球技大会当日、リアス先輩とソーナ先輩がプロ顔負けのテニスをしたり、クラス対抗のバスケットボールで適度に力を抜いていたら、自分のクラスと相手クラスに「普段の恨みじゃぼけえ!!」と言われながら総攻撃されて驚いたり、部活動でもイチ兄とともにドッチボールしていたらボーッとしていた師匠を庇ったイチ兄が下半身のボールを強打したりと色々楽しかった。
大きなトラブルもなく終わった球技大会だったが終わった途端、雨が降り出した。
このまま振り続けるらしいので旧校舎においておいた予備の傘を取りに行く時、リアス先輩が師匠の頬を打った。
「少しは目が冷めたかしら?」
「リアス先輩!」
「黙ってなさい、双葉! どうしたのよ祐斗、あなたらしくもない」
リアス先輩が怒るのも仕方ないと思う。
師匠は全くというほど球技大会に真剣ではなかった。
いつものニコニコした表情は消えて全くの無表情。だが急にいつもの表情に戻るが、無理して笑っているのがわかるほど歪な笑い方だった。
「僕らしくない、ですか。そうですね、すいませんが疲れてるみたいです。暫く部活動も休んでいいですか?」
「師匠どうしたんですか」
「キミには関係ないじゃないか」
その一言で、頭の何かが切れる音がした。
「関係あります!! だってあなたは俺の師匠なんですから!」
「……双葉くん、キミは良い弟子だよ、僕には勿体無いくらいね」
冷たくこちらをみる師匠、一体どうしちまったんだよ、本当に。
「双葉くん、僕はね、基本的なことを思い出したんだ」
「基本的なこと?」
「あぁ、そうさ。僕が戦う理由だよ」
戦う理由? リアス先輩を守ることじゃないのか?
しかし師匠の言葉から出てきたのは違う言葉だった。
「復讐だよ……僕はそれをするために悪魔になったんだ」
『小僧、やめておけ』
今まで黙っていたザルバが口を挟む、珍しく起きてたみたいだ。
『俺は長く生きてきて、お前さんみたいな目をした奴と何人も会ってきた。その全員がろくな最後を迎えなかったぞ。お前さんには仲間がいる、それにお前さんの剣は復讐で生きていいほど安くはないだろう』
「意外だね、ザルバ。キミが仲間なんて言うなんて」
「ザルバの言うとおりです師匠! 師匠だって言ってたじゃないですか! 怨恨で振るう剣は破滅しか起こさないって!」
しかし、師匠はこちらを冷たく見つめて背を向けてしまった。
「双葉くん、僕はキミの師を今日限りでやめる。キミはもっと違う人に学ぶべきだ」
「師匠!!」
「僕は破壊しなきゃいけないんだよ。僕の剣で、あの聖剣エクスカリバーを」
エクスカリバーって、あの聖剣エクスカリバー!? 誰もが一度は耳にするくらい有名な聖剣じゃないか、なんで師匠がそれの破壊を?
話すことが無くなったと判断したのか、師匠は振り向かずに歩いた。
そして歩き去る師匠の背を、誰も追いかけることは出来なかった。
****
「聖剣計画、師匠はそれの生き残り?」
部活動を終わらせ、家に帰った俺とイチ兄にアーシアはリアス先輩から事情を聞いていた。
「そう、アーシアは知らないわよね」
「はい、初めて聞きました」
キリスト教内で起こった計画。数十年に一人、下手をすればもっと時間のかかる聖剣の使い手を確保するのは、悪魔や他の魔を滅する彼らにとっては急務だったそうだ。
聖剣は悪魔にとって最大の武器、斬られば重症、あるいは消滅の二択。協会側にとっては喉から手が出るほど欲しい人材だろう。
いないのならば作ってしまえ、そう考えた奴らが始めたのがコレらしい。
「神器じゃダメなんですか? 師匠みたく魔剣を作る神器があるなら逆もまた」
「あることにはあるわ。でも本物と比べたら威力も切れ味も段違い、弱くはないけど今ひとつ押しにかけるわ……だからこそ純粋な聖剣使いは教会でも崇められるのよ」
へぇと思うが神器もイチ兄みたいに禁手になれればかなりのもんになりそうだがなぁ。
あぁ、でも禁手ってそんなにいないんだっけ? ままならないもんだなぁ、ほんとこの世界って。
