サラダ・デイズ/ありふれた世界が壊れる音   作:杉浦 渓

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閑話6 月夜の散歩

紙飛行機がグリフィンドール塔のミネルヴァの窓を叩く。

 

「ふん」

 

見上げれば明るい月夜だ。

 

「ちょっとだけ体を動かしましょうかね」

 

ミネルヴァは軍用ズボンに編み上げブーツを履き、革のコートと手袋を着た。ズボンに取り付けた杖ホルダーに杖を差し、悠々と歩く。

 

 

 

 

 

月の明るい夜には、柊子と2人で実戦形式の決闘をする。

ミスタ・グレゴールの小屋の周りで、農作物に被害を与えないこと、かなり高齢のミスタ・グレゴールの眠りを妨げないことがルールだ。

 

奇襲は無し。決闘なので、開始までの作法は守る。

杖を握った杖腕を左胸の前に当て、一礼し、杖を剣のように前に突き出して構える。

エクスペリアームスから始まる勝負だ。多彩な技をかけ合い始めると収拾がつかなくなる。一度ミスタ・グレゴールの畑を文字通りの焼野原にした。作物のない時期で本当に良かった。

 

魔力が拮抗したミネルヴァと柊子は、武装解除呪文だけではなかなか決着がつかない。

 

「エクスペリアームス!」

 

ミスタ・グレゴールを起こさない程度に詠唱した。

 

赤い光線が、2人の真ん中でぶつかり合って弾ける。

 

ひゅ、と柊子が無言で杖を振る。ミネルヴァは「プロテゴ」と囁いて、爆破を避けた。

柊子は無言呪文の名手だ。息をするように魔法を使う。ミネルヴァはこの無言呪文だけはどうしても苦手だ。生活呪文ならともかく、使う頻度の少ない攻撃呪文は無言では使いこなせない。

 

シュ!と伸びてくる魔法の縄に絡みつかれながら「ディフィンド」と縄を裂き、一歩下がる。

 

「今日も長くなりそうね」

 

同じく一歩下がった柊子が楽しげに微笑んだ。

 

「長くはお待たせしない、わ!」

 

今度は無言で足縛りの呪いを放った。横跳びに避けた柊子がいくつもの氷の刃を作り出し、杖を振る。「プロテゴ」ミネルヴァの前で、氷が粉々に砕けていく。

 

 

 

 

 

2人に決闘の作法を教えたのはダンブルドアだ。

 

「あれこれと余計なことに首を突っ込むより、自分たちの技を磨きなさい」と言って。

 

 

 

 

 

グリフィンドールの寮監である変身術の教授ダンブルドアは、昨年、夜間徘徊中のミネルヴァと柊子を捕まえた。

間の悪いことに、目くらましで透明になっていた柊子に、ニコラス・ド・ミムジー・ポーピントン卿が優雅にお辞儀をしたところで、足元には猫がいた。

 

「ニコラス、君が挨拶しているのは、レイブンクローの菊池柊子だな? 目くらましを悪用してはならん! レイブンクローから5点の減点だ。さあ早くベッドに戻りなさ」

 

ダンブルドアは猫に目を留めた。「まさか」

 

直立不動の柊子を見ると、減点されたくせに得意げな顔で「しかたないですね」と言わんばかりに頭を軽く振った。

猫もまた直立不動、というか厳格な「おすわり」をしている。その雰囲気に、ものすごく見覚えがある。姿形ではなく、雰囲気が厳格過ぎる猫なのだ。

 

「・・・ミス・キクチ。その猫は君のペットかね?」

「いいえ、オーガスタ・ロングボトムの猫だと思います。グリフィンドール塔付近からついてきました」

 

ダンブルドアは首を振る。確かロングボトムのペットはヒキガエルだったはずだ。女子にはフクロウや猫を好んで連れてくる生徒が多い中、やけに賢く敏捷なヒキガエルを連れていたのが印象的だったので記憶にある。

 

「ミス・ロングボトムのヒキガエルが猫に変身したならともかく。なぜ飼い主を隠すのかね」

「その飼い主を探す途中だったのですわ。なにしろグリフィンドール塔付近からついてきただけの猫ですから、今もニコラス卿に心当たりがないか尋ねていましたの」

「事実かね、サー・ニコラス」

「私のこの首にかけて真実であります」

 

