ハイスクールD×D 黄金騎士を受け継ぐもの   作:相感

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ようやく魔戒剣も牙狼も出せたなぁ、長かった。
ちなみに本作ではホラーは出ません。


突入

「……ゼー、ハー、ゼー、ハー」

「だ、大丈夫?」

 

 教会の前、俺は息を切らして倒れていた。

 いや無理だって、陸上選手真っ青といったが子猫も木場先輩も早過ぎるって、途中車追い抜かしてるスピード見たら誰でもビビる。

 というか俺だけチャリンコで行けと言われた時は疑問だったが、これなら納得だ。むしろ車寄越せ車、悪魔の身体能力恐るべし。

 

「貧弱……」

「こちとら真人間だし毎朝特訓とかしてましたよーだ!」

 

 小猫がボソリといった言葉が俺にクリティカルヒットする。

 前々から思ってたが意外と毒舌だよね!! 畜生!! 猫! 悪魔!! ……あっ、悪魔だったわ。

 

「でもどうするんだ?」

『正面突破でいいだろ』

 

 イチ兄の籠手から声が出るが驚く奴はいない。

 まぁ、俺は驚いたんだがイチ兄の 神器(セイクリッド・ギア)に封じられたドラゴンの声らしいとここに来る途中で教えられた。確か名前はドライグ。中々渋めのダンディ、まぁ、微妙にマダオな声をしている。

 そんなドライグは少々、というかかなり脳筋だ。

 

「アーシアがいるし、下手なことは出来ねえだろ」

『面倒だな。しかし人間、お前本当に来るのか?』

 

 バカにするような言い草だが、実際馬鹿にしてるんだろう。

 この中で一番弱いのは俺だ。イチ兄は 神器(セイクリッド・ギア)のおかげで相当強くなるそうなんで、実質足手まといは俺一人だ。

 

「行くに決まってんだろ」

『なら相棒やそこの悪魔たちから離れるな。死なれると相棒が落ち込む』

 

 畜生、いつか見返してやらァ、このトカゲと心のなかで誓う。

 

「さて、作戦会議だけど……多分、彼女たちはここにいると思う」

 

 木場先輩が図面を取り出して、ある場所を示す。

 てか図面なんていつの間に、さすがイケメンは仕事が速い。

 

「聖堂?」

「うん。あいつらなら聖堂に仕掛けてをしていると思うし、はぐれ悪魔祓い組織なんて連中は地下で邪悪な儀式する、っていうのがセオリーだからね」

「あぁ、そういうの実際にするんだ」

 

 聖堂なら今から入り口の扉から突っ切ってすぐのところだ。

 ……まぁ、問題はそのすぐ近くってことだよなぁ。

 

「待ち構えてるよ、あの腐れ神父」

「あぁ、あいつかぁ」

 

 俺たちは揃ってため息をつく。

 あの頭パッパラパーのフリードなら確実にいる。あぁいうタイプの人間は意外と卑怯な手を使わず、真正面から突っ込んでくる。それが嫌なんだがな。

 そんな俺に、木場先輩が何かを手渡そうと……剣!?

 

「剣って、木場先輩は!?」

「僕なら大丈夫、幾らでも出せるから」

 

 ニコリと笑って手品のように剣を何本も出す木場先輩。

 ……あれか、この人も 神器(セイクリッド・ギア)持ちなのかな? 

