ハイスクールD×D 黄金騎士を受け継ぐもの   作:相感

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おまたせ、アイスティーもなかったけどいいかな?

今回は小猫主体。


三章 悲観のフォールンエンジェル
悩む心


 

 

**??(三人称)**

 

「何故だ、何故だっ!!」

 

 荒れ果てた荒野、その中心に一人の男が慟哭の声を上げていた。

 胸の中には血まみれの女性が息絶えていた。

 涙を流し、女性を何度も揺さぶる姿を黄金騎士はじっと見つめていた。

 

「何故殺した、貴様は守りし者ではなかったのか!」

「……」

 

 何も答えない黄金騎士の顔は、何故か困ったようなふうに見えた。

 男は背中の黒い羽を揺らしながら叫ぶ。

 

「俺はこのことを忘れない。貴様の次、次の次も末代まで呪ってくれよう!!」

「……」

 

 背を向け、歩き去る黄金騎士を男はいつまでも睨みつけた。

 

 

 

 戦争が集結する数カ月前、とある戦場で起こった悲劇だった。

 

 

 

**双葉視点**

 

 

 

「ふあぁ……起きるのにもなれたなぁ」

 

 五時の目覚ましがなる五分前にタイマーを止める。

 そして同じくベッドに寝ているアーシアを起こさないようにそーっとベッドから這い出る。

 あっ、そうそう別に俺とアーシアが『寝た』わけじゃない。

 あの戦いの後、アーシアは一人で眠れなくなったらしい。

 俺が失うのが怖くて、ずっとあの部室で寝泊まりしていたら俺の体温を感じてないと眠れなくなったという。

 最初は冗談かと思って部屋に返したのだが、大声で泣くアーシアに驚きそして俺が側に行くと泣き止んだため本当だと分かった。

 可愛い寝顔をしながら眠るアーシアの髪を撫でる。

 よっぽど俺を失うのが怖かったのか、今でも夢に見るという。

 

「ごめんな、不甲斐なくて」

 

 この前のクロの襲撃事件もそうだが、俺が出かけるときは基本的に誰かと一緒という事を取り決められた。

 クロははぐれ悪魔でも相当強い部類に入るらしく、最上級悪魔に匹敵すると言われた。

 つまるところ、今の俺達では勝ち目が薄いというわけだ。上級悪魔であったライザーに辛勝した程度じゃまだ足りない。

 もっと強くなる、じゃないとアーシアや朱乃先輩、小猫が泣く。

 

『小僧』

「ザルバか、あんまりうるさくするなよ?」

『強くなるのはいい。だが強さだけを求めるな、守る者の顔を忘れ、ただひたすらに戦えばお前さんは外道に落ちる』

「……」

 

 戒めるようなザルバの言葉は寂しそうな声色が見えた。

 多分、実際見てきたんだろうな。

 

『過去、何人もの魔戒騎士が力に溺れ、そのたびに牙狼や他の騎士たちが切ることになった。いいか? 守るべきものが見えていない魔戒騎士は真の強さを手に入れられない』

「……じゃあ、どうしろってんだよ」

『それはお前さんが決めろ』

 

 そう言ってザルバは口を閉ざした。

 ……それじゃダメなんだ、ザルバ。俺は今すぐにでも強くならないと、じゃないと。

 

「ん……双葉さん?」

「おはよ、アーシア」

 

 先ほどの考えを止めて、目をこすりながら起きるアーシアに挨拶をする。

 暗い顔をしたらアーシアに心配かけちまうからな、それだけは回避しないと。

 さて、訓練しますかね。

 

 

*****

 

 

 

「いただきます」

 

 リアス先輩が越してきてから、テーブルが華やかになった気がする。

 越してきた先輩は積極的に家事を手伝ってくれる。掃除、料理、洗濯を全てソツなくこなす姿は若妻そのもの。

 いいなぁ、イチ兄は。

 

「にしてもリアス先輩料理上手いってのはちょっとギャップありますね」

「料理できないとは思われたくないし、一人暮らしするなら自炊できなきゃ」

 

 モグモグと先輩が作ってくれた玉子焼きを食べる。

 わざわざダシ入れて味付けしてるからめちゃくちゃご飯がすすむ。イチ兄なんてがっついてるしな。

 

「イッセー、ゆっくり食べなさい。おかわりは沢山あるんだから」

「あ、はい」

「双葉さん、お味噌汁はどうですか?」

 

