面倒臭い奴に会ってしまった。
空を見上げて軽く息を吐く。
「どうしたのよお食蜂さん。ため息なんてついてえ」
「その理由の大半をあなたが占めてることに気づいて欲しいわぁ…」
7月1日。
照りつける太陽に、最近の太陽の発熱力は異常だなどと考えながら歩いていると、蜜蟻に出くわした。
表だっていがみ合っている訳ではないが、正直言って嫌いなタイプである。
「ねえねえ食蜂さん。ほら、私たち同じ精神操作系の能力者でしょ?もっと仲良くするのがお互いのためだと思うのよねえ。今からお茶でもどお?」
「お断りしたい所だけど、生憎口実が無いのよねぇ…仕方ないからご一緒してあげるわぁ」
「ふふ。それは良かった」
この女をあしらうには、相当なエネルギーを消費する。
暑さにもそろそろうんざりしていたので、少々不本意だったが近くの喫茶店に入ることにした。
たまにはこっちが会話の主導権を握ろうと、話の切り出し方を考えていると、蜜蟻に先手をとられた。
「ねえ食蜂さん」
「どうしたのぉ?」
開口一番、蜜蟻が切り出す。
「あなた、上条クンに告白しないのお?」
「何を急に、ゴホッそんな、ゴホッ突拍子もない事を、ゴホッ言い出すのぉ?」
「…顔真っ赤よお。照れちゃって。かわいいわねえ」
…今日も主導権は握れなかった。
「…私の記憶が正しければ、あなたって上条さん大好きっ子じゃなかったぁ?」
「確かに好きだけどお、私の場合好きを通り越して崇拝に近いっていうか、恋愛対象って気がしないのよねえ」
「…色々あるのねぇ…」
「私の事はいいの。大事なのは今のあなたの現状よお」
「私の現状?」
「まさかあなた、今の付かず離れずオトモダチ的関係に満足してないでしょうねえ?」
「それはそうだけど…」
「それにあの子、御坂さんだっけ?あの子上条クンに随分となついてるみたいじゃない?」
「そうなのよねぇ…」
初対面から色々とあったようで、最初は反抗的な態度を示していたが、現在は少なからず好意を抱いているようだった。
「いつもは腹立たしい彼の鈍感力も、今は有難いわぁ…」
「悠長なこと言ってる暇はないわあ。あの子今でこそ話してて楽しい位の認識で彼を見てるかもしれないけど、いつその気持ちが発展するかわからないわよぉ?」
「うぅ…ちょっと想像できるわねぇ…」
それから十数分ほど、どうでもいい話をした後、
「まぁなんにしても!」
パチン、と蜜蟻が両手を合わせた。
「今の状況で本当に満足なのか。満足でないなら何をすべきなのか。一回考えてみるべきだと私は思うわあ。模範解答も何もあったもんじゃないけど、それがあなたのいますべきこと。しっかりねえ」
今日はそれが言いたかったの、そう言って蜜蟻は席を立って手を振りながら店を出ていった。
(…そこまで悪い人でもないのかもねぇ…)
氷が溶けて薄まったアイスティーを飲みながら、ぼんやりと考える。
今の関係で満足しているのか?
いや。もっと深い関係になりたい。
今自分がすべきなのは何か?
決まっている。想いを伝えればいい。
どうやって?
そこまで考えて、思考が固まる。
心のエキスパートである食蜂も、彼の話になると形無しである。
「私ができること、かぁ…」
突然携帯から着信音が響いた。
見ると、蜜蟻からメッセージが届いている。
『まぁなんだかんだ言って、正妻ポジションより愛人ポジションの方が私の性に合うって話なんだけどね☆』
前言撤回。やっぱり彼女は嫌いだ。
軽く笑って、上条にメッセージを送った。
『夏休みの宿題、どっさり出たんじゃない?手伝ってあげるわぁ』
携帯を閉じて呟く。
「今は、できることから、ね」
軽く息をついた。
蜜蟻がアイスティーの代金を払っていかなかったことに気づくのは、もう少し先の話。
蜜蟻の日常会話の描写が無かったので、ほぼオリキャラと化しています。
イメージ崩れたらごめんなさいっ!