幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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それは一時の舞台。

それは仮面舞踏会ではなく仮面武闘会。

お前達の薄汚い野心を晒す為の舞台。

さあ、反撃の幕開けである。


第六十話 『円舞《ロンド》』

前回から更に一か月後。

 

私ことハスミは現在TR社へ潜入捜査を行っていた。

 

理由は梁山泊で宣告した戦いが迫っている為である。

 

雷張ジョーがTR社の地下施設内でヴォルフガングに匿われたのを確認した後に私は奴の研究室に潜り込んだ。

 

敵ではない事を話した後に彼らへ国際警察機構の証明証を提示した。

 

 

「ジョーだけではなく、国際警察機構も嗅ぎつけおったか。」

「お察しの通りです、博士。」

「どう言う事だ?」

「ジョーやお前さんらもエグゼブの事をマークしておったのだろう?」

「ええ、彼の正体を知ればね…」

「正体?」

「彼の正体は将来を有望された若手政治家のケン・エノモト氏、一五年前に東南アジアで失踪した後…その数年後にエグゼブとして表舞台に出てきました。」

 

 

私は電子端末でかつてのエグゼブ…一五年前のケン・エノモトの写真を二人に見せた。

 

犯罪とは無縁そうな冴えない容姿に二人は感想を述べた。

 

 

「何じゃい?今と違って随分と冴えない顔つきじゃのう。」

「別人の間違いじゃないのか?」

「確かにこんな事をする様な人物ではない様に見えますよね?」

「まさかエグゼブは…?」

「そう…彼もまたブラックノワールに操られた被害者です。」

「!?」

「例え…理由を知っても受け入れられる様なものではありませんけどね。」

 

 

舞人から私の事情を聴いていたのだろう。

 

察したのかジョーは私に答えた。

 

 

「…俺にどうしろと?」

「彼が償うべき罪は償わせる…それが彼に対する最も重い罰と考えています。」

「それもそうじゃのう、奴の命を奪えばそこまでじゃが…罪を背負って生きる事も奴に取って大きな罰に成り得るだろう。」

「ブラックノワールを倒せば、洗脳された人達に入り込んだ禍々しいオーラも消えると思いますし。」

「…」

 

 

年寄りの助言なのだろうか、ヴォルフガングは私の言葉に弁論した。

 

 

「一応助言として受け取って置きますが、貴方の今までの罪状が消えた訳ではありませんよ?」

「うっ…わ、分かっておるわい。」

「但し、今回の件でこちらの協力すると言うなら司法取引で罪の軽減はさせて頂きます。」

「…お主、最初からそのつもりじゃっただろう?」

「ええ、この件は上からの許可も取ってますからね。」

 

 

ジョーには国際警察機構より今回の件に協力する事を条件に民間からの有志としてブラックリストから登録削除する事を提示した。

 

流石のジョーもフリーランスで働いている分、国際警察機構からの警告には相当堪えていたのだろう。

 

先のヴォルフガングと共に双方には条件を快諾して貰った。

 

 

「今は感謝するぞ…ハスミ・クジョウ。」

「クジョウ…もしやお主は?」

「?」

「やはりお主はあのサザナミの孫娘じゃったか…」

「…御爺様をご存じで?」

「うむ、数十年前のある事件の折に救われた事があってのう。」

「そうでしたか…」

 

 

御爺様、御爺様達がやってきた事は今日も誰かの助けになった様です。

 

その後、私はヴォルフガング博士を残してジョーとTR社の地下施設を脱出。

 

博士は引き続き…ブラックノワールの魔のオーラに対抗する研究を継続する理由で残った。

 

無事に脱出を終えた後、ジョーとの別れ際に私は彼に言葉を贈った。

 

 

「ジョー、貴方に伝えておく言葉があります。」

「何だ?」

「弱さもまた強さ…力とはその人の在り方次第よ。」

「…」

「かつて力こそが全てと言う思想を持った貴方への問い…その答えです。」

「…覚えて置こう。」

 

 

