届かない。

今は届いてはならない。


平の付箋

 

インファント島からの帰還。

 

そして九十九事件以来の仲間との再会。

 

同時にあの人との再会でもあった。

 

 

******

 

 

天鳥船島の神殿内部にて。

 

 

「ハスミ、久方振りだな。」

「…お久しぶりです、ゼンガー少佐。」

 

 

こうなる事は予想していた。

 

オロス・プロクスの事件でゼンガー少佐が巻き込まれる事は確定済みだった。

 

その再会が早まった。

 

一触即発。

 

周囲はある程度の事情は聞いているとは言え、口出しするのを控えた。

 

 

「封印戦争後以来、音沙汰がなかったが…ここに潜伏していたか。」

「ここに潜伏してもガンエデンを動かす事はありません……これは私自身が架した自戒です。」

「…」

「ガンエデンは銀河を守護する者、私利私欲な扱いは出来ません。」

「だろうな、ガンエデンの意志達は未だ人類を認めるに値するかを見定めている状況。」

「アシュラヤー達の説明ではそうだと話しています。」

「その監視の眼であるお前やイルイを通して人類が進むべき道を…辿る道を監視しているのだろう?」

「…その通りです。」

「ハスミ、お前の…ガンエデンが語った人類史上最悪の災厄とは何だ?」

「それは今語る事は出来ません。」

 

 

語る為には次元力を行使する力。

 

シンカの力を手に入れなければならない。

 

その術がなければ災厄から訪れる脅威に立ち向かう事は出来ない。

 

 

「以前話したシンカとやらの力が必要なのか?」

「そうです。」

「では、そのシンカとは何だ?」

「その答えは少佐達自身が探し出し解き明かす必要があります。」

「答えられんと?」

「それがシンカの力を得る条件だからです。」

「条件?」

「シンカの意味をその根源を自身の意思で識る事がシンカの根源へ辿り着く唯一の方法。」

 

 

シンカの道筋は己の意思で切り開かなければならない。

 

求める力の道筋。

 

強い意思の道筋。

 

それが正と負の枝分かれへと至る。

 

間違った力と意思は負念へ転じ、正しき力と意思は正念へと転ずる。

 

 

「ならば、お前がサイデリアルへ転じた理由は?」

「彼に挑み敗北した……それがサイデリアルに転ずる条件でした。」

「サイデリアルに属する意味は?」

「戦うべき時が訪れれば、いずれ真意は解ります。」

 

 

自分でも抑えられない衝動。

 

本当なら全て話してしまえば楽になるだろう。

 

しかし、それでは今まで隠し続けてきた意味がない。

 

来るべき時に全てを明かす。

 

その時まで私はこの真実を内に秘めたい。

 

 

「…その辺にしておけよ。」

「何だと?」

 

 

不穏な空気が続く中、ガドライトはゼンガーを静止させた。

 

 

「そっちの都合何てどうでもいい様にな…こっちにもこっちの都合があるんだよ?」

「都合?」

「元上司と部下の間柄って言ってもな、言えねえ事情ってのがあるだろうが!」

「貴様に何の関係があってい…」

「俺達が今の仲間で同志だからな、そん位は判り合ってんだよ。」

「…」

 

 

決別の意味を込めて去った。

 

今は敵同士である事を再確認させる発言。

 

ハスミは落ち着きを取り戻した後、ゼンガーに告げた。

 

 

「ゼンガー少佐、ここでの休養は認めますが…これ以上の追及は止めて頂きたい。」

「ハスミ…」

「少佐と私達はオロス・プロクス打倒と言う利害一致の関係で休戦体制を敷いているだけです。」

「何処まで拒絶すれば気が済む!」

「それは貴様らが弱いからだ…」

 

 

ゼンガーの言葉に反論するアウストラリス。

 

一度、刀と拳を交えた仲であるが互いの信念の道筋が異なる為。

 

交わる事はないと先の戦いで理解していた。

 

 

「弱いだと?」

「これまでの戦いは幾多の力を重ね合わせた事で勝利を成し得た…だが、戦うべき災厄に対しては弱者のままだ。」

「…」

「シンカの力を理解し手にするまでは同じ立ち位置に立てると思わん事だ。」

 

 

ハスミは静聴していた他のメンバーに告げた。

 

 

「各自の休養、武器の整備など指定区画内の施設利用はご自由に行ってください。」

 

 

最後に『失礼します。』と告げるとアウストラリスらと共に奥の区画へと去って行った。

 

 

「ミスター親分、今回ばかりはそっとして置くのが無難だと思うが?」

「私もそう思います。」

「…ハーケン、輝夜。」

 

 

共にエンドレスフロンティアで旅をしたハーケンと輝夜もまたハスミの様子に対して静観する事にした。

 

かつてエンドレスフロンティアの危機を共に戦い二度救った仲間として…

 

 

******

 

 

奥の区画への通路にて。

 

 

「ガドライトさん、アウストラリス、嫌な役回りをさせてしまって申し訳ありません。」

「気にすんなよ、お前の元上司…聞いてた以上の堅物だな。」

「それが少佐の強さなので。」

「だが、ある程度の融通が利かんのもどうかと思うが?」

「恐らく少佐も迷いの中にいるのだと思います。」

「迷い?」

「戦うべき真の敵の姿が明確にならない事と新たな負念の意思の暗躍。」

 

 

あのゴジラ達の出現もまた何かの兆し。

 

脳裏にちらつく関係者達。

 

最悪の事態にならなければいいのだけど…

 

 

「ハスミ、これからどうするんだい?」

 

 

アサキムの言葉にハスミは返答した。

 

 

「引き続き、オロス・プロクスの動向調査を平行して行いつつ…こちら側での次元震による変異現象を追います。」

「早いとこ、オロス・プロクスの一件が片付けばいいがな。」

「残念ですがまだまだ続きます、それが無限力の提示したお遊びですから…」

 

 

四度目の戦い、ムーンデュエラーズ開始までの空白期間。

 

無限力は何処まで茶番を入れる?

 

私は迷う事は出来ない。

 

選んだ結末を辿るだけだから…

 

 

=続=

 


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