 

「ところで小猫は」

「んっ」

 

 シュッシュッとシャドーボクシングをする。

 あー、うん。昨日のアレで分かってたが拳で語り合うタイプや、この子。

 まぁ、小猫と戦う奴らに今から合掌する。骨の何本か逝くと思うから。

 

「準備はいいね? 双葉くん、ドライグさんも言ってたけど僕達から離れないように」

「絶対守る」

「こういう時は頼りにしろよ、双葉!」

 

 ……じんわりと心が暖かくなる。

 俺の馬鹿なワガママに付き合ってくれるんだから、いい人達、いや良い悪魔たち? なのかな。

 俺は皆に頷きながら、教会の入り口を開けて突入した。

 そのまま走りつつ聖堂の入り口の扉も強引に蹴り飛ばした。

 堕天使の根城という先入観もあるのか、それとも誰もいないせいかシンと静まる聖堂は不気味だった。

 いや、誰かはいた。

 

「これはこれは悪魔の皆さんよくぞ来てくださりやがりましたね。そして双葉くんドーモ、フリードです」

「……やっぱりかー」

 

 ニヤニヤ笑みを浮かべたフリードがこちらに向かって歩いてくる。

 出来れば二度と見たくない面ではあったが、最初に言った予想は出来れば外れて欲しかった。

 

「正直ねー、今は悪魔の皆さんはどうでもいいのよ。双葉くぅん、君を斬り殺したくてウズウズしてるんだ☆ 人間の癖して悪魔に味方し、なんでか知らねえけど悪魔に愛され、あのビッチ女にも気に入られている。悪魔に好かれてるんのは別に羨ましくないんだけど、女に気に入られてるってのが気に食わない」

「てめえの戯れ言はいいんだよ、アーシアはどこだ」

「そこの祭壇の下の祭儀場。俺ちん倒していくことさ……やれ」

 

 フリードの後ろから十人くらいの神父たちが飛び出て、木場先輩と戦い始める。

 

「しまっ!? 双葉くん!!」

「邪魔してほしくないんだよねえ。双葉くんさぁ、君散々俺を煽ってくれちゃったよねえ。フリードくんめっちゃキレてんの。わかる? 殺したいのよ」

 

 光の剣を手に取り、フリードはこちらに近づく。

 周りは戦闘してる音が響く。木場先輩が俺に近づこうとするが次々と現れる神父たちが邪魔して俺へ近づけさせないように立ちはだかる。

 そこまでして俺殺したいのか、コイツ。

 

「剣も持ってるしいいよね? 殺してもいいよね? 答えは聞いてない!!」

「ッ!!」

 

 突っ込んでくるフリードをなんとか受け止める。

 反応できた、というか偶然持ち上げた剣でガード出来たようなもんだ。

 

「へえ、なんか強化と使ってんの? てかその剣中々いいものだぁ、俺っちにくれよ!」

「やるか……よっ!!」

 

 何度か打ち合いが、フリードの表情は余裕そのもの。

 そりゃそうだ、強化されたって昨日まで一般人の俺が今まで文字通りの死闘を繰り広げてた現職の悪魔祓《エクソシスト》いにとっちゃ、児戯にも等しいんだろうな。

 

「良い打ち込み、うんうん、訓練なら合格点……実戦なら不合格! 死ねっ!!」

「死ねるか!!」

 

 と気合を見せたところで防戦一方なのは覆らないし、徐々に俺が押され始めている。

 ふざけた言動をしてるがコイツの実力は本物だ。いつもの俺なら三秒程度で刺し身になってるところだが、強化のおかげでなんとか食らいついている。

 

「時間稼げば仲間が助けてくれると思った? 残念、モブ神父は沢山いるからねえ!!」

「……ッ!」

 

 軽口を叩く余裕もない。

 腕がしびれて徐々に感覚が無くなっていく。クソッタレが、足手まといじゃねえか、俺は!!

 

「これで、おーわりっと!」

「あっ……」

 

 剣が弾き飛ばされ、地面に転がる。

 ……ヤバイ。

 

「楽しめたわ、筋は良いから鍛えればいい線行ってたんじゃない? んじゃ来世では頑張れ双葉く……ってうぉおお!?」

「やらせねえよ!!」

 

 ものすごいスピードで突っ込んできたイチ兄に驚くフリードだが、俺も驚く。

 ……あぁ、そういえばブーステッド・ギアって能力は力の倍加なんだっけ? なんだそのチートは。元が弱くても時間かけりゃ最強になるとか下克上上等の能力だな。

 イチ兄の攻撃に対応しきれないのか、フリードは防御で精一杯だった。

 

