**小猫視点**
「……」
机に寝ている彼は起きる気配がない。
無理も無いと思うが、教師のほとんどが叩いても起きないので諦めていたのは少しクスリとする。
激闘だったし、私も死にかけたがあのアーシアという『元』シスターの少女によって治療されて、今日の授業には出れた。
昨日、彼の真剣な表情のせいで言い出せなかったが彼には戦ってほしくなかった。
「……にゃあ」
周囲から何故か鼻血が噴き出る。
寝ているあの人の表情が可愛くて、ついつい頭を撫でると「んぅ、んん……」と言って寝返りを打つ。
いつも彼が私に言っている可愛いというのはこういうことだろうか? わざわざ起こす気もないし、昨日頑張ったご褒美として暫く撫でさせてもらう。
彼には言い出せないが、私はまだ部長と出会う前に命を救われている。
同じクラスになれ隣の席になれた時は小さくガッツポースをしたものだ。
何故か朱乃さんまでこの人に入れ込んでいるが、この人のことだ。お節介焼きのお人好しなので、どこかで救ったのだろう。
あの
溜め息をつく。
彼なら受け入れてくれると思う。身内が悪魔になっても態度を変えず、知り合って間もないシスターのために堕天使に喧嘩を売りにいく彼なら。
けれども恐い。
彼にもしも否定されたら、もしも恐れられたら……そのもしもが私の心を決意させない。
気分転換にあの後の顛末を私は思い出す。
**双葉視点**
嗚咽を堪えず泣いていると誰かが俺を立たせ、柔らかい感触とともに抱きしめてくれる。
「よく頑張りましたね」
「姫、島先輩……」
いつの間にか来ていた姫島先輩が俺を抱きしめていた。
いつもなら遠慮したいが、今日だけは胸を借りる。
「俺、俺は……」
「良いんですよ。あなたはあなたの出来る精一杯をしたんですから」
「畜、生、畜生! 畜生ぉおおおおおおおっ!!」
一気に感情が噴き出す。
堕天使と戦った結果としては上等なのだろう。俺もイチ兄も、多分木場先輩たちも生きている。
だけど、アーシアを助けることが出来なかった。
実質、レイナーレに負けたと言ってもいい。あのクソ堕天使、三枚におろしとけばよかった。
ようやく落ち着いてきた頃だった。
姫島先輩から離れようとするが離れられない。
というか離してくれないし、なんか鼻息が荒い上に目が虚ろになっていた。
これあかんやつや……。
「双葉……」
イチ兄が肩にトントンと叩いてくれるが、あ、いや、今無理……姫島先輩苦しいです。
涙引っ込んだから! 苦しい!! ヘルプ! このままだと乳に殺される! あっ、でもアーシアに会いにいけるから別に。
「朱乃、ステイステイ。そのままだと双葉くん窒息死するわ」
ぷわはぁ! し、死ぬかと思った。
というか姫島先輩残念そうにしないで! 怖い、胸怖い……やっぱ、尻だな。
ガタガタと体を震わせていると部長がため息を付きながら話しだす。
「とりあえず勝てたみたいね……そこで真っ二つになってる堕天使みればわかるんだけど」
「あらあら、形が残ってますね。今度可燃物のゴミの日に出しておきますわ」
改めて見るとすさまじいことしてるな。
真っ二つになったレイナーレにぐちゃぐちゃになった聖堂、あとイチ兄と堕天使が開けた大穴。
てか姫島先輩、ゴミ袋出さなくていいですから、あとこれ可燃物じゃないです。性根腐ってるから燃やしたら空が腐っちゃいますよ。
ふとリアス先輩が周囲を見回してため息をつく。
「にしても派手にやったわね、教会がぼろぼろよ」
「……マズイですかね」
冷静に考えたら俺がした行動って、抗争中のヤクザの事務所に押し入って銃乱射したようなもんか、これ。
……い、いや、リアス先輩が行けって言ってくれたし、あっでも木場先輩の言ったことを信じただけだし、でも最終的にやったのは俺だから、俺のせいやんけ。
いや、今はそういう責任問題は後回しにして、地下で戦っていた木場先輩と子猫は!?
