次々に送られてくるマグル生まれの魔法使いや魔女のリストを見て、ジャスティンはぎゅっと目を閉じた。
「やあやあやあ。こりゃまた豪勢だな!」
デラクール家のダイニングに現れたフレッドとジョージが、ジャスティンの肩に腕を回してリストに目を通した。
「ああ、豪勢さ。問題は、この人たちはみんな『匂い』をつけられてるってことだ。この人数を、本人たちの魔法無しでフランスまで連れて来なきゃならない」
「そいつぁ難問だなあ。これをイギリス中探し回って、かき集めて、南岸まで連れて来るだけでも大変だ」
「いや。それはもう解決済らしい。詳しくは書いてないけど、護送車のバスジャックだ。たぶん捕まった人たちをアズカバンに送る車ごと奪取するつもりだと思う。えーと、ヘイスティングスからドーバーにかけては外国からの闇祓いを配置してあるから、そのラインまで連れて来る。僕らはフランスから迎えに行くんだ。ひと組かふた組ずつだと思ってたから、僕と君たちで付き添い姿現しを漠然とイメージしてたけど・・・これじゃあ」
ふーむ、と椅子に腰掛けたフレッドが腕組みをした。
「ひとつ聞いていいか?」
「僕にわかることなら答えるよ」
「君はどうやってフランスまで来た?」
「僕は魔法省陥落直後に、直接この邸に姿現し。でもこの人たちにそんなことさせられない」
「いやいや、じゃなくてさ。魔法を使っちゃいけないってことは、マグルなわけだ。マグルはどうやってフランスに来るんだい?」
「そりゃあ・・・飛行機だよ」
「そいつを手に入れて君が運転すればいいんじゃないのか?」
魔法界に来て丸6年が過ぎても、魔法族の発想にはなかなか慣れない。
ジャスティンは脱力した。
「飛行機は、専門の訓練を受けたパイロットしか操縦できないし、離着陸にとんでもなくスペースを必要とするから、この場合は使えないよ、フレッド」
じゃあ大鍋に帆を張って、とフレッドが御伽噺を披露するのを、ジョージが遮った。
「待てフレッド。ジャスティンの反応が、それじゃないと言ってる。でも・・・大鍋に帆を張って渡れないこともないなら・・・船は使えるんじゃないか? レンが言ってたろ。海征権がどうとかこうとか。マーメイドが海峡あたりに集結してるんじゃないのか? ジャスティン、どうだ、船」
ジャスティンは思わずジョージに飛びついた。
「それだ! イギリスは戦争中にそれをやったよ、ジョージ! ナチスに追い詰められた大陸の兵士たちをイギリスに連れて来るために、イギリス中の船、軍艦だけじゃなく漁船に至るまで一斉にドーバー海峡を渡ったんだ! 船だ! 船なら出来る! ダンケルク撤退戦の逆をやればいいんだ! マーメイド軍が制海権を握っているから危険は最小限だ!」
「・・・解決したようで良かった。がな、ジャスティン、野郎にしがみつかれて無くなった左耳で泣かれるより、俺としちゃあ、女の子のセクシーな声をこっちの耳からは聴きたいぜ」
詳細な作戦を会議していると、パーバティが顔をしかめた。
「待って。何これ。レンが空飛ぶ護送車を運転する? アズカバンから? 死ぬわよ」
「あーっと。アレルギーの問題なら、なんとかなったらしい。これだ。アズカバンの看守の買収に行った時。この時レンは、マダム・ポンフリー特製のアレルギー薬をがぶ飲みして、チョコレートを食べ過ぎて鼻血出しながらも、なんとか無事に帰って来たらしい。空中で運転を一時的に交代しなきゃならなかったけど、離着陸時の運転はレンで大丈夫だったって」
絵にならないわね、とパドマが違う意味で顔をしかめた。「ねえねえ。わたしが書く予定の本ではレンはジャンヌ・ダルク風なの。もうちょっとなんとかならない? 鼻にティッシュ丸めて詰め込んで、一大作戦だなんて!」
