魔法科高校の月島さん(モドキ) 作:すしがわら
次回、ひとつ軽い話をはさんでから、九校戦編に入る予定です。
色々あってもなんだかんだでどうにかなるのは、月島さんのおかげ。
沢山のUA、お気に入り、評価をいただけたり、日間ランキング1位をとれたりしたのは、読者の皆さまと月島さんのおかげ。
いやぁ、余裕そうにふるまってはいたけど、結構危なかった。
というのも、光の屈折やら何やらに干渉してほんの数秒遅れて見えるようになる壁を展開したのだが、アレは僕にも向こう側が遅れて見えるようになる。
視覚以外の索敵手段や達也の『精霊の眼』のようなものがあれば問題は無いだろうが、僕は桐原先輩の行動を先読みするくらいしか出来なかったから、あんな試合じゃなければ試さなかっただろう。
…っと、まあ、試合の内容はさておき。僕にはすべきことがある。そちらに手を付けて行こうじゃないか。
―――――――――
桐原先輩との試合を終えた僕は、一通り身なりを整えた後、達也たちや壬生先輩の誘いも断ってある場所へとむかう。
「やっぱり……まだここにいたんですね、桐原先輩」
試合を行った道場に一人たたずんでいる桐原先輩の背中に声をかける。すると、桐原先輩は鋭い眼でチラリとこちらを一瞥してきた。
「月島か…何しに来やがった」
「話をしに来ました。…なんだか試合だけじゃあスッキリしませんでしたから」
「俺はお前と話すことなんざ無ぇよ」
そう言って突っぱねる桐原先輩だが、僕としては
「なら、言いたいことだけ単刀直入に言わせてもらいますよ」
桐原先輩の返答を待たずに僕は言葉を続ける。
「桐原先輩には暗躍などといった曲がった行為は似合いません」
「何が言いてぇんだ」
「だから、僕にくってかかるとかそういう回り道は無駄だってことです。もう真っ直ぐ壬生先輩にアタックしたらどうですか?」
「は、ハアァ!?」
顔を真っ赤にして焦りだす桐原先輩。…というか、この人は隠しきれているつもりだったのだろうか。
だが、正直なところ原作知識が無くとも気づけるくらいにはあからさまだったと思うのだが……あっ、いや、壬生先輩も気づいていなかったことを考えると……どっちだろう?
「隠していたつもりなら申し訳ありませんが、少なくとも僕から見たら丸わかりでしたよ」
「まじかよ…」
桐原先輩は、怒りと恥ずかしさを混ぜ合わせたような表情で僕を睨んでくるが、僕はその視線をスルーする。反応しても面倒なだけだもの。
「話を戻しますが、僕に突撃するヒマがあるなら壬生先輩にアタックするべきです。その方がよっぽど有意義ですよ」
「…そういうお前は何とも思わないのかよ」
「特には?そもそも、桐原先輩が考えているようなことはありません。僕は壬生先輩に恩は感じてもそういう気はありませんから」
「…そうなのか?」
桐原先輩の問いに、僕は大きく頷いて答える。
「…ただし、壬生先輩の気持ちというのは、僕も知り様がないので何とも言えませんがね」
「ぐっ!?」
「はははっ!そういう女性を振り向かせることも、男の見せ所でしょう?頑張ってくださいよ、桐原先輩」
僕はそう言い残して道場から去ろうとした。
…すると、道場から出る直前に桐原先輩から声を投げかけられた。
「月島。惚れた相手が他のヤツにしか目に入ってないとしたら、何ができるってんだよ」
「…そんなの思い込みですよ。それとも、その惚れた女性というのは愚直で盲目な方なのですか?…違うでしょう?」
そう言って、僕は今度こそ道場を後にした。
「……嫌味にしか聞こえねぇよ、ったく…」
そんな声が聞こえた気がしたが、僕は気にせずに歩き続けた。気の利いたことを言うなんてことは、僕には到底出来そうもないからだ。
この先どうなるかは……それこそ桐原先輩次第だろう。
―――――――――
結論から言おう。
とりあえず桐原先輩は落ち着いたようで、特別僕につっかかってきたりすることは無くなった。
とはいっても、あの試合のほんの数日後には試験期間に入り、部活動も休みになっていたことも要因にあるかもしれないため、部活が再開されてからどうなるかは不明だ。
そして、ついさっき、先日行われた一学期末の定期試験の結果が出た。
僕の成績は……
実技:2位
理論:2位
総合:1位
……なん…だと…!?