「悪魔くぅん、邪魔しないでもらえるかな。あいつを殺す、お前悲しむ、俺はさらにハッピー!! になれんのによぉおお!!」

「弟守んのが兄貴だ! てめえみたいのにはやらせねえよ! プロモーション! 『戦車(ルーク)』ッ!!」

 

 次の瞬間、フリードが弾丸のようなスピードで壁に犬神家よろしく突き刺さった。

 あまりの状況に俺はポカンとしながらイチ兄を見る。

 ……あれが、イチ兄? いつもエロばっか求めた俺の兄か?

 

「大丈夫か!? 双葉!」

「えっ、うん、大丈夫」

 

 手を出され、尻もち着いてた俺を立たせてくれる。

 実感が沸かないが、イチ兄はかなり強くなったらしい。

 

 ――――しいな。

 

「……」

 

 胸によぎった暗い感情にふたをする。

 気の迷いだ、今のは。

 

「双葉くん!! よかった、無事だね?」

「ごめん、手間取った」

 

 木場先輩と小猫もこちらに走ってくる。

 周りを見ると気絶してるかダメージが大きくて呻いている神父たちが見えた……強いなぁ、皆。

 と遠い目をしていると犬神家していたフリードが壁から這い出る。

 

「イッテェなぁ。ふざけんじゃねえぞ、このクソ悪魔がぁあ!! 殺す、てめえも、双葉ってガキも全員ぶっ殺して刻んでやる……ってあら?」

 

 ようやく周囲の状況に気づいたのか、激高してたフリードが当たりを見渡す。

 

「俺だけ?」

「らしいぜ? どうする」

 

 イチ兄が構えると木場先輩たちもフリードに武器や拳を向ける。

 三対一、これにはフリードも苦笑いするしか無かった。

 

「おーおー、弱い者いじめ反対。俺的に悪魔に殺されんのは嫌なんよねー。そいじゃ退散!!」

「しまっ――――」

 

 フリードは足元に何かを投げると、まばゆい光が俺たちを襲う。

 畜生、閃光手榴弾かよ、神父のくせに無駄にハイテクだなおい!!

 まだ視力の回復しない俺に、フリードの声だけが響く。

 

「双葉、てめえは殺す。絶対にだ。そこの悪魔たちも殺すけどまずはお前から。いつも誰からも守ってもらえると思うんじゃねえよ。弱いてめえは本当にウザいね、だから首洗ってろ、綺麗に切ってぐちゃぐちゃにしてやっからよ。そいじゃ、ばいちゃー」

 

 視界が完全に回復した頃にはフリードの姿はどこにもなかった。

 

「……逃げられたね」

「そうですね、でも今はアーシアだ」

 

 呻く神父たちをどけて俺たちは祭壇の下にあった隠し通路に向かった。

 だが俺は先ほどのフリードの言葉がやけに耳に残っていた。

 

『いつも誰からも守ってもらえると思うんじゃねえよ。弱いてめえは本当にウザいね』

 

 ……ふと、イチ兄たちを見ると息切れ一つ起こしていなかった。

 チクリと胸の奥に痛みを感じた。

 

 

 

****

 

 

 

 通路を進むと無駄に頑丈そうな扉が見えた。

 

「アレだね。取り巻きの悪魔祓《エクソシスト》いは大方倒せただろうけど、まだ残っているだろうし……堕天使がいる」

「……はい」

 

 俺でもわかるくらいの気配が扉から出ている。

 アーシアもあそこにいるはずだ。

 俺達は扉の前に立つが開けるのは木場先輩に頼んだ。

 この中で一番強いらしく、スピードもピカイチということなので先陣を切ってもらうことにした。

 そして木場先輩が扉を開けようとしたとき、独りでに扉が開き、聞きたくない声が響いた。。

 

