それが早いか遅いかはその存在次第。
私は別れを選んだだけ。
修羅の乱後に発生した二つの事件。
無事に反乱は終息し人々は安堵の表情で聖誕祭を祝った。
ヌーベルトキオシティを拠点とするTR社は大規模テロの先導容疑でCEOのエグゼブことケン・エノモト氏は逮捕。
内部調査により様々な犯罪組織にロボット兵器を売買していた裏帳簿が残っていた為、同社並びに系列社は解体。
その後の調査でケン・エノモト氏自身に精神操作の類が行われていた形跡があった事で情状酌量余地もあり現在も裁判が続いている。
尚、ヌーベルトキオシティの人気バントのパープルらのグループも戦闘に巻き込まれたとの事で休業している。
未だ、修復作業が続く日々の中…地球に謎の物体が落下。
名を『Qパーツ』と呼称された物体は各地の研究施設で保管される事となったが…
発見された五つの内の一つをバイオネットによって強奪された。
白き雪の名残を残すフランス・パリ市内を逃走する一味をシャッセールと新生GGGによってQパーツは奪還された。
二つの事件の前に起こった爆弾テロによりブルーコスモスの盟主だったムルタ・アズラエル氏の死亡が確認された。
新たなる盟主としてロード・ジブリール氏が就任し就任式の演説が埋まった溝を取り去る原因を引き込んだ。
爆弾テロの騒動の一端をコーディネーターが引き起こした反ブルーコスモス派によるテロと報道された事でナチュラルとコーディネーターの埋まっていた筈の溝が再び掘り起こされてしまったのだ。
その後、連合軍とザフトが再び険悪な仲になるのは時間の問題だった。
最後に元EOT機関があったアイドネウス島。
現在はグランド・クリスマスと改名され地球連合政府・大統領直轄特殊行動部隊ガイア・セイバーズの設立が決定した。
現在も各方面から優秀なパイロット達の引き抜きが行われ、ここ伊豆基地でもその手は忍び寄っていた。
******
伊豆基地の一角、私ことハスミは再会したクスハやエクセレン少尉と共に休憩がてら雑談をしていた。
「また異動命令?」
「うん、ようやく部隊ごと鋼龍戦隊に戻れると思ったのだけど…」
「ややこしいわね…所で今度の異動先って?」
「例のガイアセイバーズです。」
「それって、噂の大統領直轄の精鋭部隊!?」
「ええ、この件は中佐達も不吉な予感しかしないと話していました。」
「うーん、確かに設立されて間もないし精鋭部隊自体にも信頼性が無いものね。」
「…おまけに大統領直々の推薦と言うのが痛い所です。」
「じゃあ…」
「余程の理由が無ければ断れないって案件よ。」
「そこまでしてSTXチームを引き入れる理由は?」
「度重なる転移騒動に巻き込まれた件と軍内部で私とロサが唯一魔術を行使出来るからでしょうか。」
「その件はセフィーロ側との会談で緩和していたんじゃ?」
「強硬派の連中がまた動き出したって国際警察機構の中条長官から連絡受けていたけど…向こう側が早かったわ。」
「場合によっては私達もタダじゃ済まなそうね…」
「はい、他のノードゥスのメンバーにも引き抜きの件で動きがありましたし…地球防衛軍側は流石に管轄違いなので手が出されていないのが救いです。」
「キョウスケが言ってた通り、嫌な予感が当たっちゃったわね。」
「ピンポイント狙いの運に関してはハズレ無しですからね…キョウスケ中尉は。」
「まあ、偶にタスク君に持ってかれちゃうけどね。」
「そう言えば前にハスミもポーカーに誘われてなかった?」
「それね、悪いけど断って置いたわ。」
「どうして?」
「大体…感で解っちゃうから勝負の意味がないのよ。」
「そういう事だったの…」
「確かにハスミちゃんってリュウセイ君やクスハちゃんと並んでかなりの念動使いだもんね。」
「いくら力が強くても梁山泊の人達からまだまだだと言われてますよ?」
「…うーん、あれを基準にしない方がいいんじゃない?」
「物質界とEFへ行って来たせいか基準としか思えなくなってしまって…」
「それはそれで悲しいわよね、いろんな意味で。」
「兎に角、異動命令は破棄出来ませんので謹んで出向してきますね。」
「ハスミ、向こうでも頑張ってね。」
「ありがとう、クスハ。」
それが私ことクスハ・ミズハが見た最後のハスミの姿だった。
その数日後、グランド・クリスマスへ向かったSTXチームが搭乗したダウゼント・フェスラーが何者かに襲撃を受けて墜落。
破損状況から遺体の痕跡が発見出来なかった事もあり乗員全てが死亡したと報告が入った。
身近に居た私達でさえこの出来事に驚いていた。
実は生きていてひょっこり現れるのではと?思う事もあった。
それでも目処前の現実はそれを覆すかの様に私達に悲しみを与えた。
その後、私達は悲しみを癒す間もなく任務の途中でラ・ギアスに飛ばされる事となった。
マサキ君とその仲間達と共にヴォルクルスの復活を阻止し再び元の世界に戻った。
私達は元の世界に戻ってから何日かが経過して…すっかり状況が変わってしまっていた。
ガイアセイバーズによって捻じ曲がった正義が執行され、収まっていた筈の戦争の火種が拡大してしまった。
大統領より圧力を受けていた地球防衛軍。
Qパーツ騒動による内部抗争をきっかけにGGGに地球外への追放処分を受理し実行。
他のメンバーも強引な部隊の解体などで散り散りに。
今まで戦い続けてきた結果がいつの間にか塗りつぶされていた。
人々の期待はガイアセイバーズへと向けられて、私達は悪へと嫌疑を掛けられ追われる身となって…
私達の正義って一体何だったのだろう?
