幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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彼らとの出逢いはあの未来の為。

それは決められた運命を変える行い。

だが、時として運命は亀裂を生じさせた。

在るべきモノが二つに別たれたのだから…


第五十一話 『旅界《リョカイ》』

仮設キャンプをした場所を後にして数日後。

 

機体を飛翔させ周囲を調査するが民家の一つも見えない。

 

もしかしたらと私は嫌な光景と予感を脳裏に過ぎらせた。

 

 

「…(もしかして例の件がもう始まってしまっている?」

 

 

山羊の眼で再度調べた結果は件の日から数週間前。

 

それから既に件の期日まで一週間も切っている。

 

この場所が惑星ジェミナイである事は確定している。

 

だが、予備で宝珠に積載した機体の燃料のストックも残り数が少ない。

 

最小限の移動で事を進めてきたが、もう余り消費は出来ない。

 

 

「…(それでも彼らや奴らの気配は徐々に近づいているのに。」

 

 

もう一度、私にあの光景を眼にしろと言うのか?

 

ラスト・デイ…

 

時獄篇においての最終決戦の前夜。

 

酒に逃げるガドライト・メオンサムが語った惑星ジェミナイの滅亡の日の出来事。

 

僅か一夜にして惑星ジェミナイはサイデリアルによって滅ぼされた。

 

そして巡り巡って二人の女児が生き残ると言う首の皮一枚の結末を迎えた。

 

完全母系遺伝によるジェミナイド人の繁栄にはかなりの時を要するだろう。

 

それに彼ら…『鬼宿』の人々も望んだ戦いではなかっただろう。

 

もしも戦う事があるのなら彼こと尸空と私は対極星座同士。

 

互いのスフィアの相性も最悪と言う欠点を抱えている。

 

 

「ハスミ。」

「お父さん、どうかしましたか?」

「…また考え事?」

「はい、唯の気のせいだと思いたい位ですよ。」

「…そうか。」

「理由を聞かないのですか?」

「知り過ぎると痛い目を見るって身に染みて覚えたからね。何かある…でもそれはハスミにしか判らないのだろう?」

「そうですね、事情を知っていれば平行線で説明は出来ましたよ?」

「ま、事の成り行きはハスミに任せるよ…それに今回の事情はハスミの恋人君にしか判らないだろうし。」

 

 

お父さんの言う通り、話せないが正論だ。

 

今回の件はお父さん達に話し様がない。

 

この件は彼と私が結末を変えたいと言う我が儘でしている事なのだから。

 

 

「お父さん、あの時キョウスケ中尉達の前では遠回しに言いましたが…」

「?」

「応龍皇の修復は既に終えています。」

「早いね、流石はガンエデン達の癒し場と言う訳かい?」

「必要とあらば呼び寄せる事も可能です。」

「そうしたいけど今の僕は完全に傷が癒えていない。」

「…でしょうね。」

「本領発揮の時はもうしばらくかかりそうだよ。」

「判りました。」

 

 

無理はさせられない。

 

なら、別の手を使うしかない。

 

 

「カーウァイお義父さん、何処かで全員一旦止まって貰ってもいいでしょうか?」

「何かあったのか?」

「このままでは埒が明きません、私の念動力で索敵範囲を広げてみます。」

「だが…」

「ベースキャンプの時に十分休めました。」

「判った、無理はするな?」

 

 

私達は一度、近くの高台へと機体を下ろした。

 

私はコックピットから念の波動を広げて索敵を開始した。

 

最初から使えれば問題なかったのだが…

 

前回の私の不調もあり、力を使う事を制限されていた。

 

十分休んだ事で力は戻っている。

 

スフィアを使えば早い話であるが…

 

私のスフィアの件はまだお父さん達に話していない。

 

これも話せばクロノの排除対象にされかねない。

 

遠回しであるが念の力で地道に探すしかない。

 

 

「…(落ち着いてゆっくりと思念を広げて。」

 

 

この星の人々も念の力を持つ。

 

もしかしたら気が付いてくれるかもしれない。

 

 

