幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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天の海をうねり泳ぐ。

新たな決意と想いを胸に。

彼は再び道化となる。

それは英雄達を奮い立たせる為の行為。


第六十八話 『天翔《アマカケル》』

地上でいくつかの戦闘が終わった頃の宇宙での出来事である。

 

地球と宇宙を隔てる結界によって今も交信途絶が続いていた。

 

しかし、地球と隔離されても生きる術を持つ宇宙の民達には大きな支障は出ていなかった。

 

L5戦役以前から進められていた月・コロニー群に対する完全ライフラインの確立政策が事を成していた。

 

しかし、逆に言えば一つのコロニーを制圧すれば立派な軍事拠点にされてしまうリスクも生じていたが…

 

それに対する駐留部隊の配備も進められていたので大きなテロ行為はなかった。

 

ちなみにUNでも『蒼い睡蓮』の睨みも利かせていたもあると事静かに囁かれている。

 

情勢が変わりつつも宇宙は日々迫る脅威に晒されながらも同盟関係を結び対応していた。

 

 

******

 

 

地球近海にて隔絶させた障壁によって現在も宇宙側から地球の惑星を見渡す事が出来ていない。

 

その暗黒の海を漂う様に蒼い応龍が様子を伺っていた。

 

そしてその操者たる孫光龍は無音の宇宙空間で独り言を始めた。

 

 

「連中の訳でアートルム・エクステリオルだったっけ…実に厄介だね。」

 

 

ハスミの話によれば長き戦乱の退廃で果て無き戦いが続く世界の地球を覆った結界。

 

それは人々から太陽を奪い、人々の恐怖や不安を煽るには十分な現象。

 

逆にアクシズ落下中の地球を救った現象らしいけど…

 

ハスミの推測では連中が破滅の波動を集めるには隕石落とし程度では不十分だった為にあえて起こしたと言っていた。

 

おまけに僕がバラルに居た頃にしようとした『総人尸解計画』も連中にとって都合のいいものだった。

 

ハスミ曰く『貴方は地球を惑星型ゴキブリホイホイにする気ですか?』なんて揶揄がちょっと…って思ったけどね。

 

正直な話、あの子の言う通りだった。

 

もしも『総人尸解計画』を遂行していたら僕らの戦力だけじゃ連中に勝ち目はなかっただろうね。

 

内側から破滅に飲まれるか、外側から銀河ごと消失させられるか、スケールが大きいけど…袋の鼠とはよく言ったものだよ。

 

 

「本当、あの子には助けられてばっかりだよ……応龍皇もそう思わないかい?」

 

 

光龍の言葉に応龍皇も静かに唸った。

 

 

「さてと、僕らもお仕事を再開しようか。」

 

 

光龍の言葉に応じて応龍皇はその場から移動して行った。

 

静かな宇宙の海に見えたが、その一帯には機動兵器の残骸と思われる物体が浮遊していた。

 

その数は一艦隊分、所属はゲストと呼ばれるゾヴォーク…ゾガルからの新たな侵略者達だった。

 

 

>>>>>>

 

 

その頃、ヘルゲートと対成すヘブンゲートと呼ばれる軍事拠点にて。

 

南極より現れた集団、通称『ルイーナ』と呼ばれる集団がヘブンゲートを占拠し軍備増強を続けていた。

 

その様子からヘブンゲートの駐留部隊は撤退若しくは壊滅したと思われる。

 

ヘブンゲートの内部、居住区内の司令室では…

 

 

「例の紅の神と蒼の女神が動き始めたか…」

「おかげでこっちの活動が全く捗らねえ…一体、どうなってやがる?」

「破滅の王に捧げる絶望が僅かしか取れないのは奴らの介入のせいだろう。」

「?」

「奴らはかつて…我らの破滅の王の根源となる存在と戦っていた者達だ。」

「んで、その連中が俺達の現出を素早く察知しやがったって訳か?」

「恐らくはな、地上で活動しているアクイラやウンブラの部隊が撤退を余儀なくされた原因と見ている。」

「ちっ、ムカつくぜ…」

「今の所、お前の部隊とグラキエースの部隊が事を成せているだけでも奇跡だろう。」

「…予想以上に破滅の王の復活が遅れているけどな。」

「お前達は引き続き絶望の波動を集めるのに専念して貰う。」

「コンターギオ、お前はどうする?」

「私は引き続き軍備増強を務める、何時かは判らんが連中がこの拠点ごと破壊かもしれんからな。」

「判ったよ、俺はラキの部隊と合流する…あの出来損ないも連れてくがいいか?」

「構わんが、イグニス…例の計画を実行するまでは『欠陥品』を残して置け。」

「はいよ。」

 