ジョーは何かを察した表情で脱出先に隠してあったバイクに乗るとその場を去って行った。

 

 

「素直じゃないのは原作通りか…」

 

 

念の為、博士にはホルトゥスから護衛を送って置いたので悪い事にはならないだろう。

 

だが、研究が完成を迎える前に無限力からの圧力で早すぎる決戦の日を迎える事となった。

 

十二月二十三日…

 

前倒しされたクリスマスオペレーションが始まってしまったのだ。

 

地球各所でTR社から魔のオーラを受けた無人ロボットの大軍が軍施設を中心に襲撃を開始。

 

同じくして地球各所で地球連合軍やノードゥスの仲間達が対処に向かっていた。

 

だが、魔のオーラによる急速再生によって味方側の抵抗は徐々に削られていた。

 

日本国内・ヌーベルトキオシティにあるTR社の本社から突如として巨大要塞が浮上。

 

現地に待機していた勇者特急隊を始めとした地球防衛軍と極東スーパーロボット部隊が対処していた。

 

私達STXチームも伊豆基地から急行し状況介入する事となった。

 

鋼龍戦隊は宇宙に上がっており、ロンド・ベル隊やプリベンターと共に反乱を起こしたマリーメイア軍への対応に追われていた。

 

前回の爆弾テロ騒動のせいで小父様の助力が使えない以上は今のままで対処するしかない。

 

 

******

 

 

同時刻。

 

ヌーベルトキオシティ内でTR社の無人ロボット軍団に応戦する混成部隊。

 

地球防衛軍にセフィーロ側の有志として協力している魔法騎士達。

 

彼女達も無人ロボット軍団に纏わりついているオーラの正体に気が付いた様だ。

 

 

「やっぱりこのロボット達…!」

「ええ、間違いなくデボネアの時と同じですわ。」

「あの禍々しいオーラのせいで皆の攻撃が通用しないのは痛いわね。」

 

 

彼女達の近くで戦っていたハスミ、ロサ、ハリスもまた会話に加わっていた。

 

 

「なら、私達で道を切り開くしかない。」

「はいです。」

「それは僕も含まれているかな?」

「魔神と同様に念者の攻撃もあの光を剥ぎ取れる様子ですからね。」

「やれやれ…これは大仕事だね。」

「ちょっと!グダグダ言う前にちゃんと仕事しなさいよね、軍人でしょ?オジさん!」

「アハハ、オジさん…ね。」

 

 

流石のハリスも少女にオジサン呼ばわりされる始末。

 

見た目からでもギリギリお兄さんでも間違えられそうなものだが…

 

若作りな所を無自覚ピンポイントで言われたのだからグッサリと心にダメージを負っていた。

 

ちなみに光や風も言い過ぎだとオブラートに包んだ位で海を窘めていた。

 

海のストレート発言に苦笑いしつつも私は念の為、念話でフォローしておいた。

 

 

「…(お父さん、ここはこらえてください。」

「…(これには僕もちょっと傷ついたよ。」

「…(まだまだ戦いは続きますし頑張ってください、ぱ……パパ///」

「っ!、君からその言葉を聞くとはね…」

「少しは癒されましたか?」

「そう言う事にして置くよ。」

 

 

内心嬉しかったのかサラリと返しを寄越したハリス。

 

 

「…(本当に凄いわ。」

 

 

そんなにパパ呼びが嬉しかったのかと私自身ツッコミたい気分である。

 

カーウァイお義父さんもテンペストお義父さんもパパ呼びだと内心喜んでたし。

 

世の父親は娘に甘いものだと私は一人で納得した。

 

その後、先ほど話した光達の戦法で敵の数を減らす事に成功した。

 

だが、エグゼブらが現れていない以上は油断出来ない。

 

この戦いの希望とも言えるイノセントウェーブを放つ装置もまだ完成に至っていないのだから…

 

時間を稼ぐにしても長期戦で疲弊しつつある。

 

状況が改善しない事で仲間達も精神的に余裕がないのが現状だ。

 

