これ会合と分けたほうが良かったかも
玄関ホールから数時間後、部屋に荷物を置いてリラックスして……リラックス……いやできたんだけどね? 広すぎてこう落ち着かないというかなんというか。
改築された俺の部屋が笑えるほど大きかった。結局、俺はアーシアと同じ部屋になったのだがそれでも大きい。まぁベッドが大きいのはありがたいな、もしかしたら朱乃先輩とか来るかもしれないし。
まぁ、そんなこんなで当主であるジオティクスさんが帰ってきたということで夕食になったが、もう唖然するのも疲れたよジョニー。
馬鹿でかいテーブルにこれでもかと料理が並べられ、シャンデリアから照らされる照明が眩しく、椅子はフッカフカだった。
「堅苦しい挨拶はなしだ。どうぞ楽しんでくれ」
ジオティクスさんがそう言うと会食が始まった。
テーブルマナーなんぞ知らないので、とりあえずナイフとフォークを持って皿に載せられている料理をひたすら食べる。
無心で食べる、がっついて食べる、食べる食べる食べる食べる食べる食べる食べる食べる……う、うまぁあああああああああああああああいっ!!
「お、オイ、双葉、もう少しこう……上品に」
「気取ったって仕方ない、テーブルマナー知らないんだし、こんなうまい飯を残すのは勿体無い」
「一誠くん、双葉くんの言う通りだ。確かにテーブルマナーが必要な場合もあるが、今は家族の団らんだと思ってくれて構わない。何、キミはあとでしっかりと教えこむから心配しなくてもいい」
ジオティクスさんの目が鋭くなる。
うわぁ、イチ兄完全に婿としてロックオンされてるよ、これ。
ジオティクスさんの言葉に吹っ切れたのか、イチ兄ももりもり食べ始めた……でも俺も覚えるかなぁ、これからもリアス姉さんと共にいるなら覚えても損はないはず。
だが、皆が食べている中、小猫だけはちびちびと食べていた。おかしいな? いつもなら無表情でご飯十杯くらい食うのに全然食べない。大丈夫かよ? 俺なんかよりも先に倒れちまいそうだ。
「ところで一誠くん、ご両親は元気かね?」
「えっ? あ、っはい! 元気というかなんと言いますか。今回も部長の故郷へ行くと言ったらお土産を期待してまして……あぁ、そうだ、父さ……父が改築のお礼に酒を持って行けと言ってたので」
「あぁ、アレか」
俺は魔法衣をゴソゴソと探って、五本入りの酒ケースを取り出す。
便利だよね、この魔法衣って。これさえあれば俺、カバンとか要らなさそうだよ。
ジオティクスさんは目を輝かせるが随分と気に入ったみたいだな。
「おぉ、素晴らしい! ……なるほど土産か」
ジオティクスさんは手元の鈴を鳴らすと音もなく、執事さんが傍に控えた。
「何か御用でございますか?」
「うむ、一誠くんのご両親に城を用意――――」
「待ってください!? さすがに城を送られてもなんとも出来ませんから!!」
さすがに声を上げて止める。
家の改築は百歩くらい譲歩してもさすがに城を貰ってもどうしようもない。
ヴェネラナさんもやんわりとジオティクスさんを窘める。
「あなた、さすがに平民が城を持つのは不可能ですわ」
「そうか? うーむ、ならば他の贈り物」
「いいんです! 父さんたちへは自分が責任もってお土産買うんで!!」
イチ兄が焦ってそう言うが、このままだととんでもない物貰いそうで怖い。
これがセレブか、スケールが違いすぎる。
まぁ、これが清涼剤になったのか談笑しながら食べられるようになった。
ジオティクスさんたちは普段のリアス姉さんや眷属たち、あとはイチ兄のことが聞きたかっていたので代わる代わる話をした。
いつかお世話になるご両親だからイチ兄の魅力をたっぷりと俺が話していたが、ジオティクスさんもヴェネラナさんは嫌な顔もせずうんうんと頷いてくれた。
料理もそこそこにデザートも振る舞われ、お腹が膨れた時ミリキャスが俺の方を向いて話しかけてきた。
「あの、双葉さん……魔戒剣を見せてもらってもいいですか?」
「えっ? でも食事の席だしなぁ」
「私も見てみたいな。すまない、年甲斐もなく黄金騎士という名前にはワクワクしてしまうのだよ」
