幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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狼達は吠える。

それは枷からの解放を望む声。

だが、呪われた身体はそれを許そうとはしない。

だからこそ牙を爪を研ぎ澄ませ。

反逆の時を待つのだ。


第六十五話 『狼牙《オオカミノキバ》』

グライエン大統領の殺害によって未だ揺れ動く連合政府。

 

大統領殺害を期にガイアセイバーズはアルテウルによって彼の私兵と化し暴虐の限りを尽くしている。

 

それを逆手に取って行動を開始している木星帝国とデュランダル派のザフト。

 

ザフトは旧連邦軍が行ったとされる人体改造の施設に関しての政治カードを出していた為、連合政府は世論からの非難を受けている。

 

これに関してはL5戦役以前に問題視され旧連邦軍の穏健派による内部告発で明るみになっている。

 

そして、被害者の救助に出来得る限りの治療と社会復帰支援が施行されてもいる。

 

要はザフトが世論を味方に付ける為に解決した昔の出来事を蒸し返した訳である。

 

現在もハロルド・メインジャー率いる穏健派がブルーコスモスよりの強硬派の暴走を止めているが焼け石に水状態が継続していた。

 

これもクロノの構成員の仕業であるが、国際警察機構とBF団が秘密裏に処理している。

 

αナンバーズは引き続き、満足な人員が確保出来ないまま各方面の紛争を止める行動を行っていた。

 

旧ノードゥスとして以前も鋼龍戦隊と行動を共にした事で嫌味のネタにされるのもしばしば見受けられていた。

 

だが、αナンバーズになったとしても彼らは鋼龍戦隊がそんな事を起こさないと信じている為、いつの日か汚名の晴れた鋼龍戦隊との合流を待ち望んていた。

 

そしてGGGはソール11遊星主によって引き起こされた宇宙収縮現象を停止させ、ホルトゥスの援助を受けつつ地球への帰還を進めていた。

 

だが、地球と宇宙を隔絶させた結界はまだ覆われたまま…

 

沈黙が続き、それぞれの睨み合いは依然と続いていた。

 

 

******

 

 

鋼龍戦隊が大統領殺害の汚名を着せられる前の事。

 

ハワイ諸島にある地球連合軍のヒッカム基地。

 

そこでツェントル・プロジェクトの研究が進められていた。

 

修羅の乱以降、アビアノ基地での一件で雲隠れしていたプロジェクトの関係者達がそこへ避難していた。

 

TEアブゾーバーを搭載した試作6号機のサーベラスのパイロットの一人であるヒューゴ・メディオ少尉。

 

彼はある事件に置いて負傷しヒッカム基地に搬送されツェントル・プロジェクトの研究成果によって死の淵より蘇った。

 

だが、例の事件でクライウルブズ隊を失った事により彼は最後の生き残りとして生きていた。

 

その身を蝕む呪いと共に。

 

その後、プロジェクトの責任者であるミタール博士の指示により日本の伊豆基地へと出向。

 

特殊戦技教導隊の元でデータ収集が命令された。

 

だが、出発の直後だった…

 

何者かによって試作5号機であるメディウス・ロクスが強奪されたのだ。

 

急遽、ヒューゴと同じくパイロットであるアクア・ケントルム少尉が強奪されたメディウス・ロクスの奪還の任を受けたが…

 

奪われた機体の痕跡は消失してしまった。

 

この件に関してミタール博士が驚愕の表情であった事をヒューゴは見逃さなかった。

 

強奪事件後、ヒューゴらは伊豆基地への出向はそのままにメディウス・ロクスと遭遇した場合は捕獲或いは撃墜を命令された。

 

これが何を意味するのか?

 

ヒューゴは心の何処かで微かな希望を求めていた。

 

その答えは鋼龍戦隊と行動する事で明かされる事となった。

 

修羅の乱で引き起こされた事件後、自身とは別に二人がホルトゥスによって救われていた事を…

 

この世界の何処かで生きていると知ったのだ。

 

 

「隊長とフォリアが生きている?」

 

 

イティイティ島の基地の一室にてキョウスケとアクセルより告げられた真実。

 

ヒューゴはその言葉に驚きを隠せずにいた。

 

 

「ああ、確実な情報だ。」

「一体、あの状況でどうやって…」

「例の組織…ホルトゥスが救助したそうだ。」

「ホルトゥス…例のブルーロータスが指揮する組織!?」

「言って置くがL5戦役でお前の同僚と仲良くDG細胞に感染していたハスミがそのリーダーだ。」

「!?」

「そして彼女は四体存在するガンエデンの内の一体…アシュラヤー・ガンエデンの巫女だ。」

「彼女がガンエデン…イルイと同じ!?」

「驚くのも無理はない、奴はアカシックレコードとの制約があって俺達に打ち明ける事が出来なかったらしい。」

「制約?」

「アカシックレコード曰く記憶保持者は黒の英知とやらと接触しなければハスミから直接情報を得る事が出来ないとの事だ。」

「それが制約…」

「制約もそうだが奴が秘密裏に進めていた行動によって俺達もいずれ動きやすくなるだろう。」

「だが、あの時の彼女は俺達と決別すると…」

「本音と建前…ハスミは俺達に協力していると周囲に解る様な行動は取らなかった。」

「それが奴の狙いだ。」

「え?」

「俺達に協力していると周囲に知られればホルトゥスにも被害が被る。」

「双方の動きを封じられない為の奴なりの気遣いの言葉だ。」

 

