「あの、すいません。ミカエル……さま」
「さん、でいいですよ。イリナから聞いています、あなたは我々に良い感情を持っていないのでしょう?」
あの後とりあえず本殿に行くことになり、俺達はそこでミカエルさんと話をしていた。
というかイリナ、そんなに偉くなったのか? まぁ、エクスカリバーを回収していったから異例の出世とかしたのかもしれない。
確かに天使も教会も嫌いだが……この人の顔を見てるととてもそう思えない。
笑顔が無邪気すぎる。赤ん坊の笑顔を思い浮かべて欲しい、それがまんま大人の顔になったようなもんだ、この人の笑顔は嫌味なんて言う気もなくなるってもんだ。
色々言いたいこともあったが俺を助けてくれたことも相まってここでは黙っておこう。
「それで、ミカエルさんは何故ここに?」
「実はあなたたちに渡したいものがありまして」
ミカエルさんがにこやか指差すと、本殿の中心で光っている二本の剣があった。
……一本はエクスカリバーなのはわかるが、もう一本はなんだ?
『相棒、双葉、アレはドラゴンスレイヤーだ』
ドライグが忌々しそうに言う……なんつうもんあるんだよ。
「ドラゴンスレイヤー?」
「言っちまえばドラゴン絶対殺すマンだろ? けれどミカエルさん、エクスカリバーはどういうことですか?」
真っ白な刀身は記憶にある、あの夜に振るった牙狼剣と融合したときのエクスカリバーだ。
だが確か八本あるエクスカリバーの内六本は教会、一本は悪魔側で修復、もう一本は行方不明だったが……天使たちが隠していたのか?
しかしミカエルさんは苦笑しながら説明してくれる。
「いいえ、アレは『堕天の聖剣』と呼ばれていたものですよ。悪魔側ではうまく修復が行かなかったところを我々セラフが直々に修復を申し出たのです」
「……何故? 見返りはありませんよ?」
「見返りは求めていません。兵藤一誠くん、アレは『アスカロン』、かの有名なゲオルギウス、いえ聖ジョージと言ったほうが分かりやすいでしょうか?」
聖ジョージ!? あの聖人の剣かよ! いやいやいや、エクスカリバーだけでもやばいのにそれはアカンて、確か聖ジョージ教会とかあったんでしょ!?
んな有名な聖剣渡していいのかよ!!
だがイチ兄は検討がつかないのかポカーンとしている……わかりやすく言うか。
「あれが本物だってバレたらイチ兄、教会から追い回されるぞ」
「まじで!?」
「大丈夫ですよ、許可なら取りましたから……それとし特殊儀礼を施してあるので赤龍帝である兵藤一誠くんならば扱えますよ。正確には神器と同化させるというべきでしょうか」
しかし、エクスカリバーにアスカロン……共に聖剣としちゃ一流のこの二本を渡してもいいのかね。
表情に出ていたのかミカエルさんは苦笑しながら俺たちに言う。
「あの大戦で多くのものを、我々三大勢力は失いました。我々は神を、悪魔は魔王を、堕天使は部下たちをと。このまま断続的に三大勢力が小競り合いを続ければいずれ滅びます。その前に横槍を入れられ、他の勢力に攻められるなんてことにもなります。このアスカロンは悪魔側と和平をするために渡すものです。もちろん、堕天使側にも和平のため贈り物はしましたが」
……なるほどな、力が弱まったから仲良くしましょうってことか。
まぁ、コカビエルがいいクスリになったわけだ。下手すりゃサーゼクスさんとアザゼルが戦ってたわけだしな。
天使は介入したくも出来ないんだろう。リアス先輩に聞いたが天使を創造出来るのは神だけらしい。天使同士で子供を作ることは出来ないそうだ。
ん? でもなんで俺にエクスカリバーを?