正直に言えばガンエデンの力で魔のオーラを浄化すれば早い話だがアカシックレコードから今回の件も介入は出来ないと釘を打たれている以上は何も出来ない。

 

ただ彼らの助力に成れる様に陰ながら戦うので精一杯だ。

 

その後、ヴォルフガング博士の研究が完成し勇者特急隊へ届けられた。

 

今回は博士も軽傷はあるものの無事に脱出出来た様子だ。

 

本人曰く『何じゃ!あのキチガイ戦闘馬鹿共は!!』との事。

 

うん、あの地下施設から脱出するには地獄組が適任だったのよね。

 

と言うより貴方もマッドな方ではとツッコミたい。

 

さておき、緊急の作戦会議が開かれ議論の後。

 

要塞に侵入するのは勇者特急隊、ジョー、魔法騎士、STXチームとなった。

 

理由は察して貰う様に魔のオーラに対する対処方法を持ち合わせていたからだ。

 

勇者特急隊を筆頭に私達はフォローに入る事となった。

 

地上に他のメンバーは待機、増援として現れたTR社の戦闘ロボットの大軍に対処する形となった。

 

敵の包囲網を潜り抜け要塞に突入したが、その守りは強固であった。

 

奥へ奥へと進むに連れて魔のオーラの気配が強まっていた。

 

 

「これ以上、貴様達を通すわけにはいかん。」

 

 

中間エリアだろうか巨大な広間へ出た私達。

 

そこへ待ち構えていたのはエグゼブの搭乗するインペリアルであった。

 

エグゼブの登場に対してジョーが叫んだ。

 

 

「エグゼブ!」

「勇者特急隊にジョー…噂の魔法騎士に連合軍の部隊か?」

「エグゼブ、貴方には大規模テロ行為による逮捕状が出ている…その様子では素直に拘束される事は無いでしょうけど?」

「ふん、ブラックノワール様の創り出す新たな世界の為にも貴様達の存在は邪魔なのだ!」

「各機、勇者特急隊を援護し活路を開くぞ!」

 

 

毎度お馴染みの捨て台詞を頂き、カーウァイ中佐の活が入った後に戦闘開始となった。

 

 

「何なのよ!あのおっきなロボットは!?」

「こちらの機体の大きさをはるかに超えていますわ。」

「TR社はイスルギ重工やアナハイムエレクトロニクスなどと肩を並べる大手の兵器開発企業…秘密裏に開発する位造作もないでしょうね。」

 

 

海と風の疑問にハスミが助言。

 

 

「待ってください、それではヌーベルトキオシティで起こってたロボット犯罪事件は…」

「TR社が絡んでいる……ま、アマルガムの構成員と接触していた様子だったし叩けば埃が大量に出たでしょうね。」

「さらりとそう言う怖い事を言っちゃいます?」

「残念ながら事実よ。」

 

 

エグゼブから漏れ出す魔のオーラ。

 

この気配は紛れもなくあの気配と酷似していた。

 

恐らくブラックノワールも奴らから生み出された駒。

 

それはバアルの眷属を意味していた。

 

 

「…(ここにもバアルの介入があった以上、例の試練の時が迫ってきている。」

「ハスミ。」

「ハリスさん、どうしましたか?」

「悪い知らせだよ、他のエリアの防衛網が突破されようとしている。」

「!」

「早い所、決着を着けないと拙いね。」

「…」

「どうする?」

「カーウァイ隊長、折り入って相談があります。」

「ハスミ、どうした?」

「事前に説明したエリアの防衛網が瓦解しそうとの事です、そこで私と舞人に光の三人でここから中枢へ強行突破し早期決着に持ち込みたいと思います。」

「…解った、ハスミ少尉、舞人君と光君の援護に回ってくれ!」

「了解。」

 

 

既にタイムリミットが迫っている以上、躊躇う事を止めたカーウァイ。

 

即座に戦闘指揮と共に指示を出す。

 

 

「各機、グレートマイトガイン、レイアースとエクリプスを敵施設の中枢に向かわせる!攪乱と援護に回るぞ!!」

 

