可能性が導いた奇跡。
諸刃の剣であろうとも。
私は護る為に行使しよう。
前回の出来事から数日後。
南欧、マオ社・オルレアン工場にて。
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修羅の乱より鋼龍戦隊に先行配備されたエクスバインシリーズ。
現在も続く逃亡生活によりエクスバインシリーズに必要な修復用部品の不足に陥った。
イティイティ島の基地でも外装修復は可能だが、肝心の内部部品のみはマオ社に保管されていた。
だが、偶然にもマオ社・上層部の指示でフランス支社へ部品が移送されていた。
その連絡を受けた鋼龍戦隊は急遽南欧へ向かう事となったのである。
しかし、オルレアン工場は既に敵の襲撃を受けている最中にあった。
本来ならばオーバーホール中だったヒュッケバインシリーズの鹵獲が奴らの目的だったが…
今回はその流れが変異したのである。
「メディウス・ロクスが…もう一体!?」
「そんな…情報では奪取されたのは一機の筈よ!」
「なら、向こう側のメディウス・ロクスは一体…」
「判らないわ、お尋ね者になっている私達には調べようがないもの。」
襲撃されたオルレアン工場に到着した鋼龍戦隊。
しかし敵の襲撃は既に彼らによって阻まれていた。
そう、何者かによって奪取された筈のメディウス・ロクスともう一体のメディウス・ロクスが対峙していたのである。
そして対峙していたメディウス・ロクスの傍らには僚機として黄銅色の量産型ゲシュペンストMk-II改が待機していた。
「…(まさか…あれは隊長とフォリアなのか?」
「ヒューゴ、どうしたの?」
「いや、何でもない…それよりもアクア、どうする?」
「メディウス・ロクスの事?」
「ああ、どちらかがヒッカム基地から強奪された機体だと思うが…」
「ええ、記録では一機だけだったものね…もしかして両方共って考えてる?」
「それもあるが、ヒッカム基地のメディウス・ロクスの強奪は仕組まれたのかもしれない。」
「えっ!?」
ヒューゴの発言に対し驚きを隠せないアクア。
メディウス・ロクスの鹵獲或いは破壊の命令自体が元から仕組まれたものであれば二つの説が上げられる。
一つはパイロットの存命の有無なく戦闘記録を取る為のモルモット扱い。
一つは関係者内部で渦巻く何かしらの思惑に巻き込まれた。
と、言うものである。
「…」
「それ、どういう事よ!」
「詳しい話は後だ、まずは二機を抑えるぞ!」
「わ…解ったわ!」
理由も判明しないままアクアはヒューゴに促され戦闘に意識を戻した。
>>>>>>
同時刻、オルレアン工場に転移してきた黒い機体。
その機体のパイロットは静かに呟いた。
「どう言う事だ…?」
オルレアン工場に移送された筈の機体の姿が無かったのだ。
肝心の反応も何もかもが消え失せていた。
「…(まさか既にヒュッケバインシリーズが回収されたのか?」
パイロットは周囲の様子を探るが、鋼龍戦隊が到着したのはつい先ほどの事である。
考えられるのは、この基地で自軍と交戦を開始しているアンノウン部隊の仕業であると悟った。
パイロットこと彼女は口元を歪ませた後に答えた。
「役立たず共が…例の遺物どころかヒュッケバインシリーズもしてやられるとは!」
この覆された状況、その理由を知る者はこう答えるだろう。
『お前達の好きにはさせない。』と…
そしてこの戦場に新たな機影が現れた。
「あれは!?」
「アルブレード・カスタム…!?」
突如、オルレアン工場の敷地内に現れたアルブレード・カスタム。
現在、ロールアウトされているのは奪取された一号機と鋼龍戦隊に協力しているイングと言う少年が搭乗するアルブレード・カスタムの二号機のみ。
二号機を除いた場合、出現したのは一号機となる。
そして、一号機に搭乗しているのは…
「息災だな、カイ、ギリアム。」
「中佐、中佐なのですか!?」
「ああ、流石に五体満足とは言えんが無事だ。」
「…カーウァイ中佐、無事で何よりです。」
「ギリアム、その様子では既にハスミには会ったのか?」
「はい。」
「…」
「中佐、一体STXチームに何が起こったのです。」
「残念だが、それを話す事は出来ん。」
「!?」
「それに私はお前達と合流する為にここへ来たのではない。」
「では、一体…」
カーウァイは淡々とカイとギリアムに答えた。
だが、真実に至る回答ではなくごく僅かな情報程度である。
そしてその目的は…
「ガイアセイバーズのオメガセイバー…アーマラ・バートンだな?」
「そちらはSTXチームのカーウァイ・ラウ中佐…覚えているぞ?」
「ふ、仕留めそこなった相手の間違いではないのか?」
「っ!?」
「義娘の力の前では貴様の力など到底及ばなかっただけの事だ。」
黒い機体のパイロットであるアーマラ・バートンに対し告げるカーウァイ。