「あら、ネズミかと思ったら汚ならしい悪魔たちじゃない」

 

 むかつく笑顔で出迎えたのは部屋の奥にいるレイナーレだった。

 取り巻きの神父たちが武器を取り出すが何故かレイナーレは手で止めた。

 

「あなたたちは幸運ね。今まさに世紀の瞬間というものに立ち会っているのだから」

 

 レイナーレがごちゃごちゃいってるがそんなことはどうでもよかった。

 祭壇の一番奥、レイナーレのすぐそばにアーシアはいた。

 悪趣味なことに十字架に四肢を拘束され、身動きが取れていない。

 一瞬で頭が沸騰し、俺はたまらず叫んだ。

 

「アーシアァアア!!」

「なんで……」

「助けに来たぞ!」

 

 フリードにきられた傷を見て驚いているのか、アーシアは目を丸にしていた。

 まぁ、ボロボロの俺だと頼りないが俺の周りの人達滅茶苦茶強いから安心していいぞ! とクソ情けないことは言わないでおく。

 

 

「ここまで来たことには素直に誉めてあげましょう。でも遅いわ、儀式が今終わったわ」

「儀式? それはどうい――――」

「あぁあ、いやああああああ」

 

 アーシアが絶叫すると同時に縛っていた鎖が外れ、アーシアの体が地面に落ちる。

 なんだ? 儀式? 終わった? 何が終わったんだ?

 いや、そんなことは後で考えりゃ良い。

 神父たちが武器を再び構え、俺達に襲いかかってきた。くそっ!! この状況でかよ!!

 

「邪魔立てはさせん!」

「邪魔だぁあああああああ!!」

 

 火事場の馬鹿力なのか、それともフリードという強敵と戦ったせいなのか、ボロボロのはずなのに体が動く。

 顔に拳を叩き込み、振り下ろされた剣を弾き飛ばし蹴りをいれる。

 

「……触らせない」

「オラオラオラ! 邪魔すんなら容赦なくぶん殴るぞ!!」

「僕は神父が嫌いなんでね。全力で行かせてもらうよ。双葉くん! アーシアさんの元へ、早く!」

 

 三人の援護もあり、順調に進んでいくがいかんせん数だけは多い。

 フリードみたいな奴が二、三人いたらやばかったろうがほとんどが十把一絡げにできるレベル。

 アーシアまであと少しのところで、まるで断末魔のような悲鳴がこだまする。

 

「いやああああああああああ!!」

「これよ……これをずっと追い求めていたの! |神器(セイクリッド・ギア)!! やっと手に入った!」

 

 アーシアの体から何かの光が飛び出した。

 その光は見覚えがある。アーシアが誰かを癒やすときに使うあの光だ……なぜだか、嫌な予感がした。

 その光をレイナーレが抱きしめると、まばゆい光が解き放たれる。

 光が収まり、目を開けるとそこには緑色の光を全身から発したレイナーレがいた。

 

「私は至高の堕天使になれたわ!! これで、これで私を馬鹿にしてきた連中を見返すことが出来る!」

「……くだらねえ」

 

 レイナーレから出た言葉を聞いて出た言葉がこれだった。

 くだらなすぎる。たったそれだけのことでイチ兄を殺し、リアス先輩たちに迷惑をかけ、アーシアを泣かした。

 何が至高だ、ただの欲望に塗れた愚者じゃないか。

 イチ兄も同感だったのか、重い一撃で俺の前に立ちはだかった神父をぶん殴る。

 木場先輩と小猫は、息がぴったりとあったコンビネーションで俺に近づく神父たちを牽制してくれる。

 

「アーシア、アーシア!!」

 

 なんとかアーシアの元まで駆け寄り、抱き起こす。

 だが様子がおかしい。

 どんどん顔が白くなっていってる。

 あたふたとしている俺を嘲笑するようにレイナーレが言う。

 

「死ぬのよ、その子は」

「……何を、言っている」

 

