ハイスクールD×D 黄金騎士を受け継ぐもの   作:相感

3 / 54
巻いていこうと思って書いてたら逆に長くなりすぎた件について。
そしてようやく黄金騎士の名前出せた。


オカルト研究部

――めよ。

 

「またか……」

 

 そうぼやきながら俺は何度も見た光景にため息をつく。

 夢、なんだろう。けれども鮮明でまるで現実のように思える。

 

「そろそろ来るか?」

 

 そう言うと顔の見えない子どもたちが俺の横を通り過ぎる。

 いつもこうだ。風景とかが鮮明の癖して、肝心なところが見えない。

 まるで見せないようにしているかのように。

 

「全くお前らの顔が見たいね、何年同じモン見せれば気が済むんだよ」

 

 自覚し始めたのはここニ、三年。

 見始めたのはもう数年以上前だろう。見た回数なんて覚えてもいない。

 

「何なんだろうな、これ」

 

 キャッキャッと遊ぶ子どもたち。

 決まって人数は二人、男と女、走り回ったりオモチャで遊んだりとやることに違いはあれど最初に言った二つはきっちりと守る。

 

「……俺の記憶なんだろうけど、それだったらこのガキンチョは俺のはずだろ?」

 

 訳あって俺は幼少期の記憶が無い。自動車事故に巻き込まれ、その時頭を強くぶつけたせいだと聞いている。

 多分、その頃の記憶だと思うが……何故に第三者視点で俺の顔も見れない?

 

 ――めよ。

 

「……あれ? こんな声あったか?」

 

 ふと首を傾げる。

 子どもたちの声とは違う、荘厳な声。だが聞き覚えがあるような気がする。

 

「誰だ?」

 

 ――目覚めよ、黄金騎士。

 

 

 

****

 

 

 

「あだっ!? ……イテェ」

 

 変な夢を見ていたような気がする。

 だけどベッドから落ちた衝撃ですっぽりと忘れたらしい。

 ……なーんか重要な事なような気がしたが忘れるというのはどうでもいいことなんだろう。

 にしてもだ。

 

「……昨日あのまま寝たのか」

 

ポリポリと頭を掻きながら、布団から起き上がる。

 恥ずかしさと戸惑いで上履きのまま帰って、恥ずかしさのあまりふて寝とか小学生か俺は。

 あといつもより起きるの遅い。目覚ましかけ忘れたな俺。

 とりあえず着替えて、下に向かうと久しぶりに遅く起きたのが珍しかったのか、両親が心配そうに見ていた。

 

「おはよう、双葉……具合でも悪いのか?」

「いや、昨日色々あってさ。というか昨日はごめん、夕飯残ってる?」

「残ってるわよ、今温めるわ……その間に一誠起こしてきてくれない?」

 

 んー、今日もか。

 頭をポリポリと掻きながら二階に上がる。

 ちなみに意外と部屋が余ってるので、俺とイチ兄は兄弟ではよくある部屋の争奪戦というのをしたことがない。小学生から別室だしな。

 イチ兄の部屋の前に立ち、ノックする。

 

「イチ兄―、起きろー飯の時間だー」

「うぇっ!? ふ、双葉ちょっと待ってくれ!」

 

 焦った声とドタバタと聞こえる音……まぁ、エロ本でも隠そうとしてんだろうな。

 いつもならちょっと待ってやるが、今日はちょっとイタズラしたくなった。

 息を整え、扉を蹴り飛ばす。ハッハー!! 刺激的な朝の目覚めだ!

 

「ドーン!!」

「あら、おはよう」

 

 バタン。

 ……ウェイト。ちょっと落ち着こう、今のは幻想だ。

 イチ兄が上半身どころかすっぽんぽんで、その横にリアス先輩が同じく生まれたままの姿をしていた。

 ほっぺたを強くひねり、叩くが起きない。

 えっ? 現実? うせやろ?

 

「ワンモアセッ」

「おはよう、双葉君、お邪魔させてもらってるわ」

 

 余裕な表情で笑顔を振りまくリアス先輩は綺麗だった。

 じゃなくて!