 

言葉ではノードゥスと決別すると宣言したハスミ。

 

だが、それは仲間達の安全を想っての行動。

 

言葉の意味を。

 

その真意を。

 

理解出来ない仲間にとっては裏切りの言葉に聞こえるだろう。

 

それを踏まえつつハスミは覚悟を決めて発言した。

 

例え、裏切り者の烙印を押されようとも突き進む事を。

 

 

「…そんなやり方をしても彼女が報われる事は無い。」

「そうだな。」

 

 

ヒューゴの発言にキョウスケは目を伏せて答えた。

 

隣でアクセルは例の件を話し始めた。

 

 

「未だに肝心の奴の本当の真意が読めんのは変わらずだ、これがな。」

「本当の真意?」

「俺達に必要な情報や下準備はハスミが水面下で行動していたが…彼女の本来の目的が未だ掴めていない。」

「ハスミの目的とは一体?」

「真の敵を倒す事…それが誰の事を指して誰の出現を予期しているのかが判らん状態だ。」

 

 

該当が多すぎて絞り切れない、もしくはそれ以上の何かがその手の伸ばしつつあると推測するアクセル。

 

逆に告げた者達が鍵を握っているのは確かだとキョウスケは答えた。

 

 

「だが、舞人が知った四体の人造神…ガンエデンの伝説と万丈がZ事変で関わった十二の至宝こと十二のスフィアリアクターが関わっている事は理解した。」

「集結させるにも容易ではない連中をどうやって集める?」

「それを成そうとしているのがハスミの目的…その一つだと思う。」

「目的の一つ?」

「四体のガンエデンと十二人のスフィアリアクターを集めた後、何をする?」

「ガンエデンは兎も角、スフィアリアクターは俺も直接関わった訳ではないから何とも…」

「万丈の話では十二のスフィアが集結しリアクター同士が志同じくした時、事象制御の力を得るらしい。」

「事象制御?」

「例としてその力を使えば俺達の世界のL5戦役が無かった事に出来る。」

「それ以上に戦争そのものが無かった事も戦乱の世にも出来る代物…そういった事象への干渉を行えるものらしい、これがな。」

「そんなものが存在していた…いや、だとしたら綾人のラーゼフォンと同じ事が!」

「万丈曰く、それ以上に危険な代物だそうだ。」

「俺達は『調律』や『次元修復』とやらの現場に出くわしたわけでもない。」

「…」

 

 

再びキョウスケは目を伏せたまま答えた。

 

 

「ハスミが戦おうとしている存在、それは次元修復を必要とする程の相手なのだろう。」

 

 

徐々に明かされる理由。

 

それは新たな戦いへの警鐘。

 

そして本当の意味での別れへのカウントダウン。

 

 

******

 

 

同時刻、山岳地帯の某所。

 

未だ続く地球と宇宙を途絶させた結界。

 

現在はライフラインの断絶に怯える事もなく人々は偽りの平穏に安堵していた。

 

太陽もなければ星と月も視えない空を眺めながら彼は答えた。

 

 

「なあ、親父。」

「どうした?」

 

 

山岳の近くの森林地帯、そこで野営をする二組の人の姿があった。

 

一人は青年、一人は壮年の男性だった。

 

青年は焚火を挟んで壮年の男性こと父親に話しかけた。

 

 

「例の件だけどよ、奪取に失敗したって本当か?」

「ああ…」

「どうしてだよ!メディウス・ロクスの鹵獲は出来ている…なのに!」

「アレには肝心のモノが積まれていない。」

「え?」

「AI1…ブルーロータスから指示された重要鹵獲物がそれだ。」

「マジかよ…流石にヒッカム基地に再潜入は厳しいぜ?」

「判っている、だからこそ次の指示待ちをしているんだ。」

 

 

任務の失敗、これに関しては無限力の介入により失敗する事は確定している事項だった。

 

ブルーロータスは既にハスミより提示されていた任務の一部が失敗に終わると申告されていた。

 

その為、今回の一件は特に問題視する必要はないと任務直後の彼らに通信で告げた。

 

 

「…ま、連合軍にMIA認定か無断戦線離脱の嫌疑を受けている俺達が戻れる保証なんて何処にもないしな。」

「確かに軍に戻ったとしても例の奴らの駒扱いされる位なら、あの戦闘は退き際だったのかもしれん。」

「親父…」

「ヒューゴは未だ、ミタールの奴の枷を付けられている…ホルトゥスが提示する荒治療の時が来るまで大人しく待つしかない。」

「んな事言われてもよ、下手すりゃアイツ自身が…」

「通常の治療を受け…動けぬ身となって戦う力を失うか、枷を剥ぎ取り己の力とするかはヒューゴ自身にかかっている。」

「…結局は俺と同じじゃねえかよ。」

 

