大変言い辛いのですが、また暫く時間空きそうです。
春休みの課題が終わらない…
「なんとか言えやゴラァ!」
(ふ、不幸や…)
時刻は午後7時過ぎ。
日が完全に沈み街灯に灯がつき始めた学園都市のアーケード街で、青ピは不良に囲まれていた。
フレンダを探しあてもなく彷徨って辿り着いたアーケード街。
そこでテンプレの如く不良に絡まれるお嬢様を見つけつつも、くわばらくわばらと思いながら横を通り抜けようとした所、うっかり不良に肩をぶつけてこの様である。
これで背後にお嬢様を守っているのであれば格好もついたかもしれないが、悲しいかな不良の注意が青ピに向いた瞬間にお嬢様は逃げ出してしまっていた。
(あかん。一対一なら兎も角5人は無理や。ボコられる未来しか見えへん)
一般的な男子高校生とはいえパン屋の重労働に日々耐えている身。
正直、意気がっているそこらのチンピラより腕っぷしはある。
かといってそれで数の利を覆せるかと言えば別問題だった。
(もうこれはあれやな。突然僕に超能力が覚醒するとかそんなご都合主義に期待するしか道は無いな)
「…何黙ってニヤニヤしてんだテメェ?」
「ぼ、僕は元からこう言う顔でして…」
「あぁもういいや。じゃああれだ。俺らに幾らかカンパしてよ。1万で勘弁してやるからさ」
「は、はいぃ…」
どうして自分が金を払う必要があるのかと内心毒づきながら財布を取り出そうとする青ピだったが、店に置いてきたことに気付いた。
「いやぁすんません、い、今財布持ってないんすわ」
「はぁ?っち、まじ使えねぇな…じゃあ金目のもんでもいいや、なんか出せ」
いよいよ強盗染みてきた不良たちに若干恐怖を抱きつつポケットを探る。
フレンダのスマホが指先に触れるが、これを差し出す訳にもいかない。
「いや、申し訳ない…ホンマ何も持ってないっていうか…」
「はぁ…お前なんなの?ナメてんの?ちょっと痛い目見ないと今の状況わかんない感じ?」
その問いに青ピは諦めて拳を握りしめた。
いくら自分の身を守るためとは言え、他人の持ち物を売り渡すようなマネはできない。
となれば当然、暴力で話をつけるハメになるのだろう。
一度深く息を吐き、一呼吸置いて目の前にいた不良の顔面を殴り飛ばした。
不良は残り4人。
『男には、負けると分かっていても戦わなくてはならない時がある』
古いアニメのセリフがふと頭によぎった。
と同時に苦笑する。
「今はその時や無いやろなぁ」
30分後、アーケード街には
「ば、化け物…」
倒れ伏した不良たちの姿と、
「……………げふぅ」
同じく倒れ伏した青ピの姿と、
「…大丈夫?」
青ピの顔を覗き込むフレンダの姿があった。
「いやぁ、びっくりしたって訳よ!スマホ取りにサンジェルマン目指して歩いてたら青ピが不良に囲まれてるし、青ピいきなり不良殴り飛ばすし!」
リーダー格の男が殴り飛ばされたことで不良たちの動きは一瞬止まった。
その機に乗じて追加で一人倒した青ピだったが、我に返った残りの三人によって袋叩きにされてしまっていた。
途切れることのない四方八方からの蹴りに本格的に死を覚悟したものの、奇跡は起こるもので、突然曲がり角から現れた少女によって不良たちは一瞬で叩きのめされたのだった。
「ほんま助かったでフレンダ。君が来んかったら終わっとった」
ひとまず不良たちをフレンダがどこからともなく取り出した手錠で拘束した二人は、アンチスキルへの通報を済ませた後現場を離れていた。
「全く。この時間帯はアホな輩が多いんだから、気をつけなきゃ駄目だよ?」
「…肝に命じとくわ…」
フレンダがスマホを忘れなければこんな事態には陥ってはいないのだが、それは言わぬが花だろうと青ピは思う。
「忘れとった。ほいフレンダ、スマホ」
「え、何、持ってきてくれたの?ありがと!」
「もう忘れんようにな」
「了解でありますっ!」
傍らの少女の溌剌とした様子に青ピは思わず苦笑する。先程まで不良の群れを撃滅していた少女と同人物とはとても思えない、可憐な笑みだった。
「そういや、僕ら現場から離れて良かったん?アンチスキルに説明とかせんでええの?」
「いやぁ、確かにそうした方が良いんだろうけど、正直めんどくさいじゃん?きっと詰所に連れてかれて、質問責めに合うよ」
そんなもんかー、と青ピが打った相槌にフレンダがそんなもんよー、と返し、それを境に会話が途絶えた。
フレンダの鼻唄だけが辺りに響く。
乱闘で火照った頬を夜風が優しく撫でる。
しかしその沈黙を心地よく感じられる時間は少なかった。
(き…気まずいっ…)
彼女いない歴=年齢を地で行く青ピにとって、女子と並んで夜道を黙って歩く経験など皆無である。
乱闘の興奮が覚め冷静になっていくにつれて、雑念が生じ始めた。
(こ、ここは僕から何か話しかけて沈黙を破るべきなんか?でも何か変なこと言っていつもみたいにヒかれても辛いし、てかそもそもこんな時どんな話すればいいのか全く知らんし、そもそも同年代との女子との会話とか吹寄以外にないからまじで最近の女子の流行りとかなんも知らんし、てか改めてこの子めっちゃ可愛いな…なんかすごくいい臭いするんやけど?あかんこんなこと考えてるとバレたら確実にドン引かれる、素数や、素数を数えて…あれ素数ってなんやったっけ…)
「ん、着いた」
「うひぃっ!!」
思考の渦に飲み込まれた青ピをフレンダの声が引き戻す。
二人が立ち止まったのは、住宅街に佇むごく一般的な学生マンションだった。
「ん?ここどこなん?俺てっきり病院にでも向かってるもんかと思っとったのやけど」
「私の家だけど?見たところ怪我は浅そうだし、わざわざ病院行く必要もないかなって」
「え」
青髪ピアス、16歳。
初めて女子の家に招かれた瞬間だった。