ハイスクールD×D 黄金騎士を受け継ぐもの   作:相感

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すまん、二回で終わらせると言ったな、ありゃ嘘だ。
予想以上に筆が乗りすぎて、ダイジェストで終わらせるつもりが本気になってた。


レーティングゲーム開始 その一

決戦日、早朝のことだ。

 まだ人間界では日も昇らない時間に起きていた俺は魔力を使わずに軽いストレッチや体の調子をととのえるために運動していた。

 そこに執事さんがやってきた。

 

「運動中申し訳ございません、双葉様に電話がかかってきております」

「電話? 基本的に俺への電話はシャットアウトしてるはずじゃ?」

 

 まるでスターにでもなった気分だが、実際この冥界じゃ英雄的扱いされてるから連日のように電話が来るらしい。まぁ、グレモリー側で完全にシャットアウトしてくれているという話だったがどうしたのだろうか?

 

「そうなのですが……電話の相手はソーナ・シトリー様ですので」

「えっ!? あぁ、じゃあすぐに行きます!」

 

 軽く汗をかいていたが、執事さんが持ってきてくれたタオルで体を拭いて案内されて、電話がある部屋まで案内される。

 黒電話のような形をしている電話の受話器を取ると早朝だと言うのに、いつもの調子で話すソーナ先輩の声が聞こえた。

 

「朝早くにすいません。どうしても話しておきたくて」

「ソーナ先輩、どうし――――」

「先輩?」

 

 あっ……わ、忘れてた。

 そういえばさん付けしてくれって、色々ありすぎてすっかり作者が設定を……いやメタいことはいいんだよ。

 

「そ、ソーナさん、どうしたんですか!」

「……無理やりですが、まぁいいでしょう。要件は今日のゲームについてです」

「ゲーム、ですか?」

「えぇ、決意表明と言ってもいいでしょう……私は、今日のゲームに今までの自分をすべて出し切ります」

 

 硬い覚悟を感じさせられる声だった。

 俺は受話器を固く握りしめて、ソーナさんの言葉を待った。

 

「出し惜しみをした方がいいのでしょう。これからを考えれば、手札は伏せていたほうが効果的です。でも、私は勝ちたいんです、リアスに」

「ソーナさん」

「皆に注目されている彼女とその眷属を倒せれば、私の想いが本物と上層部も分かるでしょう」

 

 ……そうだよな。

 ソーナさんにとっちゃコレはチャンスだ。伝説級の神器や武器を持つ眷属を持つリアス姉さんを倒せれば、ソーナ先輩の実力は本物だと知れ渡るし、その夢が誰もが通えるレーティングゲームの学校と知れば協力者は増えるだろう。

 夢のような話だ、強者を倒して夢への第一歩にする。もしも相手がリアス姉さんじゃなければ俺は全力で応援しただろう。

 

「双葉……ごめんなさい、あなたの気持ちを考えれば私は失礼でしょうね」

「そんなことはないです。むしろソーナさんだって辛いでしょう、一番の親友と戦うのは」

 

 そうだ、俺なんかよりもソーナさんの方が辛いに決まっている。

 だけれど受話器から聞こえたのは否定の言葉だった。

 

「そんなことはないです。ずっと昔に約束しましたから、リアスとは」

「約束?」

「えぇ、私達が争うことになったら手加減はしない、と」

 

 ……ありありと浮かぶし、リアス姉さんの性格なら絶対に負けないとか言ったんだろうな。

 二人はずっと昔から親友でライバルだったんだな。俺が心配するのは無駄だったわけだ。

 

「……なら、俺から言うことも何もないです。俺はどちらが勝ってもおかしくないって思ってます」

「負けるつもりはありませんよ、私たちは。あれから血が滲むような特訓を行いました」

 

 そうだろうな、今のイチ兄たちに勝つにはそのくらいしなきゃ届かないだろう。

 禁手が二人というのはそれだけ戦局が有利に傾く。

 だが逆に考えれば、その二人を抑えればソーナさんが有利になるだろう。

 

「……双葉、もしも私達が勝てたら聞いて欲しい事があるんです」

「今じゃダメなんですか?」

 

 深刻な声に少し気になる。

 息も荒いし、緊張していることが電話越しにも分かる……どうしたんだろうか?