ジオティクスさんが恥ずかしそうに頬を綻ばせるが、ミリキャスの為ということはわかった。
断るのもなんなので、俺は席から立ち上がりミリキャスの傍まで行くと魔法衣に収納してあった栞から魔戒剣を引き抜く。
銀色の刀身がシャンデリアの光を反射して煌めく。
その様子をミリキャスは、同じくらい目を輝かせて見入っていた。
まぁ、この頃の子供は剣とか好きだろうし魔戒剣なんか見る機会はそんなないんだろうな。
ジオティクスさんとかも興味深そうに見ているので、ミリキャスのためだけではなく、本当に興味があったみたいだ……ふむ、ここはサービスもしとくか。
「ミリキャス、牙狼見てみたいか?」
「見せてくれるんですか!!?」
ぱぁっと花が咲くように笑うミリキャスを微笑ましく思っていると、ジオティクスさんが目配せで頷いてくれる。
動くのは無理だが、これだけの広いダイニングルームだ。召還するだけならなんとも出来る。
俺はミリキャスから離れ、ザルバの口に剣を置くと研ぐように引く。
『牙狼は見世物じゃないぞ? 双葉』
「子供の夢守るのも魔戒騎士の務めだろ?」
そして剣を掲げると円を描き、一気に振り下ろす。
俺の体に黄金の鎧が装着され、ダイニングルームを照らす。
ジオティクスさんは感慨深そうな顔でこちらを見ていた……前回の大戦で見たんだろうな。すいません、まだこの鎧不完全なんですよ。
チラリとミリキャスを見ると、年頃の子供のようにはしゃぎながら俺を、いや牙狼を見て――――ッ!?
「双葉ッ!?」
グラリと体が揺れ、俺は膝を付くと鎧が強制的に離れた。
リアス姉さんが席から立ち上がってこちらに駆け寄るが、俺はそれを手で止める……あぁくそ、疲れてたのかな? 魔力をもっと体に回さないと。
「双葉くん大丈夫かね!?」
「す、すいません。ちょっと疲れが出たみたいです……ごめんなミリキャス、折角の機会だったのに」
「いいんです、それよりも双葉さんは休んでください!」
あぁもうこんな子にすら気を使われるって俺はカッコ悪いなぁ。
その後、ジオティクスさんがつけてくれたメイドさんと心配だったのか着いて来たアーシアに支えられながら俺は与えられた客室に向かった。
ベッドに倒れこむと同時に、とんでもない疲労を感じながら俺の瞼はすぐに落ち、そのまま眠りについた。
****
「双葉、もう少し休んでたら……」
「お昼過ぎまで爆睡してたんで大丈夫ですよ」
次の日、まさか昼過ぎになるまで起きなかった俺はリアス姉さんたちに連れられて、魔王領、サーゼクスさんが治めている領地まで行くことになった。
皆が俺の体調を不安視するがもう大丈夫、体だって悪いところ無いし眠りすぎて眠いだけだと俺が言うが万が一の時はしっかり言うことと師匠が傍に付くことを条件にここまで来ていた。
長距離ジャンプ用の魔法陣を使って、さらに三時間ほど列車に揺られてたどり着いたのは近代的な都市だ。
「ここは魔王領の都市ルシファード。旧魔王ルシファー様がおられたと言われる冥界の旧首都なんだ」
師匠が教えてくれるが、列車から見えた景色を見るからに人間界よりも発展してるのかもしれない。車じゃなくて皆が翼とか使って飛びながら移動してたよ、すごい光景だったわ……俺も飛行魔法覚えるかなぁ。
駅のホームから出るかと思ったが、混乱を避けるために地下鉄を使うらしい。
理由としてはリアス姉さんの知名度だろう。
「きゃあああああああ!! リアス姫さまよ!!」
ホームから悪魔と思しき人達から歓声を受けるリアス姉さんを見ると納得する。
そりゃ地上なんて出た日にゃ、囲まれて身動きが取れんわな。というかまだ増えてない? 情報が漏れてなんかアイドルの握手会のような雰囲気だ。
なんか誇らしいというか姉さんと言い始めたせいか、リアス姉さんが身内みたいな感じに思えてきて……本当に、イチ兄と一緒になってほしいと思う。こんないい人は中々いないし、リアス姉さんもイチ兄にベタぼれだしな。
行く前にジオティクスさんたちとも軽く話したが、本当に婿に迎えるつもりだと言われた時は少し泣いた。うぅ、イチ兄がウチの出世頭になるとは思わなかったわ。弟として誇らしい。
