サラダ・デイズ/ありふれた世界が壊れる音   作:杉浦 渓

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第8章 冬の訪れ

シビル・トレローニー教授に対して、ハーマイオニーは決して同情的なわけではない。占い学という学問にも関心はない。3年生のときに逆転時計を使って無茶な履修をした時を除けば、占いを学問と見做すことにも疑問を感じている。特にハリーとロンの宿題をチェックしていればその確信はいや増すばかりだ。占いが確かなら、3年生の後半からこちらハリーとロンは毎月3回ずつ死んでいる計算になる。

 

蓮が窓に向かっていくつかの呪文を呟きながら杖先を小さく動かし、ルーン文字学の教科書に目を落としているのは、「力ある文字」が魔法の発動にどのような関わりを持つのかというテーマのレポートを書いているからだ。ハーマイオニーもそちらのレポートに取り掛かりたいのだが、パーバティの嘆きを無視するわけにもいかない。

 

「あの女がトレローニー先生を解雇対象にしているのは一目瞭然だわ! 毎回毎回授業を査察するの!」

「パーバティ、落ち着きなさいよ。ね? まだそうと決まったわけじゃないし、いくら高等尋問官に査察権があるとはいえ、そうそう人事は出来ない。そうでしょ? だからこそ授業の査察を重ねて、失点を積み上げている段階なんだし・・・ちょっとレン! パーバティの話を少しは聞いてあげなさいよ!」

「・・・ハリーとロンの占い学のレポートから推察する限りでは・・・解雇対象にならないのが不思議なような・・・」

 

慰めるどころか余計なことを言った。

 

「ハリーとロンは特別に酷いのよ! あれを基準にされちゃたまらないわ!」

「わかってる、わかってるわよ、パーバティ、落ち着いて」

「あの2人には内なる眼ってものが致命的に欠如してるだけ! トレローニー先生はちゃんと教えてくださってるわ!」

「他にもいろいろと欠如してるから、それは類推できる、だから落ち着いてパーバティ」

 

ハーマイオニーが必死で慰めている後ろから蓮が「ホグワーツ城から追い出す権利は無いから安心していいわよ」と落ち着いた声をかける。

 

「・・・え?」

「ホグワーツ城に居住させるかどうかは校長の権限なの。ダンブルドアがトレローニー先生をホグワーツ城から追い出すはずがない」

「で、でも魔法省令でそう決まったら?」

「校長はダンブルドア。トレローニー先生は絶対にあの占い学の屋根裏部屋から追い出されたりしない。ダンブルドアが絶対に保護する」

 

蓮はきっぱりと言い切った。その言い方にハーマイオニーはいくらか不自然さを感じたが、パーバティが「占い学の屋根裏部屋とは何よ! 内なる眼には静かな環境が必要なの!」とどうでもいいところに噛みついたので、問い質すことは出来なかった。

 

 

 

 

 

クィディッチユニフォームを着て、使い込んだチェイサーグローブと箒を掴んで部屋を出る蓮が、ドアのところで振り返りざまハーマイオニーに「少し元気付けてあげなさいよ」と言った。その訳知り顔にタオルを投げて「あなたこそクァッフルを手離さないで。あとハリーにもさっさとスニッチを掴めって言っておいて」と言うと、蓮は顔をしかめ「あなたが信じてあげなきゃ」と言う。

 

「誰をよ」

「はいはい。わかっているくせに素直じゃない」

 

ひらりと身を翻して蓮は今度こそ本当に出て行った。まだベッドの中からそれを見送ったパーバティが「自分が少しぐらい素直になったからって偉そうに」とハーマイオニーに笑いかけた。

 

「それで? ロンにキスでもしてあげるの?」

「パーバティ?! わたし、わたし、ビクトールと文通してるのよ?」

 

ベッドから抜け出したパーバティが身震いして「もうすぐ21世紀よ、ハーマイオニー。文通?」と顔をしかめた。「ただのペンフレンドに義理立てしなきゃいけないの? それともなに、プロポーズにOKしたあとの文通なわけ?」

 

「そうじゃないけど、誠意の問題でしょ?」

「誠意ねえ・・・ま、ロンに対する友情として、絶大なる励ましは必要だと思うわよ」

「え?」

 