 はったりかと思ったが、アーシアからの感じる温もりがどんどん感じられなくなってきていることに気付き、はったりではないと俺は確信する。

 死ぬ? アーシアが? なんでだよ。

 

「知らないのね。教えてあげるわ、神器を抜かれた人間は死ぬのよ。魂と直結してるから当たり前よね」

「なら返せ、今すぐにッ!!」

「嫌に決まってるじゃない。それにこの子は誰からも必要とされていないのよ? ならこのまま腐らせるよりも私のもとで力だけ使われた方が良いじゃない!」

 

 その言葉で、俺の怒りは怒髪天を超え、喉を壊すように叫ぶ。

 

 

「レイナーレェエエエエエエエエッ!!」

「アハハハ!! 人間風情が私の名前を呼ぶんじゃないわよ!!」

 

 レイナーレが手をかざすと俺とアーシアが何かの力に押されるように後ろに飛ばされる。

 ふわっとした浮遊感の後、俺は地面にたたきつけられる。

 アーシアの体を守ろうと必死に抱きしめ、十メートルほど転がったところで俺は子猫に受け止められる。

 

「クソォ!! 返しやがれっ! 返せぇえええええええ!!」

 

 狂ったように叫ぶがそんな俺にご満悦なレイナーレは光の槍を投げつけながら笑う。

 その槍を木場先輩が弾き、焦った顔で叫ぶ。

 

「双葉くん!! ここで君とその子を庇いながら戦うのは無理だ! 一誠くん、双葉くんとその子を連れて上に上がってくれ!」

「木場たちはどうするんだよ!」

「……殿は任せて」

 

 おめおめと逃げろってのか、このままじゃアーシアが死んでしまうのに!!

 そんな俺の心情を顔色から悟ったのか、木場先輩は厳しい顔をしながら言う。

 

「君とその子がいたんじゃ、僕たちは満足に戦えないんだ」

 

 つまり邪魔だ、ということなんだろう。

 その言葉に動揺を受けるが、いつの間にかイチ兄が俺とアーシアを抱えて走りだす。

 ま、待ってくれよ、イチ兄!!

 

「子猫!! 木場先輩!!」

「木場! 小猫ちゃん、帰ったらオレのことイッセーって呼べよ! 絶対だぞ!!」

 

 二人は一度だけ後ろを向き、微笑んだ。

 ……遠ざかる二人の背を見ながら、俺は初めて神様に祈った。

 

 ――――どうかあの二人を無事に返してください、と。

 

 

 

****

 

 

 

「どうすりゃいい、どうすれば!!」

 

 階段を登り、俺とイチ兄は顔色が悪くなる一方のアーシアに対して何も出来ずにいた。

 

「ドライグ! どうにか出来ないのか!?」

『無茶を言うな。魂と直結されている神器(セイクリッド・ギア)を無理やり引きぬかれたんだ。魂がまだある事自体が奇跡に近い』

 

 何か、何かあるはずだ。

 考えろ、考えるんだ!! ない頭振り絞って必死に考えろ!!

 ふとアーシアを見ると弱々しく微笑みながらこちらを見ていた。

 

「いいんです、もう、十分です」

「何が十分だよ!! まだやりたいこといっぱいあんだろ!! 俺もまだまだアーシアと話したいことたくさんあるんだ!」

 

 今にも消えそうな声で俺に懇願する。

 冗談じゃない!! こんな、こんなくだらない理由でアーシアが死ぬなんて許さない!