「双葉くん、体調の方は?」
「ばっちしです、なんなら今から組み手しますか?」
心配そうにこちらを見る師匠にそんな軽口を言うが、師匠の顔は明るくならない。
う、うーん? 寝ていた時にグレモリー家のかかりつけ医に見てもらったらしいがかなり疲労溜まってると言われただけだし、それに魔力流せば疲労なんてポンと無くなる。
リアス姉さんはにこやかに手を振っていたが、小声で傍についていた黒服の男性に聞いた。
「専用列車は用意してるのよね? すぐに行きましょう、このままじゃ混乱が起きてしまうわ」
「すぐにでも発車出来ます」
俺達の周りにはグレモリー家とこの駅で合流した護衛役の人たちが取り囲んでいる。
ようやく起きたザルバから言われたのは、相当強いらしいがそりゃそうか。
ボディガードが弱かったら話にならないし、リアス姉さんに何かあればことだ。俺も周りを策敵してるが……うわぁ、いるわいるわ武器とか密かに術式用意してる阿呆。
ボディガードさんたちに報告して、駅にいる警備員たちに確保してもらっているが策敵してから頭痛がする……最近、ほんとどうしたんだ俺の体は。
「行きましょうか」
リアス姉さんがカツカツと歩き出すと俺はコートを翻してそれに続いた。
****
地下鉄を経由しておおよそ五分、ようやく目的の建物に着いた俺たちは一息つく。
今日、ここに来たのはリアス姉さんを含めた若手悪魔たちの会合をするためらしい。俺は悪魔じゃないじゃんと思うかもしれないが、向こうから招待してきたとリアス姉さんから言われたので着いて来た。
地下から建物に上がるエレベーター前で、リアス姉さんは俺達に向けて口を開いた。
「皆、確認するわよ。何があっても平常心を保つこと、決して手を出さないこと。これから会うのは将来のライバルたちよ、無様な姿は見せられないわ。あと双葉、絶対に無茶はしないで。ただでさえ体調悪いんだから」
「いや、俺どんだけ喧嘩早い奴なんですか」
と俺が言うが皆が遠い目をしていた。
ひでぇ!! まぁ、反論できないけど!!
「マスターの猪突猛進は私を超えるからな」
「お前に言われとうはなかった!!」
ゼノヴィアの冗談に皆が笑うと、気を引き締めた顔でエレベーターに入った。
イチ兄やアーシアが何度もつばを飲み込んでいるが仕方ないわな。俺は気楽なもんだが、イチ兄たちの態度は全部リアス姉さんの評価に響くからな。
暫く乗っているとエレベーターが止まり、広いホールに出る。
すると使用人らしき人が、会釈をしながら挨拶をした。
「ようこそ、グレモリーさま、そして黄金騎士さま。こちらへどうぞ」
使用人の人に続いて通路を通っていると何やら扉の前で難しい顔をしながら睨みつけている人がいたが、リアス姉さんの顔を見るとすぐに表情を変えて、軽く手を上げる。
「サイラオーグ!」
「久しぶりだなリアス」
黒髪の短髪で雰囲気的にアザゼルおじさんみたいな野性的なイケメンな感じがする。
てか、この人凄い鍛え上げられてる体をしている。
本気で鍛え上げた人ってのは体にそれなりに出るものだ。背筋はしっかりとしているし、拳なんかはまるでイチ兄のように鍛えている。珍しいな、悪魔は肉弾戦をあまりしないと聞いたがこの人の体の鍛え方はプロレスラーのような感じだ。
にこやかに握手するサイオラーグさんでいいのか? その人の笑顔が何故かサーゼクスさんと被った。
「変わりはないようね。初めての者もいるから紹介させてもらうわ。彼はサイラオーグ・バアル。私の母方の従兄弟に当たる人よ」
あぁ、なるほどな! 道理でヴェネラナさんに似た表情をしてると思ったが、そりゃ似てるわ。それよりもヴェネラナさん嫁いできたのか……というかバアルって言いましたかね?
「俺の名前はサイラオーグ・バアル。バアル家の次期当主だ……よろしくな、黄金騎士」
お、おぉう!? 俺に手を差し出してきた!? てかここに来てから黄金騎士、黄金騎士言われまくってすげー緊張してきた!
と、とりあえず手を出して握手――――ッ!?