「「「「了解。」」」」

 

「承知。」

 

 

攪乱としてロサのエザフォスとピートのエクスガーバイン・ピストーレより援護射撃が入る。

 

 

「ロサ、頼むぞ。」

「はい、ピート。」

 

 

続けて各機より援護射撃が入る。

 

度重なる銃撃に一度だけ怯むエグゼブのインペリアル。

 

ハスミはそのタイミングを逃さず、舞人と光に告げる。

 

 

「二人共、今よ!」

「判りました!」

「はい!」

 

 

三機は隙を突いて中枢区画へと繋がるゲートを突破した。

 

続けてカーウァイは海と風にも追従する様に告げた。

 

 

「海君、風君、君達も行くんだ。」

「でも…」

「私達まで抜けたら…」

「そこのデカいだけのハリボテ君は僕とロサで引き付けるよ。」

「二人はハスミ達を追ってください。」

「判りましたわ。」

 

 

未だ怯んでいるインペリアルの隙を突いて突破するセレスとウインダム。

 

 

「ハリスさん、さっきはごめんさい…貴方は立派に仕事をしているわ。」

 

 

海は去り際にハリスに謝罪の言葉を述べるとゲートへと向かった。

 

 

「その言葉、素直に受け取っておくよ。」

 

 

年長者の余裕でゲートへ向かった海に返した。

 

 

「さてと、君の子供じみた人形遊びに付き合う為に残ったんだ……精々負け犬らしく抗ってくれ。」

「貴様…っ。」

 

 

ハリスはインペリアルに搭乗するエグゼブに込めに込めた苛烈な嫌味発言を送った。

 

 

>>>>>>

 

 

中枢区画へ向かったハスミ、舞人、光。

 

ゲートを通過したものの通路内に敵ロボット部隊が配置されており、隠し通路からグレートマイトガインに不意打ちされてしまった。

 

同時にパーフェクトキャノンモードで合体していたガンナーが負傷し接続用のコネクトが破損。

 

分離状態でも使用は可能だが出力が下がってしまうと言う誤算があった。

 

 

「舞人、済まねえ…」

「俺の方こそ済まない、ガンナー。」

「舞人さん、大丈夫ですか?」

「済まない、さっきの攻撃でガンナーが負傷した。」

「そんな…」

「…(これも無限力の仕込みか。」

「あと少しでブラックノワールの元に辿り着けるのに。」

 

 

配置された敵は倒したもののグレートマイトガインの必殺技の一つを封じられると言う騒動に陥った。

 

同時に後方から現れるセレスとウィンダム。

 

 

「光!」

「光さん!」

「海ちゃん、風ちゃん、どうして?」

「カーウァイさんに言われて貴方達の後を追ってきたの。」

「何があったのですか?」

「実は…」

 

 

光が先ほど起きた経緯を二人に説明。

 

 

「こんな時にロサがいてくれれば…」

「ロサさんは私達の中で無機物への修復魔法が使えますのもね。」

「無いものを強請っても仕方がないわよ。」

「海、風、来て早々悪いけどガンナーの護衛を頼めるかしら?」

「ハスミさん、ですが…」

「こうしている間にもブラックノワールの侵略作戦は続いている……私達が立ち止まる訳には行かないわ。」

 

 

私は二人を説得しガンナーを預けた後、舞人、光と共に中枢部へと向かった。

 

 

「ハスミさん、どうですか?」

「この先で合っているわ…奴の気配が強くなっているのが判る。」

「うん、デボネアと同じ嫌な気配が続いている。」

 

 

中枢部と思われる巨大なゲートの前に一度立ち止まる三機。

 

 

「ここがブラックノワールの…」

「…(間違いない、原作と同じ様に嫌な気配がする。」

「舞人、準備はいいな。」

「ああ、皆…力を貸してくれ!」

 

 

ガイン、光、ハスミがそれぞれ相槌を打つとゲートを破壊し内部に潜入した。

 

