「ッ!! 思った通り敵のど真ん中か!」
『双葉』を栞から出した俺は部室を占領している連中を睨みつける。
まさか直接転移してくるとは思っていなかったのか、魔術師の連中はザワつく。
「双葉さん、イッセー先輩! 部長!」
「……ごめんなさい、何も出来ませんでした」
ギャー助たちの声がした方を向くと、魔法陣に縛られているギャー助と……なんで逆さまに捕まってんの? 小猫は?
まぁ、無事でよかったよ。しゃーない、小猫だけで守り切れる人数じゃなかったし、お前たちに何かあればリアス先輩がブチギレてたからもしれんからな。
「もう遅いわ。私達の計画は最終段階に向かっている、見てご覧なさい」
リーダー格らしい女性が校庭を指差すと、とんでもない力と力がぶつかっている。
一つはアザゼル、もう一つは……誰だ? あの褐色のネーチャンは?
「まさか……カテレア・レヴィアタン!? そんな、旧魔王派の彼女が何故ここに!?」
旧魔王!? あぁ、そういえばリアス先輩に座学されたっけな。
死んだ前魔王たちの一族がかなりの強硬派で、新魔王樹立する前に最後まで徹底抗戦を訴えてたって……なるほどな。
そりゃ今回の事件はそいつらにとっちゃ不愉快だろうな。だがかなり大きい組織にバックアップ受けてるな、さすがにこの規模の魔術師動かすにはそれなりの組織がバックにいなきゃ無理だ。
「彼女たち旧魔王派が手引したのよ、今回の事件は。フフッ、彼女の言う通りね。グレモリー一族は情愛という無駄な感情に支配された無能な一族だと」
……その一言に怒らなかったのは小猫とギャー助を人質に取られていたからだろう。
落ち着け、落ち着け、部室はなるべく綺麗にしておきたい。さすがにぶった切って凄惨な現場にしたくはないな。
「ぶ、部長。僕を殺してください! ……ぼ、僕さえ死ねば今の状況は打破できます! この眼のせいで僕は迷惑だけしかかけられない。……ごめんなさい、双葉さん。僕は結局、未熟で、迷惑かけて、臆病者です」
「ギャスパー、それは違うわ! 私はあなたを絶対に見捨てない! 転生した時にあなたに言ったはずよ! 生まれ変わったら私のために生き、自分の満足できる生き方を見つけなさいって!」
「駄目です。僕は駄目だったんです……迷惑かけたって生きる意味は――――」
「あるに決まってんだろ!!」
俺は叫んでいた。
ふざけるな、ふざけるなよ!? ギャスパー!!
「ふざけんな!! 誰だって生きてりゃ迷惑かけるんだよ! 確かにお前は今まで疎んじられたよ、けどな! リアス先輩や俺達はお前を絶対に見捨てたりするもんかッ!!」
「アハハハハ!! 面白いわね。黄金騎士……あなた分かってるの? こんな危険なハーフヴァンパイア見たことないわ。神器もさることながらその潜在能力は眼を見張るものがある。けれど全然使いこなせてないじゃない」
魔術師の女は俺たちを侮蔑的な表情で見て、ギャスパーの髪の毛を掴んでいた。
「こんな危険物、洗脳して堕天使かどこかの施設に放り込めばよかったのに。そうすれば幹部の一人や二人を倒してリアス・グレモリーの評価を上げられたのにね!! ばっかじゃないの? お友達ごっこがを悪魔がしてるんじゃないわよ!!」
「うわぁっ!?」
「ぎゃ、ギャスパー!! お前らいい加減に――――」
怒りのあまりイチ兄が飛び出しそうになるが、それをリアス先輩は手で静止させる。
だが、止めていないもう片方の手を握りしめながら、堪えるようにつぶやく。
「私は、自分の下僕は大切にするわ。その子は道具なんかじゃないっ!」
魔術師の女が小さな魔力弾をリアス先輩に向けて発射するが、俺はそれを片手で掴むと握りつぶす。
怒りでどうにかなりそうだが、魔術師の女は俺を睨みつける。
「魔道に堕ちた黄金騎士が! あなたの役目は守ることでしょう! なら今の現状を黙って見過ごすの!? あの三大勢力が手を結ぼうとしているのをただ見ているなんて!」
「……ならお前らは正しいのか? 三大勢力が和平を結ぼうとしている場所でテロを起こして、あまつさえギャスパーを道具と罵ったお前ら畜生を守るほど、俺の目は腐っちゃいない!」
全身から怒りがこみ上げてくる。
せっかくうまくいきそうだったんだ。多少の思想の違いはあれど、三大勢力が手を取ろうとしたその瞬間、横槍を入れてきた。よりにもよって俺達の仲間を使ってッ!!
