ダンガンロンパ ~超高校級の凡人とコロシアイ強化合宿~   作:相川葵

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日常編③ 超高校級の凡人と超高校級の高校生達

 《???ゲート前》

 

 次に俺達は、名称不明のゲートの前にやってきた。

 SF映画の宇宙船の中にあるような、両開きのスライド式のドアの前に立っていたのは、短パンを穿いた金髪ポニーテールの女子だった。

 

「あ、起きたんだね! 良かった良かった。一人だけいつまでたっても起きなかったからどうなっちゃったかと思って」

「心配かけたみたいだな。なんとか無事だったよ」

「そっか。よし、じゃあ自己紹介しないとだね! 私は大天翔(オオゾラカケル)! 気軽にカケルって呼んでくれてもいいよ!」

「い、いや、それはちょっと……」

「えー、遠慮しなくていいのに……まあいいや、肩書は【超高校級の運び屋】! よろしくね!」

 

 

   【超高校級の運び屋】

     《大天 翔/オオゾラ カケル》

 

 

 元気な笑顔で快活に挨拶をする大天。

 

「ああ、俺は【超高校級の普通】としてスカウトされた平並凡一だ。よろしく」

「うん、よろしく! 【普通】って、面白い肩書だね」

「まあな……そっちの【運び屋】も珍しいと思うが」

「そう? 私の職業だよ。手紙やプレゼントはもちろん、依頼さえあれば人や思い出、笑顔だって運んじゃうんだから!」

「へえ、だから運び屋か。それってなんでも運ぶのか?」

「お金さえもらえればね。よほどの物じゃなきゃ運ぶよ」

 

 運び屋という職業は身近にいないが、いろいろと耳にすることはある。郵便とかを使って運べないようなものを大天に依頼したりするのだろう。サスペンス小説のようなエピソードも持っていたりするのだろうか。

 

「よほどの物ってのはなんだァ?」

「さあ? さすがにいくらお金をもらっても死体とかは運びたくないからね」

「し、死体って……」

「まあでも、箱の中身とかは見ないで運ぶこともあるからヤバイヤツも運んだことがあるかもしれないし、別のそのあたりは深く考えてないよ。基本的には、依頼者が言いたくなければ何を運ぶかは知ろうとしないし」

「それってまずいんじゃないのか……色々と」

 

 すると、大天はやれやれとでも言いたげに首を振り、

 

「いい? ばれなきゃ犯罪じゃないんだよ」

「……いや、ダメだろォが!」

「私はお金がもらえればそれでいいからね。責任をもって、依頼者の気持ちを考えてきっちり物を運ぶ。それが私の仕事だよ」

 

 大天はずいぶんとお金本位の性格らしいが、それでも、自分の運び屋という仕事に誇りを持っているようだ。

 

「まあいいや……このゲートは?」

 

 ここも案の定監視カメラとモニターが置いてあるが、それ以外で特に気になる点はない。せいぜい、ドアの上にランプがついているくらいだ。そのランプは赤色に点灯している。

 

「さあ? 名前もわからないし、びくともしないからどうしようもないよ」

「やっぱりか……」

「というか、このドームの端をぐるっと回ってみたけど出られそうなところはなかったよ?」

「一周したのか?」

「うん。そんな苦になるようなサイズじゃないからね、このドーム。木が並んでて邪魔だったし、足元は悪かったけど……」

「ちッ、やっぱり閉じ込められたのか」

「そうなるね。あ、でも、反対側にあるゲートには名前がついているみたいだから、もしかしたら向こうなら何かあるかも」

「……そうか、分かった」

 

 向こう側……確か地図には自然ゲート、と名前がついていたか? もとよりそのつもりだったが、ちゃんと忘れずに見ておこう。

 

