ダンガンロンパ ~超高校級の凡人とコロシアイ強化合宿~   作:相川葵

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(非)日常編② 健全な絶望は健全な肉体に宿る

 《更衣棟》

 

 杉野と共に、まずは更衣棟へと移動する。ここが【運動エリア】であることとその名前からその用途は推察できる。更衣棟は特筆することのない平屋だったが、その用途を考えるとこのくらいシンプルで構わないのかもしれない。

 中央に位置する入り口を開けると、広い通路がまっすぐに伸びていた。その中央部の左側にも通路が続いている。これまでの建物同様に監視カメラやモニターが設置してあるのも見えた。

 

「岩国さん、何か気になるものでもあった?」

「…………」

 

 その真ん中あたりで、先に探索をしていた七原と岩国が立っていた。彼女らの会話が聴こえてくる。会話、と言っても七原が一方的に話しかけているだけだが。 

 

「あ、平並君に杉野君」

 

 彼女がこちらに気づく。

 

「ちょうど良かった。声優、そっちを見てこい」

 

 それに続いて、岩国もそんな言葉を発した。指でどこかを示している。

 その示す先、入り口から見て右側に視線を向けると、そこには赤と青の二つの扉が並んでいた。

 

「あちらは……」

「ロッカールーム……なんだけど、男女で別れてるから男子の方は見れなかったんだ」

「見れなかった?」

「うん。カギがかかってるんだけど、自分の性別の方のカギしか開けられないんだって」

 

 そんな七原の声を聞きながら、青い方の扉のドアノブを掴む。ガチャガチャと音がするだけで扉は開かず、確かにカギがかかってるようだった。そのドアノブの下を見ると、個室の扉にもついていたまるい金属の円盤があった。ということは。

 ふと思い至って、指にはめていた『システム』をそれにかざす。

 

 ――ガチャリ

 

 そんな音が鳴ったのを聞いてドアノブに力を込めると、今度は扉がすっと動いた。

 

男子()の『システム』なら、こっちのドアが開けられるってことか」

「うん。私も岩国さんも女子の方しか開けられなくて。一応男子の方も開けられないか試してみたけど、エラー音が鳴っちゃった」

 

 ともかく、その扉の先には広い部屋が広がっていた。壁際に個人用のロッカーが8つ並んでいて、中央にはベンチも二つある。まさしく更衣室といった感じだ。床や壁にモノクマの顔がデザインされている事以外は、特筆することはない。

 部屋の中に入ってロッカーの中身を確認してみる。その中のハンガーに、白い体操服と青いジャージがかけられていた。胸の所に『火ノ宮』と刺繍がしてあるところを見るに、俺達のためにモノクマが用意したものだろう。名前の上には、希望ヶ空の校章も刺繍されていた。…………よく見たら、モノクマ風にアレンジがされていたが。

 

「男子の方もあんまり変わらないみたいだね」

 

 廊下から部屋の中を覗いていた七原がそんな事をつぶやく。隣りにいた岩国は無言だったが、特に異論は無いようだった。

 

「ってことは、女子の方も?」

「うん、大体こんな感じ。特に危険なものはなかったよ」

「そうですか」

 

 そんなやり取りをしていると、岩国がすっと外へ歩き出した。

 

「岩国さん?」

「もうここは調べただろ。次に行く」

「そんな急がなくても……」

 

 そう言いながら、七原が彼女の後を追う。

 

「岩国!」

 

 慌ててロッカールームを飛び出して、その彼女に声をかけた。

 ピタと足が止まる。首をひねって、冷たい視線を俺に突き刺す。

 

「…………」

「あ、えっと……」

 

 呼び止めたはいいものの、言葉が出てこない。何を話せばいいんだろう。

 

 ………………。

 

「……岩国。お前を裏切って、ごめん」

 

 なんとか、俺はその本心を絞り出した。

 

「…………」

 

 彼女からは、何の返答もない。俺の言葉は、今度も嘘だと思われたのだろうか。

 首を戻して前を向き、彼女は再び歩き出す。七原が俺の様子を伺うように一瞬こちらを向いたが、俺が黙って岩国を指すとすぐに彼女の後を追い、そのまま更衣棟を後にした。

 

「随分嫌われておるのう、平並凡一よ」

 

 周りに人がいなくなったからか、杉野が【魔女】の声でそう語りかけてきた。その声を聴くだけで敵意が湧いてくる。

 

「……黙ってろ」

 

 岩国に好かれていないことなんか百も承知だ。それでも、この謝罪はしておきたかった。彼女が、俺の言葉に耳を傾けてくれたこのチャンスに。

 

 

──《「俺はもう、お前を信じない」》

 

 

 俺に向かってはっきりとそう告げた彼女の信頼を、いつか取り戻せる日は来るのだろうか。

 

「……調査の続きをするぞ。まだ更衣棟を調べきってない」

「言われなくても分かっておるのじゃ」

 

 飄々とした【魔女】の態度に苛立ちを覚えながら、ロッカールームの扉とは逆側にあった通路を覗き込む。その通路には、左右に2枚ずつの扉があった。1から4の番号が振られている。

 適当に、1番の扉のドアノブに手をかける。こっちの扉はカギもかかっておらず、軽い力で開いた。ドアノブの近くに例の円盤もなかったし。……と思ったら、内側には付いていた。内側からはカギをかけられるようだ。

 

「この部屋は……シャワールームか」

 

 扉の先には、二つの部屋が縦に連なっていた。手前側が脱衣所だろう。左右の壁に棚が埋め込まれていて、カゴやハンガーが用意されている。

 奥側の部屋はシャワー室になっていた。全面の水色のタイルが張られた清潔感溢れるその空間の上部に、シャワーヘッドが設置されている。壁には水温や水量を調節するノブも付いていた。

 まあ、この空間にも特に危険そうなものはない。死ぬほどの熱湯がかけられるというわけでもないだろう。……ないよな?

 一応確かめてみたが、常識的な範疇に収まる水温だった。神経質になりすぎか。

 

「他の部屋も同じような構造のようじゃぞ」

 

 廊下に居る【魔女】からそんな声が飛んでくる。

 

「…………」

 

 1番のシャワールームを出て、他の扉の先にも目を通す。シャワールームのタイルがそれぞれピンク、黄緑、黄色になっていることを除けば、どれも判で押したように同じ構造だった。

 

「余がどれも同じじゃと言ったのじゃから、再び確かめるのは二度手間じゃぞ」

「うるさいな。お前の言葉を信用なんか出来るか」

「余もこんな見ればすぐ分かる嘘なぞつかぬわ」

 

 それこそ、信用できない。

 

 

 

 

 

 

 

 《体育館》

 

 更衣棟の調査を終えた俺達は、次に体育館へとやってきた。俺が通っていた学校のものよりは大きなサイズだが、見慣れたカマボコ型の建物を見ると、かつての日常を思い出してどこか安心感を覚える。それが油断に繋がると思って、すぐに気を引き締めた。

 確か、体育館には火ノ宮達がいたか。そう思いながらガラガラと体育館の引き戸を開ける。

 が。

 

「……誰もいないな」

 

 体育館の中に人の気配はなかった。

 

「火ノ宮君達は探索を終えて他の場所に行ったんでしょう」

 

 きっと杉野の言うとおりだろう。まあ、別にいないなら改めて探索するだけだ。

 中に入って体育館を見渡す。広い広い体育館は、概ね俺達に馴染み深い一般的なものだった。ステージはなく、完全に運動のための施設のようだが。角には一つの扉がある。その先は用具室にでも鳴っているのだろうか。そして、高い高い天井の隅に申し訳程度に監視カメラが付いていた。それとモニターも。……あんな所につけたら誰も見れないだろうに。ボールが飛んで壊れるのを防ぐためか?