こいつらを畜生と呼ばずにどうする!! 人間の汚らしい面はバルパーで見たと思ったが、こいつらも似たようなものだ!
「ギャスパー、双葉を見て。私を見て。イッセーを見て。誰もあなたを見捨てようとは思ってはいないわ。迷惑なんてかけていいの、ずっとずっと私にかけてちょうだい! 何度でも叱ってあげるわ! 慰めても上げる! だから――――だから死ぬなんて言わないで、私のかわいい
「ぶ、部長!」
ブワッとギャスパーとイチ兄の目から涙が溢れる。
というか俺も泣きそうだよ。
そんなときだ、ザルバが口を開いた。
『人間ってのは愚かなもんだ……確かに黄金騎士は過去に何度も人間を救うために戦った。だがそれは人を守るためじゃない、希望を、明日へと続くバトンを守るために戦い続けたんだ。人間だろうが、悪魔だろうが、天使だろうが、堕天使だろうが救う、それが魔戒騎士の使命だ』
「黙れ! 黙れ黙れ!! あなた達もそうなの!? 人道的という胸糞悪い言葉で研究を台無しにする! あなたたちは悪魔でしょう!? 欲深い日陰者なんでしょ!? 私達と何が違うッ!」
「違うだろうが、お前たちのやってることは間違っている。ただそれだけの話だ」
魔術師の女が怒りに身を任せて、手に魔力を集中させる。
そして大きく振りかぶるとギャスパーにめがけて振り下ろすが……その腕が宙に高く舞う。
何故かって? 俺が踏み込んで『双葉』で切ったからに決まってんだろ。
「腕がぁああああああ!?」
「腕だけでピーチクパーチク言ってんじゃねえよ」
手加減もせずに斬られた腕を抑えていた女の腹部を蹴り飛ばす。
……あとで掃除しないとな、と思いながら俺は小猫とギャー助を縛っている魔法陣を『双葉』で強引に切り裂いた。
落ちる二人を回収するとすぐに後方に下がって、リアス先輩たちの元へと戻る。
「ふ、双葉さん……」
「何も言うな、あとは任せとけ。小猫、行けるか?」
小猫は頷くと耳と尻尾を生やしながら、床に立って構える。
しかし相対する魔術師達は怯えきっていた。……まぁ、計画通りだろうな。
さっき蹴り飛ばした相手は死んではいないが虫の息だろうしな。魔術師って言うもんだから、朱乃先輩並みを想定してたが買いかぶりすぎたらしい。
双葉を肩に担いで、俺は魔術師たちを睨みつけると奴らは一歩下がる。
そんな時だった、ギャー助が俺の腕から離れて、イチ兄の傍に駆け寄る。
「イッセー先輩……僕に、先輩の血をください!」
「ギャスパー!? でも、お前生き血は駄目だって」
「確かに! 今も怖いです……でも、僕、僕はリアス・グレモリーの眷属なんです! 僕だってやれるところを皆に見てもらいたいんです!」
震えながらそう言うギャー助を、リアス先輩は優しく撫でた後、試すような笑みを浮かべながらイチ兄に話す。
「イッセー、アスカロンで手を少し斬って頂戴!」
「分かりました! ギャスパー、お前が立つってんなら俺は支えるぞ! 血が欲しいなら幾らでもやる! だから逃げるな! 泣くな! 怯えんな! お前の後ろにはいつも俺たちがいる! 自信持てよ! お前だって付いてんだろ!」
「ギャーくん、私も自分の中にある力が怖かった。けど、逃げないで、ここにいる人たちはきっとギャーくんを受け止めてくれる……だから頑張って!」
恐怖に駆られた魔術師たちが次々と魔力弾を発射するが、空気読めっての。
俺は障壁を張ってそれらを全て弾き飛ばす。
なんだよ、これ……十人くらいで撃って本気の朱乃先輩にすら届かないのかよ。障壁破りたかったらこの十倍は持って来い!! 具体的に言うと鎧つけた状態のライザーの火球並みの火力をな!