「…」

「光龍、そっちはどうだ?」

「僕の方も特には…もしかしたら意図的に向こう側が気配を隠している可能性もあるかもね。」

「警戒していると?」

「この星の人々が念者なら余所者が入った事位は察知出来るだろうし。」

「…(ガドライトの持つスフィアの気配が感じ取れんとはどう言う事だ?」

 

 

同じく念による索敵をする光龍に声をかけるテンペスト。

 

光龍は反応は捕らえられず空振りである事と意図的に隠している可能性もあると語る。

 

同時にスフィアの気配からガドライトらの気配を探るケイロン。

 

こちらも気配が微弱なのか感じ取れない事に困惑していた。

 

 

「!?」

「ハスミ…これはちょっとばかり拙いかもね。」

「ハスミ、光龍、如何言う事だ!?」

「正直にお話しますと既に囲まれています。」

「何だと?」

「ついでに言うと手出しをしない方がよさそうだ。」

「…」

 

 

エクスガーバイン二機、アルブレード・カスタム、蒼雷の周辺から姿を現した機動兵器。

 

数からして小隊と推測する。

 

私達は手出しをしない様に地面に機体の武装を置いた。

 

 

「おーし、そのまま静かにしてろよ?」

 

 

小隊長と思われる機動兵器がこちらに近づいてきた。

 

 

「お前ら何モンだ?ここ暫くの間に人様の星をウロチョロしていた様だが?」

「偶然、次元震に巻き込まれてしまい不可抗力でこの星に転移してしまったのです。」

「!?」

「私達は辺境銀河にある太陽系・第三惑星地球と言う星の住民です。」

「要は異星人って事か?」

「私達からすればそちらも異星人と言う事になりますね。」

「俺達は惑星ジェミナイの精鋭部隊ジェミニス、俺は隊長のガドライト・メオンサムだ。」

「我々は地球連合軍・極東方面所属伊豆基地所属の鋼龍戦隊。私はカーウァイ・ラウ中佐。」

「ご丁寧にどうも、そっちの若い子は?」

「同基地所属・諜報部のハスミ・クジョウ少尉です。」

「…」

「我々に敵対の意思はない、状況を把握する為に話し合いの場を持ちたいのだが?」

「隊長、どうされますか?」

「潔く武装解除したんだ、話位は聞いてやってもいいじゃないか?」

「了解しました。」

「そう言う訳だ、機体から降りて貰ってもいいか?」

「判った、そちらの指示に従おう。」

 

 

私達は惑星ジェミナイの精鋭部隊ジェミニスの指示で機体から降りた。

 

同じ様にジェミニスの人達も機体から降りて私達に携行銃を構えていた。

 

余所者の私達に対する念の為の措置なのだろう。

 

 

「さてと、先ずは…そっちの星の住民にも念者がいるのか?」

「え…?」

「お前さんだったかな、こっちの方に思念を飛ばしていただろう?」

「そう言う事でしたか……返答するなら私達の星に居る念者はごく一握りです。」

「つまり限られた人間しか使えないって事か?」

「はい、私と父は念者ですが…残りの三名は普通の人間です。」

 

 

ガドライトはハスミに質問し彼女から返答を得ていた。

 

 

「次の質問だ、そっちの地球とやらにサイデリアルって連中が攻めて来ているか?」

「…いえ。」

「辺境銀河なだけに連中は手を伸ばしていない…か。」

「…(この人、もしかして?」

「アンナロッタちゃん、もう少しこの子とお話があるから残りの連中の見張りを頼めるか?」

「隊長、しかし…!」

「そっちのガタイのいい兄ちゃんもついて来てくれ、それなら大丈夫だろ?」

「承知した。」

 

 

ガドライトは副長であるアンナロッタと部下にテンペスト達の見張りを頼んでハスミとケイロンの二名を連れて少し離れた場所に移動させた。

 

 

「ここなら他の連中に話は聞こえねえな。」

「…あの。」

「先ずは…何でテメエがここに居るんだ?」

「…」

「相変わらずのダンマリか?」

 

