幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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流す涙は心の奥底。

誰の為の拒絶。

敗北した者の末路。

それは決まっていた。



涙の付箋

時は遡り、封印戦争終結直後。

 

サイデリアルの名称と共に去ったケイロン・ケシェットことアウストラリスとハスミ。

 

敗北の意味は何を示すのか?

 

それを知るのは前世でZ事変に関わった者達だけである。

 

再びオービットベースに集結したノードゥス。

 

今回の戦いは集結したものの新たな組織サイデリアルの名と共に混乱は続いていた。

 

ユーゼス打倒を決した祝勝会も開かれたが、お通夜モードである事は言うまでもない。

 

それを余所に記憶保持者達はオービットベース内の一室に集まれるメンバーのみを収集。

 

中継役として滞在している光龍から真実を聞き出す為に。

 

 

******

 

 

「「「…」」」

 

 

彼らに思い出させるのはZ事変に置けるラース・バビロンでの戦い。

 

Z-BLUEの総力を持って挑んだ地球開放の戦い。

 

サイデリアル側にスフィアリアクターが四名。

 

Z-BLUE側にスフィアリアクターが四名。

 

スフィアリアクターの人数は互いに等しく戦いは熾烈で苛烈。

 

多元世界の地球上に置ける激戦であっただろう。

 

 

「話通りなら彼女はたった一人で奴と対峙した。」

 

 

ハスミの言葉を聞いたアムロは一人呟いた。

 

実力を知る彼女ならそれが無謀である事は知っていただろう。

 

だが、それでも彼女は戦う事を選んだ。

 

選び抜いて戦い、敗北した。

 

そしてサイデリアルに下った。

 

 

「光龍、彼女はサイデリアルとどの様な繋がりを持っているんだ?」

「何処から話した方がいいのか…口止めされている事は結構多いし。」

「茶化さないで貰いたい、この件は我々にも重要な事だ。」

 

 

何度もはぐらかされた事で普段冷静なアムロやシャアも言葉に怒りが籠っていた。

 

その様子に光龍は冷たい視線で答えた。

 

 

「あのね、僕だって君らに全部話して娘が取り戻せるなら…いくらでも話すよ?」

「…」

「それが出来ないのが今の状況、君らだって判っているんだろう?」

 

 

頭では理解はしているが心はそうはいかない。

 

その場のメンバーの心の中で彼女は敵なのか味方なのか二つの選択肢に揺れ動いていた。

 

 

「目の上のたん瘤だったユーゼス・ゴッツォは倒したし…君達に話せる事が少し増えた事は教えてあげるよ。」

「例の口止めの内容か?」

「それね、これで君らが不明だった情報が少し解明するんじゃない?」

「シャア。」

「…話して貰おう。」

 

 

腑に落ちない点は幾つがあるが静聴する事にした一行。

 

今、ここで事を構えれば余計に情報が引き出せなくなる。

 

何処までももどかしい。

 

 

「じゃ、口止め案件の中で解禁となった情報だけ説明させて貰うよ。」

 

 

光龍は周囲が落ち着いたのを確認してから解禁されたと言う情報を話した。

 

 

「まずは、君らに対して無限力がちょっかいをかけ始めた事から…」

 

 

始まり始めたのは今回の戦い…封印戦争の初め頃。

 

丁度、STXチームがアーマラ・バートンの狙撃に巻き込まれて謀殺されそうになった件が開始時期。

 

STXチームはこの時、何事も無ければグランド・クリスマスへ向かう筈だった。

 

無限力はそれが面白くなかったんだろうね。

 

はっきり言えば正史通りに戦いを起こしたかった。

 

だからハスミや僕らを謀殺しようとしたんだよ。

 

で、それに気づいたハスミは無限力への契約違反ペナルティに対してホルトゥスとして動く事を決めた。

 

 

「契約?」

 

 

破嵐万丈君、ハスミが今まで戦っていたのは無限力の意思。

 

あの子はアカシックレコードの使者として無限力の陰謀と戦っていた。

 

さっき話した契約内容は不明だよ?

 

そして負念の集合体であるバアルの件も無限力にとっては好都合な連中だった。

 

 

「好都合?」

 

 

無限力はバアルの侵攻が続けば、自分達は存在し続けられると思っているのさ。

 

正念と負念…人類とバアルの戦いが続く限り、自分達が神聖視し続ける為にね?

 

ここまでド屑な神が存在すれば君らだって抗うだろう?