これほど当てにならない首もない、とダンブルドアは思った。なにしろすでに皮一枚残して切断済みの首だ。

 

「猫は私が引き取ろう。君は早く西塔に戻りたまえ」

「はい」

 

ミネルヴァはたいへん不本意なことにダンブルドアに抱き上げられてグリフィンドール塔に戻された。

 

談話室に着くと「さて」とダンブルドアはミネルヴァを床に下ろし、腰に両手を当てた。

 

「目くらましを悪用してはならんのと同じで、変身術の悪用もまかりならん! 変身を解きなさい、ミネルヴァ!」

 

不本意だ。たいへん不本意だが、ミネルヴァは猫の姿のまま、ダンブルドアのローブの裾をチョイチョイと前脚で弄んだ。コロンとひっくり返り、仰向けのまま、ダンブルドアのローブの裾にじゃれ付く。

 

「下手な芝居はもう良い」

 

溜息混じりに言われ、諦めたミネルヴァはしゅるんと人間に戻った。

 

「明日、魔法省に連絡を入れる。動物もどき審査を近日中に設定してもらうこととする」

「・・・わたくし、まだ未熟で安定して変身は出来ませんので、ダンブルドア先生に恥をかかせることになるかと」

「魔法省に登録だ。文句は言わせん!」

 

ミネルヴァは口を開いて文句を言った。「将来的に役に立つ技術だと思ったからこそ、せっせと習得したのに、わたくしが猫に変身するなど魔法省に管理されたくありません。毛色や特徴まで知られてしまったら全部台無しではありませんか」

 

「本音が出たな。私としては、在学中に動物もどきとして登録されるような教え子を持つことは名誉にこそなれ、実利面で困ることなどない。『変身現代』に華々しく記事を書いてもらおうではないか。君の猫姿の特徴まで全て。教授陣から管理人、各寮の首席や監督生全員に行き渡るよう、私のポケットマネーから君の記事を掲載した『変身現代』を寄贈させてもらう」

 

ミネルヴァは顔色を変えた。

 

「わたくしの人生が台無しになります!」

「ほう。なぜだね? 変身術の才能に恵まれていることが世間に知られると困るのかね?」

「困るに決まっているではありませんか!」

 

良いかミネルヴァ、とダンブルドアが低い声を出した。「自分がどれほど危険な橋を渡ったか考えなさい。動物への変身は失敗すれば危険を伴う。そんなことを1人で隠れて行うなど言語道断だ。ああ、ミス・キクチに手伝わせたのだろうが、なぜ、彼女と同じ目くらましで満足せんのかね。友人たちと夜中にうろつくだけなら目くらましで良かろう」

 

「友人全員が透明になっていては、行軍速度が低下します。1人は透明にならずに先頭を走る必要がありますの」

「校内でそのような物騒な真似をするなと言うておるのだ!」

「物騒な変態を校内に置いていらっしゃるではありませんか」

 

リドルか、とダンブルドアが低く呻いた。「君たちはまだ彼を警戒しておるのか」

 

「わたくしたち、か弱い女性といたしましては、小動物を嬲り殺す趣味のある少年から身を守る必要がありますので」

「もうそのようなことはしておらぬはずだ」

「森が禁じられた今、発覚する危険性が下がっただけ。それから、ルビウス・ハグリッドと親しげに話し込むこともあります」

 

ダンブルドアは長く伸び始めた眉をひそめた。

 

「つまり?」

「ルビウスには小動物を嬲り殺す趣味はないでしょうが、セストラルやヒッポグリフと触れ合うために生肉を提供してくれる優等生を疑いはしません。一緒にセストラルやヒッポグリフと触れ合うならば尚のことでしょう」

「わかった。リドルのことは私がスラグホーン先生と共に監視する。君たちはもう関わるでない」

「・・・はい」

 

ミネルヴァ!とダンブルドアが語気を強めた。

 

