だからこそ布石を創る。
いずれ貴方達の障害として立ちはだかる事となるから。
私が女である故に。
前回、アムロとシャアに自身と同様に復讐を遂げる者達と告げたハスミ。
それは奪われたモノを取り戻す為に集った同盟。
ホルトゥスとは居場所を失ったモノ達を保護する為の庭園。
いつの日か再起の時を迎えさせる為に動いているのだと語った。
*******
「復讐か…。」
「復讐と言うよりも奪われたモノを取り戻す…が正論ですね。」
「…改めて聞くが君の進む道は修羅の道だな。」
修羅の道。
確かにそうだ、護る為に共に歩む道から外れたのだ。
その道は常に平行線であるが、時折…別れ道と言う分岐点が出来る。
私はその道に逸れただけの事。
「ハスミ、君はそれでいいのか?」
「如何言った意味で…でしょうか?」
「このまま君が共闘を拒めば連合政府は君達を政府混乱を目論む敵対組織として認識する。」
「でしょうね、あの世界のソレスタルビーイングの様に…」
「だが、君が忠告した様にクロノの介入があったのであれば影の者として潜み続けるのも一つの手だろう。」
「本来ならエルザム少佐率いるクロガネ隊がその役目を負う事になる筈でした……その役目を今世で私達が引き継いだに過ぎません。」
本来のL5戦役後を期にエルザム少佐…いや、レーツェル・ファインシュメッカー率いる戦艦クロガネとイティイティ島に集った元DCのメンバーが鋼龍戦隊とレイカー司令の秘密裏の協力者として動いていた。
だが、今世ではその流れが無くなってしまった為に誰かがその役目を受け継ぐ必要があった。
軍にとってガンエデンの巫女でありアカシックレコードと言う禁忌に触れる事が出来る人間が一番野放しする事が出来ない。
だからこそ私が囮の役目になる流れを生み出した。
イルイに関してはまだガンエデンの巫女としての目覚めとアカシックレコードへのアクセスが未発達である事もあり戦力としては不十分の流れを作った。
あの子を護る為とは言え、かなりの博打を打った。
それも焼け石に水…いずれ力に目覚めてしまう。
私は出来るのはあの子自身が自らの力と…どう向き合うのか時間を作ってあげる事。
同じ様な境遇を持つ地球防衛軍の彼らならあの子への良い刺激になるだろう。
「それもイルイを護る為なのか?」
「はい…出来る事ならあの子には普通の女の子として生活させてあげたいと思っています。」
「イルイ…今世ではイルイ・エデンと言う孤児として存在している事はギリアム少佐から連絡を受けている。」
「公式の記録ではイルイを残してご両親は事故で死亡したとあるが…」
「あの子の実の両親の命を奪ったのはクロノです、奴らはガンエデンに関りを持つ家系を根絶やしにする様子でした。」
「そして君の母親を手にかけたのも…」
「その件はキョウスケ中尉達から伺っていると思います。」
もっと行動が早ければあの子の両親を失わせる事なんてなかった。
五年前のあの日、力の封印と無限力の介入がなければ…
母さんの時もそうだった。
何処まで私は…肝心な時に無力なのだろう。
「ハスミ、もう一度考え直せないか?」
「…アムロ大尉。」
「君の立場は重々承知している、強い力を持った者が表舞台に出る事が如何言う意味を持つのかも…」
「かつてニュータイプとして連邦軍上層部へ進もうとした記憶を持つ人の言葉の重みは…違いますね。」
「俺の中では黒歴史だよ、君はどうする?」
「今は何とも…アルテウルいえユーゼスがイルイを狙ってきている以上は影で動ける存在は必要でしょう。」
「返答は遠回しと言う事か?」
「そうなります、バアルの一部であるペルフェクティオの件もありますし…あのゲートを封印する時に発生する犠牲を出さない為にも。」
ルイーナの根源であるペルフェクティオとの決戦。
その際、奴を封印する為に犠牲が伴った。
Dの物語ではトレーズ・クシュリナーダの犠牲。
OGの物語ではクリスとウェントスの犠牲。
前者は門を破壊する為に特攻、後者はその精神…魂を犠牲に門を閉じた。
そうならない為にも私は全力で結末を変える。
「私が答えられるのはここまでです。」
「行くのか?」
「はい、エア・クリスマスの陥落とガイアセイバーズの反乱は今回の一件で終息へと向かいますが…」
「まだあるのか?」
「ユーゼスとアーマラは取り逃がす事になります。」
「張本人そのものを逃がす事になるとは…」