「ほう、良い鍛え方をしている。人間だから貧弱かと思ったが中々」
「ええ、そちらも。驚きましたそこまで自分の体を鍛えあげる悪魔はそうはいないでしょうに」
ガッチリと握手しているが、咄嗟に魔力で強化しなかったら右手が砕けてたかもしれない。……たく、とんだご挨拶だ。
まぁ、このくらいはジャブだろうからサイラオーグさんと手を離す。あっ、めっちゃジンジンするし、頭痛がさらに酷くなってきた。
「サイラオーグ、あんまりイジメないでくれるかしら? 彼は本調子じゃないの」
「そうだったのか、それは失礼した」
至ってまじめに頭を下げてくるので俺があたふたする。
あぁ、この人超がつくほど真面目な人だ! さっきのも牽制かと思ったらマジで力試しなのかよ、なんか勘ぐってたこっちがアホらしくなる。
「にしてもサイラオーグ、どうしたの? ここは通路なのに」
「あぁ、くだらないので時間を潰してたところだ」
「くだらない? 他のメンバーは中にいるんでしょ?」
「アガレスとアスタロトがいるな。だが中にいるゼファードルが問題だ」
何かあったのか? というよりも先に建物を揺らすほど轟音と振動がコチラまで来た。
リアス姉さんは厳しい目線かと思ったのだが、頭を抱えながらこうなるのを予想してたように顔を歪ませる。
サイラオーグさんの眷属たちと中に入ると、俺達は眉を細めた。
ボロボロの部屋では豪華であっただろう装飾品や椅子、テーブルが全て破壊されていた。
そしてその中央では、それをやったであろう二人が睨み合っていた。
それどころか、二人の後ろでは眷属らしき悪魔たちが武器や魔力のオーラを構えていた。
「ゼファードル、こんなところで戦いたいの? 馬鹿なの? 死ぬの? むしろ殺してあげるわ」
「言ってろ! せっかく個室で女にしてやろうと思ってんのによぉ! そんなだからその歳まで処女してんだろうが。ったく俺が貫通式してやろうと気を利かせてやってんのに」
……回れ右をしてスタスタと俺は開かれた扉から帰ろうとするが、サイラオーグさんに止められる。
「気持ちはわかる、だが見過ごすのか?」
「喧嘩程度で介入するほど俺はお人好しじゃありませんし、ここには話し合いのために来たはずです……ガキの喧嘩をする場所なら帰ります」
俺の声が聞こえていたのか、いがみ合っている二人がコチラを見る。
あっ、聞こえてた? まぁ、聞こえるように言ったんだけどさ……こちとら体調悪いから機嫌悪いんだよ。なんかヤンキーっぽいのは頭がキンキンするしさ。
「あなた、その魔法衣は……そうか、あなたが今代の牙狼」
「牙狼? あぁ、お伽話だろ? つうかてめえ、さっきの言葉はどういう意味だ、あぁん!?」
メガネを掛けた女性が俺に畏怖の目で見てくるが、ヤンキーの方は俺に詰め寄ってくる。
あぁ、もうリアス姉さんから言われたことを早速破ってるし……あとで叱られるか。
俺が一歩出ようとした時に、サイオラーグさんが手で止める。
「焚き付けた俺が言うのもなんだが、お前が出て行く問題ではなかろう。むしろ客人にここまで言われておきながら止めないこの二人の争いは確かにガキの喧嘩だ」
「あぁん!? サイラオーグ、てめえ良い度胸してんじゃねえか!!」
こちらにガンを飛ばすヤンキーが鬱陶しくなってくる。
サイラオーグさんはこちらの表情を見て、苦笑する。
「今代の牙狼というのがどういう人物かわかった。気に入った……だからこそアガレス家の姫シーグヴァイラ、グラシャラボラス家の凶児ゼファードル。これ以上やるなら俺が相手になろう。最期通行であり、コレ以後は俺はこの拳を振るうことを止めはしないぞ」
ビリビリと感じるサイラオーグさんのオーラに気圧されそうになるが、なんとかまっすぐに立つ。……さっきイチ兄とそっくりと言ったがそのとおりだ。