 アーシアが食い気味で話しかけてくる。

 特訓してた時に俺がスープをほめたのが嬉しかったらしく、味噌汁とかこういう汁物を作るのはアーシア担当になっている。

 一緒に暮らすようになってから先輩と一緒に家事洗濯料理と色々習ってるしな。

 まぁ、とりあえず味噌汁を飲むが……うん、おいしい。もうちょっと味噌があってもいいがこのくらいが丁度いいな。

 

「うん、美味しい。アーシアの味噌汁は絶品だな」

「はい! ま、毎日作ってもいいように頑張りますから!」

 

 うーむ、アーシアって変なタイミングで恥ずかしがるんだよなぁ。

 この間だって俺の洗濯物を凝視してて真っ赤になってたし……にしてもアーシアと結婚する奴は幸せものだなぁ。

 勤勉なアーシアはもうひらがなとカタカナをマスターして、漢字も少々だけど読める。

 勉強するのが楽しいというがそうだろうな。アーシアは今まで学校に通ったことがないから、大勢のクラスメートと勉強するってことが新鮮らしい。

 シスター時代は聖書を暗記したとも言ってるし、元々勉強する才能があるんだろうな。

 

「双葉さん?」

「いや、アーシアは頑張り屋だなって」

 

 きょとんとしながらこちらを見るアーシアが可愛くて頭を撫でる。

 歳上なんだが、どうしても最初の出会いのせいで妹みたいに見ちまうんだよなぁ。あと身長が俺より低いから撫でやすいってのも大きい。

 アーシアもアーシアで、撫でられると猫みたいに頭をすり寄せてくるからな、ついつい撫でてしまう。

 

「朝からイチャイチャすんなよ、双葉」

「イチャイチャ……はぅ」

「アーシア顔真っ赤にならないの。スキンシップだろ? イチ兄だってリアス先輩に毎日添い寝されているじゃんか」

 

 思い切りお茶を噴き出すイチ兄。

 アピールのつもりなのか、リアス先輩はよくイチ兄を抱枕にして添い寝をしている。

 それだけならアーシアと同じなんだが、リアス先輩は寝るとき裸なのよな……アーシアが何を勘違いしたのか、裸の付き合いと言いつつ布団に入ってきた時はリアス先輩を交えて説教したよ。

 イチ兄の話だとキスされたり、ギュッと抱きしめられたりと随分と激しいスキンシップをしているらしい。ドヤ顔で言うもんだから、訓練の時わりと本気で殴ったのはしょうがないだろう。

 

「双葉だって似たようなもんだろ!?」

「はいはい、お熱いことで。避妊はちゃんとしてくれよー」

 

 今度はリアス先輩とイチ兄が同時に咳き込む。

 楽しい、いつかリアス先輩を義姉と呼ぶときはこの時のことをネタにしてからかおう。

 

「双葉、あなたって子は……まぁいいわ。お母さま、お父さま、申し訳ないんですけど今日ウチの部活動をここでしてもいいでしょうか?」

「あら? どうしたの?」

「実は旧校舎を全体的に清掃する日でして」

 

 まぁ、これは本当だ。

 妙に綺麗だと思ってたが月に何度か、使い魔たちに命令して清掃させているらしい。

 そういえばイチ兄は使い魔をゲットできなかったらしいが、アーシアはとんでもなく珍しいドラゴンを使い魔にしたそうだ。名前は……フタバ、なんで俺の名前やねん。

 俺が普通に撫でると気持ちよさそうにしてたがとんでもなく珍しいことらしい。

 確か蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)とか言ったか? 基本ドラゴンは他生物のオスが嫌いでイチ兄なんか触れようとしただけで電撃を飛ばしてきた。

 ザルバが言うには「お前さんは動物に懐かれやすい波長を持っている」だそうだ。

 使い魔かぁ……俺も欲しいなぁ。

 

「イッセーと双葉がお世話になってるし気にしないで。あとイッセーに女の子の友達が大勢出来るなんて夢のようだわ」

「そうだなぁ、元浜くんに松田くんだったか。彼らはいい子なんだがやはり部屋でエロ談義するのは少しな。それもそれで青春なんだか、リアスさんたちと遊んでいる方が青春だな」

「その通り。あの子たちいい子なんだけどねえ、目つきがちょっとエッチなのよ」

 

 散々ないわれようだが仕方ない。元浜先輩と松田先輩はイチ兄の親友たちだ。

 まぁ、イチ兄以上か同等の煩悩多き先輩で黙っていればカッコいい、と俺は思っている。

 アーシアをエロい目で見て睨みつけたら土下座された時はどうしようかと、イチ兄いわくあの時の俺はライザー戦よりも殺気が出ていたらしい。

 

