ダンガンロンパ ~超高校級の凡人とコロシアイ強化合宿~   作:相川葵

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非日常編① 現実はいつも残酷で

 

 

 

 あ ゝ 絶 望 は

―――――――┐

       │凡

       │人

       |に    CHAPTER1

       │微     【非日常編】

       |笑       

       |む

 

 

 

 

 

 

――《「新家柱だ。【超高校級の宮大工】とは、ボクの事だよ」》

 

 

 つなぎを着て安全ヘルメットをかぶった彼とは、食事スペースで出会った。

 初めて会った時、俺は彼の存在を忘れていた。本人の自称する通り、影は薄かったような気がする。

 それでも、彼は欠かせない俺達の仲間だった。

 

 

――《「ああ。【宮大工】の仕事だと数ミリ単位で決まってる設計図通りに作らないといけないことも多いから、手先は器用なんだ。飾り包丁とかも簡単な物ならできるぞ」》

 

 

 【超高校級の宮大工】である彼は、手先が器用で刃物の扱いにも優れていた。その技術はあの日、ともに昼食を作った時に活かされていた。

 

 

――《「なあ……皆が見た【動機】って、どんなやつだった?」》

 

 

 皆が絶望に叩き落されたとき、どうにか耐えて、皆を支えようとしていた。

 

 

――《「だって、ボク達は……仲間なんだろ?」》

 

 

 皆を信じ、奮い立たせることで、彼は絶望に抗おうとしていた。

 

 

 

 

 

 そんな新家柱が、俺の目の前で鮮血の中に倒れていた。

 

 

 

 

 

「おい、おい……なんなんだよ……! 冗談だろ、なあ……!」

 

 血の海に靴を染めながら、一歩ずつ新家の身体へと向かっていく。携えていた包丁を投げ捨て、ガチャリガチャリとガラスを踏み割りながら進んでいく。

 

「やめろ……やめてくれ……」

 

 まだ、新家に謝れていないのに。

 お前の想いを踏みにじって、裏切って、ごめんって、俺はまだ一言も言えていないのに。

 

「おい、こんなところで寝てたら【規則違反】になるだろ……起きろよ……なあ……!」

 

 わかっている。

 もう、心の底では、新家が生きているかどうかなんて、とっくにわかっている……。

 けれど……けれど……!

 そうして、ようやく新家の体にたどり着いた。けれど、すがるように触れた手は、既に冷たくなり始めていた。

 

「冗談だろ……何やってんだよ!」

 

 俺は、その事実が受け入れられなくて、何度も新家の体をゆする。もう、生者のぬくもりを保てていない、新家の体を。

 

「……っ!」

 

 ふと、背後から息をのむ音が聞こえた。

 振り向くと、七原のほかに、蒼神、城咲、東雲の三人が倉庫の入り口に立っていた。

 

「……これは……」

「冗談……ですよね?」

「本当に死んでるの……?」

 

 三者三様の反応を見せる彼女たち。三人もまた、目の前に広がっている光景が信じられない様子だ。

 

「わ、わたし、皆さんを呼んできます!」

 

 そう言って駆けだそうとする城咲の前に、突如白黒のぬいぐるみ……モノクマが立ちふさがった。

 

「その必要はないよ、城咲サン。ボクが皆に教えて回ったから、皆じきにここに集まると思うよ」

「教えて回ってる?」

「うん。さっきのアナウンス、聞いたでしょ?」

 

 さっきのアナウンス?

 

「……死体が発見された、というアナウンスのことですか?」

 

 何かを思い出したような蒼神がモノクマに尋ねた。

 そういえば、そんな放送を聞いたような……。

 

「そうそう。あのアナウンスはね、事件の発生を全員に伝えて出来る限り裁判を公平に行うために、死体を三人以上が発見したら流すものなの」

「確かに、わたしたちもあのあなうんすで事件のことを知りましたが……」

「でしょ? で、普通はこんなことはしないんだけど、ボクが皆を呼んできたから行く必要はないよ」

「呼んできたって……どうして」

「こんな夜中にオマエラが死体を発見するもんだから、アナウンスを流した意味がないんだよ! 皆寝てるからね! だから、ボクがわざわざ皆を起こして回ったんだよそうしないと『公平な裁判』にならないでしょ?」