 

「友達とか、本とか! まだやりたいことあんだろ! リアス先輩に頼んで全部やってもらおうぜ! 対価必要だけどさ!」

「いいんです、あなたと触れ合えたほんの少しの時間、それだけで十分です」

 

 十分なもんか!! 今まで頑張って頑張ってがんばり続けた結果がこれなんて俺は認めない。

 この子は今までの分、幸せにならなきゃ嘘だ。

 けれどアーシアは全てを諦めたような顔をしながら俺に笑いかける。

 自然と俺の両目から涙が溢れた。

 

「馬鹿野郎!! まだいっぱい作ろう! いっぱい、いっぱいさぁ!! まだ紹介したいやつもいるんだよ! ここにいるイチ兄とかその友人とか、あと子猫っていただろ? さっき戦ってくれたちっこいやつ。姫島先輩とかアーシアみたら妹みたいに可愛がるよ!」

 

 自分でも何を言っているのかわからなかった。

 ただ必死にアーシアを繋ぎ止めるために言葉を発していたんだと思う。

 でも、無理だった。

 

「泣かない、で、あなたは……双葉、さんに、は、優しい、人たちが、います」

 

 今から死ぬのに、そんな間際になってすらアーシアは俺を思ってくれていた。それが堪らなく嬉しくて、堪らなく悲しかった。

 

「馬鹿野郎!! お前だって……アーシアだってそのうちの一人だろうが!! だから行くな!」

「……もし、わた、しがこの国生まれ、て、学校に通えてたら……」

「アーシアちゃん!!」

 

 イチ兄がアーシアの手を握る。その目には俺と同じように大粒の涙が溜まっていた。

 

「行こう!! な? 一緒に学校に!」

「……双葉、さ、ん……あなたに、会えて本、当に、本当、に」

 

 パタンと乾いた音を立てて、アーシアの手が床に落ちた。

 

 ――――幸せでした。

 

 これが彼女の最後の言葉だった。

 言葉が出ない……これが現実なのは冷たくなっていくアーシアの体が嫌と言うほど実感させてくれる。

 涙が止まらなかった。イチ兄が声を上げて泣いてくれなかったら、俺も同じように声を上げて、自分の無力さを呪ったかもしれない。

 冷たくなったアーシアの体を抱きしめて、俺はたまらずに叫んだ。

 

「クソッタレの神様、なんでだよ! なんでこの子がこんな目に合わなきゃならなかった。この子はてめえの事を信じていたんだぞ! いつか、いつかはって! 歯ぁ食いしばりながら祈り続けたんだ!」

 

 その結果がこれか。

 誰にも救われず、誰にも手を差し伸べれず、利用され続け、最後は誰かの欲によって理不尽に殺される。

 それが世の常だと言うやつがいるなら今のアーシアを見て言ってみろ。アーシアの生き様を見て言ってみろ。彼女の優しさに触れて言ってみろ!!!

 これが世の常なら狂ってる。

 

「ふざけるな!! ふざけるなよ馬鹿野郎!! 死ぬのが救いか! アーシアはそんなこと望んじゃいねえよ!! 返せよ! 返してくれよ!! そいつは俺の友達なんだよ! 祈って祈って祈り続けて! やっと俺っていう友達が出来たんだぞ!!」

 

 でも、何も言ってくれなかった。

 全身の力が抜け、ただアーシアを抱きしめるしか俺には出来なかった。

 

「可哀想にねえ、無惨に見捨てられて最後はこのザマ! 意味が無い人生ってこういうこと言うのかしら」

「……」

 

 いつの間にか、レイナーレが十字架を背に、羽を広げて飛んでいた。

 イチ兄は涙を拭い、俺とアーシアの盾になるように立つ。

 

「いつもの軽口もないのね、なに? その子に惚れてたの? 安心しなさい、今すぐに殺してあとを追わせてあげるから! ついでにお兄さんも送ってあげるわ!!」

「どこまで、どこまで人を侮辱すれば気が済むんだッ!! レイナーレ!!」

『欲に忠実な堕天使は何度も見たが……ここまで悪趣味な奴は始めてだッ!!』

 

 イチ兄から凄い圧力を感じる。

 ドライグも怒ってくれる。ドラゴンなのに優しいんだな。

 そんなレイナーレはニコリと笑いながら、指をぱちんと鳴らす。

 するとレイナーレと同じように黒い羽を生やした男が現れた。

 