「へえ、じゃあ放課後は皆でここに?」

「いいえ、双葉、あなたにはやってもらいたいことがあるの」

 

 深刻そうに話す部長は、口を開き話しだした。

 

 

****

 

 

 

「……」

「……」

 

 空気が重い。

 先ほど注文を取りに来たウェイトレスさんの営業スマイルが固まるほど相手さんの発するオーラが重い。

 リアス先輩に頼まれてやってきたが、俺だって逃げ出したい。ザルバも男と女の仲は怖いもんだと言って部室で爆睡決め込んでいる、あの野郎。

 水を一口含み、意を決して話しかける。

 

「そんな仏頂面するなよ、小猫」

「……」

 

 ――小猫とデートしてきなさい。

 リアス先輩に言われた台詞がこれだ。もちろんアーシアの機嫌が急降下で悪くなったが、俺は最初断ったがもうあなたしかいないと言われて渋々承諾した。

 最近の小猫の様子は酷いものだった。

 基本授業中は上の空だし、お菓子は食べないし、部室では一人でいることが多くなった。

 それだけクロ、いや黒歌との再会は小猫にとっては衝撃的だったらしい。

 強引に放課後連れ出して、いつぞや言ってたパフェを奢るということでここまで引っ張ってきたが……まぁ、このとおりだ。

 俺と話したくないオーラがビンビン伝わってくる。

 リアス先輩もいて欲しかったが、あなたじゃないとダメだからという理由で誰も着いて来てくれなかった。あの朱乃先輩すら真剣な顔で送り出してくれたし、相当ひどいらしい。

 でも、この状況でどうしろって話なんだがな。

 

「お、おまたせしました」

 

 冷や汗を垂らしぎこちない笑顔でパフェ置いてくれたウェイトレスさんは、脱兎のごとく席から離れてしまう。

 しょうがないか、てか俺のオムライスどうしたねん。

 

「……部長に言われたんですよね」

 

 突然、硬い表情でこちらに話しかけてきた小猫の声にびっくりする。

 

「うん、まぁ……」

「……姉さまのこと知ってたんですか? 知ってて黙ってたんですか」

 

 僅かな怒気が言葉の端から伝わってくる。

 あぁ、そうか……俺と話していなかったのはクロの事を知ってて小猫に黙っていたかも知れないって思ってたからなのか。

 とりあえず誤解を解いておくか。

 

「いいや、俺はアイツが猫だって思い込んでたし、あの姿で会ったのはアレが初めてだよ」

「……本当ですか?」

 

 こちらを不安そうに覗きこんでくる小猫の表情には、若干の恐怖の色が混ざっていた。

 安心させるように首を振りながら、パフェをスプーンで掬って小猫の口に近づける。

 

「本当だよ。あと溶けんぞ、これ結構高かったから味わって食えよな」

「……」

 

 コクンと頷いて、口を小さく開けながらパフェを頬張る小猫。

 ……餌付けみたいになったがとりあえずは大丈夫だろ。

 スプーンを渡すと物凄い勢いで食べていく。あっ、やっぱ美味いのか、それ……で俺のオムライスはまだ?

 ものの数分でパフェを食べ終えた小猫の表情は少しだけ明るくなっていた。

 

「美味かったか?」

「……聞かないんですか? 姉さまのことも、私のことも」

 

 小猫がそう問いかけてくる。

 気にならないといえば嘘になる。お前らは一体何者なのかとか色々聞きたいことはたくさんある。

 だけどな。

 

「そんな顔してるのに聞けるかよ」

 

 捨てられた子猫のようにこちらを怯えた表情で見てくる小猫を見たら、そんな気はなくなる。

 強引に聞くこともできるが、そんなことはしたくはない。

 

「お前だって話したくないだろ? 別にいいさ、誰だって聞かれたくない話はあるし、それが身内なら特にだ。軽々しく部外者が言っていいことじゃない」

 

 クロの言う通りならあの時、俺が拾ってきた小さい白猫はこいつってことになるし、白音という本来の名前を名乗らず、塔城小猫と名乗っているってことは相当深い何かがあるってことだ。

 それにリアス先輩にデートに誘えとは言われたが、元気づけろとは言われてない。

 当人が納得しないかぎり、この手の問題はどうしようもないしな。

 

