夏休みスタート
夏休み、それは学生にとってはいろいろな意味がある。
曰く、童貞を捨てるための期間。
曰く、ヒャッハー! 合法的に深夜まで遊べるぜ!!
曰く、修行期間。
まぁ、なんかおかしいがこんなもんだろうか?
いつもどおりアーシアと寝ていた俺だが、ここで問題が発生した。
朱乃先輩と小猫も一緒に寝たいと言ってきたのだ……そりゃ、アーシアも俺もリアス先輩も(朱乃先輩に関して)猛反対。
夏休み初日にてそれが勃発し、改築された家が早速揺れた。
最終的に全員で寝ることになったが、キス以上はしないこと、特に朱乃先輩は俺を過度に誘惑しないこと、あと何かあったらリアス先輩が仲裁するという条件になった……最近思うのだが、リアス先輩は過保護すぎないか? イチ兄と一緒にいるから精神までイチ兄に。
そうそう改築された俺の部屋だがベッドがめっちゃ大きくなっている。ダブルベッドどころか四人で寝ようが余裕有り余るベッド、最新型のテレビに各種ゲーム機(実はこれサーゼクスさんからのプレゼントだったりする)、本棚には欲しかった漫画全巻とこんなにしてもらっていいのか!? と思ったが、アザゼルおじさん曰く『お前らの褒美だから気にすんな』とのこと。
曲がりながりにテロを防いだ俺達は各勢力から感謝状やらプレゼントが贈られた。この家も各勢力から選りすぐった建築家が殴り合いの喧嘩しながら作ったらしい。
さて、それはどうでもいいんだが……さっきから下腹部が気になる。
もぞもぞと動いていて、段々と俺の胸の上に……この感じは、間違いなくあの人だろうな。
「おはよう、双葉くん」
「……おはようございます」
胸の上にいるのは朱乃先輩だ。
冷静でいるように見えるだろ? んなわけあるかぼけええええええええ!! 柔らかいんだよ! 大きいんだよ!! 暴れん坊なんだよぉおおおおおお!!
朱乃先輩は浴衣が寝間着らしいのだが、今は夏。エアコンを軽く入れているとはいえ、薄い生地のせいで体の感覚がダイレクトに伝わる。
ちなみにアーシアが普通のパジャマ、小猫は猫のキグルミのようなパジャマで可愛い。特に小猫は娘でも出来たような感覚になる。それ言ったら訓練の際、容赦なく猫又モードで殴られたが。
俺の首筋まで来ると動きを止めて、こちらに猫のように擦り寄る朱乃先輩の頭を撫でる。
体が大きくなったせいで違和感があるが、これ昔朱乃ちゃ……朱乃先輩と昼寝をしてた時にやってたことだ。
確かに最初は驚いたが、朱乃先輩との記憶が徐々に蘇っているので「そういえば昔からスキンシップ多かったな」と思っている。
こうやって胸にすり寄るのも、朱乃先輩がよくやってたことだが……ポニーテールではなく髪を下ろした黒髪からいい匂いがする。おかしいな、シャンプーとか同じのはずなのにアーシアも小猫も匂いが全然違うんだわ。やっぱ、女の子ってフシギ◯ネ。
「……反応が薄い」
「そりゃ、昔からやってたから……はうぁ!?」
俺の反応が面白くなかったのか、朱乃先輩が首筋にキスしてくる。
そのまま首筋から胸まで何回もキスされるが……やめてええええええ!! 夏休みだけどいいけどキスマーク毎回残すのやめてえええ!!
く、くそっ、こっちもキスしたいのに我慢してるんだぞ!! しまいにゃ襲うぞこのやろう!! と思うが実際には手が出せないヘタレが俺だ。おとなしく朱乃先輩に体を預けると脚や手を絡ませてくる。
「やりすぎ! やりすぎだから!!」
「あら、嫌だった? でも双葉くんってホントいい体してるわよね、筋肉がしっかりとしてるし、抱き合ってると魔力が混ざり合ったり……あと、に、匂いとか」
えっ? 匂います? 俺の体?