「そうだ! 木場先輩と小猫は!?」
「僕らなら無事だよ」
ボロボロになった木場先輩と小猫がひょっこりと顔を出す。
小猫に至っては小さくVサインもしてるので余裕を見せつけてくれる。
ほっとする反面申し訳ない気持ちになる。
暗い気持ちになっているとリアス先輩が今回の顛末を話してくれる。
「今回は一部堕天使の暴走だったわ」
そう言うとリアス先輩は懐から数枚の羽を出す。
……それを見て、リアス先輩の強さを感じる。
だってあれ堕天使の羽だろ? 俺なんてレイナーレ一人に手こずったのに、複数人相手取るなんてすげえ。
「こいつらが勝手に答えてくれたわ。女二人と油断してペラペラと聞いてもいないところまで答えてくれるなんて、悪党の鏡よね」
「リアス先輩が倒したんですか? その堕天使たちを」
女二人、ということは姫島先輩も行ったのだろうか? だとするとこの二人もしかしてめっちゃ強いん?
その疑問が顔に出ていたのか、姫島先輩がうふふと笑いながら答えてくれる。
「部長はその一撃を喰らえば全てが消し飛ばされる、滅亡の力を有した公爵家のご令嬢なのですわ。ちなみに私も『雷の巫女』って言われてて、少々ですけど有名ですわ」
「……oh」
なにそのチート。事前に情報無かったら不意打ちでその滅亡の力で無敵じゃないですかやだー!! あと姫島先輩にも逆らわないようにしよう、なんか首筋でバッチンバッチンいってる。絶縁体でも体に仕込んどこう、うん。
……まぁ、冗談はさておき、部長たちが出て行ったのはそういうことか。
とりあえず消し飛ばされた堕天使たちに合掌する。まぁ、なんだ来世だと……あれ? 堕天使とかって転生すんの? 確か悪魔が消滅するとかなんとか言ってたし、どうなんでしょ。
「そういうわけでこいつらの独断専行のため、今回は何もお咎め無しよ。でも今回限り、もう二度と教会内で戦闘しちゃ駄目よ」
「あ、はい!」
イチ兄が元気よく返事をするが、俺ははぁ、と息を吐く。
お咎め無しだとは言え、せっかく協力してくれたのにアーシアを助けられなかったのは俺の不甲斐なさのせいだろう。
そんなときだった、天井の大穴から聞きたくない奴の声が聞こえた。
「あら、あららら? てっきり上司が全員片付けているかと思ったら真っ二つで十八禁になってるじゃないですかー。うっひょー、堕天使もさばいちまえばこうなんのな」
「フリード!?」
俺は立ち上がり牙狼剣を構えるが、あまりの重さに取り落としてしまう。
畜生! さっきまで持ててたじゃないか!
『小僧、お前さんは今日精神力を使い果たしてる、コレ以上は無理だ』
とザルバが言ってくる。
精神力ってお前、そんなあやふやなもん力にすんのかよこいつは。
フリートはゲラゲラと笑いながら戦意がないことを両手をあげて見せつける。
「まぁ、そういきり立つなよ双葉くん。俺ってば君のこと見なおしたんだぜーい? あの伝説の黄金騎士だったとはねえ……ますます殺したくなってきた」
念のため警戒した姫島先輩たちが俺の前にたつが、俺は肩を掴んでその前に立つ。
あいつは戦う気はないのは分かってる。あるんならさっきみたいに閃光手榴弾か何かで不意打ちしているはずだ。
俺ならそうする。
「双葉ァくぅん、君ってほんとなんでも持ってるよねえ。温かい家庭? 誰かが隣にいる? そんでもってあげくの果ては牙狼剣? ……ふっざけんな、てめえは悪魔じゃないけど殺したい奴堂々の一位でーす。次会うときにはなます切りにしてやんよ」
「出来れば二度と会いたくないんだけどな」
……コイツはなんかあったんだろうな。
まぁ同情はしないが、コイツなりにこうなる過程ってのがあったんだろう。ふざけた笑みだったけど、あいつの言葉の節々から感じた怒りの感情は本物だったから。
言いたいことだけ言ってフリードは闇夜に消えていった。
厄介な奴に目つけられたなぁ、と思う。
「……次あったら私が消し炭にしますわ」
「今度はちゃんと守るから」
姫島先輩と子猫に言われるが、なんだかあいつとは長い付き合いになりそうな気がする。
あぁいうやつってうまく生き残りそうでなぁ。出来ればどこかで野垂れ死んでてくれないかなぁ、無理だよなぁ。あいつなんか悪魔すら食って生きてそう。
「さて、アーシア・アルジェントさんにコレを返しましょうか」
リアス先輩が手をたたき、俺達の注目を集める。
先輩の手には緑色の光、
返すつってもアーシアは……。
「アーシアはもう……」
「そこでコレの出番ということよ」
リアス先輩が懐に手に入れて、何かを取り出した。
……チェスの駒だ。なんだろうか?