「大天は、この状況に何か心当たりはあるか?」

「心当たり、か。なくもないけど……」

「どういうことだ?」

「私、職業柄、いろんな地域でたくさんの人と接することが多いから結構噂を聞くんだけど、こういう状況の話は割と聞くんだよね」

「本当か?」

「うん。集団誘拐って、過去を見ると案外例があるんだよ」

「あァ、たまにテレビでも取り上げられてんな」

「でしょ? その目的は色々だけど、真っ先に考えられるのはやっぱりお金かな。私が言うのもなんだけどね」

「まあ……そうだよな」

 

 このドームに集められた16人は、誰もが【超高校級】だ。一応、俺でさえも【超高校級の普通】だなんて肩書をもらっている。人質としての価値は十分すぎるほどにあるだろうし、身代金も多額を要求できるだろう。親にも、希望ヶ空学園にも。

 

「でも、だとしたらこんな施設に監禁する理由が無い。小さな部屋にでも放り込んでおけばいいからね」

「……」

「そもそも、こんなドームは見たことがないからどこにあるのかもわからないし……正直、わからないことだらけだよ」

「……そうか」

 

 ……この施設は、そして俺達を閉じ込めた犯人は一体なんなんだろうか。

 

 

 

 

 《倉庫》

 

「これが倉庫か……」

 

 続いてやってきたのは、地図で倉庫と書かれていた建物だ。ただ、倉庫と名はついているものの、その建物を表現するなら旧家のお屋敷にあるような立派な蔵だった。

 

「割と大きいな」

「だなァ」

 

 とりあえず、扉を押し開けて中に入ってみる。倉庫の中には棚にずらりと物が並んでおり、その種類はロープやら地球儀やら、多種多様であった。そして、その中央に広がる空間には二人が立っており、ちょうどこちらに気づいたようだった。

 

「お前達は?」

 

 俺の質問に返ってきたのは、真っ白な白衣を着た緑髪の男子のひどくおびえた声だった。

 

「な、名前を聞くなら……自分から名乗るのが礼儀ってもんだろう……」

 

 確かに、それもそうだ。

 

「俺は平並凡一。【超高校級の普通】として希望ヶ空にスカウトされた」

「ちょ、【超高校級の普通】? おかしな肩書だな……」

「まあ、そう思うのも無理はないけど……実質【超高校級の凡人】の方が呼び名としては正しいかな」

「そ、そうか……じゃ、じゃあぼくの番だな……ぼ、ぼくは根岸章(ネギシアキラ)……気が付いたら【超高校級の化学者】になってた……よ、よろしく……」

 

 

   【超高校級の化学者】

     《根岸 章/ネギシ アキラ》

 

 

 弱々しい声でどもりながらも自己紹介をしてくれた。俺の自己紹介も大したもんじゃないが、根岸の自己紹介にも妙な言い回しがある。

 

「気が付いたらなってた? どういうことだ?」

「ぼ、ぼくがききたいよそんなの……ぼ、ぼくは自分のやりたいようにやってたら……気づいたらそんな風に呼ばれてたから……」

「確か、あの『スラチウム』を発見したのは根岸だったよなァ?」

「ひぃっ!」

 

 口をはさんだ火ノ宮に対して、短い悲鳴を上げる根岸。いや、今の火ノ宮は別にけんか腰ではなかっただろう。

 

「おい、なんでおびえてやがんだァ!」

「……ん? ちょっと待て、スラチウムって最近発見された新しい元素のことか?」

 

 ニュース番組でも新聞でも大々的に取り上げられていたから、その名前は聞いたことがある。俺は専門家じゃないから詳しいことはわからないが、世界的にも並大抵ではない出来事だったはずだ。まさか、それを発見したのがこの根岸だったのか。

 

「だ、だって……きゅ、急にそんな話が出てきたら、び、びっくりするだろ……」

 

 ……この、臆病な高校生の。

 

「それに、せ、正確には発見したかもしれないってだけだよ……」

「ん? でもニュースでは『新元素発見』って……」

「は、発見もなにも……ぼ、僕がいた学校はかなり設備が整ってたんだけど、こ、高校の設備じゃ未知の元素が、そ、存在するかもしれないってところまでしかわからなかったんだ……だ、だから、希望ヶ空学園でもっと詳しく実験するつもりだったんだ……」

 

 いや、たかが高校の設備だったら、それだけでも十分すごい事なんじゃないのか!?