 

「今はだめです。私はあなたの先輩でしか無い、けれどリアスに……あなたが姉と慕うリアスに勝てれば、私はあなたと向き合える」

「?」

 

 よくわからない、向き合える? どういうことだろうか?

 俺は頭に疑問符を浮かべながら、ソーナさんの言葉を噛み砕いてみるがやっぱりわからない。

 

「きっと伝えます。ライバルは多いし、あなたを慕う人が多いのはわかってます、でも私も負けるつもりはありません」

「えっと? ソーナさん?」

「……ごめんなさい、お時間を取らせてしまって。言いたいことはこれだけです、あとは――――私達の戦いを見守ってください」

 

 そう言って電話が切れた。

 俺は呆然としながらツーツーとなる受話器から耳を離して、疑問符だらけの頭で色々考えるが、よくわからない。

 ライバルが多い? 慕う人? ……俺はそんなやつじゃない。

 だって俺は――――。

 

「誰も守れない魔戒騎士失格なやつなんですよ……」

 

 ポツリと漏らした本音は部屋に響くこと無く、俺の心に黒い影を落とした。

 

 

 

****

 

 

 

 朝食を食べ終えた俺達はグレモリー家地下にある巨大魔法陣の元に集まっていた。

 ここから直接ゲーム場に移動するらしい。

 アーシアとゼノヴィア以外は制服に身を包んでいたが、これの方が気合が入るらしいし、ソーナさんたちもそうなのかなと思う。

 皆が魔法陣の上に乗り、ジオティクスさん、ヴェネラナさん、ミリキャスにアザゼルおじさんが声をかける。

 

「リアス、勝ちなさい」

「次期当主として恥じぬ戦いをしなさい。眷属の皆さんもですよ?」

「がんばって、リアス姉さま!」

「まあ、今回教えられたことは教えた……ほら、双葉もなんか声かけてやれよ」

 

 おじさんが肩を叩いてくる。

 言うこと、ねえ。大体皆が言っちゃったし言わなくてもいいと思うが言っとくべきか。

 

「イチ兄、情けない戦いしたらぶっ飛ばすからな」

「任せろって! お前がいなくても戦えるところを見せてやるよ!」

 

 ズキッとした痛みが胸に走る。

 俺はそれを気づかせないように、イチ兄たちに向かってサムズアップする。

 そうだよな、もう俺なんかがいなくても皆戦えるんだよな……そんな俺の考えを打ち消すように魔法陣が輝き始め、皆の体を包んだ。

 皆の体が消えた後、俺とアザゼルおじさんやジオティクスさんたちが魔法陣の上に乗る。

 俺達はVIP専用の観戦場に行くらしい。

 便利だな、転移は。俺も使えるようにしとこう、万が一の時逃げるように使えるかもしれない。

 

「心配か? あいつらが」

「……してもしょうがない、あとは祈るだけでしょ」

 

 にやりと笑いながら俺は先ほどまで考えていたことを忘れるように目を閉じた。

 すると目の前に光が溢れ、次に視界が開けたときには別の場所に転移していた。

 まずはジオティクスさんたちが歩き出し、その後を俺とおじさんが着いて行く形となったが俺への視線が集まる。

 ひそひそ話が辺りから聞こえるのに少しイラッとする。

 

「気にすんなよ、双葉」

『魔力開放して驚かすか?』

 

 ザルバの冗談に笑いながらVIPルームを歩いていると、俺に向かって歩いてくる爺さんが見えた。

 見るからに偉いですと思える髭に杖、だがその体が出されるオーラは本物だ。

 俺の前まで来た爺さんはじーっと俺を見下ろす形で見る。周りには緊張した空気が形成され、アザゼルおじさんも冷や汗を書いていた。

 

「……今代の黄金騎士というのはお前さんか」

「あ、あぁ……あなたは?」

「ワシか? ワシはオーディン、北欧の神じゃよ」

 

 噴き出すのを堪えて、顔を引き攣らせる。

 オ、オーディンといえば超有名な神様じゃねえか!? ていうか主神じゃなかったっけこの人!? そんな人がホイホイ冥界に来て良いのか?