 足元に目を向ければ、茶色い床板が敷き詰められそこに様々な色でコートのラインが引かれている。バドミントンコート、バスケコート……ん?

 

「何だこれ、めちゃくちゃじゃないか」

 

 バスケコートのラインだと思った白い線は、途中からグニャグニャと曲がりくねって、魔法陣のようなまるい模様を形成していた。よく見ると、他の線も途中からまともに機能していない。正しく引かれている線は……一つもない。

 

「まるで意味がない……」

「モノクマらしいと言えばモノクマらしい施設じゃの」

 

 いつの間にか、杉野の声が【魔女】のものになっていた。

 

「……さっきもそうだったが、鬱陶しいからその声はやめろ」

「そう言われてもの、ずっと声を変えているのも面倒なのじゃ。せめてそなたの前でくらい地声を使わせてほしいものじゃの。見方を変えればそなたを特別扱いしているともいえるのじゃから、光栄に思うがよい」

「そんな特別扱いは要らない」

 

 呆れ返りながら、とりあえず探索を進める。

 体育館の端には、トランポリンが2つ並んでいた。その周りにはクッションとしてのマットがいくつも敷かれている。競技用のトランポリンだ。中学時代に通っていた体操教室にもあった気がする。

 試しに乗ってみると、ギシギシとスプリングが鳴る。少し揺らせば、重力に逆らって体が宙に浮く。まともに機能するらしい。

 

「…………」

 

 なぜ、急にトランポリン? 唐突な気がする……が、そもそも床にメチャクチャな線を引くヤツの意図を考えてもしょうがないだろう。

 

「向こうの扉も確認しておこうかの」

「…………」

 

 杉野が示したのは、先程も目についた隅の扉。その上には予想通り『用具室』と掲示がある。鍵はかかっておらず、重い引き戸に力を込めるとガラガラと開いた。

 コンクリートの壁や床に囲まれたその冷えた空間には、スポーツ用具がギュウギュウに押し込められていた。折り畳まれた器械体操用のマット、12段の跳び箱やロイター板、カゴに積まれたバスケやバレーにドッジボール用のボール、バドミントンのラケットとシャトルに、ネットやそれを立てるための重い金属製の支柱……屋内スポーツの道具が一通り揃っているようだった。道具が揃っていても、コートがあの有様では意味がないが。

 凶器になりそうなものは……どうだろう。ネットで首を閉めることはできるか? できなくはないだろうがわざわざそれを凶器に選ぶとは考えにくい。ネットをかける支柱はどうだろうか。重すぎて一人では持てず、撲殺することはできないか。じゃあ跳び箱は……。

 

 と、そこで、思考が殺意に染まっていることに気づく。どうしてこんな日常品で誰かを殺すことを考えているんだ。コロシアイを防ぐために必要なこととは言え、そんな事を自然に考えてしまった自分が嫌になる。

 

「…………」

 

 首を上に傾げて、暗い天井を見て気持ちを落ち着かせる。

 

 もはや、殺人も殺意もどこか遠い国の話では、決して無くなってしまった。

 もちろん、殺人事件のニュースなんかいくらでも目にしていた。毎日のようにメディアは猟奇殺人をとりあげるし、パトカーのサイレンだって耳馴染みがある。殺人がフィクションだけの存在だなんて思ったことなんか一度もない。

 けれど、誰かの命を奪うことや奪われることが自分の身に起きるなんてことは考えたこともなかった。代わり映えのない平穏で平凡な日常がずっと続いていくと思っていた。

 

 それなのに、気づけば血にまみれた日常に慣れてしまっている。誰かが殺される事に震え、誰かに殺される事に怯え、そして、誰かを殺す事を恐れている。

 

 こんな生活を続けていたら、いつか本当に頭が狂ってしまうんじゃないかと思えてくる。

 

「…………はぁ」

 

 無意識に、ため息が漏れる。頭を切り替えよう。

 ともかく、殺人が起こせないわけでは無いだろうが、取り立てて危険があるわけでもなさそうだ。というか、殺人が起こせない場所なんて基本的には存在しないし。

 

「体育館はこんな所かのう。つまらん場所じゃな」

 

 杉野も用具室を調べ終えたようで、そう結論づけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《大迷宮前》

 

 次にやってきたのは大迷宮。【運動エリア】という名前から一番かけ離れた施設だが、こうして近寄ってみるとかなり大きく壁も高い。その真っ白い巨大な豆腐のような建物の中が迷宮になっているのだとしたら、それは確かにかなり体力を使いそうだ。

 その大迷宮の前に、明日川とスコットが居た。

 

「おや、二人とも。探索編の進捗はどうだい?」

「ぼちぼち、と言ったところです。お二方はここで何を?」

「別に何もしていない。オレ達も今着いたところだ」

 

 そんな彼ら越しに大迷宮を見る。全面すりガラスの扉が二つポツポツと並んでいる。それぞれの扉の上には、『入り口』『GOAL』と看板が掛かっていた。言語がズレてる。

 何の気なしに、『GOAL』の扉に近づきドアノブに手をかける。カラカラと軽くノブが回るが、押しても引いてもドアは動かない。

 

「開かない……」

「当たり前でしょ!」

 

 突如、だみ声が響く。

 

「うおっ、モノクマ」

 

 その声に驚きながら、そんな声を出す。振り向いた先に、モノクマが居た。

 

「何だよ急に」

「『何だよ』って何だよ! 親切心で出てきてやったのに!」

「親切心、ですか?」

「そう! 大迷宮の扉のことだよ!」

 

 そう言って、モノクマは俺の立つ『GOAL』の扉まで歩いてくる。

 

「あのねえ、大迷宮は入り口から入ってGOALから出るもんなの。その逆はありえないワケ。だから、入り口の扉は外からしか開かないし、GOALの扉は中からしか開かないようになってるの! 逆走なんて、卑怯でしょ?」

「では、迷路(ストーリー)の途中で棄権する(本を閉じる)場合は? 引き返して入り口(表紙)から出る事はできないのか?」

「当っ然! 人生はどれだけ迷っても引き返すことなんてできないし、ワープすることもできないの。大迷宮から出たかったらなんとしてでもGOALまで辿りつくんだね」

「じゃあ、たどり着けなかったらずっと出られないってことかよ」

「まあそうだけど……でもそんな何日もさまようような代物じゃないし、右手法で突破できるんだからそう簡単に諦めるなよ!」

「右手法って、力技じゃないか」

 

