それは変異した証。
その遭遇は在るべき形なのだろうか。
それでも見過ごす訳にはいかない。
テスラライヒ研究所での事件の後、ただ一人…鋼龍戦隊から離脱し単独行動を続けているゼンガー。
現在も鋼龍戦隊が陥っている危機も知らぬまま、愛する者の仇討のみを胸に旅を続けていた。
そして時折ノードゥスのメンバーと再会する事があってもただ一人突き進む事を選んでいた。
だが、状況を打開する為にも彼の力は必要不可欠。
ホルトゥスはある報告を控えながら彼の行方を追っていた。
******
「…」
テスラライヒ研究所を襲った集団。
現時点で彼に正体は明かされていないが、その集団の正体は『バラル』。
彼らによる襲撃で一夜にしてテスラライヒ研究所は半壊状態。
その襲撃により研究所に在籍していた科学者の多くが行方不明…最悪の形では死亡となった。
現在も研究所は行方不明者の捜索と共に修復作業の真っ最中である。
彼はダイゼンガーのコックピットの中でひっそりと呟いた。
「ネート博士…」
もっと行動が早ければ、即座に現場に辿り着いていればとゼンガーは一つの呟きとその脳裏に後悔が過った。
その手から零れたものはもう取り戻す事が出来ないと解っていても…
彼は倒すべき相手を追い続けていた。
だが、彼の追撃生活が一変する出来事が起ころうとしていたのである。
「…無様な醜態だな。」
「!?」
移動中の荒野に現れた蒼い特機。
それは失った仲間の機体の一つであった。
忘れる筈もない独特の声と闘気を纏わせた存在。
「ケイロン・ケシェット…生きていたのか!?」
「この通りだ、あの状況に置いては五体満足とは言えん生還だったがな。」
「ならば、カーウァイ中佐らも?」
「存命とだけ伝えて置く。」
「…そうか。」
声の気配から仇討以外に意識が向いていないと悟ったケイロン。
ケイロンは彼女から戦う前に様子を見極めた上で『余りにも暴走しており更生の余地なしであればそこまでの人だっただけです。』と容赦無しでも構わないと告げられていた。
彼自身も仇討で腑抜けたゼンガーの様子にせめてもの情けと想って一戦交える事を決めた。
「話がそれだけならば、その先へ行かせて貰うぞ。」
「…ここは退かぬ。」
「どういう事だ?」
「言葉の通り、今の貴様は只の腑抜けた武人に過ぎん…そんな輩は進むだけ無駄だと言っている。」
「!?」
「俺と戦え…さすれば真の真相は視えてくるだろう。」
「戦え…だと?」
この発言に対しゼンガーは驚愕していた。
相手は民間の特機開発を目的とした一介の企業に所属するテストパイロット。
互いに特機乗りであり、相手に何らかの策が無ければ倒せない相手ではないと。
だが、それ以前にケイロンと言う男から滲み出る気配にゼンガーは戦慄していた。
戦いの中で忘れかけていた『恐怖』と言う言葉を思い出したのだ。
圧倒的な意思による闘気が彼らの周囲を包み込んでいった。
「…(この重圧は…一体!?」
「言って置くが、この程度の重圧…ハスミなら耐えきれたぞ?」
「…!」
「……少しは戦う気になったか?」
「例えどんな相手であろうとも…立ち向かうのみ!!」
「フ、腑抜けと言った事は訂正しよう……(だが、荒治療はさせて貰うぞ?」
ゼンガーが搭乗するダイゼンガーは斬艦刀を。
ケイロンが搭乗する蒼雷は己の拳を。
それぞれが構えた。
一迅の風が荒野に吹いた瞬間。
その初手は一瞬にして光速。
火花を散らしながら弾き合う刀と拳。
「…俺の攻撃を打ち返しているだと!?」
「己を見失った攻撃が俺に届くと思うな!!」
「!?」
ケイロンはダイゼンガーの斬艦刀による斬撃を躱し、時には蒼雷の拳と脚撃のみで斬艦刀の刃先を跳ね返していた。
一瞬の迷いが機体に多大なダメージを与える芸当だが、ケイロンはそれをやってのけたのだ。
ゼンガーの太刀筋を見極め、反撃のタイミングを見計らっての行動。
「…(地球に存在する体術の記述を見て置いて正解だった。」
ケイロンは傷を癒す間、ハスミより地球に存在する格闘術の情報を閲覧出来ないかと話をした事があった。
ハスミはその事を了承したが、手ごろなものだけで済ませる様にと告げられた。
全てを吸収するには時間が掛かり過ぎる点と合う合わないの相性もある為と語った。
ハスミは見せる条件として己の長所を引き延ばし短所を克服する方法での閲覧を薦めた。