「肝心なところで絵にならないのがレン・ウィンストンなのよ。カッコつけようとすると油断するから、このぐらいがちょうどいいわ。レンのアレルギーは、スーザンに任せましょう。問題は・・・バスジャックは諦めて、アズカバンにいったん収監してから迎えに行く・・・てことは、衣類が全然無いのよ。身の回りのもの全て。避難者住居の手配と、衣類や鍋・釜ぐらいは用意しておかなきゃ」
「食料まで考えると、えらい出費になるぜ」
「金の問題は頭が痛いよな。ウィンストン家が立て替えるって言ってるけど、あいつ絶対金のことは深く考えてないと思うぜ。それはこっちで多少考えてやらなきゃ」
「・・・寄付を募ろう」
ジャスティンが言った。
「どうしても現金が必要なのは、船のリース料、食材、避難者住居だ。それ以外のことには、古着だとか古い食器を大陸の魔法族に提供してもらう。避難が長引けば食費だけでも莫大なものになる。手当たり次第に金で買っていたら、確かにキリがないよ」
「これ、一種の政治難民なんだから、国連にも頼めるんじゃない?」
「なあ。船は節約出来ないか? ダームストラングのあの船なら全員一気に乗れる」
「いや、あの船は別のことに使うんだ。イギリス各地の海岸や湖に突如として出没しては軽く攻撃して姿をくらます。海外から威力偵察をされていると認識させるために使うらしい。国連は良い案だ、パドマ。アンソニーに頼もう」
レジナルド・カターモールは護送車の中でカタカタ震えていた。
出勤途中に拉致されたまま護送車に乗せられたのだ。
アロハシャツにサングラスをかけた青年らしき何かが、レジナルドに杖を突きつけ「やあレッジ。奥さんのメアリーに会いたいだろ?」と。
その青年は隣の席に座った女の子からチョコレートを食べさせてもらいながら、腕でグイっと鼻血を拭いた。
「アメリア。レッジにもチョコレートを食べさせて。死にそうな顔色だ」
「いけない。ミスタ・カターモール。どうか前のほうにいらしてください。一緒にチョコレートを食べましょう。大丈夫。ホグワーツに在籍中のお子さんたちにももうすぐ会えます。河童が迎えに行きましたから」
「は、はあ。それは・・・ミスタ・カッパにも御礼を言わないと」
「問題ないよ、レッジ。キュウリの配給は潤沢だ。イギリスで新鮮なキュウリを河童軍団に配給するのにこんなにコストがかかるとは思わなかったけどね。日本からの輸送で低コストに抑えられたから、もー、キュウリの大盤振る舞いだ」
ぱきん、とチョコレートを齧り、レジナルドはこんなにわけのわからない事態は生まれて初めてだと思った。
「レッジ! シャキっとしろ! アズカバン圏内に入るぞ! 気合入れてないとメアリーのキスの前にディメンターのキスだからな!」
「れ・・・レイ。あんまり脅かさないほうが・・・」
「ディメンター・・・メアリー・・・どうしたら」
「だからメアリーとの初めてのキスを思い出すんだよ」
それは良い考えだわ、と「アメリア」が微笑んだ。「奥さまのメアリーとは魔法省で?」
「は、はあ。マダム・ホップカークの秘書をしてました。私みたいな冴えないビル管理の魔法使いにも、分け隔てなく。ああ、そうそう。マダム・ホップカークのオフィスに清掃に行ったら、メアリーがほんの少しだけ息抜きをしていて、チョコレートを食べていたんです。ボスには内緒にしてと笑って、私にもチョコレートを分けてくれた。あ、ああ、マファルダはそんなことで目くじら立てる人じゃありません。でもその時はたまたま、虫歯が痛んで不機嫌で・・・メアリーとはそれがきっかけでデートするようになりました」
ぴゅう、と「レイ」が口笛を吹いた。「どっかの誰かと違ってピュアな交際だ」
「はい・・・はい・・・! メアリーは本当にピュアな女性でした。職業や役職で人を選んだりしないと言って、メアリーからプロポーズしてくれたんです」