 右手法。右手を壁に添わせてそのまま歩いていけばいずれは出口にたどり着けるという方法だ。その代り時間はかなり掛かるが。

 とはいえ、永久に大迷宮の中に閉じ込められる、なんてことは無さそうで良かった。大迷宮の中で衰弱死なんてつまらない死に方をモノクマは望まないだろうし。

 

「話は以上でしょうか?」

「あ、ボクをすぐに帰らせようとしたな! そうやってボクをのけもの扱いして!」

「では、なにか話の続きが?」

「………………無いよ!」

 

 そう叫ぶと、モノクマはどこかへと消えた。話がないならすぐに消えてほしかった。

 

「……さて、どうしましょうか」

「とりあえず、オレは中に入るつもりだ。一度は目を通しておきたいからな。アスガワもそれでいいか?」

「ああ、問題ない。ボクなら迷宮の踏破(読破)もたやすいだろう」

 

 明日川は完全記憶能力を持っている。大迷宮の中がどうなっているかはわからないが、少なくとも常人よりはずっとその攻略はやりやすいはずだ。

 

「では、僕達は別のところを探索しましょうか。大迷宮で迷子になる可能性を考慮すると、わざわざ二組で入る必要もないと思います。どうでしょう、平並君」

 

 名を呼ばれて、杉野の言葉を検討する。確かに、大迷宮の中の探索は明日川達に任せたほうが良い気がする。

 

「わかった。そうしよう」

「では、僕達はこれで。お二方、よろしくお願いします」

「ああ」

 

 と、スコットが短く答え、二人は『入り口』の扉から大迷宮の中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《中央広場》

 

 大迷宮から離れて中央広場に戻ってきた俺達は、そのまま反対側のグラウンドに目を向けた。踏みしめられた土の地面が一面に広がっている。

 そこにはしっかりと整備された400mトラックがあった。広々とした空間で、競技に使われる線もちゃんと引いてある。そのトラックの中には大きな扇形が白い消石灰で描かれている。おそらくは投てき競技用のものだろう。

 

「こんな立派な……誰が使うんだ」

「確かに……別に僕達の中に陸上選手などいませんからね」

 

 前回開放された【体験エリア】には、俺達の中の誰かのためのような施設がいくつもあった。図書館は明日川のためのように思えるし、実験棟の化学室は根岸に打って付けだろう。アトリエはよくわからないが、制作場の部屋は遠城やスコット向けだったように思う。一転、【運動エリア】の施設は、どれも誰に向けたものかよくわからない。ただのモノクマの気まぐれだろうか。

 グラウンドから目を反らし、体育館との間にある競技スペースに視線を移した。

 

「……色々あるな」

 

 無駄に高さのある鉄棒がドームの壁沿いにズラッと並んでいる。どう考えても供給過多だ。その側にはブランコやうんてい、ジャングルジムもある。これもサイズは大きく大人用なのだろうが、これでは競技スペースと言うより公園だ。一応【運動エリア】に名に恥じない物が揃っているようだが。

 とはいえ、遊具ではなくれっきとしたスポーツのための設備もある。長く伸びるレーンとそこに連なる砂場。きっと走り幅跳び用だ。その横に並ぶ同じようなレーンは……棒高跳び用だろうか。

 

「…………」

 

 走り幅跳びや、ましてや棒高跳びなんてめったにするもんじゃない。練習した経験はあるが、やろうと思わなければやる機会などない。トラックや遊具はまだ分かるが、どうしてこんな物まで作ったのだろう。スペースが余ったのか?

 

「体育倉庫の中も確認しておきましょうか」

 

 そう告げる杉野と共にドームの端に位置する体育倉庫へと移動すると、その扉は開いており、中から声が聞こえてきた。

 

「そういえばさ、翡翠は運動はあんまり得意じゃないんだよね」

『そりゃまあそんだけ長い髪してたらな。膝くらいまであるじゃねえか。縛るにしたって限界があるだろうし、切っちまったらどうだ?』

「え、やだ! せっかくここまで伸ばしたのに!」

『でもそのうち地面に付いちまうぞ』

「そうなる前に折り返すから大丈夫だよ」

『折り返す……ってどうするんだよ』

「えっと、だから……こう、先っぽを頭に持ってきて……あれ、章ちゃん、どうしたらいいかな?」

「し、知らないよ……」

 

 体育倉庫の中には、露草と根岸がいた。彼らも【運動エリア】の中を順に探索しているようだ。

 

「あ、悠輔ちゃんと凡一ちゃん!」

「……!」

 

 俺達に露草が気づいてそんな声を上げると、それに反応して根岸が肩を震わせた。振り向いて、こちらを見つめて……いや、睨んでいる。根岸のこの敵意をどうにかしたいと思うのは、傲慢だろうか。…………傲慢だろうな。

 

「露草さんに根岸君。ここの探索は終えましたか?」

 

 体育用具のひしめく体育倉庫の中に足を踏み入れながら、杉野がそう声をかける。それに露草が答えた。

 

「うん! 章ちゃんと一通り確認したよ」

『危ないもんは……まあ無えわけじゃねえな』

「そうなのですか?」

『ああ』

 

 と、露草(達)が杉野に返答したが、

 

「つ、露草……そ、そんな奴らと話すなって……い、いくぞ……」

 

 根岸がそう口を挟んだ。

 

「章ちゃん、どうしてそんな事言うの? せっかく会ったんだからお話してから行こうよ」

「こ、こんな連中と、な、何を話すっていうんだ……! ぼ、ぼくたちを殺そうとしてるかもしれないって、ず、ずっと言ってるだろ……!」

『そんな事ねえって。皆、仲間なんだぞ』

「だ、だったら、な、なんで二回も事件が起きたんだよ……! ほ、本当に仲間なんだったら、じ、事件なんか起こるはずないだろ……!」

 

 健気な露草の反論も、根岸は取り合おうとしない。

 

「だ、大体、お、おまえもこのまえ大天に命を狙われてたって説明しただろ……! あ、あのドアチャイムは、お、おまえを殺すために個室に来て鳴らしたんだって……!」

 

 ……そう言えば、あの夜大天は露草もターゲットに選んでいた。その殺意が明かされたのは露草が眠っていた裁判中だったが、その事も根岸は彼女に説明したようだ。

 

「そうだけど……それでも、仲間だもん! 悪いのはモノクマなんだから!」

「そ、それはこいつらを警戒しない理由にならないだろ……!」

「根岸」

「……な、なんだよ」

 

 興奮する彼をなだめようと名前を呼ぶと、彼は敵意を真っ直ぐ俺にぶつける。

 

「俺はもう誰かを殺そうなんて思ってない。お前にだって、皆にだって、もう誰にも死んで欲しくない。誰かの死を見るってことが、何よりも辛いことだって分かったから」

「…………」

 

 根岸は何も答えない。

 

「俺を嫌ったままでもいいから、それだけは、信じてくれ」

「…………」

「根岸君、僕からもお願いします。こうしてあなたが孤立しようとすることがいい結果に繋がるとは思えません。団結、いたしませんか」

「…………だ、誰かを信じたって、う、裏切られるだけだろ……」

 

 ポツリとつぶやく。

 

「す、杉野……お、お前だって、ほ、本当は何を考えてるかわからないじゃないか……」

「その点に関しては、信じてもらうしかありません。これでも、皆さんのために頑張ってきたつもりなのですが」

「…………」

 

 杉野を睨む根岸。……きっと、俺も杉野を睨んでしまっている。

 実際の所、少なくとも杉野に関してだけは、この根岸の疑心は当たっている。杉野は、他人を破滅させることに快楽を見出す【言霊遣いの魔女】なのだから。

 当たっているからこそ、根岸の疑心暗鬼を完全に取り除くこともまたリスクになる。だから、根岸の敵意は取り除いても、危機感まで消し去る訳にはいかない。

 ……だったら、このまま対立していた方が、いいのだろうか?