「……冷たいです、こういう時は優しい言葉かけてくれないんですね」

「俺はライザーみたいな女ったらしじゃないからな、気の利いた言葉がわかんねえよ」

 

 俺がそう言うと、小猫は意を決したように俺の目を見てきた。

 

「双葉、聞いてくれますか? とある二匹の猫の話です」

 

 そして小猫は話しだした。

 

「二匹の猫は姉妹でした。親を早くに亡くした二匹は何をするのも一緒で仲が良かったんです。……ある時、姉猫が悪魔に魅入られ眷属となることを条件に姉妹共々を世話をすると言ってきました」

「……」

「条件をのんだ姉猫は悪魔になり、二匹はようやく居場所を得たんです。ようやく幸せになれる……あの時はそう信じて疑ってませんでした」

 

 俺は口を挟まず、小猫の目をしっかり見ていた。

 

「姉猫は強すぎたんです。元々妖術に秀でた一族の上、悪魔になり魔力の才能もありました。短時間で姉猫は主すら超える悪魔になってしまったんです」

 

 そして、暴走したかとポツリと漏らすと小猫は頷きながら続きを話した。

 

「力に呑まれた姉猫は主を殺し、妹猫を連れて逃げ出しました。何度もやってくる追撃の手を逃れ、遠くへ、遠くへと」

「……そして、一人の少年に出会ったんだな」

 

 コクリと頷いて小猫を見て、俺は思い出す。

 大雨の日だった。濡れるのが嫌で、家への近道である路地裏を走っていると猫の鳴き声が聞こえた。

 声の方向に向かうとボロボロの布切れに包まった白い猫と血を流しながら俺を威嚇する一匹の黒猫がそこにいた。

 無視して帰っても良かったけど、俺はどうしても捨てておけず近づいたんだ。

 

「あの時、姉猫は戦いで疲弊しきっていて術の一つも使えませんでしたから」

「でもがぶりと噛みつかれたぞ」

 

 そう、近づいた俺に猫パンチからの噛み付きコンボをしてきたクロ。

 すげえ痛かったけど、所詮は猫。俺は強引にクロの首根っこを掴んで身動きを取れなくした。

 

「妹猫はもうだめだと思ってました。けど、少年は泣きながら私達を抱えて家に運んでくれたんです」

「……」

 

 クロと小猫を抱えた俺は、帰って来て親に相当ビックリされた。

 急いでお風呂を沸かしてもらって、一緒にお風呂に入った……が、今思うと相当恥ずかしいな。知らないとはいえ、女の子を風呂に連れ込んでたとかな。

 

「あの時は大変だったわ。熱湯かけるとお前ら元気良く跳ねるわ、引っ掻いてくるわ」

「猫は敏感なんですよ……でも洗ってくれる双葉の手は優しかった」

 

 小猫は途中で心許してくれたけど、クロはなぁ……風呂から上がった後に母さんが出してくれたホットミルクすら飲まずに警戒したからな。

 クロのこと考えると当たり前なんだけどさ。力がほとんど残ってないのに見知らぬ俺に拾われたんだ、そりゃ追われてる身からすりゃ警戒するわな。

 飲まないクロにどうしたかって言うと……。

 

「イチ兄が体持ち上げて、俺が強引に口開かせて飲ませんだよな」

「姉さま言ってましたよ、乱暴なガキ共だって」

 

 うるせえ、素直に飲まないのが悪い。

 

「双葉は親身になって私達を看病してくれましたよね」

「傷だらけだったし、拾ってきたのは俺だからな。そりゃ世話しないと母さんたちに悪い」

 

 あの時は必死に動物図鑑とか借りてきて読みふけったもんだ。

 そこは生体とか見ねえとか言うツッコミはなしな、ガキにそこまで回る頭はねえよ。

 一週間くらいか、そのくらいになるとクロも俺に心を許してくれたのか甘えるようになってきた。

 母さんたちも飼っていいよと言ってくれたので、イチ兄と一緒にどう世話するとか考えていたなぁ……まぁ、叶わなかったわけだが。

 

「いつの間にかいなくなってたよな、お前ら」

「……姉さまが私を置いて行っちゃたんです。私も、追ってきた悪魔たちに捕まって……私も暴走すると思われたんでしょうね。その場で殺されそうになったとき、止めてくれた人がいたんです」

「リアス先輩か」

「いいえ、サーゼクス様です。妹に罪はないって私を庇ってくれたんです」

 

 魔王様直々なのか、ん? じゃあなんでリアス先輩の元にいるんだ?