オーラの質がイチ兄に似て真っ直ぐなんだ、この人は。
「なんだと!? このバアル家の無能――――」
勝負にすらならなかった。
地面を軽く蹴ったサイラオーグさんの体が消え、次の瞬間には激しい打撃音と一緒にヤンキーが壁に叩きこまれていた。
……か、軽く動いてこれかよ!? レベルが違いすぎる、この人だけ明らかに実力が違う! 申し訳ないがリアス姉さんが戦っても勝てるビジョンが思い浮かばない。
「サイラオーグ、彼は若手ナンバーワンと名高い実力者よ。そしてイッセー、貴方のように自分の体を武器にしている悪魔なの」
イチ兄が尊敬の眼差しでサイラオーグさんを見る。
あの一撃に惚れ込まない奴はいないだろうな。現に、メガネの悪魔さんの眷属や師匠などがサイラオーグさんのことを畏怖するように見ていた。
対してヤンキーの眷属たちはサイオラーグさんに食ってかかろうとする。
「この野郎!!」
「バアル家め!!」
「まずは介抱をしろ、眷属としてまずすべきなのはそれだ。これから大事な会合があるからな、気絶したままでは進行出来ん」
悔しそうにサイラオーグさんを睨むが、一理あるのか壁にめり込んだまま動かないヤンキーの元に走り寄っていった。
……死んでないよね? まぁ、俺が食らったら一発でノックアウトだと思う。
サイラオーグさんはメガネの悪魔さんをじろりと見る。その視線に気圧されたのか、メガネさんは表情を強張らせる。
「化粧直しをしてこい。どうせこの広場を修復するのは時間がかかるからな……スタッフ、申し訳ないが修復作業を急いでくれ」
サイラオーグさんの言葉にホッとしたのか、スタッフの人たちが大広間に入ってきて修復作業に入る。
強い、それだけでなくこの人は上に立つべき風格とその心を持っている。
大きい背中だ……だがイチ兄にはいい目標が出来たかもしれない。
将来的にイチ兄が目指すべき姿はこの人だ。真っ直ぐな拳に、そのオーラと立ち振舞い……同世代にこんな人がいるとは世界は広いなぁ。
「おっ、双葉……って何があった!?」
名前を呼ばれて振り向くと、あんぐりと口を開けて驚いていた匙先輩やソーナ先輩たちが見えた。
****
「私はシーグヴァイラ・アガレス。大公、アガレス家の次期当主です。」
お化粧直しをしてきたメガネさんから挨拶される。
今は修復されたテーブルを囲み、若手悪魔たちが挨拶を行っていた。
「ごきげんよう、私はリアス・グレモリー。グレモリー家の次期当主です」
「私はソーナ・シトリー。シトリー家の次期当主です」
基本的に主たちが席に座り、その後ろに眷属たちが控えるという風だが、俺は六人が座るテーブルにお邪魔させてもらっていた。
黄金騎士だからという理由らしいが気が引けるわ。俺、眷属なんて持ってないしな。
「俺はサイラオーグ・バアル。大王、バアル家の次期当主だ」
「僕はディオドラ・アスタロト。アスタロト家の次期当主です。皆さん、よろしく」
サイオラーグさんは威風堂々という形で挨拶するが、ディオドラと名乗った悪魔だけ……なんか違和感があった。
こうなんだろうな? 笑顔をしてるんだけど張り付かせた笑みというか、以前エクスカリバーの事件の際、師匠がよくしていた心のない笑みに見えるし、眷属たちが全員ローブ姿なのも気になる。
ヤンキーは机に足を投げ出し、挨拶しようとしないので一気に俺に視線が集まる。
はぁ、と小さくため息を付いて頭を下げる。
「今代の黄金騎士、兵藤双葉です。人間ですがよろしくお願いします」
「ハッ! なんだよ人間かよ、弱っちいのに粋がってるんじゃねえよ!」
ヤンキーの言葉に俺の目が細まる。
……エクスカリバーで斬っていいですかね、対悪魔戦の俺の切り札だしサイオラーグさんから受けた拳のダメージも残っているだろう。