 

「ついに来たか、旋風寺舞人、魔法騎士達よ。」

 

 

巨大な装置から映し出されるブラックノワール。

 

バアルが生み出したエネルギー生命体。

 

 

「ブラックノワール、貴様の野望もここまでだ!」

「ふん、貴様の仲間とやらを分散させてもまだ戦うか。」

「例え、遠くに離れていようとも俺達の心は繋がっている!」

「確証もない言葉など私には通用せんぞ!」

 

 

ブラックノワールより渦巻く魔のオーラの波動。

 

それは三機を襲い、壁際まで後退させてしまう。

 

 

「くそっ…(かつてのブラックノワールの魔のオーラとは桁違いの強さだ。」

「これってまさか!」

「間違いない、光…貴方も感じた事があるでしょう?」

「ブラックノワール、お前…デボネアの力を取り込んだな!」

「何だって!?」

「魔法騎士なら判るか?私の魔のオーラを増幅させた恐怖の力の源よ。」

「…(空白事件の折…綺麗さっぱりに痕跡が無くなっていたと思ったけど、とんだ絡繰りね。」

 

 

このままだとサリーのイノセントウェーブだけではグレートマイトガインに勝機はない。

 

だったら…

 

 

「舞人、光、一度だけよ……賭けに乗ってくれる?」

「えっ?」

「ハスミさん?」

「これは滅多に使える技じゃないの…だから今回だけの奇跡を奴に叩き込むわよ!」

「…解りました!」

「お願いします!」

 

 

今回は二機、それでもやらなければならない!

 

 

「二人とも行くわよ!念装合身!!」

 

 

本来ならば在り得ない筈のその場限りの奇跡。

 

それはグレートマイトガインとレイアースに希望を齎した。

 

 

「グレートマイトガイン・エクリプスモード!!」

「天神・レイアース!」

 

 

エクリプスの持つ浄化の力を二機に与えたのだ。

 

 

「何だ…何だ、この輝きは!?」

 

 

二機の姿に狼狽えるブラックノワール。

 

今まで有利の位置に立っていた自身の足元が瓦解するかの様な感覚に見舞われたのだ。

 

 

「行くぞ!ブラックノワール!!」

「これが貴様の最後だぁ!!!」

 

 

浄化の輝きを纏った二対の剣が魔のオーラごとブラックノワールを切り裂く。

 

 

「馬鹿な…この私が…」

「悪を演じた道化は道化らしく舞台を降りなさい。」

「まさか…お前は…ガン!?」

 

 

ハスミに向けられたその言葉を最後にブラックノワールは消失。

 

一行は崩れ去る要塞を後にし脱出した。

 

 

 

******

 

 

Xー18999コロニーでの陽動作戦に嵌められた鋼龍戦隊とロンド・ベル隊にプリベンター。

 

陽動とは言え、放置すればコロニー落としの要となってしまう。

 

対応力として鋼龍戦隊とロンド・ベル隊が残留。

 

プリベンターは先んじてマリーメイア軍が占拠したブリュッセルに降下したのだ。

 

数時間後、ベルギーのブリュッセルにて。

 

リリーナ外務次官を誘拐し新たな指導者として名乗りを上げようとしているマリーメイア・クシュリナーダ。

 

彼女は地下シェルターに移動した官邸内にて唖然としていた。

 

降下したプリベンターのメンバーが圧倒的な敵MSの数を前にしても怯まず抵抗活動を続けていたのだ。

 

抵抗を辞めずに必死に抗うプリベンターのメンバーを目にし「何故?」と答えたマリーメイア。

 

リリーナは「貴方達と言う戦争がある限り、彼らは戦うのです…真の平和の為に。」と答えた。

 

しかし、デキム・バートンは「こんな事で我々の理想は…」と言いかけたその時。

 

突如、外部より音声通信が入る。

 

 

『成程。』

「誰だ!?」

『やはり、蒼い睡蓮の情報は正しかったと見える。』

「まさか…その声は!」

『私の亡霊が暴れていると言うのでね、直々に退治しに伺ったのだよ。』

 