 それすら、わからなくなってきた。

 

「…………」

 

 一瞬口を開いた彼だったが、杉野には何も言い返さずに根岸は俺達の傍を通り体育倉庫の外へ出た。彼もまた、一言では表し切れない葛藤を抱いているのかもしれない。……いや、きっとそうだろう。俺達は、一つの感情だけでは生きてはいないのだから。

 

「……いがみ合ったって、どうにもならないよ」

 

 そのやり取りを聞いていた露草がつぶやく。

 

「色々あるかもしれないけど。そんなの全部無視して皆で仲良くなろうよ」

『喧嘩とかしててもよ、無理やり仲良くなっちまえばどうにかなるもんだ。皆で話して、皆で騒いで、それで仲良くなってモノクマに立ち向かえば良いんだ』

「……それができたら、良いんだけどね」

 

 露草も、この現状をどうにかしたいと思っているらしい。ただ、それを実践する事はただそう思うよりも遥かに難しい。どうすれば、この袋小路を抜け出せるのだろう。

 

「つ、露草……!」

「あ、ごめん章ちゃん! 今行くね!」

 

 出口に立つ根岸に呼ばれると、彼女は「じゃあまた後でね」と言葉を残して彼の方へ歩いていった。

 

「…………」

「それでは、僕達も体育倉庫を調べましょうか。何か危ないものがあるようですからね」

 

 杉野の声を聞いて、ため息をつきながら体育倉庫を見渡す。この体育倉庫には、【宿泊エリア】の倉庫のように手狭な空間に物が押し込まれている。ただ、そのどれもが運動に使われるものだ。体育館の用具室には屋内用の用具が揃っていたが、大してこちらにあるのは屋外用の用具だ。

 数十個と重ねられたハードルに、綱引き用の綱や玉入れの玉とカゴ。山のようになっている無数のストップウォッチや、無造作に積まれた小さい三角コーンもある。薄い円盤みたいなアレだ。

 他にも、高跳び用の支柱やマットもある。棒高跳びの棒や、バー、計測用のメジャーも揃っていた。

 それと、コートもフィールドもなかったのに、サッカーボールや野球ボールがある。他のものと違って使い込まれた様子はないし、これらは本当に使われていないのだろう。じゃあ、どうしてあるんだ。気まぐれか? 野球にはバットやグローブも必要だし。……そう言えば、金属バットは倉庫にあったな。

 そんな風に体育倉庫の備品を順に見ていくと、さっきみた投てきエリアで使うのだろうやりや砲丸、円盤を見つけた。

 

「……これは」

 

 砲丸を手にする。ずっしりと重い。

 

「これは凶器になりそうじゃの。どうするのじゃ?」

 

 耳に届く【魔女】の声。その声の通り、他に比べてこの砲丸は鈍器として扱うには十分な重さだ。やり投げのやりも危険と言えば危険だ。……ただ、神経質になりすぎだろうか。この砲丸をどうにかしたところで、凶器が消え失せるわけではない。

 

「あとで火ノ宮に持っていってもらうか」

 

 それでも、一応出来ることはやっておこう。妥協はするべきじゃない。……だったらアトリエの石材、というか彫刻材もどうにかしたほうが良いだろうか。

 

「……キリがないな」

 

 とりあえず、探索に集中しよう。他の設備のことまでは、今は手が回らない。

 とはいえ、体育倉庫の中は概ね確認した。それにしても、どうして円盤投げといいやり投げといい投てき競技がしっかり揃っているんだろう。あらゆるスポーツをカバーしているというわけでもないのに。

 

「ん……?」

 

 円盤投げ、やり投げ、砲丸投げ……聞いたことのある並びだ。

 ふと引っかかりを覚えて記憶を辿ろうとした俺の視界に、高跳び用のマットが映る。

 

「…………あ」

 

 思い出した。これ、全部十種競技の競技なんだ。

 走り幅跳びと走り高跳びに棒高跳び、あとやり投げ砲丸投げ円盤投げ。それにハードル走と中距離に短距離二つを加えて十種競技だったはずだ。月跳が【超高校級のアスリート】に選ばれた時に調べて、そのまま記憶に残っている。

 

 ……だとすると、まさかこれは、全部月跳のため?

 

「…………」

 

 いや、決めつけは良くない。大体月跳は……もう死んでいる。

 

「どうしたのじゃ」

 

 その【魔女】の声で、我に返る。

 

「……いや、なんでもない」

 

 頭を振って、思考を中断する。

 

「どう見ても何かあったようじゃがの。まあ良いじゃろ。次に行こうかの」

「ちょっと待て」

 

 俺の様子を気に留めず、外に出ようとする杉野。その後ろ姿を、呼び止めた。

 

「はい?」

 

 先に外に出て周りに誰も居ないことを確認すると、中に戻って体育倉庫の扉を閉める。

 

「……さっきのあれは何だったんだよ」

 

 そして、口を開いた。

 

「あれ、とはなんじゃ?」

「『団結』の話だ」

 

 今、狭い密室でちょうど杉野と二人きりになれた。さっき杉野は根岸にもそんな事を言っていたし、いい加減この話をしておきたい。

 

「お前はどうして『団結』なんか提案したんだよ。いがみ合ってる今の状況の方がお前にとっては都合がいいんじゃないのか?」

 

 【言霊遣いの魔女】として誰かに殺意を抱かせるのなら、むしろこの険悪な雰囲気の方が打って付けのように思える。

 

「それとも、ただ善人のふりをしているだけか。どうせ団結なんかできないと高を括って」

「それも理由の一つではあるがの」

 

 【魔女】が口を開く。

 

「そなたが今言ったように善人を装ってとりあえず皆からの信頼を集める、という戦略は確かに実行しておる。が、そなたらに団結してほしいというのも本心ではあるのじゃ」

 

 本心?

