幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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それぞれの戦い。

何を示し、何を示すのか?

語られる真実の絶望に抗え。

希望を絶やすな。


希の付箋

伊豆基地・奇襲事件から数日が経過。

 

迫るミッション・アイスブレイカーに向けてノードゥスのメンバーが再集結しつつあった。

 

だが、もう一つの戦いであるミッション・レコンキスタが未遂のまま終わりを告げた。

 

 

「では、インスペクターのメキボス・ボルクェーデ氏がウォルガの代表として特使派遣されたと?」

「その通りだよ、お陰でゲスト…ゾガルのテイニクェット・ゼゼーナンは捕獲され残りの三将軍も投降した。」

「でもって俺も記憶持ちって訳で今回の話に参加させて貰うぜ?」

 

 

伊豆基地の一角、普段使われないミーティングルームに集合した記憶所持者のメンバー。

 

その中でシャアらに説明する万丈とメキボスの姿があった。

 

 

「つまり、月での戦いは未遂のまま防がれたと言う事か。」

「若干の被害はあるが、それを帳消しにするモノを提供すると言う形で会談は進めている。」

「例のワープ装置の事かい?」

「それとウォルガは完全にお前らと手を組む事を決めた…ただし、冷却期間を過ぎた後の話だがな。」

 

 

冷却期間、元の流れではゲストが行った戦いの事もあり地球側の異星人への怒りが収まるまでの期間を指す。

 

被害は少ないものの亡くなった者は出ている。

 

それに伴い、今回も短いながらも冷却期間が設けられた。

 

同時にメサイヤとレクイエムによるナチュラルとコーディネーターの泥沼戦乱も収拾された。

 

ブルーコスモス代表のロード・ジブリ―ルは前当主ムルタ・アズラエル氏殺害未遂による殺人教唆の罪で捕縛。

 

同時にプラント議長のギルバート・デュランダルはとある内部クーデターによる負傷で捕獲された事により第二次戦乱は終息の一途を辿った。

 

 

「ギアナ高地のメンバーはあのケイロン・ケシェットと交戦したと?」

「ああ、奴は思った以上の兵だ。」

「STXチームに在籍し鋼龍戦隊と共に修羅の乱でソーディアン攻略作戦に参加した…だったな?」

「そのケイロン・ケシェットの全貌は判らず仕舞いの上に所属企業が提示した公式の記録もほとんどが偽造だったらしい。」

「銀河も抜け目がなかったね。」

「ああ、ただでやられる訳には行かねえし……レオ達を駆使してアイツの姿を撮影してきたぜ。」

「彼の画像に映像記録が不明な分、それはありがたい。」

 

 

修羅の乱当時からケイロン・ケシェットは艦内に取り付けられた監視カメラの映像を避けて行動していた。

 

その為、彼の姿を直視出来た者は共に行動していた鋼龍戦隊位なものだった。

 

言葉での説明ではどんな人物なのかハッキリとしない為にノードゥス離反後に隙あらば映像を取る事を仲間内で決めていたとの事。

 

銀河はミーティングルームに備えられたモニターにギアコマンダーを繋げて、例の映像を映した。

 

 

「…この男は!?」

「やはり、クロノの本隊がこの世界に転移してきたのはこの為だったのか…!」

 

 

アムロやシャアなどZ事変で活動してきた記憶所持者達は映像を見て告げた。

 

そしてシンは悲しい表情のまま静かに答えた。

 

 

「…やっぱりそうなんですね。」

「シン、如何言う事だ?」

「実は俺…修羅の乱当時、ミネルバで行動中に奴に遭遇していました。」

「何だと?」

「最初は他人の空似と思いました、だけど…皆の反応を見る限り本人で間違いないと確信しました。」

「シン…」

「万丈さん、ケイロン・ケシェットはアイツは…」

「シン、君の言う通り…彼はサイデリアルの長・アウストラリスにして次元の将ヴィルダーク、立ち向かう射手のスフィアリアクターだ。」

 

 

そしてハスミ・クジョウが愛してしまった人物と万丈は静かに告げた。

 

 

******

 

 

僅かな情報で彼を知られた。

 

そして悪い方向へと流れていく。

 

私は決起の時が近い事を悟った。

 

 

「…」

「如何した?」

 

