いやもう色々忙しくでですね、書く時間がですね、はい。
生存報告とリハビリを兼ねて上食で短編です。
ただひたすら二人がいちゃつくだけなので、息抜きにどうぞ。
試験的に初めて一人称で書いてみましたが、何か意見があったら感想をいただけるとありがたいです。
眩しい日差しが差し込む病院の廊下を、私、食蜂操祈は早足で進んでいた。
噛み締めた下唇から血が滲むのを感じるが、気にしている余裕は無い。
彼がこうして病院の世話になるのはそう珍しいことではない。
今日だって全身打撲での搬送という話だが、もっと酷い目に合ったことだって何度もある。
それなのに何なのだろうか、この気持ちは。
言葉では形容しきれないほどの恐怖が、私の心を支配していた。
恐い。恐い。恐い。
早く彼の顔を見て安心したい。
今の私にとって彼の存在は、一種の精神安定剤に近いものとなっている。
その彼が傷ついたというのだから不安な気持ちになるのは当たり前なのだが、それでは片付け切れないほどの得体のしれない恐怖を感じる。
まるで、心の何処かでこの先に進みたくないと思っているかのような--------
考え事をしながらひたすら白い廊下を歩いていると、いつの間にか目的地についていた。
彼の搬送に備え常に空けられているという噂のある部屋の前に立ち、大きく深呼吸する。
ドアの取っ手に手をかけると、得体の知れない恐怖が更に強まった。
この扉を開けるんじゃない、早く引き返せ、それがお前のためだ……
頭の中で声が響くような気がする。
一瞬躊躇ったが、思いきって勢い良く扉を開いた。
そこには、真っ白い病室の中でベッドに座る当麻さんの姿があった。
扉が大きな音を立てて開いたのに驚いたのか、こちらに怪訝な視線を向ける。
「当麻さん、また怪我したのぉ?」
後ろ手に扉を閉め、部屋に入る。
「全く、心配したんだからぁ。そんなに怪我ばっかりしてるとその内酷い目見るわよぉ?」
当麻さんは何も喋らない。
黙ってこっちに視線を向けている。
急に小言を言ったせいで拗ねてしまったのだろうか。
「何よぉ、拗ねちゃったのぉ?でも本当のことじゃない。当麻さんのお人好しなところは嫌いじゃないけど、むしろそこが好きなんだけどぉ、もう少し待ってる人の身にもなってほしいっていうか………」
私は言葉に詰まってしまった。
というか、気づいてしまった。
当麻さんの私を見る目がいつもと違う。
いつも私を見つめる、優しさに満ちた目ではない。
なんというか、
「えっと」
そこで、当麻さんが口を開いた。
凄く申し訳なさそうな顔で。
いかにも切り出しにくそうな顔で。
「どちら様…ですか…?」
「……い!おい!操祈!大丈夫か!」
突然の大きな声を切っ掛けに目の前の風景が真っ白い病室から見知った天井に切り替わる。
あの日から幾度となく通っている当麻さんの家の天井だった。
「え……あ、夢……?」
「起きたか。全く、急にうなされ始めたから驚いたぞ?なんか嫌な夢でも見たのか?」
その声に釣られて視線を横に向けると、苦笑いしている当麻さんがいた。
反射的にその背中に両腕を回し抱きつく。
「良がったぁ……恐かっだぁ……」
「ちょ、操祈さん!?なんだ急に…ってうわ!マジ泣きじゃねえか!?」
そのまま二分ほど泣き続け、ようやく正気に戻った私は当麻さんを解放した。
「ご、ごめんなさい…ちょっと悪い夢を見ちゃって…」
「お、おぅ、まぁその、気にするな。俺の胸で良ければ、その、いくらでも貸してやるから…」
「なんでわざわざ追い討ちかけるのよぉ…ばか」
部屋が沈黙で満ちる。
当麻さんを軽く睨み付けながらゆっくりと距離を詰め、真横に座る。
肩に頭をもたせかけると一瞬ピクリと震えたが、受け入れてくれた。
「………………」
「………………」
会話が無いまま時間が流れるが、居心地の悪さは不思議と感じない。
ただ座っているだけで幸福感が溢れてくる。
その居心地の良さにいつまでも浸っていたかったが、壁掛け時計を見ると、私が居眠りを始めてから予想外に時間が経っていた。
「いけない、そろそろ夕飯作り始めないと。門限超過で怒られちゃう」
夏休みに入って通常時より門限が遅くなっている常盤台学生寮だが、遅くなった分だけ遅れた時の罰則が厳しくなっている。
この前門限をぶっちぎった御坂さんが学生寮全棟の天井掃除を命じられたのは記憶に新しい。
「ああもうそんな時間か。オッケー、今日は何作るんだ?できる範囲で手伝うよ」
「あら、じゃあじゃがいも剥いてくれる?今日は肉じゃがを作るわぁ」
「ぷはぁ、あぁ旨かった!最高だ!」
「ふふ、それは良かったわぁ。頑張った甲斐があったわねぇ」
我ながら素晴らしい出来映えの肉じゃがを食べきり、一息つく。
当麻さんの手伝いが的確だったため支度がすぐに終わり、門限まではまだかなり余裕があった。
「いやぁ、あれだな!操祈は良いお嫁さんになれるな!……あ"っ」
…自分の顔が真っ赤に染まるのを感じる。
全くこの男は。余所で他の女子に同じような事を言っていないか少し心配になってしまう。
「……それは、その、そういう意味と受け取っていいのかしらぁ?」
「ま、まぁ、そう受け取ってもらって構わないっていうか…」
うん、これはいい機会かもしれない。
この男は言動こそ女たらしな癖して肝心なところでヘタレであり、手を繋ぐ以上の行為は未だしてこない。
間違っても浮気なんてしないように、キス、くらいなら…
「ほ、本気でそう思ってるならぁ…これくらい…構わないわよねぇ…?」
「あ、ちょ、操祈…」
当麻さんの顔に私の顔を近づける。
息がかかる距離まで近づくと、当麻さんが唾を飲み込んだ。
両腕を上げ、私の肩を掴む。
私は、目を閉じた。
「やっほーカミやーん!ちょっと舞夏がご飯作りすぎちゃったから分けてやるにゃー!光栄に思いやが…れ…」
まるで予定調和の如く、来客が嵐のように訪れ嵐のように去っていった。
当麻さんの顔が私の顔に触れることなく離れていく。
「…すまん」
「………」
「……ふふっ」
私は自分から当麻さんを引き寄せた。
青ピ×フレンダの方も鋭意作成中ですがもうしばらくかかりそうです…