俺の雰囲気を察したのか、サイオラーグさんが助け舟を出してくれる。
「やめておけ、また受けたいのか?」
「ッ!? ……ケッ!!」
一瞬だけヤンキーの目に恐怖の色が見えたが、ありゃダメだな……あのまま戦えばいつかまたサイオラーグさんみたいな人に潰される。
あぁいう攻撃的な恰好する奴はどこかしら心に弱さを持ってるもんだ。俺の今の牙狼みたいにな。
俺が挨拶するとメガネさんは興味深そうに見てくるが……ディオドラの視線が一番気にかかる。
俺を見てない、何故かイチ兄の後ろに隠れるアーシアを見ていた。
それも妙にねちっこく――――と観察していると扉が開かれ、俺達を案内してくれた使用人の人が入ってきた。
「皆さま、大変長らくお待ちいただきました。――――魔王さま方がお待ちです」
****
案内されたのは異様な雰囲気の場所、いや視線が集まる場所だった。
かなり高い場所におそらく高齢の悪魔たちであろう老人たちが座り、その上にサーゼクスさんとセラフォルーさんが座っている。……後の二人は見たこと無いが、多分残りの魔王さまなのかね? ベルゼブブとアスモデウスの名を冠した人たちのだろう。濃密な魔力がここからでも感じ取れる。
俺たちは各次期当主を戦闘に横一列に並ぶが、俺だけ脇にそれるように言われた。
一応客人扱いなんだっけ? まぁ、上から感じる視線は客人つうか動物園でパンダでも見るような視線だがな。うざったいので各人の眷属たちを見ながら暇を潰していると上にいる初老の男性悪魔が口を開く。
「よく集まってくれた、次世代を担う若き悪魔たちよ。この会合は一定周期で行うが、これから切磋琢磨するライバルたちの顔を覚えていて欲しい」
「早速やってくれたようだがな」
皮肉げに言う髭をたっぷりの悪魔がそう言うとヤンキーが苦い顔をする。
なんつうか……近所の子供たちに愚痴言う老人みたいに思えるな、多分そんなレベルじゃないんだが身近なものに例えるとこうだと思う。
「君たちは家柄的にも、そして実力も申し分ない次世代の星だ。だからこそ、レーティングゲームへデビューする前に互いに競い合い、力を高めてもらおうと思う」
優しげな表情で言うサーゼクスさんの言葉に皆が聞き入る。
おぉ、すげえやっぱカリスマが違うよ。にしてもデビュー前に対戦でもさせるのか、そういえばここにいる間、何かすると聞いたがそれか。
「我々もいずれは『禍の団』との戦いに投入されるのでしょうか?」
サイオラーグさんの言葉に、少しどよめきが生まれる。
すげえ率直な意見だけどサイオラーグさんなら、ヴァーリクラスの敵でも戦えると思う。間違いなく、この場の若手の中で一番強いのは彼だ。
するとサーゼクスさんは首を振りながら答える。
「私個人としては君たちを参加させるのはあまり賛成してはいない」
「何故ですか? 若いとはいえ、我々の中では既に『禍の団』との戦闘し生き残ったものも――――」
「サイラオーグ。キミの勇気は認めよう。しかし、それは無謀であるし、キミたちにもしもがあれば我々は悔やんでも悔やみきれない。それだけキミたちの成長は冥界にとって宝であり、希望でもあるんだ」
サーゼクスさんの言い分は最もだろう。
『禍の団』との戦いは熾烈だ。前回の襲撃では奇跡的に死傷がこちら側に出ていなかったが、下手をすればトップの誰かが殺されていたかもしれない。
オーフィスの蛇だったか? それでパワーアップされて敵が魔王級になればさすがに死傷者なしに戦うのは辛いだろう。万が一この中の誰かが死ねば、そのままお家断絶なんて自体になりかねない。
特にアガレス家やバアル家は痛手だろうし、ただでさえ純粋な悪魔がいない今の御時世で若い純粋な悪魔というのはそれだけで貴重なんだろう。