それはガイアセイバーズの陰謀で忙殺されかけた事を暴露する発言でもあった。
アーマラは再度表情を歪ませるがとある真実を確信する。
「納得が言ったぞ、あの方の予想通り…生きているのだな!アシュラヤーの巫女が!?」
「だったらどうするつもりだ?」
「貴様を捕らえて聞き出すだけの事だ、ガルイン・メハベル!!」
「出したな、貴様のボロを…!」
「!?」
「私をガルインと知るのは鋼龍戦隊とノードゥスのメンバーだけだ、そして逆を返せば貴様がバルマーの残党である事は明白。」
「くっ!」
「もう奪わせんぞ、義娘を!部下を!仲間を!そしてトロニウムもな!!」
「貴様、この私を敵に回した事を後悔させてやる!」
「僅か数年程度の戦闘経験しかないヒヨッコに負ける通りなどない!」
「言わせておけばっ…!!」
「…(何の策も無しに貴様を挑発したと思うなよ。」
挑発に挑発を重ね掛けたカーウァイの発言はアーマラの逆鱗に触れるには十分な威力だった。
相手はトロニウム・レヴと呼ばれる永久機関を備えた機体。
油断すれば待つのは死のみ。
だが、カーウァイの言う策が発動するのはもう少し時間を要した。
それまでの間、ガリルナガンとの戦闘を続けなければならなかった。
******
先の戦闘は別に対峙していたメディウス・ロクスともう一体のメディウス・ロクス。
前者は白いフレーム、後者は黒いフレームに量産型ゲシュペンストMk-II改がペアとなっている。
様子を伺っていたヒューゴは後者がアルベロ達であると察した。
だが、それは推測であり彼らが搭乗しているとは限らない。
その為、周囲の敵を倒しつつもう少し様子見をする事となった。
「…(ミタールめ、よくも質の悪いパイロットを寄越してくれたものね!」
白いフレームのメディウス・ロクスの操縦席で表情を歪ませた女性が搭乗していた。
彼女は複座式の後部座席でシステムの安定などの細かい作業に勤しんでいた。
彼女が言う様に前の座席で操縦を行っているパイロットは質が悪かった。
イスルギ重工経由で派遣された彼は規格が違うとは言えテストパイロットとしては優秀だった。
だが、テストパイロットはテストパイロット。
彼はこの様な状況に耐えきれるほど精神が図太い訳ではない。
想定外など想定内と言える修羅場に耐え切れないのだ。
急激な精神へのプレッシャーが彼の操縦を鈍らせていたのである。
「もう良いわ…貴方にはガッカリよ。」
彼女は拳銃を持ち出すと彼の後頭部を打ち抜いた。
史実を変えると誰かがその犠牲となる。
この流れは変えられない。
「さあ、AI1…レッスンの時間よ?」
彼女ことエルデ・ミッテは冷笑の表情でコンソールから指示を出した。
逆に白いメディウス・ロクスの動きが一度停止し様子が変異した事に気が付くアルベロ。
「…」
「親父、あっちの機体の様子が変だぜ?」
「フォリア、構えろ…来るぞ!」
「っ!?」
アルベロの言葉を察したフォリアも警戒に入った。
そう…AI1による蹂躙が始まったのである。
「…(まだ動きは荒いが成長するAIとは厄介だな。」
アルベロはメディウス・ロクスの奪取作戦に参加する前にブルーロータスより経緯を説明されていた。
メディウス・ロクスに搭載される予定のAI1と呼ばれる自立型AI。
それは地球防衛軍が認知する心を持った超AIとは違い、成長を続けるが純粋な戦闘型AIである事。
自分で考え成長する点は同じであるが、戦う為に作られたAIに心は搭載されない。
心は他者に慈悲を与えてしまう為である。
その感情こそ戦場では無意味と化す。
もしもそのAIに心を持つ事が出来るのであれば、救い出さなければならないと。
逆にそれが出来ないのであれば破壊して欲しいと告げられた。
「フォリア、一気にケリを着けるぞ!」
「了解だ、親父!」
黒いメディウス・ロクスと量産型ゲシュペンストMk-II改が連携し白いメディウス・ロクスを追い詰めていく。
これはパイロットが成熟していないAIとパイロットとしては役不足のエルデに代わった為である。
もしも先ほどのパイロットと協力していれば状況が変わったかもしれないが後の祭りである。
「…(やっぱりあの動きは!」
「ヒューゴ、どうするの。」
「アクア、黒い方の動きに見覚えがある。」
「えっ!?」
「黒い方は俺が元居た隊…アルベロ隊長の動きだ。」
「あの特殊作戦PT部隊クライ・ウルブズの…?」
「ああ、間違いない。」
「でも、どうして?」
「判らない、だが…その可能性がある。」
「もしかしてあのハスミ少尉の?」
「ああ、彼女はL5戦役で隊長やフォリアとも面識がある。」
「…救出された可能性は大いにあるって訳ね。」
「だとするとこの基地に現れた理由は…」
ヒューゴの推測が纏まる前にもう一つの戦いが圧倒的な脅威によって終わりを告げていた。
>>>>>>
「何故だ?」
私は完璧な勝利をあの方に?
