破滅に染まる傀儡達。
変異が起こした悪意の矛先。
それらを討ち倒す。
まさか土壇場で対ダークブレインとネオグランゾンの戦いに手を貸す事を禁じられるなんて…
それでも信じるしかない鋼龍戦隊の仲間達を。
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異空間に姿を現した異形の存在。
前回、ハスミが答えたバアルと言う言葉にテンペスト、カーウァイ、ハリスが答えた。
「あれがバアル…」
「以前、ハスミが話していた根源的厄災…か。」
「原型は違っているけど…元バラルだった僕が永い時の中で戦い続けてきた百邪共の正体だよ。」
バアル、人類の敵にして根源的災厄を振り撒く禍。
ハリスさんの言う通り…その戦いの歴史は古く、いつとも知れぬ過去から多元世界全てを舞台に戦いが繰り広げられてきた。
その在り方は『永遠の闇』若しくは『生命ある者の最大最強の敵』。
常にその姿と形を変異させつつ人類を脅かしてきた。
何度も引き起こされた宇宙消滅の運命を人類に促す為に。
だが、その運命を受け入れるなど到底出来ない。
今の人類は生きる力に満ち溢れているのだから。
「…アサキム。」
「ツィーネ、これが僕が戦う理由の一つだよ。」
「ええ、判っているわ。」
ツィーネもあらかじめ説明を受けていたが、奴らとの遭遇に対し冷や汗を流している。
こう言っては何だが…彼女が後のソーラリアンの護衛に就いたのは正しい判断だっただろう。
いくら地球連合軍で一部隊の隊長を務めていたからと言っても限度がある。
冷たい事を言うと…この程度で後ずさるなら御使いとの最終戦に参加しない方がいい。
そんな私の考え癖の間にバアルはその力を具現化し黒いアンゲロイと黒いシュムエルの部隊が形成した。
例外を除いて前者は兎も角、後者は私以外初見である。
「ハスミ、片方に見覚えはあるか?」
「はい、現時点では開発されていない機体ですが。」
「…そうか。」
後者に関してはバルマーが本格的に地球へ攻め入った時に使用される機体だ。
L5戦役で投入されたエゼキエルの発展型。
だが、生産コスト面を考えた上で弱体化しつつある機体。
バアルが生み出したとなると滅んだ並行世界からの逆輸入だろう。
それは幾多の並行世界の中でイデの結末と霊帝によって滅んだサルファのBADENDからかもしれない。
そうであるならその力は計り知れない。
バアルは常に人類の敵としての概念を持つ。
気持ちが悪いほどにこちらの手の内を読んでいる。
「と、言う理由ですが隊長…どうされますか?」
「この状況では戦うしかないのだろう。」
「カーウァイ中佐の言う通り…ここは戦うしかありません。」
私は異空間に現れた敵機体のスペックと出所をカーウァイ中佐らに説明。
そしてバアルが仕掛けた戦いである以上は避けられない事も伝えた。
「判った、互いにペアを組んだ上で奴らに応戦する!」
カーウァイの支持の元、それぞれがペアを組む。
編成の都合上、より相手の癖を知るもの同士がペアとなった。
「中佐、お供します。」
「テンペストすまんな。」
一組目はアルブレード・カスタムとエクスガーバイン・アクスト。
「ロサ、サポートを頼むよ?」
「はい、任せてください。」
二組目はエクスガーバイン・クリンゲとエクスガーバイン・ピストーレ。
「ケイロン、貴方と共に。」
「判った。」
三組目は念神エクリプスと蒼雷。
「アサキム、私が援護するわ。」
「ツィーネ、頼んだよ。」
四組目はシュロウガとカオス・カペル。
それぞれがツインでのペアを組み、応戦を開始した。
「…(今回のは無限力いやバアルのお遊びか?」
こちら側の手が少ないが、このまま奴らを放置すれば元の世界への影響は計り知れない。
出来るだけこの場のバアルの戦力を削ぐ。
いずれ来るこちら側の『終焉の銀河に至る戦争』への障害を少しでも減らす為に。
「…」
この気配、奴らの手の者ではないな。
だが、不在の俺が戻らぬ以上は奴らの追跡の手は拡がるだろう。
未だ予兆がないとはいえ油断は出来ぬ。
その時は別れの時か…
「ハスミ。」
「ケイロン、どうしたの?」
「奴らがこの地へ訪れたのならば…」
「はい、遠からず…あの戦いは引き起こされます。」
「やはりか。」
「その話は後程、今は奴らを!」
「承知した!」
別れの時は近い。
そう、あの光景が近づきつつある証拠。
互いに戦い遭うと言う光景は今も私の心を蝕む。
愛するが故にその手は鈍るのだ。
「…(そう言う事か、血は争えないって言うけど。」
戦闘を続ける周囲を他所にハリスはハスミの思考を読み取っていた。
念者である以上は彼女の思考は隠していても父親である彼には筒抜けである。
血は争えない。
それは歴代のアシュラヤーの巫女達の愛した者達が全て闇側の者だからである。
心に闇を持つ者、闇に生きた者など理由は様々であるが愛した存在達が闇の側に存在した事は確実である。
闇の側だからこそ光の側では判らないものが視えた。
闇の側と光の側を見比べ見極める事で真実を識る。
それがアシュラヤーの巫女達が世界を守り続ける為にやってきた事。
愛する事もまた彼女らは闇を受け入れる事を躊躇わない証なのだろう。
「…(レンゲ、今なら君の話していた事が分かる気がするよ。」
君が僕を愛してくれた様にあの子は彼を選んだ。
いずれ彼が星一つを支配する運命であってもその先の未来の為なのだろう?
