魔法科高校の月島さん(モドキ)   作:すしがわら

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時間がほしい……深夜以外に。


長かった『九校戦編』も今回で終了です。
この先の予定としては『夏休み編』を3,4話書いた後、『横浜騒乱編』となる予定です。


『九校戦』が無事終わったのも、第一高校が総合優勝できたのも、全て月島さんのおかげ。




九校戦編-21:九校戦・十日目…そして

 

『九校戦』10日目…つまりは最終日だ。

 

 

昨日、原作とほぼ同じ流れで深雪さんのCADへの細工をしようとした工作員を取り押さえた達也。

 

その達也だが、昨日の夜に何処かへ行ったかと思えば、帰ってきたのは今朝の試合前だった。いわゆる……と、まあそれは別にいいか。深雪さんが怒っていたりもしたが、その程度だ。

大事なのは達也が『無頭竜』の連中を()()()()消してきたという事。念のため、僕から達也に接触をしてみたが、特に何も無くいつも通りだったため、『無頭竜』(今回の件)については僕はもう疑われていないんだろう。

 

 

さて、本日行われた競技は本戦『モノリス・コード』の残りの試合全てだが、特にこれといった心配事は無かった。

『無頭竜』がいなくなったから…というよりも、第一高校(うち)の先輩方が頼もしすぎたからというのが正しい表現だろう。特に十文字会頭は『十師族』の名に恥じない活躍を見せ、時には圧倒的な差を見せつけていた。

 

そんなこんなで、本戦『モノリス・コード』は第一高校が1位を獲得。

すでに新人戦・本戦、そして総合優勝を確定させていたのだが、第一高校の生徒たちは高らかに喜びの声をあげていた。

 

 

 

―――――――――

 

 

 

時間は進み、表彰式等の式を終えて、日が沈んだころ……

 

『九校戦』開幕の二日前に行われた『懇親会』と同じ会場で、『後夜祭』として合同パーティが始まった。

 

 

「『九校戦』が終わった」という開放感からか、懇親会とは打って変わって張りつめたような空気は無く、異なる学校の生徒同士が話している姿が見受けられる。……まあ、その大半がナンパ…もしくはその逆のようなものなのだが。

 

理由は簡単で、このパーティ会場の一角…そこでは楽器が演奏され、舞踏会よろしく、何人かがペアとなって手を取りダンスを踊っている。…興味やら下心やらを持った人たちが、ダンスの相手を求めているというわけだ。

そうなってくると、ところどころに人の塊ができる。その中心にいるのは()()()というわけだ。第一高校でいえば、七草会長や深雪さんあたりがそれに該当するのではないだろうか?

 

 

 

……まあ、今、僕がすべきことは全然別のことだ。

とはいえ、それもあまり重要ではないのだが、早いうちにパパッと終わらせておきたいというのが本音だ。実際のところ、競技が終わり『無頭竜』も消えたとなれば僕にとって『九校戦』での用事は全て終わったにも等しいので、残りは早く終わらせてゆっくりと休みたい。

 

「…ということは、()()()()を探さないといけないんだけど……」

 

会場を見渡す僕の耳に『いたよ。あっちあっち!』という声が聞こえてきたので、声のした方向を見る。…すると、遠目にだが探し人の巨体が見えた。

 

 

―――――――――

 

 

「お疲れ様です、十文字会頭。それと、『モノリス・コード』1位おめでとうございます」

 

「むっ、月島か」

 

そう言って振り返った十文字会頭は、軽く「ありがとう」と返してきた。

 

 

「こっちからも言うことがあった。「総合優勝おめでとうございます」とな」

 

十文字会頭の妙な言い回しを少し不思議に思い、心の中で首をかしげる。……が、その答えはすぐにわかった。

 

「お前の後輩たちからの伝言だ。『モノリス・コード』の勝利への祝辞の「ついでに」とな。……ふっ、本当はどっちがついでなのだろうな」

 

「あー…すみません、ウチの奴らが」

 

内心、いろんな意味で驚いている。後輩5人組と十文字会頭が連絡先を交換してる事とか、十文字会頭を伝言に使うというあいつらの神経とか……

 

 

 

「しかし……事情は彼らから聞いてはいるが、メールぐらい許してやったらどうなんだ?」

 

「ええ、それは僕も考えています。僕がいなくとも、思ったよりは少しはマトモに過ごせているみたいですし……」

 

ここであえて一度言葉を止め……少し間を開けてから首を振る。

 

「ですが、今は縁を極力切っておいた方が良いかと。……少なくとも、僕のほうが落ち着くまでは」

 

僕の言葉に、十文字会頭が「ほう…」と小さく声をもらした。しかし、その表情は感心しているというわけでは無く、少し目を細めている状態だった。

 

「……どうかしましたか?」

 

「いや、自分の置かれている状況をそれなりには理解しているのだと思ってな」

 

会頭は周囲をチラリと確認したうえで、抑えめの声で僕に語りだした。

 

 

「『十師族』に対して引き分け……それだけでなく、再戦することさえためらわせるほどというのは前代未聞だ。それはお前の未知数の力をそれだけ評価しているということであり……同時に脅威だとも考えているということだ」

 

「…………」

 

「故に、お前は『十師族』になるべきだ……そう俺は思っている」

 

「それは、後ろ盾が必要ということですか?」

 

僕の問いに、首も振らず、頷きもせずに十文字会頭は言葉を続けた。

 