「なんでしょう?」

「リドルが闇の魔術に関心を示しておることは我々教師も馬鹿ではないのだ、把握しておる。しかし、闇の魔術を生徒だけでどうにか出来ると考えるのなら、君たちの思い上がりも甚だしい。君たちが知り得た情報があれば歓迎する。無論、正当な手段でたまたま知り得た情報ならばな」

「そうして、わたくしたちからは情報を吸い上げるだけ。ダンブルドア先生がご自身の胸1つで秘密裏に事態をコントロールなさるのですね」

 

明らかな不信の目をダンブルドアに向けた。

 

 

 

 

罰則の手紙が朝食のテーブルに届き、ミネルヴァは背中合わせのレイブンクローのテーブルに座る柊子の背中に背を預けた。

 

「ミスタ・グレゴールの畑に夜11時、あなたも?」

「わたくしもよ」

 

夜中に畑仕事でもないだろうし、と柊子が欠伸をした。

 

「ね、ダンブルドアの秘密主義ってちょっと異常だと思わない?」

「思う。グリフィンドール生のあなたにも内緒話はしないわけ?」

「全然。定規で線引いたみたいに四角四面なことしか言わないわ。情報を提供させるだけさせておいてね」

 

ふうん、と柊子がミネルヴァの口にオレンジを一房放り込んだ。

 

「ダンブルドアも大変ね」

「どうしてよ」

「ミネルヴァの信頼を得るには、譲歩が必要だと今頃頭を抱えてるでしょうから」

「わたくしからの信頼?」

「ええ。わたくしたちのすることを把握したいなら、ミネルヴァを抱き込まないといけないのに、ミネルヴァが不信感の塊じゃね」

「オーガスタでいいじゃない」

 

柊子は首を振り、ミネルヴァの隣のオーガスタに「オーガスタ、スリザリンの鼠をどう思う?」と聞いた。

 

「スリザリンだもの、変態よ」

 

その答えを確かめ「ね?」と柊子は微笑んだ。

 

「グリフィンドール生は、観察と分析から結論を出す過程を無視する傾向にある。あなたは、組分け帽子がさんざん悩んだだけあって、グリフィンドール生でありながら、観察と分析を怠らない。司令塔が一番欲しいのはあなたからの情報」

「あなたでもいいはずよ」

「ミネルヴァが不信感を抱く以上、わたくしは信頼しないわ。自分の寮の生徒を掌握出来ないならば司令塔とは言えないでしょう?」

 

柊子の微笑は、時に冷ややかな貴族的なものになる。

 

 

 

 

 

「今夜の罰則は、私が監督する。魔法使いの決闘の作法を学んでもらおう」

 

柊子が「決闘?」と怪訝な顔を見せた。

 

「さよう。君たちがどうしても闇の魔術に抵抗する気でいることはよくわかった。だが、授業で学んだ呪文を呑気に唱えるだけで戦えるつもりでおるならば、それは間違いだ。授業で実戦形式の学習はせんが、例えば闇祓いたちはこの決闘を訓練に組み込んでおる」

「実戦形式の魔法の訓練が罰則ですの?」

「不服ならばこの畑の草むしりを朝まで続けてもよい」

「喜んで決闘させていただきます」

 

正しい作法で実力の拮抗した魔法使い同士が決闘するのは美しいものなのだ、とダンブルドアが言った。

 

「闇の魔術に傾倒する者を捕まえるのも1つの手段だが、正統なる魔法の美しさを見せるのも大事な手段だ。無論、私はある人物がそのぐらいで改心することを期待してはおらぬ。しかし、彼はあまりに魔法を知らぬのだ。マグルの孤児院に育ち、幼い魔法力を誇示することで支配の味を覚え、そのままスリザリンに育った。偏り過ぎておる。あまりに偏り過ぎておるのだ。私は君たちには、彼を単に排斥するのではなく、正統なる魔法の力強さ、美しさを見せつける魔女であって欲しいと考えておる」

 

これは譲歩なのだろう、とミネルヴァは思った。100%でないにせよ、役割を明確に指示したのだから。

 

「さて、左右に分かれて立ちなさい。そう、腕を伸ばして杖先が触れ合わぬ距離だ」

 

言われた通りに立つ。

 