 

ガドライトはある理由を含めてケイロンの真の名を告げた。

 

 

「なあ…次元将ヴィルダーク。」

「ガドライト・メオンサム……まさかお前までも記憶を持っていたとはな。」

「スフィアをサードステージに覚醒させたら案の定って奴さ。」

「これも未来を変える為の変異か…」

「…やっぱり勘違いじゃなかったのですね。」

「勘違い?」

「多分、こうすれば分かって頂けると思います。」

 

 

ハスミはパイロットスーツ越しに手甲を出現させ、宝珠の部分に取り付けたリングを外した。

 

 

「!?」

「分かって頂けましたか?」

「ハスミ…お前もスフィアリアクターだったのか?」

「はい、私は『知りたがる山羊』のスフィアリアクターです。」

 

 

ハスミは再び宝珠にリングを取り付けると手甲を戻した。

 

 

「成程な、道理でこっちの意図を読めた訳か…」

「騙す様な事をして済みません。」

「いや、それよりも何でお前さんはヴィルダークと一緒に行動しているんだ?」

「最悪の結末を回避し御使いを倒す為です。」

「…」

「もしくは一族の使命とも言えます。」

「一族?」

「ハスミはかつて御使いに反旗を翻したと伝説にある四人のガンエデンの一人、アシュラヤー・ガンエデンの巫女だ。」

「!?」

 

 

ガンエデンの言葉に反応するガドライト。

 

彼女らの伝承は外宇宙でも広まっているらしい。

 

 

「ガンエデンの伝承が何処まで広がっているのかは私にも判りませんので普通に接して頂いても構いません。」

「お、おう。」

 

 

引き続きハスミはヴィルダークと共に御使いへの反攻の一手を目論んでいる事をガドライトに伝えた。

 

 

「成程な、アンタらも連中への反逆を考えていたって事か。」

「ああ、だが…俺の立ち位置は前と然程変わらん。」

「今回も皇帝アウストラリスの肩書を背負っているって訳か?」

「私も少しずつですが、御使いに対抗しうる戦力を集めています。」

「それで例のリングでスフィアリアクターの気配を隠していたのか。」

「この力を連中に悟られる訳にはいかないので。」

「確かに連中の元にあったらヤバイ代物だろうな。」

「ガドライトさん、あの…」

 

 

ハスミはこれから発生するジェミナイ滅亡のタイムリミットが迫っている事を告げた。

 

 

「今回も尸空の奴が部隊を引き連れて現れるって事か。」

「提案としてジェミナイの住民を何処かへ避難させようと考えています。」

「避難ね…何処にそんな場所が?」

「アシュラヤー・ガンエデンが守護する銀河に移住可能な惑星があります、一先ず其処へ。」

「…」

「勿論、故郷を捨てると言う事がどんなに悲しい事か理解しています。」

「だが、命あっての物種って奴さ……だが、こっちの政府は早急に対処はしないだろう。」

「馬鹿げていると?」

「それもあるが…女神様のお告げなら動くんじゃないか?」

「あーそう言う事ですね。」

 

 

ハスミはガドライトの話に納得した後、問題点の再確認を行った。

 

 

「残りの問題はサイデリアルの事です、目標のスフィアが無ければ連中の追撃が止む事はないでしょう。」

「ヴィルダーク、今回も俺達ジェミニスはサイデリアルに下ろうと考えている。」

「いいのか?」

「連中を欺く為には仕方がないだろう?」

「尸空とエルーナ、バルビエルに記憶が戻る兆しが無い以上は極秘裏に動ける者が居ると助かる。」

「では、手筈通りに?」

「ああ、一世一代の反逆の一手の一つを行うとする。」

 

 

それから数日の内にジェミナイの人々は蒼き女神のお告げにより女神が守護する領域の惑星へと移住。

 

後釜としてジェミニスがジェミナイの痕跡を削除しサイデリアルの侵攻を待った。

 

更に三日後、ジェミニスはジェミナイの生き残りとしてサイデリアルに投降。

 

反攻の一手の一つが成された瞬間でもあった。

 

