**オカルト研究部視点(三人称)**
丁度、双葉が壊れかけのロボットのようにぎこちなく小猫をデートに誘い、喫茶店に入った頃、一誠宅についたオカルト研究部の面々はミーティングを行うつもりだった。そう、つもりだったというのがミソだ。
実際、最初の一時間はきちんとやっていたのだが美少女とイケメンぞろいのオカルト研究部の面々を見た母親の暴走により、ミーティングそっちのけで一誠と双葉のアルバムを鑑賞する場になっていた。
「で、こっちが小学生の時のイッセーと双葉なのよ」
「可愛いですわ、お母さま」
「朱乃さん、って皆見ないでええええ!!」
必死に隠すが、そこはリアスと朱乃。ひょいひょいっとよけながら次々と写真を見る。
普段ストッパー役であるアーシアや木場も、この時は興味津々なのか止めずにアルバムを見ていた。
「小さいころのイッセー……イッセー」
十代の少女がしてはイケない顔をしながら赤面するリアスだが、朱乃も似たようなものだ。昔を思い出しながら、しっかりと夜のオカズもとい花嫁修業のために脳内に保存する。
ちなみにアーシアも朱乃と共に幼いころの双葉の写真を見て赤面している。
好きな人の小さいころの写真を見て、母性本能が高まっているのだろう。
「あれ? 双葉さんって幼稚園の頃の写真とかないんですか?」
ふとアーシアがそう言うと母親とイッセーがしまったという顔をしながら、慌てて弁解する。
「じ、実はあの子、小さい頃は体が弱くてね。寝たきりだったのよ」
「そうそう、小学生になってからようやく動けるようになってさ」
アーシアは信じたようだが、リアスと朱乃は緩んでいた顔を引き締め、考えこむ素振りを見せた。
一誠はなんとか話題をそらそうとアルバムを手に取りページをめくっていると、ある写真を見て手を止める。
「懐かしいなぁ、この子」
「イッセーどうしたの?」
写っていたのは一誠が見ていたのは幼稚園の頃、よく遊んでいた男の子だ。
親の転勤で急にいなくなってしまい、それっきりになったが一誠にとっては思い出深い人物でもある。
親御さんも写っているが何故か古ぼけた西洋剣を持っていた。
「……イッセーくん、これは?」
「ん? あぁ、これか幼稚園の時に――」
「いいや、違う。この剣だよ」
いつもとは違うトーンに驚く一誠だったが、首をかしげながら疑問を口にする。
「模造刀だと思うんだけどもう昔のことだからなぁ」
「いいや一誠くん、これは模造刀なんかじゃない」
一誠や他のメンバーの動きが止まった。
なぜなら、写真を見つめる木場の目には寒気がするほどの憎悪が宿っていたからだ。
「これは聖剣だよ」
後に「エクスカリバー事変」と呼ばれ、教会に記録される事件の発端だった。
**双葉視点**
「オーライオーライ……はぶぁっ!?」
飛んできたボールを取りそこね、顔面に突き刺さる。
一瞬だけ暗転する視界だが、なんとか意識を取り戻しボールをグローブでキャッチする。
「双葉―、もっと気合入れなさい!」
「ふぁ、ふぁい……」
強打した鼻を抑えて俺は返事した。
俺たちは旧校舎の裏手にある少し開けた場所で野球の練習をしていた。
別にレーティングゲームだとか、悪魔の仕事を手伝うわけじゃない。
「来週の球技大会、絶対に優勝するわよ!」
まぁ、そういうことだ。
純粋な学校行事をオカルト研究部として参加するということだ。
この手の催し物が好きらしいリアス先輩はそりゃ張り切った。いつもならだべっている時間はすべて練習となり、どこのスポ根マンガばりな練習をしていた。
ちなみに人数が足りない競技は生徒会から助っ人がやってくるので参加できるらしい。
昔なら適当に終えたであろうイベントをこうして真剣することになるとは、全く人生というのはわからないもんだ。
「バッティングはこれでいいわね。小猫、期待してるわよ」
「はい」
さっきからホームランを連発している小猫の顔には、先日までの陰湿さはない。
リアス先輩からはお礼を言われたが、俺は少し言ったに過ぎないし、俺がいなくても小猫なら自分で答えを出せていたと思う。
というか普通に俺が混ざっているが、悪魔の中でついていける俺も大概だわな。
「次はノックよ! さぁ、今日は千本ノックいくわよ!!」
にしてもリアス先輩すげえ気合入ってるなぁ、なんか部室に積まれてた野球漫画に変な影響受けてなきゃいいけど。
「部長はこういうのが好きですから」
「まぁ、基本派手なこと好きそうですからね」
朱乃先輩が頷く。
「下手なことしなけれ私達が負けることはないですけど……慣れてないと思った以上に力を出してしまいそうで」
基本悪魔なみんなは体の基礎能力は人間より上だ。
じゃあなんで練習という疑問になるが、朱乃先輩の言う通りで球技のルールに慣れてないと思ってないところで力が出てどえらいことになる。
そこら辺俺は調整が楽でいい。魔力強化しなければどこにでもいる一般人だからな。
「あ、あわわっわわ!?」
「アーシア、取れなかったボールは自分で取るのよ!」
まぁ、アーシアみたいに運動神経が苦手な悪魔もいるらしいな。
股下を綺麗に通って後方へ……あっ、走ったら転んだわ。
全く、アーシアはなんであそこまで綺麗に転ぶんだか。可愛いからいいんだけどな、ころんだ時に見えるおしりが……イカンイカン! またアーシアにそういうことを!!