「お前は」

「久しぶりだな、悪魔。あの時はリアス・グレモリーという邪魔があったが今度は逃がさん!」

 

 イチ兄目掛けて堕天使が突撃する。

 とっさのことで避けられなかったのだろう、イチ兄は捕まえられそのまま轟音を立てながら教会の天井を突き破って消えた。

 

「さぁ、これで二人っきりね。と言ってもあなたはもう戦意を喪失しているみたいだけど」

「……」

 

 外から激しい打撃音が聞こえる。

 きっとイチ兄は頑張っているんだろう、俺を助けに。

 だけど俺はもう一歩も動く気力すら起きなかった。

 

「……」

「人間にしてはよく頑張ったんじゃない? ただ、あなたが弱かっただけ。来世では強くなれるように祈ってなさいッ!!」

 

 蹴りを入れられ、俺が吹っ飛ぶ。

 祭壇に体がぶつかり激しく咳き込む。

 イッテェなぁ……もうこちとら反撃する気もないってのに。

 

「これで終わらせてあげる」

 

 レイナーレが巨大な光の槍を形成し、投擲のポーズを取る。

 さすがにあれ食らったら死ぬなーと他人事のように思う。

 実際、もう死んでも良かった。アーシアが死んでいるのに、のうのうと生きている自分が赦せない。

 両親には悪いし、イチ兄や姫島先輩、子猫や友人たちは悲しんでくれるだろうか? リアス先輩とか迷惑かけっぱなしだったなぁとぼんやりした頭で思う。

 目を閉じ、最後を迎え入れようとする。

 

 痛いのは、嫌だなぁ。

 

『なぁに諦めてんだ』

「……?」

 

 声がしたような気がした。

 死ぬ間際に幻聴でも聞こえたのかと思ったので無視する。

 

『おい、ここだここ』

「……ハハッ、幻覚まで見えやがった」

 

 たたきつけられた衝撃か、祭壇の一部が崩れていた。

 不思議に思った俺が振り向くとそこで俺は喋る顔を見た。

 何かの金属で出来ているのだろうか、カチンカチンと喋るたびに金属音が響く。

 

『全く、ここで腐らせるつもりだったのか? ってなんかヤバそうだな』

「何の話だ?」

 

 話が見えてこない。

 この金属野郎はどうやら俺を知っているようだが、俺はコイツを見たこともない。

 

『なんだぁ? ……まぁいい、ここに来たってことは取りに来たんだろ? アレを』

「だから何の話だよ!」

「ごちゃごちゃと何を喋っている! 死の恐怖でおかしくなった?」

 

 レイナーレがそういうがあぁ、これが幻覚かと思っていると突然祭壇が崩れ落ちた。

 音を立てながら金属野郎が床に落ちる。

 ……指輪か? これ。

 

『まぁ、開放されたってことはお前は黄金騎士を受け継ぐ者なんだろう。ほら、さっさと剣を抜け』

「け、剣って……」

 

 喋る指輪を拾いながら、祭壇があった場所を見ると一本の剣が突き刺さっていた。

 ……おいおい、教会のくせにこんなもん隠してやがったのか。

 

「まさか、そんな……何故こんな場所に魔戒剣が!?」

 

 なんかレイナーレは一人で混乱してるし、そんな大層なもんなのかと見る。

 見る限りにはただの長剣で、何かのエンブレムが柄の部分に付いている。

 光の槍をぽんぽこ撃てるあいつが恐れる程の代物なんだろうか? とてもそうには見えない。

 

『いいから抜け、お前なら抜けるはずだ』

「……」

 

 とりあえず指を右の中指にはめる。

 恐ろしいほどしっくりするその感触に驚く。

 そして俺は剣の柄を掴み、力を込める。

 

「かたっ!?」

『ただ引き抜くだけじゃ魔戒剣は抜けんぞ』

 