「ぶ、部長それってもしかして」
「えぇ、イッセーは悟ったみたいね」
「えっ? いや、なに?」
木場先輩も苦笑しているし、姫島先輩もちょっと驚いている。
えっ、マジであれなんなんですかー!?
『小僧、アレは
「……そういえば双葉くん、それは?」
木場先輩に言われるが俺も頬をかくしか無い。
いや、そういえばコイツはなんだ? ザルバって名前しか無いし自然と指にハメちまったが……呪われたらどうしよ。
『俺は魔導輪ザルバだ』
「ッ!! やはり黄金騎士の」
部長が驚いたようだがそんなにすごいのだろうか? 偶然祭壇に埋められてるのを見つけたが……あれ? これ天使側の何かじゃねえの?
というか黄金騎士ってなんだ。
ノリノリで最初鎧召喚した時にGAROOOとか叫んだけど。
そんなことをポツリというと部長が目を丸くした。
「く、訓練なしで鎧を!? しかも牙狼よ? 前大戦から失われてどこに行ったのかわからないのに!」
「で、出来ちゃったから仕方ないじゃないですか、てかそんな凄いんですか?」
その言葉にイチ兄を除いた全員からため息をつかれる。
なんだよ! こちとら一般人だもの! 悪魔が身内にいるだけの普通の人間だもん。
「イッセー……あなたも魔戒騎士なんてことはないわよね?」
「うちは一般家庭です、部長」
あぁ、なんか話がこじれてきた。
とりあえず修正しなきゃ。
「と、ところでリアス先輩、その
「えぇ、そのまさかよ」
そう不敵に笑いながらリアス先輩は
そして唱え始めた。
「我、リアス・グレモリーの名において命ず。汝、アーシア・アルジェントよ。今再び、我の下僕となるため、この地へ魂を帰還させ、悪魔となれ」
そうすると
暫くするとアーシアの瞼が徐々に開き始めた。
「せ、先輩」
「勘違いしないで、彼女の癒やしの力は戦力になるわ……イッセー、あなた先輩悪魔として彼女をフォローしてあげなさい」
「部長! 良かったな、双葉っ!!」
リアス先輩の目は優しい。多分、言ってることは本当だがこれはアーシアを助けるためにやったのだと理解する。
……ホント、イチ兄が呼び出したのがリアス先輩でよかった。
完全に目を開くとゆっくりと上半身を動かし、俺を見つける。
「双葉さん?」
「……おかえり、アーシア」
抱きしめながら、俺はアーシアにそう言った。
****
「あ、あれ?」
「もう放課後」
気付くと放課後になっていた。
確か引きずるように体を動かして教室まで来たまでは覚えている。
小猫に言われたとおり、痛み止めの付箋の効力が切れた瞬間、俺は床に転がって悶絶した。
そりゃ本来なら絶対安静の体を無理やり動かしたんだし、アーシアを結果的に救えたというのなら問題無いだろう。
まぁ、その後イチ兄共々アーシアの治療を受けたんだが。
しかしながら体の傷は治っても、ザルバが言うには『精神力がほとんどねえぞ』らしく、今日は殆ど動けないとまで言われた。
……で、このザマか。
「起こしてくれよ」
「何度も起こした」
えぇ、と思ったが周囲のクラスメイトに聞いても先生たちが起こそうとしても起きないので怒っていたそうな。
……そんなに消耗してたのか、俺。
「食べる?」
「んっ、貰っとく」
飴玉を子猫から貰い、口の中に入れる。