おかしいな。出来る限りムダ毛とか排除して、毎日二十分かけて石鹸で洗ってるんだが……イチ兄と一緒にファッション雑誌買ってたり、匙先輩に聞いたりしてるのに。特に師匠なんか羨ましいよ、あの人ムダ毛処理してないらしいのにあんな整った顔立ちだしぐぎぎぎ……悔しいのう。
「……双葉」
あっ、ヤバイ、呼び捨てヤバイ。
大抵朱乃先輩が、俺を呼び捨てにすると甘えん坊モードになる。朱乃ちゃん……朱乃先輩はお姉さまの顔も持ってるが、昔から甘えん坊だったし、俺が帰ろうとしてグズったりしたので両親に連絡……いや? あれ? アザゼルおじさんだっけ? イカン、どうも記憶が混濁してるなぁ。
まぁ、ともかくこの時の朱乃先輩はお姉さまの顔を剥ぎとって、俺に甘えるのだ。アーシアが涙目になるのだが、アーシアよりも手がかかるんだよなぁ、この時の朱乃先輩って。
とりあえず抱きしめたり、頭を撫でたり……たまにおでこにキスしたりする。
いや、待って、これだけは言わせて? おでこも妥協したんですよ? 本当は口だったしね? おでこでも恥ずかしいんだけど。
というか傍から見たら俺らバカップルじゃねえの? いや、付き合う気は……でもなぁ、朱乃先輩と俺とじゃ寿命の差があるし……老いた姿を朱乃先輩やアーシアたちに見られたくない。
……高校卒業したら旅に出ようかな。実はミカエルさんとかサーゼクスさんに、人間界の秩序を守るために魔戒騎士の長にならないか? とか言われてんだよね。人間の魔戒騎士って数少ないけどいるらしい。でも鎧を召還出来るのは俺だけ、割りと俺がポンポンやってるが普通は十年以上修行してようやく会得するらしい。
でも冥界だと魔戒騎士の育成機関があったりするらしいので見てみたいもんだ。
「ふふふ、隣でアーシアちゃんが寝てるのに……このまま時間が止まってしまえばいいのに、なぁんちゃって」
「……そうですね」
時間が止まればいいのに、か。
ほんとだよ……時間が止まれば俺だってさ。
そう考えていると右腕にしがみついていたアーシアが目を覚ます。
「ふ、ふあぁ……おはようございます」
「おはようアーシア。ほら、朱乃先輩もそろそろ」
「……先輩、か。うん、わかったわ」
何やら暗い顔をしながら朱乃先輩は素直に俺の上から退く。
リアス先輩にこってり絞られたからな、それに朱乃先輩自身もアーシアのことが好きだからあまり泣かせたくないらしい。
寝ぼけ眼を擦りながら、俺に寄ってくるアーシアの頭を撫でる。
うむ、これも慣れたもんだ……たまにこれでアーシアが二度目の眠りにつくが。
「双葉さん……」
「うん、おはよう。……さぁて、猫も起こすか」
ため息を付きながら、俺の頭の脇で丸くなって寝ている小猫の体を持ち上げる。
マジで猫みたいに寝るが、小猫自身ここが一番落ち着くらしい。たまに俺の顔に乗ったりしてるが、昨日なんか息できなくなって目を覚ましたけどさ。
そして小猫だが、朝がめっちゃ弱い。さらに起こそうとするとパンチやキックが飛んでくる。
じゃあどうするか? うん、まずは部屋から出るじゃろ? ムダに広い廊下を歩いているとイチ兄の部屋からリアス先輩とゼノヴィアが言い争う声が聴こえる。
「だめよ! イッセーの初めては私なの!!」
「私は子供が欲しいだけだ……そ、それに部長は毎日寝ているんだろう!? 私だって、その、イッセーと」
「ッ!! イッセー!!」
平和だなーと思いながら通り過ぎる。
ゼノヴィアだが、時折顔を赤くしながらイチ兄を見るようになったんだが、本格的にイチ兄に惚れたらしい。それとなく聞くとヴァーリとの戦闘の時の戦いと、自分のためにミカエルさんに直談判してくれたのがトドメになったらしい。
「結婚したらマスターの姉になるのか……それはいいな!」とかほざいていたので、ぐうの音も出ないくらいに訓練の際叩きのめしましたともええ。頭はいいんだがなぁ、ゼノヴィア……ミカエルさん経由でメル友になったイリナ曰く「周りが何もしないとするけど、デキる子がいると途端に怠けるのよ」らしい。
というか皆、俺にメール送るのはやめて欲しい。ロゼさんとか毎日メールしてくるし、セラフォルーさんとか近々冥界で魔法少女を題材にしたもので何か取るとかソーナ先輩とはどうなのとか言うのやめてくれませんかね。