 

私の表情に何かを悟った様だったが、あえて私からの返答を待っていたヴィル。

 

私は静かに告げた。

 

 

「ヴィル…遂に彼らは真実に辿り着きました。」

「そうか、予定よりも早いな。」

「はい、彼らも成長し続ける……井の中の蛙大海知らずの者達とは違いますから。」

「前世の俺を打ち倒した者達だ。そうでなくてはな?」

「今後は如何なされますか?」

「既にクロノの本隊が潜入している以上、俺も傀儡の立場に戻る時が来たようだ。」

「…修羅の道ですね。」

「偽りとは言え、友を裏切る立場となるお前の悲しみに比べればな。」

「覚悟の上です、彼らには裏切った友すらも退ける覚悟を付けて貰わなければなりません。」

「ならば、判っているな?」

「既にホルトゥスの全権も全てお父さん達に預けてあります、これで私自身が携えるのはアシュラヤー・ガンエデンとその直属の配下のみです。」

「それでいい、偽りの身分になるとは言え…過剰な戦力を奴らに与える必要はない。」

「ヴィル、ノードゥスに対する決起の時はどうなされます?」

「此度の戦いが全て終えた時、告げる。」

「…彼らに取っては一難去ってまた一難、修羅場の連続ですね。」

「そうでなければ、お前の言う火事場の馬鹿力など引き出す事は出来まい。」

 

 

偽りとは言え、彼らの敵となる事。

 

覚悟していたのにどうしても揺らいでしまう。

 

隠す事と護る為に裏切りに裏切りを重ねる。

 

このスフィアを持つ私の宿命と言える道筋。

 

それでも彼らに真化に繋がる兆しに導く為にも誰かがやらなければならない伏線。

 

私はそれを受け入れる、どちらにも手を伸ばし助けると誓った自分の意思に賭けて。

 

 

「ハスミ。」

「ヴィル?」

「正体を晒す以上は手加減は出来んぞ?」

「はい…それに彼らが早々に退場する事はないでしょう。」

 

 

この程度で潰れるのなら其処までの存在だっただけです。

 

 

「信じているのだな?」

「前世の私の中では彼らは英雄でしたから…」

「では、今世では?」

「…見極めなければならない存在。」

「見極める?」

「彼らがアドヴェントの誘惑に打ち勝つ事が出来るのか?をです。」

「…」

「もしも誘惑に負けるのであれば私はガンエデンとしてけじめをつけるだけです。」

 

 

上辺だけの言葉、彼なら気づいてしまうだろう。

 

私が仲間を失う事を恐れていると…

 

ましてや、今世で共に育った幼馴染までもいる状態だ。

 

私はそれだけ告げると広間を後にした。

 

 

「…」

「全く、強気な所は母親そっくりだけど…本当に無理してるよ。」

「光龍殿?」

「気配を消したまま話を盗み聞ぎするつもりはなかったけど、そうもいかないだろう?」

 

 

ハスミが去った後、広間の柱の陰から現れた光龍。

 

先ほどの娘の様子をさりげなく告げた。

 

 

「あの子に道化役は酷だ。」

「…」

「それでも君に付き従うと覚悟を決めたんだ、あの子の意思を無駄にしない様に。」

「理解している。」

「じゃ、決起の時を待っているよ…サイデリアル当主・アウストラリス皇帝陛下殿?」

 

 

ひらひらと片手を振って広間を去る光龍。

 

ケイロンことヴィルダークは己の拳を握り占めていた。

 

 

「無論、無駄にはせん……ガドライト、尸空、エルーナルーナ、バルビエル、そしてハスミの想いをな。」

 

 

静寂に包まれた広間で彼の言葉が静かに響いた。

 

 

>>>>>

 

 

私はとある疑念を晴らす為に天鳥船島に停泊しているゴーカイガレオンの元へ向かった。

 

杞憂ならそれでいい、でも確かめないといけない事だから…

 

 

 

「巨大サークル型のプレシャスの全容?」

「ええ、差し支えなければ見せて貰いたいのですが…」

「マーベラス、別に構わないよね?」

「減るもんじゃねえし、いいだろ。」

 

 

ゴーカイジャーのクルーの一人であるドン・ドッゴイヤーことハカセとキャプテン・マーベラスの了承を得て、ハスミは例のプレシャスの全容を閲覧する事に。

 