 

緑色の肌と蛇の様な眼光を持ったコンターギオと紫の肌に赤い炎の様な髪のイグニスが話し合っていた。

 

内容はシンプルに例の存在達が自分達の行動に支障を促す妨害を仕掛けてくる。

 

任務を遂行した仲間もいるがそれは微々たるものであると…

 

思惑を話し合う中で彼らの予想は的中する事となる。

 

 

「ん、何があった!?」

 

 

アラート音に気付き、コンターギオは近くのモニターで業務をしているミーレスの一体に告げた。

 

 

「侵入者を発見、数は戦艦級の機体が一体です。」

「コンターギオ、お前の予想が当たっちまったみてえだな。」

「くっ!予想よりも奴等の行動が早いとは。」

「どうするよ?」

「仕方がない、増産した戦力を持って施設を放棄する。」

「んじゃ、さっさとずらかる準備でもしておけよ…それまでは俺が時間を稼いでやる。」

「頼んだぞ、イグニス。」

 

 

イグニスはコンターギオに告げるとその場から去って行った。

 

だが、彼の奮闘空しく一瞬の内に終わったのである。

 

 

「消し炭程度じゃ終わらせないよ、精々抗ってくれたまえ?」

 

 

ヘブンゲートに向けて一筋の閃光が煌めいたのである。

 

 

******

 

 

同時刻、ヘブンゲート宙域に向かうルート付近にて。

 

ある艦隊がゲストの侵略部隊の一つと鉢合わせし交戦していた。

 

 

「各機、ヘブンゲートを目指し占拠したルイーナを叩く…指揮官機は可能な限り鹵獲せよ!」

「ブライト大佐、連合軍月面基地より入電…予定された月面艦隊によるヘブンゲートのへ核攻撃は中止との事です。」

「どう言う事だ?」

「ミスマル提督が私達に猶予を与えてくださった様です。」

「…ルリ艦長、その猶予を有効に使わせて貰おう。」

「はい。」

 

 

隔絶宇宙でも現状に抗い戦い続ける者達がいた。

 

現在は地球連合軍・独立遊撃部隊ブルースウェアと名乗っている。

 

地球側ではαナンバーズの呼称が使用されているが、こちら側では幾多の並行世界の一つで破滅に抗った部隊の名が使用されている。

 

 

「くそっ、もうすぐヘブンゲートだってのに!」

「ぼやくなリュウセイ、俺達も同じ気持ちだ。」

「ええ、ヘブンゲートを根城にしているルイーナの幹部を確保して次元断層の情報を得なければ…」

「皆、今も地球で闘っている。」

「…」

「イングラム、あの事を気にしているの?」

「その話は後だ……SRXチーム、ラーカイラムとナデシコCの部隊と連携し道を切り開くぞ!」

 

 

バラルとの遭遇後、数回の戦闘を終えた後に隔絶地球よりこちら側へ転移したSRXチーム。

 

運良く、ブルースウェアに救助され彼らと共に行動している。

 

SRXチームは地球側で起こった出来事を説明しガイアセイバーズの思惑で地球は混乱の一途を辿っていると伝えた。

 

そして行方不明だったSTXチームとホルトゥスの正体を知らせる事となった。

 

 

「…」

「リュウ、ハスミの事だけど…」

「アヤ?」

「もしも再会したら、どうするつもり?」

「今の状況じゃ…戻ってこいってのは無理がありすぎると思ってる。」

「クスハ達の事があるから?」

「それもあるけどよ、きっとアイツなら…ハスミならもっと良い考えがあると思うんだ。」

「信用しているのね。」

「幼馴染だからな。」

 

 