「……そういうことでしたか」

 

 モノクマの弁を聞いて、城咲が一応は納得した。

 

「それでは、とりあえず皆さんが揃うのを待つとしますが……」

 

 蒼神は、そういいながら俺の方に目線を向ける。

 

「建前は嫌いですので、一応訊いておきます。平並君、あなたが犯人ですか?」

「……はっ?」

 

 蒼神の言っていることが理解できない。

 

「そんなわけないだろ! 俺が……誰かを殺すなんて……」

 

 そう返してみたものの、この言葉には微妙に嘘が紛れている。

 

「訊いただけですわ。ですが、今一番怪しいのは平並君ですから、そのあたりはわきまえておいてください」

「一番怪しいって……どういうことだ」

「……平並、アンタ今の自分の状況を一回きちんと把握しなさい」

 

 自分の状況?

 東雲にそう言われ、周りを見渡して自分の服装に気が付いた。

 ……血まみれだ。

 

「服は血まみれで、死体のそばに突っ立ってて、それで傍には包丁まで転がってるのよ? ……これで疑わない方がどうかしてるわ」

「……これは違うんだ! これは……!」

「東雲さん、蒼神さん、平並君は犯人じゃないよ」

 

 弁明をしようとしたが、それより先に七原が俺のことをかばってくれた。

 

「七原、どういうこと?」

「平並君は私と一緒に新家君の死体を発見したの……血は、その後に新家君に駆け寄ったときに着いたんだよ。だから、平並君は犯人じゃないんだよ」

「……ふうん、そう」

 

 東雲は、100パーセント信用したわけでもないだろうが、ひとまずは七原の意見に耳を傾けてくれたみたいだ。

 

「ごめん、七原」

「いや、いいよ。平並君が犯人じゃないのは私がよくわかってるから」

「……ありがとう」

 

 さっきから、ずっと七原に助けられっぱなしだ。……恩返しをしないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 十分ほどが経過して、倉庫の前に全員が……いや、違う、新家を除く15人が集まった。

 その全員が、倉庫の中の新家の死体を見てそれぞれなりの反応を見せた。

 

「……ちっ」

「ゆ、夢じゃなかったんだ……あ、ああ……」

『柱……どうして死んでんだ、オマエは……!』

 

 当然俺の服についた血も指摘されたが、これもまた七原が説明をしてくれた。

 そして、俺達の反応を満足げに観察していたモノクマが、俺達の視線の先に躍り出て口を開いた。

 

「はい、事件が起こるまでに丸四日間かかりました!」

 

 普段ならモノクマの軽口に誰かが文句を言うのだが、今ばかりは誰からもそんな声は上がらなかった。

 

「それにしても、ようやく! ようやく殺人が起こったね! いやあ、ここまで長かったよ。面白くない茶番ばっかり見せられて、ボクもぶち切れそうだったよ、危ない危ない。ま、【動機】を与えただけで、まさかここまでボクの思い通りになるとは思わなかったけどね……うぷぷぷ……」

「何言ってやがんだァ! モノクマァ!」

「ん? どうしたの、火ノ宮クン」

「どうせてめーが新家を殺したんだろォがァ! そうやって、オレ達の不和を起こそうって魂胆だろ!」

「そんなわけないじゃーん! そんなことしたって意味なんかないんだからさ!」

 

 ……意味?

 

「とにかく、新家君を殺したクロはオマエラの中にいるんだよ!」

「ど、どこにそんな証拠があるんだ……!」

「証拠? 証拠も何も、ボクがこの目でバッチリ見てたからね。録画もしてるから、見せてあげるよ」

 

 根岸の言葉にそう返したモノクマ。おい、おい、ちょっと待て!

