禁書if ~あの日携帯を無くさなければ~   作:イシトモ

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4.柔和な電撃姫

「うぁー。また夏が来ちまったなぁ食蜂さんや」

「ちょっとぉ。口調のおっさん力が上昇してるわよぉ?」

 

6月。あの交差点での出会いから約一年が立ち、また夏がやって来た。上条は晴れて高校に進学し、食蜂は常盤台中学の二年生になっている。

今の時期から夏休みを心の支えにして日々を生き抜く上条は、学校帰りにばったり食蜂と遭遇し、そのままぶらぶらと商店街を歩いていた。

 

「最近どうだ?何かトラブルに巻き込まれたりしてないか?」

「心配御無用。派閥の子たちとも仲良くやれてるし、順風満帆といったところねぇ」

「それはすばらしい。上条さんは安心しましたよ」

「あなた私をどの立場から見てるのよぉ…」

「親戚の叔父さん的な?」

端から見ればもはやカップルにしか見えない距離感で歩いていることに上条は気付いていない。

そして今はその現状で、食蜂は満足している。

 

「それを言う上条さんはどうなのぉ?」

「?」

「ずっと思ってたんだけどぉ、上条さんってちょくちょく学校をサボっては人助けして入院してるわよねぇ?」

「表現が酷いけど事実なのが辛いな…。それがどうかしたか?」

「出席日数とかって大丈夫なのぉ?折角の夏休みが補習で潰れたりしないでしょうねぇ?」

「あぁ、その点は問題ない。蜜蟻が俺に天啓を授けてくれた」

「どんなぁ?」

食蜂は蜜蟻の顔を思い浮かべる。今まで何度か会っているが、中々に腹黒い人物であると認識している。純粋な彼に、何を吹き込んだと言うのだろう。

「聞いて驚け」

 

 

 

 

「友達に代返を頼む作戦ッッッッッ!!」

「あなたはそれを天啓と捉えるのねぇ…」

 

 

だらだらと駄弁りながら歩いている時だった。

「おい、あの制服お前の学校の奴じゃないか?」

常盤台中学の制服を着た女の子が、四人の不良的お兄さん方に囲まれている。

「あら、本当。あの子は…御坂さんねぇ。あの子レベル5の電撃使いだし、多分大丈夫だと思うけど…あれ?」

横から上条が消えていた。

「まったく…変わらないわねぇ…」

 

 

 

食蜂は一歩引いて見守ることにした。

上条が輪の中に割り込んでいく。

口論をしているようだが内容は聞こえない。

まあなんとかなるだろうと待っていたが、なかなか終わりそうにない。

飽きてきたので能力で不良を眠らせようかと危険思想に陥りかけたところで、

「きゃっ!?」

不良に囲まれていた少女から電撃が迸った。

 

倒れ伏す不良たち。

しかしその中において上条だけは無事だった。

その右手を突き出し、悠然と立っている。

「相変わらず不思議な右腕ねぇ」

能力診断ではレベル0の無能力者としか判断されない上条当麻。しかし彼の右腕には超能力を打ち消す不可思議な力が備わっている。

 

「さて、そろそろ行きましょうかぁ…」

食蜂は尚も言い争いを続ける二人の方へと歩いていく。

このままでは嫌な予感がする。

 

 

 

具体的には、あの鈍感男が新しいフラグを立てる。

そんな予感が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

厄介なことになった。

学校帰りに食蜂と歩いていて見つけた、不良に囲まれた少女を反射的に助けにいったところまでは良かったのだが、他でもないその少女が電撃を撒き散らして周囲を凪ぎ払ったのである。

 

「危ねっっ!」

奇跡的に右手が間に合い、自分に向かう電撃をかき消した。

視界が晴れる。

圧倒的な暴力でもって被害を撒き散らした張本人は、

 

「で、なんでアンタはまだ立ってられる訳?」

敵意丸出しで立っていた。

 

 

 

 

 

「だからさぁ、俺はレベル0の一般学生であって…」

「嘘つけ!私の電撃を防げるなんて、並の能力者なはずがない!どこの誰なのかちゃんと教えるまで逃がさないんだから!」

「不幸だ…。年頃の女の子は難しすぎる…」

「あぁもう面倒臭い!勝負よ!アンタの能力を見極めてやる!」

 

話題がバイオレンスな方向へシフトしかけた所で、上条に助けがやってきた。

「御坂さん、それくらいにしておいてくれない?この人は私の命の恩人なの。傷つけるなら許さないわよぉ?」

「しょ、食蜂さん?」

「助かったぁ…」

「ふふ、貸し1つよぉ」

 

 

 

食蜂の助けに安堵する上条。

上条のフラグ成立を妨害し内心胸を撫で下ろす食蜂。

急な食蜂の乱入で処理落ちし口をパクパクする少女。

「あれ、えと、食蜂が急に現れて、でも、謎の男子と親しげで、いつにないほど柔らかな笑顔で、あれー?」

 

 

「こちら御坂美琴さん。常盤台中の二年生でレベル5の電撃使いよぉ」

「あぁ、名前だけなら聞いたことあるな。学園都市で三番目に強いんだっけ?」

「まぁ超能力者の序列には能力の有用性が関わるから一概には言えないけどねぇ」

自分の紹介が一段落した辺りで御坂が復活する。

 

「食蜂さん!誰なのその人! まさか!!」

御坂は雷に打たれたような顔をして、

「噂に名高い食蜂さんの想いびムグゥっ!」

食蜂が御坂の口を押さえつける。

(本人の前でなんてこと言おうとするのよぉっ!)

(ごめんっ! でもそのリアクションは図星だよね!?)

(えぇそうよっ!悪いぃ!?)

 

唖然とした上条に気付いて体勢を戻す。

「コホン。この人は上条さん。ちょこっと貧乏な苦学生よぉ」

「貧乏を否定できないのが辛い…」

「この人は能力を右手で打ち消せるの。信じられないかもしれないけど、実際私の洗脳も打ち消せるわぁ」

「上条先輩…ですか」

食蜂の洗脳も効かない、という点に驚いたようだったが、

「…宜しくお願いします」

食蜂に些か毒気を抜かれた様子で、上条に右手を差し出してきた。

 

上条としては先ほどの電撃の印象が強く、向いの少女への警戒心は割とあったが、

「おう、よろしくな」

そのまま御坂と握手する。

「!電気の発生すらできない!?」

「電流流すつもりだったのかよ!?」

 

門限が迫っていたので、スーパーに夕飯の材料を買いに行くという上条と別れた二人は、学舎の園へと早足で進んでいく。

 

 

 

 

「食蜂さん」

「なぁに?」

 

御坂が不意に食蜂に問いかけた。

「上条先輩にばったり会ったって言ってたけど…」

「それがどうかした?」

にやりと少し悪戯っぽい笑みを浮かべ、

「…待ち伏せ、したんでしょ?」

「………」

「………」

 

 

 

 

「記憶を、消去ぉ!!」

音速で取り出したリモコンから放たれる能力は、御坂の纏う電磁バリアによって遮られた。

 

 

 

 

 

 

 


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