ストロベリー味とはやったぜ。あとこっち睨むな。欲しければほしいといえばよかろうにと睨むクラスメートに思う。
……あの後、アーシアはリアス先輩に引き取られた。
多分、魔界? とかに送られるんだろうなと想像している。
まぁ、でもいいのだ。アーシアが生きていて、リアス先輩の元で暮らすのであれば無碍にはされないだろう。
生きているだけで幸せってのはこういうことを言うのか、なんか老けこんだ気分だ。
いや、数日間でこんな体験すれば嫌でも老けこむわな。
「おーい、双葉ぁ!」
「イチ兄?」
突然、響いたイチ兄の声に俺は机から立ち上がる。
どうしたんだろう、下級生の教室に来るなんて、確かイチ兄、ザ・ビーストとか言われて恐れられ……あっ、女子たちが皆逃げてる。
あっ、ついでにその姿見たイチ兄が落ち込んでる。
「で、どうしたの?」
「うぅうう、俺だってなぁ……あぁ、そうじゃない。おーい、入ってこいよ」
「どうし……は?」
そこにいた人物に俺は驚愕する。
いや、えっ? う、嘘だろ!?
「アーシア!?」
「は、はい……」
俺の驚いた声に怯えてしまったのか、制服姿のアーシアが怯えてしま……いやいやいや、待て待て。
「イチ兄!! アーシアに何した!?」
「ええ!? そうなんの!?」
当たり前だのクラッカーだこのやろう!! 女の子が絡んだことでろくな事になっていないのは俺の経験則だ畜生!!
とりあえずアーシアの手を取り、背中に隠す。
「違う違う! アーシアは俺達のクラスに転校してきたんだって!」
「はっ、嘘も体外にな! なっ! アーシア」
「本当ですぅ……」
ピシリと俺の体が固まる。
……んん? じゃあアーシアマジで転校してきたの? えっ、さらにイチ兄のクラスメート? んん? えっ、じゃあ。
「年上?」
「そう、なりますね」
「……すんませんでしたぁあああああああああああああああ!!」
勢い良くジャンピング土下座を決め込む。
あぁああああああ、だって年上と思わないじゃん!? 年下だと思っちゃったよ、なぁにタメ口聞いてんだゴルァああああ!
今までの言動を思い出して顔から火が出るほど恥ずかしい!! うわー、うわー!! アーシア先輩すんませんでした。
「あ、あのあの顔上げてください」
「いや、アーシア先輩には今までの無礼を非礼を謝らないと自分顔が上がらないです」
ふざけてではなく、俺はマジだ。
上下関係はしっかりしなければならないと父親に厳しく躾けられたのもあるんだろうが、多分なんか元来の性格なんだろう。これだけは直せって言われても……。
「いや、双葉、アーシアが困ってるからさ、顔あげようぜ」
「う、うぅううう」
顔を上げると涙目のアーシアが……ゾクリとした視線を感じ、後ろを向くと、子猫さんがめっちゃ怒ってらっしゃるー!?
アーシアと仲良くは無いだろうが泣かれるのは不快ってことだろうな。
「いや、ごめんアーシア……先輩。俺って上下関係がしっかりしてないと」
「アーシア」
「いや、だからアーシア先輩」
「アーシアです」
「いや、だ――――」
「ア ― シ ア」
……誰かぁあああ!! 助けてくださぁああい!
アーシアがちょっとグレた! ……はぁ、しょうがない。アーシアには勝てないし、
「アーシア」
「はい!」
あぁ、その笑顔が眩しい。奥さん、この子悪魔なんですよ? 信じられますか?