リュウセイはアヤとの会話を切り上げて一人物思いに耽った。

 

 

「…(とは、言ったものの。」

 

 

アヤ、悪いけどよ…

 

ハスミって味方の時はすっげー頼りになるんだけどさ。

 

敵に回すとその報復がえげつない位にヤバいんだよ。

 

本人には直接言えねえけど。

 

あの時の様子じゃあ相当怒りが限界値を通り越して暴走レベルまで行ってる。

 

流石に俺でも止められねえよ。

 

学生時代なんかDQN共があのお怒りに触れて急性胃潰瘍(胃に貫通レベル)に追い込まれてたもんな。

 

オマケにムーンクレイドルと月面都市を占拠する筈だったゲストの連中が仕掛けてこねえのも先手を打っただろうし。

 

やる事はやってるんだよな。

 

所でハスミさん、お仲間らしいんですけど…めっさカッコいい!!海賊戦艦と五体合体するガレオン船とお友達の様なので…

 

後で写真とか取らせて!マジで!!

 

 

「ライ、リュウセイが何か泣きながら拝んでいるみたいなんだけと…」

「いつもの事だ、気にするな。」

「マイ、いつもの事だから気にしちゃ駄目よ。」

「そうなのか?」

 

 

リュウセイの心境を他所にライ達は静かに放置と言う名の見守りをしていた。

 

しかし、そんなやり取りをしつつ迎撃準備を整えていたが…

 

ゲスト側の部隊に違和感がある為に戦闘開始の合図が一向に命令されなかった。

 

 

「艦長、あの様子ですと…」

「どうやら向こう側は手痛い反撃を受けた後の様だ。」

 

 

接触したゲストの部隊は既に半壊状態に追い込まれたものや辛うじて動ける程度の艦隊のみ。

 

その状況下にあるのか、こちらに見向きもしないままその場から撤退していった。

 

 

「彼らの進攻方向を逆算しました所、どうやらヘブンゲートから逃げ帰った様子です。」

「潜伏しているルイーナに反撃を喰らったと思うが…」

「恐らくは…答えはヘブンゲートにある様ですしこのまま進みましょう。」

「判った、各機…艦に帰還せよ。」

 

 

ラーカイラムとナデシコCは部隊を回収しヘブンゲートに向かった。

 

それから数時間後の事。

 

到着後にヘブンゲートは既に崩壊、潜伏中だったルイーナの姿が無くなっていたのである。

 

 

「これは一体?」

「遅かったね、諸君。」

 

 

崩壊したヘブンゲートとは真逆の位置に現れた青き応龍。

 

それに搭乗する人物をオモイカネを通じていち早く該当のデータから引き抜いて答えたルリ。

 

 

「貴方はSTXチームのアラン・ハリス中尉ですね。」

「ああ、それね…偽名だし改めて。」

「偽名だと?」

 

 

ルリの回答を翻しハリスは真名を告げた。

 

 

「僕の名は孫光龍、ホルトゥスのメンバーさ。」

「ついでに言うとあの人はハスミの実の親父さんだ。」

 

 

ハリスこと光龍の発言に続いて答えたリュウセイ。

 

 

「えっ!?」

「リュウ、どうしてそれを?」

「悪い、エルザム少佐から口止めされてたんだ。」

「兄さんから?」

「オーダーファイルに関係する人物って聞いた位で俺も詳しい事は聞いていないんだ。」

「ま、口止めもしたくなるよね……僕が先史文明期から生きている人間って冗談は。」

 

 

引き続き、光龍の爆弾発言によって二艦よりざわめきが生じる。

 

 

「ちょっと待てよ、てこたぁ古代人って事か!?」

「次の漫画のネタにしようかな?」

「古代人はここだいじん。」

 

 

ナデシコ三人娘の場を乱す発言から始まり。

 

 

「ギュネイ、あの人が古代人なら何で皺くちゃのおじいさんじゃないの?」

「俺にも解らない、多分昔の技術か何かだろうよ。」

「ふうん。」

 

 

ラーカイラム預かりでシャア大佐経由でネオ・ジオンから出向しているクェスとギュネイの会話。

 

 