 

「……嘘だろ」

「嘘ではない。まず第一に、ある程度団結してもらわねば【魔女】としても面白みに欠けるのじゃ」

 

 人差し指を立ててそう告げる。

 

「根岸章をはじめとして全員が対立し疑心暗鬼になればそりゃ殺人は起こるじゃろ。容易に起こせる自信もある。じゃが、そんな補助輪をつけて自転車に乗るような真似をして何が楽しいのじゃ」

「…………」

「殺人は起きない。人は殺さない。そう思っているようなヤツをけしかけるのが面白いのじゃろ」

 

 陽気に語られる狂気に、思わず眉をひそめる。

 

「ただまあ、正直それとは別の理由もある。ここから脱出するためじゃ」

「……脱出?」

「うむ。現状発生している解決せねばならない最大の問題は、この施設に軟禁されていることじゃろ。小手先で何をしたところで、結局の所この問題をどうにかせねば余の未来はどん詰まりじゃ。それはそなたらも同じはずじゃぞ」

「…………」

「その問題を解決するには、モノクマ……というよりはそれを操る黒幕を打破せねばならん。ただ、それには団結が必要不可欠じゃ。いつまでもいがみ合っていては、モノクマの掌の上から抜け出すことなどできようはずもない。余は間違ったことを言っておるか?」

 

 否定は、しない。

 否定はしないが。

 

「そんな事、お前が言うなよ」

「む?」

 

 【魔女】の言っている事の意味自体は分からないでもないし、間違いだとも言い切れない。俺達がモノクマの支配下にある以上、どうにかしてモノクマを出し抜かなければこの絶望の終わりは訪れない。

 だとしても、こいつだけはそんな事を言う資格なんか無いはずだ。

 

「その団結をぶち壊したのは誰だ? お前だろ」

「それにはそなたの犯行も加担しておるはずじゃが」

「……っ」

「そこで黙るくらいなら始めから啖呵を切るでない、平並凡一よ」

 

 呆れるように、嘲笑うようにそう述べる【魔女】。

 

「で? 余が団結をぶち壊したとして、それが何だというのじゃ」

「……そんな事しでかしておいて、団結が必要だなんて言うなって言ってるんだよ」

「では、団結などしないほうが良いと?」

「…………そんなこと言ってないだろ」

 

 腹立たしい。そもそも、【魔女】の他人に殺人を行わせる犯行と、それでも脱出のために団結してほしいという言い分が矛盾している。そんなヤツとまともに議論しようとした俺がバカだった。

 

「とにかく、口先の嘘じゃなくて本気で団結してほしいんだったら、今すぐ【魔女】を辞めろ。そうすれば団結だってずっとやりやすくなるだろ」

「そんなもの断るに決まっておろう。余が【魔女】でなくなるなどありえん」

「……嘘でも辞めるって言わないんだな」

「当たり前じゃ。すぐバレる嘘はつかんとさっきも言ったじゃろ」

「…………ああそう」

「そうじゃな、あとニ度ほど楽しんだら本気で脱出に取り組もうかの」

「…………」

 

 ためらいもなく、【魔女】はそう語る。あんな事を、まだ二回もやるというのか。

 怒りが右手の握りこぶしに灯る。こんなヤツが、どうして今まで野放しになっていたんだ。

 

「ま、少なくとも表面上は真っ当に団結を目指すから安心せい。杉野悠輔は優等生でなければならぬからな」

「……安心なんか出来るかよ。お前なんか微塵も信用出来ないんだからな」

「そうは言うがの。色々とスタンスの違いはあるとしても、ここからの脱出は12人全員が共通して持つ最終目標じゃ。どこかで息を潜めておる愉快犯も含めてな」

「…………」

「【卒業】も脱出手段の一つではあるのじゃが、実行犯はどうしても証拠が残りやすいからのう。現場も容疑者も限られた密室空間で、殺人を犯して逃げ切るのは難度があまりにも高すぎるのじゃ。バレたら即処刑とリスクも高いしの」

 

 ……それが分かっていて、遠城を唆したのか。

 

「それに、自分で手を下すのは余のポリシーに反するのじゃ。となれば、一致団結して黒幕を倒す方法しかなかろう」

「…………」

 

 支離滅裂のように見えて、【魔女】の論理は一つの筋が通っている。結局の所、自分の事しか考えていないのだ。だから、狂気的な犯行の一方で団結を目指すことが出来る。

 ……ああ、反吐が出る。

 

「話はもう良いじゃろ。次に行くぞ、平並凡一よ」

 

 俺の胸中に渦巻く鈍色の敵意を気にかける様子もなく、あっさりと【魔女】は告げて扉を開けて外へ出る。

 敵意が殺意に変わらないうちに、俺はその背中を追うために足を動かした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《病院》

 

「一体どういうことよっ!」

 

 病院に入るなり、そんな甲高い怒鳴り声が聞こえた。何事かと思えば、病院の玄関ホールで東雲がモノクマに向かって何かを叫んでいた。側で火ノ宮が呆れている。

 

「どういうことって言われてもねえ……」

「おい、どうしたんだ」

 

 慌てて駆け寄って、ただ事ではない様子の東雲に問いかける。

 

「どうしたもこうしたもないわよ! アンタ達も探索したなら分かるでしょ!」

 

 彼女の興奮は止まらない。

 

「分かるって、何が」

「どうして【運動エリア】なのにプールが無いのよ! どうかしてるんじゃないの!?」

 

 …………えーと。

 

「そんなことでそんなに怒ってたのか?」

 

 確かに、言われてみればプール……というか水場はなかった。

 

「そんなことって何よ! とっても大事なことじゃない! ただでさえ遊泳禁止の湖と流れのある川しかなくて、アタシここ最近ずっと潜れてないのよ。ここに来る前は毎日潜ってたっていうのに」

 

 少し落ち着きを取り戻して、彼女はここでの生活の不満を語る。

 

「そんな時に、新しくこのエリアが開放されたってわけ。でも、看板には【運動エリア】なんて書いてたくせにプールがなかったじゃない。万が一隠されてる可能性を信じて探索してたけどもう我慢の限界よ! 泳げもしないくせに【運動エリア】なんて名乗るんじゃないわよ、まったく!」

 

 と、思ったらまた声の音量が上がる。いつも飄々としている彼女も、彼女なりにストレスを抱えていたようだ。……まあ、東雲は【超高校級のダイバー】と呼ばれるほどに潜ることが好きなんだ。それも仕方がないのかもしれない。

 

「そうは言うけどねえ……」

「何よ、言い訳でもあるの?」

「わざわざここにプールは作らなくても良かったんだよ。そんなスペースもなかったし」

「トランポリンなんかおいてたくせに水泳はどうでもいいってこと?」

「そうじゃなくて……うーん。めんどくさいな、言っちゃえ」

 

 東雲に追求され、投げやりな台詞を放つモノクマ。

 

「実はさ、次のエリアに海があるんだよ。だから、別にこっちでわざわざプールを作らなくても」

「海!?」

 

 モノクマが言葉を言い終わる前に、東雲が勢いよく反応した。

 

「海があるの!?」

「……それ、本当の話か? どうせ次も同じようなドームなんだろ?」

 

 どちらにしても閉鎖空間には変わりなく、海なんてありえないんじゃないかと思ったが。

 

「いえ、ありえない話ではないでしょう。【体験エリア】にだって、大きな川がありましたから」

 

 杉野にそう反論される。

 

「……そうか」

「ま、詳しいことはまだ言えないけどね。楽しみにしててよ!」

「わかったわ! じゃあもうどっかいって良いわよ!」

「今回くらいはもうちょっと良い扱いしてくれても良くない?」

 

 晴れ晴れとした様子の東雲にあしらわれ、モノクマはぶつくさと愚痴をこぼしながらどこかへと姿を消した。

 

「海があるならちょっとくらい我慢できるわ! そうならそうとさっさと言ってくれればよかったのに!」

 