 

「だ、だけど……」

「……こんなことになっちゃってるってわけか」

「あ、ああ、もうおしまいだ! き、きっとぼくがなにかしたせいでこんなことになったんだ!」

「……根岸?」

「け、今朝、ご飯粒を残したのがいけなかったのかな!? そ、それとも一昨日お母さんのお気に入りの食器を割っちゃったこと!? も、もしかして」

「お、落ち着け根岸!」

 

 大声で根岸を止めようとしてみるが、根岸の被害妄想は止まらない。この誘拐の原因が俺たちにあるとは思わないし、仮にあるとしてもそんな些細なものでないことは絶対にわかる。だからパニックから回復してほしいのだが……。

 そうやって慌てていると、メイド服を着た、背の低い銀髪の女子が声をかけてきた。

 

「どうやら彼は、時々そのようなかんじになるみたいです。ほおっておけばそのうち収まるはずですよ」

「えーと、お前は?」

「申し遅れました。わたし、城咲(シロサキ)かなたです。幸運にも、【超高校級のめいど】として希望ヶ空学園にすかうとされました」

 

 

   【超高校級のメイド】

     《城咲 かなた/シロサキ カナタ》

 

 

 【超高校級のメイド】、か。メイド服を着ているからもしやとは思ったけど、そのまんまだったか。

 

「本当はご主人様のお屋敷を離れたくはなかったのですが、人生経験のためとご主人様におっしゃられまして、希望ヶ空学園に通うことにいたしました」

「ご主人様?」

「ええ。十神財閥の当主、十神白夜様です」

「十神財閥……って、()()十神財閥か!?」

「少なくとも、オレが知ってる十神財閥は一つしかねェな」

 

 十神財閥。

 世界の富の三割を所持しているという噂もある財閥で、あらゆる分野における超一流の企業の多くが十神財閥の傘下であるはずだ。

 そんな財閥の屋敷に仕えているとは、さすがは【超高校級のメイド】……。

 

「【超高校級のメイド】ってのは、掃除や料理が上手いのか?」

「はい。わたしはお屋敷でめいど長をつとめていましたので、たとえば【超高校級の料理人】の方などにはおとるかもしれませんが、それでも一流のさあびすを提供することは可能だとじふしております」

「さすがは、【超高校級のメイド】だな」

「いえ、わたし自体はとくに何がすごいというわけではなく、十神財閥のめいどとして仕えていることが評価されたのだと思っています」

 

 城咲はそういうが、あの十神財閥のことだ。超一流のメイド技術を持っていなかったら仕えることなんてできないだろうし、ましてやメイド長になんてなれないだろう。

 さて、それじゃ自己紹介も済んだところで倉庫の情報を聞こう。根岸もずいぶん落ち着いたみたいだしな。

 

「ここの倉庫ですが、日用品から工具に至るまで様々なものが揃っているようです」

「へえ、そうなのか」

「か、カンヅメやお菓子みたいな食料品も……じゅ、十分あるみたいだよ……」

「窓は高いところに小さいものが一つあるだけか」

「そうですね。でも、電灯は最新式なので別段暗いわけでもありません」

 

 城咲の指さす頭上を確認してみれば、なるほど確かに煌々と明かりがついている。雑多な物に紛れてわからなかったが、ちゃんと監視カメラとモニターもある。

 それにしても……なんというか、この倉庫は生活感であふれている。誰かが用意したものではなく、誰かが使っていたものをそのまま持ってきたような、そんな雰囲気だ。なぜだ?

