ハイスクールD×D 黄金騎士を受け継ぐもの   作:相感

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エクス……カリバァアアアアアッ!!


約束された勝利の剣

「聖と魔を、ありえん……いくら禁手だとしてもこの二つは決して混ざり合うことはないッ!」

 

 バルパーが何か言っているが俺は無視して、拳を振るう。

 黄金に輝いた拳はバルパーの顎を捉えると、少し当てただけで奴の意識を刈り取る。

 ……師匠を殺したほうが良いんだろうな、だけどコイツを殺す訳にはいかない。罪が重すぎる。

 こいつは人の手で裁かないといけない。

 

「お前は殺さない。惨めに、未練たらしく生き続けろ……死んで逃げられるほど、お前がしたことの罪は逃れられんぞ」

「……ならば貴様もそうだな、黄金騎士よ」

 

 バルパーの体を拘束し、ゼノヴィアに投げ渡そうとしているとコカビエルの怒りに震えた声が聞こえた。

 いつの間にか椅子から立ち上がっていたのか、奴は地に足をつけてこちらを睨みつけていた。

 あぁ、そうだろうさ。俺の鎧は輝かしい輝きの一方でどす黒い闇も背負っているんだろうよ。

 

「まだアルトリアさんのことを想っているのか、コカビエル」

「ッ!! 貴様がッ、貴様がその名を口にするなッ!!」

 

 極太の光の槍が俺に向かって打ち込まれる。

 だが俺は牙狼剣を抜き放ち、斜めに切り裂いて打ち消す。

 ……あの子達の想いが俺をこんなにも強くしてくれた。

 激痛が俺を襲った。苦しくて、痛くて、死んでしまいそうなときに子どもたちの無邪気な声が聞こえた。

 もう体もないのに、もう生きていないのに、彼らは無邪気に黄金騎士に会えたことを喜んでくれた。

 因子の結晶を体に埋め込まれ、彼らの記憶が俺の中に広がった。

 痛ましい実験の数々、仲間たちとのほんの僅かな安らかな時間、そして聖剣への憧れ、全てが見えて俺は涙を流した。

 辛かっただろうに、苦しかったろうに、怖かっただろうに……。

 

 ――――泣いてくれるの?

 

 誰かがそう言った。

 幾らでも泣いてあげたかった、でも今は立ち上がる力が欲しいッ!!

 

 ――――痛いよ? 苦しいよ? それでも立つの?

 

 あぁ、何度だって立ってやる。

 だって俺は黄金騎士なんだから、君たちが憧れたあの黄金騎士なんだ! 何度倒されたって起き上がって剣を振るうんだ。俺は……君たちを守れなかったけど、君たちの想いを守るために戦う。

 

 ――――ありがとう、牙狼。

 

 あの子達の声援と歌で、俺は立っていた。

 そしていつの間にか、金色を取り戻した鎧を身にまといフリードを圧倒していた。

 今まで感じたこともない力とあの子達の想いが、この鎧を生成してくれた。

 

「忌々しい金色の光め。出力的には先代と同等レベルか」

「……お前も分かっているだろう。あの時、アルトリアさんを救うにはあぁするしかなかったと」

 

 皆が困惑している雰囲気を感じるが、仕方ないか俺だってご先祖様がいわなきゃ知ることがなかったし。

 コカビエルは不快そうに鼻を鳴らすと俺を睨みつける。

 

「しかし、何故貴様が彼女のことを知っている」

「英霊に過去の映像を見せられたんでな」

「なるほどな……ならばわかるはずだ、私は止まらん。彼女は俺の光だった、俺の希望だった、それを失った世界に未練などないッ!!」

 

 わかるさ、痛いほどわかる。

 お前はアーシアを失った時の俺と同じだ。全てを投げ打ってでも全てを、目の前の敵を切り裂きたいと思っていた俺と同じさ。

 

「だけど、だからって誰かを巻き込んでいいはずが無いだろうッ!!」

「ならば彼女を殺して良いのか。救えないとわかったから殺すと!? 何が守りし者だ! この偽善者がッ!」

 

 コカビエルが腰の剣を抜き放つ。

 抜いた衝撃波が俺の体を打つ……真っ黒な剣だった、この世の悪意を塗り固めて作ったような黒い刀身。

 俺にはアレが見覚えがある。

 