「祐斗は聖剣、――エクスカリバーに適合するために人為的に要請を受けた一人なの」
「じゃあ木場は聖剣を?」
イチ兄が発した言葉にリアス先輩は首を振る。
「適応できなかったの。それどころか被験者全員が出来ないと分かったわ……双葉、祐斗はね、あなたを羨んでいた。伝説の牙狼に選ばれたものとして、あなたを弟子に迎えたのは自分に出来なかったことをして欲しかったのかもしれないわね」
懐から栞を出して見つめる。
そうだったのか、師匠が俺に熱心に指導してくれたのも過去に自分が失敗してしまったから。だとするとライザーと戦うまでの俺はなんて酷いやつだったんだ。
知らないとはいえ、師匠に酷いことをしてしまった。
「ここからが本題よ。適応出来なかったと知った教会関係者は、祐斗たち被験者を『不良品』と決めつけて――」
『処分したか、全くいつの時代も人間の欲は悪魔や堕天使すら超えるな』
処分という言葉を聞いて、頭が沸騰しそうなほどの怒りを感じた。
それはイチ兄も同じだったが、元々教会に所属していたアーシアにとっては衝撃的な事実だ。
手で口を覆い、震えながら言葉を口にする。
「そ、そんな主に仕える者がそんな事をしていいはずがありません」
「ザルバも言ってたわね。ある意味、人間の悪意こそが一番恐ろしいわ」
リアス先輩は優しい。悪魔とは思えないし、今だって非道な行いに怒りを感じている。
先輩に言わせれば人間界で住み続けて得た感情というが、俺とイチ兄の意見は一致している。
元々優しい人だからこそ、俺たちはこの人に従おうと思っているんだ。
「偶然、生き残った祐斗を私は悪魔にしたわ。あの子もイッセーと同じように瀕死の重傷だったからね。あの子は死ぬ寸前まで強烈な復讐の感情に支配されていたわ。でも私はあの子の剣の才能が、聖剣にこだわるにしては勿体無いと思って学園に入学させたの」
きっと師匠は嬉しかったと思う。
利用されて利用されきって、最後は仲間を全員殺されて自分も死にかけていたところを助けてくれたリアス先輩に。
だからこそ、木場祐斗として生きようとしていた。
けれど忘れられるはずがないんだ。あの時の恨みや悲しみ、自分の無力感を。
俺だってそうだ。兄を殺され、アーシアを奪われて抗いたい一心で牙狼を抜いた。
でも、俺は復讐に、自分の激情に囚われない。リアス先輩や朱乃先輩、そして師匠がいてくれたおかげで俺の剣から復讐心は無くなった。
……今度は俺の番だと思う、師匠を救いたい。あの人が魔道に堕ちたら俺は一生後悔する。
「暫くは様子を見るしか無いわ。止めろと言って止まるほど、私の眷属は従順じゃないから」
はぁとため息をつくと部長はイチ兄の布団にいそいそと入っていく。
今日はもうおしまいらしい。
「今日はもう寝ましょう。双葉も一緒に寝る?」
「冗談やめてください。あっ、イチ兄念のためコレ渡しておくわ」
「な、何を――――ブッ!?」
ジョークとして買っておいた近藤さんをイチ兄に渡すと予想通りの反応をしてくれる。
いやぁ、高いね近藤さんってこれ一箱買うだけで昼飯三回くらい食えるわ。
「お、おまっ、お前なんつうもんを」
「弟から兄へのプレゼントだよ。近いうちに必要になるかなぁって」
「なるかああああああああああっ!!」
俺は笑いながらアーシアの手を引いて部屋から出て行く。
ちなみにこの後、イチ兄がリアス先輩に近藤さんを見せたら「こんなもの要らないわ」と言って消滅させたらしい……ちぇっ。
****
「双葉さん」
「どーしたんだよ、アーシア?」
すっかり一緒に寝るのになれた俺は、擦り寄ってくるアーシアの頭を撫でる。
多分、師匠関連のことだろうな、アーシアにとっては教会ってのは人生そのものだもの。
「私は教会について何も知らなかったんだなと思います。主のために癒やしの力を使っていたのに裏で泣いている子たちを知ることもなかった」