 

「あ、そうそう。一つだけ気になることがありました」

「気になること?」

「この倉庫、かなり物が乱雑に置かれておりましたので先ほど軽く整理をしたのですが、ほとんど埃はありませんでした」

 

 あ、そうだ。これだ、この違和感は。

 きれいに整理整頓されているわけではないのに埃をかぶっていないないということは、つまり……。

 

「ひ、頻繁に使われていたってこと……」

 

 言い換えれば……。

 

「この施設には、前に人がいた、ということか?」

「はい。しかも、ごく最近まで」

 

 城咲はそう言ってうなずいた。

 

 

 

 

 《???ゲート前(赤)》

 

 倉庫を離れた俺たちが次にやってきたのは、玄関ホールの真反対に位置するゲートだ。さっきのゲートと同じく名称が隠されているが、その見た目は似ても似つかない。SFチックだったさっきのゲートと違い、真っ赤なシャッターが下りているだけだった。

 その前に立っていた、暗い赤髪の学生服を着た男子はこちらを一瞥して……無視した。いや、なんで無視したんだ。

 

「あー、ちょっといいか?」

「……なんだ」

 

 明らかに興味のなさそうな返答が返ってくる。

 

「俺は平並凡一。【超高校級の普通】として希望ヶ空にスカウトされたんだが、簡単に言えば一般人代表。【超高校級の凡人】と思ってくれればそれで構わない」

「そうか」

「……」

「……」

 

 会話が終了した。

 

「いや、あの、それだけ?」

「何が言いたい?」

「いや、せっかくなら自己紹介してほしいからさ」

 

 その俺の言葉に、彼はちっと舌打ちをした後、

 

「……岩国琴刃(イワクニコトハ)。【超高校級の弁論部】だ」

 

 

   【超高校級の弁論部】

     《岩国 琴刃/イワクニ コトハ》

 

 

 と、非常に淡泊な自己紹介をした。

 

「初めに言っておくが、俺は誰かと馴れあう気なんて毛頭ない」

「馴れあうって……そんな言い方ないだろ」

「この妙なドームからの脱出において最低限の協力はしてやるが、それ以上の無駄な交流は控えさせてもらう」

「無駄って……」

「あきらめろ、平並。こいつはさっきもこんな調子だったぜ」

 

 岩国はもう俺から興味を無くしたようにふいと別の方向を向く。と言っても、最初から興味なんてなかったようだが。

 

「別に、お前達と敵対しようだなんて思ってないから心配するな。俺は、自分の賢さには自信があるが、完璧だなんて思うほどはうぬぼれていない。他人の意見が脱出のヒントになる可能性がある以上、それなりの協力はさせてもらう」

「なら、仲良くしようぜ。同じ男子なんだしな」

「仲良くしたって、何の意味もない。いや、中途半端な信頼は害にすらなり得る」

「だったら、中途半端じゃない、本当の信頼を築けばいいだろ」

 

 すると、岩国はぽつりと、

 

「……本当の信頼なんか、あるわけないだろ」

 

 と、つぶやいた。

 

「……岩国?」

「とにかく、何を言われても俺はこのスタンスを変えない。希望なんて持たなければ、絶望なんてしなくていいからな」

「絶望……?」

「絶望は、希望から生まれるんだ……話は済んだな。俺は他のところを見てくる」

「お、おい!」

「それと、俺はこんななりをしているが、心も戸籍も生物学上も紛れもなく女だ。勘違いするなよ、凡人」

 

 そう言って、岩国は中央広場の方へ歩いて行ってしまった。

 

「……え? 女子?」

 

 ……とにかく、岩国のことは置いておいてこの赤いゲートについて考えてみよう。

 さっきも言ったが、このゲートは玄関ホールの物とも、さっきのゲートとも似つかない代物だ。大きな半円形の穴が、商店街で見るようなシャッターで閉ざされているように見える。ただし、そのシャッターの色は、赤だ。

 ここにも監視カメラとモニターはあるけど、幸いにしてマシンガンはない。また、ゲート前の空間が、さっきのゲートよりも広めになっている。玄関ホールと同じくらいにはあるのではないか。

 

「なあ、火ノ宮。このゲート、どう思う?」

「さあな、知らねェけど、この先には特別な何かがあるってことだろ、明らかに」

「……だよな」

 