 と、不満を漏らす形ではあるが、東雲はいつものペースを取り戻したようだった。

 

「あー、早く次のエリアが開放されないかしらね。海に潜るの、久しぶりだから楽しみだわ!」

 

 …………いや、ちょっと待て。

 

「……てめー、それがどういう意味だか分かって言ってんのかァ?」

 

 俺と同じ様に、東雲の言葉に違和感を覚えた火ノ宮が口を開いた。

 

「何よ」

「『次のエリアが開放される』ってことは、『次の学級裁判を乗り越える』ってことだぞ。誰かが殺されて、誰かをクロとして殺す。その結果がエリアの開放なんじゃねェか」

 

 そうだ。次のエリアにたどり着くということは、少なくとも二人の死を見ていることになる。それなのに、東雲は海が開放されるのを待ち望んでいる。

 

「分かってるわよ、そんな事。さっきアンタが散々言ってきたじゃない。()()()?」

 

 ……そうだよな。これが東雲の倫理観だ。

 

「チッ!」

 

 火ノ宮も、舌打ちをするだけでそれ以上追求はしなかった。探索の途中でも散々文句を言っても効果がなく、諦めたのかもしれない。

 

「…………火ノ宮君。病院には何がありましたか?」

 

 東雲の様子に言及することを避け、杉野が火ノ宮に探索の成果を聞いた。

 

「あァ? ま、色々あったよ。あぶねェもんもな」

 

 そんな言葉とともに、火ノ宮が病院を案内してくれた。

 玄関ホールには左右二つの引き戸があった。右側の引き戸をガラガラと開けながら火ノ宮は説明する。

 

「こっちは病室だ」

 

 その言葉通り、その扉の先の大部屋はベッドが3つ並んでいた。仕切り用のカーテンや各ベッドの側にテーブルや棚も付属している。例によって監視カメラやモニターもある。この分だと他の部屋にもあるだろうな。

 

「基本的な設備は整ってっから、万が一があっても入院出来るな」

「万が一……」

「あとで説明するけどよォ、この施設はちゃんと治療も出来るようになってんだ。だから、もし軟禁生活が長引いても健康面は問題ねェ」

「ふむ。その点はモノクマに感謝するべきでしょうか」

「あァ!? 感謝なんかしねェよ! こういう医務施設は生活の基盤なんだから生活が始まってすぐに開放するべきだろォが!」

「まあ確かにその通りね」

「それを今更開放しやがって! 最初から宿泊棟に併設しとけってんだ!」

 

 憤る火ノ宮。彼の言い分は尤もだ。ただ、運動にはケガがつきものであることを考えると、病院を【運動エリア】に建てるのも一応理にかなってはいるのだろう。

 

「……火ノ宮君、入院の件ですが」

「あァ?」

 

 と、なにかに気づいたように杉野が口を開く。

 

「先程あなたは入院とおっしゃいましたが、規則で睡眠に関するものがあったでしょう。ここで眠るのは規則違反になるのではありませんか?」

 

 ……あ。

 言われて、思い至る。

 

 

=============================

 

【強化合宿のルール】

 

規則4、就寝は宿泊棟に設けられた個室でのみ可能とする。その他の場所での故意の就寝は居眠りとみなし、禁じる。

 

=============================

 

 

 そうだ。眠るのは個室じゃなきゃいけなかったはずだ。ただ、こんな事に火ノ宮が気づいていないとも思えない。

 

「んなもんとっくに解決済みだ」

「やっぱりか」

「さっきモノクマに訊いたら、病室でも眠れる様に規則を付け足したんだとよ。相応の手続きは必要みてェだけどな。ほら」

 

 そう言って、火ノ宮が『システム』を起動させて『強化合宿のルール』を見せてくれた。

 

 

=============================

 

【強化合宿のルール】

 

~前略~

 

規則4、就寝は宿泊棟に設けられた個室でのみ可能とする。その他の場所での故意の就寝は居眠りとみなし、禁じる。

 規則4 (2)、例外として、【入院患者】は病院の病室での就寝が可能とする。

 

=============================

 

 

 確かに、就寝に関する規則が増えている。

 

「この【入院患者】というのは?」

「そこの受付カウンターで手続きが出来る。逆に言うと、手続きしねェで寝ると規則違反だからな」

「わかりました。気をつけましょう」

 

 特に普段の生活に影響が出るわけではないが、念のために覚えておこう。入院するような病気にかからないのが一番だが。

 

「ここのカギは?」

「……かからねェ」

「えっ?」

「そもそも無ェんだとよ、カギなんて。病室ってのは看護するヤツが出入りする必要があるから、個室みてェにカギをつけるわけにはいかねェってよ」

「……そうか」

 

 だったら、入院中は無防備になってしまう。

 

「けどよォ、病室のドアは幸い引き戸だ。突っ張り棒かなんか使えば戸を開かねェようには出来るだろ」

「あ、なるほど」

 

 物理的にカギを作ってしまえば良いのか。

 

「ま、そうでなくても宿泊棟の個室を使えば済む話だけどな。入院するにしたって病院に居なきゃならねェ理由もねェし。病室の説明はこれくらいだ。次に行くぞ」

 

 その杉野の先導で玄関ホールに戻り、もう一つの引き戸の先に行く。

 

「こちらは?」

「診察室だ」

 

 その先は火ノ宮が述べた通り、まさしく診察室になっていた。医者や患者の座る椅子や診察に使うのだろう簡易ベッドも設置してある。更に奥へと繋がる広い戸の側には、緊急搬送のためのストレッチャーも折り畳まれて置かれていた。

 医者用の机や棚には、実験棟のように医学書がこれでもかというほど詰め込まれていた。その一つを手にとってみたが、なんとなくの理解も怪しい。これは生半可な知識で理解できる代物じゃ無さそうだ。そっと医学書を棚に戻す。

 

「これは……タブレットですか」

 

 杉野が机の本棚に刺さっていた薄っぺらい白い板を手に取る。

 

「電子カルテだってよ。データがイカれちまってて、ほとんど読めねェけどな」

「……そうですか」

 

 そんな生返事をしながら、杉野が電子カルテの電源を入れた。横から覗き込むと十数人分の名前がズラリと並んでいたが、データの破損によってその名前はほとんど判別できなかった。

 

「……『羽鳥 茜(ハトリ アカネ)』……『水戸水 有水(ミトミズ ユミズ)』」

 

 かろうじて判読できた名前を口に出す。聞き覚えのある、その名前を。

 

「これ、()()()の名前だよな」

「……あァ」

 

 その名前は、月跳と同級生に当たる希望ヶ空18期生の【超高校級】の名前だった。月跳が入学した時に調べた時に名前を見かけたのを覚えている。そうでなくとも当時から二人共有名人だが。確か、どちらも女の先輩だったか。

 羽鳥さんは競技トランポリンのずば抜けた才能を買われた【超高校級のトランポリニスト】。そして、水戸水さんは生み出した作品が軒並み超高額で取引される【超高校級の芸術家】だったはずだ。

 そんな先輩達のカルテが、どうしてこんな所にあるのだろうか。モノクマが用意した? わざわざ、何のために? いや、だが、カルテというものは……。

 

「……ん」

 