 

「ふむ、人間にしては鍛えているようじゃが、まだまだじゃの」

「そのくらいでいいだろジジイ、あんまりイジるなっての」

 

 見かねたのかアザゼルおじさんが俺とオーディンの間に入る。

 俺は手のひらを見ると、大量の汗をかいていたのに気づいた。視線を合わせただけでこれかよ、この爺さんは強いな、間違いなく。

 

「ほう、悪ガキにも子が出来たか」

「うっせー、いい年こいて若いやつを威圧して楽しいか? あっ?」

 

 二人を中心に険悪なムードが広がる。

 俺はため息を付きながら、二人の間に入って仲裁する。

 

「そろそろゲーム始まりますから、アザゼルおじさんもオーディンさまも席に付きましょうよ」

「……ふむ、それもそうじゃな。にしてもお主、そのままでは堕ちるぞ?」

 

 ゾクリとした感触が背筋を走った。

 まるで俺の未来を見透かしたような物言いと視線が俺の心にぐさりと突き刺さった。

 オーディンはそれを最後に背を向けて歩いていってしまった。

 

「双葉、気にするなよ? あのジジイの言葉なんざ当たらねえから」

「……あぁ」

 

 俺は一呼吸してから気持ちを落ち着かせる。

 その様子を心配そうに見ていたミリキャスが見えたので、俺はそこまで走っていき頭を撫でる。

 

「ごめん、心配させちゃったか?」

「大丈夫ですか? 顔色が……」

「水でも飲みますか? 双葉さん」

 

 聞き覚えがある声に振り向くと和服を着こなしているラクスリナさんが、魔法瓶を片手に手を招いていた。

 ジオティクスさんは一度咳払いすると、同じく魔法瓶を見せてくる。

 

「ご心配なく、彼はグレモリーが責任を持ちますので」

「あら、そうですか? コレは失礼、けれど彼は娘の最有力候補ですので」

 

 その言葉に周囲がどよめく。

 えっ? 何? 最有力候補? 眷属?

 

「お、オイ、双葉。お前、あっちに行ってる間何をした!?」

「は、話しただけだけど!?」

「ウチの娘と一緒に寝ただけですよ」

 

 ひぃいいいいいいいぎゃあああああああああああ、と喉から悲鳴が出そうになるのを懸命に抑える。

 ラクスリナさんなんで知ってるんですあああああああ!?

 ジオティクスさんとかポカンと口を開けてるし、アザゼルおじさんとか「あーあー」って顔してるし、なんだこれ! なんだこれ……。

 

『オイ、やりすぎじゃないのか』

「言ったでしょう? 外堀は埋めると」

 

 その顔は肉食獣のそれだった。

 アザゼルおじさんはやれやれと首をすくめて、肩を叩きながらこういった。

 

「朱乃やアーシア、小猫を泣かせるなよ?」

「なんで朱乃先輩たちの名前が出るんだよ!?」

『皆さま、このたびはグレモリー家、シトリー家の「レーティングゲーム」の審判役を担うことになりました、ルシファー眷属『女王』のグレイフィアでございます』

 

 混沌になりつつあった雰囲気を引き締めたのはグレイフィアさんの言葉だった。

 どうやらゲームのアナウンスはフェニックス戦に続いて、グレイフィアさんが担当するらしい。

 俺はアザゼルおじさんとラクスリナさんの隣に座って、部屋に設置されているモニターを見る。

 大モニターとフィールド内を映した少モニターが複数あり、部屋のどこからでも見やすい形になっているが……このフィールド、どこかで見たような?