なのに?どうして?何故?何故勝てない?
只の地球人に?
何が起こった?
奴は念者ではない筈!?
「何の策もないまま貴様と交戦すると思ったか?」
「!?」
ガリルナガンは武器を破損し片腕の状態で飛行していた。
破損した部分からは火花が散っており、その一撃が凄まじいものであった事を物語っていた。
「私は生まれながらの念者ではないが…やり方次第では力を引き出す事は可能だ!」
「何だと!?」
アーマラはカーウァイの発言に驚きを隠せなかった。
アルブレード・カスタムのブレードトンファーを包み込む思念を見逃さなかった。
パイロットは念者でもなければT-LINKシステムを搭載している訳でもない。
だが、現実にアルブレード・カスタムの機体は念動者と同じ力を体現していた。
「くそッ!(このまま撤退するのは癪だが、この事をあの方に伝えなければ…!」
アーマラは怨嗟の表情を浮かべながら残存している部隊と共に撤退した。
その中に白いメディウス・ロクスも含まれていた。
「…うぐっ!?(時限式とは言え転装機は起動した。」
ガリルナガンを含めたガイアセイバーズの部隊が撤退したのを確認したカーウァイだったが…
気が抜けたとの同時に凄まじい脱力感に見舞われた。
転装機と呼ばれるモノを起動した反動から来るものである。
それがどんなものであるのかはまだ明かされる事は無い。
カーウァイは息を整えるとカイ達から再度の通信が入った。
「中佐、どうか我々の方へ合流して貰えませんでしょうか?」
「それは出来ない。」
「やはりハスミ少尉の事が切っ掛けですか?」
「それもあるが、今のお前達だけでは戦乱を止める事は出来んとだけ告げておこう。」
「役不足であると?」
「ああ、まずは散らばったノードゥスの仲間達を集める事だ…一同が集結したのであれば打開策はいくらでも思いつくだろう。」
「…判りました。」
鋼龍戦隊と合流しないと伝えると他のホルトゥスのメンバーと共にヒュッケバインシリーズを奪取し撤退した。
その戦闘後、オルレアン工場の執務室に電子メールが届いた。
それはヒュッケバインシリーズが狙われていた事ととある内部機関を奪われるのを防ぐ為であると弁解された内容だった。
その事は鋼龍戦隊にも告げられ、今回の戦闘でガイアセイバーズがバルマーの残党である事だけが発覚した。
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オルレアン工場の襲撃から数日後。
天鳥船島内部の通路にて。
「行かれますか?」
「ああ。」
格納庫へ向かうケイロンに声を掛けるハスミ。
「ケイロン、ゼンガー少佐の事…お願いします。」
「承知した。」
ハスミは言葉を交わした後、出撃するケイロンを見送った。
「黒き迅雷と武神装甲に穴馬…そして史実に存在しない蒼き閃雷の交わり。」
そう、誰にもこの流れは変えられない。
だからこそ立ち向かうのだ。
=続=
迫る黒き迅雷。
迎え撃つ武神装甲。
流れを変えるは蒼き閃雷。
次回、幻影のエトランゼ・第六十七話 『迅雷《ジンライ》』
怒りに身を任せるな。
己が立ち向かう先を見据えよ。