 そう思わせるだけの毒々しさが、このゲートからは感じられる。

 

「……次に行こう」

「あァ」

 

 

 

 

 《自然ゲート前》

 

 中央広場から続く道の先にあるのは、前に見たSFチックなゲートとほとんど見た目が同じゲートだ。赤いランプもあるし、例のごとく監視カメラとモニターもある。ただし、今度はゲートに名称がついている。

 

「『自然ゲート』、ねえ……」

 

 ゲートの前に、茶色いニット帽をかぶった金髪の男子が立っていた。

 

「起きたのか」

「ああ」

「なら、自己紹介でもしておくか。オレの名前はスコット・ブラウニング。世間じゃ【超高校級の手芸部】だとか呼ばれているらしい」

 

 

   【超高校級の手芸部】

     《スコット・ブラウニング》

 

 

 その外人のような見た目に反して、流暢な日本語で喋るスコット。

 

「オレのことはなんでも好きなように呼んでくれ」

「じゃあスコット……【超高校級の手芸部】って?」

「なんでも、オレの編んだぬいぐるみや刺繍が軒並みコンテストで優勝したらしい。プロも多数参加していたコンテストでな」

「本当か!? すごいじゃないか!」

「別に……あんな失敗作で賞をとっても嬉しくなんかないさ」

「え?」

 

 失敗作? どういうことだ?

 

「ほら、今度はオマエの番だぞ」

「あ、ああ。平並凡一、【超高校級の普通】……【超高校級の凡人】だよ」

「【凡人】ねえ……」

「それでここは……自然ゲートって書いてあったよな」

 

 向かいのゲートとは違って名称がついていることに、何か意味はあるのだろうか。

 

「ああ。中央広場に遭った地図には総会書いてあったし、上の方には【宿泊エリア】とも書いてあった。ここから推測するに、このドームが【宿泊エリア】であり、このゲートの先には【自然エリア】があるんじゃないかとオレは考えている」

「なるほどな……開かねェのか?」

「ああ。びくともしない。一応センサーはあるみたいだがな。ほら、上のランプが赤いだろ? たぶん、緑や青色になったら開くようになるんじゃないか?」

 

 ということは。

 

「今できることは何もない、か」

「そういうことだ」

 

 

 

 

 《???(建物)》

 

 最後にやってきたのは、宿泊棟の隣にある名称不明の建物。宿泊棟ほどの大きさはないが、外からじゃどんな建物かはさすがに推測することはできない。見た目としては和風な屋敷のように見えるが……なんか見覚えがあるんだよなぁ……。

 そんな謎の建物の前まで行ってみると、そこにいたのは二人の男女だった。監視カメラとモニターが見当たらないが、建物の中にあるのだろうか。

 

「おお、無事に目を覚ましたのであるな!」

 

 俺に声をかけてきたのは、ススで汚れた白衣を着た青い髪の男子。

 

「ああ、おかげさまでな」

「では、自己紹介をさせてもらうぞ! お主、『ティアラ』という会社に聞き覚えはあるか?」

 

 ティアラ? えーと、確か、

 

「それって、雑貨メーカーだったっけ。 『日常をほんの少しだけ豊かにする』ってキャッチコピーで斬新なアイデアとセンスで実用的な雑貨を開発しているって話の」

「うむ、そうであるな」

「確か、社長は現役高校生で【現代のトーマス・エジソン】と噂される人物ってネットニュースで見たことが……ん?」

 

 現役高校生って、まさか。

 

「気づいたようであるな? そう、この吾輩、遠城冬真(エンジョウトウマ)こそが、【現代のトーマス・エジソン】にして【超高校級の発明家】なのである!」

 

 

   【超高校級の発明家】

     《遠城 冬真/エンジョウ トウマ》

 

 

「それは……すごいな」

「そうであろうそうであろう! わっはっはっは!」

 

 確かにすごい実績だ。高笑いするのもうなずける。

 ただ。

 