 

『今回のバトルフィールドはリアスさまとソーナさまの通われる学舎「駒王学園」の近隣に存在するデパートをゲームフィールドとして異空間にご用意しました。そして今回は特別ルールがございます。各陣営、並びに観戦者様方には資料が配られますのでご確認下さい。それでは三十分後開始となりますので、皆様今暫くお待ち下さい』

 

 そうアナウンスされると手元にパンフレットが配られる。

 今回のデパートの見取り図と両陣営のメンバー表、そして特別ルール……ってマジかよ!?

 

「……マズイな」

「そうだな、双葉」

「どうしてですか?」

 

 俺の言葉に同意するアザゼルおじさんとそれに疑問を言うミリキャス。

 俺は咳払いをして、ミリキャスに説明する。

 

「あそこはな、リアス姉さんやソーナさんが見知った場所だ。地理的アドバンテージはないに等しい」

「それなら大丈夫じゃないんですか?」

「ところがどっこい、それがヤバイ。特にデパートっていうのがな」

 

 万が一、デパートに設置されているものまで再現されているなら非常にマズイ。

 特にギャー助は下手をすれば速攻で退場することになる。

 そして特別ルールってのも曲者だ。

 

「『バトルフィールドとなるデパートを破壊しつくさないこと』、これだけが一番厄介だな」

「……そうか、リアス姉さまたちは攻撃型だから」

 

 驚いたが、流石魔王の息子か。

 頭の回転が早くて説明しなくても良かったらしい。

 そう万が一でもイチ兄のドラゴンショット、ゼノヴィアのデュランダルなんかが開放されたらそれだけでデパート自体が倒壊しかねない。

 これが本番のレーティングゲーム、か。

 

「リアスには相当厳しいルールだな」

「けれどもこれに勝てなければあの娘は上に上がれませんわ」

 

 ジオティクスさんとヴェネラナさんがそんな会話をする。厳しいようだが、これは真理だろうな。これからも戦い続けるなら、これよりも厳しい条件で戦う可能性だってある。

 なるほどレーティングゲームにみんながハマるわけだ。これは面白い、実力が劣っていてものし上がれる下地がある。皆が夢中になるわけだ。

 

「双葉くん、今回の勝負どうなると思うかね?」

「……正直、今はまだ五分でしょうね」

 

 キシアさんの言葉に、俺は素直に答える。

 ルールにギャスパー・ヴラディの神器使用を制限するともあるが、それでもギャー助のポテンシャルは一般悪魔のそれを凌駕している。吸血鬼の力を十全に使えれば、優秀な偵察役にも囮にもなるだろう。

 だがそれはソーナさんも百も承知だろうし、事実モニターでは既に仕込みを初めているのを見て、俺は苦い顔をする。

 

「双葉さん、ソーナさまたちは何を?」

「……罠だ、それもギャスパーが即退場しかねないほどえげつないやつな」

 

 ソーナさんたちが用意しているのは大量のニンニクだ。

 

「なぁ、おじさん。一応聞いておくがニンニク克服の修行は?」

「してるわけないだろ。あいつは吸血鬼の能力と神器制御で手一杯だ」

 

 でーすーよねーと俺は頭を抱える。

 見事な作戦と言うか、食べ物まで再現されてるとなると……あっ、やっぱり。

 

「イチ兄、エロ本読んでるんじゃねえよ」

 

 行きつけの本屋の方を映したモニターに映ったのはエロ本をまるで宝の山のように見ているイチ兄だった。

 アザゼルおじさんは大爆笑しているが、他の人達は困惑した雰囲気を出している。

 

「双葉さん、イッセーさんは何を?」

「……ミリキャスは知らなくて良いんだよ」

 

 ニッコリと笑顔で、俺はミリキャスの視線を真面目に偵察している師匠や匙先輩たちに向けさせる。

 数人の重鎮がイチ兄の読む本に目がいってるが、悪魔だからしょうがないのかな?