「次、祐斗! 行くわよ!」
おっ、師匠か、脚が速いから盗塁とか行けそうだよな。
放物線を描いて飛んで行くボールはグローブを構えている師匠に……構えてない!?
「師匠ッ!!」
「あっ……」
足に魔力を流して走りだした俺は、師匠に直撃しそうだったボールを直前でキャッチする。
あっぶないなぁ、どうしたんだ、この程度師匠が取れないわけがないのに。
「どうしたんですか、師匠」
「おいおい、木場どうした?」
「あっ、ごめん、ボーッとしてたみたいだ」
頬を掻きながらこちらを見る師匠の瞳はいつもの優しさがなかった。
言うなれば乾いていると言うんだろうか? どことなく機械のように見えてしまう。
この頃、師匠の様子がおかしい。
朝の訓練には来ないし、オカルト研究部の会議にも心ここにあらずという風にまじめに参加していない。
勇気を出して、師匠のクラスメートに話しかけたら俺が師匠と呼んでいるのが噂になっており、師匠の様子を聞くのに随分とかかった。
曰く、物思いに耽る王子らしい。
どうしてこうなったかわからないが、師匠にも何かあったんだと思う。
この前、家で開いた会議でイチ兄の写真から知り合いが本物の聖剣を持って行ったという話を聞いたが、その時から師匠の様子がおかしくなったそうだ。
でも、心配してもしょうがないと思う。ここで聞いてもきっと苦笑しながらはぐらかされるだけだ。
小猫のように話してくれるまで待ったほうがいいだろう。
「双葉、部長がまたマニュアル読んでるぞ」
ふと近づいてきたイチ兄に言われてリアス先輩の方を見ると、野球選手が表紙に書かれている分厚いマニュアルを熟読していた。
リアス先輩って色々本読むんだよなぁ。引っ越しの時も信じられない量の本持ってきてたし、部屋見るとまだ増えてるしな。
「最近だと恋愛マニュアル本も読んでるな」
「なにっ!? 部長にも意中の人が!?」
そりゃオメーだよと言いたいが、顔を真赤にしたリアス先輩に口止めされている。
『こ、告白は彼からって……あの、その……あぁもう! わかるでしょう!?』
と逆切れ気味に言われたが見てるこっちとしてはもどかしいというか、同棲までやって一緒の布団で寝てるとか恋人の域を超えてるんだからとっととくっついて欲しいんだがな。
そしてイチ兄もあそこまでアピールしておいて気づかないってのも相当鈍いが、まぁ主だからって理由もあるんだろうと俺は思っているし、イチ兄は恋愛で一度手痛い経験をしてるからな。
暫くは二人の様子を見てニヤニヤしよう。
「イチ兄は心配しないでもいいさ……あぁ、でもイチ兄が恋人作るとリアス先輩がショック受けるかもな」
「どういうことだ? てかお前だってアーシアや朱乃さんや小猫ちゃんはどうなんだよ? 兄としちゃ相手がいっぱいなのは嬉しいけど」
何言ってんだ? アーシアは妹、朱乃先輩は頼れる先輩だし、小猫は友人だ。
そういうのを考えたことはないと言えば嘘になるが……まぁ、イチ兄が結婚するまでは独り身でいるつもりだしな。
それを伝えるとイチ兄が頭を抱える。
「どうしてここまでブラコンに……」
「ブラコン?」
「さーて再開よ!」
バットを振り上げたリアス先輩を見て、お互い目を頷き合ってポジションに戻る。
ちなみにこの日、師匠は気が抜けたように何度もボールを見逃していた。
****
次の日の昼休み、昼食は前の時間にとっていたので眠ろうと思っていたところを小猫に連れ出される。
あぁ、そういえば部室で最終ミーティングするとかなんとか言ってたっけ? ズリズリと引きずられながら部室に向かうと俺達が最後だったようで、部室には全員が集まっていた。
しかし、ソファに座っている女性とその隣に立っている男性は見覚えがなかった。首をかしげているとイチ兄が耳打ちしてくれる。
「生徒会長の支取蒼那さんだよ」
「……えっと、どうも?」
あぁ、思い出した、生徒会長さんだ。
基本興味ないと人の顔とか会った日に忘れるやつだからなぁ俺。あぁ、なるほど生徒会に助っ人を頼むから呼んだのな。