 俺はツカツカとイチ兄の元に歩き出し体を揺さぶる。

 

「イチ兄ィイイイ!! てめえ、何をした。いやナニした!!」

「ご、誤解だ弟よ……てか何かあったら俺がこんな風になると思ってんの!?」

「あったりまえだ!! 性欲の権化のイチ兄が裸の女の人と一晩一緒にいるとか腹すかせたライオンにシマウマ投下するようなもんだろ!?」

「ひでぇな、オイ!!」

 

 ギャーギャーと言い合う俺達を尻目に……あっ、凄い形の良い尻……じゃなぁああああああああああい!

 ゴ、ゴホン、俺達を尻目にリアス先輩は机の上に置いてある自分の制服を着ていく。

 すげえな、恥じらいの欠片もねえわ。堂々としてるからリアス先輩が持っている高貴なオーラ? と合わさって最強に見える

 あぁ、だからそうじゃなくて。

 

「あ、あのリアス先輩も少し隠して……イチ兄もジロジロ見ない!」

「見たいなら見てもいいわ。隠すべき場所なんてないし」

「おぉっ!?」

 

 じっくりと見ようとするイチ兄の頭を叩く。

 思えばリアス先輩って悪魔だから、俺たち人間のことなんてノミとかそこら辺の虫だと思ってんじゃないのか? いや、この人はそういう感じじゃないんだよなぁ。

 なんとしてでも見ようとするイチ兄と軽くプロレスしていると着替え終わったリアス先輩が話しかけてくる。

 

「あまり無茶させちゃ駄目よ。お兄さん、昨日また襲われたから」

「なっ!? 本当かイチ兄」

「えっ、あ、あぁ……腹に刺されて」

 

 ……腹を?

 マジマジと腹部を見るがそれらしい傷は見当たらないどころか、割れた腹筋くらしか見えない。

 一日で治るほどイチ兄の体は異常ではなかったはず。

 

「私が治したのよ。致命傷だったけど、魔力を分け与えてね」

「……魔力?」

 

 目をパチクリとさせながら俺とイチ兄は顔を見合わせる。

 そんな能力あったの? いやねえよという会話をしながら。

 

「一誠くんは私の眷属だから出来たのよ」

「眷属?」

「そっ、あぁ、ごめんなさいね。名乗るのが遅れたわね、兵藤一誠くん、私の名前はリアス・グレモリー。悪魔よ」

 

 

 

****

 

 

 

「……えっと」

 

 挙動不審になるイチ兄を見るが、多分はたから見りゃ俺も似たようなもんだろう。

 あの後、朝食を食べていないということでリアス先輩にも朝食の席に就いてもらった。

 まぁ、当然両親が荒ぶったのだがリアス先輩が魔力で何かしたのか、両親を大人しくさせてくれた。

 ちなみに今は、校門前だ。

 周囲からは殺気と叫び声が上がっている。

 そりゃリアス先輩が男と一緒に登校してきたのだ、立場が違えば俺もその一員になってたかもしれない。

 あっ、ショックで倒れてる奴もいる。

 

「それじゃ放課後に。イッセーあなたには使いを出すけど双葉くん、あなたは子猫と一緒に来てちょうだい」

「へっ?」

 

 予想外の名前が出てきて驚くが、聞く前にリアス先輩は歩き去ってしまう。

 俺たちは顔を合わせてため息を付く。真相は放課後まで待たなければいけないんてな。

 

「んじゃ、イチ兄頑張れ」

「そっちもな……あと、いいおっぱいだったな」

 

 サムズアップするな、あと俺は尻派だと言ってるでしょうに。

 とりあえずそそくさと玄関から逃げ出し、教室に入るがもう噂が出回っているのか好奇の視線が俺を貫く。

 どうしてこうなったと自問自答するがどうにもならないので席に座り、顔を伏せる。

 

「んっ、おはよう」

「おはよう」

 

 そんな中一人、お菓子を食べている小猫に少しホッとすると同時にさっきリアス先輩の言葉を思い出す。

 

