平穏と言う静寂を破った者への業。
彼女の心は刃となって切り裂く。
それは罪人へ向ける怒り。
前回のオロス・プロクスの襲撃から一週間が経過した。
クロスゲートは今の所、変化は見られず静かすぎる位に落ち着いている。
逆に世界各地に次元震と酷似した現象が起こりオロス・プロクスを始めとした転移者達が出現する様になった。
だが、転移者の殆どがオロス・プロクスの協力者であり…各自各々の目的の為に動いている事が判明した。
彼らはFDXチームの手でアビアノ基地に回収された『瞬転刀』こと『ソーディアンズ・ダガー』やテスラ・ライヒ研究所で眠っている『超機人』など、先史文明期に関連したアーティファクト関連の遺物を保管する施設を狙う様に襲撃。
その展開は読めていたので、こちらも行く行く先々で先回りし妨害して置いた。
今の所、それと言った被害は出ていない。
お目当てであろうクロスゲートは三体のガンエデンがそれぞれ守護する三か所を除いて、今は地球近海に漂っている。
ガンエデンが守護する地は強固な結界が張られているのでちょっとやそっとでは壊せません。
それに宇宙での活動を制限される彼らでは、そう易々と手出しは出来ないだろう。
寧ろ…
梁山泊とバビルの塔に潜入した事の方が問題だと思う。
お陰様で双方から嫌味感満載のお小言を貰ったので経緯の説明と敵意があるなら容赦なく始末していいと伝えて置いた。
まあ、双方共に久しぶりの侵入者に対して楽しんでいる節があったのでグッサリと釘を刺して置いた。
ちなみに何故、彼らと普通に連絡を取り合っているのかを説明する。
私ことハスミは予め何度かの話し合いの際に本来の目的と御使いの目論見を瓦解させる為に敵対行動を取る事をあらかじめ説明。
サイデリアルの主導者であるアウストラリスが御使いに対して反旗を狙っている事も語って置いた。
この事から敵対行動の件は双方の組織の主導者とごく少数が真意を知る程度に留めてある。
表向きはサイデリアルのメンバーとして活動しているが、行動次第では亡くなる筈だった人達を救う手立てになると考えた為だ。
バアルの力が増している以上は戦力確保は必須。
願いと想いの力を強める為に私は出来得る限りの事をすると決めた。
それでも戦争には様々な思惑に絡んだ正義も悪も存在する。
戦争に正しき行いはない、在るのは自分の立ち位置を揺るがず事無く他者と戦えるかだ。
私は一番嫌いな戦争に加担している…
言葉ではどうとでも言えるが結局は詭弁だろう。
私はどこまでも最低で最悪な決断をしている。
ただゲームの様に敵を倒せばいいだけでは片付けられない。
私はスフィアの影響で様々な情報を…他者の思惑を感じ取ってしまう。
善意も悪意も関係なく、だ。
今も感じ取ってしまい、気分は最悪の状況である。
「…」
「動けんか?」
「アウストラリス…」
「そのままでいい、お前の持つスフィアの影響なのは理解している。」
「オロス・プロクスへの警戒をしなければならないのに申し訳ございません。」
「構わん、お前に頼りすぎるのは些か問題がある…島の結界の維持も含めて休める時は休んで置け。」
「そうさせて頂きます。」
天鳥船島の神殿内部。
その奥に存在する私室で休んでいるハスミの姿があった。
連日の念動力やスフィア過剰使用で精神を擦り減らしてしまい、ベッドの上で動けなくなっていた。
その部屋へ訪れたアウストラリスの言葉もあり、今は身体を休める事に専念している。
「他の方達はどうしていますか?」
「これと言った情報が無い以上は下手に動けん、各々が武器の調整、訓練、修行、休憩を取っている。」
「…余計な苛立ちを与えてしまいますね。」
「自分のせいとでも思っているのか?」
「そう思ってしまう……頼りない自分が情けなくて。」
「戦場とはお前が思っている以上に変異する、何時も先手を取れる訳ではない事はお前も理解しているだろう?」
「…ですよね。」
私は貧血にも似た眩暈と怠さで言葉を発するのが精一杯だった。
「お前はよくやっている、感謝してもしきれん位に恩威を受けている。」
「お約束しました、貴方の為に…願いの為に尽くすと。」
「俺と願いか…」
では、お前の幸せとは何だ?
何度説いても答えは聞き出せなかった。
ハスミ、お前は何を願う?