「エクスカリバー!?」

「馬鹿な!? ではアレは失われた七本目! 『支配の聖剣(エクスカリバー・ルーラー)』なのか! だが、あの禍々しさは一体」

「違うな、教会の聖剣使い……貴様達は破片となったエクスカリバーを別々に修復したのは何故だと思う? 元々一つだった聖剣を分割して修復した理由を考えたことはなかったのか? いや、修復できなかったと言えばわかりやすいか?」

 

 ゼノヴィアの顔が驚愕に染まるが、それは皆も同じだ。

 修復できなかったから分割した? ……そうか、あの剣はそういうことなんだ。

 

「あぁ、そうか。足りなかったんだ、修復するには刃の破片だけでなく柄も必要だったんだ!」

 

 あの時見た映像では、柄の根元からポッキリと折れたエクスカリバーが見えた。

 そうだ折れた破片から作られた七つのエクスカリバー、でもどうして柄を再利用しなかった? アレだけの柄だ、ただのなまくらをはめ込んでも並みの聖剣以上の性能は発揮できるはず!

 なのにしなかった、いや出来なかった。コカビエルが回収したから!

 

「そうだ。これは八本目の聖剣(エクスカリバー)。『堕天の聖剣(エクスカリバー・フォールン)』……数百年かけて心血を注いで修復したこれは、オリジナルである彼女の聖剣と遜色はない!」

「なら、もう一度叩き折ればいいだけの話だ! そしてあんたを止める!!」

 

 俺は牙狼剣をザルバの口に噛ませ、砥がせるように引きながら構える。

 その隣に、師匠が立つ。

 

「双葉くん、キミはまた一人で戦うつもりかい?」

「んなことさせるかよ、この馬鹿野郎」

 

 イチ兄! でも、この戦いは生半可なものじゃない。

 イチ兄たちは悪魔だ。聖剣と光の槍が使えるコカビエル相手にはその一撃一撃が必殺と言えるほどに、悪魔とは相性が悪い。

 誰ひとりとして死んでほしくない、だから――――。

 

「自惚れないで、双葉。あなたは一番弱かったのよ? それにここは私達の学園、あなた一人に任せられません」

「そうですわ。双葉くん? あなたは黄金騎士ではありますけど人間、簡単に死んでしまうんです……無茶はしないで」

 

 リアス先輩、朱乃先輩が前に出て、滅びの魔力と雷撃を拳にためていく。

 

「双葉は馬鹿です、向こう見ずで考え無しで……残された人たちの気持ちも考えてください」

「双葉さん……怒るのは後にします。回復は任せて下さい、私にはコレしか出来ません」

 

 小猫、アーシア……お前らまで。

 皆が横一列に並ぶと、コカビエルは腹を抱えて笑い始めた。

 

「しかし、貴様らには中々感心させられるよ。仕える神を失い、それでもなお戦うか」

「魔王さまたちは死んだわ。けれども私たちは生きていく!」

「そうではない……そこの少女に言ったんだよ」

 

 仕える神を失った? ……ゼノヴィアが仕えているのは聖書の……まさか、そんな馬鹿な事があってたまるか!!

 リアス先輩を見ると驚愕で口を開けていた。

 

「まさか……」

「そう、そのまさかだ! 先の三つ巴の戦争で四大魔王と神は死んだのさ!」

 

 ゼノヴィアは構えていた剣を取り落とし、膝をついてうなだれた。

 いつもなら気丈に振る舞うが、聖書の神同等、聖書に記された堕天使の言葉は重い。

 いや、ゼノヴィアだけじゃない。アーシアも師匠も力なくうなだれている……当たり前だ、二人は人生のほぼ全てを神に祈っていた。

 それがいないと知ったらどうなるだろうか? 人の心の支えになる神がいないとしたら今の協会が歪なのも納得がいく。

 

「知らないのも当然だ。あの戦いで多くのものが死んだ。被害が少ない堕天使も主だった幹部以外は死亡、悪魔も魔王を含めた上級悪魔の大半を失い、天使は神を失った。何故あの戦争が終わったかわかるか? もはや種の存続すら危ぶまれたからだよ。黄金騎士が黄金を解き放ったのも、傷ついた神がニ天龍に殺されかけた時だからな!」

 

 言葉が出ない。

 そこまで追い込まれていたとはリアス先輩も知らなかったのだろう。

 だが考えてれば辻褄が合う。アーシアが救われなかった理由、悪魔の駒という悪魔を増やすための手段、この非常事態に天使がやってこなかった理由、そして師匠の聖魔剣の誕生。

