禁書if ~あの日携帯を無くさなければ~   作:イシトモ

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11.そして修羅場へ

「うるぁっ!!」

気合いと共に超電磁咆を放つ。

上半身を電撃の奔流に貫かれた巨人は1発で霧散するが、すぐに再生する。

「あぁもう、めんどくさい…」

御坂は苦戦していた。

ステイルの隙をついて巨人を丸ごと消し飛ばし、少女を逃がした所まではよかった。

しかし少女が路地の角を曲がって消えるのを見て、ステイルが口調から余裕を消し復活した巨人と共に襲いかかってきたのである。

 

両手で持った炎の剣を御坂に叩きつけつつ、ステイルは苛立った声で告げる。

「そこをどいてくれないかな。僕にはあの子を保護するという使命がある。君なんかの相手をしている時間はないんだ。」

「保護する?その巨人で始末するの間違いじゃないの!?」

 

悪態をつきながらも、御坂は内心歯ぎしりしていた。

人並み以上の身体能力で一撃必殺の炎の剣を振り回す目の前の男だけで厄介な上、いくら破壊してもすぐに再生する巨人が行動の選択肢を狭めてくる。

 

(こんな時、先輩なら…)

注意を反らしたのがいけなかったのだろうか。

足元の泥に滑り転倒する。

「あっ…」

大上段に炎の剣を振り上げ、ステイルはにやりと嗤った。

「チェックメイトだ」

しかし、その剣が降り下ろされることは無かった。

ステイルの肩口に、風穴が空いていた。

 

「…な……」

一瞬訪れた静寂。

その隙を御坂は見逃さない。

「これでも、くらえっ!」

無防備な腹に突き刺さる雷撃の槍。

ステイルが倒れ伏すと同時に巨人も霧散する。

「勝てた…」

御坂は大きく息を吐いた。

 

 

御坂は落ちていた縄でステイルを縛りあげた後、アンチスキルに通報した上でその場を離れた。

「あれは一体…?」

自分の後ろからステイルの肩を撃ち抜いた者がいた。

あの助けが無ければ今は生きていないだろう。

そこまで考え、御坂はある事に気づいた。

 

 

「あ゛…門限…」

 

 

 

 

 

絶対能力進化実験、というものがある。

学園都市の保有する超能力者であるレベル5の頂点に君臨する化け物、一方通行を、同じくレベル5の第三位である御坂美琴のクローンを二万体虐殺させることで、人の域を越えた存在、レベル6に昇格させるというこの残酷な実験は、この日第九八〇三次実験が行われた。

 

一体の少女の形をした人形を肉片に変えて、血溜まりから歩いていく真っ白い少年は、物思いに耽っていた。

彼が今日殺した九八〇三号と名乗る人形は、実験開始時刻を遅らせてまで彼女らのオリジナルである御坂美琴を援護した。

あれは人形だと認識して、自分はいままで彼女らを殺してきた。

しかし彼女らにも、実は人並みの感情があったんじゃないか?

 

 

 

自分が殺してきたのは、普通の人間となんら変わりのない存在だったんじゃないか?

 

 

 

その疑問は、怪物の心を少しずつ蝕んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上条当麻は困惑していた。

路上でボコボコにされた筈の自分が自宅の布団で寝ていたのも充分不可思議だが、今朝別れたインデックスが自分のベッドの上に寝かされていたのである。

「え?あれ、えっと…これどういう状況?」

現状を把握しきれず首を捻っていると、キッチンから人影が飛び込んできた。

「良かったぁ!上条さん、起きたのねぇ!」

食蜂だった。

 

「すまん食蜂、状況が一切掴めないしあと痛いから今は抱きつかないで!!」

「ご、ごめんなさい!」

真っ赤になって上条を腕の中から解放した食蜂は、ぽつぽつと語り始めた。

「えっと、私も良く理解してないんだけどねぇ、私の携帯にあの女からメールが来たの」

そう言って携帯を開き画面を上条に見せる。

 

そのメールには、

『単刀直入に言うぞ、今からこの道筋を通って上条宅へ行け。外泊許可は取り付けてある。質問は受けつけない。確実に言えるのは、この行動が確実に上条のためになるということだけど』

という文面とともに地図データが添付されていた。

「先輩か…」

「なんとなく嫌な予感がして寮を出て歩いてきてみれば、あの子が道端に倒れてるしあなたが家の布団に包帯ぐるぐる巻きで寝てるしで驚きっぱなしよぉ。あの女も何考えてるかわかんない人よねぇ。」

 

その後、上条の体調が回復しているのを確認した食蜂は、夕食の用意をするといって台所へ引っ込んだ。

「あいつ俺んちに馴染みすぎだろ…」

そう呟いて体を起こした上条は、枕の下に手紙が挟まれているのを見つけた。

 

『お前がぼろぼろで倒れてるのを監視カメラから見つけて肝を冷やしたぞ。まぁお前が何の理由もなくケンカする奴とは思えないし、直近で関係ありそうだったシスターと一緒に回収してやったけど。応急手当はすんでるが、傷口が開くから当面無茶はするな。私事で色々動かしたせいで処罰を受けた。私が助けてやれるのはここまでだ。ここからは自力で頑張れ。…負けるなよ?

P.S.後でまた会えたら嬉しい』

 

見慣れた文字と簡潔な文面に、書き手の顔が思い浮かぶ。

「やっぱ先輩すげぇな…」

 

 

 

布団を片付けてちゃぶ台を置き、床に座ってインデックスの顔を観察する。

純白の肌には赤みがさし、額には冷却シートが貼ってあった。

神裂の言うことにはあと三日の猶予があるということだが、実際体調は優れないらしい。

「…心配?」

キッチンから食蜂が声をかける。

「あぁ、どうも訳ありらしいんだ。関係者の話だと、あと三日たらずで脳がパンクしちまうらしい」

「え?それって…」

急に言葉につまる食蜂。

しかし次の言葉を告げる前に、玄関のドアベルが鳴り響いた。

「開いてますよー」

上条が声をかけると、ドアが開いた。

そこには、

「失礼します。上条当麻。」

「ちょっ先輩!誰ですかこの人!」

 

御坂美琴と神裂火織の二人が立っていた。

 

 

 

 

 

 


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