「【発明家】ってのは何をするんだ? いまいちピンとこないんだが」

「読んで字のごとく何かを発明するんだろうがァ! 代表的なのは、それこそトーマス・エジソンだな!」

「あっはっは……! ……うむ。かのトーマス・エジソンは千を超える発明をしたといわれており、蓄音機や白熱電球といった、人々の生活を一変させるものを発明していったのである!」

 

 なるほど……。

 

「ただ、吾輩はエジソンほど天才的な発明はまだできていないのである」

「そうなのか? 【超高校級の発明家】なんだろ?」

「悔しいが、人々の生活のすべてを変えるような発明はできておらぬ。せいぜい、少しばかり生活を楽にするような、彩りを添えるような、そんな発明だけなのである」

 

 ……凡人の俺からすれば、それだけでも十分すごいことだけどな。

 

「ただ、まあそこは別に問題ではない。できないことはこれからできるようになれば良いのであるからな! わっはっはっは!」

 

 そう言った遠城は、腹の底から声を出して笑う。……ただ、ちょっと笑う時間が長くないか?

 

「あっはっは……ふう。それに、吾輩の真髄は日常を少しだけよくするアイデアにある。……む、また一つアイデアを思い付いたぞ。メモを取らねば!」

 

 そして、遠城はポケットからペンとメモを取り出し、すごい勢いで何かを書き始めた。なんて元気な奴だ……。

 

「次はアタシの番ね」

 

 遠城がメモを取っている隙に自己紹介を始めたのは、白いスカートをはいた水色の髪の女子だ。

 

「アタシは【超高校級のダイバー】、東雲瑞希(シノノメミズキ)よ」

 

 

   【超高校級のダイバー】

     《東雲 瑞希/シノノメ ミズキ》

 

 

「東雲瑞希……名前は聞いたことがあるな」

「ホント? 嬉しいじゃない」

「確か、海の美化運動の話で出てきたような気がするな」

「そうね。アタシは元々は地元の海の美化運動の代表者だったんだけど、他の地域の海の美化運動にも関わり始めたから、その関係かしら」

「へえ、代表者か」

「そうよ。……というか、もともとはアタシ一人しか海の掃除をしてなかったのよ」

「たった一人で美化運動を始めたのか?」

「ええ。でも、気づけばいろんな人が参加するようになって、あたしの地元の海は観光名所にまでなったわ」

「すごいじゃないか!」

「でも、あんまりアタシが頑張ったって感じはしないんだけどね。アタシはただ、海が汚れたままになってるのが嫌いだっただけだから」

 

 そう言う東雲の表情はとても生き生きとしている。海が好きなんだろうということがひしひしと伝わってくる。自分の好きな海が汚れているからと言って、たった一人でその掃除を始めるなんてなかなかできることではないだろう。

 

「それだけ聞くと、どっちかってーと【超高校級の美化委員】の方が近そうなんだがな」

「ああ、アタシがきれいにするのは海だけだから。別に陸地がどうなってもいいってわけじゃないけど、もともとダイビングが趣味で、海の掃除はその延長線上にあるだけなのよ」

「なるほどな」

 

 とは言っても、やはり【超高校級のダイバー】としてスカウトされるほどにはダイビング技術が卓越していることは間違いないのだろう。

 

「次は俺の番……っと、遠城、もういいのか?」

 

 遠城はいつの間にかメモを取り終えていた。

 

「ああ、いいのである……大したアイデアではなかったであるからな」

「そ、そうか。じゃあ自己紹介するけど、俺は平並凡一。【超高校級の普通】だよ」

「【超高校級の普通】?」

「まあ、一般人代表だと思ってくれればいい。【超高校級の凡人】の方が正しいかもな」

「ふうん……ねえ、アンタ趣味は?」

「趣味? 特にないけど……」

「じゃあさ、ダイビングやってみない? せっかくなら何かやってみようよ」

「いや、いいよ。泳ぎはあまり得意じゃないし……何かやったって俺なんかじゃ上達するわけないし」

 