「知らなくていいんだよ、アーシア。世の中知っていいことと悪いことがある」
これは完全に後者だ、アーシアみたいな子たちが知ることはない世界の裏側のこと。
俺だってこういう時じゃないと知ることはなかっただろう。
「でも……」
「いいか、アーシア? 俺もお前も誰かを救う力がある。でもこの力は皆を救う事はできない」
「それでも私は救いたいです。あの時、あの悪魔さんを助けたみたいに」
本当にアーシアは優しい。
この優しさが鬱陶しいと思う人も出るかもしれない。いや、いたからこそ教会から問答無用で追い出されたんだと思う。
きっとこの子は自分が死のうとも誰かを救い続ける。それこそ、物語に書かれている聖女のように。
それが危なっかしくて愛おしい。
「アーシアは偉いな」
「偉くはないです。双葉さんだって木場さんの事を救いたいと願っているんでしょう?」
……バレテーラ、アーシアには隠し事できないな。
「大丈夫ですよ。双葉さんはいつだって救ってくれました、私のことも、リアスお姉さまのことも」
「一人じゃ無理だったよ、多分これからもそうだ」
アーシアもリアス先輩もイチ兄がいなかったら助けることは出来なかった。
でもそうだな、一人で抱えるよりも皆で救おう、だって俺達は仲間なんだから。
「なぁ、アーシア。もしも師匠救うために力を貸してって言ったら」
「貸します。だって約束したじゃないですか、双葉さんの傷は私がしっかり治しますって……嘘だったんですか?」
嘘なわけはない。
でも無茶するのは確定しているのでそこら辺は申し訳ないと思う。
「双葉さん、大丈夫ですよね。今回だってきっと」
「あぁ、大丈夫だ。なんたって俺の師匠だぞ?」
安心させるようにアーシアを抱きしめると……何故かアーシアは顔を真赤にさせて気絶していた。
……なんか、すまんかった。
****
それから数日経ったある日のことだ。
師匠は学校には顔を出すが、部活には来なくなってしまった。
心配だがどうすることも出来ない。今は師匠をそっとしておくしか出来ない。
学業と部活を終わらせて帰宅するのだが、今日はリアス先輩がソーナ先輩と大事な話があるので珍しく三人で帰っていた。
「にしても用事ってなんだろうな」
「んー、あの様子じゃなんかあったみたいだが」
少々緊張した顔をしたリアス先輩の顔を思い出す。
また事件かとちょっとため息をつく、そろそろゆったりした学校生活をさせてくださいな。
談笑しながら家の前に着くとイチ兄の表情が一変する。アーシアもだ。
「どうしたイチ兄?」
『双葉、家の中からとんでもない聖の力を感じるぞ』
ザルバの言葉を聞いて、玄関を力任せに開けて、靴を放り出して走る。
思い出すのはフリードだ。あの時見たバラバラの死体、もしも身内がそうなっていたら……そう思うと気が気じゃなかった。
話し声が聞こえたリビングの扉を開けて叫ぶ。
「母さんッ!!」
「どうしたの双葉? 血相抱えて」
きょとんとした顔の母さんの顔を見て脱力する。
そしてリビングで談笑していたのであろう二人組がこちらを見る。
白いローブを着こみ、胸に十字架を下げていることから協会関係者だと分かった。
俺の声に驚いているが敵意は感じない。
本当に談笑していただけらしい。
「こんにちは……えーと、双葉くんでいいのかな?」
栗毛の女性がこちらに話しかけてくる。
するとイチ兄たちもこちらにやってきて安心したのか一息ついた。
にしても誰だ? こんな知り合いいなかったはずだが。
「あぁ、双葉は会ったことがなかったわね。イッセー、この子を覚えている? 紫藤イリナちゃんよ。あの時男の子っぽかったのにこんな美少女に育っちゃって!」
「え、ええ!? あの時の子!?」
? イチ兄の知り合いか? 俺が体弱かった時の話かな? と思っていると母さんが聖剣が写ったあの写真を取り出して、笑顔でイチ兄の隣の男の子を指差す。
あぁ、なるほど、俺に面識ないはずだわ。