「黄金騎士、あなたの先代にはお世話になりました。あの頃の我々がすべきだった戦いを止めること、それを率先したのは先代だったんですよ。そして今回の事件もあなたは先代のように事件に飛び込んでいき、奇跡を起こしたと……天から見ていました。とても純粋な光、まるであの方の一撃を見てるかのようでした」
「つまり、エクスカリバーは俺個人の褒美ってわけですかね?」
ミカエルさんは頷く。
「この剣たちは私、そして魔王さま、アザゼルの三人で調整しました。どうぞ、受け取ってください」
『相棒は神器を近づけろ、あとは俺がやるさ』
俺は手を伸ばし、エクスカリバーに触れる。
――――大事に使ってくださいね。
そんな声が聞こえ、俺は苦笑しながら剣を引き寄せて、両手で構える。
軽く魔力を通すと刀身が黄金に包まれる……凄いな、魔力の通りが段違いに良い。
イチ兄も左手の神器をアスカロンに近づける。すると紅い閃光が発せられたあと、籠手の先端から刃が生えていた。
凄いな、神器ってほんと願えば何でも出来るんじゃないのか?
「成功してよかった。使い心地はどうですか?」
「まだなんとも……でも大切に使わせてもらいます」
「……おぉ、すげえ! なんかカッコいいぞこれ!」
ブンブンとイチ兄が振り回すが、あっぶな!! 一応それ聖剣だからな!? ドラゴンスレイヤー云々よりも当たったら俺が死ぬ!
ミカエルさんはにこやかに笑いながら、会釈をしてこの場を去ろうとする……あっ待ってくれよ!!
「すいません! ミカエルさん、言いたいことが」
「申し訳ありません。それは会談中に聞きますので、それではまた近いうちに」
そういうと全身を光に包み、ミカエルさんは消えてしまった。
……アーシアたちの事だったんだがな。てか会談中に話すこと多いな、オイ。
****
「お茶ですわ」
「……えーと?」
ミカエルさんとの会話が終わり、帰ろうとした俺は引き止められた。
何故かイチ兄がサムズアップしてたがどうしたんだろうか? てかイチ兄が朱乃先輩のお茶飲まずに帰るなんて、明日雨でも降りそう。
引き留められた俺は、朱乃先輩がいつも生活しているという境内の家で茶道的なおもてなしをされていた。
もっとも茶道なんて知らないので渡された茶碗を受け取り、一息に飲む…………おっ。
「あら、美味しい」
「良かった。苦くはありませんか?」
苦いけど我慢できないほどではない。
それに朱乃先輩が気を利かせて、茶菓子を出してくれてるのでこれがまたお茶と合う。
「すいません、朱乃先輩。栞をまた貰っちゃって」
「良いんですよ。こういう細かな術式はまだ教えていませんから」
朱乃先輩の栞にはほんと頭が上がらない。
結界とか覚え始めたが、まだまだこういう物に何か力を与えるという事ができない。
今持っている栞は三個、魔戒剣、双葉、エクスカリバーを入れているがホント便利……反面、朱乃先輩に苦労かけているのが心苦しい。
さてと、茶も飲み終わったし本題に入りますか。
「あの、それで話って?」
「……私のことですわ」
俺は伸ばしていた足を正して、朱乃先輩の言葉に耳を傾ける。
コカビエルが言ってたもんな、バラキエルの娘ってさ。俺も気になって調べたらそらぶったまげた。
バラキエル、大天使バラキエルと同一視される堕天使の一人だ。
さらに名前の由来が『神の雷光』……まぁ、朱乃先輩が使っていた力を思い出せばそういうことなんだろう。
朱乃先輩は顔を俯かせて、必死に言葉を出そうとしていた。
「あの、朱乃先輩……嫌なら」
「小猫ちゃんがあなたに話したんです。私だけ離してないのはフェアじゃありません」
いや、フェアとかそういう問題じゃなくてな。
堕天使の娘が悪魔になってて、今まで雷光の力を使ってなかったとしたら理由があるんだろう。
それを無理に聞く必要はないんだが、なんでこう皆ポンポン俺に話すんだ?