「古来の魔女はドレス姿だが、もはやドレス姿で戦うのは現実的ではないゆえ、男性の型で良かろう。右手に杖を掴み、その拳を左胸、心臓の上に当てなさい。これは卑劣な真似をせぬという誓いだ。同じ型で片膝をついて頭を下げれば、王への忠誠を誓う姿勢となる。決闘では、膝をついてはならぬ。対等な者同士だからな。さて、そこでお辞儀をするのだ。きちんと頭を下げよ。目を上げるでない!不意打ちの攻撃をせぬと誓いながらのお辞儀だ。左腕は自然に体の横に下げ、腰から背筋を伸ばしてお辞儀をするのだ」

 

お辞儀お辞儀とうるさい、とミネルヴァは思ったが、チラと目を上げて見た柊子は実に優雅にお辞儀をしていた。

 

「さて、開始の挨拶を済ませたら、杖を構えなさい。全ての動作が流れるようにスムーズでなければならぬ。正統なる魔女ならば、ここまでの動作で相手を信頼しておらねばならぬ。決闘において不意を突くのは邪法だ。ごろつきの喧嘩と同じだ。だからこそ、芯から闇に染まった者には美しい決闘はあり得ぬのだ。誰も信頼せぬからな。良いか? まず、基本は武装解除から始まる。不要な争いを避けるためだ。力が拮抗していれば、杖を失うことはない。それから、各々の技を繰り出すのだ」

 

 

 

 

 

すげえなあ、とルビウスは大きな口をぽかんと開けた。

 

様々な色の魔法の花が咲いているようだ。

 

月の綺麗な夜には必ずミネルヴァとレイブンクローのミス・キクチが、グレゴールのおっさんの畑で戦っている。

見惚れるほどに綺麗な動作で、静かに華のような攻撃魔法と防御魔法を繰り返す。

 

ルビウスはそれを見るのが楽しみだ。

 

「ミネルヴァたちはすげえな、なあ、ウィンクス」

 

傍らのヒッポグリフに話しかけた。ヒッポグリフはルビウスの太い腕に鼻先を擦り付けた。そんなことはどうでもいいから空を飛ぼうと誘うように。

 

「俺にゃあできねえ」

 

素晴らしくかっこいいとは思うが、あの中に入りたいとはルビウスは思わない。

魔法使いにもいろいろいらあ、とグレゴールのおっさんは言う。「おめえのような奴は、魔法生物や薬草の扱いに向いてるだろうよ」と。

それがルビウスには嬉しかった。

 

ミネルヴァやミス・キクチは、魔女の最高峰の頂を目指すのだろう。とてもよく似合う。自分は魔法生物と触れ合う呑気な魔法使いでありたい。

 

「トムはもっと志を高く持てって言うがよ」

 

たまにヒッポグリフやセストラルに食べさせる生肉をどこからか持ってくるスリザリンの優等生は、ルビウスに「偉大な魔法使いになりたいとは思わないのか? 木偶の坊のままでいいのか?」と言う。

 

生肉はありがたいが、お誘いはありがたくない。

 

「だっておめえ、偉大になっちまったら、ひとりぼっちだもんなあ」

 

ルビウスの目にはダンブルドアはひとりぼっちに見える。

 

父と住んでいた岩山の岩屋に入学許可証を持ってきたダンブルドアを、父は偉大な人だ、と拝んだ。

 

巨人の女と出来ちまって子供まで作ったが、女は逃げた。おまえの母さんは巨人にしては小柄で美人だったもんだから、俺もついふらふらっとなったが、なんべんか殺されかけた。でもおまえを置いて逃げるわけにはいかねえからな。

 

そう言って、にょきにょき大きくなるルビウスを必死で育ててくれた父は、自分の母校にルビウスの入学が許可されたと知り、泣いて喜んだ。

父が偉大だと言ったダンブルドアは、きっと王様みたいな人だと思っていたら、ひとりぼっちなおじさんだった。

 

ダンブルドアはいつもひとりで何か難しいことを考えている。誰にも言わない難しい秘密をたくさん抱えているから、ひとりぼっちなのだろう。

 