 

「リアスの元のほうがいいということで部長の元に送られたんです」

 

 ……なるほどなー、歳の近い妹のほうが小猫とともにいるのはいいと思ったんだろうな。

 さすがリアス先輩のお兄さんだ、優しいなぁ。

 

「ごめんなさい。駒王学園に入って双葉に会った時、本当はありがとうって言いたかった、でも」

「気にすんなよ、入学式早々クラスメートに私は昔助けてもらった猫ですとか言われたら、正気を疑っちまうよ」

 

 ……そっかー、小猫が妙に絡んでくると思ったのは恩義を感じてのことか。

 お菓子くれるのも猫がネズミを持ってくるようなもんだったのかもな。

 そんなことを考えていると小猫は再び暗い顔をする。

 

「……双葉、私には姉さまと同じ力が流れています。使えば姉さまみたいに力に呑まれるかもしれない」

 

 あぁ、そうか。小猫は怖いんだ、自分の中にある力が暴走してリアス先輩や周りの人を傷つけることが。

 よほど、クロが力に呑まれたのが堪えたんだろうな。俺も他人事じゃない、もしもイチ兄

が赤龍帝の力に呑まれてしまったら、小猫と同じような反応をしてしまうかもしれない。

 

「でも、この力を使わないと私はもう双葉にだって敵わない」

「んなことないだろ、『戦車』の防御力と攻撃力は眷属内でも指折り――」

「あの時リタイヤしたのは私だけッ!!」

 

 ダンとテーブルを叩きながら叫ぶ小猫にぎょっとする。

 いつも静かだし、ライザー戦での戦いを引きずっていたとは思わなかった。

 確かに小猫はいの一番にリタイヤしてしまったが、アレは誰だってそうなる。下手をすれば朱乃先輩だって撃破されていた可能性はあるんだ。

 

「人間である双葉が死ぬ寸前まで戦ったのに私はのうのうと控え室で戦いを見るしかなかった……悔しくて、情けなく、それでいて怖かった。あの力を忌避してたのに求めてる自分が怖いんです」

「小猫……」

「どうしたら、いいんですか……イヤなんです、もうあんなことは」

 

 ボロボロと泣く小猫。

 どうしたらいいか、か。

 とりあえず俺は鞄にしまってあったハンカチを小猫に渡す。

 

「……どうしたらいいか。そりゃお前が決めることだよ、小猫」

「双葉……?」

「偉そうな口言える義理じゃないよ、俺も。俺だって、クロに何も出来ずに負けて悔しくて力を欲しがった。正直な、小猫を見て安心したんだ。あぁ、俺だけじゃなくて小猫も悩んでるんだなって」

「双葉も悩んでたんですか?」

 

 そりゃ悩むさ、俺は小猫みたいな防御力も、師匠みたいな速さも、朱乃先輩みたいな緻密な魔力コントロールも、イチ兄みたいな意外性も、リアス先輩みたいな破壊力を持ってるわけじゃない。

 魔力が使えなきゃただの貧弱な人間であって、剣すらまともに扱えない魔戒騎士見習い未満だ。

 

「朝にな、ザルバに言われたんだ。自分で決めろってさ、結局の話そうするしか無いんだと思う。お前の力も、俺の牙狼も」

 

 ただ強くなりたい、俺はそう思っていたが小猫を見て考えを改めた。

 そんな気持ちでいてはただ自分も、周りも追い込んで結局は自滅してしまう。

 

「自分で、決めるですか」

「全部受け入りだし、俺とお前は同じようなもんだ。……クロもそうだったと思うよ」

 

 クロという名前を聞いて、小猫は顔を歪める。

 この際だ、全部ぶちまけたほうがいいだろう。

 

「自分で決めたからクロはあぁなったんだろうよ。暴走とかじゃなくてさ」

「知った風な口を利かないでください、いくら双葉でも――」

「まぁ、聞けよ」

 

 手でジェスチャーして小猫を落ち着かせる。

 つっても俺の想像だから間違ってる可能性の方が高いけどな。

 

「俺は疑問に思ったのよ、力に呑まれたのならなんでお前を連れて逃げてたんだろうってさ」

「それは……妹、だから」

「そうだろうけど、主すら暴走して殺す奴ならわざわざ足かせのようなお前を連れて逃げないと思うんだよ」

 

 あくまでも好意的に解釈した場合だ。

 間違ってたら小猫に殴り殺されてもおかしくはないだろうな。

 