リアス先輩からは聞き上手とも言われてるが、俺そんな事ないと思うんだけどなぁ。
「……コカビエルが言ってたこと。あれは事実です、私は堕天使バラキエルと人間との間に生まれた子です」
朱乃先輩はゆっくりと話しだした。
ある日、傷ついたバラキエルを見つけたのは当時ある神社で巫女をしていた朱乃先輩のお母さんだった。優しかったお母さんはバラキエルを放っておけず、その傷が癒えるまで世話をしたんだそうだ。
傷を癒やす過程で二人は惹かれ合い、そして朱乃先輩が生まれたそうだが堕天使との子は認められるわけ無く、お母さんは朱乃先輩を連れて人里離れた山で暮らしていた。
まるでアーシアみたいだな、お母さんの境遇が。
そう思っているといきなり朱乃先輩が、巫女服を脱ぎだし背中を俺に向けた。
そこにあったのは悪魔の翼と堕天使の翼。
「汚れた翼……ふふっ、醜いでしょう? リアスと出会い、悪魔になってもこの羽が生えることはなかったわ。消したくても消えない汚れた血を持ってる私にはお似合いなのかもしれないわ」
俺は掛ける言葉がなかった。
小猫も、師匠も、ギャー助も酷かったが、朱乃先輩のも相当だ。
ここまで父親の血を嫌うのは堕天使だからって理由だけじゃない。もっと深刻な問題があるんだと思う。
そう今、お母さんと一緒に暮らしてないという事実で大体察することができる。
「双葉くんに話したのはもう黙っているのが嫌になったから。……でも嫌よね? あなたのお兄さんとアーシアちゃんを殺した憎き敵、そしてあなたをボロボロにしたのも堕天使……私も、その堕天使の血が流れている」
顔を見せない朱乃先輩だが、肩が震えている。
俺はため息を付いて、素直に心情を吐露する。
「確かに堕天使は嫌いですよ。自分勝手で、何かする度に俺の大事なものを奪っていく」
俺の言葉に反応した朱乃先輩は肩を落とす。
「そ、そうよね……そう思うわよね」
「でも朱乃先輩は違いますよ?」
俺の言葉に驚いて、朱乃先輩は顔を向ける。
涙に潤んだ目が俺の心に突き刺さる……うぅ、キツイ。
「朱乃先輩は朱乃先輩です。悪魔だろうが堕天使だろうが、俺にとっては大切な人です」
「いいの? 私があなたに近づいたのだって、お兄さんを殺した堕天使のようにあなたに嫌われたくなくて……それで……最低の女よ、私は。あなたに嫌われたくなくて、怖くて怖くてたまらなかった。夢にも見たわ」
朱乃先輩が俺に抱きつく。
柔らかい感触と優しい匂いが俺の鼻孔をくすぐる。
……確かに堕天使の血を受け継いでいるのかもしれない。打算で近づかれたのかもしれない、でも朱乃先輩が俺にかけてくれた笑顔だけは嘘じゃないのくらいはわかる。
俺は安心させるように朱乃先輩を抱き締める。
「俺は朱乃先輩のいいところ知ってます。いつもリアス先輩や皆に優しくしてくれたり、俺の朝の訓練にいっつも付き合ってくれたり、そりゃたまにいたずらされますけど朱乃先輩の笑顔見られるなら俺はいいんです」
「――――双葉、くん」
「俺は、朱乃先輩のことが好きですよ。それは皆だって同じです。堕天使だろうがなんだろうがリアス先輩や皆が態度変わることなんて絶対にありえません。だって皆大好きなんです、それはあなた自身が積み上げてきた信頼の証なんです。だから、自分を卑下しないでください。俺が大好きな朱乃先輩はいっつも笑顔なんですから」
朱乃先輩の体をきつく抱きしめると声をこらえて、朱乃先輩が泣き始めた。