 呑気な声を出す指輪に悪態を付きたいが全然抜ける感じがしない。

 まるで磁石のようにくっついて離れない。

 くそっ! 抜けろよ!! なんかすげえ剣なんだろ!! さっきまで諦めてたけど、レイナーレのあの尋常じゃない表情を見る限り、コイツは一発逆転の切り札だ。

 それに抜こうが抜かまいがここでじっとしていたら死ぬだけだ。

 

「ぐ、ぐぬぬぬぬ、ふんぬぅううううううう!!」

 

 段々と剣が持ち上がるが……なんつー重さだよ、まるで巨大な石もってるような感じだ。

 抜いたとしても振り回せるかどうか。

 

『いいぞ、訓練はしてたみたいだな』

「だから、何の話だ、ってんだよ!!」

 

 後でしこたま聞いてやる。

 なんだかしらねえがこの指輪は俺の『昔』のことを知っている。イチ兄も両親も話してくれない、俺の『昔』を。

 だがそれよりも、今はこの剣を引き抜いてレイナーレに一矢報いるのが先だ!!

 レイナーレは引き抜きかけている俺の姿を見ると、先ほどの余裕をどこにやったのかと聞きたくなるほど焦っていた。

 

「抜けるはずはないわ!! だってその剣は」

「うるせぇっ!! 抜くんだよ、てめえに一矢報いなきゃ……アーシアに申し訳が立たねえ!!」

 

 床に横たわり、満足そうな顔をしているアーシアを見た瞬間、剣が完全に引き抜かれた。

 今にして思えば運命だったのかもしれない。だがあの時は多分、偶然抜いた剣が重さでぶれ、空に円を描いた。

 そう『魔戒剣で空中に円を描いた』んだ。

 それは魔戒剣に秘められた力を引き出すための方法。

 すると剣の切っ先を追うように光が円を形成され、空中に固定される。

 

「ッ!? させるかぁっ!!」

「しまっ――」

 

 レイレナーレは焦ったように俺の心臓に目掛けて、光の槍を放つ。

 驚いた俺はそのまま剣を下に振り下ろした。

 その瞬間だった。円が砕け、光が俺を包み込み光の槍を弾き飛ばした。

 

「馬鹿な!? 抜いただけでなく召喚まで!?」

 

 驚愕するレイナーレだったが、どうでもいい。

 あいつを、あの鳥野郎をぶん殴れるなら、俺はこの体を差し出してやるよ。

 

「……なんか知らねえがこの際どうでもいい。力を貸しやがれ!!」

 

 すると包み込んだ光が何かを形成し始める。

 黒と金のナニカが足から順に俺の体に装着されてく。そのナニカが装着されていくたびに、俺は体の底から沸き起こる力を感じた。

 体に装着されたそれは鎧だった。

 そして頭部まで包まれた俺は叫んだ。

 

「GAROOOOOOOOOOOOO!!!」

 

 今ここに、黄金騎士牙狼は復活した。

 




●黄金騎士牙狼
 伝説の魔戒騎士として先の大戦から語り継がれている黄金の騎士。
 だが今ではその黄金をほとんど失っているため、防御力、攻撃性能その他が信じられないほど下がっている。まぁ、ぶっちゃけると流牙牙狼をさらに弱体化させた感じ。
 瞳の色は現在は青。


 ちなみにレイナーレたちが見つけられなかったのは、元々あの地下室が作られていたため祭壇には一切手を加えていないせいだった。


●魔戒剣
 ソウルメタル製の武器。この世界ではとある鉱石を加工して作っているため、同じくソウルメタル製の鎧に制限時間は存在しない。基本設定はTV牙狼基準であるため、今回双葉が引き抜けたのは牙狼に認められた者であるほか、ソウルメタルを扱える強靭な精神力の持ち主だったためである。今回の牙狼剣は道外流牙の白い鞘と柄と同様の物だが、鞘と柄に黒い線が巻きつくように描かれているのが特徴。

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