イチ兄は神器から飛び出たアスカロンの刃で自分の手のひらを斬ると、ギャスパーの口へ運んだ。
ギャスパーは一度躊躇する素振りを見せるが、垂れてきた一滴の血を飲む。
すると部屋の雰囲気がガラリと変わり、ギャスパーの目が妖しく光、姿を消した。
「ど、どこへ!?」
「上だ! 奴め! コウモリに変化したのか!!」
いつの間にか部室の天上に無数のコウモリが飛んでいた。
コウモリたちは目を赤く輝かせ、一斉に魔術師たちへ襲いかかる。
魔術師たちも魔力弾で反撃するが、多勢に無勢というよりも体に纏わり付いたコウモリが血を吸うと新たなコウモリが生まれ、ねずみ算式に増えていく。
わーお、こりゃえげつねえ。
「血を!?」
「魔力もだ!! くそっ、こうなればあいつらを狙え!!」
魔術師たちが苦し紛れにこちらへ魔力弾を飛ばすが、全てが空中で静止した。
「無駄です。今の僕ならそのくらいなら全て停めます!」
俺たちは息を呑む。
血を飲んでここまでになるとはリアス先輩も想像してなかったんじゃなかろうか?
俺も驚いているが、そういえばバレーボールで神器の練習してたのが活きたな、こりゃ。イチ兄の血があれば本当にやれるんだな、お前は。
「今です! イッセー先輩!」
「おう!! 見てろよ、双葉コレが俺の必殺の――――」
ギャスパーの瞳が魔術師たちを映し出すと動きが止まった。
そしてイチ兄は停まった魔術師たち……全員女性なんだが、そいつらのおっぱいやら尻などを触っていき、部屋の中央でカッコいいポーズを決めながら叫んだ。
「洋 服 崩 壊 ッ!!」
次の瞬間、魔術師たちのローブやら下着やらが全て破壊され、裸体が俺達の前に曝け出される。
……思った以上にえげつねえぞ!? この技!? マジかよ、このローブ恐らくは魔術的に強化されているしそれなりに耐性がついてる一品だろうに、問答無用で破壊かよ。
イチ兄、女性相手なら負けないんじゃないか? いや羞恥心が無ければ……あぁ、でもそうなると別の技を思いつきそうで、透視能力とコレで迷ったんだっけ? 結局はこれにしたがイチ兄気づいてないだけでこれ相当やばい技だぞ?
応用すりゃ結界はろうが障壁はろうが、イチ兄が服だと判断したものを吹き飛ばす最強のガードブレイク技になるしな。
でも同じ魔法を使う俺からすりゃ泣きたい。俺、強化とかそこら辺のちゃんとしたの使ってるのにどうしてこうなったんだ。
「見ろ! 双葉、やっぱりギャスパーと俺が組めば最k――――なっしゅぶりっじす!?」
「やり過ぎだ!!!」
「い、いや、腕斬り落としてそのままにしている双葉もある意味……あぁ、なんでこの兄弟はこう極端なの」
リアス先輩がため息を付きながら、俺達を小突いた。
****
「にしてもこいつらなんなんですかね」
「おそらくは魔術師の組織か何かなんでしょうけど、旧魔王派が使っているのが気になるし、いくらなんでも兵力の無駄よ。代わりは掃いて捨てるほどいるんでしょうけど、手口からして……内通者がいたんでしょうね」
転がした魔術師たちに縄で縛っている時、俺達に衝撃が走る。
な、内通者!? まさか、あの中にいるのか!?