苦しかったんだろう、皆のお姉さん役でリアス先輩からも悩みを打ち明けられる。けれど朱乃先輩だって一人の女の子なんだ。
悩むし、泣くし、未熟なんだ。それなのにここまで追い詰めていた事実が俺は腹立たしい。
大粒の涙を流しながら朱乃先輩は俺に言う。
「いいの? 私はここにいていいの?」
「ええ、良いんです。文句があるやつがいたら俺がぶっ飛ばします」
「私、面倒くさいよ? ずっと、ずっとあなたに依存するよ?」
「ええ、どんと来いです。先輩がお嫁に行くまでか、俺の寿命が尽きるまで俺は朱乃先輩と一緒にいますよ」
もうアーシアと一緒にいるって決めたんだ。
だったらもう一人くらい背負ってやる。俺が老いて朽ちるか、朱乃先輩が本当に幸せになるまで、俺はこの人の味方になってやる。
「……本気になっちゃうじゃない。でも……私だって」
「えっ? 先輩?」
涙を拭った朱乃先輩はいつもの笑顔で、俺に微笑みながら宣言する。
「双葉くんはアーシアちゃんと小猫ちゃんをどう思ってるの?」
「えーと気持ち的には妹かな? 手のかかる二人だなぁと」
「だとすると、私にもチャンスがあるわね。本妻も狙いたい、私だって一番になりたいもの」
本妻? 一番? なんの話だ?
あー、アレか。すでに好きな人がいるのか……あれ? なんだろ、胸の奥が痛い。
チクチクしてすごく、痛い。
なんでだろう、朱乃先輩に好きな人がいるのは嬉しいのに、それが俺じゃないのが凄い苦しい。……いや、気のせいだよ、気のせい。
俺なんかがこの人の隣にいたら悲しませてしまう。俺は朱乃先輩よりも早くに死ぬんだ、忘れろ、それで笑顔で送り出そう。俺が地獄に堕ちたって、この人には幸せになってもらいたいんだから。
「双葉くん……うぅん、ふ、双葉。良かったら、二人きりの時は先輩を取ってくれる?」
「えっ!? いや、だからそれはこの前断った――――」
「駄目?」
なんでいつものお姉さんボイスじゃなくて、一人の女の子みたいな声出してるんですか!?
てか、こっちが素なのか? 素なんだよね!? あぁ、もうわからんくなってきた!?
というか服着てください!! おっぱいが、おっぱいあががっががっがが!?
「当ててるんです」
「当てないでください……ふふっ」
俺は笑い出す。
朱乃先輩はきょとんとした顔で、俺を見るので俺は言ってあげる。
「やっぱ、朱乃先輩は笑顔が一番です。俺はその顔好きですよ」
「なっ!? ッ~~~~~!」
朱乃先輩が顔を真赤にした!? やったぜ!! 一矢報いたな!
てか朱乃先輩末恐ろしい人や、お姉さんキャラも女の子キャラも出来るとか一人で二回美味しいな。
てか、ずっと頭撫でてるけど全く飽きない。
アーシアのも、小猫もいいけど撫で心地は朱乃先輩に軍配が上がるな。
だが朱乃先輩は顔を真っ赤にしながら俺の体を強引に引き剥がし仰向けにすると……ふふぉおおおっ!? こ、この柔らかい感触は!?
「ひ、膝枕ッ!?」
「双葉……どう? 気持ちがいい?」
逆に頭を撫でられている俺は、同じように顔が真っ赤になる。
なにこれ!? バカップルみたいじゃないか!! でも気持ちが良いです。ほんのりと感じる朱乃先輩の体温が心地良い。
ずっとこうしてたいとも思ってしまう。
「……母さまもこんな気分だったのかな」
「朱乃先輩?」
「……双葉」
ん? 朱乃先輩が目を閉じて顔を徐々にこっちに……えっ、あっ、ちょっ!?