アンジェリーナ、ジニー、レン、フレッド、ジョージ、ハリー、そしてロン、とパーバティは指折り数えた。「7人のメンバーのうち4人がウィーズリー。アンジェリーナはフレッドの、レンはジョージのガールフレンド。スリザリンが張り切ってからかうに決まってる」

 

「・・・あ」

「グリフィンドールにはウィーズリーしかいないのかい? とか。ポッター、君もウィーズリー家の屋根裏部屋に寝泊まりしてるって本当かい? とか」

 

最悪、とハーマイオニーが片手で顔を覆った。パーバティは大きく伸びをした。

 

「アンジェリーナは素晴らしいチェイサーだし、キャプテンとしてもウッドに引けは取らないと思うけど、ロンの起用はちょっとどうかしらね。少なくともビッキー・フロビシャーかジェフリー・フーパーならこんな心配なかったわ」

「・・・そうね」

 

そう答えながらもハーマイオニーの胸の裡で、何か反発するものがあった。

ハリーの隣でいつもハリーの味方、ハリーを励ましてきたロナルド・ウィーズリーにだってヒーローになる資格は絶対にあるはずだ、と。

 

 

 

 

 

♪ウィーズリーは守れない 万にひとつも守れない

だから歌うぞ スリザリン ウィーズリーこそ我が王者

 

最悪だね、とネビルまでもが顔を強張らせた。フレッドやジョージがブラッジャーを叩く音もいつになく大きい。

 

「ジニー! 平常心!」

 

ピッチ上で蓮がジニーを珍しく怒鳴った。掴んだクァッフルをアンジェリーナにパスするタイミングを外したのだ。スリザリンを睨むのに忙しくて。

 

「厳しいなあ、レン。この歌じゃジニーが怒るのも無理ないってのに」

 

ネビルが情けない声を出す。

 

「おーっと、出たぞ! ウィンストンのインターセプト! 切り込み隊長ウィンストンがマジになった! ジョンソンがアシストに入る! 決まったぁ! グリフィンドール先制点!」

 

よし、とネビルが拳を握った。「クァッフルをスリザリンの奴らに渡さなきゃロンは失敗しない!」

 

グリフィンドール生までコレか、とハーマイオニーはうな垂れた。

 

毎年、たまの例外はあるが、グリフィンドール対スリザリンがクィディッチシーズンの開幕戦だ。もともと反発することの多いグリフィンドールとスリザリンの生徒は必ず自寮の応援に来るし、クィディッチに熱心なのはハッフルパフも同じだから、シーズンを待ち望んでいたハッフルパフの生徒も多い。

寮の気質かレイブンクロー生の観戦は比較的少ない。例外がハーマイオニーのもう一方隣にいるが。

 

「よし! ウィンストンまたゴール!」

 

リー・ジョーダンのアナウンスに呼応するようにハーマイオニーの隣の獅子頭が猛々しく吼えた。

 

「いけぇ! グリフィンドール!」

 

獅子頭をかぶっているのは、ルーナ・ラブグッドだ。威勢の良い言葉だが、通りのよくないタイプのソプラノなので、耳の近くで囁き交わすのには相応しいが、声を枯らして応援するのには不向きだ。

 

「あたし、ウィンストン好きだな」

「そうね。あの人、よく好かれるのよ、女の子には」

「おしゃべりじゃないし、優しいし」

「否定はしないわ」

「なんでDAじゃないのかわかんない。ポッターも悪くない、いい先生だよ。でも、ウィンストンのほうがきっともっといい先生だもん」

 

それは、とハーマイオニーが口ごもる間にロンがゴールを抜かれた。

 

♪ウィーズリーは守れない 万にひとつも守れない

だから歌うぞ スリザリン ウィーズリーこそ我が王者

 

「あぁ・・・」

「レン、闇の魔術に対する防衛術の先生なんか目指さないのかな?」

 

ネビルの質問にハーマイオニーは首を傾げた。

 

「あたしもそう思う。いっちばん合ってるもん」

「ルーナ?」

「ポッターのDAはクィディッチの練習みたい。実戦的で役に立つとは思うけど、試験には使えないね。ウィンストンだったらどんなDAだったかなあ?」

 