 

「えっと…あった、これこれ。」

「!?」

 

 

ハカセがゴーカイガレオン内のコンソールからモニターに写した映像を見るハスミ。

 

それは緊急を要する代物だった。

 

 

「これは…クロスゲート!」

「えっ?」

 

 

ハスミの発言に対しマーベラスの目付きが変わり、ダイニングでティータイムをしていたアイム・ド・ファミーユと隣のソファーでポーカーをしていたルカ・ミルフィ、ジョー・ギブケン、伊狩凱が反応する。

 

 

「クロスゲート?」

「何だそれは?」

「この世界に置いては通常空間や並行世界同士を繋ぐゲートです、起動には大規模のエネルギー源と生体キーであるサイコドライバーが必要ですけどね。」

「では、旅路の扉と言う事ですか?」

「その解釈でも合っています。」

「所でさ、それがどうして私達の居た世界にあった訳?」

「可能性として先史文明期の折に製造されたクロスゲートの一つがそちらの世界に流れ着いたとしか…」

「それが俺達の世界の地球に流れ着いて長い年月が経った頃に発見されたって事ですか?」

「経緯や状況を照らし合わせるとそうなります。」

「偶然にしても出来すぎている。」

「だよね……って事はあの時に扉が動いたのって!?」

「あの場所にそのサイコドライバーが居たって事だ。」

「…若しくはそれと同等の力を持った何かですね、マーベラス船長。」

「しっかし、古代人達も何で厄介なモノを残しやがるんだ。」

「あくまで推測ですが、先史文明期頃にこちら側の世界とそちら側の世界と何かの交流があったのかもしれません。」

 

 

そしてこの巨大サークル型プレシャスことクロスゲートを強奪したのが…

 

 

「そしてバルマーの残党がそちら側の世界に潜入していたようですね。」

「…どう言う事だ?」

「記録映像に写された機動兵器、あれはバルマーの使用していた兵器の一つです。」

 

 

プレシャス周辺で起こった戦闘記録の映像の中にメギロード、ゼカリア、そして…黒いジュデッカ。

 

 

「指揮を行ったのはユーゼス・ゴッツォ、恐らくクロスゲート・パラダイム・システムの起動実験とそれに必要なゲートの捜索を行っていた様子ですね。」

 

 

黒いジュデッカを使用していた所を見るとL5戦役から始めていた。

 

そして今回の様に横槍のせいで必要なピースが揃わなかった場合の保険を兼ねているだろう。

 

ナシム・ガンエデンの所持するクロスゲート、アシュラヤー・ガンエデンの所持するクロスゲート、アゾエーブにトロニウムエンジンやウラヌスシステム等、数えたらキリがない。

 

恐らくアダマトロンの顕現は阻止出来ない。

 

ペルフェクティオのファトゥームを相手にするだけでも厄介だと言うのに。

 

 

「今回の戦い…一筋縄ではいかないと思っていましたが相当な修羅場です。」

「てぇ事はドンパチやるって事だろ?」

「海藤、ノック位しろ。」

「わりぃな、何か面白そうな話してっからよ。」

 

 

ガレオン内に入って来た海藤剣と真上遼の二名。

 

二人の来訪にマーベラスは眉を顰めるが無言のままで通した。

 

 

「…海藤特務中尉、真上特務中尉。」

「当主、この戦い…総力戦となると見るが?」

「はい、ノードゥスや戦線に参加する予定の戦力だけでは荷が重いでしょう。」

 

 

また、手の内を晒す事になるか…

 

いや…既に晒したようなモノ。

 

あの人はどう出るかが一番の問題。

 

記憶を持つ彼らは今まで隠し通した秘密へ辿り着いた。

 

その壁は脆く繊細で堅牢だったが、私の行動で安易に崩れ去った。

 

私もまた隠し通した次元の力を使う時が来た様だ。

 

 

「強制はしません、この戦いに参加を希望するメンバーのみで南極の作戦…ミッション・アイスブレイカーに乱入します。」

 

 

それでもいい。

 

私はたった一人の…心から愛した人の為に尽くす事を選んだ愚かな女だ。

 

それを受け入れる。

 

 

=続=

 


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