さて、リアス先輩に事情を聞きに行くか……まぁ、大体の予想はついたが。
****
「どうだったかしら、このサプライズは」
「どうもこうも……まさか年上とは」
それが一番のサプライズだと思う。
その一言に皆に笑われるが耐える。……てか昨日、命のやり取りした直後とは思えないね、ホント。どんだけ修羅場くぐってんだろ、この人達は。
あと、アーシアどうして俺の近くの椅子に来る? そこはリアス先輩の隣だろ。あと小猫、痛いです。やめてください足蹴らないで、プリーズ。
『モテモテじゃないか、お前さん』
「どこがだ!!」
「はいはい、漫才はそこまで……双葉くん、あなたの処遇について決まったわ」
ビクリとザルバとの言い争いを止める。
あぁ、そうだった。一応、牙狼を装着したってことで俺の扱いが微妙になったんだった。
リアス先輩が頭抱えていたのだが、申し訳なく今度何か持って行こうと思う。これでもお菓子作りは得意だ!
……イチ兄にも言ってないが、将来はそういう関係の仕事につきたいと思ってる。
「あなたは私、つまりはリアス・グレモリーの監督の元で力を付けてもらうことになるわ」
「……はい?」
もう何回驚愕すればいいんですかね……もう驚くのにも飽きたわ。
というか力をつけてもらうって、俺はもう……。
「俺、もう牙狼になることはありませんよ」
あの力は二度と使わない。
あの時はアーシアを失った怒りとレイナーレの悪事を挫くために使ったが、基本的に俺は一般人、悪魔でもなければ失った力も……多分無いはず。
普通に生きて、普通に死ぬ、そう決めている。
『お前さんはそうだろうが事態はそうならねえぞ? 牙狼っていう称号は伊達じゃない。既に各勢力がお前さんを迎え入れるために暗躍してるだろうしな』
「……俺は一般人」
「魔戒騎士は一般じゃありません」
いや姫島先輩、そう言われましても、昨日まで一般人だったし。
『相棒の弟よ。素直に受けといたほうが良いぞ、後ろ盾無いとお前ら兄弟弱いからな』
「「容赦ねえな!!」」
息ぴったりのコンビネーションで同時に叫ぶが……そうだよなぁ。
リアス先輩なら安心できるし、イチ兄の成長も見守れるしなぁ。
悩んでいるとリアス先輩が懐から
女にはポケットが沢山あるって言うがホントなんだな。
「双葉くん、いいえ双葉、あなたも私の眷属にならないかしら?」
「あっ、遠慮しときます」
『即答!?』
全員にツッコまれるとは思わず、耳の奥がキィーンとする。
「な、なんでだ、双葉!?」
「いや、だってさ……俺が悪魔になったら少なくとも何百年も牙狼として狙われるってことじゃん」
イチ兄から聞いたが、転生悪魔でも元来の悪魔と同じくらいに生きれるらしい。
そうなったら俺を狙って俺の周りの人たちが巻き込まれることになる。それだけは絶対に嫌だ。
それに悪魔にならないのであればたった数十年だ。生きて七十歳くらいだろう、その間俺は牙狼を守り、再び眠りにつかせる、完璧な人生設計。
だがそれを言うと皆が暗い顔をする。
「……本当にいいのね?」
「はい。アーシアやイチ兄、子猫や姫島先輩たちと別れるのは嫌ですけどね」
それだけは本音だが、思った以上に俺の牙狼という力はヤバイと思う。
イチ兄は仕方ない選択だったけど、俺は申し訳ないが長く生きて牙狼を守っていく覚悟がない。
ヘタレと言いたいなら言うと良い。争いマジ勘弁、平和な日常フォーエヴァー。
『……それも強さだぞ、小僧』
「へっ?」
『普通の人間なら長く生きれるだけでも大歓迎だろう。なのに、お前さんはそれを蹴って、周りのために自分の人生を使おうとしている』
い、いや、そこまでのことじゃないんだがなぁ。
ただ、俺は、俺のせいで誰かが傷つくというのが嫌なだけだ。