 

戦場と化したブリュッセルの街に降下する機影。

 

青いトーラスの部隊とそれを指揮する一機のMS。

 

知る者であれば忘れもしないだろう。

 

彼こそ真の敗者にして平和の為に尽くした人物。

 

 

「トレーズ・クシュリナーダ…だと!?」

『久しぶりだね、諸君。』

 

 

嘗ての同胞達に言葉を掛けるトレーズ。

 

音声から映像通信に切り替わり映し出されたその姿は紛れもなく彼であった。

 

 

『そして…マリーメイアだったかな?』

「貴方がお父様…」

『残念だが私は誰とも子を成した事は無い。』

「!?」

『君はデキム・バートンの娘のクローン……愚かな者達が過去の栄光を隠れ蓑とする為に生み出された。』

 

 

トレーズは静かに告げた。

 

もしもトレーズが子供を成していたのならマリーメイアは彼が十八の頃に作った子供となる。

 

だが、正式な経歴からも解る様にそんな余裕すらない軍属時代を送ってきた彼には到底無理な事だ。

 

ホルトゥスが廃棄されたバートン財団の研究施設を虱潰しに捜索した上でこの真実にたどり着いたのだ。

 

コーディネーターすら生み出す時代なのだからクローン培養も可能である。

 

彼女は欲深な者達によって捻じ曲げられた運命を押し付けられて生まれた。

 

偽りのトレーズの娘として支配者になる為の駒として…

 

 

『デキム・バートン、私は貴方の所業を許さない。』

 

 

トレーズは答えた。

 

罪もない子供を愚かな大人の道具にさせてはならないと…

 

マリーメイア軍に所属していた兵士達はトレーズの言葉に動かされ武器を降ろした。

 

そして戦うべき相手をデキム・バートンと捉えた。

 

潜入したレディ・アンの助けもあり、リリーナとマリーメイアは救出され…

 

二人を狙ったデキム・バートンは部下達に射殺された。

 

これで贖罪が済むとは限らないがトレーズの理想を捻じ曲げた事に謝罪したいと部下達は答えた。

 

 

『マリーメイア。』

「おとう…いえトレーズか…」

『君が良ければ正式に私の養女として引き取りたい。』

「え?」

『君は今回の事で戦争とは何か?恐怖とは何か?を学んだ筈だ…』

「私は…」

『返事は今でなくとも構わない、よく考えてから答えを出すといい。』

 

 

トレーズは衰えを見せない手腕で鮮やかにマリーメイア軍の反乱を収めた。

 

 

「…」

「全く、美味しい所持っていきやがって。」

「ですが、これで反乱も終わりを告げるでしょう。」

「そうだな。」

「トレーズ、これがお前が求めた正義の形か…」

「新たな可能性の形でもあるが…かつてない波乱もあるだろう。」

「これから忙しくなりそうですね。」

 

 

ヒイロらプリベンターのメンバーはトレーズの生存に驚きを隠せていなかったが、一人の人間として戦争を止めた姿を静かに静観していた。

 

その後、マリーメイア軍による反乱は終息。

 

首謀者のデキム・バートンは死亡しバートン財団は解体。

 

後日にはマリーメイア・バートン改めマリーメイア・クシュリナーダは正式にトレーズの養女として迎え入れられた。

 

そしてトレーズ・クシュリナーダは地球連合軍の連合議員の一人として政治の舞台へと戻った。

 

二つの戦いは終息し人々は平穏を取り戻しつつあったが…

 

過酷な戦いが待ち受けている事を一部を除いて知る事は無かった。

 

空白事件の折に次元震によって転移してきた転移者達はそれぞれ元の世界へと帰還。

 

世界は再び平穏と言う嵐の前の静けさに包まれた。

 

 

=続=




消える事には慣れてない。

それでも消える事を覚悟した。

私は…

次回、幻影のエトランゼ・第六十一話 『離別《ワカレ》』

日々の平穏にさようなら。

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