 

「おぉ、あの小僧良いところに目をつけておるのぉ! 良い乳じゃわ」

 

 オーディイイイイイイイイイイイイイン!! てめえさっきまでの威厳はどうした、てか神様だろうがスケベジジィイイイイイ!!!

 あっ、イチ兄がゼノヴィアに見つかって殴られて、そのまま引きずられていったよ。

 はぁー、あいつもなんか最近嫉妬深くなってるような気がするなぁ……まぁ、あのくらいわかりやすければいくら鈍感のイチ兄でも気づくでしょ。

 

「おじさん、立ち上がりはどうなると思う?」

「……正直に言うとギャスパーがいの一番に撃破されるだろうな、このままならな」

「ふむ、そうなればリアスの評価が下がることになるな。いきなり辛い展開だな」

「だけど、リアスちゃんもソーナの動きを読むでしょうね。デパートは広いようで狭い、交戦場所は限定されるはずよ」

 

 皆さん各人の意見を述べながらあーだこーだと言うが、この勝負を楽しみにしてるのが感じられる。

 すげえなリアス姉さんもソーナさんも、こんなプレッシャーの中で勝負できるってのはそれだけで『王』の資格があるんだろうな。

 

「双葉さん、リアス姉さまは大丈夫でしょうか?」

「信じてやれ、ミリキャス。これは勝負だ、それにあの二人はどっちが勝ってもおかしくはない。だからこそ信じるんだよ、リアス姉さんの勝利を」

 

 そう話しているといつの間にか開始時刻、間近になっていた。

 俺は背もたれに体を預け、試合の様子を見入る形を取った。

 

 

 

**三人称視点**

 

 

 

 試合が開始される直前、店内アナウンスが流れる。

 

『開始の時刻となりました。なお、このゲームは制限時間三時間の短期決戦形式を採用しております。それでは、ゲームスタートです』

 

 三時間は実際のチェスでの標準時間であるが、実戦方式のレーティングゲームでは短いと言えるだろう。だがそもそもにして、戦場となったデパートは広いとはいえ、悪魔にとってはかなり制限された空間である。

 そこで膠着状態が続けば三時間などあっという間に尽きる。だからこその時間制限。

 

「指示はさっきの通りよ。イッセーと小猫、祐斗とゼノヴィアで二手に分かれるわ。ギャスパーは複数のコウモリに変化しての監視と報告。進行によっては本陣に残っている私たちはイッセーたち側からソーナの元へ向かうわ」

 

 序盤の動きとしては上々だろう。

 及第点を言えば、三十分の作戦タイム時にソーナが既に仕込みを終えていることに気づければ満点だったが、立体駐車場にある車が動かないハリボテだった上、食料売り場がソーナの本陣に存在していたのが災いし、デパートの中にあるのは精巧に複製されたレプリカという発想に至ってしまったのだ。

 

「それじゃあ、行ってきます」

「頑張れよ、木場!」

 

 まず最初に斬り込んでいったのは『騎士』二人である木場、ゼノヴィアだった。二人は立体駐車場から攻める。

 遮蔽物があり、速度を武器とする『騎士』にとっては戦いやすい場所である。

 イッセーたちは攻めやすい店内から攻めるが、これは囮だ。

 今回の勝負ではイッセーはかなりの制限がかけられている。下手に倍加、もしくは禁手を使えばデパートを粉砕しかねないからだ。

 だからこそ今回はイッセーは囮役に徹する。そして本命である木場とゼノヴィアで立体駐車場から攻め、本陣へと切り込む算段だ。

 確かにイッセーを赤龍帝と思い込む『王』はほとんどの戦力を店内に向け、木場とゼノヴィアには最低限の戦力しか割かなかっただろう。だが、リアスの誤算はソーナの戦術眼だけ見て、彼女の眷属に向けなかったことにあった。

 

「……あとどれくらいで接敵する?」

「はい、あと十分ほどはかかりますね」

 