 

「お前、誰かが新家を殺すのを黙ってみてたってことかよ!」

「え? 黙ってなんかないよ? そんな最高な映像、笑いながらじゃないと見てらんないでしょ!」

「は、はあ……?」

 

 俺の悲痛な叫びを聞いてもなお、モノクマは言葉遊びのような返事をする。

 狂ってる……【ホンモノ】だ、こいつは。

 

「でも、録画を見せるってことは答えを教えるってことだから、それは、学級裁判の後でね! ハイ、じゃあ学級裁判の説明に移りまーす!」

 

 モノクマはそうやって急に話を切り替えた。これ以上は追及しても無駄だろう。

 

「えー、オマエラが確認した通り、新家君は何者かに殺されてしまいました! というわけで、オマエラには学級裁判で、新家君を殺した真犯人、すなわちクロを見つけ出していただきます!」

 

 真犯人……それが、この中にいるというのか。

 俺が、スコットが、大天が、皆が互いに視線を交わしあう。

 

「それじゃ、これからの捜査の為に時間をとるので、じゃんじゃん捜査しちゃってください! あ、捜査時間は食事スペースと野外炊さん場のカギは開けておくからね。調べたいことがある人もいるかもしれないから、捜査はご自由にどうぞ」

「待ちやがれモノクマァ! オレ達は警察じゃねェんだぞ! 捜査なんかできるわけねェだろ!」

「知らないよ、そんなの! それがレギュレーションなんだから! オマエラ自身の命がかかってんだから、血反吐を吐いてでも捜査するんだよ!」

 

 火ノ宮のクレームも、モノクマはバッサリと切り捨てる。

 

「こんな時にまで甘ったれんな! オマエラはいつもそうだ! だからオマエラは未熟者とか言われるんだよ! ここで本気にならなきゃいつ本気になるんだよ!」

「ふん……未熟者を否定する気はないが、オマエにそんなことを言われる筋合いはない」

 

 スコットが不満をあらわにしている。俺だってそうだ。そもそもこんな状況になったのは誰のせいだと思っているのか。

 新家が死んだのは、誰が元凶だと思っているんだろうか。

 

「あ、でも、さすがに死体の検死ができる人はいないだろうから、それだけはやっておいたよ。【動機】と同じく『システム』に送っておいたから、確認しておいてね! ボクってばやっさしいなあ!」

「……」

「それじゃ、頑張ってね! アディオス!」

 

 モノクマはその台詞を最後に、例の如くどこかへと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 重く停滞した空気が、15人を包んでいる。

 

「ねえ……これ、現実……なのよね……」

 

 そんな中、初めに口を開いたのは東雲だった。その言葉に、杉野が答える。

 

「ええ……夢や幻なんかじゃありません。もしそうだったらどれほどよかったことか……新家君は、確かに殺されていました。しかも、その犯人は、僕達の中にいる……」

「も、モノクマのいう事を、し、信じるのかよ……!」

「そういうわけではありませんが……」

「……俺からすれば、こいつらのことを妄信する方がどうかと思うがな」

 

 岩国が、不機嫌そうに言葉を吐き捨てる。

 

「な、なに言ってんだよおまえ……」

「誰かが俺達を裏切って殺人を犯した、と考える方がよっぽど現実的だろう」

「そんなわけねェだろうがァ!」

「黙れクレーマー。【超高校級のクレーマー】の癖に感情ですべてを否定する気か?」

「ぐぐぐ……」

 

 岩国の物言いに、火ノ宮はギリギリと歯ぎしりをするばかりだ。

 すると、根岸が岩国を震えながらビシリと指差した。

 

「お、おまえがやったんだろ……!」

「……何?」

「お、おまえが一番怪しいじゃないか……! だ、誰とも関わろうとしないで……」

「何を言うかと思えば……いいか、人を告発する時は明確な根拠を示せ。それが【告発】の責任というものだ」

「……そ、そうやって話を逸らすなよ……!」

「ねえ、もう喧嘩やめようよ! そんなことしてる場合じゃないはずだよ!」

 

 七原が仲裁に入るが、収まる様子はなく次第に騒ぎは大きくなっていく。

 けれど、俺はその口論には参加しなかった。参加できなかった。

 そんなことよりも、俺の脳内は、目の前で見た新家の死体で埋め尽くされていたのだ。俺がやろうとしたことの罪の大きさに、押しつぶされそうになっていた。

 だから、聞き逃してしまいそうだった。

 

 

 

 

「……ふふっ!」

 