『子猫と一緒に来てちょうだい』

 

 ついでに思い出したが、確かオカルト研究部なるものをリアス先輩はやっているとかなんとか聞いた覚えがある。俺はどこにも属する気がなかったから聞き流してたが、そういえば子猫もどっかに入ってるとかなんとか。

 

「なー、小猫。お前部活入ってたっけ」

「オカルト研究部」

 

 ……あー、なるほどそりゃリアス先輩が一緒に行けというわけだ。

 にしても意外だ、コイツならなんか猫のように何処かで昼寝してそうなもんだが。

 

「にゃあ?」

 

 ゴフッとクラスメイトの何人かが噴き出す。

 というか鼻血出したね、教室がいい感じで混沌として俺の視線が消えた。

 

「前から猫っぽいと思ったが真似するとホント猫だな」

「……今のはわざと。視線無くなった」

 

 あぁ、なーる。コイツなりに気を利かせてくれたってわけか。

 

「リアス先輩に言われたん?」

「……ぷい」

 

 あっ、違うわ。これ完全にコイツなりの気の利かせ方だわ。

 その後、なんとか機嫌を取ろうとすると色々し、放課後直前になって今度パフェを奢るという約束をもって許してくれた。

 

 

 

****

 

 

 

「こっち」

「お、おう」

 

 放課後になり、俺は小猫に誘われるがまま、校舎の裏手に来ていた。

 ちなみにクラスメイトから殺意と疑惑と好奇心の目線をもらったがもうどーにでもなーれという気持ちの元、堂々と歩いていた。

 

「旧校舎にいくのか?」

「うん」

 

 まじかーと俺は軽く驚く。

 現在は使用されていないのだが、何故か綺麗に保存されており、七不思議が存在している。

 綺麗なので使えばいいのにと親友生説明会の時思ったが、リアス部長の根城なら納得がいく。あの中が異次元と繋がっていると言われても俺は納得する。

 

「こっち」

 

 小猫に誘われるまま中に入るが、中は予想していたよりも綺麗だった。むしろ校舎より綺麗じゃね? と思うほどだ。

 へえと見ているとある教室の間に子猫が立ち止まる。そこには『オカルト研究部』なるプレートがかけられていた。

 

「部長、連れてきた」

「ええ、待ってたわ。入ってちょうだい」

 

 リアス先輩の許可も有り、俺と子猫は部室に入るが……驚いた。

 

「な、なんだこりゃ」

 

 室内いたるところに怪しげな、「あぁ、オカルトね」と一発でわかるような珍妙な文字がびっしりと書かれていた。極めつけは部屋の大半を占めている巨大な魔法陣……なるほど、確かにオカルト研究部と銘打っとけば何も知らない人間が来ても違和感はあるだろうが、問題はないだろう。

 既に部屋にはイチ兄がいた。こちらに気づき軽く手を上げる。

 

「おっ、双葉、やっと来たか」

「イチ兄と……ええと」

 

 イチ兄の隣に立つ爽やかなイケメンさんを見る。

 誰だ?

 

「僕の名前は木場祐斗。お兄さんと同じ二年生だ」

「よろしくお願います」

 

 思い出した。イチ兄が常々呪詛を言っているイケメンさんだ。

 確か学年一カッコいいって噂の人、完璧に忘れてた。

 

「あれ? リアス先輩は?」

「おっ、気づいたか兄弟」

 

 うぜえと思いながら鼻の下を伸ばしているイチ兄の様子を見るとろくな事じゃないと思う。

 そういえばさっきから水の流れ……いや、まさかな。

 シャワー中とかそういうのじゃ。

 

「部長はシャワー中なんだ」

「……oh、ブルジョワ」

 

 頭を抱えるがもう悪魔だからの一言でなんとかなるだろ、と俺は投げやりになる。

 暫くするとシャワーの後が消え、布が擦れる音が……って、あの人ここで着替えんのかよ。ホント、羞恥心がないというか、よっぽど自分の体に自身あるんだなぁ。

 