リアス先輩は思案顔で首を振る。
「幾らなんでもタイミングが良すぎるわ。まるで図ったかのように襲ってきた。ギャスパーの能力のこともそうだけど、念のため校舎にはダミーをいくつも作っていたのよ? それなのにこちらの場所を正確に知っていた」
「……限りなく黒ですね」
あの中で一番裏切りそうって言われたら、アザゼルだろうか? いややらねえな、アイツは一番ふざけてるが戦争にはなんの興味もないのは本当だろう。
本気で戦争したいなら、わざわざ悪魔の本拠地である駒王学園にまでコカビエルを回収に来ないだろう。さらに白龍皇なんていう過剰戦力のおまけ付きでな。
ミカエルさんも……うん、一番ないな。んなことするたまかね? それにそんな悪行を働けば堕ちる、つまりは堕天する。バレないようにしているという可能性も無きにしもあらずだが、そしたら俺人間不信になる。
サーゼクスさんとセラフォルーさんは……心情的にやだな。どちらもお世話になっている先輩の兄と姉であるし、魔王である以前、プライベートであんなにはっちゃける人たちが裏切りなんて……いや、感情的になりすぎたか、可能性はないとも言えない。
本来、利己的であるのが悪魔だ。リアス先輩たちを見てると忘れるがな。
まぁ、俺が頭捻ってもこの状況だ……尻尾は出すさ。
「あの、イッセー先輩、手が」
「気にすんなっての。このくらいかすり傷さ! 昔、堕天使に風穴開けられたことあるし」
えぇっ!? と驚くギャー助を笑うが、当時は笑い事じゃなかったなぁ。
あとイチ兄、リアス先輩がすげー微妙な顔してるからかすり傷言わないように、それドラゴンスレイヤーだからヘタしたら大ダメージ受けるぞ。
ギャー助はコロコロ笑いながら、イチ兄と話している……うんうん、さすがイチ兄だな。年下の扱いには慣れっこだな。
「双葉、一応治療はしましたが」
「死んだら死んだで」
てくてくと歩いてくる小猫に冷たく俺は吐き捨てる。
悪いが俺は優しい騎士になれないよアルトリアさん、ご先祖様……大事なものが侮辱されたら俺はひどく冷たくなる。
自分でもあそこまで躊躇なく人間斬れるとは思わなかったわ。人を切るのは初めてなんだがな。
『いい薬になったんだろうよ。誰だって逆鱗ってのがある、どれだけ心を鍛えたって揺れない心なんてものはない。そんなものがあるならそれはもう心じゃない』
「慰めてんのか?」
『気をつけろという話だ。お前さんは沸点が低い、いつかそれで足元を掬われるぞ』
言われんでもわかってるが……校庭の様子を伺うが、まだロゼさんもアザゼルも戦ってるな。
剣が打ち合う音が響いてるよ。
さすが魔戒騎士の長だな。周りを巻き込まないように学園の端っこで戦ってる。
そんなときだ、ドガァアアアアアアン!! という音を立てながら何かが近くに落ちた。
「くそっ! 小猫、ギャー助はここでリアス先輩を守ってろ! 俺とイチ兄で見てくる!!」
「いいえ、私も行くわ! それにあなたを先行させたらどんな無茶するかわかったもんじゃないわ」
「そうです、双葉は人間なんです。双葉こそここで待っててください」
……うぅ、信用度ねえなぁ俺。
とりあえず皆で窓から飛び降り、玄関前に着地すると土煙が晴れ倒れている人物が見えた。
「アザゼル!?」
「よぉ、双葉。……悪いな、またウチのせいだ」
何と聞くまでもなかった。
頭上を見上げると先ほどまでアザゼルと戦っていたか、か……面倒くさい、褐色でいいか。
褐色とヴァーリが飛んでいる。
つまりだ、内通者っていうのは。
「お前かよ、何してんですかアザゼルさんよ」
「俺も焼きが回ったもんだ。ヴァーリ、俺はお前に言ったはずだ。『強くなれ』とだがそれと同時に『世界を滅ぼす要因にはなるな』と……いや、無駄だったか。出会った頃からお前の心には強さへの渇望があったな」
「そこまでわかっておきながら、白龍皇に好きにさせるとは……年を取りましたねアザゼル。親子ごっこで心が鈍りましたか?」
褐色が侮蔑するようにアザゼルを見るが、アザゼルは肩をすくめながら俺を見る。
「というわけだ」
「わけだ、じゃねえよ……はぁ、マジかよ」
頭を抱えたくなるが、ヴァーリと褐色から噴き出るオーラは明らかにコカビエル以上だ。
いや、褐色のほうが微妙におかしいか? なんか力は凄いんだが俺みたいに持て余している感じがするし……あの背後に見える蛇はなんだ?