 その、小さな笑い声を。

 

 

 

 

「おい……なんで笑ってんだ、お前!」

 

 俺は、思わずその笑い声の主に問いかける。

 俯いて手を口に当てながら笑っている、東雲に向かって。

 

「え? だって、笑わずにはいられないじゃない! こんな楽しいことが現実だったのよ!」

「……は?」

 

 そんな間抜けな声を、誰かが出した。

 

「何を言ってるんだ、東雲……」

「いや、いきなりこんなところに閉じ込められて殺しあえって言われても、現実味が全くなかったのよ。これはアタシが見てる夢なんじゃないかって不安だったのよ。皆もそうよね?」

 

 東雲の言う現実味の無さというのは、確かに感じていた。おそらくここにいる全員が感じているはずだ。

 けれど、夢であってくれとすら願った俺と東雲では、その認識がまるで違った。

 

「けど、あの新家の死体を見て確信したわ。やっぱりここは現実だったのね! 一歩間違えれば死んでいたのはアタシだったかもしれないわ……このスリルがずっと待ち望んでいたものだったのよ!」

 

 どうして、そんなことを言うんだ。

 東雲は、ここにいる誰よりも、人が死ぬという事を理解しているはずじゃなかったのか。

 

「この生と死が隣り合った空間が現実だったなんて最高じゃない! しかも、これで終わりじゃない……今度は全員が命を懸けた【学級裁判】が始まるのよ! 皆、楽しみましょうね!」

 

 この生活で初めて見るような満面の笑みで、東雲はそう言い切った。

 

「な、なに言ってるの……新家君は、ホントに死んでるんだよ!」

 

 理解できないといった表情で大天が東雲に詰め寄ったが、当の東雲は笑顔を保ったままだ。

 

「分かってるわ、だからこそよ! 死ぬリスクのないゲームなんてつまらないじゃない!」

「これはゲームなんかではないのであるぞ!」

 

 それどころか、東雲は火に油を注ぐ様な真似をする。その結果として、口論は収まる気配もなくヒートアップしていく。

 

「いい加減にしろ」

 

 そんな中、よく通る声で、鋭くとがった言葉が聞こえてきた。

 岩国だ。

 

「今は、倫理観の是非など話している時間じゃない。宮大工を殺した犯人を見つけるための時間だ。死にたくないなら今すぐその口を閉じろ」

 

 岩国の言葉には強烈な棘があったが、それでも、それは事実だった。

 

「……岩国さんの言う通りですわ」

 

 蒼神が同意する。

 

「今、わたくしたちはモノクマに監禁されています。もしも【学級裁判】を無視するのであれば、きっとモノクマはそれなりの対応をとるでしょう。ですから、学級裁判のために行動するのが最適のはずですわ」

 

 蒼神はあえてぼかした言い方をしたが、それはつまり、【学級裁判】に出なければ殺される、という事を意味している。

 

「わたくしたちが何と言おうと、新家君が殺されたのは動かしようのない事実です。……犯人が誰であっても、その真相を明らかにすることは、決して無駄ではないと思います」

「…………」

「ここにいるのは捜査に関しては素人ばかりですが、それでも、このような閉鎖空間で殺人を行えば何らかの証拠は残るはずですわ。真相を解明することは、決して不可能ではありません」

「ですが、そうさと言っても何をすればよいのですか?」

 

 城咲が不安そうに尋ねる。

 

「そうですわね……とにかく、普段と変わったことは無いか、もしくは怪しい行動をした人物を見なかったかなどを調べればよいかと思いますわ。幸い、この施設はとてつもなく広い施設というわけでもありませんし、規則違反に抵触する為にポイ捨ても行えません。この15人で協力すれば、きっと証拠は見つかるはずですわ」

「捜査に関しては俺も協力してやるが、捜査を始める前に決めておきたいことがある」

「なんですか? 岩国さん」

「現場の見張りだ。15人が自由に動けば隙が生まれる。その隙をついて、クロが証拠を隠滅する可能性があるからな」

「それは……確かにそうですわね」

 

 岩国の提案に蒼神は納得して、俺達を見渡しながら問いかける。

 