「そういった意味合いも少なからず有るが、そこまで単純な話ではない。目をつけられるというのはそう言うことだ」

 

 

心の中で「でしょうね」と軽く返しながら、僕は十文字会頭に質問をする。

 

「『十師族』になると言うと……『十師族』の家の者…もしくはその縁者と婚姻関係を結ぶという認識で良いんでしょうか?」

 

「そう言うことだ」

 

「となると、僕は婿入りするという流れになりますか?」

 

「……まあ、そうなるだろう」

 

 

 

「なら、ご遠慮願いますね」

 

僕の言葉に十文字会頭が少し驚いたような気がしたが、特に気にせず、肩をすくめてみせる。

すると、当然ながら会頭は少しばかり声色を強めながら言ってくる。

 

「お前がどこまで正確に認識しているかはわからないが、これは重要な……」

 

「わかってますよ。…ただ、僕にとってそれ以上に重要なことがあるってだけです」

 

チラリと会頭のほうへ目をやると、睨む…とまではいかないものの強い目力でこちらを見てきていた。これはどうにもちゃんと理由を言わなければ離してくれそうにない。

 

……別に最初から言わない理由は無かったので、そのまま理由を口にした。

 

 

 

 

 

「苗字が『月島』じゃ無くなってしまいますから」

 

「……は?」

 

似合わない呆けた顔で、呆けた声を出す会頭。

それをおかしく思いながら、僕は他所へ行くべく「どっちのほうに行こうかな…?」と軽く会場を見渡しながら、淡々と言い続ける。

 

「『月島家』は魔法師の家系でもなければ、大した歴史もありません。…ですが、僕には月島であることが何物にも代えられない大事な意味があるんです」

 

そう言った後、僕は歩き出した。

後ろから「まるで意味がわからんぞ…」という小さな呟きが聞こえた気もしたが、気にせずにいることにした。

 

 

―――――――――

 

 

あの場から離れたまでは良かったものの特に目的も無かったため、どうしたものかと僕は少し頭を悩ませた。

こういう時、森崎君がいれば適当にいじったりして時間を潰せるんだけど、残念ながら彼はまだベッドの上だ。おそらくは僕以上に彼自身が残念がっていることだろう。なんせ退院は明日なのだから。

 

 

「暇そうにしているね。月島君」

 

そう声をかけられたのでそちらに目を向けると、そこにいたのは小早川先輩だった。

小早川先輩は、昨日の本戦『ミラージ・バット』において深雪さんに続いて第2位という好成績を収めた。

 

一見すれば1年に負けた3年に思えるかもしれないが、実際のところはそうではない。

なぜなら決勝戦は、深雪さんを初めとした全選手…正確には小早川先輩以外の選手は全員『飛行魔法』を使用していたのだ。深雪さん以外は『飛行魔法』がぶっつけ本番で不慣れだったとはいえ、その中でひとりピョンピョン跳ねて2位をとるというのは大変なことである。……というか、精神的に相当キツイだろう。そのメンタルの強さを心がすぐ折れてしまう何処かの誰かさんにも見習ってほしいものだ。

結果のポイントだけで見れば、99でカンストさせてしまっている深雪さんとは比べられないものの、3位と10ポイントの差で勝った小早川先輩は十分に優秀だと思う。

 

 

「小早川先輩。楽しんでおられますか?」

 

「いいや、現時点ではあまり楽しめていないかな。何と言ったって、メインイベントに参加できていないんだから」

 

「そうなんですか?『バトル・ボード』や『ミラージ・バット』で好成績を収めた先輩なら引く手数多かと思ったんですが…」

 

「その言葉はそのまま返すよ、月島君。新人戦を予想を上回るほど余裕を持って優勝できたのは、月島君のおかげだと会長や摩利、鈴音も言っていた……いや、きっと第一高校の生徒の全員がそう思うだろうさ」

 

まるで、それが当然の評価であるかのように疑いも無く言う小早川先輩。その顔にはいつも通りの爽やかな笑顔とは少し異なる、柔らかい笑みが浮かんでいた。

 

「そんな大したことではありません。優勝は、生徒全員一人一人の頑張りが集まった結果です。僕はその中の一部を(にな)っただけにすぎませんよ。立ってる場所もやったことも、先輩と何の変りもありません」

 

僕がそう言うと、小早川先輩は「…ふふっ、キミらしい答えだね」と返してきた。

 

 

 

「……さて、月島君。私は最後の『九校戦』を最後の最後まで楽しみたいんだ。もう二度とないだろうこの場をな」

 

小早川先輩の唐突な語りに「どこかで似たようなことを聞いた気が…」とも思ったが、それが何だったか思い出す前に先輩が手を差し伸べてきた。

 

「私と踊ってくれないか?」

 

「……僕なんかで良ければ、喜んで」

 

 

一つ言わせてもらおう。『ブック・オブ・ジ・エンド』は便利である。床あたりにでもスッと挟み込めば、ダンスだって完璧だ。僕は『九校戦』に参加するにあたってあらかじめ用意をしておいた。

仮にも僕は学生なのだ。こういったイベントを楽しんでも良いだろう?

 

 

 

……余談だけど、小早川先輩と踊った後、七草会長に背中を押されて出てきた中条先輩と踊ることとなった。

身長差が大きかったこともあってか、足さばきを中心に中条先輩の動きがたどたどしかった。

 

「抱っこして差し上げましょうか?」

 

そう聞いたら足を踏みつけられた。……全然痛くないんだよなぁ…


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