アーシアを助け出そうとした時と同じようにただエゴを押し付けただけだ。アーシアやイチ兄のことを考えたらここで悪魔になったほうが良い。
「そんな大層なもんじゃねえよ、ザルバ。俺は」
『……似ているな』
えっ? 何がと言うがザルバは黙ってしまう。
この野郎と思うが、コイツはコイツで考えてることがあるんだと思う。
改めて、俺はリアス先輩に向いて跪く。
正式にご厄介になるなら上下関係はしっかりとしておこうと思ったからだ。
「リアス・グレモリー、あなたの配下になりこの生命が尽きるまで牙狼を守ると誓います。あとついでにウチの兄とアーシアをマジでお願いします」
「真面目にやると思ったらこの子は」
コツンと頭を叩かれるがじゃれあうような感じだ。
この平穏がいつまで続くのか、俺にはわからない。だが俺は思う、きっと俺の命が尽きまで変わらないと。
この時は本気で信じていた。
「それじゃ、双葉とアーシアが仲間になったということで軽いパーティーをしましょうか」
はいと姫島先輩が何かを持ってくると思うと先輩が指を鳴らし、テーブルの上にケーキやら食べ物が並ぶ。
すげえ! 魔力ってこういう使い方も出来んのか……あっ、さっそく悪魔にならなかったこと後悔したかも。
「双葉さん、何か取りましょうか?」
「あら、双葉くん、お肉はどうかしら」
その時、空気が凍った。
にこやかに笑う姫島先輩とアーシアだが……なんでだろ、冷や汗と動悸が止まらない。昨日のレイナーレなんて目じゃないほど怖いっす。
木場先輩やイチ兄たちは早々と避難していた、う、裏切り者ぉおおおおお!!
「どいてくださる? アーシアちゃん」
「最初にお肉はどうかと思うんです、姫島先輩」
バチバチと火花が散っているような……あっ、違う実際散ってる!?
アレか、魔力がぶつかり合ったとかそういうノリ! 漫画みたいですげえなぁ!!
いや、こうテンション上げないと二人の気迫に押されそうでな。
「んっ、双葉、水」
こ、子猫ぉおおお!! さすが猫やで! するりとこちらに寄って……あっ。
「「双葉さん(くん)?」」
あっ、ヤバイ、なんか貞子よろしく怨念こもってる。
小猫、助けてプリーズ。
「もぐもぐ」
「こ、小猫ぉおおおおっ!!」
アカン、我に退路なし、HQ、HQ! 撤退を求む。
「撤退は認めない、そこで死守せよ」
「てんめ、イチ兄助けろや!!」
「うるせ、リア充!! 姫島先輩だけじゃなくてアーシアまでもとか……爆ぜろ!」
お前が爆ぜろと言いたかったがずいずいっと寄ってきた姫島先輩とアーシアを前にして口が開かない。
あはっはっはっは、各勢力の皆さん、こんな黄金騎士ですが欲しいですか?
俺だったら笑って不採用とか言うよ、というか俺の日常返して。
「さっ、食べましょうか……はい、あーん」
「双葉さん、まずはお祈りからですよ? あいたっ」
悪魔だからか、祈るとダメージ受けるらしい。
シスターだったアーシアにはきついなーと箸を持って食べ物を口に入れようとする二人から現実逃避する。
この後、どんちゃん騒ぎになってリアス先輩からの雷が落ちるまで騒いだ。
思えばこの時、悪魔になっていれば俺はだいぶ違ったんじゃないかと思う。
まだ、俺は、いや俺もイチ兄も自分たちが持つ力の重大さに気づいていなかった。
全勢力を巻き込んだ大混乱、それを引き起こしたキッカケは間違いなく俺たち二人だった。
正直、お気に入り登録なんてそんなされないなーと思っていたらあれよあれというまに100超えてましたね。ありがとうございます。
牙狼の設定だけ借りたほぼD×Dの物語ですが、どうぞ結末までごゆっくりどうぞ。
大筋は変えないですが、一部キャラに救いがあったりします。