一人納得してると立っていた男性がこちらを睨みつけてくる。
「お前! 会長を前にその態度はなんだ!」
「えっと、すいません。生徒会の人とは関り合いがあんまりないので」
「そこまでにしなさい、サジ。この人は黄金騎士よ」
ん? なんか今とんでもない単語が聞こえたんだが……と思っているとサジと呼ばれた男性の顔が青ざめていた。
「お、黄金騎士!? あのフェニックスを倒したのがコイツ!? 人間じゃないですか!」
「ええ、彼は人間。そしてお兄さんはそこにいる兵藤一誠くん、彼も赤龍帝というとんでもないものを身に宿しているわ、言葉には気をつけなさい」
「どういうことなの?」
「彼女たちも悪魔なんですよ」
ほーん悪魔、悪魔ねえ……悪魔ァ!?
「う、嘘ぉ!?」
「嘘じゃないですよ。生徒会長でもある支取蒼那さま、いいえソーナ・シトリーさまは、上級悪魔シトリー家の次期当主ですわ」
「上級……ッ!?」
朱乃先輩に言われて絶句する。
上級悪魔ってこうぽんぽこ会っていいんですかね。
てかこの分だと生徒会メンバーも悪魔って可能性が……いや、悪魔だな、これは間違いない。
「初対面ですから挨拶をしましょうか。私はソーナ・シトリー。こちらは生徒会では書記をやってもらっている匙元士郎、二年で私の『兵士』です」
「あっ、はい。よろしくお願いします……」
イチ兄たちと一緒に頭下げるが、いやぶったまげたぁ。
そういえばここはリアス先輩たち、グレモリーが運営してる場所だから生徒会にも息がかかった人たちを入れるわけだ。
「ごめんなさいね、今日はミーティングって言ったけど実は最近眷属になったイッセーとアーシア、ソーナの匙くんと会わせるためだった。もちろん、黄金騎士であるあなたも一応ソーナと面識を持っていたほうがいいと思ってね」
「そういうことです。申し訳ありません、ウチの匙はまだ転生したばかりなので、ご容赦を」
「い、いや大丈夫です。こちらこそ名前を覚えていなくてすいません」
年上に丁寧に話されるのはなぁ……キッツいというか、妙に丁寧だなと思っているとリアス先輩が小声で話してくれる。
「実はね、ソーナは黄金騎士に憧れているのよ。冥界では黄金騎士は子どもたちの絵本に出てくるほど有名でね? あなたって実は冥界では有名人なのよ?」
あぁ、なるほどね、黄金騎士って称号がさらに重くなりましたわ。
つまりソーナ先輩は緊張しているってわけか? あっ、微妙に手が震えてる、どうやら本当みたいだ。
「とりあえず挨拶だな! 俺は兵藤一誠! お前と同じ『兵士』だ!」
「まさか変態三人組と同じとはな……それでいて弟は良く出来てるみたいで」
「サジ?」
「す、すいません……よ、よろしく」
不満気にイチ兄を見る匙先輩を睨む。
こ、この野郎、イチ兄が仲良くしようって時に。
「あ、あのアーシア・アルジェントっていいます、よろしくお願いします」
「アーシアさんね、覚えたよ!」
アーシアがそういうとニッコリ笑顔で手を取る匙先輩。
……ちょっと頭に来たので、強引にアーシアと先輩の手を引き離し、魔力を手に流して力強く握手した。
「一年の兵藤双葉です、よろしくお願いしますね、匙先輩、ソーナ先輩!」
「い、いたっ!? ほ、本当に人間かよ!」
ぎゅうううううっと握手し、三秒ほどで離す。
基本的に年上に礼儀を払うがイチ兄をばかにする奴は許さん。ライザー戦を見てないのだろうか? この人は。
「双葉、やり過ぎよ。ごめんなさい、この子兄が絡むといつもこうで……良い子だから許してあげて」
「いいえ、ウチのサジがご無礼を……双葉くん、もしよければ、その……魔戒剣を見せてもらえないでしょうか?」
「ふぇっ?」
唐突の申し入れに驚くが、ソーナ先輩もハッとして顔を赤らめながら、手をパタパタと振る。
「ち、違います。すいません、口が滑って――」
「いいですよ?」
「いいんですか!?」
近い近い!? というかさっきまでのクールキャラはどこに!?