朱乃先輩の長い髪がお互いの顔を隠した。
以前、事故のように重なったキスではなく今度は恋人同士がするような優しいフレンチキス。
俺はもがかずにそれを受け入れる。
舌を入れるほどディープではないが、フレンチキスにしては長い。徐々に息が苦しくなってきた時、朱乃先輩が唇を離す。
ツゥーっと唾液が繋がっているのが妙にエロかった。
てか、い、いいのか? こんなキス。
「嫌じゃ、なかった?」
コチラの顔を覗き込みながら、不安そうな声を出す。
う、うぅそんな声出さないでくださいよ……俺は手を伸ばし、朱乃先輩の頬を擦る。
「嫌だったらしてませんよ」
キスには嫌な思い出しかないが……朱乃先輩なら話は違う。
こっちの気持ちを考えたやさしいキス。唇が幸せですわ、正直もう一回したいけどそこまですると俺が止まらなくなるような。
てか朱乃先輩が頬を紅潮さえて、鼻息が少し荒い。
「も、もう一回」
「い、いや!? 駄目ですよ! 一回はいいですけど二回目は駄目です!」
「ずっと我慢してたんです。むしろ百回はしたいわ」
ぎぃいいやぁあああああっ!! そのセリフどっかで聞いた! 具体的に言うとあの発情黒猫!! どいつもこいつも我慢してないで発散してください! 俺じゃなくて別の誰かで!!
あっ、でもそれはムカつくから駄目だわやっぱ! あっあっあっー、朱乃先輩の顔が近づいて――――。
『あら、お熱いわね』
「「ッ!!!?」」
声がして、俺と朱乃先輩が距離を取る。
声の方向を見るとそこにいたのはロゼさんだった、微妙に居心地が悪そうな顔をして……まさか。
「見ました?」
「いや違うぞ? 盗み見るつもりはなかった! 話が終わっただろうし、お前の兄さんに聞いたらここだって言うから来たらいちゃこらして……お、オイ? 二人共?」
朱乃先輩と俺はニッコリと笑いながら、雷撃とエクスカリバーに魔力をチャージし始めた。
ザルバは空気読んで黙ってたのに、ロゼさん、少し頭冷やそうか。
「ま、待て!! てかお前そういう顔は母親似なんだな!?」
「「問答無用!!」」
次の瞬間、轟音を立てながら空高くロゼさんが吹き飛んだ。
****
「お前、少しは手加減しろっての」
『ロゼ、ありゃお前が悪い』
全くだ。あの後ムードが四散し、俺は朱乃先輩の家から出た。
何故かお弁当を渡されたが……ハートマークはちょっと恥ずかしいよ、朱乃先輩。
今はロゼさんに連れられて、サーゼクスさんが泊まっている高級ホテルに来ていた。
「何か用ですか?」
「悪かったって! 愛妻弁当もらったしそれでチャラにしてくれ、なんなら飯もおごるから」
愛妻弁当って……そういうのじゃないですよ! 多分、わざわざ来てくれた俺にお礼も兼ねて……あれ? でもなんでイチ兄に渡してないんだ?
『女泣かせみたいね』
「まぁ、次世代の牙狼には期待が持てそうだ」
「うっさい! ……で? なんの用ですか?」
ロゼさんは大きなトランクを引っ張りだすと中を開ける。
そこには真っ白のコートに黒いボディースーツ、そしてブーツと……ジッポライター? みたいなのが入っていた。
「本当なら会談中に渡したかったが、この前俺が確認したからな。当日はこれを着てくれ」
『ほう、魔法衣か!』
「あぁ、わざわざ新調したんだぞ? 悪いがここで着てくれるか?」
トランクを渡され、俺はバスルームに放り込まれる。
仕方ないので制服を脱いでボディースーツから着ていくが……どう着ればいいんだ?
『ただ着るだけでいい。あとはスーツのほうが体格に合わせてくれる』
「マジかよ」
苦労して着るとザルバの言うとおり体に合わせて服のサイズが丁度よくなる。
細かくベルトなどを合わせるが体の動きは全く阻害されない。
制服も良かったがこりゃ凄いな。
次にブーツを履くが何故か俺の足ぴったりなのが驚いた。……いつサイズ図ったんだ?