「久しぶり、イッセーくん。それとはじめまして双葉くん。にしてもイッセーくんに弟がいたなんて知らなかったなぁ。お互い顔を見ない内に色々あったみたいね」
こちらを見るイリナの顔つきは鋭い。
それはお隣さんも同じだった……こりゃイチ兄が悪魔だってことはバレてるな。
****
「本当に良かったわ。まさかもう接触してたなんて」
イリナたちと入れ替わる形で帰ってきたリアス先輩に抱きしめられる。
まぁ、そりゃエクソシストとエンカウントしてたんだから当たり前か。
「ソーナが言ってたのよ。町に聖剣を所持した協会関係者が来ているって……家に帰ろうとしていたら嫌な空気を感じて急いで戻ってきたら……本当に良かったわ」
ぐ、ぐるじい……さすがに三人で抱きしめられるのはキツイ。
安心しきったのか、リアス先輩は俺たちを話して真剣な顔つきで話し始めた。
「どうやら彼女たちは私達、いや私かしらね。リアス・グレモリーと交渉したいそうなの」
「そりゃまたどうして……」
悪魔と教会関連は出逢えば即落ちニコマじゃないが、高確率で戦闘のはずだが。
交渉って悪魔と取引するつもりか? それにしちゃイチ兄たちを見た時に敵意が見えたけどなぁ。
「で、どうするんですか?」
「受けるつもりよ。教会が、それも聖剣の所持を認めているエクソシストを寄越したんだもの、よほどの事があったに違いないわ」
そりゃそうだよな、最高戦力とも言える聖剣使いを二人派遣とか全面戦争するよ、とか言われたっておかしくない。
にしても聖剣か、厄介な時期に来やがって師匠は大丈夫か? なんか斬りかかりそうなんだが。
「明日の放課後、部室に来るそうよ。向こうは攻撃を加えないと神に祈ったらしいわ」
「信用出来ない……と言いたくありませんが、向こうの事情次第ですね」
「そうね。あとこの頃神父が惨殺されるって事件が多発しているのよ、未確認の情報だけど全身に鎧を纏った白い魔界騎士を見たって話もあるわ」
マジか!? 魔戒騎士までいんのかよ!?
さらに神父を惨殺に関与してるかもしれないじゃねえか!? つうかザルバどういうことだ、魔戒騎士ってのは守りし者じゃないのか!? 俺が出会う騎士ってなんでこう好き勝手やってるんだ!?
『あの戦争で魔戒騎士も大分数が減ったからな。以前のように純粋に守りし者をしている奴は少ないと聞いてたがここまで乱れてるとは思わなかった』
「勘弁してくれよ、魔戒騎士同士で戦うとかもう懲り懲りだぜ?」
『あぁ、俺もだ。全くロゼの奴も何してんだ……』
ザルバのため息に全員が反応する。
聖剣、魔戒騎士……またどでかい戦いに巻き込まれているらしい。
いざって時は師匠のストッパーにならないとな。今の師匠なら問答無用で斬りかかりかねない。
****
次の日の放課後、部室では重苦しい雰囲気に包まれていた。
理由は単純、ソファに座るイリナともう一人の女性を怨恨の眼差しで睨む師匠……イリナたちが入ってきた時に、剣を抜きかけたのはホント肝が冷えた。
息を呑んでリアス先輩と朱乃先輩との会談を見守る。
あっ、今日は俺がお茶うけ役をやってる。悪魔が淹れた茶なんて飲めるかぁ! とか言われたらマズイしな。
「簡潔に話をします。カトリック教会本部ヴァチカン及び、プロテスタント、正教会が保管、管理していたエクスカリバーが一本ずつ奪われ、この町に持ち込まれています」
イリナが口にした内容は衝撃的だった。
……よりにもよってエクスカリバー!? てかエクスカリバーって何本もあんのか!? 確か伝承だと霧の妖精がうんたらかんたらとか聞いたが何本もあるとか俺聞いてない。
「エクスカリバーは大昔に折れてるのよ……ちなみに折ったのは先代牙狼と言われているわ」
「……おい、ザルバ聞いてねえぞ」
『聞かれていなかったからな』
いけしゃあしゃあとこの指輪野郎。
リアス先輩の言葉に頭を抱える。なんてこったい、師匠の怨敵は俺ともつながりがあったらしい。
ん? 待てよ? 折れてるなら破片を分割して保管してんのか?