 そんな謎に思考を巡らせるうちに、奇妙な一致が頭に浮かぶ。体育館にあった、あのトランポリン。もしかして、羽鳥さんのカルテがあることとなにか関係があるのだろうか。

 

「こちらはどうなっているんでしょう」

 

 そんな事を考えていると、杉野が電子カルテの電源を落としてそんな事を口にした。その視線は診察室から更に奥へと繋がるドアに向いていた。

 一旦そこで思考を止めて、そのドアへと歩み寄る。すると、ひとりでに左右に開いた。自動ドアのようだ。

 ぶわぁっと上下左右から数秒強く風が吹く。そして俺の目に映るのは、中央に横たわる細長い台とそれを照らすために天井から生えている大きなライト達。

 

「……手術室?」

「あァ」

 

 そこはまさしく、テレビドラマで見るような手術室だった。簡単に見る限りでもどう扱うのかもわからない大仰な機械もあるし、妙に本格的だ。

 

「だから自動ドアだったのか。衛生面で」

「診察室から直結しておいて衛生もクソもねェんだよ。つってもまあ、特殊加工だかウルトラハイパーエアーシャワーだかで雑菌の持ち込みはありえねェとか言ってたけどな」

「ああ、さっきの風」

 

 あんな物がどこまで効果があるのかわからないが、ここまで本格的ならそれなりに効果があるのかもしれない。そんな事を思いながら、手術室の中を確認する。

 

「手術室の中も色々あったが、とりあえずこれだけは回収すべき代物だ」

 

 そう言いながら、火ノ宮が四角いステンレスのトレイを持って棚の中へ手をのばす。そこから取り出したのは、大小様々なメスだった。

 

「……確かに、それを放置しておくのは不味いですね」

「設備が整ってんのは良いはずなんだけどな。これはオレが預かっとく」

 

 そう答えながら、彼はガチャガチャとトレイの中へメスやハサミを……刺殺に使えそうな危険物を入れていく。

 

「ねえ、どうでもいいけど、アンタばっかり凶器を回収してちょっと不公平じゃないかしら」

 

 そう口を挟むのは東雲。

 

「…………東雲さんの『不公平』の意味には敢えて触れませんが、不公平で良いのです。どうせ凶器を管理するのなら一人に集中したほうが良いでしょう」

「ふうん」

 

 杉野の返答に大した反応も見せず、適当に棚を眺める東雲。本当にどうでも良かったのだろう。

 

「……正直、これだけで事件を防げるとは思えねェけどな」

 

 反応したのは、火ノ宮の方だった。危険物を回収する手を止め、悔しそうにそう呟く。

 

「らしくありませんね。確かに僕もそう思いますが、君は僕達の事を信用していたのでは?」

「…………チッ」

 

 苦々しい顔になって、彼は舌を打つ。

 

「てめーらの事は信用してる。けど、大天は別だ。あいつは、いざとなりゃまた殺意を抱くはずだ。そうだろ」

「……ええ、まあ、あの態度からすればそうでしょうね。機が来れば犯行に及ぶ可能性は大いにあるでしょう」

 

 大天。

 他ならぬこの【魔女】への復讐を企む彼女は、その他のすべてを犠牲にできる。

 

 

――《「【言霊遣いの魔女】をこの手で殺す! それが私の人生なの!」》

 

 

 城咲に妨害されたことで俺を殺すことは失敗に終わったものの、その復讐心は潰えてはいない。

 復讐なんて、絶対に間違ってる。この【魔女】が許されざる存在であることは今更疑いようもないが、だからって、殺人なんてして良いはずがない。そのために他人を巻き込むのはもってのほかだが、そうでなくとも凶行に手を染めてしまえば、その先に明るい未来なんてきっと有りはしないだろう。……どうにか、できれば良いんだが。

 

「だから、大天と……それと愉快犯の二人は警戒しないといけねェ。この前は睡眠薬を遠城に使われたんだ。犯行に利用できそうなもんはできる限りきちんと管理するべきだ」

 

 静かに、火ノ宮は語る。

 

「とは言え、結局の所限界はありますが。僕達にはそれぞれ『凶器セット』が配布されています。それを使えば犯行は容易でしょう」

 

 『凶器セット』、か……。俺の『凶器セット』は未だ未開封だが、確か中にはナイフとスパナと、あと拳銃が入っていたか。

 

「あ、そう言えば、この前大天もその『凶器セット』のナイフを持ってたぞ」

「……あァ、制作場に落ちてたやつか。経緯は城咲から聞いてオレが預かってる」

「そうだったのか」

 

 それを火ノ宮が預かってるのなら、もしかして。

 

「もしかして、焼却炉のカードキーも火ノ宮が預かってるのか?」

「一応な。とにかく、基本的にオレが預かることにしてんだ。別にカードキーくれェなら誰かに預けてもいいけどよ」

 

 ふむ。危険物はともかく、カードキーまで火ノ宮に任せてしまうのは流石に頼り過ぎだろう。

 

「なら、俺が預かろうか」

「……じゃァ、頼む」

 

 ポケットから取り出された焼却炉のカードキーを受け取った。

 

「カードキーやナイフはそれでいいとして、まだ油断はできません。まだ大天さんの元にはスパナと拳銃がありますからね」

「ねえ、『凶器セット』ってそんなに気にすること?」

 

 と、純朴そうな声で東雲が口を挟む。

 

「当たり前だろ。()()だぞ」

「いや、そうだけど。【卒業】するんだったら、『凶器セット』の凶器なんか普通使わないでしょ。だって、検証されたら誰が使ったか丸わかりじゃない。仮に拳銃が使われたなら、皆の弾数を調べればクロはすぐに判明するわ」

「……それはそうですが」

「城咲から聞いた分だと、大天がそのナイフを使ったのは緊急事態だったからで、最初はロープで平並を殺すつもりだったんでしょ?」

「……ああ」

「そうじゃなきゃ、ナイフなんて使わないものね。凶器がそれってバレたら未開封の人は無実がすぐに証明できちゃうし。……あ」

 

 会話の最中、東雲は急に口を空けて一瞬言葉を止める。

 

「いや、そうでもないかしら。死んだ人達の『凶器セット』を使えば良いわね。そうすれば検査されても無実を主張できるわ」

「え?」

「……あっ」

 

 東雲の言葉に、俺達は固まった。

 

「チッ。宿泊棟に戻ったら、蒼神達の『凶器セット』もオレが回収しておく」

「お願いします。東雲さん、ありがとうございます」

「……言わなきゃよかったわね」

「……残念がるなよ」

 

 そんなやり取りを終えて、俺は一つ一つ棚の中を確認しはじめた。先程火ノ宮が設備は整っている、と述べた通り、メスやハサミ以外にもよくわからないチューブや機材、手術着や手袋も揃っていた。本当に、医者さえいれば手術が出来る環境が整っている。その肝心の医者が居ないのだが。

 

「と、これは……」

 

 そして俺の目にとまるのは、小さな冷蔵庫。その扉を開けると、輸血パックが大量に押し込まれていた。……ちゃんと冷えてるんだろうか、これ。

 

「輸血パックは、全員分揃ってたわよ。そうよね?」

 

 背中越しに、そんな声が聞こえてくる。

 

