禁書if ~あの日携帯を無くさなければ~   作:イシトモ

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気がつけばUAが八万越えしてました^^

これからもよろしくお願いします


3.初体験

青髪ピアスは、いわゆる非リア充である。

運動神経こそ人並以上だが、あくまでも並な顔立ちやクラス最底辺の成績、おまけに普段の変態的言動もあり、高校一年現在にあってなお彼女いない歴=年齢を貫いていた。

しかもその身に宿す能力などなく、学校側から押された烙印は堂々のレベル0。

日陰者、とは言わないまでも、晴れ舞台に立つことは無い人生を送ってきた。

自慢では無いが、職務質問を受けた回数であれば誰にも負ける気がしない。

なればこそ、今の彼の現状は致し方ない物であるとも言える。

 

「どうして、こうなった………」

 

青髪ピアスは、初めて訪れた女子の家において、部屋の中心に正座して硬直していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-----20分前-----

 

「……え?」

 

青ピの口から間抜けな音が漏れる。

 

「どしたの?ポカンとして。早く来ないと置いてくよ」

「…ごめん、もう一回聞いてもええかな。ここ、どこやって?」

 

先程のフレンダの発言が聞き間違いであることを祈りながら青ピが再度尋ねると、聞こえた通りの返事が帰って来た。

 

「だから私の家だって。正確にはこのマンションの一部屋だけど。何、まさかこのマンションが丸々私のだと思った訳?」

「えっと…理解が追いつかんからちょっと待ってな」

 

突然訪れたゲームのような展開。

こういったシーンを画面越しに見るたび、こんなシチュエーションが自分にも訪れないかなぁなどと夢想したものだったが、実際にその境遇におかれた青ピの脳内を占めるものは喜びでも期待でもなく、困惑だった。

 

つい一日前に知り合ったばかりの女の子が?

言うに事欠いて自分を?

こんな時間帯に自室に招く?

 

「あーわかった。これは夢や。カミやんへの嫉妬とかそういうのが生んだ夢や」

「そのカミやんって人が誰だかは知らないけど……私なんか変なこと言った?」

「いや変なことって言うかやな、そもそも彼氏でもない男を部屋に招くって色々と問題あらへん……?」

「えー、そうかな……ま、大丈夫でしょ」

 

フレンダはにぱっと笑って、

 

「鯖好きに悪い人はいないって訳よ!」

「ツッコミ所が多過ぎて処理しきれん…」

 

ああ、と青ピは悟った。

この子ちょっと残念な子だ。

 

「いいからいいから、行くよー」

 

そう言って外付けの階段を登るフレンダを見て、青ピも諦めて同行を決心する。

ここまで来ておいて帰ったら、逆に失礼にあたってしまうだろう。

決して「女子の部屋にお邪魔する」という誘惑に良心が負けたためでは無い。

 

断じて無い。

 

「てかそもそも僕、別に滅茶苦茶鯖が好き、って訳でも無いんやけどなぁ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『救急箱掘り返すからその辺に座っといて!』

 

そう言ってフレンダが物置に向かってから数分。

フローリングに正座して硬直していた青ピにも、ようやく周囲を見回す余裕が出てきた。

並んでいる家具は青ピの部屋にもあるようなごく一般的な物だが、部屋の随所には西洋風の人形が飾られており、周囲には形容し難い甘い匂いが漂っている。

本棚がほぼ少年漫画で埋まっているのがやや異質ではあるものの、そこは間違いなく「女の子の部屋」である。

 

緊張をほぐすために深呼吸をし、甘い匂いを思い切り吸い込んで緊張し、結果挙動が不審になるという悪循環に陥った青ピは、控えめに言っても不審者然としていた。

 

「落ち着かん…」

 

キョロキョロと視線を動かしていると、写真立てが目に入った。

大きな湖の鏡のような水面をバックに、フレンダと、フレンダをそのまま縮めたような少女が笑っている。

見た者全てを笑顔にするような、魅力的な笑顔。

青ピは自らの不純な心が洗われていくのを感じた。

 

「妹さん、かな」

「そうだよ」

「うひぃっ!」

 

写真を見ながら青ピが和んでいると、気づかない内にフレンダが背後に立っていた。

片手にぶら下げていた救急箱を足下に置き、写真立てを手に取る。

 

「フレメアって名前なんだ。まじで超可愛くてさ、もうまさにお人形さんみたいっていうか。『大体、お姉ちゃんは危なっかしいから私が面倒見ててあげる!』とか、ちょっと生意気なんだけどそこがまた良いっていうか」

「なるほど、自慢の妹なんやな」

 

フレメアについて語るフレンダの口調からは、姉妹愛がひしひしと伝わってくる。

 

「うん!まぁ結局、最近ろくに一緒にいられてない訳だけど」

「会いにいかんの?」

「そうしたいのはやまやまなんだけどね……仕事柄家族と連絡とり辛くて」

「仕事?」

 

一瞬その顔に影が差したように見えたが、すぐに元通りになる。

 

「ううん、なんでもない。ごめんね、手当てするの忘れてたって訳よ」

 

フレンダはそれ以上の追及を避けるかのようにそう言うと、写真立てを優しく置いた。

腰に手を当てて青ピの前に仁王立ちする。

 

「よし!」

「え、いや、なんでそないに気合い入ってますのん?」

 

その剣幕に押される青ピに、フレンダは畳み掛ける。

 

「脱いで!」

「は?……え、いや、ちょ、待っ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はいオッケー!」

「痛っ!?」

 

青ピの背中をパシンとはたき、フレンダが手当ての終了を告げる。

痺れるような痛みに青ピが顔をしかめていると、横から彼の上着を持った手が伸びてくる。

 

「学園都市の医療キットだし、安静にしとけば明後日にでも全快って訳よ。……あ、ケンカは禁物ね」

「言われなくてもケンカはせんよ。ありがとな……じゃあそろそろおいとまするわ」

「あ、そう?お茶でも淹れようかと思ったんだけど」

「かまわんかまわん。その気持ちはありがたいけどそろそろ精神力が限界でな。また店に顔出してくれればそれでええよ」

「もちろん通わせてもらうって訳よ!麦野たちにも布教しといたから、ファン増えちゃうかもね」

「おお、それはありがたい」

 

 

 

靴を履き、玄関を開けると涼やかな風が吹き込んでくる。

居間から手を振るフレンダに手を振り返しつつドアを閉めると、急に静寂に包まれたような感覚が青ピを襲った。

彼女がいるといないとで、ここまで雰囲気が変わるものなのかと苦笑しながら歩き出す。

 

 

 

マンションからかなり距離をとり、大きく深呼吸する。

 

「あー、緊張した………つっちーに自慢したろ」

 

月明かりに照らされながら歩くその足取りは、数日前に比べとても軽やかだった。

 

 




また間隔が空いてしまったことを反省しつつ。

フレンダの口癖の使いこなせてない感が凄い…

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