 その全てがこの世を作った神がおらず、三大勢力の力が弱まっていたのならば全てに説明がつく。

 

「だが私にとっては都合がいい。神がいないのならばまたやり直せばいい。そうだろう? 導き手がいなくなった世界など歪なのだからな! 私のやろうとしていることは復讐ではない、世直しだ!」

「主が、主がいない……嘘です、そんなの嘘です……」

 

 崩れ落ちるアーシアをリアス先輩が受け止める。

 だがその目は虚ろで、嘘という言葉をずっと繰り返していた。

 ゼノヴィアも……ダメだ。あれでは戦えない、むしろ信者である彼女にとってはどんな武器よりも今の言葉は効くだろう。

 信じていたものがいない、それを言われて戦えるほど人は強くない。

 だけど悪いな、俺は神様嫌いでね!

 

「ほう、まだ戦うか?」

「当たり前だ。神なんてどうでもいいんだよ、俺は……てめえだってそうだ、世直しなんて考えてねえんだろ? ただアルトリアさんを失った悲しみを消してしまいたいからこの世界が嫌いなだけだ」

 

 剣を構えて俺は飛び出し、コカビエルと打ち合わせる。

 コカビエルは驚愕しながらも、怒号を発する。

 

「何故だ! 何故戦うッ!! 神はいないんだぞ! この世界には救いはない! それでもなお戦おうとするのか!」

「当たり前だと言っているッ!! 救いなんか無くても俺たちは生きてきたッ!」

 

 父さんや母さん、この世に生きていく人たちの大半は悪魔や天使、堕天使なんか知らずに生きていく。

 剣を打ち合わせ、拳を交わしながら俺たちは戦う。

 長く生きたせいか、それともコカビエルに剣の才能があったのか分からないが俺は徐々に押し込まれていく。

 フリードの攻撃を受け止めたこの鎧も、堕天使の幹部の攻撃には耐え切れないのか衝撃が俺の体を襲う。

 

「悪魔に染まりきったのか、黄金騎士」

「違うッ! 俺は人間だ! 剣を振って、鎧を纏える人間だッ!」

 

 右腕の装甲に施された刃で堕ちた聖剣を受け止めながら叫ぶ。

 そうだ、俺は人間だ。これからどうなろうとも、俺は人間だ!!

 

「苦しくても、悲しくても、俺達は前に進んできたッ! 今更神様がいないで泣いてられるかッ!」

「馬鹿な! 管理できない物は滅ぶのが定めだ! 貴様も見てきただろう! 人間の身勝手! 悪魔の身勝手! 我々堕天使の身勝手で簡単に人は死んでいく! 貴様は神にでもなろうというのか? 思い上がるな、人間!!」

 

 右腕が弾かれ、俺の体を聖剣が切り刻んでいく。

 装甲に守られているため、直接体を切り裂かれることはないが衝撃を受け続けた俺はせり上がってきた血を我慢できずに口から吐き出す。

 最後に光の槍を打ち込まれ、体が宙に浮かび地面を無残に転がる。

 

「双葉ッ!!」

「貴様一人でどうにか出来ると思っているのか? ふざけるな! その手は、その剣は、その鎧は数々の者たちを切り裂いてきた呪いの鎧だ! 人々を守る? 世界を平穏をもたらす? ふざけるな!! 愛するもの一人守れずに何が守りし者だ!!」

「……それでも、俺は牙狼だ。黄金騎士なんだ。誰かを守り、戦うのが俺の運命(定め)だ!!」

 

 傷だらけの体を必死に鞭打って立ち上がらせる。

 リアス先輩たちが駆け寄ってくる。

 

「もういいの! もういいのよ!! あなたは十分やったわ! あとは私たちに任せて休んで!」

「あぁ、そうだぜ双葉。俺も禁手になってやる、十秒間だけ無敵になれるあれを使うさ」

「ダメだ……アイツは俺が倒さなきゃダメなんだ」

 

 アイツがあぁなったのは全部、黄金騎士のせいだ。

 本当に大事だったんだろう。かけがえのない代えがたい者であったんだろう。

 事情があっても、牙狼(先代)はそれを斬ってしまった。それは変えられない事実だ。

 悲劇が悲劇を産んで、結果こうした悲劇を起こそうとしている……なら俺はその尻拭いをしなくちゃならない。

 

「どうしてなの、なんであなたはいつもそうなの! ボロボロになって、私達を心配させて! なんで必死に守ろうとするの!」

 