目を輝かせて、まるで新しいおもちゃを心待ちにする子供だよ。
あぁ、皆びっくりしてるから、このキャラの変貌ぶりは予想外なのね。
とりあえず栞から魔戒剣を取り出してと……えーと抜かないほうがいいのかな?
「こ、これが牙狼の……」
「えっと抜きましょうか?」
「ぜひっ!!」
おぉ、いい笑顔、本当に牙狼が好きなんだろうな。
召還もしたいけどさすがにそこまではファンサービスは出来ないよなぁ。
鞘から引き抜いて、抜身にした魔戒剣をソーナ先輩はマジマジと見る。わー、すげえヒーローショーとかでヒーローを見る子供みたいな目してるよ。
「んっ、ソーナ? 確か書類を残していたんじゃなかったのかしら?」
「……そう、でしたね。今日はここまでにしましょう」
そんな顔しないでえええええええええ!? 明らかに消沈しちゃってるよ!? というか最初のクールなイメージ完璧に崩れたわ、この人可愛いなぁ。
「えっと、今度生徒会室に行った時にまた見せますから……広い場所とかなら牙狼の鎧も」
「本当ですか!? 約束ですよ!」
う、うぉおお!? すげえ食いつきっぷり……もしかして冥界で牙狼になればちょっとしたヒーローショーみたいな事出来るんじゃねえの? いや、多分他の魔戒騎士に止められるか。
そういえば他の魔戒騎士ってのにライザー以外に会ったこと無いがどういう人達なんだろうな、良い人たちならいいけど。
とりあえず落ち着いたソーナ先輩は置かれたお茶を飲んでいつもの表情に戻った……まだ頬が赤いがな!
「こほん、失礼しました。あと、私はこの学園を愛しています。もしもこの平和が脅かされるなら人間でも、悪魔でも黄金騎士でも許しません。それはこの場にいる全員にも言えることです」
ソーナ先輩の顔は真剣そのものだった。
本当に学園を愛してるんだろうなぁ、伊達に会長は務めて無いってことか。
「では私たちはこれで。リアス、球技大会楽しみにしてるわ」
「ええ、こちらもよ」
にこやかに笑うソーナ先輩に、リアス先輩も描いで返していた。
仲良しなのかなぁ、この二人? 同じ上級悪魔だしきっと家どうしのつながりとかあるんだろう、同い年だし。
ソーナ先輩はそれだけ聞くと早足で去っていった。
「イッセー、アーシアに双葉。いつか他の生徒会メンバーと会うかもしれないけど仲良くね? あと双葉、ソーナをよろしく。あんなに楽しそうなソーナは久しぶりに見たわ」
頷くが、さっきからふくれっ面のアーシアの頭を撫でる。
「……双葉さん」
「そんな目で見るなよ。ソーナ先輩は牙狼好きなだけだよ」
俺個人よりも牙狼に興味津々って感じだからな。
まぁ、あんな美人さんの笑顔見られるのはちょっと黄金騎士になってよかったと思ったけどさ
結局のところ、昼休みはコレで終わってしまい、ミーティングは放課後まで伸びることになった。
ちなみにソーナが読んでいた本は、原作の「黒い炎と黄金の風」の絵本。冥界では結構な童話などに組み込まれているので悪魔の中では黄金騎士の知名度は高いです。
◯黒い炎と黄金の風
言わずも知れた原作での涙腺ブレイカー、内容は牙狼がホラーの王を倒すという単純明快なものだが最後のページだけが空白だった。原作では最後までページの詳細を明かされることはなかったが、この世界では黄金騎士は剣を置いて愛する人と平穏に暮らしたとアレンジされている。原作ではキャスト陣の感謝のコメントなどが書かれており、当時の主演の方がガチ泣きした。詳しくは原作を見よう、今HDもやってるし