あんたら魔王とか長でしょうがぁああああああああ!! あぁ、ミカエルさんくらいなもんだよ、マジで業務連絡とかちゃんとしてくれるのは。
――――ふむ、私もしましょうか。
「やめろぉ!!」
天からそんな声が聞こえ頭を抱える。
やめてください、皆して俺いじめて楽しいか!! 楽しんだろうな、こんちくしょう!! サーゼクスさんだって「女性に囲まれての生活はどうだい?」とか言ってくるんだよぉおおおおおおおお!! うわぁああああああん!! もうやだおうちかえる……ここだったわ。
とりあえず落ち着いて、エレベーターのスイッチを押して地下一階へと向かう。
すごいよね、この家、エレベーター付きで地下地上合わせて9階建てだってよ、さらに屋上もあるよ……なんなんですかね、この豪邸は。
さて、地下一階に降りたわけだがまだ寝てやがるよ小猫。おぶってるんだが、俺のシャツを握りしめてる。
そして俺が来たのは地下一階に出来た大浴場、ちなみに男と女で分かれてたりする。
とりあえず男の方に入り、小猫を抱きかかえる形で持ち帰る……にしても軽いなぁ、もっと飯食えと思うがバクバク食うのよな。リアス先輩によると、猫又の力を封印してた弊害って話だがこれから大きくなったりするんだろうか?
まぁ、それはいいか……浴場の扉を開けると二十四時間湧き出る温泉が。ちなみに源泉に転移術式をくっつけて汲み取ってるらしい。
さて、小猫よ……起きないお前が悪いんやで。
俺は小猫の体をブラブラと揺らしてから、放り投げた。
「みゃぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!???」
絶叫が朝に響いた。
****
「いやぁ、にしてもリアスちゃんには感謝しきれないよ。まさかこんな豪邸にリフォームしてくれるなんて」
父さんが上機嫌に朝食を食べているが……俺はちょっと気まずい。
いや、記憶が戻っただけじゃなくて父さんたちは俺が魔戒騎士だと知っていたんじゃないかって不安もあるんだ。
記憶が戻れ、戻れと思っていたがいざ戻ったらこのザマだ。
両親に感謝してないわけがない。見ず知らずの子供をここまで育ててくれたんだ、尊敬もしているし、正直本物の両親とさえ思っている。
だけど頭の片隅に、ここにいちゃいけないって言ってる自分がいる。
……まぁ、そうだろうな。父さんと母さんは普通の人間だ、万が一ゴタゴタに巻き込まれたらと思うと正直、怖い。
ただでさえ俺はあの日、あの日に――――。
「どうしたの、双葉? ご飯美味しくない?」
「えっ? いや、ちょっと考え事をさ」
「そう? 最近あなた変よ? なんだか……こう、他人行儀みたいで」
ッ!? と俺は驚くが苦笑しながら何でもないと言ってご飯をかき込む。
美味い、いつもどおり美味いんだが母さんに言われた一言がぐるぐると頭をめぐる。
他人行儀か、そうだ……俺は他人なんだ。本当は兵藤双葉じゃなくて、冴島双牙という他人。
イチ兄は弟と言ってくれるが、俺は本当はここにいちゃいけない人間なんだ。
ご飯をかきこむと俺は席を立ち上がった。
「もういいの? 最近おかわりしなくなったわね」
「その……えっと、ダイエット?」
馬鹿言うんじゃないわよと笑う母さんに引きつった笑みを見せながら、俺は外に出てくると言ってそのまま玄関へと走り去る。
ダメだ、やっぱ俺はここにいちゃいけないんだ……そう思うとなぜだか涙が止まらなかった。
**一誠視点**
「……イッセー、あの子最近どうしたの? 何かに巻き込まれたりとか」
「多分、色いろあるんだよ。ほら双葉って反抗期もなかったしさ、最近生徒会も忙しかったから」
俺の言い訳が苦しいのは分かってるが、それだけ聞くと母さんは台所に戻る。
最近、双葉の様子がおかしいのは重々承知しているが誰も口出しできる問題じゃない。
いや、最初は部長も心配してたが双葉はのらりくらりと逃げてしまい、一旦落ち着かせたほうがいいという結論に至った。
母さんたちは反抗期ということで納得できるが、理由を知っている俺達からしたら、双葉の気持ちもわからなくもない。