「半分正解ってところだ。今はこのような姿で保管されている」
イリナとは別の緑色のメッシュを入れた女性が布に巻かれた長物を取り出す。
するすると布を外していくと確かに折れたような剣先をした大剣が姿を現す。
……おー、確かになんか神秘的というかご利益ありそうな雰囲気を醸し出してるな。というかすげえな持ち手部分を覆うように刃があるし、戦うとなると厄介そうだ。
「破壊され、四散したエクスカリバーの破片を集め、新たに錬金した姿がこれさ。7つあるエクスカリバーのうちの一振り、『
「そしてコレは『
「あぁ、なるほど。ぶっ壊れたから各分野に特化させたのか」
そう言うと苦笑いしながらイリナが頷く。
破壊に擬態ね、どっちも戦闘じゃ強そうだ。擬態の方なんて形すら変えられるからな……ん? 待てよ?
「えっ? 各陣営の一本ずつ奪われたってことは七本中五本がこの町にあんの?」
「そうなるな。あぁ、言い忘れていた、私の名はゼノヴィアだ」
サラッと言うな、サラッと。
お前らは聖戦でも起こす気か、あと今この町にエクスカリバー持ち込むんじゃねえよ。師匠の視線がヤバイことになってる。
アーシアなんて涙目でプルプル震えながらこっちにしがみついてきてる。
憎んでやまないエクスカリバーがそこにあるんだ、今すぐにでも叩き折りたいってのが師匠の願望だろうな。それやったら全面戦争待ったなしだが。
「それで? 何故この町にエクスカリバーが?」
「それはわからない。だが主犯格は掴んでいる、『
グリゴリ? なんだそりゃ?
「簡単にいえば堕天使よ。にしても堕天使が奪うなんて……いえ、堕天使くらいね、エクスカリバーを奪おうなんて考えるのは」
「ここらが問題なのよ。奪ったのはグリゴリの幹部――――コカビエルよ」
「……聖書に記載されてる堕天使じゃないっ!」
聖書……あの聖書か。
オイオイ、勘弁してくれよ、こちとらエクスカリバーで頭いっぱいなのに堕天使の幹部とか。レイナーレは確か下級なんだっけ? 幹部とか想像したくもねえバケモンなんだろうな。
「それで? あなた達の要望を聞こうじゃない」
「簡単なことだ。私達の邪魔はするな、だ。つまりこちらの事件に首を突っ込まないで欲しいということだ」
えぇ、勝手に人の領地入ってきて、私達の問題に首突っ込むなバーカって言ってるようなもんだぞこれ。
ほら、リアス先輩は案の定怒ってるし。
「ずいぶんな言い方ね。堕天使と組むと上が思っているのかしら?」
「あの黄金騎士を向かいれたという情報があったからな。そしてこの場に魔戒騎士がいるという事実、今度は堕天使と組む可能性があると思っている……そうだろう? 今代の黄金騎士、兵藤双葉」
俺のせい!? てか黄金騎士ってバレて……まぁ、バレるか。魔導輪持ってるしさ。
「上の意向を先に伝えておく。万が一、手を組んでいるのであれば例え魔王の妹でも、伝説の黄金騎士でも主の敵として完全に消滅させるよ、だそうだ」
「物騒だな、オイ。慈愛の心はどうした、慈愛の心は」
今のところ、純粋に神に祈るシスターはアーシアしか見ていないんですがこれは……というかやる気満々じゃねえかよ、上司。もう少し待ったらどうなんだ、お前らは。
「私が魔王の妹、という情報を持っているのは当たり前かしらね。エクスカリバーの使い手だもの。はっきり言うわ、私は堕天使とは手を組まないわ。グレモリーの名にかけて、魔王の顔に泥を塗るような真似はしないわ」
「すまない、これは釘刺しでもあるんだ。私達もあなた達に力を借りれば、本部から恨まれるし、三すくみにも影響が出る。特に魔王の妹がいる街だ、何かがあれば魔王が出張ってくる可能性だってある」
なるほどね、敢えて厳しい口調だったのは態勢を考えてのことだってことだ。
確かにゼノヴィアたちが俺たちに頭を下げて力を借りるのは容易だろう。だが彼女たちは教会の戦士であり、希望の象徴とも言える聖剣使い。