「ごめんなさい。昨日はシャワーを浴びてなかったから」

「なんだ言ってくれたらウチのシャワーくらい貸したの……げえ!?」

 

 リアス先輩の後ろから出てきた人物に俺は思わず、驚いてそんなことを言ってしまう。

 

「まぁ、酷いですわ。初めまして双葉くんのお兄さん、いつも双葉くんと仲良くさせてもらってます」

「えぇ!? 双葉、お前いつから姫島先輩とそういう関係に」

 

 どういう関係だ、どういう。

 まぁ、昨日あんな恥ずかしい別れ方した姫島先輩がいつもの笑顔で俺たちを見ていた。

 あっ、微妙に怒ってる。口の端がヒクヒクしてるもん、やっべ。

 

「全員集まったわね。イッセー、双葉くん。歓迎するわ」

「は、はい」

 

 ガチガチに緊張してる兄に対して、俺は上の空だった。

 だって、俺場違いじゃね? 当事者でもないし、ただ巻き込まれただけやし。

 

「悪魔としてね」

「は?」

 

 あぁ、イチ兄の驚き顔は面白かった。

 

 

 

****

 

 

 

「粗茶です」

 

 嘘こけぇ!! と飲んでから思う。

 上質な茶葉使ってるのくらい舌が肥えて無くてもわかる。が、そこは言わずにぐいっと飲む。

 

「うまいです」

「良かったわ」

 

 もうあんでこの人はこう俺に対してちょっと過保護なんだろうなぁ。あとイチ兄睨むな、変わって欲しいなら変わってくれよ。割りと辛いぞ。

 

「双葉くんは気づいてるでしょうけど、双葉くんを除いた全員が悪魔よ」

「ふーん」

「えっ、双葉驚かないのか!?」

「いや、ぶっちゃけ驚いてるけど想定内だったから」

 ファンタジー極まるが、光の槍にイチ兄の傷の治癒と魔法陣、あそこまで見て信じるなと言われても無理があるし、リアス先輩と親しい人物なら悪魔がいるってのは道理な話だろう。

 まぁ、部員全員が悪魔なのは苦笑するが、隣の席の美少女が実は悪魔とかギャルゲーも真っ青だ。

「じゃあまず状況を整理しましょうか。イッセー、それに双葉くん、あなた達を襲った連中、あれは堕天使よ」

 ここからはざっくりと俺がまとめる、割りと長かったしな。

 堕天使は元天使、邪な感情を持ってしまったため堕ちたらしい。で悪魔とは土地争い、なんでも冥界をめぐって長い間戦っているらしい。まぁヤクザ同士の抗争をイメージすればわかりやすい。

 で、そこに天使も乱入。なんでも悪魔と堕天使絶対殺すマンとなって両者にちょっかいかけているらしい。

「つまるところ、ウチの兄はあんたたちの下らない争いに巻き込まれたってわけだ」

 話をここまで聞いて、ポツリと俺は愚痴をこぼす。

 確かにリアス先輩は良い人だ。だがそれとこれとは話が違う。

 こっちは既に被害を受けていて、俺なんてあの堕天使に目を付けられている……半ば自業自得だが。

 申し訳無さそうに視線を下げたリアス先輩だが、それも一瞬。目を上げた時はいつのも笑みを戻していた。

「……イッセーが狙われたのには理由はあるわ。イッセー、この子を覚えている?」

「そ、それは!!」

 イチ兄がリアス先輩から一枚の写真が渡される。

 写っているのはあの堕天使……いつ撮ったんだ?