「黄金騎士、私を見惚れているんですか?」
「ちげーよ……お前、その蛇はなんだ?」
褐色の顔が驚愕に包まれる。
アザゼルも驚いているが、他の皆は首を傾げている。えっ? 見えないの?
「お前、オーフィスの蛇が見えるってのか!?」
『オーフィスか、懐かしい名前だ……だが奴が他人に力を分け与えるとはな』
ん? ドライグ知ってるのか?
そう思っているとアザゼルが立ち上がり、埃を落としながらつぶやく。
「オーフィス。リアス・グレモリーなら聞いたことがあるだろう?」
「最強のドラゴンにして、神すら恐れた神を超えた存在……『
「力の象徴として我が組織のトップにいます。彼が与えてくれる力、これだけで幾らでも反乱分子が集まります」
……とんでもない奴が敵だってのはわかったし、なるほどな。
あの蛇はオーフィスって野郎が与えてるってわけだ。ウロボロスでピンときたな、確かにあれは大蛇かもしくはドラゴンで描かれていることがある。
そりゃぽんぽん兵力投入できるはずだ。力をちらつかせれば反乱分子たちがどんどんやってくる。そいつらを鉄砲玉にすりゃいいだけだしな。
「本来なら、そのハーフヴァンパイアの力を使っている内に三大勢力の誰かを殺せれば良かったのですが……思った以上にアザゼルが粘りましたからね」
「そりゃそうだ。先代のケツ追っかけて追い越そうもしない小娘と育ててきた奴に簡単にやられるほど俺は弱くはない」
褐色の眉が釣り上がる。
煽り耐性がないのか、それとも先代魔王を信奉しているからこその怒りなのかは俺にはわからない。
ヴァーリが笑い出す。
「あぁ、そうだな。けれどアザゼル、俺はずっと戦いたいんだ。戦ったって戦い続けて、俺はこの世界で最強になる」
「……ヴァーリ、お前は……いや、俺の教育不足だったな。また同じ過ちを繰り返しちまった」
苦虫潰したように顔をしかめるアザゼルは、まるで反抗期の息子を持った親父のような顔に見えた。彼らにもそれなりの情はあったんだろうな。
「しかし、今代の赤龍帝と黄金騎士……どうしますか? ヴァーリ」
「赤龍帝の方はどうでもいいかな? でも黄金騎士は面白そうだ、何かのキッカケさえあればコカビエルの時のような力を使うかもしれない」
イチ兄が俺の前に立ち、ヴァーリを睨みつけるがヴァーリはそれをつまらなさそうに見ていた。
「カテレアが俺とアザゼルのことを親子ごっこと揶揄したね……それなら赤龍帝、キミは兄弟ごっこをいつまで続ける気だ?」
兄弟ごっこ? 何を言っている?
俺は怪訝な顔をするが、イチ兄は叫ぶ。
「兄弟ごっこじゃない! 俺と双葉は本物の兄弟だ!」
「ふっ、知らないのか……いいや隠してるな? その顔を見ればわかる」
「おい、おい! ヴァーリ! まさかお前、俺の資料を読んだのか!?」
何故かアザゼルが焦ったような顔をしながらヴァーリに問い詰めるが、ヴァーリはニヤリと笑いながら俺に向く。
「あぁ、そうさ。完全に今回の手引する際のおまけだったけどね、でも駄目だろ、そこにいる兵藤双葉が本当は先代牙狼の息子であるなんて資料を出しっぱなしにしちゃ」
…………………………は?
俺の頭が真っ白になる。
俺が、俺が先代牙狼の息子? いや、待ってくれよ、そんなはずはない! 俺は、俺は兵藤双葉なんだ!!
「嘘、を言うなっ」
「君も薄々気づいてるんだろ? ただの人間に牙狼は扱えないし、ここ数ヶ月の急激な成長、そして君の失われた記憶……そもそもおかしいと思わなかったのかい? なんでアザゼルがコカビエルを捕縛するためにここに来たのか」
「違う、違うぞ! 双葉! アイツの言うことはでたらめだ!!」
アザゼルに言われるまでもない、そうでたらめなんだ、デタラメのハズさ。
でも、なんでか俺の頭が冷静に納得している!!