「それに俺と初めて会った時、人化も維持できずに猫の姿だったのに俺を威嚇していた」

「……姉さまはもしかして」

 

 合点がいったのか、小猫信じられないような瞳で俺を見つめる。

 だが俺は首を振りながら、小猫に話す。

 

「そこまではわからない。でも小猫、多分クロは俺か別の目的で俺たちの前にまた姿を表わすと思うぜ」

 

 あれだけ強力なはぐれだ。

 何かの拍子に出会ったり、俺を標的に襲いかかってくるかもしれない。

 いや、九割型俺のせいだと思うんだがな、ハハハ、リアス先輩に謝らないと。

 

「その時、お前はどうする? また毛布に包まって誰かに守られるか? 違うだろ? お前は小猫、リアス・グレモリーの『戦車』、塔城小猫だ」

「……」

「俺はさ、力は使うべきだと思うよ。どんなに嫌っても、手放そうともそれは紛れも無く自分の力なんだから」

 

 一度は牙狼剣を遠くにおいた。

 でも結局、ライザーやクロといった敵が現れ俺はそのたびに牙狼剣を握るしかなかった。

 本当なら戦いたくない、でも戦わないと大事なものが取られてしまう。

 

「私は……」

「考えればいいよ。ずっと隠してきた力なんだろ? 嫌なら使わなきゃいい、小猫はそうしていいし、そうするなら俺達がフォローすりゃいい。だって仲間だろ?」

「仲間……」

 

 ライザー戦でもそうだが、あの戦いは俺だけじゃ勝てなかった。

 もちろんイチ兄だけでもだ。師匠や朱乃先輩の援護があったからこそギリギリでもぎ取れた勝利。無様と笑うやつがいるかもしれないけど、足りないものを補うのが仲間だ。

 俯いて考えこむ、小猫の頭にそっと手を当てて撫でる。

 

「無理して強くなっても、誰かに迷惑かけるだけだ……今の俺とお前みたいにな」

「……迷惑だったんですか?」

 

 そりゃそうだ、仏頂面で取り付く島もないのにデートに誘ってこいとかリアス先輩を少し恨んだくらいだ。

 というか、俺はそこまで聖人君子じゃありません。

 

「迷惑だろ」

「酷いです……でも、少しすっきりしました」

 

 顔をあげた小猫はまだ暗い顔だったが、ここに来た時とは比べ物にならないくらい明るくなった。

 ……良かったのかな、これで。偉そうにくちだしたけど、戦いは小猫の方が先輩なのにさ。

 

「考えてみます、私の事、姉さまの事も……」

「うん」

「……双葉、もしも私が姉さまみたいになったらどうしますか?」

 

 どうする? 決まってんだろ、んな単純なこと。

 

「強引に止めて、イチ兄の洋服崩壊(ドレスブレイク)で辱めて、リアス先輩に説教してもらう」

 

 洋服崩壊ってのは、イチ兄が特訓中に編み出した最強最低の技。まるで野菜の皮を剥くように女性の服を破る破廉恥な魔法だ。

 まさに女性の敵とも言える技だが気付けにはちょうどいいだろう。

 それを聞いて小猫はクスクスと笑う。

 

「自分が止めるとか言わないんですか?」

「そりゃ止めるが皆で止めるだろ、お前はリアス先輩の眷属だしな。何かあったらリアス先輩に迷惑かかっちまう」

「そうですね……でも女の子としてはカッコいい男の子ってのはどんと受け止めてくれる人だと思います」

 

 無茶言うな、クロと同じようになったら俺の命と貞操が大ピンチだ。

 まだ死にたくないし、卒業したくない。

 ふと時計を見るといい時間だった、そろそろ夜の悪魔稼業の時間じゃないか。

 

「さてと、帰るか……結局オムライス来なかったな」

「双葉」

 

 鞄を持ち、席を立とうとする俺に小猫は声をかけてきた。

 

「……ずっと言えなかったことを言います。――あの時、私達を救ってくれてありがとう」

 

 ニコリと満面の笑みを見せてくれる小猫の顔を見て、俺も笑顔になる。

 あぁ、多分子猫は大丈夫だ、きっと納得の行く答えを見つけるって。

 

 

 

 まぁ、パフェの値段が予想外のことになってて俺が固まったのは完全なる余談だが。

 

 




猫又モード解禁ッ!! するかは知りませんが原作よりイベントが前倒しになったおかげで小猫の悩みが少し減った模様。
遅くなって申し訳ない、ちょっと予定が入っていつものペースで書けませんでした。

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