 いつものお姉さま口調が消え、泣きながら朱乃先輩が叫ぶ。

 そうだろうな、多分昨日までの俺にも理解できないと思っている。

 でも俺は触れたんだ、あの子達の想いに、先代の無念の想いに。

 

「俺は牙狼、黄金騎士。人々の希望を切り開く魔戒騎士だ……そうあの子達と約束したんです」

『小僧、そう頑なになるな。強くなったせいで目が曇ったか? お前さんはいつだって誰かの力を借りて勝ってきた』

 

 ザルバ……でも、アイツの顔を見たら皆に力借りる気持ちも吹き飛んでしまったんだ。

 アイツの苦しみも、痛みも、俺が引き受けなければ……。

 

『それこそ思い上がりだ。お前さんは弱いといつも言っているだろう……それに、お前さんに力を貸そうとしている奴はまだいるらしいぜ?』

 

 何言っているんだ? これ以上?

 そう思っていると砕けたエクスカリバーの破片から金色の光がポツポツと溢れだした。

 

「な、なんだ!?」

「これは……彼女の光?」

 

 コカビエルが驚愕の声を出す。

 そうしているとエクスカリバーの光が校庭を覆い尽くした。

 

 

 

****

 

 

 

 目を開けると何もない草原が広がっていた。

 気が付くと、俺の鎧は消えいつもの制服姿で立っていた。

 ……なんだここは?

 

「ここは……どこだ」

 

 ふと前を見ると、同じように呆然としているコカビエルが見えた。

 だがなぜだか、俺たちは構えること無くただ呆然と立っていた。

 そんな時だった、太陽を背に誰かが歩いてくるのが見えた。

 ふんわりとした白い服に、柔和な表情に緑色の瞳、そして肩口にかかる金髪……誰だろうか? と思っているとコカビエルが泣き崩れた。

 

「アル、トリアァ……」

「えっ!? この人が!?」

 

 あれ? 映像で見た時はもっと肌が白くて、眼の色も金色だったような?

 それにこんな柔和な表情を浮かべる人だったのか……というか俺と変わらないくらい若いんだが。

 

「初めまして、ですね。私の名前はアルトリア・ペンドラゴン。かつてアーサー王と呼ばれていた者の末裔です」

「どうしてだ、アルトリア! お前の魂は聖杯に汚染され、無に帰したのではないのか!!」

 

 そうだ、そうだったこの人は聖杯を魂まで汚染されきったんだ。

 ならば魂が反転して魔になっていてもおかしくない……だからか、コカビエルがこんなに悲しんだのは、彼女が二度と転生しないと分かったから。

 そりゃあそこまで憎むわな。

 

「えぇ、ですが私の魂の欠片はあの聖剣に宿っていたのです……汚染されきった柄には残っていなかったのですね」

 

 悲しそうに目を伏せる彼女を、コカビエルは触れようとするが一定の距離から近づくことが出来ない。

 虚しく宙を掴み、コカビエルは涙を流す。

 

「何故だ、何故触れさせてくれない。俺の手が汚れているからか? それともお前が俺を拒否しているのか?」

「違いますよ。私は死んだ存在、そしてあなたたちは生きているんです。生と死、これらが合わさることは本来あってはならないのです」

「アルトリアさん……」

「ありがとう、今代の黄金騎士……いいえフタバ、と言っておきましょうか。あなたは立派です。騎士としての務めを十二分に果たしている。けれど、難くなって力を借りようとしない姿は先代とよく似ている」

 

 懐かしむように俺に微笑む彼女の姿は見惚れるほど美しかった。

 コカビエルはうなだれ、許しをこうように膝を着く。

 

「アルトリア、俺はどうしたらいいんだ……どうしていたらよかったんだ。許せばよかったのか? お前を殺した黄金騎士を。それとも俺も死ねばよかったのか?」

「……いいえ、あなたはあなたの心の思うままに生きた。やってきたことは許されることではありません。けれど、あなたは私の分までしっかり生きてくれたじゃないですか」

 

 ゆっくりと歩き、アルトリアさんはコカビエルを優しく抱きしめる。

 コカビエルはまるで赤子のようにアルトリアさんの胸に顔を埋めると声を出して泣き叫んだ。

 アルトリアさんは優しくコカビエルの頭を撫でながら、こちらを向く。

 

「……彼の悪しき気持ちは私が持って行きます。ですからあなたは表のあの人を思いっきりぶん殴ってください」

「いいんですか?」

「ええ、間違った子は説教しなきゃダメなんですよ」

 