だって、今までずっと家族だと思ってた人たちが実は血が繋がっていない他人だと知ったら俺だって普通でいられない。むしろ双葉はよくやってると思う。
アイツは人間なんだ。先代の牙狼の息子だとか、アザゼル先生と仲良くしてたりなんかトップの人たちと仲良くしてるけど、中身は一人ぼっちが嫌な子供なんだ。
知らず知らずのうちにアイツもストレスが溜まっているのかもしれないな。思えばアイツの個人でいる時間なんて殆ど無い。
生徒会をしてからはほぼ俺達と一緒の時間に帰ってきてるし、真面目だから勉強はしっかりしている……恐ろしいことにアイツ、学年一位なんだよな。眠りの天才とか言われてるけど、それは双葉がしっかり勉強してるからだって皆知らない。
「大丈夫でしょうか? 双葉さんは」
心配そうに見るアーシアを見ると怒りが湧いてくる。
あの馬鹿、ホント周りを見ないよな……こんな子がいるんだから少しは落ち着けって言いたいもんだ。
「……まぁ、あの子もそういう歳なんだろうな」
父さんが感慨深い顔で双葉が走っていった先を見ていた。
……気づいてるのかもしれない。双葉の記憶が戻ったてことに。
なんだかんだ、父さんは家族のことをよく見ているし、双葉をアザゼル先生から授かったのも父さんだって先生から聞いた。
いつか、俺と双葉が兄弟で無くなる日が来るんだろうか?
想像してなかったとは言えないけど、俺の胸の奥が痛む……双葉、なぁ俺はお前に悩みを打ち明けてもらえないほど情けない兄貴か?
一人で抱え込むなって皆に言ってるくせにお前が一番抱え込んでどうするんだ、馬鹿。
**双葉視点**
いつもの山でこもって一通りの訓練を終えて家に帰ると、皆自室に帰っていた。
そりゃそうだよね……ため息を付きながら、大浴場を目指す途中で珍しい顔にあった。
「ん? よぉ、双葉」
「アザゼルおじさん? なんでここに?」
「少し話をな……そうだな、十年ぶりに風呂でも入るか」
そう言って、おじさんが俺と肩を並べてふいに記憶が蘇った。
――――おじさんみたいにね! 僕おっきくなるんだ!
――――そうかそうか、ならおっきくなったら色々教えてやるからなぁ。
……あれから大きくなったもんだ。
あの頃は見上げてた背が今じゃほとんど同等だ。
とりあえずおじさんと風呂に入るが、さすがに恥ずかしいのでタオルで腰の魔戒剣を隠す。
珍しくザルバも外さずにつけてきたが、さすがにシャンプーとかは外させてもらう。
シャワーを浴びる時は無言でいたが突然、アザゼルおじさんがこちらに近づいてきた。
「久しぶりに背中流してやるよ……つっても覚えてないか」
「……うん」
ぎこちなく答えるとおじさんが背中を流してくれた。
……なんとなく懐かしい気分になるのは体が覚えているのだろうか?
次は俺かと思ったがアザゼルおじさんは風呂に向かってしまったので、俺もついていき入る。
暖かいお湯が体に染み渡り揃って「あぁ~」と声を出す。
「おっさんかよ、お前」
「うるさいよ、おじさんはおじいちゃんどころの歳じゃないのに」
『オイ、双葉手を下ろすな。俺が溺れる』
ザルバの言葉に揃って笑うが、すぐにお互い言葉に詰まる。
おじさんは俺のことを覚えているが、俺は断片しか覚えていないので気まずいのだ。下手なことは言えないし、そもそも一組織のトップと俺がこんな親密のはマズイんじゃないかと思う。いや、でもサーゼクスさんやミカエルさんたちとメル友な時点で。
最初に言葉を発したのはおじさんだった。
「イッセーから聞いたが……お前、最近ここのご両親とうまく言ってないんだってな」
「……余計なことを、って言えないよな」
はぁ、さすがイチ兄だわ。
俺のことをよく見てる。
アザゼルおじさんは俺の顔をじっと見るながらしゃべる。
「本当はな、俺が引き取ろうか迷ったんだよ。だけどな、お前の本当の親はな、お前を戦わせたくなかったんだ。だから俺が引き取るわけには行かなかった、俺といたら否応なしにこっちに来ちまう。結局は俺の不手際でお前はこっち側に来たんだがな」
「……迷ったりするけど俺は自分のしたことを後悔したことはないよ」
俺がやってきたワガママは何度だって俺を苦しめたり、悩ませたりした、今だってそうだ。またウジウジと悩んでるけど、一度だってあの時、牙狼剣を抜いたことを後悔したりしていない。