その後、ガドライト・メオンサムらジェミニスの協力を得られた私達は別れの言葉を告げた直後に次元震によって次の世界へ旅立つ事となった。

 

次の世界では滅亡の危機に瀕した聖インサラウム王国へ転移し暴走する『次元将ガイオウ』を退けた。

 

どうやらこの世界でも『蒼き女神の伝承』は行き渡っていたらしく、こちら側の話を聞き入れてくれた。

 

何とか国の滅びを食い止めたが、キング・インサラウム72世の死は食い止める事が出来なかった。

 

ただ、遺児であるユーサー皇子には助言をしておいた。

 

 

「愛する事は民だけではなく全ての人々に…そして自分自身を愛し許す事を忘れないでください。」

「ハスミ君。」

「国は民が居れば何度でも再建出来ます、ユーサー殿下…どうか間違った選択はなさらぬ様に。」

 

 

それをどう受け止めるかは彼次第である。

 

そして再度強襲したガイオウを止めたもののユーサーらに別れを告げられずに次元震に巻き込まれてしまった。

 

何度目かの次元震で更なる世界に到着後、私は彼と二人で話し合った。

 

 

「ヴィル、遅くなりましたが報告して置く事があります。」

「どうした?」

「今世の『いがみ合う双子』は一つじゃなく、二つに分かれている可能性があります。」

「何だと…!?」

「双子座の特性がそうさせたのか若しくは今世の状況が変化を促したのかもしれません。」

「…」

「ヴィル?」

 

 

私は彼が何かに思い悩んでいた事を察して名を呼んだ。

 

 

「やはり、先のガイオウ…いえ、ヴァイシュラバの事ですか?」

「記憶を失っているとは言え、奴の戦闘力は健在だ。」

「ヴィシュラカーラを失っていない以上は再生能力も侮れませんね。」

「だが、いずれ奴との戦いは避けられんだろう。」

 

 

心苦しいだろうが、私は話の筋を戻した。

 

 

「私達が目指す未来……変えつつある未来の為に変容したとしか思えません。」

「では、スフィアが二つに別れた理由があるとすれば…」

「ヒビキ・カミシロとガドライト・メオンサムの二人の元へ巡り遭う為にスフィアが形を変えたのかもしれません。」

「どちらもか…」

「後のZ-BLUEとサイデリアル。ラースバビロンの戦いでスフィアリアクターが五名ずつ…帳尻は合うでしょう。」

「いずれ戦場で雌雄を決する時の為か…」

「はい。」

 

 

私やヴィルもいずれ戦う運命。

 

それが二人の約束の為で遭っても心苦しい。

 

正直に言えば怖い。

 

あの人をその手にかけてしまうのではないかと…

 

もしも失ってしまった私はどうなってしまうのだろうか。

 

 

「ハスミ。」

「ヴィル?」

 

 

不安な表情をした私を彼は抱きしめた。

 

 

「…」

「約束の為の戦い…どちらに転んでも俺達の願いは消えはしない。」

「…ヴィル。」

「例え、世界を敵に回す行為だったとしても……未来を紡ぎ出す為に何度でも立ち上がろう。」

「はい。」

 

 

それでも私は彼が折れてしまうのではないかと不安が過ぎる。

 

山羊の眼はそれを示していた。

 

玉座の地で赤く紅く朱く染まった矢が山羊の身体を貫く光景を眼にしてしまう。

 

だとしても彼の願いの為ならその結果も受け入れる事を決意した。

 

私が女であるが故に…この想いまでは歪ませない。

 

 

「ヴィル、もう少しだけ…」

「?」

「もう少しだけ、このままでいさせてください。」

「判った。」

 

 

今はただ、彼の温もりを感じたい。

 

私は彼の温もりと言う微睡に身を任せた。

 

 

=続=

 




彼は貌を仮面で覆う。

それは何の為?

偽る事?隠す事?


次回、幻影のエトランゼ・第五十二話 『狩人《カリビト》』。


悪意に絡め取られた意思に抗いの道はない。



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