 にこやかに笑う彼女につられて、俺も苦笑する。

 まるでお母さんみたいだな、この人。

 

「でも勝てますかね」

「勝てますよ……あなたには仲間がいます。そして犠牲になった子たちの想いと私の想いが力を貸します。足りなくてもいいんです、一歩ずつゆっくりと歩きなさい。力を求めれば私のように破滅します」

 

 ……そうか、この人は力欲しさに聖杯に手を出してしまったんだ。

 アルトリアさんの手から金色の光を出して、それを俺の胸に投げる。

 

「……もしも、聖杯を持つものと会ったら救ってあげてください。アレは人を不幸にします、すいません、頼みすぎですよね」

「いいんです、生きている奴らは踏ん張らないとあなたたちが静かに眠れない」

「ふふっ、威勢のいいセリフですね……あの人、そっくりだ」

 

 次第に視界が白くなっていく。

 ま、待ってくれよ! まだ話したいことがあるんだ!!

 

「行きなさい黄金騎士。私はここ全て遠き理想郷(アヴァロン)で見守っています。……さようなら、誰よりも優しくて、未熟な騎士よ」

 

 

 

****

 

 

 

「ッ!!」

 

 意識が戻った時、俺は手にある牙狼剣を見て驚いた。

 あの時見た、長剣。聖剣エクスカリバーになっていたからだ。

 

「な、なんか光が集まってさ。牙狼剣がいつの間にか形を変えてたんだよ」

「そう、か……」

 

 力を貸してくれるってのはそういうことなのか。

 よく体を見ると装甲も一部変化していた。

 銀色の胸当てに各部に、銀色の装甲が取り付けられており、背中には青い大きなマントがひらひらとそよいでいた。

 ……感じます、アルトリアさん、力を貸してくれたんですね。

 

「……黄金騎士、アレは夢だったのか?」

 

 呆然と泣きはらした目でこちらを見るコカビエルは問いかけてくる。

 ……あぁ、そうだよ。

 

「あぁ、あれは夢だよ。ここの場で起きた優しい夢(希望)だ」

「そうか……そうだな、彼女は幸せなのだな」

 

 握っていた剣を降ろして、先ほどからは想像の付かないほど穏やかな顔でこちらを見るコカビエル。

 だが、それも一瞬であり次の瞬間には剣を握り締めこちらに黒い斬撃を放ってきた。

 

「コカビエルッ!!」

 

 俺はマントを手で持ち体を覆うように巻きつける。

 すると手品のようにマントは黒い斬撃を吸収し、打ち消してしまった……すげえな、これヒラ◯マントかよ。

 斬撃を撃ったコカビエルは泣きながら、俺に叫んだ。

 

「止まれんのだ。理屈では消せないこの恨み、辛さ、後悔ッ! お前にはわかるまい! 何もかも失っていない貴様にはな!!」

「……それが分かっているのになんで止まらないッ! あの人はもう戦いを望んではいないんだぞ!」

「理不尽に怒るのが人間なのだろう? ならば堕天使も同じことだったという話だッ!!」

 

 十枚の羽を広げ、コカビエルは俺に力の波動を当てる。

 ……アルトリアさん、すいません。ぶん殴るどころじゃすまないかもしれない!

 

「俺が……いや、皆ッ!!」

 

 俺は後ろで立つ仲間たちに声をかける。

 

「俺一人じゃアイツは無理だ! だから、力を貸してください」

「……遅すぎんだよ、双葉。行くぞ、ドライグ!!」

『おうっ! 存分に俺の力を使え、この場にあふれる力でお前も限定的だが禁手になれる!!』

『Welsh Dragon over booster!!』

 

 イチ兄の体が赤い鎧に包まれ、凄まじい力を感じる。

 明らかにライザーの時に使われた禁手よりも強力だ。

 

「双葉、あなたには言いたいことがあるのよ。さぁ眷属たち、黄金騎士と赤龍帝に負けないくらい暴れるわよ!」

「ええ、部長。……私も本気を出します!」

 

 まずリアス先輩と朱乃先輩の滅びの魔力と雷撃……いや違う!? 雷撃の中に何か別の力を感じるぞ。まるで光の槍のような聖なるオーラだ。

 

「魔王の妹とバラキエルの娘かッ! この程度で倒れると思っているのかッ!!」

「うるせえ! だったら赤龍帝も追加だ!!」

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost』

 

 凄まじい速度で突貫するイチ兄に、コカビエルは驚きながらも斬撃で迎撃しようとするがその前に師匠が降り立ち、聖魔剣でエクスカリバーと打ち合う。

 

「ぐぅっ、これが禁手に至った者の力。いや俺が踏みにじってきた者の力か」

「そうだ! お前がゴミのように扱った者の底力だっ!!」

「俺も忘れんな、クソ堕天使ぃいいいいっ!!」

 

 イチ兄の一撃がコカビエルに突き刺さる!!