「恐らくはグランドクリスマスでの決戦が無くなった事により戦うべき舞台で雌雄を決する事になります。」
「その舞台とは?」
「南極、その時…集うべき者達と共に戦う事になります。」
「あの時と同じか。」
ハスミは端末を取り出して通信先に指示を出す。
「ハーロック船長、ゴーカイジャーの皆さん、地獄の化身様、遠慮は要りません…襲撃中のガイアセイバーズを叩き潰してください!」
「「!?」」
最後にハスミはそれだけ語ると二人を残してテレポートで転移した。
>>>>>>
その頃、伊豆基地・演習場付近では…
「聞いたか?」
「ああ、当主の解禁命令か。」
「なら、俺達も本気を出すか…」
ガイアセイバーズの実働部隊を基地外へ引きずり出した八人の姿。
その内の六人は赤、青、黄、緑、桃、銀とカラフルなプロテクターを纏い、残りの二人は軍服あり戦闘服の様な衣装を纏っていた。
其処へ現れた赤いガレオン風の移動戦艦とドリル戦闘機、爆音と共に現れた大型バイクを使役する髑髏の魔人。
それぞれが乗り込み、戦闘形態へと変貌する。
「「「「「完成、ゴーカイオー!!」」」」」
「豪獣神!!」
「髑髏の魔人皇帝様のお通りだ!派手にぶちかますせ!!」
「ああ!!」
そしてもう一隻の宇宙船が現れる。
それは髑髏の旗を靡かせた深緑の戦艦。
「アルカディア号、艦砲射撃で味方に援護をしつつ敵戦艦に艦対戦用意!」
髑髏を掲げた赤い海賊、髑髏の王冠を携えた魔人皇帝、髑髏の旗を靡かせる戦艦。
「まさに髑髏づくしってね…さて、ガイアセイバーズにはここでリタイアして貰いましょうか?」
基地の外へ転移したハスミはエクリプスを呼び出すと出撃してきたアーマラのガリルナガンと対峙した。
「ようやく見つけたぞ、ハスミ・クジョウ。」
「アーマラ・バートンか…相変わらず口が悪い。」
「ふん、まあいい…このまま貴様を捕らえてアルテウル様の元へ差し出すまでだ。」
「典型的な三下のセリフとは芸がない。」
「貴様…っ!」
「今の私は機嫌が悪い、そう簡単に撤退できると思わない事ね?」
ハスミはアーマラに対し挑発めいた言葉を告げた後、戦闘へと移行した。
基地内へ潜入したガイアセイバーズも基地内の戦闘部隊によって掃討され、撤退を余儀なくされた。
同時に演習場で闘うホルトゥスに属する髑髏を掲げる者達によって鎮圧されつつあった。
エア・クリスマスは陥落、外部の戦闘部隊も鎮圧。
その後始末を伊豆基地に任せる形で撤退を始めたホルトゥス。
最後に転移するハスミは伊豆基地へ言葉を贈った。
「…やるべき事はしました、次に会う時は南の果てでお待ちしています。」
今回の戦闘でガイアセイバーズは事実上の壊滅。
事後整理で部隊内で家族を人質に取られていた者と利害一致で協力していた者に分けられた。
扱いは同じであるが、情状酌量があれば復隊、無ければ軍事裁判にかけられる事となった。
闘うべき戦いが迫ってきている以上は誰であれ必要な戦力である。
しかし、ガイアセイバーズの首魁アルテウル・シュタインベックとアーマラ・バートンの両名は行方不明のままであった。
******
伊豆基地奇襲から翌日の夜、天鳥船島では…
それぞれが任務を終えて帰還。
二つの作戦と南極の決戦に向けて準備が進められていた。
玉座の間では会合が行われていた。。
「お父さん、ケイロン、ギアナ高地での件…ありがとうございました。」
「相手を揺さ振るのは僕らが適任、ほとんどは彼がやっちゃったけどね。」
「…」
「ケイロン、貴方から見て彼らはどうでしたか?」
「俺の想像以上に未知の可能性を秘めている。」
「未知の可能性?」
「真に覚醒したあ奴らと相まみえるのが楽しみだ。」
「…止めはしませんよ。(あー地球がタダじゃ済まなそうな某野菜人なバトルを繰り広げそう。」
内心、『駄目だ、この人…早くとかしないと。』的な名言がハスミの脳裏に浮かんだが慣れのスルーで放置。
その会話を横で静観していたカーウァイとテンペストも話に加わってきた。
「これで当初の目的を達成したのは良い事だろう。」
「はい。」
「ハスミ、これからどう動く?」
「揺さぶりは掛けました、後は覚醒するのを戦いの中で見守るだけです。」
真化の力は特別な縁を持つ者以外はスフィアリアクターと共に戦う事で自然に覚醒する。
Z-BLUEに在籍した者達の多くが目覚めに引きずられたのはその為だ。