逃亡生活へ転じた私はそう思ってしまう。
ハスミ…
私、どうしたらいいの?
>>>>>>
平穏の均衡が崩れ、世界が混乱を始めた頃…
とある場所、床下を中心に青い薄灯りが灯る広間にて。
何かの液体に満たされた大型の容器の傍で座り込む光龍。
そこへ負傷したのか手当てを終えたテンペストが訪ねてきた。
「…」
「光龍、ハスミの様子は?」
「良くはないね、しばらくは療養が必要だよ。」
「…」
「君やカーウァイ達を護る為とは言え、いつも以上に無茶をしすぎたんだ。」
「また例の変異とやらが原因なのか?」
「…それで説明がつくならいいんだけどね。」
「どう言う事だ?」
「また無限力の一方的な圧力が原因と僕は見ている。」
「例の対価の件か…」
「そうだね、それもあるけど……今回は無限力側が契約違反のイカサマをしたと言えば?」
「イカサマだと…?」
光龍の言葉に反応するテンペスト。
光龍は普段のポーカーフェイスを止め、目を伏せたまま話を続けた。
「最初はハスミ達に起こった出来事は起きない筈だった……だが、奴らはサプライズと称してあの事象を引き起こした。」
「例のダウゼント・フェスラーの狙撃か?」
「そ、狙撃した相手はガイアセイバーズのオメガセイバーの隊長でアーマラ・バートンって言う子。」
「オメガセイバー…確かガイアセイバーズの最高位の部隊の名称だ。」
「ハスミの記憶に寄れば彼女はユーゼス・ゴッツォが生み出したバルシェムシリーズの一体…」
「やはりガイアセイバーズは…!」
「察しの通り、ナマズ髭の馬鹿共を利用したはぐれバルマーの連中だよ。」
「連中め…修正すら不可能まで腐り切っていたか。」
「どうせ、政府の実権を握らせるとか甘い汁を啜ろうとしたんだろうね。」
冷静ながらも憤激の意思をチラチラと見せる光龍とテンペスト。
光龍は狸と狐が合わさると本当に厄介だねと内心思っていた。
そこへ同じく治療を終えたカーウァイも姿を現した。
「その可能性はあるだろう。」
「中佐…」
「テンペスト、既に死者となった身の我々に階級は必要ないぞ。」
先のダウゼント・フェスラーへの狙撃による謀殺。
これにより自分達は表向き死亡していると軍には虚偽報告が入っているだろう。
偽りとは言え死者となった身に階級は必要ないとカーウァイは告げた。
「ですが、自分の中では中佐に変わりはありません。」
「お前は相変わらず律儀な奴だな。」
「…では、隊長と呼ばせて貰います。」
「それでいいんじゃない?元々上司の名前を部下が呼び捨てするには抵抗があるし。」
階級呼びの件を終えた後、これからの事を踏まえて本題に入る事となった。
「例のガイアセイバーズもそうだけとバラルやルイーナ…ゲストの件はどうする?」
「今の所は外宇宙で行動しているメンバーがゲストのゴライクンル派を抑えている。」
「当面の問題は地球側のバラルとルイーナか…」
「光龍、ハスミが話を進めていフューリーとの連携は?」
「向こうでも動きがあったみたいでね、彼らもルイーナの件は協力してくれるってさ。」
「そうか…光龍、バラルの事だが…」
「連中に関しては僕が担当するよ、今まで野放しにしてきた責任はあるからね。」
「判った、テンペスト…ハスミが伝えた通り鋼龍戦隊や無事だったノードゥスメンバーには監視を続けるぞ。」
「了解しました、監視も兼ねますが予定通りに?」
「ああ、連合内部の派閥争い、ザフト側との過度な混乱、ミケーネ、オルファン、ソール11遊星主らは彼らに任せるとする。」
「僕らはその補助と連中の力を削ぐ形だね、後は捕らわれの身になっちゃっているノードゥスメンバーの救出かな?」
「今もルド議員らやトレーズ達が政府内部で混乱を抑えている……これ以上は連中の好きにはさせんさ。」
三人は話し合いを終えた後、先程の大型容器に目を向けた。
「ハスミ、ケイロン、お前達の目覚めの時まで我々が封印戦争の動乱を抑えている。」
「僕らも後手に回るつもりはないからね。」
「必ず、約束は果たして見せる。」
カーウァイ、光龍、テンペストはそれぞれの想いを告げてその場を去った。
無限力の契約違反的イカサマ。
それは彼女らを再起不能に近い負傷を負わせた事。
契約に違反したものはそれ以上のペナルティが課せられる。
無限力らは自らの遊戯の為に逆鱗に触れたのだ。
未だ癒えぬ深手によって意識を失った二人はただ…
反逆の時まで眠るのだ。
=続=
我々は幽霊。
ならば幽霊らしく事を成そう。
世界を揺るがす悪意に対する怨嗟と共に。
次回、幻影のエトランゼ・第六十二話 『幽霊《ゴースト》』
蒼き女神の目覚めは程遠く。