「名前を言えば思い出すかな? 冴島
**三人称視点**
「名前を言えば思い出すかな? 冴島
次の瞬間、双葉の体がパタリと倒れこむ。
「双葉ァ!! 白龍皇、お前ッ!!」
「兄貴ヅラするのは楽しかったかい? 赤龍帝。いいよ、気に入らないならやり合おうじゃないか……」
「やめとけ、赤龍帝! アイツは過去未来どの白龍皇よりも強いっ!」
アザゼルは双葉を抱きかかえながら叫ぶ。
その周りをリアスたちが囲み、双葉の名前を呼ぶが生気を失った彼の瞳に光が宿ることはない。
ヴァーリはそんな双葉の様子を見ながらつまらなさそうに言う。
「精神的なショック……いや、アザゼルがかけた封印のせいか? なんだつまらない、牙狼を見せてくれると思ったのに」
「てめぇ!! それよりもアザゼル……さん! どういうことなんだよ、アイツが強いってのは!」
「ッ……いいか? 神器ってのは人間にしか与えられない奇跡の産物だが、極稀に人外とのハーフにも受け継がれることがある。そこのハーフヴァンパイアの小僧のようにな!」
絞りだすような声で小さく叫ぶアザゼルは、双葉の体を話すとリアスに渡す。
アザゼルはカテレアとヴァーリを睨みつけるが、その顔は普段の彼から想像もつかないほど憤怒に包まれていた。
「アイツの本名はヴァーリ・ルシファー。あの魔王ルシファーのひ孫であり、正真正銘のルシファーの血を受け継ぐ者だよ。才能も折り紙つきのな!」
リアスはそれを聞いて、震えながら声を出す。
「そんな、まさかッ!?」
「そう、そのまさかが起きるのがこの世界だッ!!」
「アザゼルの憤怒なんて珍しいですね……しかし驚きましたね、あの黄金騎士の息子とは。彼は失踪する際に当時アザゼルの右腕だった女性と駆け落ちしたとも聞きましたが本当らしいですね」
もはや取り繕う気はないアザゼルは、光の槍を手に持つとカテレアめがけて発射する。
しかし、カテレアはその一撃を右腕で薙ぐだけで消滅させてしまう。
「無駄です。今の私は先代を超えています!」
「借り物の力で超えてるなんて片腹痛いぜ……まっ、今から俺がするのも変わりはないがな」
アザゼルは懐から一本の剣を取り出す。
それを見たヴァーリとカテレアの顔が驚愕に包まれる。
「ま、魔戒剣!? 馬鹿な。アザゼルが魔戒騎士なんて情報は聞いていません!」
「俺だってそうだ……隠していたのかアザゼル?」
「いいや? 俺は魔戒騎士じゃない。コイツはな、俺の趣味の産物さ。元々俺が神器マニアなのは知ってるんだろ? まぁ、作るもん作るもんは本物と比べたらクズに等しいがコイツだけは違う。俺が心血を注いで完成させたおそらく、神に届いた人工神器さ」
アザゼルの人工神器には、普通の魔戒剣には見られない紫色の宝玉を柄に埋め込んでいた。
カテレアは一歩引いた自分に怒りを覚え、それを打ち消すように叫んだ。
「世界を変革させるため、私はオーフィスに頼りました。しかし、あなたは私が必ず殺しましょう。その後はサーゼクスとミカエルです」
「ハッ、無茶言うな小娘。お前じゃサーゼクスに勝てねえよ、本当の実力も測れん奴が魔王になんかを目指すな。それに俺はともかく、あの二人は上に立つ者としてしっかりやってるぜ?」
「黙りなさい!! 私たちが世界を変えるのです、より良き悪魔の世界に!」
「……なんでお前らが辺境の地に追いやられたかよくわかったよ。考えなしの無謀野郎どものに付き合ってたら悪魔が滅びるのは目に見えていたな」
カテレアはその一言で頭の何かがキレる音がした。
「愚かな堕天使の総督よッ! あなただけは許さない!!」
「そりゃこっちのセリフだ。アイツの封印は父親と母親が最期に俺に頼んだこの事だったんだ。――――アイツに手出したことを後悔させてやる、
アザゼルは剣を地面に突き刺し、大地を裂くように目の前に円を描く。
すると宝玉から黄金のパーツが飛び出し、アザゼルの体に装着されていく。