ーー実戦も実戦、クッション無しの失神、舌縛り、武装解除、足縛り。全部無言でよ

 

3日前に足縛りの呪いをかけられ転倒したときの打ち身をさすりながら、ハーマイオニーは小さく呻いた。

その鈍く痛む肩をバシンと叩き、ネビルが叫ぶ。

 

「ハリーが動いた! ハーマイオニー、スニッチが出たよ!」

 

グリフィンドール席が沸いた。キーパーのウィーズリーはともかく、シーカーのポッターは「必ず」スニッチを掴むのだ。

 

 

 

 

 

「やめてフレッド! やめなさい!」

 

アンジェリーナが悲鳴をあげた。

試合終了直後のマルフォイの侮蔑の言葉に最初にキレたのはフレッドだった。ビータークラブを投げ出し、マルフォイに向かって突進しようとする。

それをアンジェリーナとジニーとの3人がかりで押さえていると、ジョージの耳にも何か負け惜しみが飛び込んだのか、やはりビータークラブを投げ捨てた。

 

「ジョージ! やめて! ダメよ、絶対!」

 

フレッドの腹に肩を押し付けて押しとどめながら必死に叫んだが、ジョージの耳には届かず、拳がマルフォイを襲った。ハリーが慌ててジョージのユニフォームを掴み、その勢いでジョージの身体を正面から押さえている。

 

しかし、さらなる捨て台詞にジョージとハリーは2人がかりでマルフォイをぶちのめした。マダム・フーチの魔法で引き離されるまで。

 

フレッドの振り回した腕がぶつかったのか、ジニーが脇腹を押さえている。

 

「ジニー? 痛めた?」

「大したことない、肘が入っただけ。ところでレン、あの3人がなんでいまさら怒ったかわかる? あたし全然わかんない。あの歌にはムカついたけど、勝ったからどうでもよかったのに」

「スリザリンは負けた直後だったから、もっとひどいことを言ったんでしょ」

 

アンジェリーナは殊更軽く言った。

 

「たぶんそうでしょうね。それよりジニー、外野を気にし過ぎ。ああいうのを黙らせたいなら、黙らせるだけのプレイをなさい。あなたが怒れば怒るほどあいつらはよろこぶの」

 

尊敬しちゃう、とジニーがうな垂れた。

 

「なにが?」

「アンジェリーナもレンもあんな野次の中でプレイしてきたんだもん。あたし、全然良くなかった」

 

 

 

 

 

「ごめん、レン」

 

ジョージとハリーが2人して蓮の前でうな垂れている。

 

「はい?」

「アンブリッジの奴、俺とハリー、それからフレッドを終身クィディッチ禁止にしやがったんだ。しかも、俺のガールフレンドの君も」

「それは阻止した、したんだけど・・・代わりに、君が高等尋問官の仕事を手伝うならチームに残ることを許すっていうんだ。僕、君にとってどっちがマシなのか決められなくて」

「結局アンブリッジのやつが決めた。グリフィンドールには危険な、暴力的な生徒が多いようだから、高等尋問官の補佐役が目を配る必要があるって言って・・・君は、グリフィンドールの内情を、毎晩アンブリッジに報告に行かなきゃいけない」

 

蓮は苦笑した。

 

「わたくしがチームに残ることは許可されたのね? アンジェリーナにも影響無し?」

「ああ。でもそれと引き換えに・・・その・・・グリフィンドールをスパイしろだとよ」

「僕らが悪いんだ」

 

あの歌じゃね、と蓮が頬杖をつく。

 

「終身クィディッチ禁止だなんて、そう長くは続かないわ。あんまり腐らないで。わたくしは、そうね、アンジェリーナの心痛を減らすためにもまだチームにいたいし。あなたがたが気にすることなんかないのよ」

 

レン、とジョージが蓮を見つめた。そこへフレッドが割り込んでくる。「よくやったぜ、相棒。おまえ抜きでひとりでビーターやるのもつまんないから、禁止も一緒に喰らってやるさ。な、レン。アンブリッジの《お手伝い》魅惑的な誘いだ。だろ?」

 

蓮はニヤっとしてフレッドに胸を叩かれたジョージを見上げた。

 