 態勢を崩しながら、血反吐を吐く限りかなり効いたらしいな。

 ほんとすげえわイチ兄、爆発力が半端ねえ。

 

「ぐぅっ、未熟な赤龍帝と思ったが中々骨のあるパンチをするではないかッ!!」

「うわっ!」

 

 拳を放ったイチ兄の手を掴むと、コカビエルは光の槍を連射しイチ兄の鎧を砕く。

 血を吐きながら吹き飛ぶイチ兄は地面に横たわる。

 しかし、そこにアーシアが走り寄り、回復のオーラをイチ兄に送り回復させる。

 

「双葉さん、言いたいことは沢山あります。怒りたいことも沢山あります……でも今は行ってください、それが魔戒騎士なんですよね?」

「アーシア……」

「主がいないのは悲しいことです。でもよかったと思っています……主は私を見捨てていなかった、この事実だけで私はあの方に祈りを続けられます」

 

 アーシアは無理をして笑っているのがよく分かった。

 だけど、その言葉に押されて俺は足を踏み出し師匠と共にコカビエルと打ち合う。

 

「ぬぅうううっ!?」

「行くよ! 双葉くん!」

「死なないでくださいよ、師匠!!」

 

 さすがに俺たち二人をさばききれなくなったのか。

 コカビエルは開いている手に光の剣を形成し、俺達と打ち合う。

 だがコカビエルの力量は相当なものだった。並みの魔剣以上の強度を誇っているだろう聖魔剣を師匠の心の隙を見ながら破壊していくのだ。

 だが師匠も負けじと聖魔剣を作成し続け、食い下がっていく。

 

「若いな、お前たちは……だがそんな力ではこの先は進めんぞ!! いつか壁にあたり、絶望に身を落とす。かつての俺のようにな!!」

「違うッ!! あんたには仲間がいなかったからだ!!」

 

 瓜二つの剣を重ねながら、俺と師匠、コカビエルは鍔迫り合いの形で叫び合う。

 

「仲間、か。そんな甘い言葉で歩いていけるほど世界は優しくはないぞッ!!」

「んなもん分かってんだよ! だけどな、その先が闇だからって、絶望が待ってたって歩みを止めたらそこで終わりじゃないかッ!」

「僕は一度絶望しかけた! けれども、同志たちのため! 僕は明日を生きるッ!!」

 

 二つの聖剣が呼応するように光り輝く。

 一つは金色の優しい光、もう一つは暗黒の全てを塗りつぶすような光。

 そんな中、白いオーラが俺の手に重なった……ネコミミモードの小猫の手だ。

 

「双葉、私の力も貸します。……私は浄化の力も持っています、今はまだうまく使えませんがそれでも効果があるはずです」

 

 小猫の言うとおりだったらしく、黒い光が徐々に勢いを弱めていった。

 そして鍔迫り合いをしていく中、リアス先輩と朱乃の先輩は二人の魔力を融合させ、頭上から滅びと雷光を帯びた球体を発射した!

 

「ぬぉおおおおおおっ!? 出力が上がっている! 赤龍帝の力か!」

「違うわ! この場から溢れだす牙狼の、いいえ犠牲になった子たちが私たちに力を貸してくれている!!」

「私はこの力を使いたくなかった。でも、あなたを倒すためなら私は使う!」

 

 徐々に先輩たちの魔力弾と雷光の威力が上がっていく。

 譲渡をしていないのにも関わらず、先ほど譲渡したのと同等以上の出力が出て、コカビエルの体を傷つけていく。

 

「……うわああああああああああああああっ!!」

 

 叫び声が聞こえた。

 振り向くとうずくまっていたゼノヴィアが全身を震わせて、天に吠えていた。

 

「ペトロ、バシレイオス、ディオニュシウス、そして聖母マリアよ。我が声に耳を傾けてくれ!!」

 