万が一でもこれが漏れたら異端審問待ったなしだろうな、最悪トカゲのしっぽ切りに利用される。……かつてのアーシアみたく。
「それで? 残った一本は?」
「正教会の物だが、あちらは協力を保留した。よほど自前の戦力を出すのが嫌なんだろうな」
「お、オイ待てよ。じゃあ二人だけなのか?」
なんか俺も会話に参加しちゃってるけどいいのかな? と不安に思ってるが大丈夫みたいだ。黄金騎士の肩書で問題ないらしい。
「もっとも神父を送っていたがことごとく惨殺されてね。私達二人と言うわけさ」
「自殺行為だろうが」
「そうよ、私たちは死ぬ覚悟でここに来ている」
二人の目は本気だった。
信仰のためにここまでするのか、呆れを通り越して尊敬するよ全く。
オメーらが信仰してるのは肝心なとき助けてくれない糞野郎だな、と言いかけたが止めておく。さすがにそこまで煽る必要はないし、こちらが野垂れ死んでもこちらに危害が……いや来るだろうな。
そもそもにしてコカビエルがここを選ぶ理由はありすぎる。
まずリアス先輩、魔王の妹であり何かアクションを起こしたいなら絶好の場所だろう。さらにソーナ先輩までいるというツモ状態。
そしてイチ兄と俺、赤龍帝と黄金騎士。過去の遺恨で狙いにきましたとか言われても頷ける。
無いとは思うが師匠。元人工聖剣使いを誕生させるための生け贄だが、特殊な事情で回収または師匠を使って何かするなんてことも考えられる。
うーん、この火薬庫。
「相変わらず常軌を逸した信仰ね」
「バカにしないで、リアス・グレモリー。主のためなら最期まで尽くす、それが私達の使命よ」
アホらしい、と思うが主をリアス・グレモリーと変換させるとまんま俺達だから人のこと言えねえな。全く見あえげた忠誠心だこと、吐気がするわ。
「さて、言いたいことは済んだ。そろそろ帰らせてもらう」
「あら? お菓子くらいは振る舞わせてもらうわ」
「いらない。お茶は一応、黄金騎士のものだからのませてもらったがな……それにしても縁というのは複雑なものだ」
リアス先輩の提案を断ったゼノヴィアは鋭い視線をアーシアに向ける。
「『魔女』アーシア・アルジェント、この極東の地で出会うとはな」
俺はアーシアを背中に隠し、ゼノヴィアたちを睨みつける。
油断していていたわけじゃないが、聖女と呼ばれていたアーシアは教会でも有名な存在だったに違いない。回復する能力を持つなら、戦闘職であるこの二人の印象に残りやすいというのも当然の話だ。
「あなたが元聖女さんね。堕天使や悪魔すら癒やす力を持っているって噂が一時期流れたわ。……まさか悪魔に堕ちているなんて」
「わ、私は……」
アーシアが震えながら懸命に言葉を口にしようとしているが、うまく出ないのだろう。
俺の背中をギュッと掴みながらもごもごと口を動かすだけだ。
「安心して。聖女だったあなたの周りには言わないから、もちろん上にもね」
「堕ちるところまで堕ちるものだ――――かつて聖女と言われた人間もこうなるとは。だ、我らの神を信じているのか?」
「ゼノヴィア。悪魔になった彼女が主を信じているわけないでしょう?」
堪えろ……堪えるんだ。俺がブチ切れるのはマズイ。
こいつらはアーシアを知らないんだ。
頭痛を堪えながら毎朝祈るアーシアの姿も。
読めなくなってしまった聖書を抱え一人泣いているアーシアの姿も。
クラスの人たちに信仰を広げるアーシアの姿を知らない。
「なんというかね。彼女からは信仰の香りがするんだ。背信行為をしながらも、信仰を忘れない者がいる。彼女からはそれを感じる」
「へえ、アーシアさん。主を信じているの? 悪魔の身でありながら」
イリナの言葉に意を決したのか、アーシアは俺の背中を離れ、二人の正面に立って言う。
「……捨てきれないだけです、ずっと、信じてましたから」