恐るべきは『ブック・オブ・ジ・エンド』勉強法だろうか。入試時も良かった理論だけでなく、実技のほうも底上げされているあたり、凄すぎると思う。
そして、一番問題なのは総合で1位になったこと。どういうことかといえば、入試で首席だったあの深雪さんに総合で勝ってしまったのだ。凄く注目されてしまうわけだ。
おそらく、深雪さんとの点は僅差であろうが……いや、僅差であってほしい。でも、どちらにせよ勝ってしまったというのは事実だ。
…で、周囲の反応はというと…。
「さすがです!月島さん!」
と、ほのかはまるで自分の事のように喜び
「…まさか、実技でも負けるなんて」
実技が3位だったという雫が、こころなしか悔しそうにしていた。…3位でも凄いし、総合も4位だったそうだから雫も十分優秀だろう。
「はぁー、ホントに凄いねー」
驚きながらも称賛するのはエリカだ。飾り気のない言葉ではあるけどそれはそれでエリカらしかった。
「達也もそうだけどさ、俺たちに勉強教えてくれてたりしてたのに、いつ勉強してたんだよ」
そう言って驚いているのはレオ。……口には出せないが、僕は『ブック・オブ・ジ・エンド』を使えば一瞬で何時間分もの勉強ができるから、僕にとっては時間は有っても無くても同じようなものなのだ。
「試合を見た時も思いましたけど、月島くんは本当に凄い人ですね」
美月はそう言って、僕に尊敬のまなざしのようなものを向けてきた。…その目はほのかほどではないものの、輝いていた…。
「すみません、お兄様…。お兄様に家でも付きっきりで教えていただいたのに、入試に続いて理論で月島さんに負けてしまいました……」
「いいや、俺の教え方が足りない部分もあったさ。それに、深雪が頑張っていたのは俺が一番知っている。気にしなくていい」
ここは校内の食堂で他の皆もいるというのに、司波兄妹はふたりの世界に入ってしまっている。もう、ノーコメントで…。
…まあ、まだ彼らは良かった。
だが、ここで食堂に慌ただしく入って来たある人物がもの凄く面倒……というか、単純に五月蠅かった。
「月島ぁ!!おお、お前本当に総合1位なのか!?実技でもオレに勝ったっていうのかよー!」
実技4位、総合10位の森崎君だ。「次の試験、お前を負かしてやる!」とか豪語していたこともあってか、かなり焦っている様子。だからか、公共の場だと言うのに随分と騒がしい。
そんな大声で成績の事を叫ばれると凄く恥ずかしい。それに、森崎君のこういう行動は何とかしないといけないだろう。
「ああ、皆。すまないけど、僕は少し席を外すね」
僕はそう言い残して、皆の返事を待たずに席を立つ。そして、やや足早に森崎君のほうへとむかう。そして……。
「はいはい、公共の場では騒がないように、ね」
「グエッ!?」
森崎君の首根っこを思いっきり捕まえて、そのまま引きずっていく。
……さて、どうしてくれたものか…。
―――――――――
「ふぅ……、どうしたものか」
騒ぎわめき散らかしそうになった森崎君を無理矢理引っ張って、僕にとって安住の地になりつつある剣道場まで来た。
今日も部活は無いこともあって人はいないが、むしろ今はその方が都合がいい。
「おい…そろそろ正座を解いても……」
そう僕にやや弱々しく言ってくるのは、
矯正。それは僕が中学時代にヤンチャしていた不良たちに行ったものである。『ブック・オブ・ジ・エンド』を使えば一瞬で相応の効果を得られるのだが、使わずともそれなりのことは出来る。
そして、今さっき森崎君に施したのはその第一段階「少なくとも僕の言葉は大人しく聞く」状態にする段階だ。「聞く」だけであり絶対服従などでは無い。
方法としては……今回は手っ取り早く『ブック・オブ・ジ・エンド』を使い、僕への恐怖心を少しだけ植えつけてみたのだ。
……しかし、勢いでここまでやったけど、これからどうしようか?
森崎君の行動には困ったところは確かにある。だが、五月蠅くはあれど、実害はそこまででもない。
正直なところ、森崎君は誰か(主に僕や二科生)を見下す点さえどうにかなれば、後は何とか普通にやっていけそうだとは思う。少し過剰な自尊心だって方向性さえ間違えなければ、高みへ目指す原動力になるだろう。
「なら、後はちょっと説教して方向性を変えさせれば、なんとかなるかな」
「何の話だよ」
「森崎君を真っ当な人にしようって話さ」
そう言いながら僕が口だけで笑うと、森崎君は「ひぃ!?」と悲鳴をあげた。そんなに怖かったのだろうか(ニッコリ
…これで、少しは静かでマトモになってくれればいいんだけどねぇ……。
森崎(が、散々じらされた後に適当に矯正(意味深)を受ける)編。