 空間が歪む。そしてゼノヴィアはその中心に手を無造作に突っ込むと、何かを勢い良く引き出した。

 手に握られているのは本家エクスカリバーと同等の一本の聖剣。

 

「この刃に宿りしセイントの御名において、我は解放する。――――デュランダル!」

「馬鹿なデュランダルだと!? お前は……いや、そうかお前は天然物だな!」

 

 巨大な刀身を振り回し、ゼノヴィアは縦に構える。

 

「あぁ、そうだ。私はデュランダルの使い手だ。そうだな、神がいなくても、いやいないからこそ私たちは戦う! 残された者として主のために戦うのが我ら信徒の役目!! ……だが私はこの剣を今、この瞬間だけは主のためには振らない。大切な友のため、命を救ってくれた黄金騎士のために敵を切り裂くッ!!」

「全てを切り裂く聖剣か……だがこちらの剣も負けてはいないッ!!」

 

 コカビエルから波動が打ち出され、小猫と師匠が吹き飛ばされる。

 俺も足を踏ん張るので精一杯だ。なんつう力だよ、これが幹部か。

 ドライグが関心したような声を出す。

 

『もはやアザゼル並みと言ってもいいだろうな。ここまで強くなるとは相当修行したらしい』

「そのアザゼルってやつが誰だか知らねえけど、ぶん殴ればいいんだろドライグ!」

「イッセー!! おもいっきりやりなさい! そ、そして勝ったらなんでもしてあげるわ!」

「マジですか!? じゃあおっぱい吸ったりしても!」

「ッ~~~~~~!! それで勝てるなら良いわよ!!」

 

 ゴォオオオオオオオオオオオオオッ!! とイチ兄の体から莫大なドラゴンのオーラが溢れだす。

 馬鹿だろ!! アホだろ!! アホだったわ!! シリアスだった雰囲気返して!! 皆も、コカビエルすらポカーンとしてるじゃねえか!!

 あぁあああああ、なんでおっぱいになるとこうウチの兄はこんなにも本気になるんだよ!!

 

「おぉおおおおっ!! 吸える、吸えるんだ!! よっしゃ俺のために倒されるコカビエルゥウウウウウ!!」

「……馬鹿な、乳房だけでドラゴンの力を開放する者など聞いたことがない」

「認めたくない気持ちはわかる。だがアレが今代の赤龍帝にして、ウチのバカ兄貴の兵藤一誠だ!!」

『うぉおおおおん!! もうどうにでもなれえええええ!!』

 

 泣いてるよ、ドライグ号泣しちゃってるよ!!

 誰だよ、イチ兄にブーステッド・ギアなんて持たした奴は天下のニ天龍の片割れが号泣してるよ!!

 あぁ、畜生!! もうやってやらああああああああ!!

 

「行くぞ、イチ兄ぃいいいいっ!!」

「うぉおおお、おっぱいぃいいいいいっ!!」

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost……over boost!!』

 

 地面を蹴り砕いた赤い衝撃波がコカビエルに激突し、吹き飛ばした。

 うっそー……出力的には今の俺以上なんですがコレは。

 俺は正統派パワーアップしてるのにおっぱいの欲望に負けるのか……。

 

『ドライグ、お前……』

『言うな、聞くな、見るな、うぉおおおおおおん! うぉおおおおん!!』

「これは酷い」

 

 カオスだよ、一瞬で場の空気がギャグになったよ。

 恐ろしき赤龍帝、いや乳龍帝?

 

「今度は私の番だ……はぁあああああっ!!」

 

 ゼノヴィアのデュランダルから……なんかビームが出たぁああああああああああああ!?

 あぁ、聖なるオーラを開放してんのか!

 光り輝く一撃は起き上がったコカビエルに見事直撃する!

 直撃した聖なるオーラはコカビエルを巻き込み、大爆発を起こす。

 デュランダルを振り終えたゼノヴィアは肩で息をしながら、デュランダルを時空の歪みにしまう。

 

「すまない。今の私ではこのじゃじゃ馬を簡単に扱うことが出来ないんだ……だが、今まで最高の一撃が放てたよ」

 

 スッキリした表情で笑うゼノヴィアに、俺はサムズアップしながら牙狼剣……いや『牙狼の聖剣(エクスカリバー・ガロ)』を構える。

 ……これで終わらせようぜ、コカビエル。

 霧が晴れるとコカビエルも似たような事を考えていたのか、同じように上方で剣を構えていた。

 その刀身に金色の光が集まっていく。

 