サイラオーグさんは渋々といったふうに了承すると口を閉ざした。
そこからは長かった、もう学校の校長の話が可愛く思えるほどに長い話が続いた。
単純に言えばいいのに回りくねって訳のわからなくなっているのはどうにかならないものだろうか。うっつらうっつらとしてくるが、魔力を流して強引に起きている。
そして一時間ほどだろうか、サーゼクスさんが締めにかかる。
「さて、長話に付きあわせてもらって申し訳ない。特に黄金騎士殿は関係ないのに呼んだのに静聴していただいて感謝する」
ペコリと頭を下げるサーゼクスさんに習って、俺も軽くおじぎをする。
まぁ、いる意味はなかったがこのままシトリー家に向かうつもりだったんだ。ソーナ先輩たちと合流出来たのは行幸だ。
「では最後に君たちの目標を教えてもらいたい」
サーゼクスさんがそう言うと、各主同士が目標を言った。
サイラオーグさんは「魔王になる」とのこと、なんでもバアル家から魔王が出るのは前代未聞らしいが、サイラオーグさんは主張を曲げずに言い切った。
次にリアス姉さんだが「レーティングゲームの各大会で優勝すること」らしい。リアス姉さんらしい目標だ。暇さえあれば、レーティングゲームの映像見せてくるし、ライザーに勝てたという経験がリアス姉さんに自信をもたらしたらしい。
その後は諸事情でカットするが、最後のソーナ先輩の目標で問題は起きた。
「冥界にレーティングゲームの学校を建てることです」
ソーナ先輩の言葉に俺は思い当たることがあった。
確か休憩中にチェスをしていた時だ。最近ソーナ先輩にチェスの相手を頼まれるが……ソーナ先輩の指し方がえげつないのよな、こちとら初心者なのに容赦ねえもん。
おっとそれは余談だったな。確か五十連敗をした時にポツリと「学校を建てますか」なんて漏らしたのだ。この事だったんだな。
そう感心しているとお偉方、特に魔王さま以外の悪魔たちが眉をひそめていた。
「レーティングゲームを学ぶ学校ならば既にあるが?」
「いえ、そこは上級悪魔や特権階級の悪魔たちが学ぶ場所です。私が建てたいのは下級悪魔、転生悪魔が分け隔てなく学べる学校です」
……嫌な予感がした。
ソーナ先輩の言い分は立派だ、それは認めるがここにいる悪魔たちのことを考えれば――――。
『ハハハハハハッ!!』
予想通りの嘲笑がお偉方の口から出る。
当たり前といえば当たり前だ。サーゼクスさんやソーナ先輩、リアス姉さんを見ていると忘れる。本来の悪魔はこういう奴らのことを言うんだ。
ライザーがいい例だろう。あいつは差別主義者だったがそれは別に悪魔にとってはふつうのコトだ。身分、血、名誉、それらを重要視する悪魔たちにとっては下々のものに学ぶ場所を与えるという行為は奇異なものにしか見えないのだろう。
頭では分かっている、だが俺の頭は怒りでいっぱいだったが堪える。
ここでは俺は黄金騎士だ、ソーナ先輩に味方する訳にはいかない。味方をすればあの糞野郎どもは俺をネタにさらにソーナ先輩を笑うだろう。
「なるほど、若いというのはいいですな!」
「夢見る乙女というわけか、これは傑作だ」
我慢だ、我慢しろ……石になれ、俺は石像だ。
今、一番悔しいのはソーナ先輩なんだ。その人が唇を噛み締め、手を握りしめ堪えているのを邪魔したらいけない。
「デビュー前の顔合わせでよかったものだ。シトリーの名が泣く」
「そうですな、ハハハッ!」
「私はッ、本気です」
はっきりとした声で顔をまっすぐ見据えるソーナ先輩の表情に、老人たちが一瞬気圧されるが、セラフォルーさんはウンウンと頷きながら、俺に目配せで「援護しろ」と言ってくる。
無茶言うなや、あんたが無理ならこの場にいる全員が無理です! というか俺の立場も理解してください!!