これによりケイロンは決行の日まで有意義な時間を取る事が出来た。
「…(あの作品群はいいものだった…しかし、ハスミは何故落ち込んだ表情をしていたのだ?」
ケイロンは知らなかったがハスミは無限力の陰謀でケイロンに見せてはいけないハスミの前世で展開された格闘技の文献を見せてしまったのだ。
閲覧者側で言えば、某一撃パンチで敵を倒したり、星座をモチーフにした闘士とか、七つの龍の球を集める物語とか、秘孔で一撃ダウンなどの作品である。
当のハスミは『…(黄金のアフロ頭とかソーダ色のトコロテン人間が出てくる作品を見せなくてセーフだっただけでも奇跡よ。』と酷く落ち込んでいた。
だが、見たからと言って真似るのは誰にでも出来るが技術の真価を発揮する事は出来ない。
ケイロンは常にその技を技術を編み出した者に敬意を表しつつ己の技に組み込み磨き上げた。
この世界に訪れてから学んだ技術もその一つである。
「何度言わせれば判る?己の見失い…力に依存した戦いでは俺には勝てんぞ!」
何度も繰り返される剣戟。
だが、それすらものともせずに打ち返す拳。
迷いがある剣筋と迷いがない拳がその差を生み出していた。
「…(くっ、俺は!」
「私怨に飲まれ、友の危機に参じぬ貴様などにその刀は宝の持ち腐れの様だな…」
「危機だと?」
「今も鋼龍戦隊はガイアセイバーズによって大統領殺害の濡れ衣を着たまま逃走している。」
「!?」
「そして、銀河の彼方より現れし者達と南極から現れた軍勢によってこの星は新たな戦乱と恐怖に飲まれつつある。」
「…」
「貴様の刀は愛すべき者を護る事の前に…この星の明日を守護するものではないのか?」
蒼雷の一撃の拳がダイゼンガーの頭部に到達したものの衝撃は訪れなかった。
先の一撃が機体スレスレで止まっていたのだ。
「俺は…俺達は明日を目指す。」
ケイロンもまた己の心に秘めた想いを告げた。
嘗ての所業で繋ぎ合う事が出来なかった手を今世では手に取ると…
彼女は、ハスミはそれを教えてくれた。
それぞれの正義が重ね合う事が奇跡に近い事だと。
だが、行く先の思いは何時か繋がると信じていると。
彼女は願いの先を繋ぐ為に戦い続けていると。
その想いに答える為に誓ったと告げた。
「ケイロン、お前は愛しているのか…ハスミの事を。」
「だと、したら?」
「ハスミの宿命を知っていてもか…?」
「何が在ろうとも受け入れる。俺はハスミと誓った…共に進むとな?」
「そうか…」
真っ直ぐな想い。
どんな困難にも立ち向かう。
それは放たれた矢の如く突き進む様に。
それが奴の志。
「そろそろ構えろ、来るぞ!」
「!?」
ケイロンの咄嗟の言葉に反応したゼンガー。
現れたのは黒き迅雷。
荒野を駆け抜け、紅のマントを翻し、空中で一回転しながら荒野を一望出来る丘に降り立った。
「奴は…!」
「奪われたDGG三号機…ホルトゥスの情報からはそう伝え聞いている。」
「何だと!?」
「今はジンライと名乗っている自立型特機だ。」
ケイロンより機体の素性を知ったゼンガー。
「そして俺の機体…蒼雷の原型となった機体でもある。」
「どう言う事だ?」
「L5戦役の最中、人知れずDGG三号機は奪われた…これは残された半身から生み出された機体だ。」
「もしや、蒼雷の開発者は…!」
「ビアン・ゾルダーク博士、空白事件当時…秘密裏にこの機体は作り上げられた。」
「…」
「そして巡り巡って俺の手に渡っただけの事だ。」
「ケイロン、奴の目的は…」
「奴の目的…一人の科学者の私怨によるもの、兄弟たるDGGの破壊が奴に与えられた命令。」
「ならば!」
「生きて明日を目指すならば…奴の猛攻に抗え!!」
ダイゼンガーと蒼雷が態勢を整え直したのと同時に動き出すジンライ。
それは忍者を思わせる動き。
敵を翻弄し相手を仕留める。
「…(やはり奴の動きに追い着くには今の機体の状態では分があるか。」
ケイロンは先ほどの戦闘でやり過ぎたと痛感した。
ダイゼンガーの攻撃を全て打ち返したとは言え、機体にはそれ相応の負荷が掛かっていた。
パイロットによる機体のポテンシャルを超えた操縦は機体の寿命を縮める。
正に開発者本人から忠告された通りだった。
「こちらは二機とは言え、奴の動きを捉えるには…」
同じ様にゼンガーのダイゼンガーもまた負荷が生じていた。
