初稿で我ながらこれはBANされると思ったので一度修正しましたが、まだまずそうなら直すので、感想で警告してくれると幸いです。
一向に衰える気配の感じられない太陽の下、学園都市は九月十五日、大覇星祭初日を迎えた。
街に存在する全ての学校が合同で行う運動会。
総人口二百三十万弱の内およそ八割が参加するとなると、その規模は途方もないものになる。
だが、どんな場合においても例外は存在するもので、学校に籍だけ置いて不登校を決め込む者たち、平たく言えば暗部の面々にとってはこのお祭り騒ぎも自分には関係ない喧騒に過ぎなかったりする。
それはとある過激な治安維持組織、アイテムについても同様だった。
「暑いです。超暑いです。せっかく風邪直ったってのになんなんですかこの暑さは。そしておまけになんなんですかこの人の多さは」
「大方大覇星祭見に来た『外』の一般人でしょ。ほら、買うもん買ったしさっさと涼しい涼しいお部屋に戻るよ」
「それもこれもまた麦野がパシリを消し飛ばしたのが悪いんですよ。なんでわざわざこのクソ暑い中歩いてアイス買いに来ないといけないんですか」
「わーるかったって。ほらほら、ダッツ買ってやったから機嫌直しな」
「わーい麦野大好きー」
「フレンダの分買ってないけど、いいの?」
「別にいらなくない?どうせ今頃男とよろしくやってんだろうし」
「え、なんですかそれ。超初耳なんですけど」
「知らなかったの?あいつ今最近仲良くしてる男の応援しに行ってんだぞ」
「最近のフレンダはイキイキしてる」
「フレンダに彼氏……超信じられない……」
そう言って、見かけ12歳程の少女は空を振り仰ぐ。
雲一つない晴天が広がっていた。
炎天下の路上で女子三人が姦しく騒いでいる頃、話題のフレンダはとある高校のグラウンドの端で、ブルーシートに座っていた。
視線の先には土煙を上げて今にもぶつかろうとする二つの集団。
戦争に挑む軍隊のようなオーラをまとうとある平凡な高校と、相手の異様なプレッシャーに気後れする私立のエリートスポーツ校。
テンションの落差激しい二校による棒倒し対決が行われている。
「青ピファイトー!」
フレンダの暗部仕込みの動体視力が、平凡高側の前衛の先頭にいる青ピの姿を見つける。
迫りくる相手側の弾幕をひょいひょいと回避しながらひた走るその姿は、傍目にも中々勇ましいものだが、
「あ、吹っ飛ばされた」
遂に一発まともに喰らい、その体が宙を舞う。
味方の念動力者に助けられたか、空中で速度を殺して着地し、再度駆け出す。
対戦カードを見た時点で青ピたちの負けを確信していたフレンダだったが、その予想に反して中々善戦している。
後方部隊が念動力等で形成した力の塊を叩きつけて足元の土を盛大に巻き上げる。
その土煙を目眩ましに利用しながら、それなりに運動神経のある前衛が相手陣地を目掛けて突撃する。
能力の質は相手校に遠く及ばないが、チームワークを生かした電撃戦でその差をカバーしていた。
同じく吹っ飛ばされたツンツン頭の少年が、敵陣に突っ込む。
直ちに袋叩きにされるが、フレンダはその裏で密かに相手の棒に忍び寄る青ピたちの姿を捉えていた。
姿勢を低くして隠密性を高めた青ピ率いる前衛が、迅速に棒との距離を詰めていく。
相手チームの遊撃隊も接近に気づき鎮圧を試みるが、それを見越したかのように青ピたちの背後から援護射撃が飛来し、それを相殺する。
より一層悪化した視界の中で、遊撃隊の間をすり抜ければ、残すは守備陣に固められた本丸のみ。
そのまま助走をつけて飛び上がった青ピは、味方の念動力者の力に今度は背中を押されたらしく、空中で更に加速した。
土煙を切り裂き、一気に棒に肉薄する。
会場は迫熱し、思わずフレンダの応援にも熱が入る。
「いっけぇぇぇぇぇぇ‼」
ツンツン頭に気をとられていた相手側の守備陣は、意識外からの突撃に対処しようとするも、時既に遅し。
青ピが突貫の勢いそのままに大きく傾けた棒は、続く前衛の数の暴力によって更に押し込まれる。
一層大きく土煙が上がり、観客席から戦場を覆い隠す。
数秒立って土煙が晴れたグラウンドには、項垂れる相手チームと、胴上げされるツンツン頭と青ピの姿があった。
