禁書if ~あの日携帯を無くさなければ~   作:イシトモ

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12.みんなでごはん

食蜂と御坂、神裂と上条の四人でちゃぶ台を囲む。

上条が両脇からの刺すような視線に身を縮こまらせていると、正面の神裂が口を開いた。

 

「夜分遅くの訪問、誠に申し訳ないとは思いますが単刀直入にお願い致します。インデックスを引き渡していただけないでしょうか。」

「またその話か…」

道端でボコボコにされた記憶がフラッシュバックし、一瞬顔をしかめる上条。

「なぁ、ここには触れただけで人の記憶を抜き取れる超能力者がいるんだ。記憶を破壊しないで済むかもしれないんだぞ」

黙り込む神裂。

そこまで静観を決め込んでいた食蜂が口を開いた。

「申し訳ないんだけど、色々と理解が追い付かないのよねぇ。説明してくれない?」

「…わかりました」

 

その後ここまでの顛末を神裂の口から聞き終えた上条を除く二人は、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

「あのねぇ、神裂さん。ショックを与えるようで悪いんだけどぉ…」

言葉に詰まった食蜂に代わって御坂が続ける。

「あなた、騙されてますよ」

「「は?」」

魔術師と男子高校生の、ある種間抜けな声が重なった。

 

 

 

静寂に包まれた学生寮の一室で、超能力者という名の学園都市きっての天才たちによる講義が始まる。

「まず第一に、完全記憶能力なんかで脳がパンクするなんてことは絶対にないわぁ。人間の脳は元々百四十年分の記憶が可能なのよぉ」

「そして仮にその子が十万三千冊の本を丸暗記していたとしても、その例外ではありません。そもそも人の記憶には、『意味記憶』『手続記憶』『エピソード記憶』みたいにたくさん種類があって、それぞれ容れ物が違うんです」

「つまりぃ、どれだけの本を丸暗記して『意味記憶』を増やしても思いでを司る『エピソード記憶』が圧迫されるなんて、脳医学上絶対ありえないのよぉ?」

 

「で、でも、実際にあの子は今も苦しんで…」

神裂の疑問に答えたのは上条だった。

「嘘を、ついてたら…?」

「え?」

「もし、教会が嘘をついてたとしたら?だってそうだろ、女の子に見たら死ぬような本覚えさせる連中だ!

『インデックスは一年おきに記憶を消さないと死ぬ』なんて嘘ついて、自分らが細工してたっておかしくない!」

「そん…な… だったら、私たちがしてきたことは…」

ショックを受けた様子で呆けた顔をする神裂。

上条は語りかける。

「どうもお前らの組織のお偉いさんはそうとう酷い奴みてぇだな。ーーーーでも今は、どうでもいい」

包帯を厚く巻かれた右手を、握りしめる。

異能の力を打ち消せる右手を。

 

 

「あいつを、助けよう」

 

 

一人の少女の解放を賭け、戦いが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても、こんなに悠長にごはん食べてていいのかしらぁ?」

「神裂の言うには、まだ三日の猶予はあるらしい。寝込んでるインデックスには悪いが、腹が減ってちゃ何もできないからな」

 

時刻は夜十時。

話し合いの後、判明したことや今後の予定等を相方に伝えに行くという神裂を見送り、三人は食蜂特製青椒肉絲を頬張っていた。

聞けば御坂も知らぬ間に外泊許可が出ており、匿名で受け取ったメールに添付されていた地図に従ってここまで来たらしい。

「ここまで来てなんですけど、あれの差出人ってどちらさんなんですか?」

「あぁ、あれか。雲川って人だよ。俺の先輩」

「先輩の先輩ですか…なんか凄そうですね」

「まぁ事実だけども…」

 

育ち盛りの上条を考えて食蜂が多めに作っていたため、一人増えても充分な量があった。

「ふぃー。ごちそうさま」

「はいお粗末様ぁ。おいしかったぁ?」

「おぅ、ばっちりだよ」

「本当、凄くおいしかったよ!何か隠し味とかあるの?」

「ふふ、オイスターソースを少々ねぇ… インちゃんにも今度食べさせたいわぁ」

 

インデックスに視線を移す一同。夕食を食べ終えても、彼女が起きる気配はなかった。

「それにしても、さ」

上条がちゃぶ台に向き直る。

「仮にインデックスに呪いがかけられてるとして、俺はどうすればいいんだ?」

「それには私が答えましょう」

いつの間にか帰って来ていた神裂がちゃぶ台に着席する。

「恐らくあの子にかけられている呪いは、対称に呪印を定着させて効果を継続的に与え続けるものです。あなたが右手で触れば、解除できると思います」

「あれ、お前俺の右手のこと知ってたっけ?」

「ここに来る前に調べました。あなた、割りと有名ですよ?」

「そ、そうか…因みにその呪印ってどこにあるんだ?」

「見えるところにはありませんね…」

「見えないところ… 痛い痛い痛い!」

両脇から腕をつねられた。

「先輩、何か良からぬことを考えませんでした?」

「この非常時に何考えてるのぉ?」

「め、滅相もない…」

 

しばし熟考した後、神裂が答えを出した。

「外から見えなくて、脳に近い場所…そうだ」

インデックスに近寄り、優しく彼女の口を開く。

「…ありました。喉の奥です」

教会が自分たちを騙していた証拠を目に表情を暗くする神裂。

その肩に手を置く上条。

「これでやることは決まった。俺らの手で、こいつを救おう」

 

神裂と入れ替わるようにして、インデックスの口の中に指を差し込む上条。

その右手は、パチンという静電気のような感触を感じると同時に勢いよく後ろへ吹き飛ばされた。

「がっ……!?」

 

見開いたインデックスの目の中の赤い光に上条が危機感を感じた瞬間、背中側の壁に叩きつけられた。

 

 

 

 

「ーーー警告、第三章第二節。Index-Librorum-Prohibitorumーーー禁書目録の『首輪』、第一から第三まで全結界の貫通を確認。再生準備……失敗。『首輪』の自己再生は不可能、現状、十万三千冊の『書庫』の保護のため、侵入者の迎撃を優先します」

 

ゼリーの詰まった袋のような動作で起き上がるインデックス。

「な、なんなんですかこれ!?」

「なかなかヤバそうねぇ…」

「…最大主教っ……」

 

 

 

 

「ーーー書庫内の十万三千冊により、防壁に傷をつけた魔術の術式を逆算……失敗。該当する魔術は発見できず。術式の構成を暴き、対侵入者用の特定魔術を組み上げます」

 

糸で操られる死体のように小さく首を曲げた。

 

 

 

 

「ーーー侵入者個人にたいして最も有効な魔術の逆算に成功しました。これより特定魔術『聖ジョージの聖域』を発動、」

 

「上等だ、このやろう」

 

 

 

 

「侵入者を破壊します」

 

「まとめて俺が救ってやる」

 

 

 




捕捉:ステイルは対御坂戦の怪我を回復中です。

神裂さんがすんなり上条の提案を引き受けた件について、
上条さんが雲川姉の手当のお蔭ですぐ目覚め原作よりタイムリミットまで時間があり、
神裂さんにも余裕がある、という解釈が含まれています。

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