永い追撃生活によってメンテが滞っていた為である。
その為、機体の関節部などに限界が来ていたのた。
だが、奇跡は起こった。
「その役目、私に任せて貰おう。」
粉塵を上げて戦闘エリアに入り込んだ一体の特機。
黒い外陰を纏ったDGG二号機・アウセンザイター。
「エルザム。」
「無事だったか我が友よ、そして…」
「再会を喜ぶのはまだ早い…今は。」
「…」
アウセンザイターの到着と同時にそれぞれの機体にジンライからのメッセージが入った。
意味はシンプルに『DGGの破壊』である。
「ゼンガー、機体の方は?」
「残念だが合わせるのは困難な状況だ。」
「やはり、全機撤退を…」
「その必要はない。」
「ケイロン、どう言う事だ?」
「奴の弱点は見抜いた、俺が隙を突く…合図と同時に狙え!」
二人の返答を待たずにケイロンは蒼雷と共にジンライに相対した。
勝負は一瞬。
隙を見せない構えをままケイロンはジンライの出方を伺った。
「…」
ジンライは高速で移動しお得意の突撃攻撃に移行した。
だが、それが命取りだった。
「…(思い出せ、あの構えを…刀の破壊を許された刀を使えぬ剣士の動きを!」
隙の無い動きと息を吐く様に一連された拳がジンライを打ち抜く。
「初手・始雷…続けて二手・旋雷から六手・昇雷!」
一撃目は重い拳、二撃目は回し拳を繋げつつ六撃目は拳でジンライを打ち上げた。
「今が勝機、繋げよ!」
「応!!」
「承知した!」
ダイゼンガーは飛燕の太刀、アウセンザイターはランツェ・カノーネの乱撃。
空中でジンライが落下を阻止されている間に蒼雷は天へと翔る。
そして奴を打ち抜くのは己の蹴り。
「…終手・滅雷!!」
雷撃を纏わせた脚撃がジンライを貫き、地面に直撃させた。
当たり所に寄るものかジンライはそのまま機能を停止し沈黙した。
「終わったのか?」
「恐らくは…後でクロガネに回収させよう。」
「…」
ジンライの機能が停止したのと同時に蒼雷のコックピットに備えられたモニターからアラートが鳴り響いた。
気が付いたケイロンはタッチパネルをスライドさせアラートを停止させるとある事を思い出した。
「む…(いかん、ハスミとの約束を忘れる所だった。」
ケイロンはハスミより『考えを改めたのであれば朗報の一つでも進呈してください。』と話し合った事を思い出していた。
ちなみに先のアラートはハスミから『理想の戦いになると熱中しすぎて周囲が見えなくなるのが貴方の悪い癖ですよ?』と注意喚起のアラートが鳴り響く様に事前に機体へセットされていたのである。
「ゼンガー、貴様に話して置く事がある。」
「?」
ケイロンはハスミとの約束通り、ゼンガーにとって喜ばしい朗報を告げた。
「…ソフィア・ネートは生きている。」
「なっ!?」
「我らホルトゥスがその身柄を保障しよう…貴様は成すべき事を成せ。」
ケイロンはその言葉を告げるとその場から撤退していった。
「博士が生きている…ならば、俺は?」
「ゼンガー…」
「エルザム、今更遅いかもしれんが…俺も鋼龍戦隊に合流しよう。」
「…その言葉を待っていた。」
ゼンガーは仇討と言う歩みを止め、成すべき事を思い出した上で鋼龍戦隊と合流する事をエルザムに伝えた。
だが、ゼンガーの中である燻りが残っていた。
「…(ケイロン・ケシェット…あの戦いは奴の本気ではない。」
ケイロン・ケシェットは自身と対峙した戦闘で本気を出していなかった。
その力の解放があれば、この場に居た全員が打ち倒されていたと…
それだけの実力を隠していた事に対し再び戦慄していた。
「…(もしも、奴が立ちはだかるのであれば今の鋼龍戦隊…いや、ノードゥスにも勝ち目はない。」
このゼンガーの推測が的中するのはもう少し先の事である。
=続=
応龍は天を翔る。
禍を齎すモノには天雷の音が響く。
次回、幻影のエトランゼ・第六十八話 『天翔《アマカケル》』
願うのは新たな可能性。
そして彼らの闘志を奮い立たせるべく告げる。
その逆鱗に触れる悪戯の言葉を。
=追記=
今回のゼンガーとケイロンのレベルの差(最大LV:200と仮定した場合)
ゼンガー、LV:30 → 暴走状態、気力170に固定、毎ターン時に必中、熱血、鉄壁が発動。
ケイロン、LV:100 → 真の姿封印、スフィア使用禁止のハンデあり。