胴上げの最中、観客席にフレンダの姿を見つけた青ピは大きく手を振る。
フレンダは満面の笑みで振り返した。
競技を終えた生徒たちが、わらわらとグラウンドから退場する。
青ピが異端審問にかけられるのを避けるため、二人は少し離れた地点で合流する。
道端の屋台で焼きそばを購入すると、近くの公園の東屋に腰を落ち着けた。
屋根に日光が遮られ、冷房も無い野外にしては中々快適である。
「すごいじゃん青ピ。大活躍だ」
「いやぁそれほどでも。てか最後のあれ割とミラクルやで?作戦だけあってろくに打合せしとらんかったから、空中でバランス崩しかけて焦ったのなんの」
「結局勝ったからオッケーって訳よ。次の種目にも期待してるからね」
「次は……大玉転がしか。多分さっきより楽やな」
「確か青ピ全部の競技に出るんでしょ?体張るね」
「まあ僕運動神経そこそこええし、能力無いのが普通の高校やからな。フレンダは何も競技に出ないんやったっけ?」
「うん。真に勝手ながらずる休みしちゃった」
「いや堂々と言うなや」
フレンダが笑って誤魔化すと、青ピは勢いよく焼きそばを啜った。
会話が途切れ、二人焼きそばを頬張る。
今では会話の中で沈黙が生じても、そこに気まずさは無く、むしろ一種の居心地の良さのようなものが有る。
割と穴場なのか、公園内にいる人は少なく、しばし穏やかな時間が流れていく。
大通りの喧騒を遠くに聞きながら、二人まったりと楽しむ食事は、とても心地好いものだった。
焼きそばを食べ始めて五分ほど立った頃。
青ピはフレンダの異変に気づいた。
何やらもじもじしている。
何かを言おうとして踏ん切りがつかないのか、口を開けたまま数秒停止し、諦めて焼きそばを啜るというサイクルを何度も続けている。
自分から切り出すのを待とうと決めた青ピの前で、更に数サイクルが繰り返される。
結局フレンダが言葉を発するより先に二人の焼きそばが無くなった。
さらに沈黙が流れ、流石に青ピも居心地が悪くなってきた頃、遂にフレンダが口を開く。
「……あのさ、青『プルルル、プルルル』あう……」
しかしタイミング悪く鳴り出した自らの携帯に遮られた。
青ピに拝む様に左手を掲げ、携帯を耳に当てる。
しばらくして通話を切り、うへー、という顔をする。
「……大変申し訳ない。お仕事入っちゃった」
「気にせんでええよ。むしろ競技サボッとって正解やったな。気ぃつけてや」
ひらひらと手を振る青ピに見送られ、そそくさと席を離れようとするフレンダだったが、
「あの、さ」
東屋を去る直前で立ち止まり、
「私、絶対に夜までに仕事終わらせるから」
青ピの方に振り向いた。
頬をほんのりと赤く染め、流し目で青ピを見る。
「……その、今日、ナイトパレード、一緒に行こ?」
その表情は余りにも破壊力が高く、青ピはただ頷くことしかできなかった。
しかしそれを見たフレンダはとても嬉しそうな笑顔を浮かべ、日光降り注ぐ東屋の外へと駆けていく。
「それじゃ、また後でね!」
呆気にとられた表情で固まる青ピには、その喜びに満ちた声にも、手を振って答えるのが精一杯だった。
フレンダが在籍する『アイテム』とは、学園都市内における不穏分子の抹消を主な仕事とする小組織である。
その仕事内容は様々だが、この日の目的は研究者数名の殺害だった。
フレンダと、同じく構成員である麦野を乗せた車が、第十学区の廃工場に到着する。
「んで、結局仕事の詳細聞けてないんだけど、何があったの?絹旗と滝壺は?」
「どっかのバカな研究者連中が、機密情報持って逃げ出したんだと。この廃工場で学園都市の外の奴にそれを売り飛ばすらしいから、それを阻止しろってさ」
「それでなんで私たちだけに?」
「別の場所でも同時に取引するらしくって、二人はそっち行ってる。まあ知恵振り絞って少しでもリスク減らそうとしたんじゃない?」
「結局両方場所割れるとか、学園都市の研究者の名が泣くって訳よ」
二人が車から降りると、埃っぽい風が吹き抜けていった。
「どうせ相手は普段から試験管かキーボードしか触んないモヤシだろうし、パッパと片付けるよ」