「天野夕麻、間違いない。イチ兄を殺そうとしたやつだ」

「双葉!? お前、覚えてないって……」

「悪い。リアス先輩から事情説明されるまで知らないふりさせてもらってた」

「彼女があなたに近づいたのは、あなたの身に物騒なものが付いていないか確かめるためよ」

 物騒? この兄が? 確かにある意味物騒な思考回路はしているがソレ以外はただの人間でしか無いはずだ。

神器(セイクリッド・ギア)。聞き覚えはない?」

神器(セイクリッド・ギア)?」

「特定の人間に備わる規格外の力だよ。歴史上の人物たちのほとんどが持っていたと言われているね」

 木場先輩が引き継ぐ形で言ってくれるがいまいちピンとこない。

 ……んなもんがイチ兄にそなっているってのか。ないない、それならもっといい人達がいるはずだ。

「ちなみに今世界で活躍していらっしゃる方々がいるでしょう? あの方々の多くも 神器(セイクリッド・ギア)を身に宿しているのです」

「姫島先輩しなだれかからないで。イチ兄、その目をやめろ」

 

 いつの間にか近くにいた姫島先輩が俺の腕に寄りかかっていた。

 柔らかい感触と姫島先輩の香りで頭がクラクラする。

 いつもなら逃げ出すのに、今は重要な話の途中だからそうすることが出来ない。

 

「双葉お前! 尻派とか言ってたじゃないか! いつの間にかおっぱいに鞍替えしたんだよ!」

「だぁってろ!! てか何人の性癖ぶちまけてくれてんだこの野郎!」

「変態」

 

 はぶぁ!!

 小猫の冷たい目線と言葉で崩れ落ちる。

 ちゃう、ちゃうねん。それはただの性癖だし、いつもは自重してるんや、許してや城之内……。

 

「あらあら、お尻なんですか? 私、そこも自信ありますわ」

「姫島先輩ステイ、これ以上話題そらさないで……」

「ゴホン! ……話を戻すわね」

 

 リアス先輩が咳払いすると姫島先輩はやっと姿勢を正してくれる。

 それでも近いがな。てか胸押し当てないで、イチ兄の目が痛い。

 

「規格外と言っても人間社会規模、つまり私達悪魔や堕天使には害が無いものが殆どよ。けれども例外は何事にもあるわ。イッセー、目をつぶって手を上にかざして」

「えっ? 手を上に?」

「早く」

 

 リアス先輩に催促されて、イチ兄は左腕をあげる。

 一体何をしようってんだ?

 

「あなたの一番強い人物の姿を思い浮かべるの」

「い、一番……ドラグ・ソボールの空孫悟のドラゴン波?」

 

 思わずズッコケそうになるが、リアス先輩の表情は真剣そのものだ。

 よく見ると周りの人たちもじっと見ている。

 

「い、行くぞ! ドラゴン波!!」

「ブホォ!!」

 

 思いっきり噴き出す。

 無理無理無理、ドラゴン波って、ドラゴン波ってお前。確かあのポーズは二十二巻で怒りに燃えた空孫悟が、空中に打ち上げた強敵にドラゴン波を浴びせるシーンだ。

 えっ? なんで分かるかって? そりゃ何回も読めば覚える。

 

「笑うなよ! 一世一代のドラゴン波だぞ!」

「仕方ねえだろ……えっ?」

 

 目を開けて俺に叫ぶイチ兄の左腕が光り輝く。

 えっ、何? シャイニングフィンガーなの? 真っ赤に燃えるの?

 

「な、なんじゃこりゃああああああああああ」

「……うせやろ」

 

 それは籠手だった。

 赤を基調に、多少の装飾と手の甲部分に宝玉が嵌めこまれていた。

 もう目をまんまるにして驚いたね。本当に出ちゃったよ。

 

「それが 神器(セイクリッド・ギア)よ。そして、あなたが堕天使に殺された最大の理由」

「ちょ、ちょっと待ってくれ? 殺された? イチ兄が?」

 

 リアス先輩の言葉が聞き捨てならない。

 殺された? んなわけがない、だったらここにいるイチ兄はなんだ。

 クローン? はたまた実体の持つ幽霊?

 そんな風に混乱している俺にリアス部長は頭を下げる。

 

「ごめんなさい、イッセー、そして双葉くん……イッセーを助けるには私の眷属にするしか方法がなかったの」

「眷、属……」

 

 その一言で、すべてが繋がった。

 さっきリアス先輩はなんて言った?