最後に白いロングコートを羽織ると洗面所のガラスを見る。
……これが魔戒騎士の正装なのか。
『双葉、白いロングコートは牙狼であるお前にしか着ることを許されない服だ』
「あぁ、以前言ってたな」
確か特殊な霊獣の毛皮を材料にしているんだっけ?
てか似合ってるのか、これ? 俺には少し似合ってないように見える。
『歴代でもお前ほど早く牙狼を受け継いだものはいないからな』
「それを早く言えよ」
『本来なら二十歳を過ぎてなんだがな……まぁいいさ、いずれはこれに似合う騎士になればいい』
なれるのかな、そんな騎士に。
俺はバスルームから出ると、ロゼさんは優しい瞳で俺の姿を見た。
「見ろ、シルヴァ。黄金騎士だぞ」
『ええ、似合ってるじゃない。双葉』
「まだまだです……ところでこのライターは?」
手に持ったライターをロゼさんに見せると、ロゼさんは似たような形のライターを取り出すと勢い良く蓋を開けて着火する。
青色の炎がゆらゆらと揺らめく。
「こいつは魔導火。お前の魔力を原動力に種火が燃える仕組みだ。万が一種火が切れたら俺に送れ、補充してやる」
あぁなるほどな。俺もロゼさんの真似をしてライターを着火する。
するとあの時のように緑色の炎が揺らめく。
……いいのかな、一気にこんなに貰っちゃって。
「まっ、お前も正装がないとな。その白いロングコートを着てれば早々お前にちょっかい出そうと思うやつはいないぜ?」
うーむ、逆に「あっ、あいつ牙狼じゃん、ちょっとちょっかい出したろ」とか思われんじゃないのかな? 受け取ったのは早計だったか。
だが嬉しそうなロゼさんを見ると断るのがその申し訳ないからなぁ。
にしてもこのまま帰るのはさすがに恥ずかしい、着替えて帰ろう。
「そうそう、その服。裏が異次元と繋がっているから魔戒剣とか入れとくと便利だぜ?」
「うーん、でも俺この栞があるんで」
もうちょい早く欲しかったよ。
でもこの栞は朱乃先輩が俺のために作ってくれたものだから、今更魔法衣を使うのもな。
ロゼさんは何故か口笛を吹いた。
「熱々だな……いいねえ、青春だ」
「茶化さないでください。会談はどうですか?」
一応警備主任なんだよな、この人。
忙しいはずなのに俺のために時間を取ってくれてありがたい。
「今のところはなんにも無いし、ここに攻め込んでくる馬鹿は大勢いるだろうな……実際、不穏分子が動いてる」
ため息をつくロゼさんに同情する。
恐らく連日、そういう連中と戦ってるんだろうなぁ。
「心配すんな。何が起きてもお前だけは絶対に守ってやる」
「魔王さまたちでしょ、ロゼさんが守るのは」
「……あぁ、そうだな」
苦笑しながら俺はロゼさんと別れた。
だが一瞬だけ見せた、ロゼさんの苦々しい表情が何故か忘れることが出来なかった。
◯魔法衣
魔戒騎士が身に纏っている特殊な加護を受けた衣服にして、魔戒騎士のトレードマークである。外部からの物理・魔力両面のダメージを軽減する他、ドラ◯もんの四次元ポケットのように裏地から様々な道具を自由に出し入れできる。通常は黒であるが真っ白のコートは牙狼である黄金騎士のみに許された色。一応、原作では白いコートを着る騎士がいるが完全な白は牙狼のみ。
原作ではこのコートを使ったアクションも牙狼の見どころ一つ。こればかりは文字ではなく映像でなければかっこよさは見えない。いまならニコニコ動画で一話HDが無料配信中! さぁ見るんだ! そしてDVDBOX、TVSP、劇場版、第二期、完結版劇場版も見よう! ただしパチはオススメしない。心が陰我に捕らわれてホラーになるゾ。
圧倒的ヘタレッ!! おめーたまついてんのか言われそうですが、家に帰った双葉、アーシアと添い寝しながら悶絶してた模様。