「ソーナ・シトリー殿。下級悪魔、転生悪魔は上級悪魔に才能を見いだされるのが常。いくら変革の時期とはいえそれは変わらない事実だ。それにたかが下級や転生悪魔に教えるなど無駄ですな」
冷酷に言い放った一言に先に切れたのは、匙先輩だった。
「黙って聞いていれば、会長……ソーナ様の夢はそんなにおかしいことっスか!? おかしいですよ!! 叶えられないって決められたわけじゃないのに――――グッ!?」
俺は踏み込んで、匙先輩の腹部を軽く打つ。
ダメだ、これ以上は匙先輩の将来にも響く。
「ふん、黄金騎士に助けられたな転生悪魔の若者よ。ソーナ殿、下僕のしつけがなっていませんぞ?」
「申し訳ありません。後で言い聞かせます」
「会長ッ!! 双葉も納得できるのかよ!! こんなの、こんなの酷すぎるッ!!」
匙先輩の体を抑えながら、俺は歯を食いしばって耐える。
匙先輩が爆発してくれてよかった。匙先輩が言わなければ俺が食って掛かってたからだ、最悪牙狼使ってでも撤回させるつもりだったからな。
だがそんな事すればソーナ先輩に嫌われるだろう。それでもいいさ。だって、夢を語るのは子供の特権じゃないか、それを笑う大人に理不尽を感じないわけじゃない。
「全く、所詮は人間か……」
「オイ、ジジィ今なんつった」
プツンと俺のギリギリに張り詰めた線がブチ切れた。
リアス姉さんたちが頭を抱えるが、もう止まらないというか止まってやるもんか。
全身から魔力を吹き出させ、俺は一歩ずつ歩を進める。
「じ、ジジィとは……口の聞き方が――――」
「子供の夢を笑う大人よかマシだろ。……黙って聞いてるつもりだったが気が変わった。たかが人間? ふざけるなよ? 人間を舐めるな」
一歩ずつ踏みしめる度、建物が軋む。
頭痛がし始めるが構うもんか、こいつらには一回言ってやらなきゃ気がすまない。
「誰だって夢を持っている。その夢を叶えるものだっているし叶えられないやつだっている……けれどソーナ先輩たちはまだ歩き始めたばかりだ。てめえら老人には無理かもしれねえけどな、ソーナ先輩には若さっていう武器がある」
「い、威嚇するつもりかッ!? 魔戒騎士は中立を保つはずだ」
「俺が纏う鎧、牙狼の旧冥界語の意味を言ってみろ」
俺の魔力に怯え始めたのか、脂汗を垂らしながら俺を化物もののような瞳で見始める老人たちに内心失望する。所詮は利権にしがみつく腐った奴らか、歯ごたえもないし、これならプライド捨てて戦ったライザーのほうが百倍マシだ。
俺の言葉を引き継ぐようにセラフォルーさんが叫ぶ。
「『希望』だったわね!」
「そうです……俺は未熟な騎士だ。鎧だってまだ完全じゃない、だけど俺は誰かの希望を背負って戦う魔戒騎士だ!! 俺の目の前で誰かの希望を笑うと言うのならば笑えッ!! 俺が、いや黄金騎士牙狼としてその全てと戦ってやるよッ!!」
コートの裏地に手を突っ込んで、魔戒剣を勢い良く床に突き刺し威嚇する。
魔力が最高潮に高まった時、パチンとサーゼクスさんが指を鳴らして俺に微笑む……おそらく手打ちにしてくれという意味なのだろう。
しかしその予想は大きく覆される。
「黄金騎士殿、剣を収めてもらいたい。皆さま方もそこまでにしましょう。ソーナ・シトリー殿、ならばこうしましょう。自分の意見を突き通したいのなら結果を出せばいい、若手同士のゲームをしよう」
ポカンと俺は怒りを四散させてサーゼクスさんを見るとウィンクしてきた。
ち、畜生!! やられたぁああああ!! 俺が暴走するのも織り込み済みでサーゼクスさん話考えていたな!? というかセラフォルーさん以外の魔王さまがやれやれと言ったふうに肩をすくめているし間違いねえ!! 一杯食わされた!!
「リアス、ソーナ、戦ってみなさい。結果を出したいのだろう?」
ファッ!? と驚くがこれもぜってぇ仕込んでるよ!! 最初からやらせるつもりだったよ!! サーゼクスさんは次々と組み合わせを発表するが、うわぁあああああ恥ずかしい。
俺あんだけ啖呵切ったし、匙先輩殴っちゃったし……穴があったら入りたい、とりあえず壊した床修復しよう。
「まさか公式ではないとはいえ、初めてが貴方とは運命を感じますね、リアス」
「私もよ、ソーナ」
二人が優雅に笑い合っているが、それ仕込みですよー!! サーゼクスさんがギリギリ私事と業務をすりあわせた結果ですよー、後でグレイフィアさんに問い詰めてもらおう。
まぁ、ソーナ先輩が元気出てよかったよ。冷笑を浮かべるソーナ先輩の顔は先ほどの悔しさを感じない。
「リアスちゃんとソーナちゃんの試合。うーん☆ これは燃えるかも!」
「では対戦の日取りは人間界での8月20日。詳細は後日送信する」
そう締めくくったサーゼクスさんの言葉を皮切りに会談は終わった。
とんでもない戦いになりそうだ。
でも長くなるのでここは割愛。
ミリキャスくんは例の漏れず、黄金騎士好き好きですがぶっちゃけおっぱいドラゴンに惹かれますね、なんだかんだ赤と紅ですので。
さて次回からシトリー家……だが、ソーナの家族の情報あったっけ? なので完全オリジナル。