 

ハスミはその絡繰りを自身の経験とアカシックレコードの記録を通して気づいたのさ。

 

その輪廻を終わらせなければ人類の未来はない、とね。

 

 

「…」

 

 

ここまでは話す事が許可されている事。

 

で、無限力はハスミや君らが自分達を脅かす危険分子に成りかけていると悟った。

 

今まで君らと接触を控えたり敵対行動を取ったのは君らへの妨害を防ぐ為。

 

ハスミがサイデリアルに下った理由は今は話せない。

 

何か理由があるのは判っているけど、無理強いでそれを知る事をしない事だね。

 

 

「無限力…イデの意思か。」

「やはり、あの存在が関わっていたとは…」

「…どんな世界でも奴らは変わらない。」

 

 

無限力ことイデの意思を知るメンバーはその意思に翻弄され、渦中にいた彼らの事を思い出した。

 

今回も接触するなら彼らは自分達の意思でまた潜り抜けなければならないだろう。

 

先の三人はそんな言葉を零した。

 

 

「お次はクロスゲートの事。」

 

 

ユーゼスの使用していたクロスゲートは消失を確認したのだけど…

 

悪用の危険性はないと思いきや別口のクロスゲートが地球近海に出現しちゃったのさ。

 

恐らくは無限力が関わっていると思う。

 

今の所、ゲートが動いた気配はないよ。

 

これを連合政府がどうするのか見物だねぇ。

 

 

「今も連合政府の内部にはクロノの構成員が潜んでいる。」

「イルイが狙われる危険性が残っていると?」

「そう言う事、まあ今のあの子にはゲートを動かせる力は戻ってないから無理な話だけど。」

「シャア、イルイの件を後で…」

「ああ、分かっている。」

 

 

話が早いねえ、前世でムゲ・ゾルドバスの連中や地下組織の件でイザコザあったのを教訓にしたんだね。

 

感心、感心。

 

 

「光龍、アウストラリスの事について知っている事は?」

「さてね…娘を奪った男の事を詮索すると思ったかい?」

 

 

いつどこで知り合ったか知らないけど。

 

どこの馬の骨とも分からない輩に娘を奪われたんだよ?

 

娘の手前、父親として物凄く我慢はしたんだよ?

 

妙な真似をしたら容赦無く消し炭にしてあげる予定さ。

 

これ、カーウァイとテンペストも容認済みだからね。

 

 

「それって殆ど本音じゃ…」

「リュウセイ、君は娘の幼馴染みだから許しているけど口が過ぎるよ?」

「ス、スイマセンデシタ。」

「…(親馬鹿に拍車がかかってコエェ。」

「…(やるなら他所でやれ、これがな。」

 

 

光龍の発言にツッコミを入れたリュウセイは自滅。

 

その様子をマサキとアクセルが傍観していた。

 

 

「それと不味い事が起ころうとしている。」

「不味い事?」

「さて問題、破滅の王が現出した際に溢れた負念の残滓は何処に行ったでしょうか?」

「どっかに逃げたとか?」

「銀河、流石にそれは…」

「正解だよ、君…突発的な事を言うけど本能かい?」

「多分、何となく。」

「…銀河の言う通りなら負念って自分の意思を持っているんですか?」

「単純な意思なら持ち合わせているよ。」

「北斗、単純って事は…」

「うん、戦うとか逃げるとか単語で行動が出来る程度って事だよね。」

「それに逃げた先により強い負念の化身が居た事が不味い事の原因だよ。」

 

 

ハスミの話では以前倒した存在が負念の残滓を受けて復活を果たしたらしい。

 

これも無限力のお遊びの一環だろうね。

 

対価はフューリーとの早期同盟の件かな?

 

兎に角、敵が増えた事に変わりはないよ。

 

 

「以前、倒した存在と言われると該当が有りすぎる。」

「半分以上が該当してると思うよ。」

「おまけでヒントあげるからそれで推測しなよ。」

「ヒント?」

「宇宙開発公団、シャトル事故、未帰還者、以上。」

 

 

光龍が示したヒントに対し各自考察する。

 

先に声を上げたのはシンジとカヲル。

 

 

「宇宙開発公団はGGGの表向きの組織で…」

「シャトル事故と未帰還者はそこの出身者って事かな?」

「凱さん、行方不明になっている人っているんですか?」

「…心当たりならある。」

「えっ?」

 

 

凱の言葉に全員が注目した。

 

 

「その人は俺の先輩に当たる人で今もシャトル事故で行方不明になっている。」

「その人の名前は?」

 

 

凱が答えようとした時、もっとも知る人物達が答えを告げた。

 

 

「その人の名前は相羽真人…菜々子のお兄さんでお姉ちゃんの恋人だった人です。」

「瞬兵、まさかと思ったが…」

「洋、僕も同じ答えだよ。」

「答えは見つかったかい?」

「光龍さん、復活した相手は絶望の化身セルツ・バッハ…菜々子のお兄さんはアイツに囚われているが答えですね?」

「ピンポン、正解。」

 

 

光龍はクラッカーがあったら鳴らそうか?と冗談めいていたが、場の空気でそれは取り止めた。

 

 

「ハスミに感謝しなよ、僅かな情報でそこまで調べ上げてくれたんだからね。」

「光龍、その法則が正しければ負念を糧にする他の存在が復活をし始める可能性があるのだな?」

「そう言う事、今後も注意した方が良いよ。」

 

 

更なる情報を告げた後、光龍は艦長らと今後の話し合いがある為、室内を去った。

 

新たなる戦い兆しと負念の残滓。

 

戦いは激化する事を物語っていた。

 

 

=続=

 


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