そして勢い良く上空に飛び立つと十二枚の黒い羽を広げ、その姿を見せつける。
リアス達はその姿に一瞬見惚れる。
「ヴァーリの『白龍皇の光翼』や他のドラゴン系神器、そして魔戒騎士の魔戒剣を研究して作り上げた俺の傑作品、『
基本的なフォルムは一誠の禁手やヴァーリの禁手と似ているが、細部には牙狼を思わせるような装飾がされている。
極めつけはその手に持った剣だろう。牙狼剣そのままの形だが、刀身が鋼色ではなく黄金色に染め上がっている。
「凄い、凄いなアザゼル! やっぱりあんたに拾われてよかったよ」
「そいつはどーもと言いたいが、お前の相手は後だ」
「いいや! 俺がやりますよ! というかやらせてください!」
イッセーが前に出るが、ヴァーリは肩をすくめてカテレアの後ろに下がる。
相手をする気はないというアピールにイッセーは拳を固める。
「まずはお手並み拝見と行こうか……やれるだろう? カテレア」
「当然です。にしてもアザゼル、その宝玉、一体どんなドラゴンを封じ込めて作ったのですか」
「あっ? まぁ、冥土の土産だ。コイツには五代龍王の一匹『
カテレアも宙に浮かびながら、アザゼルに叫ぶ。
「それだけの力がありながらッ!! あなたという人は何故動こうとしない!!」
「年長者からの最期の教訓だ。力があってもな、動かしちゃいけないもんってのがある……お前だってあの戦いを見てきただろうに、なんでそれがわからないのかねえ」
「分かるものかっ! あの愚者達は戦うべき時に二の足を踏んだ臆病者たちだ! それとあなたの神器の研究がそこまで進んでいるとは聞いてない!」
アザゼルは剣を担ぎながら嘆息する。
「裏切った奴らに聞いたのか?
舌打ちをするカテレアだったが、体からオーラを出してアザゼルに突撃する。
アザゼルは剣を構えながら、小さく呟いた。
「――――レヴィアタンはお前らのことを死ぬ間際までずっと案じてたよ、馬鹿野郎どもが」
勝負はほんの一瞬だった。
二人が交差し、アザゼルが振り向き剣についた血を払うとカテレアの体が真っ二つに裂けた。
「ば、馬鹿な……オーフィスの力で……何故……」
「当たり前だ。俺はこの力を使いこなすために知り尽くしていたが、ただのドーピングしているお前さんが勝てるわけがないだろう?」
残酷な真実を言われ、カテレアの目には涙が見えた。
リアスはその顔を見ていられずに顔を背ける。そしてアザゼルは空中に無数の光の槍を出現させ無言で放った。
蜂の巣になるカテレアは断末魔すら上げる暇もなく、その体が霧散する。猛毒である光をなんの防御もなしに受けたためだ。
いくら力を底上げしようとも、アザゼルほどの人物の光の槍に対抗できるはずはない。
アザゼルの瞳は鎧で見えないが、同情するような視線が一瞬だけあった。
しかしその視線をすぐに変え、滞空しているヴァーリへと向ける。
「お前と遊んでやりたいが……それじゃ、気がすまないんだろ? 赤龍帝」
「……あぁっ」
リアスたちがイッセーを静止しようと声をかける。
「駄目よ! 明らかにあの力はあなたを凌駕している! むざむざ死に行くようなものよ!」
「そうです、それに双葉さんだって……イッセー先輩が傍にいてくれたほうが安心します」
「イッセー先輩、駄目です。憎しみで戦わないで」
「……ごめん皆、でも俺はアイツが許せないんだ」
イッセーは一瞬だけ双葉に視線を送ると歩き出す。
手にはブーステッド・ギアが現れていた。
その様子にヴァーリは笑いながら、挑発した。
「運命ってのは残酷なものだと思わないかい? 義理の弟は優秀なのに、その兄は平々凡々……嫉妬したりしなかったのかい?」
「ふざけるなっ! 俺はアイツの兄でい続けるってあの病室でアイツに会った時に決めたんだ! 嫉妬? 羨ましさ? んなもんあるに決まってんだろ!! でもな、双葉の兄として、俺はアイツを守る義務がある!」