「誰か、現場の見張り……現場保全に努めてくださる方はいらっしゃいますか? 捜査はできなくなってしまいますが……」

「では、わたしがやりましょうか」

 

 立候補したのは城咲だ。

 

「狭いくうかんであれば、怪しい動きをしている人にはすぐにきづきますので」

 

 なるほど、【超高校級のメイド】のスキルが役に立つ、というわけか。

 

「念を入れて見張りはもう一人出したい。メイドの他に立候補する奴はいるか?」

「……だったら、オレもやる。オレも目はいい方だからな」

 

 二人目の見張りとしてスコットが手を挙げる。

 

「では、現場保全はお二方にお任せしますわ」

「な、なあ……つ、ついでに訊いておきたいんだけどさ……」

「どうしましたか、根岸君?」

「け、検死って、で、出来る人はいるのか……? も、モノクマがやったみたいだけど、ど、どこまで信用できるかわからないし……」

 

 検死、か……。そんな事ができる人、この中にいるのか?

 

「検死ですか……正直期待はできませんわね。【超高校級の鑑識】でもいれば話は別なのでしょうが……」

 

 ……確かに、俺達の中にそう言った才能の持ち主はいない。何か、死体に関して知識のある人がいるだろうか。

 悩んでいると、杉野が口を開いた。

 

「【超高級の図書委員】である明日川さんなら、そういった知識も持ち合わせているのではないですか?」

「な、なるほど……み、ミステリとか読んでるなら、も、もしかして……」

「……悪いけれど、ボクが好むのはフィクションばかりでね。現実の死体は見たことがないし、ボクの活躍できるシーンはなさそうだ」

 

 明日川ならもしやと思ったが、その知識は持っていないらしい。と、思っていると、

 

「……なら、オレがやる」

 

 火ノ宮が名乗りを上げた。

 

「ひ、火ノ宮が? お、おまえ、け、検死なんかできたのかよ?」

「あァ? できるわけねェだろ!」

「な、ならなんで名乗り出たんだ……!」

「検死はできねェが、知識ならある……オレは【超高校級のクレーマー】だからな。いつどんな知識が必要になるかも分からないから、知識はできるだけ詰め込んでんだ」

『へえ。クレーマーするのも大変なんだな』

 

 クレーマーって、そういうものだっけ?

 もしかすると火ノ宮は、クレーマーだから勉強するのではなく、勉強できるからこそ【超高校級のクレーマー】になれたのかもしれない。

 

「死体に詳しいわけじゃねェが……どっちにしたって、モノクマの検死がどこまで正しいか判断するヤツは必要だ。誰も出来るヤツがいねェなら、オレが検死をやってもいい。素人なりの判断しか下せねェだろうけどな」

「それで構いませんわ。では、火ノ宮君に検死はお願いいたしますわ」

 

 この非常時においても、蒼神の仕切りは健在だ。

 

「……とにかく、これで決めるべきことは決めましたかね」

「では、ひとまず解散にして、捜査を始めましょう。みなさん、懸かっているのはわたくし達の命です。そのことを、ゆめゆめ忘れないようにお願いいたします」

 

 蒼神は、そう言って話を切り上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 【学級裁判】……。それは、仲間を殺した犯人(クロ)を見つけ出すための場。

 

 そして、モノクマの言葉を信じるならば、この中にそのクロは潜んでいるというのだ。

 

 

 クロは、きっとここから出るために新家を殺したのだ。かけがえのない、仲間を。

 俺にそのクロを責める権利なんてない。だって、俺も絶望に染まって根岸を殺そうとしたのだから。俺は、一度皆を裏切ってしまったのだ。

 けれど、いや、()()()()()、俺には皆を救う【義務】がある。

 

 ……だから、とにかく今は捜査をするんだ。

 俺のような凡人が、どこまでやれるかはわからない。

 けれど、たとえ推理力がなくたって、観察力がなくたって、いくら俺が【超高校級の凡人】なのだとしても、それは決して言い訳にはならない。

 俺が、この事件の犯人を見つけなくてはならない。

 

 そうすることでしか、この罪は償えないはずだから。

 

 

 

 




立ち止まってはいられない。
次回、捜査編。

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