己の命を彼に捧げる事になっても…
レンゲ、あの子は君に似て何処までも優しすぎるよ。
常に冷静に事を視ているかの様でその真意は力を持つには優しすぎる。
それでも手を汚さなければならない事を誰よりも知っている。
「…(奴の目覚めも近い上に例の計画も中途半端な状態で推し進められようとしている。」
ハスミ、君が言う様に次の戦いはかなりの修羅場だろう。
コソコソと影で何かを仕掛けようとしている連中の事も気にしているのは判る。
だけど、全部が全部…君だけの手に収まる状況じゃない。
君は奴らの足枷になるんじゃない。
戦士達を導く標にならなければならない。
その事を忘れないで欲しい。
>>>>>>
同時刻、ソーディアン内部で起こった次元震によって鋼龍戦隊は異空間へと引き込まれた。
それは戦いを放棄したデュミナス一派や新修羅王となったフォルカに加勢したアルティスらを巻き込んだ。
彼らの前に現れたのは戦士ロアの宿敵ダークブレイン。
奴は一二の至宝を求めて転移していた。
その過程で何機ものソーディアンを破壊していた。
デュミナスの創造主だったが失敗作の烙印を押された彼女はエミィ・アーマーを強奪しこの世界に転移した。
そして転移の衝撃で記憶を失ってしまったらしい。
記憶を失った後に起こした悲劇は誰にも責められるものではないが、償う事は必要だろう。
戦士ロアが持つオーバーゲートエンジンを狙うダークブレインとの交戦は始まった。
今までの敵とは異なる気配を感じさせるダークブレイン。
それは闇黒の賢者と称されるに相応しい存在だろう。
だが、闇があるからこそ光もまた訪れるのだ。
「何故!? どうして!?」
「ダークブレイン、これが貴様の最後だ!」
「お、俺はこんな結果、認めない! 認めないぞ!!」
「な、何だ!?」
「たがが人間ごときに……! この私が敗れるなどあり得ん!」
「何か話している事がごちゃ混ぜになってるニャ。」
「うぬううう! 頭が! 頭が割れそうじゃ!!」
「まるで複数の人格を有している様にも思えますわ。」
フォルカの応対を始め、タスク、シロ、シャインが暴走するダークブレインの会話を聞き取っていた。
「あああ……! 消える……消えてしまうぅ……!」
頭を抱えて支離滅裂な言葉を言い続けるダークブレイン。
その最後にファイターロアとエミィが言葉を紡ぎ、ギリアム少佐は一人ダークブレインの目的を察した。
「何でやねん!? 何でワイがこないなトコで死ななアカンねん!!」
「自分の胸に手を当てて聞いてみやがれってんだ!」
「闇在る所に光在り! 光在る所に闇在り!!」
「お兄ちゃん、もう聞こえてないみたいよ…」
「ワシの頭が……! ワシの頭が割れる!! 忘れるな! 知的生命体在る所に、我らは存在する! お前達がいる限り……き、消える! 消えてしまうぅぅぅ!! 我らは叡智の結晶! 闇黒の思念集積体!」
「…(やはりハスミ少尉が話していた通り奴の目的、その正体は…。」
「おおおおお……! あおおおお……!! 十二の鍵! 至高天! 私が…… 私が消えるぅぅぅぅ……! おああああああ……! あううおおおおおお……!!」
異空間で最後の断末魔を上げながらダークブレインは闇に散った。
だが、彼らの戦いは終わった訳ではない。
闇の牢獄より解き放たれた存在との戦いが残っているのだから…
******
戦える限りの弾薬とENを使い尽くし機体を酷使した。
ギリギリとも言える状況でバアルは頃合いと感じたのか撤退を始めた。
奴らのお遊びに巻き込まれた身として虫唾が走った。
異空間の果てに消えていく影を睨みつけながら私は答えた。
「私達は必ず…その喉元に喰らい突いて見せるわ。首を洗って待っていなさい!バアル!!」
これで私はもう日常には戻れない。
その時が差し迫っている。
機械仕掛けの神々が目覚めの時を迎えるから。
そして故郷を滅ぼそうとする者が目覚めるから。
私は全てを投げ討ってでも戦う。
=第三章・完=
機械仕掛けの神々の目覚めの時は来た。
それは悪しき者達を封ずる為に。
それは戦士達を導く為に。
次回、幻影のエトランゼ・第四章『封印ノ詩篇』
封印せよ、己の使命を全うする為に。