「……終わりにしよう、黄金騎士。お前の希望を俺の絶望が塗りつぶしてくれる!!」

「なら切り開いてやるよ、あんたの絶望を!!」

 

 どこからともなく声が聞こえる。

 

 ――――束ねるは星の息吹。

 

「「……」」

 

 キィン、キィイインと不思議な金属音だけが響く。

 

 ――――輝ける生命の奔流。

 

「行くぞ、黄金騎士」

「……応ッ!!」

 

 そして両手で勢い良く、俺達が振りぬいた瞬間、金色と暗黒の極太ビームが剣から発射される。

 すさまじい衝撃と光で目の前が真っ白になる。

 こ、ここまでか……くぅううううううっ!!!

 地面を削り取りながら俺は徐々に後ろに交代していく……く、くそ……俺じゃダメなのか、やっぱこの剣は俺じゃ扱いきれないのか。

 その時、柄を握る手に複数人の手を感じた。

 眩い光の中、うっすらと見えたのは師匠やイチ兄たちだった。

 

「僕の中の因子も託すよ、双葉くん!」

 

 師匠……。

 

「ドライグ、全部譲渡だ、ありったけな!!」

『任せておけッ!! 双葉、前だけをみろ!! あんな黒い剣に負けるな』

 

 イチ兄、ドライグ……。

 

「私達の魔力も送るわ。思う存分振るいなさいッ!」

 

 リアス先輩……。

 

「うふふふ、これがケーキ入刀なんですね……雷光の力、思う存分使って!」

 

 朱乃先輩、気が抜けるんで余計なこと言わないで、でも受け取りました。

 

「わ、私は支えます。双葉さんをずっと支えます!!」

 

 アーシア……。

 

「あと少しです、踏ん張ってください」

 

 小猫……。

 

「私なんかよりもずっと扱えてるじゃないか、嫉妬するよ……さぁあと一息だ」

 

 ゼノヴィア……あぁ、皆、行こうぜッ!!

 なぁ、エクスカリバー、お前は聖剣だろう?

 人々の希望が形となり、人々を救うためにこの世界が創り出した贈り物のはずだ。

 なら、切り裂いてくれよ。俺達の絶望も、コカビエルの絶望も、全て!!

 徐々に、白い光が黒い光をかき消していく。

 

「……あぁ、アルトリア……俺は、俺は間違っていたんだな」

 

 光の向こう、一瞬だけ見えたコカビエルの顔は泣きそうなそれでいて嬉しそうな顔だった。

 一瞬だけ思いとどまるが……きっとこの剣なら大丈夫だ。

 

「いっけえええええええええええええええええ!!」

 

 そして学園に張られた結界を突き破り、天に向かって光り輝く光の柱が現出した。

 

 

 

 ――――この光は後に「主の光」として駒王町に語り継がれることになる。

 

 

 




堕天の聖剣(エクスカリバー・フォールン)
 エクスカリバー・モルガンそのまんま。折れた柄を回収したコカビエルが心血を注いで打ち上げた堕ちた聖剣。堕天使が打ったため魔の力が入っているが元々の聖の力も備わっている。つまるところ、聖魔剣と同質の存在ともいえる一品。堕天使の幹部であるコカビエルが打っただけあって、本家本元のエクスカリバーと同等の品に仕上がっている。

◯黄金騎士王・幻牙狼
 アルトリア・ペンドラゴンの力を受けた牙狼が変化した姿。体の各部に銀色の甲冑が取り付けられいる。まぁぶっちゃけるとFa◯eのセイバーの甲冑を原作の牙狼につけたような姿。これまたアルトリア・ペンドラゴンの力を受けてなった存在なので、もう一度エクスカリバーを持っても二度とこの姿にはなれない。

牙狼の聖剣(エクスカリバー・ガロ)
 牙狼剣と五つのエクスカリバーが融合した姿。形状はコレまたFat◯の青王の剣まんま。切れ味的には堕天の聖剣と同等。今回勝てたのは、アルトリアによってコカビエルの闇が取り払われ、威力が落ちたため。本当にギリギリの勝負であった。


いやぁ、疲れた……フリードくんは噛ませ犬みたいな役目でしたが、彼にはもう一つ見せ場あるから頑張ってくれや。バルパー生存は、個人的に死んで許されるキャラでは無いと思うので生存させました。ちなみにコレ以降出てくることはありません、彼の一生は独房で終わりましたとだけ言っておきます。
次回、聖剣編決着。

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