それを聞くとザルバが笑う。
『最初の頃は牙狼は嫌だとか言ってたのにな』
「そりゃそうだろ、あの頃はただの一般人だったし」
「お前、ただの一般人とか言ってるけどな人間の括りからはみ出てることを理解しろよ? ったく、そういうところは父親似なんだな」
……父親似、か。
親のことはすっぽりと抜けているし、覚えていることは最期くらいなもんだ。
血まみれで倒れた父さんと俺を庇って死んだ母さん、酷い記憶しかない。
だから聞いてみたくなったんだ。
「俺の両親ってどんな人たちだったんですか?」
「……お前の母さんは気が強かったよ。記憶が戻っても知らないと思うけど、お前の父さんにプロポーズしたんだぜ? あの時はぶったまげたよ」
「見てたの!?」
おじさんは遠い目をしたまま、俺の頭を撫でる。
「戦場のど真ん中、というか牙狼が金色を解き放ったあと瀕死のお前の親父をぶん殴ってキスしやがったのよ。そりゃ全員びっくりというかあの聖書の神が唖然としてたのは最高だったぜ」
「何してんだよぉ……」
途端に恥ずかしくなってくる。
親の馴れ初めとか聞いてみると恥ずかしいって聞くが、俺のは最大級だろ……あれ? もしかしてミカエルさんたちが優しいのはそういうのを見たから!?
「そんあと全部放り投げて二人で逃避行までしやがったからな。お前の両親は神話に残るな」
「んなもんのせんなぁああああああああああっ!!」
肩で息をしながら叫ぶ。
やめろよぉ! うちの両親の馴れ初めが神話とかマジ勘弁、あっ、おじさんの? おっぱい揉んで堕天したと一生刻まれてろバカヤロー!!
おじさんは一通り笑うと真面目な顔をしながら俺に言う。
「双葉……お前は兵藤双葉であると決めたんだろう? ならそれを貫き通せ、お前の今のご両親はお前が魔戒騎士なんかで態度を改めるほど殊勝なたまじゃねえよ」
「……どうして、そう言えるんですか?」
「どうしてか? それはお前が一番良く知ってるんだろ? ――――あの人達はお前の両親だからだ」
……両親、おじさんはあの人達のことを両親だと言ったのか?
アザゼルおじさんは風呂を上がると振り向かずに俺に言った。
「俺はお前を預けて大丈夫だと確信したからこそ、あの人達にお前を授けたんだ……話してみろよ、お前の悩みを、そして甘えろ。お前は父親と母親の悪い点も受け継いじまってる、一人で悩むってことだ。周りを見ろ、お前を心配してる奴らは沢山いる」
それだけ言うとおじさんは歩いて行ってしまった。
残ったのは俺とザルバのみ。
俺は湯船に浸かりながら、ザルバに話しかけた。
「なぁ、ザルバ……俺は」
『どうしたらいいかなんて聞くな。双葉、お前は悩み過ぎなんだよ、兄貴みたいにもう少し単純に考えろ。考えるのはいい、だが背負うな……その分、お前の剣は鈍るぞ』
……悩みすぎか。
仕方ないじゃないか、俺は、俺は黄金騎士の――――。
『悩むのが人間の利点でもあり、欠点だ。だが悩め、俺は着いて行ってやるよ、今代の牙狼がどこまで行くかをな』
それを言ったきり、ザルバは口を閉じた。
……どうすればいいんだろうな、俺は。
だがそのつぶやきは壁に反射して消えた。
****
「えっ? 冥界に?」
「そうよ」
お風呂に入って少し吹っ切れた俺は、自室に戻ると待っていたとばかりにリアス先輩が入ってきて夏休みの予定について話をされた。
なんでも里帰りをするんだとかで、眷属の皆で帰るらしい。
ふーんと俺はソファに座りながら聞いていると、リアス先輩は額に手を当てながらやれやれと言ったふうに俺に言う。
「あなたも行くのよ、ちなみにソーナたちも一緒」
「えっ!? なんで!?」
「なんでって、ソーナから聞いてないの?」
……記憶を探ってみるとそういえばソーナ先輩が、真っ赤な顔をして「い、一緒に……あぁ、もう! サジ! サジ来なさい!」って言ってたような? その後結局、はぐれが出て俺が忙しくなっちゃってなーなーに。
「……ソーナって意外に抜けてるのね」
「意外というか、俺がいるとしょっちゅうミスしてますよ?」
そのせいで俺だけ別室作業とかよくある。
しかし、他の生徒会メンバーがニヤニヤしながら見てるのはなんでだ?