「あァ。オレ達それぞれに合わせた輸血パックが、一人あたり5袋入ってた。……16人分、な」

 

 16人分? と、彼の言葉に疑問符を浮かべながらその中の一つを手にとって見ると、『蒼神紫苑』とパッケージに刻まれていた。……蒼神、か。彼女の顔を思い浮かべて、ため息をつく。どうにかして、あの事件を防ぐことはできなかったのだろうか。

 ちらりと、杉野の顔を見る。

 

「どうしました、平並君」

「……別に」

 

 視線に気づいた彼と、そんな言葉を交わす。

 ……無理だろうな。少なくとも、杉野の本性に気づかなかった限りは。

 

「病院はこんなところか?」

 

 蒼神の輸血パックを冷蔵庫に戻してから、ちょうど危険物の回収を終えた火ノ宮にそう尋ねる。彼は軽くうなずいた。

 

「では、そろそろ戻りましょうか。時間もいい頃合いです」

「そうだな。【運動エリア】は一通り見たし」

「だったら、体育倉庫の砲丸を運ぶのを手伝ってくれ。あんなもんオレ一人で運んでらんねェ」

「砲丸……ああ、そう言えばあの砲丸の管理も火ノ宮君に託そうかと思っていたところです」

「言われるまでもねェ。ほら、行くぞ」

「ああ」

 

 そんな経緯で、俺達は【運動エリア】を後にした。砲丸を運搬するために一度アトリエまで向かって台車やついでに彫刻材を持ってきたが、東雲は「もう集団行動は良いでしょ」と告げて、そのまま一人で【宿泊エリア】へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 《【宿泊エリア】》

 

 ガラガラと、中央広場まで砲丸やアトリエの彫刻材を載せた台車を押して来た。

 

「ありがとな。後は自分でやる」

「もういいのか? どうせここまで来たんだ。個室まで運ぶぞ」

「いや、もう十分だ。先に食事スペースに戻ってろ」

 

 火ノ宮にそう告げられ、台車の押し手から手を離す。

 

「……それと」

 

 すると、彼は更に言葉を続けた。

 

「ん?」

「こないだは、すまなかった」

 

 そんな言葉とともに、彼は深々と頭を下げた。

 

「え? こないだって……」

「……学級裁判のことだ」

 

 彼の謝罪の意味が読み取れず困惑していた俺に、火ノ宮は説明をしてくれた。

 

「あの時、蒼神のポケットから出てきた呼び出し状を読んだ時点で、てめーがクロだと思いこんじまった。……てめーは、無実だったのに、だ」

 

 重い罪を告白するように、彼は言葉を紡ぐ。……ああ、その事か。

 この前の学級裁判が始まった時……いや、始まる前から、彼は俺をクロだと断じていた。裁判が始まってすぐの時は、根岸と共に俺を追及した。

 

「いや、だが、あれはクロの……遠城が仕組んだ罠だったじゃないか。お前が俺を疑ったのは、遠城にそう仕向けられたからだろ。それに、俺は一度【卒業】を企んでる。疑われたって文句は言えない」

「けど、てめーはクロじゃなかった。本当に蒼神を心配して宿泊棟を飛び出したんだ。ってことは、てめーがオレ達を裏切ったのを後悔してんのも、本当なんだろ」

「…………」

 

 無言のまま、うなずく。

 

「……それなのに、オレはてめーを信じきれなかった。てめーはやっぱりオレ達を裏切ったままだと、思っちまった」

 

 悔しそうに、彼は呟く。

 

「だとしても、お前は一回もう謝ってるじゃないか。それこそ、学級裁判の最中に」

 

 

――《「……クロだと決めつけて、悪かった」》

――《「火ノ宮……」》

――《しんみりと、そう告げながら彼は俺に頭を下げた。》

 

 

 確かあれは、俺がクロではないと発覚した時だったか。火ノ宮はもう俺に謝ってくれている。別に謝ってくれなかった根岸にどうのこうのと言うつもりは毛頭ないが。だって、そっちの方が普通だろうし、根岸が俺を疑ったのはそもそも俺が彼を狙ったからというのが大きいはずだし。

 

「あれっぽっち謝ったくれェで許されるなんざ思ってねェよ」

「別に、そんな重く受け止めなくていいぞ。俺は別に気にしてないから」

「……悪ィな」

 

 と、彼は返答すると、宿泊棟へと向かっていった。

 

「律儀な方ですね」

 

 杉野のその声に、わざわざ言葉は返さなかった。

 

 さて、こんな所で突っ立っていても仕方がない、食事スペースに行こう。そう思って歩き出そうとした時、ガラガラと音が聴こえてきた。

 

「……えっ?」

 

 俺がそんな疑問符を出したのは、その音がありえない所からしていたからだった。

 【宿泊エリア】の建物の中で、唯一その正体が判明していなかった和風の屋敷のような建物。音の正体は、その建物の引き戸が開いた事によるものだった。

 その中から、岩国と七原が出てきた。

 

「七原、岩国!」

 

 と、声を掛けると、向こうもこちらに気づいたようだった。そのままこちらに歩いてくる。

 

「この建物も開放されたのか?」

「うん。岩国さんが気づいたんだ」

「気づいたって」

「ほら」

 

 そう言って七原が指さしたのは、【宿泊エリア】の地図が書かれた立て看板だった。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「……『大浴場』?」

 

 それをよく見ると、確かに名称不明だったはずの建物に名前がついていた。いつの間にか書き換えられていたらしい。

 

「うん。それで、今岩国さんと一緒に確認してきたところなんだ。だよね?」

「…………」

 

 岩国は否定も肯定もしない。ただまあ、七原の嘘ってことはないだろう。今まさにその大浴場から出てきたところなのだから。

 と、大浴場に目線をやってふと思い至ったことがある。瓦がずらりとならんだ屋根が特徴的なその和風な建物にはずっと既視感を抱いていたのだが、その正体に気づいたのだ。そのレトロな外観が、教科書で見たかつての銭湯に似ていたのだ。ここが大浴場だと言うのなら、かつての銭湯がモチーフになっているのにも納得がいく。窓がなかったのも、外から覗かれないようにするためだろうか。

 

「まあ、更衣棟のロッカールームと一緒で女子の方しか見れなかったんだけど……でも、中身は普通の浴場だったよ」

「ふむ、そうですか。僕達も一応確認してきましょうか?」

「ただの確認なら後にしろ。もうすぐ集合時間のはずだぞ」

 

 杉野の提案は、岩国に一蹴された。

 

「確認自体を否定するわけじゃないが、他の連中が男子の大浴場を確かめた可能性もある。無駄に俺を待たすな」

 

 そう言って、岩国は先に食事スペースへと向かってしまった。

 

「……まあ、彼女の言うことも尤もですね」

 

 時計を確認して、杉野はそう呟く。

 

「岩国さんもそうですが、他の皆さんを待たせるわけにもいきません」

「……だな」

「じゃあ、行こっか」

 

 そんな言葉をかわして、俺達は彼女の後を追って食事スペースへと移動した。

 




というわけで探索編でした。
誰かと会う度に大抵一悶着起きるので、文字数が妙に増える。

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