「レッジ、奥さんのこと愛してる?」
「当たり前じゃないですか! でも、でもアズカバン行きを止める手立てが思いつかなくて・・・プロポーズもメアリーからだし、こんな冴えない・・・顔だけじゃなくて頭も冴えない。何も出来ないから、せめて子供たちの帰ってくる家だけは守っていなければ・・・あ、ああ! 家ぇ! どうしたら・・・」
「落ち着け、レッジ。まずはアズカバンで奥さんにプロポーズだ。男らしくね。君を迎えに来たよ、と言えばメアリーは感激してくれる」
「そのためにもほら、チョコレートをもっと召し上がってください」
ぐん、と護送車が高度を下げた。
「ふ、う、うわあああああああああ!」
チビりそうな目に遭って、よろよろと護送車から降りると、「レイ」と「アメリア」の後ろからついて歩いた。
アスファルトはびちゃびちゃに濡れていて、ここでも気象呪いが続いているのかとぼんやり思いながら空を見上げた瞬間、レジナルドに向かって黒い影が押し寄せて来た。
「うわあああああああっ!」
「レッジ!」
アロハシャツが視界の端に映り、レジナルドの背中に飛び乗りながら「レイ」が「エクスペクト・パトローナム!」と杖を振った。
このアロハシャツの鼻血野郎がとんでもなく凄い魔法使いだということを、レジナルドは痛感した。
銀色の大きな狼みたいな生き物が、黒い影を獰猛に追い払っていく。
「アメリア」は、看守らしき数人の男達の前でやはり杖を振っていた。
「パトローナスだ。すげえ」
「わたしのパトローナスは大したことありません。それで、準備は整っていますか?」
「はい。3日前に収監された収監者全員をロビーに集めてあります。でも・・・本当にいいんですかね?」
「何かご心配が?」
「いやあ・・・アタシらも、マグル生まれって理由でこんな地獄にぶち込まれちゃかなわねえのはわかるんですけども・・・スクイヴなんでね。魔法界の片隅で半端仕事しなきゃやってけないんですわ。魔法省に睨まれんのは、ちいっと困るっつーか」
問題ありません、と「アメリア」が朗らかに笑った。「先日資料をお見せしたように、あなたがたには新しい職場を2ヶ月後にはご用意出来ます。看守というよりは、看護士のようなお仕事が多いので、しばらく研修を受けていただきますが、その間の給与も住居も提供する用意があります」
レジナルドが呆然としていると「レイ」がレジナルドの肩を抱いて「ボケっとするなよ、レッジ。メアリーのキスを思い出せ。人生で一度くらいはカッコつけてみろって」と囁いた。
看守らしき男達が案内してきた、灰色の服を着た一団の中にメアリーの姿を見つけた時、レジナルドはこけつまろびつ、駆け出していた。
「め、メアリー!」
「レッジ! あなたなの?! どうやってここへ!」
「私の頭では説明できないことが起きた。とにかく君を迎えに来た、よっ!」
躓いて妻に支えられたが、とにかくカッコつけてみることにした。
「たぶんこんな奇跡でも起きない限りは冴えない男のままだと思うから、今言わせてくれ。一生に一度だ。メアリー。これからもずっと私の妻として側にいてくれないか?」
メアリーからの返事はアロハシャツの鼻血野郎の予想通り、熱烈なキスだった。
「出航だ!」
ダンケルクの港から、フランス各地で借り出してきた漁船が約30隻、数人の魔法使いや魔女を乗せて滑り出していく。
その中の比較的大きなヨットのマストの下で、ジャスティンは思わず両手を組み合わせていた。
スーザンがとんでもない荒技で収監者50人を助け出してくるのだ。こちらに手落ちがあってはならないが、スーザンが無事かどうかも確かめなければならない。