 囮だが、あくまで攻める側だと見せつけるため戦闘を回避するように進むイッセーたちは、小猫の仙術によって進んでいた。

 今のペースなら接敵は十分ほどと聞いたイッセーはブーステッド・ギアを通常か禁手化させるか悩んでいた。幾ら体力を修行で身につけたとは言え、まだまだ甘い彼はすぐにガス欠を起こす。そう思考していたせいだろうか、彼らは自分たちを狙う敵の存在に気づくのが一歩遅れた。

 

「イッセー先輩、上です!!」

「まずは一撃ッ!!」

 

 天井から飛び出したのは匙であった。

 彼はターザンよろしく、神器の舌を天井にくっつけやってくる敵に先制攻撃を仕掛けるため息を潜めていた。

 だがイッセーも山で培った野生の勘と普段の修行が功を奏したのか、冷静にブーステッド・ギアの篭手の部分で受け止め、匙とその背に乗っていた仁村ごと弾き飛ばした。

 

「あっぶねえっ!?」

「ちっ、そう甘くはねえか。だけどお前と戦えるのは嬉しいぜ」

 

 匙とイッセーはにらみ合いながら構える。

 が、その時店内アナウンスが鳴る。

 

『リアス・グレモリーさま、並びにソーナ・シトリーさまの「僧侶」一名、リタイヤ』

「「なっ!?」」

 

 この放送に驚いたのは両陣営共にだった。

 特にソーナ側では危なくソーナが撃破される寸前という状態でもあったのだ。

 ときは数分前まで遡る。

 ソーナの本陣である野菜売り場で不審な動きをしていたソーナの眷属を監視していたギャスパーは、分散させていたコウモリを集めた。

 

「(何をする気なんだ? ……あれ? この野菜本物みたい――――ま、まさか!?)」

 

 ソーナの意図に気づいたギャスパーは、急いでコウモリを再び分散させようとしたが一手遅かった。大量に積まれたニンニクをソーナが魔力弾で粉微塵にしたのだ。

 それによりニンニクの匂いが食材売り場を多い、ニンニクが弱点のギャスパーは実体を現し、床に倒れながら痙攣した。

 

「うぐっ、あがっ……」

「予想通りですね。車はダメでも食材を使えたのは運が良かったです」

 

 自分ははめられたと気づいたギャスパーは、悔し涙を浮かべる。

 

「(何も、できずにリタイヤ、しちゃうの?)」

 

 ふとギャスパーの脳裏に、先日毒で倒れた双葉の姿が思い出された。

 強くなった、とギャスパーも自負していたのだ。吸血鬼の力も神器の制御も格段に扱えるようになった。なのにこんな古典的な手でやられる。

 

「(ダメだ、そんなの、ダメだッ!!)」

 

 ギャスパーの体に力が戻るが、幸いにしてソーナ達は気づいていない。

 

「残念ですが、あなたはここでリタイヤさせて頂きます」

 

 ソーナの無慈悲な言葉と共に二人の『僧侶』と共に魔力弾を発射する。だが、それと同時にギャスパーは体をバネにし、その場から飛び上がり、それを回避する。

 ギャスパーの予想外の行動に、ソーナたちは驚愕しながら叫ぶ。

 

「馬鹿な!? 通常の吸血鬼では行動不能になる量のはず!?」

「僕は、僕は、リアス部長の『僧侶』なんだあああああああああっ!!」

 

 リアスが誤算をしていたのならば、それはソーナも同じだ。

 人の想いは時として、限界を超え体を動かす。

 双葉に情けない姿を見せたくない、リアスの眷属として情けない姿を見せたくない。その想いがギャスパーを動かした。

 空中に飛んだギャスパーは背中の翼を使い、急降下で草下憐耶の目の前へと降り立つ。

 

「なっ!?」

「ウァアアアアアアアッ!!!」

 