「…」
「ハスミ、感じたのか?」
「はい、これは…」
「恐らく次元震だろう…俺達の知るモノとは規模が違うがな。」
「極地型次元震……これが私達に与えられたスフィアからの試練の始まりです。」
「判っている、あの者達とは別行動になるが致し方無い。」
「ガドライトさんとアサキムも気づいているでしょう…帰還する様に指示を出して置きます。」
「……無理はするな?」
「お気遣い頂きありがとうございます、ですが…横になっている状況ではないので。」
ハスミはふらつく身体に鞭を打ち、ベッドから起き上がり部屋を後にしようとするが…
アウストラリスの言葉によって歩みを止めた。
「あの二週間に置ける行方不明の件、ジョーカーと名乗る得体の知れん奴の手駒が関わっているのか?」
「だと、したら?」
「取り戻すのだろう?」
「はい、永い悪夢を終わりにしなければなりませんから。」
「…そうだな。」
未来永劫、夜の闇の中で戦い続ける悪夢。
四肢が千切れようとも血反吐を吐こうとも何度も続く。
その悪夢の巡りを終わらせる。
「その怒りは奴らへ向ける為のモノか?」
「でなければ何だと?」
「何も出来ない自分への苛立ち…と、思った。」
「駄々こねする様な子供地味ていますか?」
「いや、アレよりはマシとは思っている。」
「アレとは?」
「旧友だ、かつての……どこまでも自由で己の意思を曲げん奴の事だ。」
「…あの人の事を信じているのですね?」
「ああ、俺もまたお前の言う可能性とやらを信じて見たい。」
「叶いますよ、その願いは…」
寄り道はしてしまいましたが、次のターゲットが動く時間です。
行きましょう、次の戦地CITY-NO.5へ。
~数時間後~
「また現れたか…」
「それはこっちの台詞だぜ?」
「どちらにせよ、倒す事に変わりませんよ。」
「へっ、あの空飛ぶ鎧野郎共の相手にお前らまで来やがったとはな…」
「敵の敵は味方、戦うべき相手が被っただけですよ。」
「まあいいさ、お嬢さんさえ手に入れば俺らの目的は達成されるってな。」
「オロス・プロクス、これ以上はこちら側の世界に手出しはさせない。」
シティ内部で戦闘を行っていたEDFとアイン率いるオロス・プロクス。
その戦いに差があったが、オロス・プロクス側には魔術や妖術を扱う者が居た為に劣勢に追い込まれていた。
そして現場に急行した物質界からのメンバーとハスミ達。
会話の後にオロス・プロクスは増援として自身の手駒の他に出現させると厄介な相手を出してきたのだった。
姿を知っているクリスとジルのペアが叫んだ。
「B.O.W.だと!?」
「こんな街中で奴らを解き放たれたら…!?」
ネメシスタイプ、ハンタータイプ、ウーズタイプに他に変異種なのか複数の甲殻類が合体したドラギナッツォと呼ばれるB.O.W.が含まれていた。
「どうだ?こんな街中でT-ウイルスやT-アビスなんてばら撒かれたくもないだろう?」
「……」
「おんやぁ?」
「ハスミ、遠慮はいらん……やるぞ?」
「はい。」
周囲の気配が変わる。
殺気の混じった異様な気配。
それは敵味方問わずに圧倒する。
「…(どう言う事だ…周囲の空気が変わりやがった?」
「力はあるようだか、理性のない力はただの化け物と変わりない。」
周囲に展開していたネメシスタイプの一体が頭部を潰されて倒れ伏し、残りのネメシスタイプがミサイルランチャーをアウストラリスに向けるものの…
発射されたミサイルは素手で弾き飛ばされ、上空で爆発四散した。
「対処方法が判っていればどうとでもない。」
「成程、俺も練習してみるか…」
「クリス、冗談でも止めて。」
同じ様にラリアットでハンターを吹っ飛ばすクリスの言葉にマグナムで応戦するジルが突っ込みを入れた。
「そんなんだから皆からゴリスって言われるんじゃぞ?」
「…俺はもう知らん。」
様子を見ながら戦闘中の小牟や零児も各々の感想を述べた。
「お前らといい、この世界の連中はどうなってやがんだ?」
「馬鹿正直に考えたら負けと言う事で。」
「そうかよ…」
「どちらにせよ、この世界で生身で最高の戦力を持つ総本山に喧嘩を売った事は認めます。」
「…あの山ン中の連中や妙な格好の連中、マジで死ぬかと思ったぜ。」
アインのナックル攻撃を刀で切り返すハスミ。
「私もそこで修行していた身、その異常さは知っているつもりですよ?」
「そうかい。」
その後、部隊の全滅を受けてアインは撤退。
B.O.W.の痕跡を跡形もなく消した後、ハスミらも撤退。
彼らが何故、あの地を戦闘場所へ選んだのか不明のまま。
だが、その理由は数日後に判明した。
研究都市から薄っすらと目視出来るエリアに新たな島が次元震によって出現。
島より響くのは巨獣の叫びだった。
=続=