禁書if ~あの日携帯を無くさなければ~   作:イシトモ

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13.自動書記

魔術によって空間に亀裂が生じた学生寮の一室で、上条ら四人とインデックスは向き合っていた。

「行きなさい上条当麻!今のあの子にあなたが触れればあの子を救える筈です!」

「わかってるよ!」

 

上条には、今目の前の少女に何が起きているのか分からない。

突然現れた亀裂の向こう側に感じる存在が何なのかも分からない。

しかし、たった一つ。

自分が少女に触れるだけでずっと彼女を苦しめてきた悲劇を終結させることができるという事を、本能的に理解していた。

 

インデックスへと走る上条。

しかし彼が駆け出すと同時に、ベギリ、という音と共に亀裂が『開いた』。

上条がその亀裂の奥の『何か』と目が合った様に感じた瞬間だった。

亀裂の奥から太陽を溶かした様な純白の光の柱が襲いかかってきた。

「先輩!」 「上条さん!」

後ろから聞こえる悲鳴が届くより早く、上条は光の柱に右手を合わせた。

しかし光線は手のひらで止まっただけで、かき消えるどころか右手を押し返してくる。

たまらず左手で右手を掴んだ上条。

右手の処理が追い付かずに光の柱がミリ単位で近づいてくるのを感じる。

 

「『龍王の殺息』なんてそんな、あの子が魔術を使える筈は…」

「それも教会の嘘だったんだろうよ!この光の柱の名前、正体、弱点!片っ端から全部教えやがれ!!」

 

呆然とする神裂を余所に、インデックスが新しく言葉を発した。

 

「ーーー『聖ジョージの聖域』は侵入者に対して効果が見られません。他の術式へ切り替え、引き続き『首輪』保護のため侵入者の破壊を継続します」

 

包帯を巻かれていた上条の右腕から鮮血が吹き出す。

鈍い音を立てて小指が折れたと思った瞬間、遂に右手が弾き飛ばされた。

凄まじい速度で上条に迫る光の柱。

しかし上条はそれが自分の顔にぶつかる直前、神裂の叫び声を聞いた。

 

「Salvare000!!」

神裂が振るう『七閃』がインデックスの足元の畳を引き裂く。

突然足場を失い後ろへ倒れ込むインデックスに連動して、光の柱が大きく狙いを外した。

上条の部屋の壁や屋根が一気に引き裂かれ、光の羽根へと姿を変えた。

 

「それは『龍王の吐息』ーーー伝説にある聖ジョージのドラゴンの一撃と同義です!人の身でまともに取り合おうと考えないでください!」

神裂の言葉を聞きながら再度インデックスまでの距離を縮めようとする。

しかしそれよりインデックスが狙いを修整するのが早かった。

 

(また、捕まる!)

身構える上条の頬を掠めて、後ろから極太の電撃が迸った。

「うるぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

御坂が超電磁砲を放ち、光の柱を食い止めていた。

しかし力が足りないらしく、着々と押し込まれていく。

「…っ先輩!早く!」

返事も無しに、上条はインデックスへと走り寄る。

 

「ーーー警告、第六章第十三節。新たな敵兵を確認。戦闘思考を変更、戦場の検索を開始……完了。敵戦力の分析不能。破壊対象を変更します。」

 

先に御坂を潰すことにしたらしいインデックスの姿を見て、さらに加速する上条。

あと四メートルで届く…

三メートル、

二メートル!

一メートル!!

「ダメです!上!」

全てを引き裂くような神裂の叫びに足を止めず天井を見た上条。

その視界に入ったのは。

 

 

 

粉雪のように降ってくる、何十枚もの輝く羽根だった。

 

 

 

 

 

 

 

光の羽。

インデックスの光の柱が天井を破壊した際に発生したそれが、今まさに上条の頭上へ降りかかろうとしていた。

 

上条には、それにたった一枚でも触れれば大変な事になることも、何十枚もの羽全てが、右手で触れれば打ち消すことができることも分かっていた。

だが、

 

「ーーー警告、第二十二章第一節。対抗術式の逆算に失敗。未知の技術で推進力を与えた超高圧電流と断定。対電撃用の術式を組み込み中……第一式、第二式、第三式。命名、『因陀羅の金剛杵』完全発動まで五秒」

御坂の顔が今まで以上に険しくなる。

「…っ!?制御が乗っ取られる!?」

 

(一つ一つ打ち消してる時間はない)

頭上には何十枚と舞う光の羽。

目の前にはその意思を踏みにじられ、操られる少女。

どちらかを救えば、どちらかが倒れる。

ただそれだけの話。

もちろん答えは決まっている。

上条は目の前のたった一人の少女を助けるためこの戦場に立っているのだ。

 

上条は握った拳の五本の指を思い切り開く。

(神様ーーー)

まるで掌底でも浴びせるように。

(この物語が、アンタの作った奇跡の通りに動いてるってんならーーー)

そして上条は、右手を降り下ろした。

(ーーーまずは、その幻想をぶち殺す!!)

 

右手があっさりと亀裂を引き裂き、インデックスに触れる。

「ーーー警、こく。最終…章。第、零ーー…。『 首輪、』致命的な、破壊…再生、不可…消」

 

プツン、と全ての声を消し、再び倒れ込むインデックス。

上条はそれに覆い被さる。

食蜂の悲鳴が聞こえた気がして、

食蜂の泣き顔が心に浮かんで、

次の瞬間、

 

頭に鈍い衝撃を受け、

上条当麻の意識が崩れ去った。

 

 

 

 

 




捕捉
ドラゴンブレスの表記が二ヶ所で異なるのは、原作通りです。
上条さんの右手が壊れるのが原作より早い気がしますが、寝込まなかった分回復が甘かったということで…

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