「驚くのは無理もないよね、けど…君達だって該当する人物には会っているんじゃないのかい?」

「古代ムーの王女だった洸さんのお母様ですね。」

「ふうん、その様子だと王女様はご健在の様だね。」

 

 

話が脱線しつつあるので話を戻したアムロ。

 

 

「孫光龍、この惨状は貴方がやったのか?」

「そうだよ、奴らを放って置く訳にもいかなかったからね。」

「…地球が消えたのはお前達の仕業が?」

「それは不正解、実際にやったのは破滅の連中…ここで連中が戦力の増強をしていたから破壊しに来ただけだよ。」

 

 

光龍は『月から撃ち出す核兵器の無駄撃ちしなくてよかったね?』と付け加えた。

 

 

「俺達は地球を戻す手掛かりを失った、その件についてはどう責任を取るんだ?」

「それについては問題ないよ、そろそろ解決する頃だし。」

「何だと?」

「君達がノロノロとしている間にも僕らは地球いや銀河を守護する為の行動をしているのさ。」

 

 

嫌味を込めて光龍はアムロに返した。

 

 

「それと一言、言ってもいい?」

 

 

光龍は帽子の鍔で目元を隠すと口元をニヤリとさせながら告げた。

 

 

「君達ってさ、無能な上に役に立ってない…それにここに要る意味あるの?」

 

 

その言葉はその場に居た者達の逆鱗に触れる発言だった。

 

 

>>>>>>

 

 

同時刻、隔離地球側。

 

南極エリアに位置する宇宙空間にて。

 

 

「人間にここまで追い詰められるとは!」

「…」

 

 

ルイーナが率いた部隊は壊滅し残存するのは二機のメリオルエッセ機。

 

パイロットである禿頭に眼帯を付けたアクイラと紫の包帯で全身を覆うウンブラが取り乱していた。

 

そう、たった二機の機動兵器によって壊滅状態に追い込まれたのだ。

 

 

「セプテンブルム…」

「!」

「その現象に関して私達には無意味。」

「そう、何の策もないまま…貴様らの前に現れたと思ったか?」

 

 

機動兵器の片割れに搭乗するハスミは彼らに係わりのある言葉を語った。

 

同じく傍に追従していたケイロンもまた意味深な言葉を告げた。

 

 

「まさか…!」

「鍵が無くとも開ける事は出来る……あるべき姿に戻せばいい事。」

「ハスミ、準備は?」

「ケイロン、いつでもどうぞ。」

「…承知した。」

 

 

互いに了承後、ハスミとケイロンはスフィアの力を解放した。

 

 

「これは一体!?」

「…理解不能。」

 

 

二機から発せられる力にその場に居たメリオルエッセ達は困惑した。

 

その力の根源は破滅の力と真逆に近いもの。

 

もしくはそれ以上のナニカである事を理解している様で事実上は不明での発言。

 

 

「この力を合わせ、今…この牢獄の結界の要たる要因を打ち破ります。」

「…新たな戦乱を呼び込むものかもしれんな。」

「ですが、この解放は彼らへ再起の時を訪れさせる為の行使です。」

 

 

サードステージに至ったスフィアの力を解放し二機はアートルム・エクステリオルを破壊した。

 

結界は罅割れた様に薄膜が弾け飛ぶ様に四散。

 

地球は太陽と朝を宇宙は青き星を取り戻したのである。

 

 

「馬鹿な!?」

「アートルム・エクステリオルが…結界が壊れた。」

「人間にこの様な力があったとでも言うのか!」

「見たもの聞いたもの感じたもの…それが今の結果です。」

「これぞ人類の反旗の時…今度は貴様らが狩られる番と知れ!」

 

 

早すぎる結界の崩壊。

 

それは更なる脅威を呼び込むかもしれない。

 

だが、志を共にする仲間達が地球へ戻りつつある今。

 

再起と反旗の時を迎える。

 

 

=続=

 




星の海で攻防する者達。

彼らに想いは伝わらずとも何時かの未来の為に。

私達は戦うだけ…

次回、幻影のエトランゼ・第六十九話 『願星《ネガイボシ》』


崩壊した結界、それは新たな戦乱を呼び込む。

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