 拳に魔力を貯め、それを草下の腹部で開放させる。

 それは双葉の十八番の技であった。単純ながらにして威力が高い、なおかつギャスパーの魔力も相当なものだ。

 本来なら草下も『反転(リバース)』という能力が使えるのだが、ギャスパーの気迫と限界だからこそ普段隠れていたギャスパーの本性の一端を感じ、動きが止まってしまっていた。

 その結果、腹部に魔力の拳が直撃した草下はくの字で吹き飛び、壁に激突し四肢を投げ出した。

 

「つ、次は貴方だ! ソーナ・シトリーさぁああああんっ!!」

「ッ!?」

「会長!!」

 

 ぐるりとソーナに首を向けたギャスパーの姿に、ソーナは威圧される。だがもう一人の『僧侶』花戒桃は冷静にギャスパーに近づき、その後頭部に魔力弾を叩き込んだ。

 血反吐を吐きながら床に叩きつけられたギャスパーだったが、その瞳から闘志は消えなかった。

 

「ま、だ、だ……僕だって、やれるって、双葉さんに……」

「……敬意を評します、ギャスパーくん。もしも貴方がもう少し動けていたら、負けていました」

 

 ソーナの魔力を含んだ水がギャスパーに直撃し、辛うじて意識を保っていたギャスパーの意識を今度こそ刈り取る。

 ギャスパーと草下の体が薄い光に包まれながら消えていくのを見届けたソーナは、目を閉じて自身の『僧侶』へと詫びた。

 

「……私も甘い。彼らだってこの勝負にすべてを賭けているというのに」

「会長、悔やんでも仕方ありません。それにまだ序盤戦です」

 

 ソーナは悔しそうな顔を隠すようにメガネの位置を直すと普段の冷静な表情に戻る。

 そう、まだ序盤なのだ。自分の慢心でリタイヤした眷属に報いるのには、この勝負に勝つことでしかないだろう。

 

「そうね、気持ちを切り替えましょう」

「はい!」

 

 

 

**双葉視点**

 

 

 

「ギャスパー……お前」

 

 ギャスパーの行動は、VIP席に動揺を広げた。

 誰もがあのまま何もせずリタイヤ確定だと思っていたのだ。

 だが、その絶望的な状況を打破し、ソーナさんの眷属を持っていったギャスパーを笑う者は誰もいなかった。吸血鬼にニンニクというのは古典的な弱点だが、そう簡単に克服できるわけではない。強靭な精神力と勝利への飢え、どちらかが欠けていてもダメだっただろう。

 

「……中々やりおるわい」

 

 オーディンの一言はこの場にいる全員の気持ちを代弁していた。

 だが、俺はそんな言葉に反応している余裕はなかった。

 何故か涙が後から後から出て止まらない。

 

『僕は、僕は、リアス部長の『僧侶』なんだあああああああああっ!!』

『ま、だ、だ……僕だって、やれるって、双葉さんに……』

 

 ギャスパーのこの言葉は、以前のギャスパーを知るジオティクスさんやヴェネラナさんに驚愕と感動を与えていた。

 あの引きこもりで、外と他人を恐れていたアイツが土壇場でそんなことを言えば泣くに決まってんだろうが……あの馬鹿野郎。

 

「双葉、目をそらすな。男の意地はまだ続くぞ」

「ッ……あぁっ!!」

 

 涙を拭いながら、俺は大モニターに映し出されるイチ兄と匙先輩の戦いを歯を食いしばりながら見守った。

 

 

 




ギャスパーだって成長するんです、と大成長のギャスパー。
倒れても倒れてもその度に立ち上がる双葉の真似をしてたら、自分がそうなっていたという未来の戦いでの片鱗を見せる彼が書きたかった。
当初の予定だとイッセーと匙の戦いを書いてるはずが……あれー? おかしいね、ギャスパー大活躍になってたよ。ウチのギャスパーはほんのちょっとだけ男気溢れてるだけで、ぶっちゃけ現時点では原作(五巻)と同等くらいの強さです。
というか黄金騎士何処言ったよ、泣きながら観戦してるよ。あっ、そっかー(池沼)

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