「あんまり賢くなんのも考えもんだぜ、なあ、ウィンクス?」

 

畑の決闘はまだ続いている。力の拮抗する仲間がいるのはいいなあ、とルビウスは思う。

 

ルビウスはあまりに体が大きいものだから、やっぱりひとりぼっちだ。クィディッチは見てるだけ。相撲の相手はトロールだ。

それでも寮の仲間はみんないい奴だから、淋しくはない。本気で遊べないのが少し物足りなくて、ひとりぼっちでいたほうが気楽なときもある。ただそれだけだ。

 

「偉大、偉大ってトムは言うけどよ、俺あ、偉大なひとりぼっちはイヤだなあ。ミネルヴァやミス・キクチみてえに、仲間のいる偉大ならいいけども」

 

魔法生物とずっと一緒にいられる仕事がしてえです、とダンブルドアに言ったら「それも良かろう」と言ってくれた。「君は自分の恵まれた体格を活かす道を知っているのだね」と。

 

そんなに難しいことは考えていなかったが、言われてみればその通りだ。

偉大ではないが巨大だ。

俺はそんでええんだ、とルビウスは思う。

 

負け惜しみではない。

あんな花火のような光線の行き交う世界にルビウスの居場所はない。あの花火の行く先は、偉大なひとりぼっちの国だ。

 

ルビウスの入学を見届けるようにして、小さな父が死んだ。ルビウスはホグワーツから奨学金をもらいながら在学している身だ。

同じひとりぼっちの身の上だからと、スリザリンのトムが生肉を持ってルビウスが遊ぶ森にやってくるが、ルビウスは自分をひとりぼっちだとは思っていない。

 

「ミネルヴァはおっかねえけんどな」

 

食事の前に手を洗いなさい、ローブが歪んでいます、ネクタイも歪んでいます、髪には毎朝櫛を入れなさい。

巨大なルビウスを下から睨み上げて叱りつける上級生は確かにおっかないが、悪い気はしない。誰かがルビウスのことを「巨人の捨て子だろ?」と噂していたら、突然そいつは鼻血を噴水のように噴き出した。ふん、と鼻を鳴らして杖を仕舞ったところを見ると、あれは絶対にミネルヴァの仕業だ。

 

まるでおっかねえ姉ちゃんみてえだ、と思うから、ルビウスはミネルヴァに叱られるのは嫌いではないのだ。

 

ホグワーツに来られて本当に良かった。

 

ハッフルパフの首席のウィリアムも、ルビウスに「君、大きいなあ」と笑って、寮の男子浴室のシャワーブースがルビウスには小さいからと、監督生の風呂を使うための合言葉を教えてくれたものだ。

早くから髭が生えてしまったルビウスと一緒に風呂に入って、髭の剃り方も教えてくれたし、ネクタイの締め方も根気強く教えてくれた。

 

トムの生肉もありがたいが、ミネルヴァやウィリアムは家族みてえだから、ちょっとだけありがたさが違う。

 

「肉を持ってくれば俺が手下になると思ってるみてえだな」

 

残念ながらルビウスもそのぐらいはわかるのだ。

肉の出所がわからないから、いつか莫大な金を請求されたら困るな、と思うぐらいには。

 

 

 

 

ひゅん、とミネルヴァの杖が飛んで、柊子の手に収まる。

 

「あー! 負けた!」

「お見苦しいわよ、ミス・マクゴナガル?」

 

2本の杖を掴んだ右手を心臓の前に当て、柊子がにやりと笑った。

 

杖無しで同じ動作を返し、しかし、悔しさに口の端が下がる。

 

「ルビウスが見てたわね」杖を返しながら言う柊子に、ミネルヴァは「また?」と眉をひそめた。

 

「自分じゃ隠れてるつもりでも、あの体格じゃね」

「夜中に禁じられた森なんかに通うから、毎朝寝坊するんだわ」

「今夜は同罪だから見逃しましょう」

「悪気もなく、ろくでもないことばかりするんだから」

 

タータンのストールを首に巻きつけながら、ミネルヴァは大きな鼻息を吐いた。

 

月の綺麗な夜には、いろんな生徒たちがホグワーツをうろついている。


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