だが、空白事件の折に共に戦っていたセツコ・オハラは現在次元振動によって飛ばされてしまっていた。
ランド・トラビスも属する世界に一度は戻ったが、同じ様に飛ばされてしまっている。
天秤と黒羊と水瓶が争う破界と再世の世界に…
私も立場上、彼らへ早期覚醒を促す事は難しいだろう。
本当に…歯痒い。
「ハスミ、考え事の最中で悪いが宇宙の方で動きがあった。」
「こちらでも確認しました、ゲストがインスペクターのあの人達に抑えられたみたいですね。」
「ああ、同時にメサイア攻略で宇宙に上がっていたメンバーによって収拾しつつある。」
「ゴライクンルの艦隊もシュウ博士らに抑えられた様ですし、残りはルイーナとエルデ・ミッテ、ユーゼスら残党だけですね。」
「テンペスト、地上の方はどうなっている?」
「αナンバーズによってミケーネの侵攻、オルファンの浮上はしたものの沈黙、トーチカでの戦いも収拾、例のメリオルエッセの二人組もノードゥスのメンバーに引き取られました。」
「起こるべき戦いはそれぞれの戦いで終息したって訳だね。」
「光龍、フューリーはどうなった?」
「ちょっとばかり怪しい連中は居たけど、あの皇女殿下もやり手の様でね…被害なく政府と同盟を結んでいたよ。」
「ハスミ、伊豆基地の件は?」
「ほんの少しですが…こちらの手の内を見せました、ですが…今の彼らではどうにもならないでしょう。」
「また隔たりを創ったんじゃないの?」
「かもしれませんが、私達が完全な味方ではない事を知らしめる為にも致し方ありませんよ。」
「やはり、伊豆基地にもクロノの手の者が?」
「はい、しかし…ガイアセイバーズの実働部隊による奇襲で潜入者達は死亡しました。」
「お気の毒に。」
「既に毒された人達です、助けようがありませんでした。」
クロノの手の者の多くはテンシによってその精神を無理やり歪ませられていた。
救ったとしても精神崩壊の末に廃人と化してしまう。
あの時、ヒビキがエージェント・ホワイトを救えたのはスフィアの根源である…いがみ合う双子だからこそ起こせた奇跡なのだろう。
私は神じゃない、ガンエデンの巫女でスフィアリアクターであったとしても限界がある。
だが、不完全だからこそ真化に至れるのだ。
「次の作戦は長期戦が予想されます、各自十分な休息を取ってください。」
「例の南極の件だね。」
「はい、そこでこの戦いの決戦が行われます。」
「イルイがノードゥスに居る以上は奴らも手出しは出来ないか…」
「だろうね、ナシム・ガンエデンの目覚めに必要な条件をあの子は満たしていないし老師の守りも堅いからお墨付きさ。」
「…」
このまま無事に終わればいい。
それでもどこかで引っかかるキーワードがチラチラと思い出される。
ゴーカイジャー達の世界を襲撃した存在、謎の巨大サークル型のプレシャス。
只の思い過ごしだといいのだけど…
「ハスミ。」
「ヴィル?」
カーウァイら三人が部屋を後にした後、残されたケイロンとハスミ。
ハスミは再び考え事の中でケイロンに呼びかけられた。
「気になる事であったのか?」
「いえ、ただ…貴方との約束を思い出していただけです。」
「そうか…。」
「あの日、私は貴方と約束しました。」
この世界で誰か一人でも真化の力に目覚め…完全覚醒する事が出来たのであればサイデリアルはこの世界への侵攻を止める。
それが出来なければ私が身代わりとして貴方の片腕となってサイデリアルと共に戦う。
それが貴方との約束であり違える事が出来ない約束。
これは私が望んだ自分自身に対する呪詛。
「それでもこの呪詛は祝福であると思えてしまう。」
私は貴方の敵になる事を拒んでいたから…
「私は誰かを愛する事が末恐ろしいと改めて実感しました。」
「ハスミ…。」
「私は何処までも最低な女ですよ。」
私は彼らの敵として立ちはだかる存在を愛してしまった。
それは過ちなのだろうか?
誰かを愛する事に理由は要らないと言うが…
見方を変えれば、脅威である事は間違いない。
物語を書く事をしていた身としては時折考えてしまう。
『物語の主人公が倒さなければならない強敵と結ばれるのはいけない事なのか?』
と…呪いの言葉の様に私の脳裏へ過った。
=続=
繋がる筈のなかった勢力。
それらが手を繋ぎ逢おうとしていた。
次回、幻影のエトランゼ・第七十三話 『同盟《アライアンス》』
可能性を否定するな。
それは在り得たかもしれない同盟。