一方、ディーゼルエンジンのボロ船に乗ったパーバティは、悪態をつきながらエンジンの出力を上げる魔法を何度もかけ直さなければならない。
「このっ、ボロ船! リース料は思いきり値切ってやるからみてなさいよ!」
澄ました顔で、モーターボートの舳先に立ち腕組みをしたフレッドは、ドーバーの灯りが見えてくると「翼よ、あれがドーバーの灯だ」と気取って呟いた。
「その台詞が気に入ったのはよくよくわかったけどな、兄弟。俺たちにゃ翼はねーぞ」
パーバティにエンジンの子守をさせて、フレッド同様に舳先に立ち、映画のヒロインのように両腕を広げ風を受けていたパドマが一番に気づいた。
「見て! 子供よ! 海岸にホグワーツの子たちが、10、なんとなく10人ぐらいいるわ!」
それを受けてジャスティンが「フレッド! ジョージ! 子供たちを全員乗せてダンケルクに戻ってくれ! パパやママとの再会はダンケルクだ!」と叫んだ。
「よしきた、ブライ船長!」
「縁起でもない名前はやめてくれ! ダンケルクで説明するからブライ船長は無しだ!」
クソ野郎! と、万眼鏡を覗いたジョージが唸り、エンジンの回転数を上げた。
「うおっ! ジョージ! 飛ばし過ぎだぜ! 俺が海の藻屑になっちまうとこだった!」
「バカ! 急いで助けてやるんだよ! ガキども、誰かにめちゃくちゃ殴られてる!」
モーターボートに乗せて全速力でダンケルクに向かいながら、フレッドとジョージは学校の様子を聞いた。
「そうか。サンドバッグにされっちまったのか。カロー兄妹だな? よし覚えた! フランスまでもうちっとだ。あっちに着いたら、めちゃくちゃ美人の魔女たちに治療してもらえるぜ。俺たちゃそういうとこに抜かりはない」
「フランス?! パパとママが心配するよ・・・」
「君のパパとママは、マグルかい?」
「う、うん」
「じゃあダンケルクで再会ってわけにはいかないが、なるべく早くパパとママに連絡を取ってやる。大丈夫だ、ホグワーツで君が殴られてるよりも、フランスに逃げたとわかったほうが安心するさ。絶対な」
手を繋いだ夫婦を案内するようにヨットに乗り込んできたスーザンが「ジャスティン!」と叫んだ。
両腕を広げて胸に飛び込んで来るのに備えたのだが、その甘美な衝撃はなく、代わりに「子供たちは?!」と怒鳴りつけられた。
「あ、さ、先にダンケルクに向かわせたよ。どうもホグワーツでひどい体罰があったみたいで怯えてたから」
「無事なのね?!」
「リストの名前との照合は出来た。今日の予定は全員クリアだ」
ありがとう! と頬にキスだけ残してスーザンは桟橋に飛び降りた。
「カターモールご夫妻、お子さんたちは先にフランスに向かいました。あちらの港で合流できます!」
ジャスティンは自分の頬を撫で「ちょっと見ないうちに、逞しくおなりだ」と呟いた。
パーバティはボロ船から飛び降りると、護送車の運転席でハンドルに突っ伏している蓮を見つけて、運転席から引きずり出した。
「レン! レン! しっかりしなさい!」
首が赤く腫れ始めている。
運転席に上半身を突っ込んで手提げ金庫を探り当てると、中身を確かめてレンの口をこじ開けた。
マダム・ポンフリーの抗アレルギー薬を喉に流し込み、気管支拡張薬を可能な限り口の奥まで突っ込んで噴霧したところでスーザンが駆け戻ってきた。
「ああ! パーバティ、ありがとう!」
「専門よ。何があったの?」
「避難者の人たちを乗せて離陸する時にディメンターの大群の中を突っ切って来なくちゃならなかったの。アレルギー薬を飲みながらなんとか飛んできたけど、着陸する頃に咳き込み始めて」
もう少し協力者が要るわね、とパーバティは蓮のあちこちの肌の地膨れを確かめて呟いた。
「ええ。検討するわ。あなたはもう行って。パドマがエンジンがかからないって喚いてる」