 正確には、泳ぎが得意じゃないというより、得意な物がないと言った方がいい。これまで、いろいろと興味を持ったことはあったが結局ろくに身につかなかった。この才能のなさが【超高校級の凡人】たる所以なのかもしれない。

 

「平並よ。得意じゃないというのは理由にならんぞ」

「え?」

「出来ないことはできるようになるまで練習すればよいのだ。一見実現不可能なアイデアでも、努力して考え抜き、試行錯誤を繰り返せば可能となるものもある。やる前から諦めるというのは愚かな行動であるぞ。人間は初めから空を飛べたであるか? 電話は縄文時代からあったであるか? お湯を注ぐだけで食べられるラーメンは一体いつできたであるか? すべて、努力の上に達成されたことである」

「……」

 

 ……そんなのは、才能がある人間だからこそ言えることだ。

 才能がない俺みたいな凡人じゃ、どれだけ頑張ったところでできないことばかりだ。むしろ、できないことしかないと言ってもいい。

 

「もちろん、どうあがいたってできないこともあるであるが……あきらめるには早すぎると思うのである」

「それにさ、趣味にするんだったら別に上手じゃなくてもいいじゃない。そりゃあ上手な方が楽しいかもしれないけど、楽しみ方はそれだけじゃないわよ。……どうしてもやりたくないなら無理強いはしないけどね」

「……そういうものかな」

「そういうものよ。ま、気が向いたら教えてよ。手取り足取り教えてあげるわよ」

「わかったよ」

 

 ……。

 でも、俺は……。

 

「ところで、この建物はなんなんだァ?」

「あ、それを確認しないとな」

「その話であるが……地図では名称が確認できなかった上、建物の周りをまわってみても中は見えなかったのである」

「ってことは、外からは見えないような、ばれたらまずいようなものが入ってるって考えられるわよね」

「……今は、このあたりが限界か」

 

 このドーム全体に対して言えることだが、この建物に関しては特に、あまりにも情報が少なすぎる。何も判断を下せることは無い。

 

「そうね。アタシ達はもう中央広場に戻ろうとおもうんだけど、アンタ達は?」

「あ、それなら俺達も戻るよ。もう全員に挨拶できたからな」

「では、行くであるぞ」

 

 そして、俺達は謎の建物を後にした。

 

 

 

 

 《中央広場》

 

 俺達が到着すると、既に俺達以外の全員が揃っていた。

 

「これで全員揃いましたわね」

「俺達が最後か」

「そうだね。ボクはもう待ちくたびれてしまったよ」

「おせえよ、お前達」

「悪ぃな、新家」

 

 改めて数えてみるが、確かにこの場にいるのは16人だ。遅れてきた俺達に対して愚痴を言う人もいれば、何も言わず立っている人もいる。

 パンパンと手を叩き注目を集めた蒼神が、なにやら話し始める。

 

「さて、何はともあれ全員揃いましたので、食事スペースにでも移動して情報の共有を――」

 

 

 

 その時。

 

 

 

 ぴんぽんぱんぽーん!

 

 

 

 突如として、ドーム内に明るい奇天烈な音が鳴り響いた。

 

「な、なんだ……!?」

「何、今の……」

「静かにしろォ! なんか放送が来るぞ!」

 

 嫌が応にもざわつく俺達を、火ノ宮が一喝する。そして、すぐに火ノ宮の言う通り放送が聞こえてきた。

 

 

 

『あーもう、なっがすぎ! やる気あんのかオマエラ!』

 

 

 その放送の声はひどくだみ声で、そして、言いようのない不快感を感じさせる声だった。

 

 

『今すぐ【自然エリア】の『メインプラザ』に集合!』

 

 ブツッ!!

 

 

 そして、不快な音を立てて放送は終了した。

 その、たったの10秒にも満たないような放送は、俺達に際限のない戸惑いと不安を残していくには十分すぎるものだった。

 




 これでようやく自己紹介終了です。
 まあ、厳密に言うとまだ一匹残ってるんですけど。

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