それを聞いたゼノヴィアは頷くと、アーシアの喉元に布で包まれた聖剣を突きつけた。
「ならば、私たちに身を預けろ。罪深くとも、我らの神ならば救いの手を――――」
「いい加減にしろよ、お前ら」
あぁ、すいません、師匠、リアス先輩……俺さ、もう我慢できませんわ。
ゼノヴィアが突き出した布に包まれた聖剣を握りしめ、全身に魔力を流す。
「黄金騎士? ……君も悪魔に魂を明け渡したのか? 嘆かわしい、世界のため金色を解き放った先代が泣いているぞ」
「好きに泣かせておけ。それにたった一人の女の子も守らねえ神様より、みんなに見捨てられた女の子を救う悪魔の方がよっぽど信用できるよ」
布を引きちぎるように徐々に力を込めていく。
「たかが悪魔を治療できるってだけで見捨てたお前たちの方がよっぽど魔女で悪魔だよ」
「確かに私たちは彼女を祭り上げた。しかしな、聖女の資格は分け隔てない慈悲と慈愛だ。他者の愛情や友情を求めたら聖女は終わりだ。最初からアーシア・アルジェントは聖女の資格などなかったんだ」
――――ブチリと何かが切れる音がした。
同時に神様と決別出来て嬉しいと思う自分がいる。あぁ、やっぱアーシアは教会にいるべきじゃなかったと確信できた。
なんて、なんて歪な場所なんだろうか。
アーシアに救いを求めておきながら、彼女が救いを求めたら拒否する。
これが普通の世界とかふざけるな。
「神は誰でも愛する。しかし救いがないということは、信仰が足りなかったかそれが偽りだったということだけだ」
「……」
沸騰した頭が一気に冷えていく。
じゃあ何か? アーシアは信仰が足りなかった、もしくは気持ちが偽りだったから神様から見放されたと。なるほどなるほど、そうかそうか。
「ふざけたこと言うのも大概にしろよ、狂信者。誰にだって救いを求める権利がある。聖女だろうがなんだろうが人間は人間だ、それ以上でも以下でもねえよ」
「面白い意見だ……だが、今までの言葉はこちらへの宣戦布告に当たるが? いいのか? たった一人、魔女と蔑まれた少女のために剣を取るのか? 黄金騎士」
……んなもん言われるまでもねえ。
「あぁ、戦ってやるよ。誰も味方しなくたって、俺は最期まで抗ってやる……俺は黄金騎士牙狼であり、魔戒騎士だ。明日へ、その先へ繋げていくのが俺の使命だ!!」
正直、怖いさ。宗教はほぼ世界全てだって言っても良い。
それを俺は抗うと言ってしまったんだ。
だけど、それでいいと思う。世界がアーシアを見捨てるというのなら、その世界から救うのが魔戒騎士の務めだ。
「黄金騎士とはいえ、その言葉ただでは済まないと思ってくれよ?」
「ちょうどいいね。僕が相手になろう」
殺気を放ち始めたゼノヴィアと俺の間に割ったのは、師匠だった。
師匠はいつもの笑顔を消して、ただ憎しみだけを顔に出し殺気を放っていた。
「キミは?」
「僕かい? 君たちの先輩……いいや? 失敗作と言えばいいかな。ちょうどいいだろう、エクスカリバーの使い手。どれほどのものかお手合わせ願うよ」
次の瞬間、部屋を覆い尽くすほど大量の魔剣が現れた。
終始ブチ切れる双葉の図。そしてなんかアーシアのメインヒロイン感……序盤はアーシアが動かしやすいってはっきり分かんだね。朱乃は正直、3巻終わってからが本番。
ザルバと話すようになって魔戒騎士のイロハを叩きこまれ始めた双葉は、少しずつですが守りし者としての自覚を持ってきてます。まぁ、現状だと某浪川ボイスの魔戒騎士みたいに不安定な状況なんですがね。感情に振り回されすぎているので、ぶっちゃけると暗黒騎士に落ちかけているバラゴ状態。
あっ、ちなみに教会組というかハイスクールD×Dで嫌いなキャラはそんなにいませんので悪しからず。ゼノヴィアとか朱乃がいなかったらトップに入るくらい好きです(ガン切れ)。でもゼノヴィアはヒロイン候補じゃないです。