「レンがこれじゃ運転は?」
「大丈夫。不死鳥の騎士団に連絡したから」
「わかった。じゃあレンのケアは任せるわ、スーザン。えーと、不安な時のマダム・ポンフリーよ!」
フランスの魔法族から寄付されたテントの中で、レジナルドは3人の子供たちと妻を抱き寄せて、声もなく泣いていた。
「パパ、ママ、いったい何がどうなってるの?」
わからん、と鼻を啜ってレジナルドは馬鹿正直に答えた。「パパの頭じゃ何がなんだか」
「ママは?」
「ママもまだ全部理解出来たわけじゃないけど・・・アロハシャツを着た守護天使が何か奇跡を起こしたんだと思うわ。レッジ、あの人はいったい誰?」
「わからん。ああ、名前ならわかる。あの2人は『アメリア』と『レイ』だ」
アズカバン脱出以来、恋に落ちた頃のように輝いていたメアリーの視線が急に冷たくなった。
「ふざけないで」
「ふざけてなんか・・・」
「どうしてまともな時代最後の、法執行部長と副部長がアズカバン脱獄させに来るのよ? しかもアメリア・ボーンズはもう亡くなったの!」
「・・・あ、どこかで聞いた名前だと思ったら」
すごい! と娘がメアリーによく似た瞳を輝かせた。「じゃあ『アメリア』は本当に天使なのね?」
「いやあ・・・それはどうかな。どちらかといえば、遣り手のビジネスウーマンがアメリアだ。看守を買収したんだと思う。アロハシャツのレイは、銃撃みたいなディメンターの攻撃を大きな狼みたいなパトローナスを出して追い払い、パパを助けてくれた」
後に出版されたパドマ・パチル著『逆ダンケルク撤退作戦』を読んだレジナルドとメアリーは、懐かしい我が家のダイニングテーブルに向かい合い、互いに苦笑を浮かべた。
「信じられるかい、メアリー? アロハシャツの鼻血野郎の守護天使がエリザベス3世だったなんて? 私は彼、いや彼女から拉致された時、どこのギャングかと思ったのに!」
「さあ。信じたほうが良い気分でいられるわ」
そう言ってメアリーは、息子が忘れていった蛙チョコカードを拾い上げた。
「我が家の守護天使はエリザベス3世。このカードは御守りとして暖炉の上に飾るべきだと思わない?」
「鼻血が出てない」
「絵にならないからでしょ。あの後、避難者の皆さんに確かめたら、エリザベス3世が直々に助けたのは最初の組だけだったそうよ。その中でも、彼女がわざわざ拉致して連れ出したのはあなただけ。いったいどうして?」
「それならわかる。『アメリア』えーと、この本によると、スーザンだ。スーザン・ボーンズに、どうやら私が君と子供たちを助けてくれと頼んだらしい」
「『どうやら』とか『らしい』って? 覚えてないの?」
「・・・マファルダに頼んだ覚えはあるんだが・・・滅多な人に頼めることじゃないから、マファルダにだけ頼んでみた。だが、あまり良い返事はもらえなかったんだよ。気持ちは痛いほどわかるけどレッジ、と首を横に振られた」
それはマファルダじゃないわね、と妻が苦笑した。
「え?」
「マファルダは、そういう言葉を使う人じゃないの。仮にそう思っていたとしてもね。つまりあなたはマファルダに化けたスーザン・ボーンズに頼み事をしたということよ」
「・・・なあ、メアリー」
「なあに、我が家のラッキー・ガイ」
「これは私の理解を超えてると思う。エリザベス3世とはいったい誰だね?」
「それはたぶんわたしたちが守るべき秘密なのよ」
「・・・私にはわかってもいないから、秘密を漏らす心配はない」
とにかく、とメアリーは明るく笑った。「わたしの見解では、将来、スーザン・ボーンズとレイ・ウィンストンの娘さんも蛙チョコカードになりそうだということよ。どんなにおばあさんになっても、そのカードが手に入るまで蛙チョコを買うわ。そして暖炉の上に飾るの」