 

『双葉くんを除いた全員が悪魔よ』

 

 そう言った。

 よくよく考えれば不思議なことではない。

 あの時、イチ兄の負った傷は治療してもほぼ手遅れなのは明白だった。

 じゃあなんで綺麗サッパリなくなっていたのか。

 その答えは今、リアス先輩が語ってくれるだろう。

 

「イッセー、あなたは生まれ変わったの。悪魔、私の眷属としてね」

 

 バッと俺以外の人たちの背中から黒い翼が生える。

 まるでコウモリみたいな羽だ。ちなみにイチ兄の背中からもばっちり生えている。

 

「……」

「コレしか方法が無かったの、あの時、イッセーを助けるには」

 

 分かっている。

 分かっているんだ、命あっての物種という言葉があるように命があるだけでもめっけもんだってことは……でもいきなりそう言われても納得できるほど、俺は大人じゃなかった。

 

「あ、あの双葉く――――」

「すいません、また後日でいいですか?」

 

 驚くほど冷たい声が自分の口から出て、自分でも驚く。

 話しかけてくれた姫島先輩がビクッと体を震わせると俯いて椅子に座る。

 

「えぇ、それがいいわ。悪いけどイッセーは残ってちょうだい、これからの話があるから」

「は、はい……双葉、俺は」

「分かってるよ。大丈夫、イチ兄はイチ兄だろ? 悪魔だろうがなんだろうが俺の家族だってことは変わらねえよ……ただ」

 

 時間がほしい。

 受け入れるまでの時間が。

 俺はカバンを持つとフラフラと力なく扉を開ける。

 

「双葉くん! アレは持ってる?」

「……持ってますよ」

 

 ポケットにしまったままのチラシを握りしめる。ぐしゃっとなるが今は気にできるほど余裕はなかった。

 そのまま扉を閉めようとして、途中でやめる。

 

「あの、リアス先輩。あの時、言った気持ちに変わりはありません、兄を助けてくれてありがとうございます。だから……だから、兄をよろしくお願いします」

 

 それだけ言って、扉を閉めて俺は歩き出した。

 

 

 

**イッセー視点**

 

 

 

「……リアス先輩」

「部長でいいわ、イッセー。彼には酷なことをしたわね」

 

 あんなに落ち込んだ双葉を見たのは久しぶりだった。

 アイツはいつも余裕があって誰にでも優しい。

 兄である俺が言うのもなんだけど自慢の弟だ。

 俺と違って羽目を外すことも少ないし、友達もそれなりに多い。アイツ自身気づいていないが、結構学校では評判が高い。

 いや、兄である俺がひどすぎてまとなあいつが結構高く見られるんだが、弟が褒められているのを見ると俺としちゃ結構嬉しい。

 

「いい子ね」

「大丈夫でしょうか……彼、凄い落ち込んでましたけど」

 

 落ち込むよなぁ、俺とアイツの立場が違えば俺もあぁなると思う。

 あっ、そういえば。

 

「部長、双葉には 神器(セイクリッド・ギア)は」

「無かったわ。安心して、彼は純粋な人間よ、それだけは保証できるわ」

 

 ホッと一息つく。

 良かった、アイツまで 神器(セイクリッド・ギア)を持っていたら俺は全力で守る……守れるかわかんないけど絶対に俺みたいなことにはしないつもりだ。

 

「でも、彼ね。天野夕麻、あの堕天使に目を付けられてるのよ」

「えっ、じゃあ危ないんじゃ」

「そうね。だから気づかれないように彼には私の使い魔を付けさせてるし、学校にいる時は小猫と朱乃が気を配ってくれるわ」

 

 小猫ちゃんと姫島先輩がこっちを向いて手を振ってくれる。

 安心するがあいつ、なんだってそんなことに。

 

「あなたを傷つけられて怒っていたんでしょうね。中々出来ないことよ、堕天使に喧嘩売るなんて」

 

 あぁ、あいつホント自分に近い奴の悪口聞いただけで怒るからなぁ。

 

「アイツ、喧嘩っ早いところありますから」

「えぇ、昔から誰かを放っておけないって言ってよく人助けしてましたっけ」

 

 そうそう、アイツがウチに来て暫くしてから、人助けって称していじめっ子をフルボッコにしてたっけ。

 中学辺りではちょっと不良の道に入りかけてたけど……んん?