 

話し合う中で壮年の男性は通信を受けた電子端末から次の指示を指定されていた。

 

 

「あの戦闘でお前はあの力の残滓に救われた、ホルトゥス当主の言葉を借りるなら必然なのだろうな。」

「…」

「長話は終わりだ、次の指定ポイントに向かうぞ。」

「今度は何処に向かうんだ?」

「南欧、マオ社のオルレアン工場だ。」

「工場?」

「ああ、次の指示は破壊されるヒュッケバインシリーズの回収…既に別動隊も向かっているとの事だ。」

「ヒュッケバインシリーズ?確か鋼龍戦隊の艦に搬入されていたんじゃ?」

「いや、今は連中の手を離れてマオ社が管理をしているらしい…それに連中には後継機のエクスバインシリーズが搬入されている。」

「だったら何で?」

「恐らく、そこで戦闘があるのだろう…同時に奪取したメディウス・ロクスの試験運用もな。」

「相変わらず用意周到だな、俺だって戦えるのに親父とずっと複座じゃあ…腕が鈍っちまう。」

「安心しろ、別動隊と合流後にお前用の量産型ゲシュペンストMk-II改が搬入するそうだ。」

「…絶対、こっちの動き読まれてるだろ?」

「多分な…当主曰く、人手が足らんと言う事とお前のリハビリを兼ねているそうだ。」

「ま、遠慮なく使わせて貰うぜ。」

「フォリア、最後に当主からの通達だ…今は偽りの死者として生者と接触は避けろとの事だ。」

「…親父、まさかと思うがヒューゴ達もそこへ向かっているのか?」

「かもしれん。」

 

 

壮年の男性ことアルベロは『無駄口はそこまでだ』とフォリアに告げると奪取したメディウス・ロクスに二人は搭乗すると別動隊との合流ポイントへと向かった。

 

フォリアの体に残る残滓とは?

 

そしてホルトゥスが行おうとしている事が一体何なのか?

 

謎は残ったまま次の戦いへと続く。

 

 

*******

 

 

時は遡り、ハスミがガイアセイバーズに出向する前の頃。

 

天鳥船島、立ち入り禁止区画にて。

 

区画内にある一室では…

 

当主であるハスミと一人の少女が話し合いを始めていた。

 

 

「…」

「イルイ、貴方にも記憶があったのね。」

「うん、でも…殆どは私じゃなくてナシムの記憶だったからコーイチお兄ちゃんにお姉ちゃんの事を聞いたの。」

「説明する手間が省けると言うか何というか…まあ、いいかな。」

「ねえ、ハスミお姉ちゃんは何をしようとしているの?」

「今の所は地球に隠れているバルマーの残党の処理よ。」

「あのバラルの人達は…?」

「組織が暴走している以上は止める必要がある。」

「そうだよね…」

「イルイには悪いと思っている、それでも彼らを止めなければならない。」

 

 

今までイルイ=ナシムを守護していた組織だ。

 

出来る事なら暴走を止めなければならない。

 

 

「イルイはどうしたい?」

「判らない、どうしたいのか…はっきりと決められないの。」

 

 

今世のイルイは初代ナシムの子孫の末裔にしてその最後の生き残りだ。

 

アシュラヤーの一族の出である私と同様に一族の多くはクロノによって謀殺されたらしい。

 

今世のイルイの両親は幼いイルイを残して死去しており、イルイは孤児院を転々としながら今の養父母に引き取られた。

 

だが、その養父母も修羅の乱の戦乱で亡くなったとの事だ。

 

運良く身柄の安全を確保出来たのは良かったがイルイ自身は迷いの中に居た。

 

戸惑いの表情を向けるイルイに私は一案を告げた。

 

 

「成程、今のイルイには見聞が必要って訳ね。」

「見聞?」

「そう…ノードゥスか鋼龍戦隊のいずれかに入り込んで世界を見て回ると言うのはどう?」

「でも…」

「きっと、貴方が求めている答えが見つかると思う……行くと言うのなら護衛は付けておくわ。」

「ハスミお姉ちゃん……私、世界を見てみたい。」

「…判ったわ、接触のタイミングはこちらで何とかするから。」

「うん。」

 

 

イルイは記憶は無くともゼンガー、クスハ、アラド、アイビスとの再会を望んでいた。

 

それが彼女の新たな未来を築く道標になる事をまた彼女自身が知る事は無い。

 

 

=続=




それは悪意を断ち切るもの。

それは一つの可能性が導いた結論。

だが、忘れるな。

それは諸刃の力である事を。

次回、幻影のエトランゼ・第六十六話 『転装《テンソウ》』

可能性が導いた概念。

それは新たな在り方。

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