「ジョージ、ご両親を貶されて怒るあなたたちは素晴らしい息子だと思う。3フクロウにあと9上乗せしてもいいぐらいよ」

「E《期待以上》のお言葉だぜジョージ」

「次はわたくしの番ね。ハウスエルフのごとく従順な《お手伝い》になってやるわ。O《大いによろしい》のレベルで」

 

ジョージがやっと強張った顔で笑ってみせた。

 

「ハウスエルフはハウスエルフでも、君んちのハウスエルフだろ、どうせ」

「我が家の従順極まりないハウスエルフと言って。ところでマルフォイは何と言ってあなたを怒らせたの? この前のネビルもそうだけれど、あなただって聞き流すことが出来ない人じゃないのに」

 

「それは・・・」もごもごと口を開きかけたハリーに被せるようにジョージが「歌に輪をかけたやつさ。今思えば大したことじゃなかった。ウィーズリーは子沢山の貧乏人ってな」と答えた。僅かに目を眇めたが、ジョージがそう答えた以上、問い詰めるのはやめにした。

 

 

 

 

 

男子寮に駆け上がったハーマイオニーにハリーは複雑な顔をした。

 

「ハーマイオニー、僕、この前も思ったけど、これは公平じゃないよな? 君は魔女を政治的に正しく扱うことを求める立場として、男子寮のプライバシーにも配慮するべきだ」

「マルフォイはジョージに何を言ったの? 聞こえてたんでしょ、ハリー」

「ジョージが言わなかったんだから・・・」

「ハリー」

 

ハーマイオニーの冷酷な顔を見てハリーは、グッと息を呑んだ。

 

「最低のことだ。女の子には聞かせたくない」

「今は男子寮にいるんだから気にしないで。男の子のプライバシーの範囲よ」

「・・・君は。君ときたら」

「ハリー」

 

ハリーは諦めたように溜息を吐いた。「『ウィーズリーの豚小屋にウィンストンを招くのか? 双子の真ん中に寝かせるのかよ?』あと『おまえも参加するのか、ポッター? ジョンソンやグレンジャーも。豪華なパーティだな』・・・これ以上は教えないよ! いくら男子寮に平気で上がり込むような君にだって!」

 

あっきれた、とハーマイオニーは吐き捨てた。「どうせFのつく言葉で表現されたんでしょ、そうなんでしょ?」

 

「そうだけど・・・レンには内緒だよ、ハーマイオニー。僕らが、僕とジョージが挑発に乗ってあの糞野郎を殴った、それだけで情報は充分だろ。僕とジョージは癇癪持ちの危険人物。そんなことでレンや君やアンジェリーナの名誉が守れるなら構わない」

「あなたたちが紳士なのは喜ばしいことよ、ハリー、でも、マクゴナガル先生にも言わなかったの?」

「マクゴナガルは最初、まず僕たちを怒鳴りつけた。勝った試合のあとに負けたシーカーが挑発してきたぐらいで、2人がかりで殴るような恥ずかしい生徒だとは思ってもみなかったって。それから詳しく事情を聞かせなさいってやっと言ってくれたと思ったら・・・アンブリッジが来たんだ・・・」

 

ハリーがポツリと言った。「レンの言った通りだった。魔法省が早速教育令第25号を出した。アンブリッジはダンブルドアの決断を覆すことが出来る」

 

ハーマイオニーは目を見開いた。「そんなこと!」

 

「出来るようになったんだ! じゃなきゃマクゴナガルがこんなこと許すもんか! アンブリッジが来なかったら僕とジョージはマルフォイの台詞を全部打ち明けたさ! そしたらおしまいなのはマルフォイのほうだ! いやらしくて愚劣で、僕やジョージじゃなくレンやアンジェリーナを侮辱したんだから! でもアンブリッジの前でそんなこと言っても無駄だし、アンブリッジがマクゴナガルどころかダンブルドアの判断まで覆せるようじゃ言うわけにはいかないだろ! あのガマガエルが学校中に言いふらすだけだ! ウィーズリー家の息子たちとそのガールフレンドは、それこそ大勢でFのつく何かを楽しんでいるって! 君も巻き込まれかねないんだ!」

 

ああもう! とハーマイオニーは、それこそ男の子のように髪をかきむしった。「ロンはどこよ、こんなときに!」

 