 

「もしかして姫島先輩って昔の双葉知ってるんですか?」

「えっ、えぇ、昔ちょっと知り合ってて、それでここで再会出来たのが嬉しくて」

 

 へえ、じゃあ、昔のアイツを知ってるのか、今度詳しく聞いてみよう。

 

「じゃあ、イッセーいい? ここから悪魔について詳しく話すわ」

「はい! よろしくお願いします!」

 

 その後、俺は部長から悪魔の仕事やハーレムについて聞かされることになる。

 なんでも悪魔の仕事を順当にやっていけばいずれは酒池肉林のウハウハハーレムも夢じゃないらしい。

 ……ただ、悪魔になった俺は人よりも寿命がかなり伸びたらしく、双葉とともに老いていけないと言われたのが無性に悲しかった。

 

 

 

 

**双葉視点**

 

 

 

「はぁ……」

 

 ここ最近はため息をつく回数が増えたと思う。

 行く宛もなく街をブラブラと歩く。危険なのは分かってるが家にいるほうが気が滅入りそうだった。

 両親には遅くなると連絡を入れた。

 今は散策にも飽きて、あの町外れの公園に来ていた。

 

「……」

 

 ここでイチ兄は一回殺された。

 あの後何度も足を運ぼうと思ったが堕天使に見つかるのではないのかと思って来なかった。

 なんで今来たのか俺にもわからない。

 気まぐれにしては無謀すぎる、まるで殺してくださいと言っているようなものだ。

 いや

 

「死にたいのか、俺は」

 

 ふと思った。

 死ねば、イチ兄と同じ悪魔になれるんじゃないかと。

 普段なら馬鹿な考えだと思うが、今は少し俺がおかしかった。

 変わらないと思っていた物が変わるというのは思った以上に心にダメージを負うらしい。

 ……友人たちからよくブラコン扱いされたが、笑えねえわ。ホント重度のブラコンだよ。

 

「にゃあ」

「ん? おぉ、クロ珍しいな」

 

 ふと俺の膝に飛び込んできた一匹の猫がいた。

 俺は勝手にクロと呼んでいる。

 昔、傷だらけだったクロとあれ以来見ていないが白い子猫を保護したことがあった。

 元気になった二匹はいつの間にかいなくなったが、こうしてクロだけはたまに俺に会いに来てくれる。

 こんだけ懐いてくれるなら家で飼いたいくらいだ・

 

「にゃぁ~」

「悪いな、今日は猫缶ねえんd……あいたーっ!?」

 

 ふしゃーっ! という声とともに繰り出される猫パンチで俺はベンチからひっくり返る。

 

「悪かった、悪かったって! てかお前、神出鬼没だから常時猫缶なんてもってねえんだよ」

「ふーっ! ふーっ!!」

 

 すげー、怒ってる、ハッキリわかる。

 何かないかと頭のなかでサーチしていると、クロの顔に赤いシミができていたのに気づいた。

 

「うぉ!? クロ、どうした怪我か?」

「にゃっ」

 

 ちげーよ、と言いたいのかやれやれというジェスチャーをしてきた。

 たまにお前、人間の言葉わかってんじゃんねえのと思う時が多々ある。

 とりあえず持ってたハンカチで拭いてやる。

 

「にゃっ! にゃああああ!!」

「こら動くな! 動くなこら!! 暴れんな!」

 

 数分の格闘の末、シミを取り除くことには成功したが思った以上にべっとり付いていたらしく、ハンカチが血まみれになる。

 何したんだ……あっ、ネズミでも狩っていたのかな?

 

「ハハハッ……なぁ、クロ。親しい人が変わっちまったらさ、どうしたら良いのかね」

 

 猫に何いってんの? と言われそうだが誰かに愚痴りたい気分だしクロなら聞いて……あっ、畜生逃がすか!