リアス先輩が頭を抱え始めるがど、どうしたんだ!?
「この兄弟は……まぁ、知らない相手にソーナを任せるよりも良いかもしれないわね」
「?」
「……はぁ、話を戻すけど8月の20日過ぎまで向こうで過ごすわ。冥界の行事や修業も向こうで行うわ」
ため息をつかれたが俺は悪くねえ! と言っておく。
どうやら既にスケジュールは組まれていたらしいが……まぁ、夏休みすることもないのでずっと修行してようかと思ってたからちょうどいいか。
枯れた生活してんなぁと自分でも思うが、できるだけ強くならないとな。
あと逃げたい、最近黒猫が俺の周りに多いのは気のせいじゃないんだろう。ポストに大量の手紙が入ってた時は腰抜かしたもんだ……クロさんや、別の男にしてくれませんかね。
「あなたは特に激務ね。私の家にソーナの家、その後魔戒騎士の本拠地、『番犬所』に顔出しして修業と……息をつく暇もないわね」
『ほう、番犬所か』
「……oh、俺の夏休み」
宿題は既に片付けたので問題はないが息をつく暇すらないなぁ。
番犬所ってのは確かロゼさんとかの魔戒騎士の本拠地だっけな? どんな場所なんだろ、楽しみだがそこから修業だろうしな。
にしてもソーナ先輩の家ってどういうこと!?
「どうやらセラフォルーさまが随分、あなたをご両親に話したそうよ。それでね……さすがに私も断るわけにもいかずに」
「セラフォルーさんに殺されませんかね、俺」
ただでさえ学校で消し飛ばされかけた俺だよ? 殺すために呼んだんじゃないんですかねと言うとリアス先輩が苦笑しながらコメントを差し控えた。そこは何かいってくださいよぉおおおおっ!!
「まぁ、大丈夫よ。それよりも双葉、あなたは大丈夫なの?」
「……大丈夫と言いたいんですけどね」
大丈夫じゃないですと言わない俺に、リアス先輩はため息をつく。
「あなたの悪い癖よ。皆心配してるし、私たちはあなたに相談できないほど信用されてない?」
「そんなことは……無い、です」
アザゼルおじさんと同じことを言われ、歯切れを悪く言う俺に呆れたのかと思ったが、リアス先輩は頭に手を回し俺の体を抱きしめた。
優しい感じがして安心する。
「あなたは眷属じゃないわ。けれど、あなたはもう私にとっては大事な人よ。何かあったら何でも言ってちょうだい」
「リアス先輩……」
「その先輩っていうのを抜かしましょうか。リアスか、お姉ちゃんってつけて?」
柔らかな胸の抱擁から抜けだした俺に、リアス先輩はいたずらっこのように笑っていた。
お、お姉ちゃんって……う、うーむ、でもリアス先輩は将来的に俺の姉さんになるわけだし、言ったほうがいいのかな? いやでもお姉ちゃんはないわな。ギャー助ならありだろうが、俺が言うにはちょっと。
……妥協するか。
「え、えっとリアス……リアス姉さん……」
小さな声でそう言うが恥ずかしいッ!! すげえ恥ずかしいぞこれ!?
だがリアス先輩は……いやリアス姉さんはなんか感極まったように目とかをプルプルさせて俺をさらに抱きしめてきた。
「あぁ、いいわ!! 私ずっと弟が欲しかったの!」
「ちょ!? 姉さんきつい! 首がしまってあばっばばっばばっばば」
この後、ドタバタしてるのに気づいたアーシアがコチラを見に来て、なんとか正気に戻ってくれたが夜中、サーゼクスさんから「じゃあ私のことは兄さんと呼んでくれよ?」とメールが来たのでふて寝した。
◯番犬所
牙狼名物「黒幕製造所」。この作品では魔戒騎士の本拠地的な扱いだが、常駐している騎士は引退した数人とロゼのみ。残りは好き勝手に行動しているので名目的な場所である。
なお精神的に双葉はくっそ追いつめられてる模様、ストレス溜まってるってはっきりわかんだね。