「よっしゃ!じゃあさっさとかたづけますか!」
「あら、俄然やる気じゃん。ああ、この後また例の男んとこ行くのか。さてはナイトパレードにでも誘ったな?そっかー、明日フレンダは朝帰りかー」
「ちょ、麦野、何言ってんの!?ほほほら、もうすぐ扉開くから!行くよ!」
和やかに会話しながらも工場の入り口に接近したフレンダは、入り口のシャッターにクリーム色の直方体を張り付ける。
大きく距離をとって手元のスイッチを押すと、爆発とともにシャッターに風穴が開いた。
「明日感想聞かせてねーん」
「何があろうと絶対麦野には言わないって訳よ」
特に警戒する様子もなく、二人は工場に足を踏み入れる。
探索するまでもなく、機材の撤去されただだっ広い空間の中で、大きな柱を背に白衣の男が立っていた。
堂々と歩いて自分に近づいてくる二人に気付いた男は、持っていたジュラルミンケースを抱きかかえる。
二人と男の間の距離は、およそ2メートル。
「お、遅かったじゃないか。金と都市の外に高跳びする足は用意できたんだろうな」
その言葉を聞いた麦野は、口角を上げて残忍に笑い、片手を水平に伸ばす。
「ざぁんねん」
突如凄まじい閃光が迸り、男の後ろの柱を一部消し飛ばした。
一瞬の静寂の後、振り向いて惨状を確認した男の顔が真っ青になる。
目の前にいるのが取引相手などではなく、追手だと気付いたようだ。
「たた、頼む!!いくらでも払うから!!命だけは助けてく
言い終える前に研究者が『処理される』のを、フレンダは他人事のように眺めていた。
処理した張本人である麦野は、何事もなかったかのように前髪をかきあげる。
「余りにもあっさりだったね。警備もいなかったし、結局私たちがやるような仕事でもなかったんじゃない?」
「まあ楽なのはいいことでしょ。珍しく返り血浴びなかったし、フレンダも良かったんじゃないの?」
「麦野みたいに虫の息の相手を拳でボコボコにしたりしなきゃそんなに返り血も飛ばないって訳よ」
フレンダは、動かなくくなった男に一瞥もくれることなく、地面に転がったケースに近づき、拾い上げる。
「それで、これからどうすんの?男の下へ直行?」
「いや、その前にシャワー浴びてく。結局普通に応援で汗かいたって訳よ。このケース置いてっていいの?」
「下っ端連中がその内回収に来るってさ。にしてもフレンダに彼氏ができるとはね」
「別に彼氏な訳ではないっていうか」
人の命を奪ったその場で、恋バナを始める。
二人とも、そうできてしまうことがどれだけ異質であるかなど理解しているが、それが彼女らにとっての当たり前なのである。
「でも他の男友達と比べたら特別なんでしょ?」
「まあ、そうだけど……」
左右の人差し指を突き合わせながら、フレンダがポショポショと呟く。
「なんていうか、最初は普通の友達だったのに、気付けば隣に居たいと思うようになってたというか」
「はいはい、ごちそうさま。まあ私は恋愛禁止なんて古臭いこと言わないから、精々楽しんできなさい」
麦野は踵を返し、フレンダを置いて歩き出す。
「明日生きてられるかどうかも、私たちにはわからないんだからさ」
フレンダもケースを足元に置き、その後について歩き出した。
「……」
黙って歩いていると、思い浮かぶのは青ピの暖かな笑顔。
果たして、自分にはその横にいる資格はあるのだろうか。
わざわざ麦野に指摘されるまでもなく、自分の中で青ピの存在が特別なものになっているのは自覚している。
しかし、青ピが自分の中で眩しい存在になる程、自分は暗い所に立っている人間なのだという認識が強くなる。
ふと、振り返る。
地面には、数分前まで生きて動いていた人間。
青ピがこれを見たらどんな反応をするのだろうか。
少なくとも彼だったら、自分のように冷静に観察はできないだろう。
マナーモードにしていた携帯が震える。
取り出して確認すると、青ピからメールが来ていた。
『無事大玉転がし勝てたでー('ω')ノ 夜の待ち合わせどこにする?』
フレンダは、すぐには返信を打てなかった。
作者はバッドエンド書けないので(ry
UA10万突破。
やったぜ。