全身からドラゴンのオーラを出しながらイッセーはヴァーリに向かって、拳をつきだした。
ヴァーリの目が光り輝き、今までかぶっていなかった頭部の鎧を装着する。
「いいオーラだ……だがまだ足りないな。そうだ、君も弟と同じ境遇になればいい」
「……どういうことだよ」
ヴァーリは楽しそうに口を開いた。
「君の両親を調べたがつまらなかったよ。どこにでもいる平凡な親、先祖にも異能と関わった事実もない。まぁ、アザゼルから黄金騎士の子供を預かったというのもあるけど、それを足しても足りない。……だから俺は考えついた、君の両親を俺が殺せば君のオーラはもっといいものになるんじゃないかって」
瞬間、イッセーの体からとてつもない怒りとドラゴンのオーラが噴き出し、周囲の木々や窓ガラスが折れたり割れたりする。
イッセーにとって両親は大事な存在だ。馬鹿をしても、エロい本が見つかろうとも決して両親はイッセーを疎んじることはなかった。呆れたり、怒ったりはするがそれでも双葉を含めて愛情を持って育てられてきたと自信を持って言える。
「どうせ老いて何も知らずに死んでいく者たちだ。なら、君の人生を彩るために死んでもらったほうが華やかだと思わないか?」
そう興奮しながら話すヴァーリに、イッセーはただ一言、ポツリと呟いた。
「殺すぞ、この野郎」
明確な殺意というのをイッセーは初めて自覚した。
自分を馬鹿にするのはいい、だが両親を、今まで愛情を持って育ててくれた親を殺すと言われて我慢できる子供はいない。
ブーステッド・ギアの宝玉が光り輝く。
「お前は知らねえけどな!! 父さんは毎日遅くまで仕事やって帰ってくる!! 母さんは毎日うまい料理を俺たちに食わせてくれる!! お前にとっちゃ平凡でも、俺にとっちゃ最高の親なんだ!」
その言葉を聞いて、ピクリと双葉の手が動く。
だがイッセーとヴァーリの動きを見ているリアスたちは気づかなかった。
「お前なんかに俺の両親を、弟に手を出させてたまるかぁあああああああああ!! 行くぞ、ドライグゥウウウウウウウッ!!」
『応ッ! さぁ使え!! 誰がなんと言ってもお前は今代の赤龍帝であり俺の相棒だッ!!』
『Welsh Dragon over booster!!!!!!』
イッセーの体に赤い鎧が装着される。
ヴァーリはそんなイッセーを見ながら拍手をする。
「見たかアルビオン、彼の怒りがドラゴンの力をここまで引き上げた」
『純粋な他者を思う想い、ヴァーリ、お前にはないものだな。正直に言って、あそこまで純粋に神器を使うものは珍しい』
「なるほど、彼のほうがドラゴンと相性はいいのかもしれないな」
光翼が点滅し、男性の声が聞こえる。
彼こそがドライグと対をなす、二天龍の片割れアルビオンである。
アルビオンは冷静に、イッセーの力を分析している。
『たしかにな……ドライグと相性が良さそうな奴だ』
「敵として、いいや君を宿敵として戦おう! 兵藤一誠!」
「黙ってろっ!! 宿敵だとかそんなのじゃなく、一人の兄としてお前をぶん殴ってやるよヴァーリィッ!!」
勢い良く飛び込んだイッセーの拳と冷静に突き出したヴァーリの拳がぶつかり合った。
そして地面を削り取りながら、二体の龍が因縁の戦いを始めた。
◯冴島双牙
双葉の本名であり、双葉の記憶などを封じ込めていた呪いでもある。先代牙狼の息子だが存在はあまり知られていなかったそうだ。原作での冴島との関係性は不明だが、コレは日本に馴染むために名付けられた名前であり、本当はソウガ・サエジマという風になる。
◯『
アザゼルが作り上げた人工神器であり、刀身がソウルメタルで作られている。言うなれば魔戒剣の形をした神器である。禁手である『
やっと……出せたんやなって、というかバレバレの伏線を早く出したいなと思ってた作者です。さて、次回はおっぱいドラゴン本領発揮と双葉覚醒回。