 お前の弱点は知ってんだよ、おら! 首筋をツゥーっと撫でると……。

 

「ふにゃああああん」

「ヌハハッハ! 何年お前と付き合ってると思ってんだ弱点まるわかりなんだよ!」

 

 そうしてじゃれついていると気持ちが段々と軽くなっていく。

 あぁ、やっぱ動物は良いな……小猫もたまになんでか頭をくいってやって撫でるように催促してくんだよな。したらクラスの男子連中に吊し上げにされそうだからやらないが。

 ……うん、すっきりした。

 

「あんがとな、クロ。お前を飼いたいけどまたどっかいくんだろ?」

「にゃあ」

 

 せやでと喋り出しそうな風に返事するクロを見て、俺は苦笑しながら立ち上がる。

 クロは器用に回転しながら、地面に降り立つとにゃあと一声鳴いて茂みの中へ走って行ってしまった。

 

「ったく少しは……あれ?」

 

 ふと座っていたベンチを見るとあのハンカチがない。

 どうやらクロが持って行ったらしい……が大丈夫だろうか? アイツ、首輪付けてるから飼い主いるんだろうけど倒れないかね、あんなもんもって帰ってくるとか。ネズミ持ってくるほうが怖いが。

 

「んんー、なんか体の調子もいいなー」

 

 結構長い時間座っていたはずだが体が固まっている様子はない、むしろ調子がいい。今なら空すら……は無理だがフルマラソン程度なら走れそう。

 クロと会うといつもこうだが、これが動物のリラクゼーションというやつなのかもしれない。

 とりあえず気持ちの整理も出来たので明日、リアス先輩たちのもとに顔を出そう。

 

 

 

 

**??視点**

 

 

 

「久しぶりにあえて良かったにゃー……スンスン」

 

 あの子の匂いがついたハンカチを嗅ぐ。

 すでに血は洗い流して、あの子の匂いがほのかに香るだけだ。

 

「にしても、何したんだが堕天使に狙われるなんて」

 

 地面に転がったゴミクズを蹴り飛ばしながら舌打ちをする。

 久々に会いに来たらこのゴミクズが、槍を飛ばそうとしていたので思いつく限りの術を打ち込んだ。

 理由は聞く必要はない、あの子を傷つけようとする。それだけで殺すには十分。

 

「タイミングが良かったのか悪かったのか」

 

 もっと触れ合いたいが生憎の事、私は忙しい身。

 暇を見つけてはあの子を見守っているが我慢できなくなると猫の姿であの子と触れ合う。

 本来の姿で隅々まで触れ合う、もとい前後したいがそれは我慢する。

 あの子をこちら側に引き込んではならない。

 

「……」

 

 あの子は妹と会っているようだ。微かにマーキングされているのを感じた、こちらの匂いにも気づいているだろう。

 まぁ、妹は今は猫ではないため向こうは気づいていないようだけど。

 数年前、とある理由で傷ついていた私達姉妹を優しく介抱してくれたあの子に私は惹かれた。

 けれどもあの子には過度には干渉しないと決めている。

 力ないものが関わったら死ぬ、そんな世界で生きている私とあの子は吊り合わない。

 でも、今回の事で少し期待もしている私もいた。

 もしも、だ。もしもあの子がこちら側に踏み込んできたのなら、もしもあの子が力を手に入れたら、もしも本当の私と会えたのなら。

 

「……ハネムーンが楽しみにゃ」

 

 そんな妄想をしながら足元のゴミをぐちゃぐちゃと踏み潰す。

 一通り、主に人生設計を考えて少し濡れてしまったが関係ない。というか首筋をツゥーっとされた時、ほぼイキかけました。

 さて、そろそろ帰ろうかしら。

 

「それじゃあね、双葉♪」

 

 私は転送陣で帰った。

 後日、これがバレてしこたま怒られたのは完全な余談にゃ。

 

 

 




某猫の方が想定してるメインヒロインよりも描写長いってどういうことなの……。
正直、ツートップで好きなキャラだからしょうがないね。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。