「知るもんか・・・ロンのことは放っといてやってくれ。ロンだって悪いキーパーじゃない。ただ・・・プレッシャーに弱いだけさ」

「誰もそんなこと言ってないでしょ! ただ対策を講じなきゃって」

「君はな。でもグリフィンドールはこれからシーカーもビーターも無しで戦うことになりかねない。ケイティかアリシアが復帰してくれればレンがシーカーになれるけど、それでも・・・ジニーはまだレンほどのチェイサーじゃないし、ビーターは誰がやるんだい? いくらなんでもレンにビーターは無理だ。箒乗りとしてはホグワーツでも最高だけど、細身の女の子だ。体重が軽過ぎてブラッジャーには勝てない。このうえキーパーまで今以上に凹ませるわけにはいかないんだ!」

 

誰がクィディッチの話をした、と言いたいのを我慢して、ハーマイオニーはハリーの肩を軽く叩いて部屋にひとりにしてあげることにした。

 

 

 

 

 

「ケイティとアリシアは交代で復帰することをOKしたよ。毎回の練習はパスしたいらしいけどね」

 

蓮の部屋にジニーと一緒に押し掛けてきたアンジェリーナに蓮は軽く頷いた。

 

「つまり、わたくしかジニーがシーカーになれるということね。ビーターは?」

 

まだこれから、とアンジェリーナは頭を振った。「何年も前からフレッドには言ってたのに、卒業するまでビーター・クラブを手離さないなんて言うからこうなるのよ。まったく先のことを考えないんだから」

 

「レン! わたし、シーカーなんて無理よ! ハリーみたいには出来ない!」

 

ジニー、と蓮はこめかみに指を当てた。「ベストメンバーが用意出来なくなったのは事実なのだから、限られた条件でベストを尽くすの。やるべきことも出来ることもただそれだけ」

 

「でも・・・」

 

そういうこと、とアンジェリーナがジニーの肩を軽く叩いた。「さ、ジニー、部屋に戻って。わたしはレンとアンブリッジ対策を考えるから。クィディッチの話は今日のところはおしまい」

 

そう言ってジニーを追い出すとアンジェリーナは蓮に向き直った。「ジョージは何を隠してると思う?」

 

蓮は苦笑して「たぶん・・・ウィーズリー家の家族以外への侮辱だと思うわ。あの人、家族への侮辱には慣れてるもの」と答えた。

 

「でしょうね。フレッドも口を割らないし。マルフォイが当てこすったのなら、たぶん・・・」

「わたくしのことでしょう。気を使わなくていいのよ、アンジェリーナ。この前、ネビルがマルフォイを殴ったの。そのときにマルフォイに少しキツいことを言ってやったわ。たぶんそのせいよ」

 

だからアンブリッジのお相手は仕方ない、と蓮は髪をかきあげた。

 

「・・・気をつけなよ、レン。チェイサーまで失ったら後がない」

「アンジェリーナ・・・お願いだから、オリバーの魂はパドルミア・ユナイテッドに返送してよ。着払いでいいから」

「クィディッチだけじゃなく。あんたがハリーのレジスタンスに参加してないのには理由があるってわかってる。もちろんそれを日和見だって言う奴もいるだろうし、アンブリッジのスパイだなんて言い出す奴もこれからはますます増えると思うけど、あたしとしちゃあ、そういう奴は目が曇ってると思うだけ。今までのあんたをまともに機能する目で見て信じない奴なんていない。いいね。形はアンブリッジのスパイでも、あんたはグリフィンドールへの貢献を忘れない。あたしはそう信じてる」

 

曖昧に頷いて蓮は窓の外に目を遣った。「今年の冬は寒くなりそうね」

 

「ディメンターがいたときに比べたらまだマシよ」

「ディメンターとアンブリッジ、どちらが悪夢だと思う?」

「間違いなくアンブリッジ。パトローナスで追い払えないディメンター、最悪だ」

 

でも救いがひとつある、とアンジェリーナが不敵に笑った。「アンブリッジは1匹しかいない」

 

それは励ましだったのだろう。

しかし、パーバティの占い学信奉に感染してしまったのだろうか、蓮には不吉な予言に聞こえてならなかった。


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